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[CEDEC 2023]WFSが語る「ヘブンバーンズレッド」繁体字版・韓国語版リリースにおけるアジアへ向けたマーケティング・コミュニティ戦略とは
「ヘブバン」の海外マーケティングの流れを,時系列にそって紹介
宇宙から来た謎の生命体「キャンサー」によって危機的状況に陥っている日本を舞台に,決戦兵器「セラフ」を操る少女たちとともに戦うドラマチックRPG「ヘブンバーンズレッド」(iOS / Android / PC。以下,ヘブバン)。過酷な運命に立ち向かう少女たちが織りなすさまざまなドラマは,ときに笑い,ときに感動を呼ぶことで多くのプレイヤーたちから支持されている。
2022年2月の日本でのリリース後は,App Store&Google Playストアの無料ダウンロードランキング1位,App Storeセールスランキング1位を獲得。さらに「Google Play ベスト オブ 2022」では3部門で受賞している。繁体字版・韓国語版がリリースされたのは2023年2月だ。
タイトル説明のあとは,吉崎氏より「ヘブバン」の海外マーケティングに関して,どのようなことが行われていたのか時系列にそって紹介された。
国内版が最大規模のプロモーションであったため,海外プロモーションでも過去最大規模のものが求められていたという本作。これまでの積み上げを活かしつつも,より現地に根ざしたグローバルマーケティングを目標にしたとのことだ。
その目標を実現するための手順として,まずはチームの立ち上げから考えられた。これまでのタイトルはマーケティングプランナーが国内外兼務で行っており,コミュニティチームは複数のプロダクトと兼務する形でスタートしていた。しかし,「ヘブバン」では日本,韓国,繁体字圏それぞれで専任のメンバーを割り振り,コミュニティチームも専任のメンバーを立てて構成したという。
これは,大型プロモーションを実現する必要があることに加え,日本版と同スケジュールでコンテンツをリリースしていく関係上,日本と同タイミングでの情報発信が求められるためということだった。また,韓国と繁体字圏を別々の市場として捉えていたとも話しており,ここが大きなポイントにもなっているようだ。なお,チームを立ち上げた時期は2022年7月頃とのこと。
こうしてチームを立ち上げたあと,最初に行ったプロジェクトは事前調査だったという。過去に海外展開の経験があるにもかかわらず,あらためて事前調査をする理由として吉崎氏は,これまでの海外プロモーションが日本ベースで行われていたとし,各地域の解像度を上げてカルチャライズされたマーケティングを実現するためだと述べた。
事前調査については,大きく分けて2つの事例が紹介された。まず1つめは,「海外マーケティングメンバーによる日本からの事前調査」。インターネットの活用や,ネイティブのコミュニティマネージャーとのコミュニケーション,データAIなども活用し,まず日本で行える調査をゼロから行いながら資料を作成していったとのことだ。
吉崎氏は,一例として当時作成した韓国事情の資料を一部公開。韓国のインターネット事情はもちろん,バス網が発達していることからバス広告にも目を向けて調査を行ったという。一方,繁体字圏では日本のオタク文化が活発であることから,コンテンツ量や各コンテンツに対する熱量,開催されるイベントなどに関する情報を調査。さらに,ケーブルテレビが普及している台湾ならではのテレビ事情も調査したとのこと。チャンネル数が多く,そのぶん視聴者が分散するといったことも確認できたようだ。
調査で入ってきた情報は雑学のようなものも多かったが,プロモーションに役立つものも多く,例えば韓国の人口のうち,首都圏(ソウル付近)の人口が約50%であることなどは,屋外広告を考えるうえで,予算などに関する判断材料にもなりえると吉崎氏は話した。
こうした事前調査によって分かったことは,韓国や繁体字圏では「ヘブバン」と同ジャンルのタイトルは売上シェアが小さいこと,売上上位のタイトルで日本企業が自社パブリッシングをしているタイトルがほとんどないこと。韓国では“流行感”,繁体字圏では“日本ブランディング”が鍵になること,上位タイトルは大規模なリリースプロモーションを実施していることなどだったという。
事前調査の2つめは,「現地視察」。台北とソウルに実際に訪れ,視察した内容が紹介された。目的としては,先の情報収集から判明した内容の確認と検証で,制作発表会や屋外広告の候補場所の視察をはじめ,現地のゲームメディアや取引先とのリレーション構築,ゲームのターゲットとなるユーザーが訪れそうな場所の視察などが挙げられていた。
参加者はマーケティングチームのメンバーだけでなく,開発側のプロデューサーや開発チームのプランナーも同行していたとのこと。理由についてはマーケティングチームと開発チームで共通理解が得られることがもっとも大きく,プロデューサーや上位決裁権を持つ立場の人間が同行することがポイントだと話していた。
現地視察を行った結果として吉崎氏は,実際に訪れることで人の層や屋外広告の目線の高さ,周辺施設や競合他社の広告掲載状況など,その土地のライフスタイルなども感じられたという。写真だけでは分からない情報が入手でき,日本での事前調査で得た情報の検証などもできるため,現地視察はとても大事だと話した。
こうした事前調査を行ったことで,「ヘブバン」海外チーム全体として今後の課題や,目指すべきビジョンの足並みが揃えられたことが大きな学びだったと述べた。
また,事前調査と並行して,吉崎氏は日本で行っていたプロモーションの軸でもある「最上の、切なさを。」というタグラインを韓国,繁体字圏でどのように伝えるかを検討していたことを明かした。
そのためにまず行ったこととして,タグラインの候補を広く集めるために,社内外,職種や担当に関わらず韓国語と繁体字圏のネイティブメンバーから意見を募ったという。そこで候補に出たタグラインは,日本語を直訳したものから意訳したもの,それと同等の価値になるような新たなタグラインも候補として集まったとのこと。
候補が集まったあとは社内で選択肢を絞り,ゲームユーザーをターゲットとしたアンケートを配信。韓国と台湾のゲームユーザーから回答を集めたという。その結果,韓国語は一方に票が集まり,繁体字は2種の候補で割れたため,社内で再度議論の末に決定という形となったようだ。
この調査で分かったこととして,広くアイデアを募ったことによる選択肢の多さと,定量と定性の両面で検討していったことが,良いタグラインを選出できた要因になっていると振り返っていた。
海外のプロモーション方針
中原氏より海外プロモーションの方針と事例が紹介された。まずプロモーション方針については,事前調査での各地域の特徴や,ベンチマークタイトルの事例を踏まえて「メジャー感の醸成」「世界同時情報発信」という2項目に決定したことを説明した。
「メジャー感の醸成」は,日本の話題作としてブランディングすることで,先の事前調査にもあった韓国の流行感と,繁体字圏の日本ブランディングといった点が重要だと考えて設定したとのこと。もう一方の「世界同時情報発信」は,自社パブリッシングによる同時運営により,世界同時発信が可能だという強みを活用した形だ。
そして中原氏は,リリースプロモーションのなかから「メジャー感の醸成」を目的とした制作発表会について具体例を挙げた。制作発表会は,韓国,台湾どちらも現地に出向いての出席をマストとしていたため,日程はずれてしまったものの,可能な限り地域差をつけないよう近い日程で発表会を実施したと話す。
制作発表会は無事成功したが,その経験を経ての反省点も挙げられた。一番大きいものは,「現地制作会社とのコミュニケーションコストを見積もりに入れてスケジューリングする」という内容で,過去に「ダンまち 〜メモリア・フレーゼ〜」の生放送に制作から出演まで携わっている中原氏によると,日本と同じようなタイムラインでスケジューリングすることはオススメしないという。
さらに「大変だったことベスト(ワースト?)3」も公開された。1つめは「現地での配信関連の意思疎通」で,とくにゲーム系ではありがちなポイントでもあるが,演出のニュアンスやゲーム用語を交えた会話において,通訳者にゲームの知見がないと正しく翻訳されず,情報の齟齬が生まれることもあったという。そのため,当日はできるだけ配信の現場に慣れていて,ゲームに対する知見を持った通訳が望ましいと話した。
2つめは「現地語の構成/台本の修正」だ。こちらは先の項目と似ているが,日本語ベースではゲーム用語などの専門用語が適切に翻訳されないことも多いとのことで,事前に辞書を共有したり,事前準備も含めたスケジュールの組み立てがとても大事だとした。
3つめは,「連日の移動による体力消耗」。先述した2点の対応などでスケジュールが狂ってしまうと,連日の移動による体力消耗も大きくなると説明。コミュニケーションコストがかかることを加味したうえで,余裕を持ったスケジューリングをすることが重要だと話した。
次に中原氏は「大規模屋外広告の展開」の事例を紹介。韓国では,制作発表会に合わせて会場となったCOEX(大型のコンベンション・センター)に屋外広告を展開し,その後,地域を拡大して広告展開を行っていったという。また,台湾では広告出稿スケジュールの都合上,1月から屋外広告を実施していたとのこと。
また,台北ゲームショウ出展時についても,事例を紹介した。PV上映や「出張版ヘブバン情報局」などのほか,コスプレステージやじゃんけん大会,インフルエンサー配信,メディアの囲み取材なども実施されていたようだ。
この台北ゲームショウで学んだこととして中原氏は,事務局とのリレーションが必須であることを強調していた。というのも,最初は代理店を通じて出展の手続きを進めていたが,連絡が滞ったり必要な情報の抜けが多々あったとのこと。現地に赴き,事務局と直接やりとりをしたことでその点は解決したという。
また,コスプレイヤーを揃えたことで,ブースへの来場者やメディアが殺到したため,コスプレはキラーコンテンツだと話していた。
そして,台北ゲームショウは“カジュアルなショウ”だと表現。じゃんけん大会やクイズ大会など参加しやすい催しが全体的に多く,ステージイベントも床に座って見るような形も多いため,東京ゲームショウよりもカジュアルだと感じたそうだ。その場所に合った仕掛けが大事だと話していた。
「世界同時情報発信」については,中原氏はSNSコミュニティの運用に関する事例を紹介した。国や地域によって使用頻度が高いSNSは当然異なり,同じSNSでも使い方が異なる。そこで,事前調査を踏まえてそれぞれの地域に合わせたSNSで,それぞれの特色に合わせた運用を行うことが必要だと述べた。
また,生放送や実況配信について,日本でも定期的に生配信している「ヘブバン情報局」を,韓国・繁体字圏でもローカライズして放送していることにも触れた。日本と同時刻に放送を開始し,情報初出のタイミングも合わせているという。
韓国,繁体字圏でこうした生配信を実施した結果として,一時的にチーム全体の負荷が高まることを実感したという。また,開発者が頻繁に出演できるわけではないため,ゲームリテラシーの高いインフルエンサーを見つけ出すことは難しかったとも話した。
ここまでの内容を踏まえて,吉崎氏より運営フェーズの課題点として「引き続き各地域コミュニティの解像度を上げる必要性」があることが挙げられた。
日本国内に留まっているとインターネットでの調査にも限界があり,現地の動向把握は難しい。また,情報としては持っていても文化的な背景や地域ごとの感じ方の違いなど,感覚的なものまで含んでの把握は難しいため,社内のネイティブメンバーとの意見交換なども含め,日々解像度を上げる必要性があると話した。
最後は,海外展開で得た学びのまとめとして3点の要素が挙げられた。1点めは,これまでの“海外コミュニティ運用の積み上げが活きた”ことで,安定的なコミュニティ運用が実現でき,過去最大の海外マーケティングが実現できたこと。
2点めは,あらためて基礎から“事前調査”を行ったことで,地域に合わせたプロモーションやコミュニテイ施策を選択肢として持つことができ,チーム全体で調査を行ったことで目指すべきビジョンの足並みを揃えられたと話す。
3点めは,“自社パブリッシャーにしかできない強み”として,全世界同時情報発信の実現により,地域による情報の差がつきにくいことや,ユーザーの声を即座に開発にインプットできることでスピーディな対応が可能になったことと説明した。加えて,SNS交流や生配信など日本の運営で培ったファンマーケティングの知見も活かせたことだという。
これらの学びを活かしたことで,繁体字圏で売上1位,韓国でも5位を記録した「ヘブバン」。最後に吉崎氏は,WFSのモットーでもある「新しい驚きを、世界中の人へ」という言葉を挙げ,さらなるチャレンジをしていくと締めくくった。
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