インタビュー
上田文人とJenova Chenが語る,アートと制作の苦悩,そして「ゲームを作る」ということ――イメージか,ロジックか
上田氏自らが世に出した作品は,わずか3本。その3本はすべて世界で高く評価されており,“上田ワールド”とも呼べる独自の世界が魅力だ。
2本目の作品である「ワンダと巨像」は,GDCのアワードのゲーム・オブ・ザ・イヤーを含む5部門を受賞し,Time誌が選んだ「All-Time 100 Video Games」※にも選ばれている。最新作の「人喰いの大鷲トリコ」も,日本ゲーム大賞を始めとしてD.I.C.E.Awards,英国アカデミー賞ゲーム部門,文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門など,世界の賞を総ナメにしている。
※「All-Time 100 Video Games」歴史上最も偉大なビデオゲーム100選(外部リンク)
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Chen氏自らが(商業ベースで)世に出した作品は,4本。画面にはキャラクターと背景以外がほとんど何も表示されない独特なゲームシステムを好むデザイナーで,それが世界で高い評価を受けている。
2作目の「Flower」(邦題:Flowery)はスミソニアン博物館が永久所蔵品に決定し,3作目の「Journey」(邦題:風ノ旅ビト)に至っては2012年の海外GOTY(Game of the Year)を総ナメにして,GDCのアワードも7部門で受賞している。最新作の「Sky 星を紡ぐ子どもたち」も,つい先日Android版も登場したばかりで絶好調だ。
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二人とも,作品の雰囲気になんとなく共通点があって寡作である……という表層的な部分で「ちょっと似てるなぁ」と思っていただけなのだが,Chen氏にインタビューする機会がなかなか得られず,それを確認する機会には恵まれなかった。
先日のSkyのローンチを受けて,夏に上海に行ったタイミングでインタビューを申し込んだがそのときはかなわず,2019年の東京ゲームショウでようやくChen氏にインタビューしたときに,「考え方とかも上田さんに似てるのかもしれない」という印象を強く持った。もしかしてこれは,二人が対談するとちょっと興味深い話になるのかも?
そう思って,上田氏に「対談していただけませんか?」とおうかがいを立てたところ「いいですよ」の二つ返事。確かに「Journey」を高く評価したTweetは見たことあるけれど,え,ホントに? そうやって実現したのが,この対談だ。
世界に名が知られるゲームデザイナー2人の対談であるので,編集部は基本的に口を挟んでいない。想像とはやや違って実務的な話が意外と多かった印象ではあるが,それも含めて興味深い話題かもしれないので,全貌をここに公開しよう。ぜひお読みいただきたい。
Journeyをプレイして感じたこと。
— 上田文人 (@fumito_ueda) March 18, 2012
”暇潰し”のコストパフォーマンスではなく、”感動”のコストパフォーマンスの高い希有なゲーム。
こういうゲームこそ、多くの人にプレイしてもらいたい。
Chen氏:
なんかこの感じ……国連の会議みたい※ですね(笑)。
まずは4Gamerに,「僕が,僕のヒーローに会える場」を作っていただけたことを感謝します。基本的に自分では少し内気な部分があると思うんですけど,こういう勇気づけられる機会を与えていただいて,とても感謝しています。
※2人のゲームデザイナーそれぞれに通訳が付き,筆者,カメラマンなど大所帯で円形になって進んだ様子を指していると思われる
4Gamer:
東京ゲームショウでお会いしたときに,思想もちょっと上田さんに近いなあ……と思ったのがこの話のきっかけです。
Chen氏:
本当にありがとうございます。
4Gamer:
幸い上田さんとは,何度かインタビューさせていただいたことがあるので……。それで上田さんに連絡を取ってみたら,なんと一発で「いいよ」と言ってもらえたので,この場所が成立しました。
上田氏:
TGSの時のChenさんのインタビューを読ませてもらいました。でもそれ以前から何となくシンパシーを感じていて,作ったモノを見ると大体その人の考えが分かるというか……そんな感じで,近い考えを持っている人なのかな? と思ってました。
Chen氏:
そのような言葉をいただけるなんて,本当に光栄です。ありがとうございます……。上田さんのゲームを遊んでいて,もしかして私と同じような道のりを歩いてきているのかな,という風に感じたことが,実は結構あります。
上田氏:
そうなんですね(笑)。同じような道のり,というあたりからの質問なんですが,大学時代はどのようなことをされてきたんですか?
Chen氏:
大学ではコンピュータサイエンスを勉強しました。日本ではどうなのかはちょっと分からないですけど,中国はやはり「エンジニアになってほしい」という親の強い要望があります。
自分はやはり昔から絵を描いたりするのが好きでしたし,アートを作りたいという考えだったんですけど,親の希望はそうではなかったわけで,常にそういう葛藤がありました。
上田氏:
アート……がそういう表現をされるということは,中国ではアーティストを目指すような人は少ないんですか?
Chen氏:
僕は1981年生まれなので,まさに中国の文化大革命の後でした。アートとか,彫刻とかそういったものが異端とされるような時代を生きてきたので,アートはどこか浮世離れした存在だと認識されてました。もちろん親の知り合いにアートをやっている人もおらず,親としてはもう「アートをやるやつはバカ」という風にしか考えてなくて,画家なんか食うに困るだけだから……と言われていました。
実際はもちろんそんなことはなくて,いまのアーティストで成功している人もいますけど。
上田氏:
であれば,なんでChenさんは「異端」になったんですか? どういうきっかけで,アート的なものを目指そうと思ったんでしょうか。
Chen氏:
14歳のときにプレイしたコンピュータゲームがありまして……。そのぐらいの年の子にはよくある話だと思うんですけど,簡単にその手の経験に影響されちゃいました。そのビデオゲームは凄く美しい物語で,あとで考えるとまるでファイナルファンタジーVIIのような……
上田氏:
ストーリーに深く感動したんですね。
Chen氏:
はい,喪失感を経験するようなゲームでした。ゲームでそういう感情が芽生えて,ゲームをしながらめちゃめちゃ泣きました。何で泣いたのかがよく分からなくて,その感情がどこから来たのかもはっきり分からなかったですが,なぜ自分がここに生きているのかとか,自分がどう生きていくのかとか,人生にどういう価値を見出せばいいのかとか,そういう考えにつながるような凄く強烈な体験になって……それで「いい人になりたい」と強く思いました。
4Gamer:
前回お話いただいたことですね。
Chen氏:
そうです。あのゲームを作った人は,そのとき僕の近くにはいなかったですけど,僕に「いい人になりたい」という考えを与えてくれたわけで,こういう仕事はすごくいいなと思ったんです。人に感動を与えられる仕事がしたい,と。
上田さんは,どうしてこういうアートな作品を作る人生を歩むことになったんですか?
上田氏:
僕は大学のころ,モダンアートみたいなことをやっていたんですね。それで……僕の場合,卒業して仕事をしていかなければならないとなったときに「それ(※アート)では食べられない」ということに気付きまして。それでビデオゲームの世界に入ったんですよね。
元々ビデオゲームが大好きだったので,そこに関しては嫌ではなかったですけど……でも……うーん難しいな,うまく言えないんですが……。
4Gamer:
挫折感というか敗北感というか,そういう感じですか?
上田氏:
そうですね,そうかもしれません。若干,人生における挫折みたいなものを感じましたね。本当はアートのほうに進みたかったけれど,食べていくために仕方なくビデオゲーム業界に入った……みたいな。
Chen氏:
日本では,例えばファインアートのアーティストというのは生活が厳しい感じなんでしょうか。
少なくとも,収益をあげ続けることの難しい世界だとは思います。
もう一つ自分の話を補足すると,もともと僕はアートの学校に通ってたんですけど,たぶん自分の本質はエンタメのほうなんですよね。というのも,僕は普段から美術館に行ったりギャラリーに行ったりするようなタイプではなかったので。
もちろん学生生活の中で触れるみたいなところはあったんですが,でも自分の心に正面から問いかけると,そういう美術館やギャラリーで触れるようなアートではなくて,やっぱり映画だったりビデオゲームだったり,そういったものに感動している自分というのがいたわけなんです。
Chen氏:
なるほど,自分が本当に行きたい方向でもあったんですね。
上田氏:
ええ。そういうところにきっかけがあったんだと思うんです。本当に自分がやりたいことを突き詰めた結果,ビデオゲームや映画などのエンタメじゃないかな……と。アートではなくて,エンターテイメントのほうに進んだほうが,自分が幸せになるんじゃないかな,とその時に感じて。
4Gamer:
アートとエンターテイメントを比較したときに,上田さんはエンターテイメントのほうを選んだわけですが,その二者択一で,どういう理由でエンターテイメントを選んだんでしょうか。
上田氏:
それは……自分が心から本当に楽しめるもの,自分がお客さんとしても楽しめるもの,ということをきちんと考えた結果だと思うんですね。例えば美術館に行って人生が変わったとか,何かの絵に衝撃を受けたとか,実際にそういうことがあまりなかった人生だったんです。……そこに気づいたということなんだと思います。
Chen氏:
私にとっては,アートというのはクリエイターが表現したいものを100%作るという感じで,エンターテイメントというのはマス向けであることを念頭に置いて作られたものです。
上田氏:
そうですね,そこもあったと思います。自分で作ったものに対して満足するというよりも,それを見て喜んでくれる,体験して喜んでくれる人がいて,初めて自分が幸せでいられるタイプだったんです。
Chen氏:
自分自身はエンジニアリングを勉強していて,アートというものは象牙の塔※の一番高いところにあるようなもので,とても崇高なものだと感じてました。結局自分は,ファインアートの授業でどういう内容を教えてくれるのかいまでも分かっていません。高くて届かないものだと感じていたので,自分のキャリアの始めのころは6年ぐらいずっと,そこに到達したかったです。ゲームも,ファインアートの境地にたどり着きたかった。
※象牙の塔:芸術家や学者などが,自分が追い求めるものだけを見すぎて現実社会から大きく離れて浮世離れした生き方をすることを表す言葉。
4Gamer:
でも……Jenovaのゲームはその域に達したのでは?
Chen氏:
そうかもしれません。自分がゲームを作るようになって,そして自分が作ったゲームがようやく「象牙の塔」に上がることができて※,ほかのアート作品と並んで,お客さんがギャラリーで自分達のゲームを鑑賞するときになって,そこで僕はようやく分かったんです。象牙の塔は,寒すぎて寂しすぎます。すべての人にとって価値があるものではないんです。
※「Flower」は,2013年にスミソニアン博物館が永久所蔵品に指定した。それを指しているものと思われる。
ちゃんとしたコンテクストでアイデアがあれば,作ったものはアートです
上田氏:
ちょっと気になったんですけど,ビデオゲームを作るときに「アート」をやっているという意識はあるんですか?
Chen氏:
意識はあんまりないんですけど,でも逆にすべてのものはアートだと思います。このコーヒースプーン一本ですら,アートになります。コンセプトさえあれば,それはアートになります。例えば一つ有名な装置があって,便器をこう……。
上田氏:
マルセル・デュシャン※ですね。
※マルセル・デュシャン「泉」(Fontaine)
Chen氏:
そうです,さすが上田さんです!
僕は芸術の歴史を知ってから,その「便器」の芸術性を見い出すことが初めて可能になりました。ちゃんとしたコンテクストでアイデアがあれば,作ったものはやっぱりアートであって,アートは目で見たそのものではなくアイデアだと思うんです。(指で頭を指して)もし僕がクリエイターが伝えたいメッセージを理解できるのであれば,それはアーティスティックな体験だと言えます。
4Gamer:
上田さんのゲームについてはどうですか?
Chen氏:
上田さんのゲームは……エンターテイメントとして商業的に売られているにも関わらず,僕は上田さんのゲームを通してアートを感じます。原理主義者みたいな人達は,これらのゲームは美術館や博物館に置いていないからアートではないと言うかもしれませんが,アートの作品だと僕は感じています。
4Gamer:
上田さんの作品は,ユーザーから“アーティスティック”だと言われることが多い印象です。まぁ自分も以前言ってましたが……。
上田氏:
そうですね,それに近いことはよく言われます。でも以前も言いましたけど,そういう評価をいただくとちょっと複雑な気持ちになるんです。
……というのも,それはとりわけ日本の問題なのかもしれませんが,日本における「アーティスティック」「アート的なもの」というのは,もちろん良いイメージもありますけど,ネガティブなイメージも多分に含んでたりして,例えば何かひとりよがりなものとか,難しいものとか,スノッブなものとか……。
Chen氏:
日本ではそういうものなんですね。
上田氏:
なので「アートですね」とか「アーティスティックですね」と言われると,なんだか複雑な気分になります。
そもそも,僕がアートの世界からビデオゲームの世界に入ったときに「アートを目指すことをやめよう,商業的に成功する“プロダクト”を作ろう」という覚悟を持って制作に臨んだのが「ICO」というゲームだったんですね。
にも関わらず,制作中からすでに社内からは「アーティスティックな作品ですね」と言われていて……。僕はこんなに大衆向きの作品を作ろうとしているのに,なぜそういう風に受け取られるのか,もう本当に分からなくて(笑)。僕は,ビデオゲームにおいて「アートでござい」みたいなことをやろうとは思っていませんし,むしろ避けてきているつもりなんですけどね。
4Gamer:
何度聞いても今一つ腑に落ちないといいますか……。
Chen氏:
本当ですよね(笑)。
あと,上田さんの考えが僕自身の経験と完全に反対側にあるのは,まったく思ってもみなかったことです。今日お会いしてこうやってお話できたのがすごく興味深くて,やっぱり隣の芝生は青いんだな,と思いました。
自分がアメリカの大学に行ってるとき,高校で銃の乱射事件※があったタイミングだったので,それの原因はゲームじゃないかとすごく叩かれて,アメリカ全体がゲームを否定するようなことになってました。また今年もそういうことが起きてますが……。
※レッドレイク高等学校銃乱射事件(2005年3月21日)
4Gamer:
そういうときは,どうしてもゲームが叩かれがちですよね。
Chen氏:
はい。そういう風に否定的な風潮がある中で,自分はやっぱりゲームというものがリスペクトされてほしいと思っているわけです。自分がゲームをリスペクトしているので。なので当時の僕が考えたのが,「ゲームをアートにすればリスペクトされるのでは」ということでした。
……ところで日本のマスメディアは,ゲームをどういう風に捉えているんでしょう?
上田氏:
音楽や小説,映画なんかに比べると,一段低いと思われているんじゃないかと思います。
例えば日本の映画とか音楽が欧米のチャートに入ったりすると,その情報は一般的なニュースになることが多いですが,ビデオゲームで同じような功績を達成した作品があったとしても,それほどニュースにならないし,それらと比較すると話題になることも少ないです。
Chen氏:
では,ゲームと映画のあいだくらいにあるものはなんでしょう?
4Gamer:
ポジショニング的に?
Chen氏:
はい,位置付け的に。映画はリスペクトされているとして,ゲームはされていないとして,その間。
4Gamer:
そもそもゲームは,リスペクトされる努力をしていない気がするんですけどね……。
上田氏:
まぁビデオゲームに関しては,やっぱり日本のゲームやゲーム産業が世界的に強かったという時代があったので,強くて世界的に評価されて当たり前,みたいな認識が根強いのかもしれないですね。世界中でたくさん売れてたり,いろんなゲームアワードを取ったとしても,ほとんどの日本人は知らないと思います。
Chen氏:
なるほどそういう側面が。
上田氏:
映画だと,日本人でも割と知ってるんですよね。アカデミー賞を受賞したとか,カンヌ(カンヌ国際映画祭)で賞を獲ったとか,そういうことは報道されるので。「じゃあちょっと観に行ってみようかな」とか,そういうことが一般の人に起こるわけですけど,ビデオゲームだとそういうことは少ないんですよね。
Chen氏:
ではそういう意味で言うと,例えば漫画というものは,ゲームと映画の間くらいと考えられますか?
上田氏:
確かにそうですね。漫画はそうかもしれません。
Chen氏:
チームラボ (teamLab)なんかもよくないですか?
4Gamer:
あぁ確かにその視点はなかったです。
上田氏:
まだ体験したことがないんですよね,チームラボ。
Chen氏:
僕は行きました,両方。※
でも興味深いことに,アーティストの人に会うたびに,僕がチームラボで体験した興奮を伝えるんですが,「ハッ,チームラボなんて!」と言われます(笑)。ほかの,アーティストではない人達はまったく違う反応で「素晴らしい。ぜひ見に行きます!」と言ってくれます。
つまり,チームラボが純粋なアートとしての展示であると捉えている人は,そこまで多くはないのかもしれません。でも,だからこそ多くの人が足を運びたくなるのかもしれませんが。
※カリフォルニアでは2回開催しているので,その両方に行ったのだろう……と思っていたら,お台場の「teamLab Borderless」と豊洲の「teamLab Planets」だそうで,両方TGS来日中に行った模様(teamLab Exhibitions)
4Gamer:
確かにちょうど真ん中あたりに位置するものなのかもしれませんね。
「Sky」をスマホで作るのは,ブルーオーシャン側のお客さんにリーチするため
上田氏:
さっき,きちんとコンセプトやメッセージが伝わるものであれば作ったものはアートになる……とおっしゃってましたけど,ビデオゲームは商業的な側面が強いですよね。
そのあたり,アート性と商業的なバランスについてはどう考えてますか?
Chen氏:
なるほど!(笑) それに関してはパワポでお見せしてもいいですか?(と言ってノートPCを引っ張り出してきた)
今まで僕はエモーショナルなゲームを作ってきていますが,実はいつもエンジニア的な考え方をしています。ここでは一つのチャートをお見せします。
僕は映画学院出身なので,映画のジャンルで話をします。ここのパイの大きさが大きければ大きいほど,興行収入が多いです。夏休みにアドベンチャー,アクションなどの映画が人気とされているのは,学生たちが休みに入って,こういう刺激的なフィーリングを好きな人達が増えるからです。冬になるとドラマやコメディが人気になるのは,家族団らんの時期で,家族フレンドリーなものが多く観られるからです。
4Gamer:
なるほど分かります。
Chen氏:
先日の4Gamerさんのインタビューのときにも言いましたが,映画を観る人を「映画ウォッチャー」とは呼ばないのに,ゲームをする人は「ゲーマー」と呼ばれています。映画を観る人にとって大事なのは「いまどういう気分(ムード)なのか」ということです。音楽においてもそれは一緒です。映画にも音楽にも,それこそたくさんのジャンルがあって,どんなムードでも,それに合うようなコンテンツがあります。
この図式をゲームに当てはめると,最初に出てくるのが「アクションゲーム」です。コンソールゲーム機が普通の家庭でも買えるようになってから,子供たちがコンソールゲームのプレイヤーになって,若い子達の好きな,自由とかパワーとか,そういうものを体験できるゲームが増えてきました。若い子達はそういうコンテンツが好きですからね。あと怖いものも好きなので,ホラーゲームも増えたかもしれません。最近ネットでは,コメディ的なゲームもありますね。
上田氏:
確かに若い人たちが好むようなコンテンツが,ちょっとずつ増えてる気はしますね。
Chen氏:
(画面を指で指しながら)このあたりが,今のゲームがカバーしているエモーションです。まぁでも面白いと言われるゲームでも「トムとジェリー」みたいな,複雑性がないものばかりです。こちらのほうに(違うほうを指しながら)なってくると,ニュアンスのようなものがもっと大事になります。洗練された感情のコントロールが求められるジャンルですね。
映画学院では,コメディというものは「感情のカクテル」だと学びました。怖いことが起きたけど,実はそれはサプライズで,ただの誕生日パーティーだったのでみんな大笑い……みたいな。
4Gamer:
なるほど。
Chen氏:
例えば似たような話で,ドラマジャンルは人の感情をジェットコースターのようにコントロールしています。ドラマチックな瞬間で,人々は泣くのです。それで僕は,上田さんのゲームはドラマジャンルとして認識しています。
4Gamer:
言わんとしていることは分かりますが,上田さんの作品を「ドラマ」だと認識するのは,やはりジェネレーションとかによるところも大きいのでは?
Chen氏:
いい質問です。映画のジャンルを,年齢と性別によってどれくらい好みに差があるのかを見てみましょう。
これは(とまた画面を指さして),UK Filmのデータベースで作った映画のリサーチです。どういった年齢で,どういった性別で,どういうものが好まれるのか如実に表れていると思います。例えばこれを見ると,男性っぽい人の多くはロマンスが好きではないし,ほとんどの女性はアクションやアドベンチャーが好きではありません。
4Gamer:
見た感じあまり違和感ないですね。
Chen氏:
アートとビジネスの成功の関係性というのは,要するにあなたが「レッドオーシャンにいるかブルーオーシャンにいるか」です。レッドオーシャンには確かに魚も多いですが,さらに大きな魚やサメも多く,大きくなる前に食べられちゃうのであまりチャンスはありません。血で赤に染まった「レッド」ですから。
一方のブルーオーシャンは,サメもいないけど魚も少ないので,ゆっくり生存できて,大きくなれる可能性があります。成功のチャンスはあるといえるでしょう。
4Gamer:
昨今のビデオゲーム業界は……。
Chen氏:
今のビデオゲーム界隈は,言うまでもなくレッドオーシャンです。たくさんのゲームが出てきて,それぞれに十分な予算が投下されていて,いくつかの大手会社がそれを占めていて,クオリティの戦いになっています。サメがたくさんいるので,とにかく戦わなければなりません。
サメがいないブルーオーシャンは,感情的な側面からのプレイヤーニーズが多くて,それがまだ満足されているとはいえない状況なので,マーケットは大きいと思います。そのマーケットの先駆けとなって,大きな成功を迎える可能性があると思うんです。
上田氏:
「Sky」(iOS / Android)をスマホで作るのも,ブルーオーシャン側のお客さんにリーチするため……ですよね,きっと。そこにいる人達がもしゲームで遊びたいと思っても,PCや家庭用ゲーム機では,どのプラットフォームを買うのかをまず考えないといけないとか,そもそもプラットフォームを買うだけでもそれなりのコストがかかるとか,いろいろな障壁があるわけで,Chenさんがそういう風に考えているのはすごく筋が通ってますよね。
ありがとうございます。でもこれも先日のインタビューでも触れましたけど,お金のためにゲームを作っているわけではないんです。“ゲーマー”という言い方をなくすために,ゲームがリスペクトされるために,すべてのエモーションジャンルをカバーできたらゲームの地位が上がるんじゃないかと思っているんです。
でも残念ながら,この世界はアーティストたちが動かしているものではありません。ゲームがリスペクトされるように,僕は投資を得るために,「ここ(ブルーオーシャン)には金が埋まってますよ」ということを,お金持ち達に説得しないといけません(笑)。
上田氏:
とはいえ, Chenさん自身はレッドオーシャンのゲームでも遊びますよね?
Chen氏:
もちろんです! 男性で,まぁ僕くらいの年齢ですので……SF,アクション,アドベンチャーあたりですね。ホラーとロマンスは遊びません。
上田氏:
ロマンスは遊ばないんですね(笑)。
私は……ううむ(笑)。
そういえばロマンスに関しては,去年中国でバズったロマンスゲームがいいサンプルじゃないかと思います。ヒロインはある一人の女性で,4人の超能力持ちの男性に好かれる女性向きのゲームです。
一人は時間をコントロールできる,もう一人は飛べる,もう一人はめちゃめちゃ頭がいい,もう一人は……なんだったかな。それらの男性キャラクターがヒロインの周りにいるという設定です。そのインディゲームは,ブルーオーシャンを見事に切り開いて,TencentやNetEaseなどの大手を破って一番の収益を得ました。ブルーオーシャンでユニークなマーケットを捌いた好例だと思います。
4Gamer:
そんなに売れたんですね。
Chen氏:
ところで上田さんは「The Sims」を遊んだことありますか?
上田氏:
実は軽く触った程度でしか遊んだことないんですよ……。
Chen氏:
まぁ僕もそんなには(笑)。僕個人としてはあまり面白くなかったので,自分のキャラクターを死なせて終わりにしました。
ただSimsは,ワールドワイドで見ると売上ナンバーワンともいえるPCゲームであって,初めての「シングルプレイヤーソーシャルゲーム」として大成功を収めました。しかもプレイヤーの93%は女性です。レッドオーシャンから出て,ブルーオーシャンで大成功を収めた一つのケースです。
上田氏:
なるほど確かにそうかもしれませんね。
Chen氏:
ええ。要するに成功できるかどうかは,僕が持っているアイデアがレッドオーシャンにあるのか,ブルーオーシャンにあるのか,なのです。
「“創作”は素晴らしいものだ」ということを常に感じていないと,自分のモチベーションが保てない
上田氏:
Chenさんがゲームを作るときは,今まで話したような分析から作るゲームを考えるのか,それともなんかこう,感覚的にふっと湧いてくるアイデアとかそういうものから考えるのか,どっちなんですか?
4Gamer:
かつて僕が上田さんにしたのと同じ質問ですね(笑)。
Chen氏:
そうなんですね(笑)。
ちなみに僕は,アイデアありきでゲームを作っています。ただ,アイデアがどんなに素晴らしくても誰もお金を出してくれませんから,成功できる可能性があるんだよと投資家を説得するためにいろんな分析をしています。
4Gamer:
アイデアにお金をくれる投資家は,まずいないですからね……。
Chen氏:
ええ。最初の資金探しのときは,僕は自分の情熱を丸出しで,プレイヤーに提供できるものと自分が作りたいゲームをプレゼンしましたが,いくらパッションがあっても聞く耳を持ってくれる人はほとんどなくて,お金にはつながらなかったです。当たり前ですけど,僕のそのエモーションの部分に投資家はまったく興味がないわけですから。
7年間で3回の資金調達をして分かったのは,彼らにアートはまったく響かないけど,分析にはちゃんと反応するということです。
4Gamer:
そういえば「Sky」の開発には7年がかかってるんでした。実は,お2人とも開発期間がすごく長いんですよね。
以前上田さんに聞いたことの繰り返しですが,長い期間にわたって一つのタイトルを開発しているとき,モチベーションというのはどうやって維持しているんでしょうか。長い年月同じものを見ていたら,どんどん麻痺してきてよく分からなくなってくると思うんです。
Chen氏:
それは……ぜひとも上田さんの答えを聞きたいです。
上田氏:
モチベーションをコントロールするのは,とても難しいんです。僕の場合は……より優れた作品に触れることでしょうか。それはゲームに限らず,映画や音楽でもなんでもいいんですけど「“創作”というものは素晴らしいものだ」というのを常に感じていないと,自分のモチベーションが保てないということがあるように思います。
4Gamer:
以前お聞きした「映画が始まる前のざわめき」とかもそうですよね。
上田氏:
当然ですけど,決して長い制作期間をかけたいわけではないんですよね。
それなのになぜ長くかかるのかというと,ゲームとして成立するクオリティに到達するのに時間がかかってしまう,というのが主な理由なんです。つまり,そこに素早く到達できるのであれば,本当に早く出したいというスタンスではあります。
Chen氏:
成立するクオリティというのは,ご自身で自分のゲームに感動できるとかそういうことですか?
上田氏:
自分が作ったもので自分が感動するのは,かなり難しいと思います。それは僕だけに限らず,開発チームのみんなもそうだと思いますけど。自分で作ったものはすべて内容を知り尽くしていますし,何度も何度も体験するし,何度も何度も見ているもので「もう見たくない」くらいの状態になっていて,それで感動するというのは正直,かなり少ないですね。
4Gamer:
確かにそういうものかもしれませんね。
上田氏:
もう一つの原因としては,制作していくなかで生まれるクオリティに対する欲求や責任感から「もっと良くしないといけない」というスパイラルに入ってしまうことなんです。そのときに何を考えているかというと,「このクオリティでなんとか勘弁してもらえないだろうか」ということなんですよね。
4Gamer:
それはプレイヤーに対してですか?
上田氏:
はい,お客さんに対してです。ゲームに限らず,制作者はみんなそう思ってるかもしれませんが。
Chen氏:
作っている側のその気持ちは,遊んでいる側からはなかなか分からないですよね。
上田氏:
そうなんです。「このクオリティじゃほかの商品と比べて手に取ってもらえないだろう」とか「このクオリティじゃ買ったお客さんから不満が出るんじゃないか」とか,どんどんそういう気持ちになってきて,それが「より良く」のスパイラルを生んでいるんだと思います。
でも,やっぱり遊んでくれた人が「遊んでよかった」と思えるゲームになってるかどうかが大事なので。
Chen氏:
その最終判断は,プレイヤーに集まってもらってテストしたりするんですか? それともご自分の判断なんでしょうか。
上田氏:
フォーカステストなどを行って参考にしたりもします。
とはいえ,フォーカステストの結果が必ずしも製品版の評価と一致するとは限らないんですよね(笑)。
4Gamer:
実際にリリースするときも,テスト時とは大きく変わったりはしていないわけですよね。
上田氏:
ええ。実際にリリースしてみると,テストとは違った反応や評価がかえってくることが多いです。
Chen氏:
ゲームを作っているときって,ホッケースティックの形みたいなものだと思うんです。ずっとずっとうまくいかなくて,最後のリリース直前に「スパーン」という勢いで上がっていきます。何人かの知り合いのデベロッパもそういうことを言ってますし,自分自身もそうだと思っています。
4Gamer:
つまり前段階でのテストはさほど重要ではない?
Chen氏:
といいますか,実際問題としてプレテストは重要ですが、タイミングによってはとてももどかしい思いを感じることがあるんです。
マスター直前のファイナルのところまできて,音楽がキレイについて,グラフィックも全部入って,今までは「点」でしかなかったものが「線」になってつながって,そこでようやく出来上がるんです。
……ところで上田さんは,どの時点で積み重ねた努力が「結果」になるのを実感しますか。
上田氏:
どの時点……となると難しいですね。
作り終わってからずいぶん時間が経って,なんとなく発売日から一年前のバージョンのディスクを見たんですが「あれ? これもうほとんど完成してるじゃん……」と感じたんです。制作中というのは,やっぱりどうしてもこう……こうなって(前だけ見て周りが見えない手振り)しまうのですが,改めて一歩引いた立場になって振り返ると,そう感じてしまう面も確かにあります。
ただ,さっき言ったような「品質に対しての麻痺」みたいなものは,僕は悪い側面だけではないと思ってます。少なからずお客さんのためにもなるし,同じように見えても,そこに心や魂が宿るというか,何かしら意識的には感じられない魅力に貢献すると思いますので。言うならば「いい麻痺」でもあるのかな,と思ってます。
Chen氏:
素晴らしいです……。僕の場合は,そこまでこだわりきれる余裕がなくて,だいたい途中で資金切れになって「もう出さなきゃダメだ」となることが多いです。
上田氏:
いやそこは似たような感じですよ(笑)。やっぱり自分の頭の中にある完成形というのは,もっともっと上にあって,発売するタイミングというのは「このぐらいでどうか勘弁してください」という気持ちで恐る恐るリリースするので……。そうですね。そういう意味で同じような感じなのかと思います。
でも,Chenさんが作ったタイトルから「妥協」はまったく感じないですよ。
Chen氏:
ふふ(笑)。
これはトリビアなんですが,「Journey」のキャラクターの脚は棒ですよね。ゲームエンジニアが2人しかいなかったので,誰も脚なんか作りたくないし余力もないので,脚の細かいところは全部省略しておきました(笑)。
あと,元々は山とか森とか素晴らしい景色を作りたかったんですが,デザインアーティストも2人しかいなかったので,木を描いている時間はなく,結果として砂漠になりました。あと,最初MMOにしたかったんですけど,バックエンドサーバーをつくるお金がなくて,今の一対一にしました。
「Journey」を作るという作業は,常にお金と,どこまで出来るかのリソースリミットとの戦いだったんです。
4Gamer:
そんなバックグラウンドだったんですね。
Chen氏:
でも最近になって逆に考えるんですが,「Sky」でもいくつも決断をしないといけないときがあったんですけど,「Sky」はちゃんとファンディングが出来ていたのでお金が入ってきていて若干の余裕があって,僕の決断がズルズルと伸びてしまったのかもしれません。結果として,すごく長い時間がかかってしまいました。
上田氏:
なるほど。でも「Journey」は……なんて言うんでしょう,そういった台所事情は感じなかったですよ。むしろ,いまおっしゃったようなバックグラウンドが,研ぎ澄まされた“機能美”みたいなものを出してたんじゃないかと思います。
もちろんゲームを作るうえで「完璧の状態」というのはなかなか難しいんですけど,何かがどうしても出来ない中で,いいビジュアルやいい体験をいかに提供するかということは重要だと思うんです。そのあたりのコントロールは,やっていたんですよね?
Chen氏:
本物のアートというものは,もがき苦しんでいるアーティストから生まれてくるんじゃないかと僕個人は思っています。少なくとも「Journey」の時にはそうでした。コストを削るというところでいろいろな妥協をしましたし,それにまつわる制作途中のストレスが,チームや僕自身にかなりの痛みを与えました。最後に開発が終わるとき,自分で自分のゲームをしながら泣いたんです。初めて自分のゲームで泣きました。キャラクターが山を登っているときの苦しみと,自分のゲーム制作における苦しみがシンクロしちゃいまして,すごく感情の揺らぎを感じました。
そんなわけで「Journey」は,「Flower」や「Sky」の開発時と比較してみてもとりわけ苦しみがあったがゆえに,遊んでくれた人にとっては感情的に忘れがたい体験となっているのかもしれません。
上田氏:
なるほど……。
Chen氏:
それは夜中の三時で,僕は一人オフィスにいて仕事をしてました。最後の大きな山を登るシーンのテストをしてたんです。どれぐらいの時間で死ぬかのテストでした。30秒で倒れるか,5分かかるか,そういうものです。そのテストの過程で,ゲームの主人公が雪の中でもがく苦しみと自分の苦しみが重なって,つい泣いてしまったんです。なんでこんなに苦しまないといけないのか,と。
シナリオ上,死んだときに音が消えて静まってしまうのです。サウンドエフェクトをフェードアウトして,音楽もフェードアウトして,ハートビートもフェードアウトして,主人公が本当に死んでいることをプレイヤーに認識させるんです。そこで,ゲームにおける静けさのパワーをすごく感じたのです。そのすべての音が消える瞬間,静まってしまっていることに泣いたんです。
4Gamer:
何かに泣いたわけではなくて,その状況が何かを誘発したんですね。
Chen氏:
そうですね。一つの「鏡」だったのかもしれません。すべての音がなくなったときに,自分自身と向き合う瞬間が来ました。その瞬間に,僕は自分の体験を思い出して泣いてしまったんです。なぜ自分は今,こんなにつらい状況に陥ってしまったのかと。
上田氏:
そうまでしてゲームを作るというのは,やっぱり使命感みたいなものあるんでしょうか。例えば,今までにないジャンルを開拓したいとか。もし,自分が作ろうとしているゲームがすでに世の中にあった場合,それは自分が作る必要がないと感じたりしますか?
Chen氏:
楽しい質問です(笑)。
これも以前のインタビューで話したことがあったんですけど,学生の時に作ったゲームが人にプレイしてもらえたことで,自分が行ったこともないたくさんの国の人達から,たくさんのコメントをもらいました。
ゲームがすごくよかったという反応も嬉しいですが,その中に「このゲームを作ったあなた。あなたは凄く美しい人ですね」と書かれたコメントがあって,すごく感動したんです。今まで自分のことを美しいだなんて言ってくれる人は誰一人いませんでした。そのときまで,自分がどの道を歩むべきか誰も教えてくれませんでしたが,当時のプレイヤーの皆さんが「あなたたちは商業ゲームを作るべきだ」と教えてくれたんです。
4Gamer:
何度聞いてもいいお話です。
Chen氏:
そこから自分のキャリアが始まったので,当時コメントしてくれた人々の声は,神の啓示のようなものです。神の啓示が,世界中の人々を通して自分に送られてきたかのような感じで,僕はただ神の啓示に従っただけでした。
ソニーも自分達のゲームにお金を出してくれて,うまくいくようになりました。自分がゲームを作ることで,少なからず人を助けたり素敵な気分にさせているということを,コメントを通して知りました。学生のときの,あの人達が言ってくれたことで,僕は自分のゲームを作ることができて,本当に自分が好きなキャリアに歩み始められたんです。
名も知らぬその人達へのお返しという意味も込めて,ゲームを作っていきたいと思っています。ゲームというのは,単に銃を撃ったり,殴ったり切ったり刺したり,そういうバイオレンスなものだけではなくて,美しくポジティブなものもあるんです。
確かに,もしみんなが同じようなものを作り始めたら自分は同じジャンルで競争せずに,また別なところに行くと思います。まぁただ,今ほとんどのゲームはレッドオーシャンの中にあると思いますけどね。自分はそれとは違う別のところにゲームを作って,もっとたくさんの人がゲーム好きになってほしいと考えていますし,それが僕の原動力だと思います。それはある意味,愛かもしれません。僕はゲームを愛しているから,みんなにもゲームを愛してほしいです。
4Gamer:
……ちょっと似ているでしょう?
上田氏:
レッドオーシャンを避けるというのも近い発想ですし,確かにそうかもしれませんね。
作っているときに一番意識しているのは「この作品をどうか忘れないでください」という気持ちです
Chen氏:
これは僕個人の好奇心だけで聞くんですが,上田さんが作ったゲームに対して,人々はなんて言ってくれてるんですか。いい言葉を書いてくれますか。
上田氏:
そうですね……。それほどほかの人のゲームの評価を追っかけてないので比較はできないんですけど,これまではネガティブな意見は比較的少ない方じゃないかと思います。ただ,そこに対して素直に喜んではいられない部分があるのも正直なところです。
4Gamer:
といいますと?
上田氏:
「ICO」を作ったときに,「感動しました」みたいなお客さんがいてくれたおかげで次のチャンスが生まれたわけですけど,その感動してくれた人達に向けて……というかその人達の方向を見すぎていたら,たぶん「ワンダと巨像」というタイトルは作れなかったと思うんですね。
4Gamer:
まるっきり違う作品ですもんね。
上田氏:
ジャンルやキャラクターの方向性もまったく違いますし。「ICO」を好きだと言ってくれたファンの人達に対して,次はこんなものを作るけど,果たして喜んでくれるだろうか,あのファンの人達はがっかりするんじゃないか……みたいな気持ちでした。「ワンダと巨像」ファンに対しての「人喰いの大鷲トリコ」も同じですね。
なんだろうな……応援してくれる人達に報いなければならない,という意識に縛られてしまう怖さみたいなものは,当時から感じています。そのあたりはChenさんも一緒だと思うんですよね,より広いお客さんに提供したいという気持ちがありますよね。
Chen氏:
「ワンダと巨像」はものすごくアクションゲームで,それで多くのコンソールゲームプレイヤーの注目を集めたと思います。ビジュアル的にも,巨像と戦うシーンなんかはコアゲーマーを引き寄せたでしょうし。
僕の勝手な推測ですが,たぶん「ワンダ」のほうが「ICO」より売れてるんじゃないでしょうか。ただ気になるのが,「ICO」を遊んでくれて「ICO」が好きなプレイヤーは,「ワンダと巨像」を遊んでくれたプレイヤーよりゲームを愛してくれたのか,それとも同じくらいなのか……。上田さんのファンは,「ICO」と「ワンダと巨像」のどちらが好きなんでしょうか。
上田氏:
それは……難しい質問ですね。でもおっしゃる通り,セールスとしては「ワンダと巨像」のほうが強いです。
「ICO」を作ったときは,“ユニーク”であることが差別化として重要でした。わかりやすいユニークさとして,戦闘をメインに置かないゲームを目指して作った結果,期待していたほどの売り上げを出せなかったんですね。じゃあ次はもうちょっとゲームっぽいものを,ゲームにおいて人気のある「戦闘」を自分なりに消化したものを作ろうというのが「ワンダと巨像」のきっかけとなっていて。
その甲斐もあってセールス的に“強い”プロダクトになっています。僕的にはそこに後悔はないですし,いまでも大好きなタイトルではあるんですけど。
4Gamer:
僕も,もちろん3作品とも好きですけど,「ワンダと巨像」はやっぱり一番分かりやすい「ゲームの楽しさ」を与えてくれる気がします。ストーリー,BGM,戦闘システム……そもそも,巨像一体が1ステージという斬新なコンセプトは今でも凄いと思いますし,そういう部分もあって,みんな一番好きなのはワンダなんじゃないでしょうか。
上田氏:
なるほど。その巨像……動く迷路であり攻略すべきダンジョンであるという部分はイノベーティブである自負はあるんですけど,でも「ワンダと巨像」がセールス的に強いのは,やはり少なからずあるバイオレンスの部分と,それに絡んだ諸々じゃないかなと思っています。
4Gamer:
僕の苦手な,哀しさに満ちて倒れていく巨像。
Chen氏:
アメリカでは宮崎駿監督の「もののけ姫」が一番売れたんですけど,たぶん監督的にはそれは一番好きな作品だとは思ってないのかもしれません。商業的な成功というのは,また別な話でもありますよね。
また質問してもいいですか?
上田氏:
ええ,どうぞ。
Chen氏:
映画やゲームのディレクターという人は,角度は変えながらも一生同じものを作っていってると感じることがあります。上田さんのゲームを3つとも遊んで,あるパターンに気がつきました。自分はそれを「アート」として考えてとても感動したんですけど,上田さんのゲームでは,それまでずっと作りあげてきたものが必ず最後に崩れます。砂の城みたいに,作り上げて最後に崩れていく。
「Samsara」※というドキュメンタリーがあります。砂でマンダラを作って,最後は何もかも吹き飛ばしていきます。ある種の,ものすごい美しさがそこにはあります。上田さんはそういう意図で作ったのではないかもしれませんが,僕はそこに美しさがあると感じたのです。上田さんはどういう意図なんでしょうか。またゲームにこういう結末を埋め込むのは,何から来るインスピレーションなんでしょうか。
※「Samsara」:2011年のドキュメンタリー映画(→Wikipedia)
上田氏:
意図……は2つあります。僕がそういう展開のストーリーが好きだという個人的好みが半分。残り半分は,こういうスタンドアローンのパッケージゲームとして,プレイヤーに「ここで終わりですよ」と示して,満足に終わりを迎えてもらわないといけないという表現の制約の中で,あれ以外にないというところです(笑)。
ゲーム世界を冒険して,最後,これでもうすべてが終わりなんだね,と感じさせる表現の手段の一つ,ということです。
Chen氏:
その個人的な「好き」というのはどこに由来するものなんですか? ほかのアーティストの影響とかありますか,または何かほかで見たことがあったりするんですか。
上田氏:
特定のタイトルとかこの映画とか,そういうものはないと思うんですけど,これまで見てきたもの,体験してきたもの,それらが色々ミックスされたものじゃないかと思います。
Chen氏:
もっとなんかこう……人生の経験とかそういうところに基づくのがあったりするんじゃないでしょうか。
例えばスピルバーグ監督は,小さいころに両親が離婚したトラウマがあって,本当はお母さんのほうが浮気してたらしいですけど,彼自身はずっとお母さんから話を聞いてきているので,お父さんが勝手に家を出たと言われて育ったわけです。それで彼のどの映画を観ても,両親がちゃんと揃っている主人公は一人もいません。やはりそれは,人生の中でそれに基づく経験があったからだと思うんですが,上田さんにはそういうものはないですか?
上田氏:
もちろん,何かしら自分がこれまで生きてきた「人生」は反映されていると思いますよ。
4Gamer:
では何か,作っている最中に強く意識していることはありますか?
作っているときに一番意識しているものは,「この作品をどうか忘れないでください」という気持ちです。すべてがうまくまとまってハッピーエンドでおしまいで,見終わったらすっきりしてすんなり忘れてしまう,という作品も良いとは思いますが,何かわだかまりだったり,少しキズが残るような“閉じ方”にして,「ゲームはクリアして本編は終わってしまったけどこの作品を忘れないでね」と伝わるような作品にしたい気持ちが強いです。
どうしても自分のこれまでの人生が出てきてしまう部分はあると思うんですけど,作り手としての意識は「覚えておいてください」という意識が強いですね。もっとも避けたいのは,歯牙にもかからない,誰にも相手にされないものになってしまうことですので。
Chen氏:
なるほど……。上田さんに付けられた小さなキズが,僕のここに(心臓を指さしながら)残っています(笑)。でも,それが計算されたものだとはとても思えません……。
上田氏:
そういっていただけると本望です(笑)。人の心を動かすためには「その世界が本当に存在しているように感じさせること」が一番大事なことだと思っているんです。そこさえできれば,あとはその世界で些細なことが起こっただけでも,感動が生まれるんじゃないかなという風に思っていて。ゲームに限らず映画なんかもそうですよね。
自分にとってのエンターテイメントの原体験はやはり映画とビデオゲームですし,Chenさんも,おそらくそこをベースに作っている同じようなタイプの人かな,と思ってるんですけど……。
4Gamer:
けど?
上田氏:
実は,昨日まで中国に行っていて,今の若いゲームプレイヤーと触れ合って気づいたのですが,彼らの原体験は僕たちのそれとは大きく違うんですね。生まれたときから3Dのゲームがあるし,場合によってはスマートフォンのゲームから原体験がスタートしている。
Chen氏:
確かにおっしゃるとおりです。
上田氏:
そういう人達に向けてゲームを作るときに,映画やコンソールゲームをベースとした発想やアイデアというのは,どこまで伝わるんだろうかということを考えます。考えはするんですけど,自分が何かを表現していくうえで,自分が本当に感動したものじゃないと表現できないわけですけど。
4Gamer:
スマホネイティブ世代に刺さるもの,ですか。
上田氏:
ええ。見よう見まねでそれっぽいものは作れるんじゃないかと思うんですけど,そこにはやっぱり心がこもらないというか,コンテンツとしての「強さ」が出ないんじゃないかなぁ,みたいなことは悩みとしてあります。
それに関しては,一つのエピソードを上田さんにシェアしたいです。
この間,妻のAmyと中国のポップソング作曲者Stoneと話したときに,彼が経験談として話してくれたのが「ICO」の話です。当時の彼はまだ北京の大学の学生で,寒い冬に毛布をはおって寮で二人の男子が,寝ずに2日間かけて「ICO」をクリアしました。最後に城が崩れて,寒い寮で2人の男子が大泣きしたんです。
彼らにとってはそのときの記憶が,今でも人生におけるマイルストーンになったと言います。とはいえ,ただの「崩壊」には人を泣かせる力はないと思うので,ただ崩れたという以外に,必ず何か心に触れるものがあると思います。なんでもかんでも壊れたら泣くわけはないですから。
もしかしたら彼らは,ストーリーの中に表現された「自由」に感動したのかもしれませんし,または人生においても,僕たちが一所懸命作り上げたものも結果として時間の流れには勝てないしすべてなくなっていくという,ある意味で人生のリアリティを感じて泣いたのかもしれません。
上田氏:
とても嬉しいです。責任も感じますが,それこそが“創作”への最大の賛辞だと思います。
ゲームは……映画に比べると接してる時間がとても長いですからね。その世界に滞在する時間が長いので,そこで触れ合ったキャラクターだったり,そこで行った場所だったり,そういう世界が失われることに対してそういった感情が芽生えるということでしょうね。
Chen氏:
喪失感を与えるという意味では,確かに映画よりもやっぱりゲームのほうが強いと思います。
上田氏:
Chenさんが表現したいものは,映画的なもの……なんですかね。どうなんでしょう?
僕はエンタメの原体験が映画なので,ゲームでも映画的な体験を提供したいと思っていて,でもだからといって映像的に完全にコントロールしたカットシーンをたくさん入れればいいかといったら,そういうことではないじゃないですか。僕が幼いころに観て感動した映画なんかを思い出して,それと同じような体験や感動をゲームで感じてほしい,みたいなところがあります。
Chenさんは,作品をつくるうえでベースとなっているものは映画なのかな,それとも違うものなのでしょうか。
Chen氏:
僕のゲームは,映画だけに限らず,僕自身の経験というものが多分に含まれています。今まで5つのゲームを作ったんですけど,一つ学生の時に作った「Cloud」というゲームは完全にパーソナルな表現となっていて,自分自身の経験を表現した作品でした。子供のときに喘息持ちだったんですけど,僕があのゲームのために描いた概念図をお見せしますね(といってデスクトップにイラストを表示する)。アートを勉強したわけではないので,絵はすごく粗いかもしれません。
上田氏:
この絵は当時描いたものですか?
Chen氏:
当時「Cloud」のために描いた絵です。
僕の子供時代の大半は病弱で,ベッドの上で座って過ごしてました。喘息持ちなので,横になると咳が止まらなくなって寝ることもできなくて。体育の授業にも出られませんでした。ほかの友達が,みんな外で遊んだり体育の授業を楽しんだりしているときに僕は一人で教室で,いつも窓の向こう側の外の世界を眺めて,ぼーっとしてました。
これは,上海の家から見てた景色を描きました。当時の大気汚染のひどさが,この絵から分かると思います(笑)。空の色はいつもオレンジかピンクでしたが,そのころはまだこれは大気汚染だと知らなくて,単なる霧だと思ってました。僕は当時,毎年自分の誕生日の前後に病気になって,9月から11月まで咳をしながら過ごしてました。当時の上海は,雨が降ると空はキレイに見えるし,街もキレイになるし,僕も呼吸しやすくなります。なので雨が大好きでした。
4Gamer:
あぁ,それで「Cloud」は……。
Chen氏:
そうです。「Cloud」を作るとなった時に,先生から主人公を男の子にしてみたらというアドバイスを受けたんですけど,自分はいわゆる一般的な少年時代を過ごしたわけではなかったので,逆に自分の体験をベースにしてゲームに入れ込みました。
ずっと病弱だった自分が街をキレイにしたかったので,「Cloud」の中の主人公は雲を集めて,雨を降らせて,街をキレイにするというゲームにしました。本当に個人的な体験が元になったゲームなんです。でもそれは,一般的な人が思い浮かべる「ゲーム」ではなくて,点数稼ぎとか戦闘シーンとかそういう要素は何もなかったんです。
「Cloud」を作るときは,何かを表現したい……というよりは,授業の課題が出ちゃったからとにかく作らなきゃという感じでした。仕方なく個人の経験をゲームに落とし込んだんですが,結果として世界の人達を泣かせることになりました。正直ビックリでした。
4Gamer:
当時の自分の気持ちがそのままゲームになったんですね。
学校が終わった後にアメリカに残るには,ビザを取得しないといけなかったので,Electronic Artsで働きました。そのためにLAからバークレーに移る旅をしているとき,次のゲームを何にするかを考えていたんですが,バークレーに行く道で素晴らしい景色を見ました。その広がる緑が,あまりにも美しくて自然の素晴らしさに感動しました。最初の感想は「まるでWindows XPのデスクトップみたいだなぁ」だったんですが,今年になってようやく,その場所が本当にあの壁紙の場所だと知りました。
上田氏:
そうだったんですね。
4Gamer:
あの風景を見たことがあるのは,ちょっと羨ましいです。
Chen氏:
自分は都会で育てられたので,無限に広がる自然というものに触れたことがなくて,素直に感動しました。この感動を保存したい……という思いが「Flower」というゲームになりました。ただ,あの壁紙を覚えている人なら分かると思いますが,そこには本当に自然だけしかなかったので,都会で生まれ育った人間である僕は逆に孤独を感じます。なので,建物とか一軒家を入れました。結果としては……なんかちょっと変な自己表現のゲームで,自然と共存したいけど街にも逃げられません,みたいな形になって,自然と都会の融合みたいな感じになりました。
ちょっと長くなりましたけど,そんなわけで僕のベースは,特定のどれかの映画というよりは,自分の欲求というか,自分の経験や熱意というものが多く入っていると思います。
「Flower」の前に12個のプロトタイプのゲームを作りましたが,全部ダメでした(笑)
上田氏:
イメージ先行でスタートして,それをゲームに落とし込む作業というのは自分でやるのか,それとも誰かに説明して説得しながらゲームに落とし込んでもらうのか……どっちですか?
いまの「Flower」の話で言うなら,僕もそのインプレッションはすごくいいと思いますし新鮮だと思いますが, それを“ゲーム”にどうやって落とし込んでいくのかが一番気になるんですよね(笑)。
Chen氏:
分かります(笑)。
上田氏:
ゲームとか遊びとして考えてあったということ……ですよね? もしくはコンピュータを使った新しい体験とかそういう考えなのかもしれないですけど。
Chen氏:
さっきのあの絵をソニーのフィル・ハリソン(Phil Harrison)に見せて,自然に広がる愛についてのゲームを作りたい……という感じで熱意で押し切って語りました。最初みんなは目を丸くして笑ってましたけど,まぁ学生だし安いからやらせてみれば? ということになりました。
上田氏:
ということはその時点では,ゲームのメカニクスはまったく決まっていない?
Chen氏:
なんにも決まってないです。本当にイメージだけで押し切りました(笑)。
最初僕がプロトタイプを作るときにはまだチームがなくて一人でした。花にズームして,また次の花にズームするとシュパっと移動できて,また次の花に移動して……。そのあとはチームで作れるようになったんですが,次にやったことというのは,草を動かすことでした。僕が当時感じた「自然の感動」を再現したかったので,風に揺らぐ草を作ったんです。
それを見たソニーの人は「非常にすごい」と言ってくれました。でもそれと同時に「で,ゲームは……?」と(笑)。
上田氏:
(笑)
Chen氏:
それから16か月かけて,どうやってこれをゲームに仕上げるのかを……。
4Gamer:
16か月!?
Chen氏:
はい。この,花と動く草からどういうゲームが生まれるのかを探すために,12個のプロトタイプのゲームを作りましたが,全部ダメでした(笑)。16か月かけてゲームを出してないというのは,普通に考えればプロジェクト中止なんですが,ただ幸いなことに僕達は若くてすごく安かったので(笑),ようやく13個目に形になりました。
上田氏:
知らなかったです。
4Gamer:
僕もです。13個目とは。
Chen氏:
失敗した多くのプロトタイプから一つの例を挙げると,「塊魂」に似たシステムで,勝つためにプレイヤーは一定の数の花びらを集めないといけない……というものがありました。「塊魂」には時間制限があって,プレイヤーは時間内に大きくならないといけないんですが,「Flower」のプロトも一定量の花びらを集めて,大きくならないといけないようにしました。
ただそこで僕らも気付いたんですが,プレイヤーが失敗するときに暴言を吐くんです。せっかく集めた花びらがなくなった途端に「クソっ」と言ったり。僕が想像していた「Flower」はとても平和な感じのゲームで,僕らのゲームシステムのせいで人に暴言を吐かせるだなんて想像もしなかったです。なのでゲームシステムを変えました。
4Gamer:
「塊魂」的なのは,なるほどと思いましたがダメでしたか(笑)。
Chen氏:
ええ(笑)。それで今の「Flower」にたどり着きました。ゲームとしての面白さは減ったけど,プレイヤーが暴言を吐かないゲームになりました。もちろんこれで行くと決めること自体が難しいことであって,多くのプロデューサーは,そして多くの開発者達は,面白いゲームを作りたいです。ただ,面白いゲームにするためには,チャレンジとフラストレーションも付いてくるわけで,僕はそれを排除したいですね。
上田氏:
なるほど。しかし最初は一人で作るんですね。じゃあ実際にコードを書いたりプロトタイプを作ったりとかは?
Chen氏:
プロトタイプを作るのは二人,僕ともう一人,大学を出た若い子でやってます。コードはC#で雑な感じで……。
上田さんは,ご自身でプロトタイプを作るのか,アイデアをチームに委ねてプロトタイプを作ってもらうのか,どっちですか。
上田氏:
僕はゲームプログラミングが出来ないので,アートだったりアニメーションだったり, そういったところからのアプローチになります。
今の話を聞いて思ったんですが,「ICO」を作ったときはまさにそんな感じでしたね。ゲームのメカニクスというものは実は最初はあまりなくて,ビジュアルのイメージからスタートして,その中で自然発生的に出てきたのが「手をつなぐ」というメカニクスだったんです。
でも「ICO」以降の作り方というのは大きく変わっていて,まず最初にゲームメカニクスを考えて……みたいな作り方をしているんですね。なので,その話を聞くとなんかちょっと羨ましいと思う半面,この現代において本当にそれでゲームを作れるんだろうかみたいな感じです(笑)。
4Gamer:
ははは(笑)。
Chen氏:
そんなにですか(笑)。
上田氏:
昔は,自分もイマジネーション優先で作っていたと思うんですけど,最近はもっと効率化を考えて,合理的に作って……ただ,合理化や効率化が正解かどうか迷いながらやっているんですけどね。
4Gamer:
いいか悪いかという問題は別として,Jenovaみたいにある意味「泥臭い」感じのほうが「作品」っていう感じはしますよね。泥臭いというか昔ながらの力技というか。
上田氏:
泥臭い……そうですね。
例えばレベルデザイン一つとっても,昔は本当にビジュアル優先で「こんな空間が欲しい」というのが先にあって,背景を作って,そこでプレイヤーを動かして,実際に機能するオブジェクトもあればまったく機能しないものもあって,ゲームメカニクス的には意味合いの薄い風景なんかも入れ込んだりしていました。でも最近は,背景の構造から配置してあるオブジェクトから,アートのレイアウトから,そこにあるものすべてに意味を考えてしまうという。
昔はそういうことはなくて,それはそれで良かった部分もあるし,かといって使わないものや,あまり機能してないものに対してコストを割くっていうのは,プロデューサー的観点で考えるとあまりよろしくないというのもあったりして。
Chen氏:
「ワンダと巨像」の鳥とかの話ですか?
4Gamer:
「ICO」のヨルダの行動パターンなんかもそういうものの一環ですよね。何もしていないときに割と動いてますし。
Chen氏:
確かにプレイヤーというものは,ゲームにあるすべてのものに対して意味と理由を求めています。何でそれはそこにあるんだろう,と。
「Journey」のとき,まさにアクシデントだったんですけど,作っている最中にうっかり一切れの布が残ってしまったんです。プレイヤーはそれを見つけて,興味津々でその布切れの意味を探り,挙げ句に名前まで付けてしまいました。※
※「Journey」リリース後,ファンに親しまれて名前を付けられた白い布「ゲイリー・ザ・スカーフ」(Gary the Scarf)。2012年のアップデートでは,ゲイリーの隣に赤いパートナーが追加され,ファンに「ラリー」(Larry)と名付けられた。(→外部リンク)
上田氏:
そうですよね。そんなこともあったりするんで,すべて不必要だからって排除していくのもよろしくないと思うんです。ただ結局はうまくバランスを取らないといけないな……というのはありますよね。
合理的に考えないといけない,でも合理的に考えすぎてもいけない,と。イメージ優先の場所も必要だし,プレイヤーを迷わせないためであったり,コストを抑えるためであったり,デザインをエレガントにするためであったり,意味を持たせることも必要です。どっちも重要なので,たぶんその日によって言ってることが違うなと思われてるかもしれないですけど(笑)。
Chen氏:
僕は逆に,上田さんがイメージを作るその才能が凄くうらやましいです。上田さんのスケッチを見たことがあるんですが,それを見るだけで,どういうゲームなのかを想像できる気がします。自分の場合は絵が下手なので,スタッフに見せてもみんな「は?」という感じになって,言葉を通じて説明しないといけません。僕の英語もそこまでうまくないので,伝えるだけですごく苦労しています……。
上田さんみたいに,見せて一発でみんなが分かるイメージが作れたらいいんですけど,僕はそこがうまくできなくて……。
上田氏:
いやいや……そんなことはないでしょう。さっきの絵を見ても思いますけど。
Chen氏:
私のスタッフはたぶん,みんな何かしら僕と仕事したくないと思っているかもしれません。「これは僕が出したい雰囲気じゃないよ」とかそういうことしか伝えられないので。
上田氏:
そんなことはないと思いますが……。イメージだけでは伝わらないものだってたくさんあるわけですから。
しかしChenさんはどっちのタイプなんだろう。いまだにつかみきれてないんですけど,イメージ優先の開発者なのかロジカルなタイプなのか。例えば「Journey」とかには感情曲線みたいなものが入ってると聞いたこともあるんですけど,どっちなんでしょう?
Chen氏:
たぶん両方だと思います(笑)。
上田氏:
僕も自分では両方だと思っているのですが,他人からみてどっちなのかは正直よく分からないんじゃないと思います。
受け取る人によって違うのかもしれません。4Gamerさんなんかは僕のことをロジカルタイプだと思っているかもしれないし,開発スタッフなんかは僕を感覚的に表現する人間だと思っているかもしれません。
Chen氏:
ということは,僕と似たような経験があるかもしれませんが……エンジニアと一緒にやっていくのはかなり難しいことですか?
上田氏:
うーん,そうかもしれません。でもChenさんは元エンジニアですから共通言語があって,僕よりもっとうまくやれると思いますが。
ビデオゲームは究極的にはプログラム芸術だと思うんです。ゲーム制作は,いかにプログラミングで実現するかっていうところが重要で,それが最終的にゲームのクオリティに直結していく。そこが僕にとってゲームの開発における一番悩ましいところですね。特に僕はゲームプログラミングを経験してないので,余計にそう感じます。
Chen氏:
僕は一応プログラマーみたいなことはできますが,優れたプログラマーではないので,実際は本物のプロに作ってもらっています。ただ,僕はきちんと伝えたと思ったのに,実際に作ってもらったものを見ても,自分が指示したものと違うものが出来てたりして落ち込みます。それこそ横に座って細かく指示を出したりしながら,嫌われながら。
上田氏:
そうですそうです……。
Chen氏:
なのでときたま思うんですが,自分がプログラミング出来るということは,もしかしたら逆にネガティブな要素になってるのかもしれません。例えば,自分がまったく出来ない作曲については,それに関して何の知識もないので,「こんな感じ」という大まかなものを作曲家に伝えて,出来上がってきたものに対してOK/NGを出してるだけなので,すごくスムーズに進んでます。
ただ,自分がプログラミングとかコーディングとかが出来ることで,ウチのプログラマー達をオーバーマネージメントしてしまうんです。
上田氏:
そうですねえ……すごく分かりますね。
僕で言うなら,アニメーションやビジュアルに関しては自分が出来てしまうぶん,それこそパッケージデザインもそうですけど,わかるからこそのコントロールへの苦労やストレスがあります。
アメリカでは多くの開発者が,インディとAAAの間で反復横跳びしています
Chen氏:
僕も今のゲームを7年作ってるわけですけど,付いてきてくれている人もいれば,「無理。もうあなたと仕事できない」と言っていなくなってしまう人もいます。これは上田さんのご意見をいただけたらと思うんですけど,どうやってそういう風に自分のやりたいことを追求しているのか,その妥協のバランスを,どこでどういう風に線引きしているんでしょうか。
上田氏:
いや……それこそビデオゲームに限らず,ディレクターの永遠の悩みでしょうね。僕にしても,そこをうまく出来ているとは思わないです。
目指しているものが「高いところ」にあればあるほど,ある程度同じ志がある人じゃないとなかなか難しいと思います。いかにそういう人を見つけるか,出会うかというところが,ゲーム制作における一番大変なところですし,重要なところですよね。
Chen氏:
僕はいま……抱えている問題があるんです。
いま「Sky」のAndroidバージョンを作っていて,ウチのエンジニア達がすごく頑張ってポーティングしている最中です。例えば締め切りをセッティングするとしましょう。12月のクリスマス近くにローンチすることは,誰にでも分かるようにベストな時期です。ただそれに向かっていこうとすると,タスクがあまりにもハードになって,スタッフのメンタルモチベーションがどうしても下がってしまいます。
けれど,ひとたびクリスマスのタイミングを逃すと,たぶんそのままズルズル引っ張って来年のローンチとかになって,セールスがどんどん悪化していきます。それは会社にとって,つまり最終的にはスタッフにとっても良くないことです。
4Gamer:
そういうこと,よくありますよね。
Chen氏:
ゲームの商業的な成功を選ぶか,チームの健康を選ぶかの天秤になっていて,ときどき自分が人間性を失った何かになっているような気がします。明らかにスタッフのみんながしたくないということを知りながら,いつも作品を優先させているので……。理解されない選択なので,孤独も感じますし。※
※「Sky 星を紡ぐ子どもたち」のAndroid版は,2019年12月13日に無事ローンチされた。
関連記事:「Sky 星を紡ぐ子どもたち」のAndroid版が国内向けにリリース開始。ローンチトレイラーも公開に
上田氏:
その言葉は,今日一番共感するところですね。
4Gamer:
本当ですね……。
Chen氏:
上田さんは,そういうところはどう解決しているんですか。または,どう耐えているんですか。
上田氏:
難しい質問ですが,例えばチームメンバーとゲームプレイヤーを天秤にかけるとして「最終的にはどっちも大切」ということですね。チームメンバーも大切ですし,ゲームプレイヤーも大切です。
ゲーム制作にはプロデューサーとディレクターという立場があって,僕のメインはディレクターというポジションでやってるんですけど,最終的にどちらかを選択しないといけないとしたら,そのときにお客様(プレイヤー)の側に立つのがディレクターだと思っています。チーム側に立つのがプロデューサーです。お互いにしのぎを削って,戦って,最終的に良い落としどころになればいいかなと思っています。つまり,僕はそこにはあまり迷いはないんですよね。最終的にはいつもお客さんの側に立っています。
Chen氏:
僕は,会社員だったころはディレクターのポジションにいたんですが,今は自分の会社をやってるので,両方のポジションにいることになってしまっているんです。上田さんも今はご自分のスタジオなので,おそらくご理解いただけるかと。
上田氏:
そうですね,よく分かりますよ……。
Chen氏:
あまりにもスタッフにプレッシャーをかけると辞められちゃうので困りますし,でもプレッシャーをかけないとゲームのクオリティが落ちて,プレイヤーを失望させるかもしれません。もちろんプロデューサーを雇うことだってできますが,結局僕はボスであって……そこがちょっと永遠の悩みではあります。
上田氏:
そこのせめぎ合いは本当に難しいですよね。
Chen氏:
僕は,自分を失敗しかしないポジションに置いているのかもしれません。ディレクターだけをやっていれば,躊躇なく正しい決断を出せるんですが(笑)。
上田氏:
今まさに,自分も同じような立場でやっているので……本当によく分かります。その両方をやらないといけないというところで,日々……(笑)。
4Gamer:
日々……?
上田氏:
日々……試行錯誤しています。
車の世界に喩えて言うなら,エンターテイメント業界というのは,やっぱりF1の世界だと思うんですよ。つまり僕らはF1に参戦するチームであり,F1ドライバーです。なによりもまず,事故を起こしてはならない。事故を起こしたら成績も残らないですし,それ以前にすべてが台無しになります。
それは分かってはいるんだけど,やっぱりレースなので,生活に不可欠でなおかつ安全が最重要の,タクシーやバスのドライバーとは違いが出てきますよね。もちろんF1だって安全は重要ですが,いかにコーナーに対してブレーキを踏まずに突っ込めるか,アクセルをどれだけたくさん踏めるか,そういうところの勝負になります。
Chen氏:
確かにおっしゃる通りで,我々はみんなF1ドライバーかもしれませんね。大体の人はクラッシュしちゃいますが……。
エンターテイメントとは,そういう世界でもあるということですね。
Chenさんは,日本のそのクリエイションに対してはどうお考えなんですか? 北米でゲームを作ってますけど,北米のクリエイションと比較してそんなに違和感ないのか,だいぶ違うのか……。
Chen氏:
クリエイションというのは,かける時間と人についてですか。それともプロセスのことでしょうか。
上田氏:
プロセスですね。プロセスの違いがあるのか,もしくは同じなのか。
Chen氏:
自分が経験したものだけで,ほかのところのプロセスはよく分かりませんが,基本的にはインディデベロッパはまずビジョンがあって,そのビジョンをひたすらに追求します。開発期間はすごく長くて,3,4年くらいが一般的で,長かったら6年くらいも。ビジョンを追求し続けているので,いつ終わるのかが分かりませんし,その不確定性にすごく不安を感じる人もいます。
上田氏:
それは一般的なプロジェクトの話ですか?
Chen氏:
インディは大体そんな感じだと思います。大手メーカーはもちろん違っていて,彼らのストレスはクリスマスまでに完成できるかどうか,仕事の量に追いつけるかどうかであって,1日14時間とか16時間とかのシフトでやってます。僕たちインディは長いワーキングアワーはないですが,いつ開発が終わってゲームがヒットできるのかどうかがストレスで……。
両者はまったく違うストレスですが,やっぱり隣の芝生は青く見えるので,多くの人はインディとAAAの間で反復横跳びしていますね(笑)。僕は日本のゲーム業界のことはよく分かりませんが,たぶん似たような感じなのではないかと。
日本のゲームデベロッパは一日何時間ぐらい働いているんですか。
上田氏:
どうなんでしょう。今は割と限られた時間しか働いてはいけないです。
4Gamer:
そうですね。月の残業時間が決められているので,それをあまりにも超えると労働基準監督署に怒られます。
Chen氏:
それはもう一般的な話なんですか?
4Gamer:
労働基準法という法律なんですよ。
あのころは少しでも自分が手を動かせば商品価値が上がると思っていて,寝て起きて,何かを作って力尽きたら寝て
Chen氏:
なるほど……。そういう意味では,アメリカは中国方式に近いです。「996」勤務体制です※。朝9時から夜9時まで,月曜から土曜の週6日。アメリカは若干それよりマシですけど,ほぼ中国方式です。
上田さんも中国に行かれたばかりとのことで,もしかしたら見たかもしれません。僕が初めて中国のゲーム会社に行った時に見たのは,会社に寝袋が置いてある風景ですね。帰らずにそこで寝るというのも当たり前に日常化していました。
※外部リンク:中国で社会的議論になった働き方「996」とは?(JETRO)
上田氏:
僕が「ICO」とか「ワンダと巨像」を作ってた時代,2005年ぐらいまでは日本でもそうでした。僕も寝袋を持っていて,マスターアップや締め切り前じゃなかったとしても,家に帰るのは2日に1回くらいでした。寝袋で寝て,シャワーに入るために家に帰って……。これ以上は言わないほうがいいかもしれない(笑)。
Chen氏:
Wow〜。
これは真面目な質問なんですが,そういったストレスレベルでの長時間労働は,ゲームを良くしたと思いますか?
4Gamer:
やっていることの内容と規模は全然違うけど,編集という仕事もちょっと似たところがあるので,僕もその返事はすごく興味があります。
上田氏:
そうですね……。僕に関して言うなら「良くした」と思いますね。あのころは,自分が手を動かせば動かすだけ商品価値が上がると思っていて,実際それによって商品価値が上がった部分が多分にあったと思います。寝て起きて,何かを作って力尽きたら寝て……みたいな。
4Gamer:
分かります。
上田氏:
それによってなんらかの商品価値が上がったという部分はあると思いますが……だからといって皆に「そういう風にして」とは思いません。ただ,当時の自分は少なくともそうでした。
いろんなタイプの人がいると思うんですが,僕の場合は本当に深夜に集中してパフォーマンスが上がるタイプの人間だったので。そうすることで結果としては「良かった」と思うんですけど,ちゃんと寝ないとパフォーマンスが出ない人もいるわけですし,一概にこれが正解だとは言えないですよね。
Chen氏:
とても同意です。僕も初期のゲームを作るときは,まさに寝る時間以外をすべてゲーム作りに費やしていました。自分がゲーム開発に時間をかけるぶん,ゲームがさらに磨き抜かれると信じていましたから。
今は結婚して,子供ができて家族がいることで,家族と仕事のバランスを取らないといけないです。そういう違うものが見え始めてくると,さっきちょっと話題に出たように,どれくらいスタッフを働かせるのかという問題と同様,どれくらい自分を働かせるのかという部分にも葛藤が出てきます。自分がゲーム開発に時間を注がないと,その分ゲームが持つパワーとアーティスティックな部分が減るんじゃないかという心配もあります。
4Gamer:
ポイントとなるファクターはなんだと思いますか?
上田氏:
ポイントは……集中かなと思います。いかに素早く集中するか,そして集中した状態をどれだけキープするか。
このあたりは日本だと比較的多くの人が苦手とするところだと思うんですよね。例えばアメリカのような評価システムだと,そういうことはもう当たり前だと思いますけど,危機感がない状態では,あまり集中しないでダラダラと……という部分があるので。
Chen氏:
僕も,いまだにどうやって効率よく仕事をすればいいのかが分からないんです。いつも,長い時間をかけて疲れ切ったときにアイデアが降りてくるので,どうやって効率よくそのアイデアを降ろしてくればいいのかが分からないです。
今は家族がいるのでそんなに長時間の仕事はできないし,ただでさえ普通の仕事時間ですし,そして家庭と仕事の間でいろいろなものを切り替えないといけないので,いまだにその切り替え方がうまくないんです。
4Gamer:
といったところで……Jenova,明日朝早い便だって言ってませんでしたっけ。
Chen氏:
そうなんです。この対談のために1泊無理矢理伸ばしたので(笑)。
上田氏:
あぁそうなんですね。じゃあこのあたりでお開きのほうがいいですか?
4Gamer:
はい,名残惜しいですが。
上田氏:
なるほど。こんな素晴らしい機会をもらえてありがとうございました。
これまで「Flower」とか「Journey」とか「Sky」が,どういうスタンスで作られているのかがずっと気になってたんですけど,飛び抜けたイマジネーションでイメージ優先で作るということと,元々エンジニア出身ということでロジカルさもあって,それらがうまくバランスが取れているというか。両方持ってるからこそできている作品なんだなと思いましたね。
ちょっと待ってください。
もし僕が明日が死んじゃうとして,最後に上田さんに聞きたいことは何だろう……ちょっと時間をください。
4Gamer:
いいですよ,待ちます(笑)。
Chen氏:
(ホントにしばらく考えていた)
……僕の質問ができました。もし人生で最後のゲームを作るとしたら,その最後の作品はどんなものを作るんですか?
上田氏:
どんなゲーム……うん,なかなか難しいなそれは(笑)。
でも,毎回これまでに作ったタイトルは出し惜しみせずに,もうこれで人生終わってもいいと思いながら作ってますよ。続編を作ろうとか,そういう発想は本当にいつもまったくなくて,アイデアや持ってる技術を全部出し切って,結果はどうであれこの一本に全力投球しようというスタンスで作ってきているんです。いま作っているものもそうですし,これまで作ってきたものも,全部人生で最後のゲームという意識で作っています。
4Gamer:
全部それです,と。
上田氏:
はい。
Chen氏:
すごく哲学的なお答えです……。
上田氏:
……ところで「Sky」の次はもう動いているんですか?
Chen氏:
はい,次作をこんな感じにしようというものはあります。ただ,いつ始められるのかは分かりません。今は「Sky」の真っ最中で,まだ運営中ですし,会社全体もこのタイトルにかかっています。けど,次やるものは決まってます。
上田氏:
それは楽しみですね。
Chen氏:
まぁ……お互いやっぱり,ゲームがある程度形になるまで話さないのがいいですよね。すべてはゲーム自身に語ってもらいましょう(笑)。
上田氏:
そうですね。Chenさんとは,作ったものでコミュニケーションができるはずですので楽しみにしています。
Chen氏:
しかし時間が経つのは早いもので,ようやくウォームアップできて,さあもっといろいろ難しい質問を……と思ったんですけど,また次の機会にお願いします。
上田氏:
もちろんです。
Chen氏:
今日はこんなに素晴らしい機会を作ってもらって本当にありがとうございます。4Gamerさんにも感謝です。いろいろなお話を聞けて,本当に光栄です。このあと僕が年を取って,自分のキャリアと経験を振り返る時に,今日過ごした時間は絶対に思い出すであろう,僕の人生のピークモーメントだと思います。本当に本当にありがとうございました。
上田氏:
そう思ってくれると嬉しいです。こちらこそありがとうございました。
―――2019年11月20日収録
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