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配信プラットフォーム「Mildom」がeスポーツ大会を主催する理由。日常に刺激となるものを習慣化
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印刷2020/11/20 12:00

インタビュー

配信プラットフォーム「Mildom」がeスポーツ大会を主催する理由。日常に刺激となるものを習慣化

 ライブ配信プラットフォームMildomを運営するDouYu Japanが主催した「VALORANT」の大会「VALORANT Mildom Masters」。国内のプロチームを招待し,8月20日〜10月15日の2か月間にわたって開催されたこの大会は,国内最強と名高いJUPITERが全勝優勝という形で幕を閉じた。
 VALORANTを競技タイトルとして採用した大会は多いが,ラウンドロビン(総当たり戦)と,プレイオフトーナメントを採用した大会は少ない。なぜ配信プラットフォームであるMildomがeスポーツ大会を主催しているのか,その理由をeスポーツディレクター清水敬介氏に聞いた。

画像集#007のサムネイル/配信プラットフォーム「Mildom」がeスポーツ大会を主催する理由。日常に刺激となるものを習慣化

 また,今回のインタビューに合わせて,全勝優勝を果たしたAbsolute JUPITERのcrow選手にもミニメールインタビューを実施した。そちらは記事末尾に掲載しているので合わせてチェックしてほしい。

eスポーツディレクター清水敬介氏
画像集#004のサムネイル/配信プラットフォーム「Mildom」がeスポーツ大会を主催する理由。日常に刺激となるものを習慣化

4Gamer:
 よろしくお願いします。まずは自己紹介からお願いします。

清水敬介氏:(以下,清水氏)
 DouYu Japanの清水です。入社は2019年12月で,もともとは2012年頃に自分で会社を立ち上げて,eスポーツの制作会社のようなことをやっていました。PC,モバイルを問わず,小さいイベントから幕張でやるようものまで,イベント制作を6年ほどやっていましたが,2018年ごろに会社がダメになってしまって。1年ほどは業界の外から見るだけだったのですが,やっぱりもう一回この仕事がしたいと思い,立ち上がったばかりのDouYu Japanに応募し,採用してもらいました。

4Gamer:
 つまり,eスポーツで失敗を経験していると。

清水氏:
 そうですね。競合他社が増えて,まず案件を受注するという部分で勝てなくなった。社員3人〜4人ほどの小さな企業ですから。業界の大手を相手にすると,資金はそれなりに必要です。何度か資金調達をしたんですけど,人数を効率的に増やしていけず,案件の幅も狭くなって,畳んで清算することを決めました。

4Gamer:
 eスポーツ業界全体に言えることですが,慢性的な人材不足ではあるんですよね。かと言って育成・教育にコストを割けるわけでもない。

清水氏:
 eスポーツから離れた1年は,視聴する側になって競技シーンをどうやって盛り上げていくかというのが見えた気がします。また,チームをいかに持続可能な事業体として存続できるか,というのも重要な部分だなと,なんとなくな分析ですがありました。

4Gamer:
 現在はMildom(DouYu Japan)でどのような仕事を行っているのでしょうか。

清水氏:
 僕がDouYu Japanに入ったときは,まだ立ち上がったばかりだったので,3人めか4人めくらいの社員だったと思います。入社したあとはパブリッシャさんとの放映権の交渉だったり,ゲーミングチームとのスポンサー契約,あとはVALORANT Mildom Mastersのような弊社が主催する大会の企画運営,それに伴うパートナー企業さんとの制作業務などの管理に携わっています。
 弊社のeスポーツ担当チームは現在11名ほどいまして,彼らと一緒にそれらの業務に携わっています。

4Gamer:
 チームとのスポンサー契約というのは先ほどのお話にあった「持続可能な事業体として存続できるか」という考えもあってのことなのでしょうか。

清水氏:
 そういう側面もあります。Mildomは映像配信プラットフォームなので,うちで配信してもらうことに対して金銭的なサポートをしたり,あるいはパブリッシャとのコネクションを紹介したりだとか。そういった面でチームをサポートする形もあるのかなと思いまして,パートナー契約というのをやらせてもらってます。


VALORANT Mildom Mastersはこうして生まれた


4Gamer:
 今回のVALORANT Mildom Mastersの開催に至った経緯を教えてください。

画像集#001のサムネイル/配信プラットフォーム「Mildom」がeスポーツ大会を主催する理由。日常に刺激となるものを習慣化
清水氏:
 いくつか理由があるんですけど,まずeスポーツという言葉から連想するのが「大会」だなっていうのがあります。熱狂するシーンを作れるかどうかはとても大事だと思っていました。そこへの関わり方って2つあると思っていて,1つは他社あるいはパブリッシャさんと,放映権という形でご一緒する,もう1つが自分たちで作る,です。

 Mildomとしてはご一緒できるところなら放映権を買わせていただいて,自分たちでも作る。今回の企画は,VALORANTの立ち上がった段階がリリースされた直後という状況だったので,誰かがやるのを待つのではなく,僕らでやっちゃおうというスタンスで始めました。打算もあって,Riot Gamesが競技シーンでの展開も考えていることはリリース前からアナウンスされていましたから,長く続くコンテンツとして我々もコストをかけてやれると。半分はロジカルに,半分は感情で立ち上げましたね。

4Gamer:
 ラウンドロビンという形を選択したのはなぜなんでしょうか。

清水氏:
 単発で終わるものにしたくなかった,というのがまずあります。他にも定期的に大会を開催していくとか,方法はあるんですけど,ラウンドロビンにしたのは「毎週,決まった曜日にMildomに見に行けばプロチームがやっている大会を見られる」という状況を作りたかったからです。「あらゆるプロチームが参加する招待制の大会」っていうのをコンセプトにしていましたし,ある程度長期的な,2か月くらいの大会ならやっていけると考えました。

4Gamer:
 いわゆる習慣化というやつですね。

清水氏:
 そうですね。プラットフォームなので,定期的に足を運んでくれるというのが大事だったりするので,そこの習慣化に向けて,定期的に長期間実施する総当たり戦からのトーナメント戦という形で実施しました。

4Gamer:
 大会はこれ以外も実施していたんですか。

清水氏:
 今回のVALORANT Mildom Masters以前にも,「Apex Legends」でオープンエントリーの大会を開催してはいました。ですが,今回のようにトッププレイヤーが集まる競技コンテンツとして,総当たり戦のような形での開催は初めてです。

4Gamer:
 2か月間ですから,いろいろな苦労があったと思いますが。

清水氏:
 苦労はありましたが,昔に比べれば――という言い方が正しいかはわからないですが――そこまででもないといった感じですね。eスポーツ界隈の制作会社さんだったり,プロチームもそうですし,選手もマネージャーもそうですが,eスポーツというものに慣れている人が多くなっているので。

4Gamer:
 業界が成熟してきたということでしょうか。

清水氏:
 そうですね。それに今回は招待制でプロチームだけだったというのも大きいかったですね。
 ドタキャンはないですし,難しい場合も事前に連絡をいただけて,日程の調整もできました。ポジティブなところだと,宣材写真などもすでにチームが持っていたので,素材が作りやすかったですね。

4Gamer:
 反響はいかがでしたか。

清水氏:
 かなり良かったかなと思っています。出場選手もそうですし,スポンサー各社からも「想定していたよりも良かった」という評価をいただいてます。
 Mildomとしてみても上位の視聴者を獲得できたコンテンツになっているので,コストを投じた価値があったかと思います。

4Gamer:
 同時視聴者数はどのくらいあったのでしょうか。

画像集#003のサムネイル/配信プラットフォーム「Mildom」がeスポーツ大会を主催する理由。日常に刺激となるものを習慣化
清水氏:
 今回はMildomのほかにTwitchでも配信をやってまして,合計で1万1000ほどの同時視聴数でしたね。Mildom単体では7300くらいでした。平均の視聴時間はだいたい1時間前後くらいですね。

4Gamer:
 同時視聴者数1万1000で,平均視聴時間が1時間というのはかなり高い数値ですね。

清水氏:
 他社さんでもっと同時視聴者数が多い大会ももちろんあるんですが,Mildomとしては今回の大会は今後もかなり期待ができる大会にできたかなと感じています。

4Gamer:
 選手たちの反応はどうでしたか。

清水氏:
 大会自体にはすごく好意的な反応をもらえました。総当たり戦のような形式の大会は,昔は全然なかったので,そのあたりが喜ばれましたね。
 あとは我々がコントロールできる部分ではないのですが,2か月の間には他の大会も開催されていたので,その期間は疲労が溜まってしまったという声は多かったですね。

4Gamer:
 VALORANT Mildom Mastersは継続的に開催していくのでしょうか。

清水氏:
 Mildom Masters自体はやっていく方向性ではいます。ただ,VALORANT以外のタイトルもやっていくのか,他のタイトルをやったときに同じ「Mildom Masters」としてやるのか,というのは今検討している最中です。こういった,競技シーンの中でもトップレベルの大会を我々が主体となって届けていくというのは,今後も積極的にやっていきたいと思っています。

4Gamer:
 国際大会と連携した大会を開催しているところも多いのですが,Mildomでもそうした計画はあるのでしょうか。

清水氏:
 計画という段階ではないですが,国際大会と連携した大会というのも考えています。しかしパブリッシャさんとの兼ね合いもあるので,我々がどこまでやって良いのかというのがタイトルによって異なるのが難しい部分ですね。弊社としてはウェルカムです。
 パブリッシャさんのスケジュールやタイトルの権利関係の問題などもあると思うので,そのあたりを調整しながら僕たちのやりたい最大限をできるだけ追い求めていく,という形になると思います。

4Gamer:
 今回プロチームを招待しての総当たり戦でしたが,招待制ではない形での開催も視野に入れてるのでしょうか。

清水氏:
 我々が開催する形式と,コミュニティとご一緒する形での二軸でやっていきたいと考えています。どういう大会になるかは,コミュニティの意見を取り入れながら,ニーズに沿って大会を提供するというスタンスで企画しています。
 社内のeスポーツチームは11人ほどいて,全員がeスポーツ畑の人間なので,コミュニティの肌感というのも分かるんですが,最終的には直にコミュニティの中にいる人の意見を尊重して,大会を作って行くというスタンスを貫いています。

4Gamer:
 VALORANT Mildom Mastersで招待されたチームは全チームMildomでサポートしているチームだと思うのですが,それ以外のチームを招待することもあり得るのでしょうか。

清水氏:
 これに関しては結果的にそうなってしまった,というだけなんです。Mildomで配信しているチームじゃなければ招待されないのかというと,そういうわけではありません。コミュニティにとって必要なものをどうやって提供できるかを1番に考えているので,そのあたりに縛りはないです。


Mildomとeスポーツの今後


4Gamer:
 配信プラットフォームとして,今後はeスポーツとどのように関わっていくのでしょうか。

画像集#002のサムネイル/配信プラットフォーム「Mildom」がeスポーツ大会を主催する理由。日常に刺激となるものを習慣化
清水氏:
 eスポーツという観点で言うと,3つの軸を考えています。
 1つはeスポーツのチームをサポートする体制を整えていきたいなと。2つめはコミュニティが大会を自発的に開催していく体制というのを,何かしらの形でサポートしていきたいですね。個人主催の大会をやりたいと思ったときに,プラットフォームとして小規模な大会もサポートできる体制を作って行きたいと考えています。

 3つめは今回のような競技性のより高いトップのプロシーンというのを,放映権や自社開催も含めて,より高頻度に,また高品質なものを,いろいろなタイトルで提供できるプラットフォームを目指していきたいですね。今回の大会が終わってしまって,しばらくそういうコンテンツがなくなってしまうという状況になっていますが,これから続けていく中で,間断なくお届けできるようにしたいです。やる人がいなければ僕らがやって,やってる人がいれば放映権などで関わらせていただく,という形で盛り上げていきたいなと思っています。

4Gamer:
 いまこういう状況なので,なかなか難しいとは思いますが,オフラインでの開催は視野に入れているのでしょうか。

清水氏:
 オフラインでの開催は一番やりたいことですね。この状況が収まればすぐにでもいろいろな企画を出したいと思っています。本来であればMildom Mastersの決勝もオフラインでやりたかったのですが,なかなか先が読めない状況だったので,企画の段階から全部オンラインでやりました。

4Gamer:
 次に大会を開催するとしたらいつごろでしょうか。

清水氏:
 早ければ年明けだと思います。本音を言えば年内にやりたかったんですが,特にVALORANTは公式大会もあるので,スケジュールの調整が難しいかなと。

4Gamer:
 それでは最後に読者にメッセージをお願いします。

清水氏:
 Mildomとしてはeスポーツを「はやりもの」というわけではなく,文化として根付かせることをしっかりと考えています。なんとなく「はやっているから」という温度感でやっているわけではないというのをアピールしておきたいですね。私自身もそうですが,eスポーツを担当しているメンバーも全員,コミュニティに属しているので,そのあたりも含めて,Mildomの今後に期待してください。

4Gamer:
 ありがとうございました。


Absolute JUPITERミニメールインタビュー


画像集#005のサムネイル/配信プラットフォーム「Mildom」がeスポーツ大会を主催する理由。日常に刺激となるものを習慣化

4Gamer:
 今大会(VALORANT Mildom Masters)のオファーを受けた理由はなんでしょうか。

crow選手:
 Mildomでは多くのプロゲーマーがVALORANTの配信をしていて,盛り上がっている様子を感じていました。大会にはできるだけ参加したいという思いはありますし,それに加えて大会を見た人がMildomでの個人配信も見てくれる導線あるので,そのメリットも感じて参加しました。

4Gamer:
 ラウンドロビン(総当たり戦)というVALORANTの競技シーンでは少々珍しいレギュレーションでしたが,大会に関する感想を聞かせてください。

crow選手:
 トーナメントだと1度負けたら終わりですが,総当たり戦は何度も試合を行った結果が反映されるので,プレッシャーをあまり感じることなく挑むことができました。毎週,決まった曜日に大会があるのも良かったですね。スケジュールも管理しやすいですし,ファンの人にも見てもらいやすかったと思います。

4Gamer:
 全勝での優勝という快挙でしたが,それについてどう感じていますか。

crow選手:
 負けることが本当に嫌なので全勝する気でいましたが,実現できてよかったです。ホッとしています。

4Gamer:
 今回はオンラインという対戦環境でしたが,オフラインと比べていかがでしょうか。

crow選手:
 オフラインでは用意された機材でプレイするので,いつもと少し勝手が違ったりするのですが,オンラインだといつもの環境でプレイできるので,普段通りの実力が発揮できたと思います。

4Gamer:
 ありがとうございました。
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