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桃鉄はどのように教育現場で活用できるのか。「桃太郎電鉄 教育版」をテーマにした教育者向けセミナーをレポート
「桃鉄 教育版」のプロデューサーを務める岡村憲明氏や,現役の小学校教諭で,エデュテイメント※プロデューサーとして「桃鉄 教育版」の制作に関わる正頭英和氏らが登壇。実機の映像や実際に使用された例を通し,作品の内容や教育の現場での活用方法などが紹介された。
※“遊びながら学ぶ”という,教育(Education)と娯楽(Entertainment)を掛け合わせて作られた造語
「桃太郎電鉄 教育版 〜日本っておもしろい!」公式サイト
桃鉄で楽しく勉強。実際の活用事例をとおして「桃鉄 教育版」の可能性を探る
教育版マインクラフトのようなPBL(Problem Based Learning。問題解決型学習)ができる教育ツールとして制作された「桃鉄 教育版」は,「日本のタイトルで,教育版マインクラフト(Minecraft: Education Edition)のような教育ツールとなるゲームを作りたい」という思いから企画が動き始めたという。
正頭氏からのコンタクトで開発が始まった「桃鉄 教育版」は,教育現場で動かせるよう,学校で支給される主要なタブレットで無理なく起動するスペックで作られた。その対応のため,研究に要した期間は3年近くになったという。
制作発表会(関連記事)でも明言されていたとおり,いじめやケンカの遠因になりかねないという理由もあって貧乏神は登場しない。また攻撃系のカードも同様の理由で,特定のプレイヤーを狙い撃ちできないよう対象がランダム選択される仕組みとなっている。
ゲーム自体の仕様を変えているのはこの2つ程度で,そのほかは基本的に従来の桃鉄のまま。学びたい地方を限定してプレイできるモード,駅周辺やランドマークといった地理情報を表示する機能を搭載する形で,教育現場向けの作品として仕上げられている。
小学校の授業や休み時間での使用を想定し,プレイ年数は1〜3年間。プレイ環境(プレイ可能な時間帯や使用できるタブレット)は学校側の管理者権限で設定できる。
ゲームのイメージとして社会科の地理に有効的に見えるが,それだけではなく国語や算数といった授業にも活用できるようだ。「とくに物件の購入や所持物件の利益率などは,割合を理解してもらえる点で大きい」と,算数の教材としても有用であることが正頭氏より語られた。
正頭氏による説明ののち,先行して「桃鉄 教育版」のデモ版を使用した小学校教諭の坂本良晶氏,渡邊有紀子氏,ICT支援員の福島 学氏が登壇。実際に使って得た知見を語った。
学校には,ゲームに馴染みのない年代の先生もいる。学校での導入を理解してもらうには,一人ではなく周囲(ほかのクラスの先生など)を“巻き込む形”で,主語をクラスから学校という規模で変えていくことが重要だと感じたという。
実際に導入した事業では,正頭氏の説明にもあったとおり,地理だけではなく小学校低学年〜中学年の算数や国語の授業にも役立つと実感できたそうだ。
その理由が,ゲーム内の年数が1〜3年に限定されており,長くても小1時間でゲームに区切りをつけられることと,貧乏神がいないこと。遊び過ぎにならず,また貧乏神に追い詰められてやる気をなくすこともなかったため,ほどよい時間でゲームを楽しみながら学習できたという。
いままでなかなか身につけられなかった県庁所在地を覚えることができ,苦手だった算数にも興味を持つようになるなど,具体的な形で学習の成果も感じられたととのこと。
「うまくいかずやりたくなくなった」ときや「もっとやりたい」とゲーム止めなくなったときの子どもの向き合い方の提案 | |
地域を限定したプレイやその日の振り返り,テストなど,教育者として考えた家庭学習での桃鉄の活用方法」も語られた |
従来の「桃鉄」シリーズをプレイしてきた福島氏は,自身の経験からも当初から「『桃鉄』なら,そのまま遊ぶだけでも十分学びにつながるだろう」と考えていた。そこで,プレイできる時間帯だけを決め,あとは5〜6年生が自由に遊べる環境を設定。授業で使う教材ではなく,コミュニケーションツールとしての活用を試した。
渡邊氏(と,5〜6年生の担任)は「いまの小学生に『桃鉄』が受け入れられるだろうか」「マルチプレイでケンカが起きないだろうか」という不安はあったが,実際に導入したところ,懸念していたケンカなどもなく,多くの児童が好意的に受け入れてくれたという。
プレイできる学年の範囲を広げ,現在では小学2年生までの児童が「桃鉄」に触れている。高学年は純粋にゲームとして友だちと遊び,低学年は知らないことを調べるツールとして使うといった,個人はもちろん年齢層によって異なる楽しみ方や活用法があり,それは興味深いものだったそうだ。
学習効果については,ほかの登壇者と同様,地理や算数での高さを実感できたとのこと。また,巨大に描かれた富士山やビルが乱立する東京周辺,リンゴに囲まれた東北地方など,マップのビジュアルから土地や名産品に興味を持つ生徒が多かったという。
現状,学校での金融経済教育が不足していると感じているという大河内氏は,「桃鉄」がその状況を変える可能性があると考えているようだ。所持金が上下する青マスや赤マスを考慮しながらルートを選択して目的地を目指し,物件を購入して利益を得ることが勝利条件となる「桃鉄」のゲーム性は,「経済を学ぶツールとして,また投資教育の前段階として役に立つのではないか」と話していた。
そこから来場者を交えて,「もしも『桃鉄 金融版』ができるなら,加えてほしい要素」を話し合うことに。「桃鉄 教育版」はプレイ年数が少ないので,現金を消費せずため込むことが有利になりやすい。経済を学ぶにはどういった機能があれば有効となるかアイデアを出し合い,以下の機能や仕組みについて議論された。
- 物件への投資額が多いプレイヤーや,最も多く利回りを得たプレイヤーの表彰
- 投資の仕組みを理解するため,融資を受けて資金調達をする仕組みを作る
- 物件購入や投資でマップ上の駅のイラストが豪華なるといった形で,納税が街の発展につながることを分かりやすく視覚情報として伝える
- 今後を見据えた,仮想通貨やNFTなどで利益を得るシステムの追加
最後に質疑応答が行われた。ここでは来場者から主に以下の4つの質問と要望があがり,正頭氏と岡村氏がそれに回答した。
- ロイロノートなど,一部地域で利用されている授業支援クラウドシステムに対応しているのか
- 学校以外のフリースクールや個人といった教育現場ではどのように使用できるのか
- どのように学習教材として使ったか,情報共有できる場をネット上に設けてほしい
- 機能追加の要望(駅数の追加,その土地の歴史上の人物が登場する要素,算数の授業で使えるように決算画面を隠す機能など)
それらの質問と要望に岡村氏は「提供を始めたからと言って,それが『桃鉄 教育版』の開発終了だとは思っていない。提供開始以降も定期的なアップデートを行う」と,「桃鉄 教育版」が長いスパンで取り組んでいくプロジェクトである旨を明かした。
今回あがった要望についても,「まずは万全のサービスを提供できるようになってから。この場で確約できるものではなありませんが」と前置きしつつ,対応を検討しているとのこと。また,こういった意見や要望を受け付ける場所を,公式サイトに用意する予定ということだった。
正頭氏は,3つめの「情報共有できる場をネット上に設けてほしい」について「情報交換できる場は絶対に必要。それをどういう形で用意するのがベストかは(KONAMIとともに)考えている最中」と説明した。一方的に要望があげられる場ではなく,議論できる場にするため,慎重に取り組んでいるようだ。
最後に正頭氏は「先生たちのクリエィティビティが発揮できるような仕組みを作っていきたい。『桃鉄』という素材を先生方がいろいろな形で調理し,日本の教育は本当はすごいぞということを世界に発信していきたい」と述べ,セミナーを締めくくった。
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- 関連タイトル:
桃太郎電鉄 〜昭和 平成 令和も定番!〜
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