インタビュー
1.5周年だし「プロセカ」2DMVの作られ方インタビュー2nd。Colorful Palette 矢野優希氏のお話 and クリエイター陣の感想コメも!
という主張を盾に,2022年3月30日にサービス1.5周年を迎えた,セガ×Colorful PaletteのiOS / Android向けゲーム「プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク」(以下プロセカ)について,半年ぶりに“2DMVの制作話 2nd”を聞きにいった。
あらためて,2DMVとは作中の一部楽曲に使用されている映像のことで,プロセカのオリジナルユニットやバーチャル・シンガーが質感豊かにモデリングされた3Dモデル表現ではなく,外部の協力クリエイターがイラストを仕立て,楽曲とともに動画に仕上げたミュージックビデオを指す。
界隈的には,もはや伝統芸能な映像コンテンツである。
話をうかがってきたのは,1周年のときはセガの大坪鉄弥氏だったので,本日はもう片っぽ。開発・運営の中核を担うColorful Paletteで,プロモーションディレクターを務めている矢野優希氏。
さらに今回は“クリエイター陣の感想コメント”付きだ。
1周年だし「プロセカ」2DMVの作られ方インタビュー。セガ×初音ミクを長年支える大坪鉄弥氏に,制作の流れを教えてもらおう
1周年だし,プロセカの2DMVの話もイイよね? スマホゲーム「プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク」の目玉は高品質な3DMVだが,一部楽曲の2DMVも凝ってるよね――という話を,セガの大坪鉄弥氏に聞きにいった。
「プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク」公式サイト
「プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク」ダウンロードページ
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第2弾のお相手はカラパレ!
4Gamer:
本日は2DMVのお話第2弾,よろしくお願いします。
まず,矢野さんはプロセカでどんなお仕事をしているのでしょう。
矢野優希氏(以下,矢野氏):
Colorful Paletteでプロモーションディレクターを務めています,矢野優希です。私は他メンバーとともに2DMVの進行管理を担当しつつ,基本はプロモーションチーム全体のディレクションをしています。
4Gamer:
ディレクター自体は志望しての役職で?
矢野氏:
志望していたわけではないです。
以前から別のプロダクトでプロモーションプランナーをやっていたので,プロセカにも当初は同じ役割として参加したのですが……いつの間にかディレクターにもなっていて(笑)。
4Gamer:
気付けばディレクター。いい響きです。
さて,これまで御社との縁がなかったもので,あらためてなのですが,Colorful Paletteはプロセカのなにを担当しているのでしょう。
矢野氏:
弊社はプロセカの開発・運営をメインで担っています。ゲーム全体の運営計画やイベント企画など,基本的なサービス面は私どもの担当です。
プロモーションに関しても弊社主導で行わせてもらうことが多いのですが,一方でセガさんは楽曲・3Dモデル・MV制作を主導しており,ゲーム外のPR施策なども一緒に担当していただいております。
4Gamer:
では再度あらためて,プロセカの「2DMV」とはなんなのでしょう。
矢野氏:
プロセカのオリジナルユニットやバーチャル・シンガーを,ゲーム内のリアルタイムレンダリングではなく,動画で描いているミュージックビデオです。ゲーム内の実装楽曲を使い,外部のクリエイターさんたちと一緒に映像制作をし,ゲーム内外で公開させていただいています。
4Gamer:
そうして作る,2DMVの魅力はなんでしょうか。
矢野氏:
一言でまとめるなら,「さまざまなクリエイターさんの手によってプロセカが表現される」ってところですね。
バーチャル・シンガー楽曲は,曲が持つ物語性などを動画表現とともに楽しむ文化が根付いているので,その楽しさを知っている人はもちろん,プロセカで初めて触れる人たちにもそういった魅力を伝えたいと,これまで取り組んできました。
4Gamer:
初音ミクの登場当初は,楽曲に静止絵に歌詞が基本アセットでしたが,1年,2年と経つごとに「動画」になっていったんですよね。
矢野氏:
プロセカでは2DMVと表記していますが,つまりそういうことだと思います。私たちは多くの方々がそうやって楽しみ,積み重ねてきた文化のうえでプロセカを提供しているので,この作品のコンセプトとしても,界隈へのリスペクトとしても,2DMV制作は大事な施策となります。
4Gamer:
内制ではない,外部協力の制作は労力ではありませんか。
矢野氏:
いえ,以前セガさんのインタビューで大坪さんもお話しされていましたが,基本的にはクリエイターさんの持ち味を最大限活かして制作いただきたいので,弊社もキャラクター性や世界観を守ることにはもちろん努めますが,進行管理としての業務の苦労はあっても,いわゆるクリエイティブなディレクションに労力がかかっている印象はありません。
私のお仕事も,出来上がったものがファンの皆さんにとって,そしてプロセカとして良いかどうか。その判断が主となります。
4Gamer:
なら,さっそくそこのお話を聞きましょう。
5つの2DMV。その裏話を聞いていこう
4Gamer:
ここから,事前にピックアップした“プロセカユニットの計5楽曲”にまつわるエピソードを聞かせてもらいます。
矢野氏:
はい,分かりました。
■1曲目:「恋愛裁判」
MORE MORE JUMP!
4Gamer:
まずは,モモジャンの「恋愛裁判」です。
こちらは“初めて”があった2DMVとのことで。
矢野氏:
「恋愛裁判」は,イラストレーターさんに初めて絵コンテ制作をしていただいた楽曲でした。この曲では原曲のような物語性があってもいいかもしれないと思ったので,原曲イラストレーターのたまさんと相談し,プロセカ用に絵コンテから作っていただいたんです。
4Gamer:
たしかに。凝った作りなのが一目で分かる作品です。
矢野氏:
前提として,2DMV制作は「この曲はとくに凝って作ろう」というやり方はいっさいしておらず,原曲の雰囲気を大切にした制作イメージと注意事項だけをクリエイターさんたちに共有し,あとはクリエイターさんの作風を活かして制作いただく,といったスタンスです。
そのうえでこの曲は,浮気した男性を女性が裁判するという刺激的な内容が魅力なのです……が,「そのままモモジャンを投影するだけだと,世界観がそぐわなくてファンをガッカリさせるかも」と悩んでいて,イラストを担当してくださることが決まった,たまさんに相談したんです。
4Gamer:
歌詞だけ見ると,ワードがなかなか物騒ですしねー。
矢野氏:
そうした相談の結果,原曲の魅力を生かしつつ,モモジャンらしい表現を目指して,たまさんに絵コンテを描いていただけることになりました。動画のコンセプトになった「モモジャンが演じてる風のイメージ」というのも,たまさんからいただいたアイデアです。おかげでモモジャンらしい物語性がありつつ,MVな雰囲気を出すことができました。
私はあくまでプランナーなので,「こんな風にしたいのですが」と方向性をご相談するのですが,たまさんから逆にモモジャンらしさのアイデアをいくつも出してもらえて,大変ありがたかったのを覚えています。
4Gamer:
絵って,想像できない人はとことん想像できないんですよね。
私みたいに。
矢野氏:
そうなんですよ(笑)! 私自身,イラストや動画制作の経験があるわけではないので,プロセカらしさを汲んで制作いただいているクリエイターさんたちにはいつも感謝しています。
4Gamer:
歌詞の意味合いを直接的に表現するのも,難しそうです。
矢野氏:
「恋愛裁判」だけの話ではありませんが,ボカロ楽曲は刺激的なワードや世界観が魅力となっている楽曲も少なくないと思っています。でも,プロセカのキャラクターたちが楽曲に合わせてどういったパフォーマンスをしているのかは,繊細に想像する必要があります。
あらかじめキャラクターとして守っていただきたい表現を提示したうえで,いかにプロセカらしく描いてもらえるか。そこが私たち2DMV制作の最初のお仕事ですね。
4Gamer:
ファンの反響もすごいですよね。今日お話を聞く全曲そうですが。
矢野氏:
すべてはクリエイターさんたちのおかげです。
「恋愛裁判」も,ストーリーチックな流れを存分に出してもらえて,ファンの皆さんにも喜んでいただけてなによりでした。
4Gamer:
「恋愛裁判」はとくに,モモジャンの背景と重ねて「エモいぃ!」といったコメントが多々見られましたが。
2DMVはストーリーの進行度を反映したりもするのでしょうか。
矢野氏:
加味はしますが,本編や背景を出しすぎると2DMVに続き物のような連続性が生まれてしまいますし,新規の方々に「モモジャンってこうなの?」と違和感を与えかねないので,あまり出さないようにしています。意識はしていますが,完全に当てはめはしません。
ただ,イベントの書き下ろし楽曲についてはストーリー性を押し出すものなので,あくまで原曲がある際の2DMV制作の話ですね。
4Gamer:
ああ,そういえば。セガの大坪さんは書き下ろし楽曲の2DMV担当でしたが,矢野さんは原曲がある楽曲の担当なんですか?
矢野氏:
Vivid BAD SQUADの「シネマ」や,25時、ナイトコードで。の「ジャックポットサッドガール」など,描き下ろし楽曲もときどき担当してきましたが,基本はそうです。
■クリエイターコメント
■2曲目:「僕らまだアンダーグラウンド」
Leo/need
4Gamer:
続いては,レオニの「僕らまだアンダーグラウンド」です。
こちらは“想像”を越えた2DMVとのことで。
矢野氏:
こちらは最近公開したばかりの2DMV(※)となりますが,初めてフルアニメーションで制作された映像になります。
※インタビュー実施日は2022年3月7日。2DMV公開日は3月4日
4Gamer:
こちらの制作の経緯については。
矢野氏:
アニメーションは津田さんに制作していただきましたが,最初の打ち合わせで「すべてアニメにするのは難しいかもしれません」と聞いていたので,私もそれを重々承知のうえでご依頼させていただいたのですが。
まさかここまで動かしていただけるなんてと驚きまして。
4Gamer:
「すごい動く」な映像はこれまでもいくつかあれど,この曲の2DMVはそこのところ,完全にアニメですもんね。
矢野氏:
アニメーションMVの担当は初めてだったのもあり,プロセカとして拾ってほしい要素やMVの方向性の相談はさせていただきつつ,字コンテやVコン(※)の際にキャラクター感のご調整はお願いしていました。
ただ,津田さんももとからプロセカを遊んでくださっていたようで,作業自体はスムーズに進行することができました。
※字コンテ:どのような映像を撮影するのかの文字による指示書
※Vコン:ビデオコンテ。静止画の絵コンテをつなげて再生する映像
4Gamer:
曲とアニメの合わせも気持ちいいですよね。
矢野氏:
はい。ラストのバンド演奏もきっちり音ハメしてくれているんです。
この曲については,歌詞の解釈や荒廃した世界観などをイラストだけで表現するのは難しいかもしれないと思っていて,またEveさんがこれまで公開されている原曲MVがどれもアニメ仕様だったのもあり,セガさんとクリプトンさん(クリプトン・フューチャー・メディア)の3社で相談したんです。そのなかで「津田さんならどうか」とご提案いただけて,アニメーションMVの制作に一度挑戦してみようと思いました。
4Gamer:
相談相手が心強すぎる。
矢野氏:
個人的に,津田さんがすりぃさんの書き下ろし楽曲「限りなく灰色へ」のバーチャル・シンガーver.でアニメーションMVを作られていたのは知っていたので,すぐにピンときて進めたところ,最初にあがってきたコンテの時点ですでに想像を超えており,本当にすばらしい2DMVを作っていただけました。それと背景はNZKさんが担当していて,これもまた曲とレオニにマッチした,絶妙な世界観を表現してくれています。
4Gamer:
原曲リスペクトの範囲というのは,歌詞や曲調だけではなくて,「どう公開された楽曲なのか」も関わってくるんですね。
矢野氏:
そうですね。でないとクリエイターさんだけでなく,その曲を好きに思っている人たちの期待を裏切ることにもなりかねませんので。
ですから発注段階で,ご依頼する方々がどんなものを作られていて,どんな作風なのか。きちんと調べてからお願いしています。
4Gamer:
「タイアップ楽曲だしアニメで」といった意図はあったんですか。
矢野氏:
なかったですね。2DMVはまず「原曲リスペクト」,それから「プロセカらしさの表現」,出来上がったものが「ファンの皆さんが喜んでいただけるかどうか」を大切にしています。
ですから,次はアニメにしたいとか,この人にやってほしいとか,こちらの意図を過剰に先行させることはいっさいないですし,それは「僕らまだアンダーグラウンド」も同様です。
4Gamer:
ちょっと思ったのが,“プロセカらしさ”ってとても広くないですか? バーチャル・シンガーはあらゆる面で「遊びの余地」が広大だから,どこまでがプロセカらしさなのかを見極めるのも難しそうな気が。
矢野氏:
設定資料も含めてボーダーラインは設けていますが,見極めが難しいのはたしかです。
そうしたときはまず,チーム内で「この2DMVは本当に原曲ファンに良いと思ってもらえるかどうか」から議論することが多いですね。
■クリエイターコメント
■3曲目:「乙女解剖」
25時、ナイトコードで。
4Gamer:
お次は,ニーゴの「乙女解剖」です。
こちらは“お願い”した2DMVとのことで。
矢野氏:
ほかのもお願いばっかりなんですけどね(笑)。
「乙女解剖」も,原曲リスペクトとプロセカらしさの両立から考えていった2DMVですが……どのクリエイターさんにお願いすればいいか,そしてどう表現すればらしさになるのか。少し難しかった一件でした。
4Gamer:
それで,いかに解決されたと。
矢野氏:
ちょうどその時期,「ジャックポットサッドガール」の2DMVを制作中で,「乙女解剖」の原曲も手がけたDECO*27さんのクリエイターチーム「OTOIRO」さんに協力をお願いしていたのもあり,ここは誰よりも曲のことを知っている方々にと,相談を持ちかけたんです。
「恋愛裁判」でたまさんに相談したときもそうでしたが,若干ためらう気持ちもあったんですけどね。要するに「一度作った作品を,もう一度プロセカで再解釈してください」と言っているのと同じですので……。
4Gamer:
ああ,人によっては複雑そうな。
矢野氏:
ええ。でも,OTOIROさんは「ぜんぜん大丈夫です」と案件ごと引き受けてくださいまして。
それに「乙女解剖」は曲的にも,なんて言うんでしょう,こう。
4Gamer:
攻めた感じ的な。
矢野氏:
そうですね。こちらも原曲をそのままにプロセカに当てはめるだけだと,ニーゴの印象がズレてしまいそうでした。
けれど,そこもOTOIROさんは歩み寄ってくださり,akkaさんがコンセプトアートまで用意してイメージを共有してくれました。その結果が,現在公開されているステキな2DMVとなります。
4Gamer:
なんていうか,矢野さんの言う2DMV制作は要点だけだと「クリエイターに発注するだけ」に聞こえていましたが,そのあたり。
映像の世界観はクリエイター任せで,よき雰囲気にしてもらっていると言いつつも,打ち合わせの出だしで「これをこんな感じでプロセカっぽくしてください」と共有するイメージは,矢野さんたちが自ら考えて,伝えなければならないんですよね? プランナーらしいアイデアマンでありつつ,クリエイター的な視点もないといけないみたいな。
矢野氏:
実際に楽曲やイラスト,映像を作ってくださるクリエイターさんたちとはまるで違うものの,そういう面はあります。私は界隈で活躍されているクリエイターさんとは違いプランナーですので,発想をひねり出すには「楽曲を何十回,何百回と聴く」必要があります。
その曲の作りや雰囲気,どんな構成になっていて,ファンの皆さんからどんな感想を受けているのか。ときには原曲から派生した二次創作の動画なども拝見して,ほかの人がどう解釈しているのかも確認します。考えることがたくさんあって,いつも頭を捻っています(笑)。
4Gamer:
世間で言われる進行管理よりは,創作性が強そうですね。
矢野氏:
結局,2DMV制作スタッフが「原曲をリスペクト」し「プロセカらしさ」を保っていくには,スケジュールを管理して進行させるだけではなく,自分たちでそれを理解していないといけませんから。
制作段階の確認作業でも,これは原曲にとっていいか,プロセカにとっていいか,それを判断するための力は求められます。それを創作とまで言うと大げさですが,できる限り考えるようにはしてきました。
4Gamer:
それで,「乙女解剖」はとくに悩んだと。
矢野氏:
苦しかったとまでは言いませんが,はい(笑)。
■クリエイターコメント
■4曲目:「トラフィック・ジャム」
Vivid BAD SQUAD
4Gamer:
今度は,ビビバスの「トラフィック・ジャム」です。
こちらは“チャレンジ”した2DMVとのことで。
矢野氏:
「トラフィック・ジャム」は,衣装でチャレンジしました。
これまでの2DMVでは,プロセカキャラクターにオリジナル衣装を着せていたんですが,この動画では最終的に「原曲モチーフの衣装」を着せることになり,とくにリスペクトと模倣の違いに悩んだんです。
4Gamer:
原曲衣装を着せれば,それだけでリスペクトになるのか。
答えられるかというと難しい。
矢野氏:
前例でも,原曲MVの要素を用いた衣装はあれど,パッと見で原曲衣装だと分かるほどのものはありませんでした。ただ,このときはイラスト担当のバツムラアイコさんから「原曲モチーフの衣装にしたくて」と相談され,衣装ならいきすぎたものとは言えないかなと判断し,煮ル果実さん含め関係各位にしっかりご相談をしつつ,チャレンジしてもらいました。
映像公開時にどのような反応がくるのか,ずっとドキドキでしたね。
4Gamer:
悪いと思う人が多いとは思わないものの,線引きの問題ですしね。
矢野氏:
はい。原曲に登場する2人の衣装を着せたことで,一部の人たちに「これはやめてほしかった」と思われてしまうと,原曲を好きでいるファンの方に申し訳ないし,悲しいですから。
結果的に好評を受けることができて,胸をなで下ろす気分でしたが,私たちの2DMVのせいで嫌な思いをする人がいないかどうかは,こういった一歩踏み込んだチャレンジをするうえで慎重に検討しています。
4Gamer:
イラスト制作時はどんな雰囲気だったのでしょう。
矢野氏:
バツムラアイコさんからは二通りの衣装が挙げられまして,片方はあくまでビビバスの衣装を基調としたイメージの衣装,もう片方が原曲に寄せた衣装でした。
前者はこれまでどおりで,後者が本映像のたたき台でしたが,細部まで似せたわけではなく,モチーフであると分かりながらもビビバスらしさのあるデザインに仕上げくださっていたので,この衣装なら受け入れてもらえるのではないかなと判断したんです。
4Gamer:
今どきのあらゆるコンテンツ制作者に言えるかもしれませんが。他者がどう反応するかは,マジで分かりませんものね。
私はいいと思うけど。私はよくないと思うけど。怖いですよねえ。
矢野氏:
そうですね(笑)。
4Gamer:
矢野さん自身,ユーザー目線は保てているのでしょうか?
そういうメンタルの維持は,立場の変化で崩れやすくもありますが。
矢野氏:
自己評価は難しいですが,私自身ずっとボカロ曲を聴いてきましたし,近いところには立てていると思っています。
ユーザー目線を保つために,プロセカはリリース時からずっと遊んでいますし,自分の感覚とユーザーさんの感覚との答え合わせをするために,SNSなどでの反響も確認しています。
■クリエイターコメント
■5曲目:「チュルリラ・チュルリラ・ダッダッダ!」
ワンダーランズ×ショウタイム
4Gamer:
最後は,ワンダショの「チュルリラチュルリラダッダッダ」です。
こちらは“気をつけた”2DMVとのことですが。
矢野氏:
この楽曲はもともとの世界観の個性が強く,そこにプロセカのキャラクターたちが映像としてどう混ざりあえばいいのかに懸念があったため,「原曲に寄せすぎないよう」気をつけた2DMVとなります。
4Gamer:
原曲からしてコミカルなコミック調の演出の反面,直接的に扱うと歌詞の過激性がなかなかですものね。まあ,ほかの曲もですが。
矢野氏:
過激な表現はこの曲の魅力なので損なうようなことはすべきではなく,そのうえで,ワンダショのキャラクターたちをどうすり合わせ,プロセカらしい映像に落とし込むか……というところは悩みました(笑)。
イラストのチェリ子さん,動画のみず希さんにお願いしたところ,全体的にプロセカでは厳しかった表現を和らげて,ワンダショらしく明るくポップな雰囲気に見せられるよう,創意工夫してワンダショらしく制作してくださりました。こちら側の手直しもほとんどなかったので,お二方にお任せしてよかったです。
4Gamer:
言いきるのは難しそうですが,プロセカに関わっているクリエイター陣はみんなプロセカが好き,あるいは知っているんですかね。
矢野氏:
ありがたいことに,把握していただけていることが多いです。ここまでに話した5楽曲も含め,イラストも動画もプロセカキャラクターの個性や関係性が反映されているものばかりですので。ちょっとしたところにメインストーリーのネタが仕込まれていたりも……(笑)。
それに,私たちはイメージの共有と設定資料的な注意点こそお伝えしますが,どうご自身の個性を発揮されて,どうプロセカの世界観を形作ってくれるかは最大限お任せしたい気持ちがありますし,詳しく説明せずともその人なりの解釈を出してくれてきたこれまでの数々の2DMVが,その証拠になっているかなと思います。
4Gamer:
ポンッと思い浮かんだ「クリエイター気質じゃなくてもコンテンツ制作に関われる」といった就活応援企画のような話にそれたいのですが。
矢野さんはこれまで,創作経験はあるのでしょうか?
矢野氏:
全然,したことなかったです(笑)。
このお仕事をするまでは,私は完全に「見る側」の人間で,学生時代はニコニコ動画のランキングをずっと見て騒いでいるだけの子でした。
4Gamer:
プロセカに関わったのはいつごろでしょう。
矢野氏:
プロセカのリリース前,プロモーションを手伝ってほしいと近藤(※)から言われ,ジョインしました。当初はプロモーションチームも,私ともう1人しかいなかったので「やるしかない!」って時期でしたね。
おかげさまで,プロセカはたくさんの方々に支持していただくことができて,そのうちチームも増員していきましたが,最初に話したように,気付けば2DMV制作もやることになっていてと。
※近藤裕一郎氏。Colorful Palette 代表取締役社長。本日の主題であるプロセカのプロデューサー
4Gamer:
つまり古参。
矢野氏:
古参はやめてください(笑)!
4Gamer:
一例として,矢野さん以外のスタッフは作り方も違うんですか。
矢野氏:
細かい部分で「どう楽曲を表現するのか」の差は出ているかもしれませんが,制作側の担当者によって映像の作りに差が出てしまうのは避けたく思っているので,制作物はきちんとチームで確認して,プロセカの2DMVとして公開できるかを確認してからお届けしています。
■クリエイターコメント
音ゲーで対人戦に挑む?
4Gamer:
それでは話の一段落として,PR的なお知らせはあるでしょうか。
矢野氏:
3月30日の1.5周年記念日から,ハチさんの「マトリョシカ」「ドーナツホール」「砂の惑星」をはじめ,SAM(samfree)さんの「ルカルカ★ナイトフィーバー」,OSTER projectさんの「ピアノ×フォルテ×スキャンダル」,yanagiさんの「千年の独奏歌」が続けて配信されます。
4Gamer:
いろんな方面に失礼な話,採用楽曲がなくなる心配はないですか?
矢野氏:
しばらくはありません。というのもご存じのとおり,ボカロ楽曲は本当にたくさんの作品が存在していますし,日々なにかしらの新曲が公開されているので,むしろファンの皆さまからしても実装してほしい曲が多い状況だと思っています。
それに,プロセカでボカロシーンに触れた若い世代の方々も少なくないようですので,今後はそういった方々が創作にも触れて,さらに活性化していってくれることを願っています。
4Gamer:
そのあたり,とても気になっていることでして。
例えば,私は初音ミクが夏の終わりに登場した十数年前。ニコニコ動画で新しい技術を面白おかしく使う投稿者たちによって1年くらいゲラゲラと笑わせてもらい,それから今につながるようなアーティスティックな方向性に魅せられていってと,足腰がつらくなってきた世代らしい体験が先にあったのですが。そうした接点を持たずにプロセカから興味を持っていった若年層は,いったいどこに引かれているのでしょう。
矢野氏:
ボカロ楽曲はそれ自体,今の若い世代の方々にも刺さることにまったく違和感はありませんが,一方でプロセカは「オリジナルのキャラクターと世界観を用意し,無数のボカロ曲を少しでも聴いてもらえやすいようにユニットを通してカテゴライズしたこと」が,最大の導入口になっているのではないかと考えています。“若い人たちにボカロシーンに触れてもらいたい”というのはプロセカの願いでしたので,本作に携わる一員としては喜ばしい限りです。
ただ,そもそもYouTubeなどでボカロ曲の視聴数は依然多いこともあり,私たちが想像しているよりも,もともとの興味関心が強いかと思われます。私にせよ,プロモーションの企画を構想しているときに毎回考えていますね。若いときの自分はどうやってボカロを好きになったかって。
4Gamer:
なるほど。あのころの自分が“いかにしてボカロにハマったか”を忘れないでいられたらいいでしょうね。中学生のまま大人になった気がするのに,こういうものだけ落としてる人体は不思議です。
なんて不景気な話はさておき,アップデート情報はありますか。
矢野氏:
ゲーム面に関しても大型アップデートを予定していて,とくに大きいのはリズムゲームに「ランクマッチ」が追加されることです。
これはプレイヤーさん同士の1vs.1のスコアマッチで,ランクマッチに勝利すると自身のレートがあがり,レートをあげるとより上位のランクに昇格できる,リズムゲーム以外ではよく見かけるシステムですね。
4Gamer:
ほんと,リズムゲームではかなり珍しい部類では?
矢野氏:
リズムゲーム市場で初ではないかもしれませんが,この規模の運営型リズムゲームでは非常に珍しいシステムだと思います。プロセカでは賞金制大会なども開催しているので,リズムゲームの腕前を突き詰めたい人も多く,そういった競技性を意識した機能と言えます。
4Gamer:
スコア勝負の側面を持つゲームは多いですが,システムとして対人戦を取り入れるのは,本当にブレイクスルーになり得る気がします。
矢野氏:
ランクマッチは音ゲーの腕に自信のある方々に,ぜひ積極的にプレイいただきたいと思います。もし音ゲーに自信がなくても,ご自身と近いレートの相手とマッチングできますので,対戦を重ねていくなかで少しずつレートを高めていっていただければ幸いです。
4Gamer:
それでは本日の締めに向けて,あらためて。
プロセカにおける,クリエイターの存在とはなんでしょう。
矢野氏:
ボカロシーンにおけるクリエイターさんたちは,これまでの文化を担ってきた人たちであり,またこれからも世界をさらに広げてくださる人たちだと考えています。
それに作る側のみならず,楽曲やイラストや動画を楽しむ皆さんがいたからこそ,このゲームは生まれることができました。
4Gamer:
その文脈のなかにいる,2DMV制作の必要性とはなんでしょう。
矢野氏:
私たちはたくさんの楽曲をより多く届けられるよう,プロセカなりの世界観をもっと楽しんでいただけるよう,ファンの皆さんとクリエイターの方々をつなげるための橋渡しをしています。
クリエイターさんには安心して創作してもらえるよう,引き続きサポートに努めますし,その人の作家性を出していただくべく,過度な制約はあえて課しません。これはプロジェクト全体で共有すべき思想だと考えています。そのうえで,私たちが作る映像が誰かを嫌な気持ちにさせず,1人でも多くの人に楽しんでもらえるよう,日々精進していきます。
4Gamer:
ありがとうございます。
それでは最後に,プロセカのファンに向けて一言を。
矢野氏:
2DMVは,プロセカやボカロ曲を楽しんでくださっている皆さんに,もっと喜んでいただけるようにと進めてきた施策です。これからも見ていただけるようでしたら,とてもうれしく思います。1.5周年を迎えたプロセカを,今後も楽しんで遊んでいただけるとうれしいです!
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