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インタビュー

[インタビュー]“まほオケ”の編曲では,原曲の良さを残しつつ全曲に新たな展開をプラス!「魔法使いの約束」音楽の作・編曲の藤岡竜輔氏に聞く

 colyの「魔法使いの約束」iOS / Android。以下,まほやく)の音楽を,オーケストラの生演奏で楽しめるコンサート「魔法使いの約束 オーケストラコンサート―Musica Memoria―」が,2023年12月15日に開催された。

写真左上より田ノ岡 三郎さん(アコーディオン),屋嘉一志さん(サックス),宮本“ブータン”知聡さん(ドラム),藤岡竜輔さん(作編曲・オーケストレーション),穴沢弘慶さん(オーケストレーション)
写真左下より河本啓佑さん(MC),和田一樹さん(指揮),三浦勝之さん(MC),宮本貴奈さん(ピアノ),岡 聡志さん(ギター)
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 本公演の模様は,+(イープラス)streaming+で2024年1月15日まで,夜の部のアーカイブ配信(チケット価格:税込3800円/2024年1月15日21:00まで販売)が実施されているほか,Blu-ray化も決定し予約受付も始まっている。

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 本コンサートの昼の部の終了後に,「まほやく」の楽曲制作,編曲を手掛けるノイジークロークの藤岡竜輔氏に,インタビューを行う機会を得た。本稿ではオーケストラコンサートの感想や,「まほやく」の音楽制作にかける想いなど,貴重なお話をたっぷりとお届けしよう。これを読めば,もう一度“まほオケ”の世界に浸りたくなること請け合いだ。


賢者の思い出に寄り添う
セットリスト制作


4Gamer:
 お時間いただきありがとうございます。昼の部をご覧になった感想をお願いします。

藤岡竜輔氏(以下,藤岡氏):
 感動が1番大きいです。自分がメインで関わっている作品で,オーケストラコンサートをやっていただくのは,初めての経験でした。弊社ノイジークロークとしましても,代表取締役CEOの坂本英城に続いて,2例目でしょうか,それくらい貴重な体験です。

 今回はオーケストレーション(オーケストラ用の編曲)も担当していて,レコーディング用のアレンジはよくするのですが,演奏用のアレンジはまた違うので,難しいなと探り探りな部分もありました。無事に開催されて,本当によかったなと思っています。

4Gamer:
 来場した賢者(ファン)の皆さんが,演奏が始まると一心に聴き入っている姿も印象的でした。

藤岡氏:
 そうですね。物音もほとんどないほど,皆さん真剣に聴いてくださって,こちらとしてもうれしかったです。

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4Gamer:
 藤岡さんは,コンサートのセットリストにも関わられたのでしょうか。

藤岡氏:
 コンサート全体の構成として,ゆったりした前半から入って,中盤に盛り上がりをつけ,後半はしっとり終わる展開にしたいと考え,弊社内やcolyさんと相談して決めました。

4Gamer:
 コンサートを鑑賞させていただいて,世界観を表す曲や主題歌から始まり,物語の世界を巡っているように感じました。

藤岡氏:
 曲順に,ストーリーを持たせたいなと思っていました。ゆったりしたものなど同じ曲調が固まらないように,バランスよく配置したいという気持ちはあるのですが,そうするとプレイヤーの皆さんがゲーム内で聴くもの,イメージするものとずれてしまうなと。そのため全体の流れを,意識しています。

4Gamer:
 皆さん曲は知っていても,題名を意識せず遊んでいる人もいるというのが,ゲーム音楽の面白さであり,難しいポイントですよね。

藤岡氏:
 ゲーム音楽の作曲家をしていますが,ゲーム音楽とは背景音楽で,作品とセットで存在するものだと考えています。コンテンツとして,今回のオーケストラコンサートのように,ゲーム内の音楽だけが取り上げられることは本当に稀なことです。

 さらに言えば,BGMはプレイ環境によってはオフにする人もいますし,僕自身もよくゲームを遊びますが,時間帯によっては小さくすることもあります。そんななかでセットリストや曲名を見てピンとこなくても,演奏を聴いたら「あった,あった,こんな曲」と場面などを思い出して,楽しんでもらえたらいいなと思いました。

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4Gamer:
 藤岡さんの狙い通り,曲を聴いていろいろな思い出が浮かんできました。音楽は,記憶を呼び起こしてくれるゲーム体験において重要な要素だなと感じます。

藤岡氏:
 ゲームはプレイヤーキャラを通して,物語を仮想体験することが醍醐味だと思っています。クリアまでの道筋は似ているんでしょうが,プレイする人の感性や考え方,過去の経験によってストーリーの感じ方が違います。同じように1つの曲でも,楽しい思い出がある人もいれば,ネガティブなイメージがある人もいるのが,ゲーム音楽,背景音楽の面白い部分だと思います。


王道になり過ぎない,
浮遊感のある「まほやく」の音楽


4Gamer:
 「まほやく」の音楽を作曲,編曲される際に,意識していることはありますか。

藤岡氏:
 制作の1番最初にお話をいただいたときに,中世の騎士物語系のファンタジーという印象を受けたんです。ただ,幅広い層が遊ぶ作品になることを想定して,王道ファンタジーのような硬派な音楽になりすぎると,絵柄や物語に合わないだろうなと考えました。全体を通して必ずピアノを使おうというのを決め,オーケストラチックなんだけど,そこにより過ぎないライトな感じを目指しています。

4Gamer:
 確かに,印象的なピアノのメロディーがある楽曲が多いですよね。また,いい意味でキレイなだけでなく,危うさや,怪しさがあるのも「まほやく」の音楽の魅力だなと感じています。

藤岡氏:
 ピアノはたくさんの音が出せる楽器なので,細かい和音も含めると,2小節ごとに転調しているような大変な楽譜になったりしますけど(笑)。。

 ストレートにメロディーがある部分はしっかりと活かしながらも,和声は掴めそうな,でも掴めなさそうな,浮遊感を持たせているといいますか。この浮遊感を入れているのは,先ほど話した王道ファンタジー感をぼかす意味もあります。

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4Gamer:
 本作には雰囲気が異なる5つの国が登場します。それぞれの国の曲に対する想いを教えてください。

藤岡氏:
 国のテーマなので,それぞれに個性を持たせなければいけないと思いました。しかし,音楽のジャンルで分けるのは難しいと感じ,共通の楽器であるピアノをベースに,各国のイメージに近い音を持つ楽器を使用しました。

 例えばピッコロなど笛系が主役だったり,ブラスバンドがあったり,木管楽器が入っていたりですね。また,資料を読んで「中央の国」は規則正しい,正義感がある魔法使いが多いからマーチ系で,ただし強く出過ぎないように,といった感じでイメージを膨らませました。

4Gamer:
 オーケストラの演奏でも,各国の魔法使いたちのテーマは,特定の楽器が目立つパートがあるなと感じました。

藤岡氏:
 そこは意識しました。BGMは音量を自由に調整できますし,プレイ時にはキャストのボイスなども加わります。さらにプレイヤーの皆さんは,最初から最後まで聴いていられるわけではありません。でも僕も経験があるのですが,1つのフレーズだけ妙に覚えていることってあるじゃないですか。

 「まほやく」でも,「これが流れたらこの曲だ」と思えるフックになるフレーズ,パートを必ず1つ入れるようにしています。それが似ていてはいけないので,フックになるパートは各国で違う楽器を使用しています。

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ゲーム音楽だからこそできる,
挑戦的な編成も!


4Gamer:
 オーケストラ用のアレンジで注意した点や難しかったところを教えてください。

藤岡氏:
 最初は生演奏を想定しておらず,音楽制作ソフトでの打ち込みでの制作でした。そのため「演奏しますよ」って言われたときに,うれしいと同時に「人間が演奏できないってことはないよな……?」と不安がよぎったんです(笑)。

4Gamer:
 どんなに優れた演奏家でも,技術的に不可能なことはありますからね(笑)。

藤岡氏:
 そうなんですよ。または譜面に起こしたときに,音符の数がおかしくて,とても演奏家さんにお見せできないとか(笑)。そんな心配事が浮かんだのですが,実際に起こしてみたら大きな問題もなく,アレンジをするのにも余裕がありました。

 ただ,もう1つ問題があって,BGMとして制作したので,基本的には1分尺の短い曲ばかりなんです。演奏会で聴くときに1分は短すぎるし,単純な2ループにしても,長くはないし同じものを繰り返しても面白くはないですよね。

 そこで1周目と2周目でアレンジを変えたり,2回とも同じ演奏なんだけど合間に違う展開を入れたり,そういう工夫を全部の曲に施しました。原曲を好きでいてくださる皆さんにとって,急に新しい展開,アレンジが入るので,どんな風に受け取っていただけるんだろうかと不安もありましたが,取ってつけたようなアレンジは乱暴ですし,ファンの皆さんにも喜ばれないだろうと思っていましたので,原曲のモチーフを残しながら,新たな展開を生み出す作業をしました。

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4Gamer:
 面白いと感じたところはどこでしょう。

藤岡氏:
 オーケストラコンサートなんですが,ソリストのアドリブ祭りがあったり,少人数の編成で演奏したり,バラエティ豊かな演奏をお見せすることができました。また,今回はお客様のなかには初めてオーケストラコンサートに参加する方もいらっしゃるだろうと考え,2時間のなかでたくさんの楽曲で浮き沈みをつけて,「もう終わったんだ」と感じていただくのがいいのかなと思ったんです。

 僕自身も鑑賞しましたが,休憩を含めて「もう2時間たったんだ」と思えたのでよかったです。クラシック音楽のイメージが強いオーケストラではありますが,いろいろなことができますよと,少し遊び心を持ってアレンジを行えたことが面白かったです。

4Gamer:
 サックスが入ったり,アコーディオンが加わったり,珍しい編成での演奏もありましたね。

藤岡氏:
 そこは,あえて目指したところです。オーケストラで一般的にイメージする管弦楽だけでなく,ほかの楽器と共演することによって,新しいタッチが生まれるといいますか。「子猫のいたずら」なんて,ピアノとアコーディオンがメインで,ほかの楽器が伴奏にまわっていて,そんな演奏を聴く機会はあまりないですよね。クラシック音楽ではなく,ゲーム音楽だからこそ,いろいろな楽器やジャンルが混じる自由な編成,新しい挑戦ができると思っています。

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4Gamer:
 今,お話に出た「子猫のいたずら」は私も大好きな曲で,こんなアレンジでくるんだと驚かされました。

藤岡氏:
 もともとは,ピアノソロくらいの気持ちで作りました。それをオーケストラアレンジすると考えたときに,全員で演奏するのも違うよなと思ったんです。原曲が好きだと言ってくださる方も多いので,そこからギリギリ逸脱しないアレンジができたかなと思っています。

4Gamer:
 とてもステキでした。そろそろまとめの質問に入らせていただきます。藤岡さんが感じる「まほやく」の印象,魅力をあらためて教えていただけますか。

藤岡氏:
 魔法の世界で,それだけ聞くとストレートな王道ファンタジーを思い浮かべます。しかし物語を読むと唯一無二の魅力があって,似た作品を探そうとしても見つからないですよね。魔法使いがメインではありますが,“賢者の魔法使い”1人,1人の背景であったり,国ごとの特徴であったり,重厚な群像劇になっています。作曲家とし関わる機会を持ち続けていますが,新しいことをさせていただいています。

4Gamer:
 最後に,ファンの皆さんにメッセージをお願いします。

藤岡氏:
 ゲーム音楽は,ゲームのなかで生きているものだと思います。そんななか今回のオーケストラコンサートのように,音楽サイドから作品に想いをはせる貴重な機会に恵まれ,僕自身も楽しかったです。

 オーケストラで楽曲を聴いたことで,「この曲なんだったっけ?」とアプリを開いたり,演奏中に思い浮かんだイベントをゲーム中で見たり,プレイにつながってくれたらいいなと思います。また音楽でのイベントができるように,これからも「まほやく」を愛し応援していただけるとうれしいです。

4Gamer:
 ありがとうございました。

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――2023年12月15日収録

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