プレイレポート
“スゴいものを見た”と思わされた「RPGタイム!〜ライトの伝説〜」プレイレポート。膨大な数のアイデアで作り込まれた世界を楽しむ贅沢な体験
本作は,小学校の放課後の時間に,ゲームクリエイターを目指す男の子,ケンタくんによる手作りのノートRPGを遊ばせてもらう……という体のゲームだ。東京ゲームショウ メディアアワードの4Gamer部門大賞など,発売前からさまざまな賞に輝くといった,話題性の高い作品だったので,タイトル名は聞いたことがあるという人も多いことだろう。と同時に,どういうゲームなのかはよく分からないという人も多いはず。
そんな本作をプレイする機会を得たので,RPGが好きで,小学生の頃にゲームブックを作ったりもしていて,おまけに名前までケンタくんとちょっと似ている筆者のレポートを読んでもらいたい。なお,今回プレイしたのはXbox Series X版だ。
「RPGタイム!〜ライトの伝説〜」公式サイト
怒涛のケンタくん劇場,開幕!
ノートと鉛筆が織りなす,無限の可能性に震えろ
ある日の,小学校の放課後。友人のケンタくんに,彼が作ったというノートRPG「ライトの伝説」で遊ばないかと誘われる。
光の城に侵攻してきた魔王デスゴッドと,その軍勢。勇者ライトはその危機を救うべく,光の城を見渡せる崖の上に降り立った……というところから物語は始まる。プレイヤー=勇者ライトがすべきことや操作方法は,ゲームマスターであるケンタくんが細かく解説してくれる。
鉛筆画風の絵は常に少し動いているので迫力満点。机のラクガキもスゴい。左上の勇者のパラメータなどはドットビーズで,HPゲージはメジャーで表現している |
マンガで進行するシーンも。読みやすい手書きの文字と温かみのある絵柄は,かつて流行した,マンガが描かれた文房具「エスパークス」シリーズを彷彿とさせる |
ここでいう「ゲームマスター」というのは,テーブルトークRPGなどでおなじみの進行管理役だ。本作はケンタくんが作った壮大なゲームブックを体験するような内容であり,画面から得られる情報だけでは足りない部分はすべてケンタくんが都度解説してくれる。
魔王の圧倒的な力により,姫はさらわれ,勇者ライトは遠くの洞窟に飛ばされてしまう。このプロローグは,マンガと人形劇スタイルで展開され,とにかくよく動く。人形は紙とストローをホチキスで留めて作られており,魔王の人形をクルッと回して勇者を吹っ飛ばすと,魔王の人形の裏側に「勇者の身を案ずる姫」のコマが描いてあるという手の込みようだ。
魔王にさらわれた姫と,それを追おうとするも,一旦遠くに離されてしまう勇者という構図は非常にベタで,小学生らしさを感じさせる内容だ。飛ばされた先の洞窟からが本当の冒険の始まりで,ケンタくんがゲームマスターとして本格的に参戦してくる。
怒涛のスクショラッシュをお届けしたが,本作はこんな感じで進み,次から次へといろんなものが飛び出してきて飽きさせない。ほぼ喋りっぱなしでプレイヤーをガイドするケンタくんのエンターテイナーっぷりに圧倒されながら,ノートに描かれた洞窟世界に没入していく。
洞窟内なのに隕石が落下してゲームオーバーになったりするあたりからその片鱗を見せていたが,その後も小学生特有の「絶対に予想がつかない超展開」の連続。ファンタジーRPGの世界観かと思いきや,唐突に戦車が出てきて,しかも戦車ごとゲーム内の電脳世界に飛ばされて,ゲーム内ゲームが始まったりする。こうやって説明していても,「お前は何を言っているんだ」と思われそうだ。
戦車に乗ったままミミズを100匹集め,モグラのお店でアイテムと交換してもらうシーンがあるのだが,このお店では,ミミズを1000匹集めると交換できるアイテムも存在する。ストーリー的には100匹で交換できる物さえあれば先へ進めるのだが,「1000匹集めたらどうなるんだ……?」と好奇心が刺激される。このように,あえて順路に逆らった寄り道要素も用意されているので,1回のプレイですべてを知り尽くすのは難しいかもしれない。
そんなこんなで洞窟を抜けると,「旅立ちの町」に到着する。この町ではライトの仲間となる者たちや,クセのある住人たちとの出会いがあり,「いかにもRPG!」な雰囲気に満ちあふれている。ケンタくんお手製のクエストリストもあるので,次に何をやるべきなのか迷うことなく進めるはずだ。
旅立ちの町からは2章となり,これでプロローグと1章が終わったことになる。ここまではプレイ時間にすると1時間半〜2時間ほどだと思うが,体感では3時間くらいのボリュームに感じられた。シーンの密度が濃いため,思わず画面に見入り,没入感が高い。
ゲームマスターであるケンタくんのガイドを常に受けながらの進行という,既存のゲームにはない体験のため,最初は休憩を入れようにも,どこで一旦中断すればいいのか分からない。
時折,自動でセーブはされているようなので,「メニューにタイトル画面に戻るコマンドとかあるかな……」と思ってメニューボタンを押したら,ケンタくんが超ノリノリでメニュー画面の解説をし始める。メニュー画面の凝りっぷりもスゴいため,「い,いや,あの,ケンタくん。俺は今,中断する方法を探していただけで……」と狼狽してしまう。
ケンタくんが黙っている時間がほとんどないと言ってもいいくらいなので,プレイヤーが「ケンタくんのメッセージ送り」に費やす時間は結構なものになる。メッセージ送りが完了しないとライトが操作できないため,プレイヤーが動きながらケンタくんの発言にも目をやれる……という感じだったら,よりスムーズにプレイできるのではとも思った。
ケンタくんとゲームを進めていると「小学生男子の無尽蔵とも思えるエネルギーに付き合う大人の疲労感」のようなものを感じる。自分が歳をとったという,あまり嬉しくないことに気付くのだが,「そうか,子供だった頃の自分の行動に付き合ってくれていた親や教師はこんな気持ちだったのか」というある種のノスタルジーを感じ,これもまた,本作がもたらす貴重な体験のひとつだと気付くのだ。
次々と襲い来る,小学生男子の大好物
加速度的に楽しくなっていくライトの冒険
中盤に入ってくると,「巨大迷路」「忍者の里」「魔女の館」といった,小学生男子が好きそうな要素が次々と出てくる。とくに巨大迷路を見たときは,このみ ひかる先生の「ぴょこたんのめいろあそび」シリーズを読んで育った世代として「興奮してきたな……」という思いが抑え切れなかった。
子供のころに迷路を描いて作ってみたことがある人なら分かってもらえると思うのだが,迷路作りというものは高いセンスを要する。こんな見開きページの大迷路ともなると,相当うまく作らないと,ゴールまでの過程で行かなくて済んでしまうエリアが出てくるのだ。全エリアをまんべんなくウロウロさせつつ,ほどよく迷わせてゴールへ導く迷路作りは本当に難しい。
一人称が「ウチ」の関西弁くのいちを出すとか,ケンタくん,その年齢でポテンシャル高すぎない……? |
忍者の里が嫌いな男子なんかいません! |
「魔女の館」は,本作のなかでも筆者が最も好きなステージだ。このステージはホラー仕立てになっており,ライトは館の入口で武器を奪われてしまう。そして魔女の手下である,恐ろしい怪人・フライマンが登場し,ことあるごとにライトに襲いかかる。つまり,戦う手段を持たないライトはフライマンから逃げ回るしかなく,ホラーゲームあるあると言ってもいい「隠れてやり過ごす」ことを主軸に進んで行くことになる。
ステージが進むごとに実感するのが,ノートに描かれたRPGというアナログ表現手法の多彩さと,キャラクターの完成度の高さだ。敵キャラでさえも,どこか憎めず,脇役キャラたちがいちいち可愛い。もしも魔女ミザリーのミニフィギュアとか発売されたら,筆者は間違いなく買ってしまう。
“見せ方”のアイデアが洪水のように押し寄せる怪作
クリアまでのプレイ時間は約8〜10時間程度で,隅々まで探索し尽くしながら進むと,15時間前後になるのではないだろうか。決して長くはないが,先に書いたように,密度の高さから体感時間が長く感じるため,プレイ時間に対する満足感は高い。
ただ,基本的な進行がリニアな点は少々気になった。本作は,次のエリアのページへ進んでしまうと,前のページには戻れないことが多い。移動可能範囲は決して広くなく,その範囲内でできることも限られている。どうすればいいかプレイヤーが迷うことは少ないだろうが,自由度は低いとも言える。
また,ゲームオーバー後,再開する前に任意で「ヒント」を見ることができるが,これが,「ヒントというよりは,ほぼ答えそのもの」なのも少し気になったところだ。
「RPGタイム!」というタイトル名ではあるが,本作はコンピュータゲームにおける一般的な意味での“RPG”ではなく,ゲームブック全盛時代の“RPG”の意味合いが強いような気がする。レベルアップ等の成長要素にしても,ほぼ,ボスを倒したときにレベルが上がるという「決まった位置」での成長であり,プレイヤーが意図的にモンスターと何度も戦って経験値を稼いだりすることはできない。ライトの武器も,ゲーム進行に応じて自動的に持ち替えていくので,お金を貯めて買い換えたりといった,プレイヤーの意志が介入する余地はない。“小学生の手作りRPG”として見れば,そういった面までフォローしていないのは当然かもしれないが……。
以上のように不満点もないわけではないが,それでも総合的には「スゴいものを見た」という衝撃が遥かに上回る。本作を作るのにどれだけの手間がかかっているか,その凄まじさ・恐ろしさが画面から伝わってくるのだ。敵も味方もステージも,愛情がなければ,ここまで作り込めない。
繰り返しになるが,本作の徹底された手描き風グラフィックスには,ただただ圧倒される。加えて,ゲームが進んでも決してワンパターンにならず,新たな展開,楽しみ方が洪水のように押し寄せてくるところは,間違いなくプレイヤーに突き刺さるだろう。学校が舞台であるからか,ゾンビーフの攻撃部位のように,「知っていると得をする」「知らなくても,このゲームによって学べる」という,タメになる要素も多い。開発陣が「もっと面白い見せ方はないか」と貪欲に模索しただろう努力と情熱が伝わってくる。
旅立ちの町で,ニワトリの親方に橋を修理してもらう場面がある。必要な材料を渡すと,ニワトリの親方が隣のページに移動を始め,それを追いかけるのだが,主人公のライトの移動速度のほうが若干速い。「おっ,親方より先に行けそうだな」と思って追い越そうとすると,親方の背中にライトが当たった途端,ボヨンと跳ね返され,ライトが尻餅をついた。
ここ以外に,この町でライトが尻餅をつくシーンはない。つまり,プレイヤーが親方を追いかけてぶつかったときのみ表示されるアクションをわざわざ作っているということになる。筆者が本作の作り込みに戦慄した瞬間だった。
「ノートに描かれた大作RPG」という部分以外にも,誰もが大人になる過程で失いがちな何かが,この作品にはある。好感の持てるNPCであったり,ストーリーの本筋には関係ない背景のオブジェクトを調べたときの反応であったり,魔王の配下でありながら,そんなに悪い奴でもないよなと感じる悪役のキャラクター性であったり。共通しているのは,人を選ばず,老若男女問わず楽しめることだ。殺伐とした雰囲気などなく,子供はもちろん,子を持つ親も一緒に遊べる安心感を追求しているようにも見える。
この丁寧な作風,このアナログ表現の手法は十数年に一度,いや,もしかすると二度と現れないかもしれない。とにかく一見の価値アリな作品だ。
「RPGタイム!〜ライトの伝説〜」公式サイト
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