インタビュー
[インタビュー]飛行機のある所に博物館ができた。「Microsoft Flight Simulator 40th Anniversary Edition」登場機体の面白い話
今回のイベントで,エヴァーグリーン航空宇宙博物館が会場として利用されたのは,かつてハワード・ヒューズ氏により1機だけ試作され,1947年に1度テスト飛行した後,そのまま商業生産にたどり着くことがなかった幻の名機“スプルース・グース”こと「Hughes H-4 Hercules」の実機が展示されている場所だからだ。
正確には「Microsoft Flight Simulator 40th Anniversary Edition」で新たにフィーチャーされた全7機の実機(もしくはモックアップ)が展示されているのだが,その中でもこのスプルース・グースは全幅97.51m,全長66.65m,全高24.18mという巨大な木造飛行機であり,博物館のシンボルとしてカメラではその全貌を収めることができないほど目一杯に翼を広げて鎮座している。
今回のイベントはそのスプルース・グースの機内ツアーが行われたが,その中で同博物館の館長を務めるジョン・ラスムッセン(John Rasmussen)氏へインタビューする機会があったので,その様子をご紹介しよう。
「Microsoft Flight Simulator」公式サイト
4Gamer:
では,まずはこの博物館の歴史とスプルース・グースを保管するようになった経緯を教えてください。
ジョン・ラスムッセン(以下,Rasmussen)氏:
この博物館が開館したのは2001年6月6日のことですが,実はスプルース・グースはそれ以前,1993年から道路の向かいにある市営空港のハンガーに収容されていたのです。つまり,スプルース・グースがこの地に運ばれてきてから,この大きな機体を格納できるだけの博物館が設計されたというわけです。
ここは元々,政府の代理で物資を運ぶEvergreen Internationalという民間会社が所有していた敷地でしたが,そのオーナーのご子息が航空史に関する教育に利用したいと,スプルース・グースの展示権の競売に願書を提出し,その事業計画が評価されたのです。機体は非常に大きいですから3つのパーツに分けられて,南カリフォルニアからここまで海上輸送されました。普通の道路は通れないので,近くに船が入れるだけの川があったのは大きなポイントだったと思います。
4Gamer:
スプルース・グースの航空史上での重要性とはどういったものですか。
Rasmussen氏:
まずはやはり,この1機しか存在していないことですね。その歴史を説明しますと,第二次世界大戦中に,大西洋でドイツ海軍のUボートが海上輸送船を何艘も沈めたことから,造船会社のヘンリー・J・カイザーが「300トンの重量輸送に耐えられる200トンの大型飛行機」というとんでもない計画を政府から受注したことから始まります。
当時,開発と生産に余裕があった唯一のメーカーがヒューズ・エアクラフトだったのですが,アルミニウム合金などがまだ,戦闘機への利用に優先されていたことから,木造にするしかありませんでした。当時の木造飛行機は7トンほどの機体までしか耐久性がないと信じられていたので,開発には時間がかかり,そのまま終戦を迎えることになりました。戦後の1947年に試験飛行に成功しますが,生産まで漕ぎ着けられなかったのは政府の支援が打ち切られたからですね。
4Gamer:
“スプルース・グース”という愛称の由来はなんですか。
Rasmussen氏:
開発が進展しないことで,国家予算の無駄使いだとメディアなどから突き上げられたときに,小型の水陸両用双発機「Grumman G-21 Goose」をもじって,“スプルース(Spruce,マツ科トウヒ属の常緑針葉樹)・グース”とメディアから揶揄されたことで,それが一般に広まってしまいました。実際にはトウヒが使われているのは一部で,ほとんどはバーチ(Birch,カバノキ科カバノキ属の樹木)なんですが。
4Gamer:
この博物館に展示されているスプルース・グースのコクピットには,メイン操縦席の左側にジョイスティックがありますね。
Rasmussen氏:
ええ,時代を考えるとちょっと不思議ですよね。初飛行の成功後に政府の予算は打ち切られてしまいますが,その後もヒューズは何度か改良を続けて,最後はあの操縦システムになったようです。ただし,それに関する設計図や資料は残されていないので,ゲーム版にはジョイスティックは登場しないようです。
4Gamer:
会場では「Microsoft Flight Simulator 40th Anniversary Edition」が一般展示されているんですね。
Rasmussen氏:
できれば恒久的に展示したいと思っています。ここに来場してきた子供たちが,日本の航空博物館にいる子供たちと一緒にフライトを楽しむ。そんなことができると夢があって良いと思います。
4Gamer:
新型コロナウイルスの影響で,長らく博物館の運営が大変だったと思いますが,今回の「Microsoft Flight Simulator 40th Anniversary Edition」で盛り上がるといいですね。
Rasmussen氏:
はい。この博物館の役員であり「Microsoft Flight Simulator」シリーズの長年の愛好者だったバリー・グリーンバーグが,Microsoftにコンタクトを取ったのは英断だったと思います。バリーがどうやってヨーグ氏(Xbox Game Studiosのエグゼクティブ・プロデューサー)に直接電話を入れることができたのかはわかりませんが(笑)。
休館中だった分,調査チームには存分に展示物のスキャニングや,普段は倉庫に眠っているような資料の利用をしていただきました。今年はスプルース・グースのテストフライトから75周年,「Microsoft Flight Simulator」が発売されてから40周年,さらに来年,2023年がエヴァーグリーン航空宇宙博物館の開館30周年や,ライト兄弟の有人飛行120周年など,いろいろと節目の時にあたるのは運命的なものを感じますね。
4Gamer:
館内で解説をされているボランティアの方は,退役軍人の方が多いのですね。
Rasmussen氏:
そうなんです。現役の時には沖縄や岩国に駐屯されていた方も多く,彼らの思い出話を聞けますよ。私自身も,海岸警備隊でパイロットをしていた経験から,何度か合同訓練のために訪日した経験があります。日本語でお迎えすることはできませんが,機会があればぜひご来館いただいて,スプルース・グースはもちろん,我々の展示物を存分に楽しんでいただければと思います。
4Gamer:
本日はありがとうございました。
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