インタビュー
[インタビュー]「Microsoft Flight Simulator 40th Anniversary Edition」エグゼクティブPが掲げる“デジタル化による文化保存”
その詳細については,公式サイト,および11月10日にエヴァーグリーン航空宇宙博物館にて開催された,メディアイベントの発表とイベントレポート(関連記事)を参照していただきたい。
本アップデートでは,新しいミッション「40th Anniversary」というアクティビティが追加されている。チャールズ・リンドバーグが機乗して大西洋横断に成功した「スピリット・オブ・セントルイス号」や,ライト兄弟の「ライト・フライヤー号」などに加え,1947年に試験飛行をしながらその後飛び立つことのなかった“スプルース・グース”こと「ヒューズ H-4 ハーキュリーズ」など,航空史に大きな足跡を残した7種の名機が追加されている。
特に,このスプルース・グースがフィーチャーされることについて,Xbox Game StudiosでFlight Simulator部門を統括するヨーグ・ニューマン(Jorg Neumann)氏が掲げるのが,「デジタル・プリザベーション」(デジタル化による保存)という新たなコンセプトだ。今回,ニューマン氏にその取り組みについて詳しく聞いてきたので,その内容を紹介しよう。
「Microsoft Flight Simulator」公式サイト
4Gamer:
「Microsoft Flight Simulator 40th Anniversary Edition」は,これだけの内容で無料というのは凄いですね。
ヨーグ・ニューマン(以下,Neumann)氏:
私は,この「40th Anniversary Edition」への根源的な信念として,これは「バースデーパーティー」なのだと思っています。自分の誕生日に友人を招待するのに,お金を取る人なんていませんよね(笑)。このアップデートはパーティーで,コミュニティを巻き込んだお祝いだと思っていただきたいんです。
「Microsoft Flight Simulator」がリリースされてから27か月が経過しましたが,全てのプレイヤーが同じ資金力を持っているわけではありません。その一方で全てのプレイヤーに同じコンテンツを楽しんでほしい。過去40年にわたって「Microsoft Flight Simulator」を愛してくれているゲーマーも,本作で空を飛ぶ楽しさを知ってくれた新しいプレイヤーも,同じ場所で一緒にお祝いをしたいというのが私たちの願いなのです。
4Gamer:
「Microsoft Flight Simulator 40th Anniversary Edition」の話題の1つが,航空史のレジェンドであるハワード・ヒューズが試作したスプルース・グースですが,ゲームへの実装はどのように決まったのでしょうか。
Neumann氏:
この会場(エヴァーグリーン航空宇宙博物館)の役員であるバリー・グリーンバーグさんから,ある時1本の電話があったのです。「ウチのスプルース・グースを,未来永劫ゲームの中で残してほしい」と。それはもう即決でした。何と言っても,あの木製巨大機ですからね。世界に1台しかない上に設計図も残されていないので,ディテールを再現するのに18か月もかかってしまいましたが(笑)。
先のプレゼンテーションでもお話しした「デジタル・プリザベーション」(デジタル化による保護)という本作のサービス継続の柱となるコンセプトも,あの電話がなかったら始まっていなかったかもしれません。
4Gamer:
いきなり電話してきたグリーンバーグさんの行動力はあっぱれですね。
Neumann氏:
時期的にもピッタリで,「2年後にスプルース・グースの試験飛行から75周年を迎える記念に」というお話だったのですが,その記念日というのが「Microsoft Flight Simulator」の40周年である11月11日の9日前だったんです。まだその時は「Anniversary Edition」についての企画はなかったのですが,ロードマップがやんわりと見えた気がしますね。
4Gamer:
スプルース・グースの再現で最も難しかったのはなんですか。
Neumann氏:
いろいろと難しかったんですが,困ったのはエンジン音ですね。3000馬力というとてつもないエンジンが8つ可動するのですが,動かせるものが1つも現存していないのです。これはどうすることもできないので,B-29の「ライト R-3350」をベースにして,疑似的なものを作りました。スプルース・グースのリアルなエンジン音を知っている人は世の中にいないでしょうから,おそらく苦情は来ないでしょう(笑)。
ただ,最近になってより近い馬力と形状のエンジンが残されているのを見つけて,すでに録音も済ませました。いずれどこかのアップデートで変更することになるでしょう。もっとも近い形でゲームに保存するのも,デジタル・プリザベーションの一環だと思いますので。
4Gamer:
そうなると,もはや“デジタル・プリザベーション”というものが,Xbox Game Studiosにとっての道義的責任のように思えてきました。
Neumann氏:
はは(笑)。それはたいそうな表現ですが,それに近いものは感じますね。今のところコンテンツ化の計画もないエアークラフトのスキャニングを,もう300機ほど済ませています。実は,スプルース・グースの他にも,私の本作に対する意識を変えた飛行機が2機あるんです。それは「ドルニエ・Do J ワール」と「サヴォイア・マルケッティ S.55」です。両方とも大西洋を横断飛行するために生み出されたのですが,第二次世界大戦で破損したものが多く,今となってはとても希少です。どちらもアルゼンチンの博物館に残されていたのですが,南アメリカが直接的に戦闘に参加していなかったおかげでしょう。
しかし,ワールを展示していた博物館には電力が来ておらず,適切な温度管理が行われていませんでした。従業員への給与も払えていないような状況で,我々がチームを派遣する見返りに,多少の資金提供を行いました。
4Gamer:
「Microsoft Flight Simulator」が世界の博物館を救っているんですね。
Neumann氏:
新型コロナウィルスの影響などもあり,資金繰りにあえいでいる博物館は,航空機に関わらず世界中にあると思います。
そして,S.55の調査もとても苦労しました。こちらも電気が来ておらず,ネズミだらけで調査チームも大変だったのですが,我々がコンタクトを取らなければ,そのまま機体が朽ちていたかもしれませんし,火事で燃えたり,廃棄されたりした可能性もあったわけです。それを考えた時,もはや「ゲーム」を超えた,より大きなプロジェクトの必要性を強く意識するようになりました。
4Gamer:
ロシアのウクライナ侵攻では「アントノフ」(An-225)が破壊されてしまいましたね……。
Neumann氏:
ええ,まだ何も決まっていない段階ですが,ゲームを通じて寄付を募り,我々とコミュニティが一丸となってアントノフを再生できるのではないかと真剣に考えています。コミュニティメンバーの中には,破壊されたことがニュースで流れた8か月前から声を上げている人もいますし,事が落ち着いたら,ウクライナ政府や関連企業と協力できるのではと思います。
4Gamer:
それは素晴らしい。「Anniversary Edition」ではヘリコプターやグライダーも追加されたことで,アップデートすべきコンテンツも増えそうですね。
Neumann氏:
はい。15年前に「Flight Simulator X」をリリースした時には,2か月に1度の大きなアップデートを行っていく開発サイクルなんて考えたこともなかったのですが,これまで27か月にわたってアップデートを継続的に行ってきたことで,コミュニティの皆さんの信頼は得られていると感じています。
4Gamer:
前回のデベロッパQ&Aでは,韓国語のサポートが発表されましたね。これまでのパターンを考えると,次々回のワールドアップデートは韓国ということでしょうか。
Neumann氏:
いえ,韓国の場合は事情が複雑で,軍事目的での懸念から領土の3Dスキャニングが許可されていないのです。既存データの応用でできないこともないのですが,そのあたりは非常に複雑で,ワールドアップデートへの対応はまだ先のことになりますね。
なお,日本については現在,複数のチームがいろんな場所に出没しているということだけはお伝えしておきます。日本のコンテンツクリエイターの皆さんには素晴らしい作品を提供していただいているのですが「World Update I: Japan」は第1回目だったということもあって,十分でなかったと感じています。いつになるかわからないですが,ご期待ください。
4Gamer:
それはますます楽しみですね。本日はありがとうございました。
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