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コンピュータRPGに慣れきったゲーマーは,いかにして“取っつきにくさ”の壁を乗り越え,「バルダーズ・ゲート3」に600時間を費やすことになったのか
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印刷2024/12/28 10:20

企画記事

コンピュータRPGに慣れきったゲーマーは,いかにして“取っつきにくさ”の壁を乗り越え,「バルダーズ・ゲート3」に600時間を費やすことになったのか

 年の瀬が迫り2024年も終わろうとしているが,皆さんが今年最も記憶に残っているゲームは何だろうか。超大作から尖ったインディーゲームまで今年もさまざまな作品がリリースされた。筆者がプレイしたタイトルもそれなりの数になるが,プレイ時間という尺度で見ればナンバー1は間違いなく「バルダーズ・ゲート3」PC / PS5。以下,BG3)だ。

 Steam上で集計された数値を確認すると,総プレイ時間はおよそ600時間。ライターとしてもプライベートでもゲームをプレイする機会があるが,単一のタイトルでここまで長い時間になった作品は,最近ではちょっと記憶にない。
 ちなみに次点は「The Elder Scrolls V: Skyrim」の500時間弱だが,これは何年もかけてプレイを積み重ねていった結果であり,“濃密さ”で言えば間違いなくBG3のほうが上だ。

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 身も蓋もなく先に書いておくと,本稿はBG3にはまり込んだゲームライターが,その魅力を伝えるつもりで書いている。個人的な評価は「名作であり傑作」ではあるが,その一方でこの作品を手放しで全面的に絶賛することはできない。なぜなら「(人によるとはいえ)ゲーマー歴にあまり関係なく,猛烈に取っつきが悪い」という,無視できない大きな問題点があるからだ。
 筆者は仕事柄,メジャーな大作はもちろん,かなりマイナーなインディーゲームをプレイすることもある。だが,これだけの大作で「分かりづらいし,取っつきが悪いし,説明が足りない」と感じることは珍しい。

容赦なく画面の下部に並ぶ大量のアイコン。これだけで,身構えてしまう人もいるだろう。それぞれ用途があるので,あまり整理できないも残念(画面写真はPC版。コントローラ接続時やPS5版の場合,UIが異なる)
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 プレイを始めた当初,何度も「レトロゲームならいざ知らず,これは本当に2023年のゲーム?」と思ったものだ。BG3には「人を選ぶ」や「複雑で難しい」といった評価を見るが,少なくとも序盤から前半にかけては,まったくそのとおりだと思う。
 さらに人を選ぶというより,最初からゲーム側が“選別”しているような印象すら受けるし,困ったことにTRPGに馴染みのないゲーマー(筆者含む)はかなりの確率でゲームに選ばれないほうだとも思う。
 詳しくは後述するが,これはおそらく文化的なものだったり,あるいは日本のコンピュータゲームの歴史や文脈のようなものだったりも影響しているのだろう。したがって,(ゲーム側の説明不足の部分は多々あるが)単純にどこが悪いとか,誰が悪いとかを言えないのもまた,もどかしく感じてしまう。

自らの魅力を磨き,怪しい光線で相手を悩殺しよう! 相手はきっとぶっ飛んでメロメロさ!! ……ネタ風に書いてみたが,立派な本作のキャラビルドの1つ
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 念のために説明しておくと,BG3はLarian Studiosが開発を手がけたRPGだ。2023年8月に発売され,その年のゲームアワードでGame of the Yearをいくつも受賞するなど,高い評価を得ている。名実ともに2023年を代表するゲームである。
 国内では2023年12月21日にスパイク・チュンソフトから日本語対応のPS5版が発売となり,同時にPC版も日本語対応のローカライズが実装されたため,気軽にプレイできる環境が整った。つまり,日本語版のリリースから1周年を迎えたところだ。

発売当時に話題に挙がった“地の文”を読むフルボイスのナレーションだが,慣れてくるとむしろないことに物足りなさを感じる。メタ的にはTRPGのGM代わりとして存在している
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 というわけで,この機会に「日本のゲーマー」視点からBG3の魅力と,その表裏一体になっている問題点も詳らかにしていきたい。忖度するつもりはないのでプレイ時に感じたことを素直に書いていくが,つまらなかったら600時間もプレイしているわけがないし,そもそもこのような趣旨の記事を書いてもいない。ある種の愛ゆえの意見だと思ってもらえれば幸いだ。
 なお,筆者がプレイしたのはPC版であり,本稿の内容やスクリーンショットはそれに準じている。

2024年9月に追加された,MODマネージャーの起動画面。日本語版の登場から1年経つBG3だが,いまだにアップデートが続けられている
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「バルダーズ・ゲート3」公式サイト



知らない世界に知らないルール。手探りで進もうとしても,今までの経験が役に立たないもどかしさ


 BG3の取っつきにくさがどこから来ているかを考えると,おそらく大きな原因が3つある。端的にまとめると,「TRPGがベースであること」「D&Dの世界を原作としていること」,そして「難度調整のクセが強い」となる。

 とくに前者の2つはセールスポイントでもあり,ゲームアワードを受賞した際にその要因として語られていたのだが,筆者はTRPGにもD&Dにも馴染みがなく,言葉の意味と多少の歴史的経緯を知っている程度だった。TRPGの基本的な仕組みは知っているが,実際にプレイしたことは一度もないし,D&Dについても「現在のゲームなどにおける,ファンタジー世界の基礎になったものの1つ」くらいの知識しかなかった。
 また,「バルダーズ・ゲート」シリーズ作品もプレイしたことがないので,“ほとんどあらゆることが初見だった”と言っていい。そして,国内において筆者のようなゲーマーは決して少なくないはずだ。

ゲームタイトルにもなっているバルダーズ・ゲートの市街地。ここまでの道のりは長いが,内部もとにかく広い
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 念のために知っている範囲で説明すると,TRPGは「テーブルトークRPG」の略称で,文字通りに卓(テーブル)を囲んで「ルールブック」と呼ばれるゲームシステムを基に,人間同士の対話を軸にして紙やペン,そしてダイスを使いシナリオ(や何らかの目標達成)を楽しんでいくアナログゲームだ。4Gamerでもアナログゲームの記事があるので,筆者と同じく「プレイしたことはないけど知っている」という人は多いだろう。

 雰囲気としてはいわゆるボードゲームに近いが,プレイヤーごとに明確な勝敗が決められているわけではなく,GM(ゲームマスター。D&DではダンジョンマスターのDMとされる)と呼ばれる進行役が事前にシナリオ(ゲームの目的)を用意し,プレイ時は流れに応じて臨機応変に物事を決めて話を進めていく。それぞれのプレイヤーは何らかの役割を演じ(=ロールプレイング),最終的にシナリオのクリアを目指す。
 D&Dの略称で知られる「ダンジョンズ&ドラゴンズ」はTRPGの元祖と言われており,その世界観やキャラクターはゲームのみならず,さまざまな創作に非常に大きな影響を与えた。

 今日(こんにち)のRPGは,TRPGのルールとシナリオとGMによる進行をコンピュータに任せ,人の手を借りなくてもRPGをプログラム上で再現する……という形でスタートしたと言われている。そしてニーズの変化やテクノロジーの発展により,コンピュータRPG(以下,CRPG)が独自の進化を遂げ,一周回って「現在の技術でTPRGを可能な限り,CRPGとして再構築した」のがBG3というわけだ。

本作の“TRPGらしさ”を象徴する要素の1つが,頻繁に登場するダイスロール。実際に振らなくても,戦闘の判定などはこれによって計算されている。ゲーム内には「2D6」(6面ダイスを2個振る)などの表記も頻出する
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 とはいえ,ゲームはゲーム。それなりの経験は積んでいるし。ちゃんとローカライズされていれば,すぐに慣れるだろうと購入時には考えていた。実際,話題になっていた頻発するダイスロールや,ゲーム中にフルボイスで挿入されるナレーション(本作におけるGMの代わり)などは,すぐに気にならなくなったのだが……。


当たらない攻撃に効果の薄い回復魔法,そして脆くて弱い魔術師たちの使いにくさに泣きたくなる


 筆者が最初に躓いたのは,戦闘の大変さだった。基本的な操作はゲーム開始直後,導入を兼ねたチュートリアルで学べるが,いざそこから脱出してフィールドに投げ出されると様相が一変する。まったく思いどおり戦いが進まない。

チュートリアル終了直後に投げ出される海岸。本編の始まりだが,最初の脳みそ戦以外は数的不利の戦いが続く
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 まずそもそも問題として,予想以上に攻撃が当たらない。戦士系の職に就いているにもかかわらず,弱そうな敵にも平気で攻撃を外す。一方で敵の数は多く,ダメージもかなり痛い。前衛職らしいキャラなのに複数の敵から攻撃を受けると,簡単に瀕死になってしまう。
 何かの操作が間違っているのかと思ったが,防御のようなコマンドがあるわけでもないし,基本的にできるのは殴ることだけ。魔術師などの後衛職はさらに脆く,下手に前に出せば,もちろん真っ先にボコボコにされてしまう。

最序盤の一番弱いゴブリンを殴ろうとしているところ。命中率は65%。あまり安定感はない
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 ピンチに輝くはずのヒーラーは,想像以上に持て余す状態だった。回復魔法は元々の回復量が少ないうえにバラツキも大きく,何より碌な回数を使用できない。回復させた直後,それ以上のダメージを食らう場面も多く,「いないと困るが,いてもあまり役に立たない」といった有様だ。
 近接攻撃は前衛職以上に外すので,回復以外では奥から運良く弓が当たることを祈るくらいしかない。

最序盤から使える回復呪文「癒しの言葉」。回復量は非常に心許ない。敵に囲まれたら,回復は間に合わないだろう
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 しかし,それよりも問題になったのが,とにかく魔術師系のキャラの使いにくさだ。攻撃呪文は物理攻撃と同じく簡単に外れる,補助系っぽい呪文はテキストを読んでも効果がよく分からない,使えそうな呪文を唱えてもいつの間にか効果が切れているといった疑問符だらけ。
 そもそも弱い初級呪文以外は使用回数が少なすぎて,戦闘開始から間を置かずにガス欠状態……最初はいい印象がまったくなかった。「このゲームは魔法使いの重要度が低く,縛りプレイ向けのクラスなのか?」と思ったほどだ。

選べる呪文は多いが,実際に使ってみないと効果は分からない。ちなみに「催眠」は低級呪文でもかなり強いほうだが,これは(条件さえ満たせば)必中だからだ
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 こうした状況のほとんどは,本作のゲームルールがTRPGであるD&Dの第5版をベースにしたものだから。前述のとおり,TRPGはCRPGから見れば先祖のような存在だが,それぞれは独自の進化を遂げており,その違いは大小さまざま。言い方を変えれば,現代の一般的なRPGと比べると,BG3は“かなり作法が違う”印象だ。

 例えば攻撃が当たらない,あるいは当たった攻撃が痛すぎるという点は,本作が防御力に「AC(アーマー・クラス)」を利用していることが大きい。一般的なRPGでは,防御力は相手からのダメージを減衰させるものだが,ACは実質的に回避率であり,基本的には「ACを高めるほど,相手の攻撃が当たりにくくなる」という仕組みになっている。
 つまり,一定のACを確保しても,敵がそれ以上に強かったり,ダイスの出目次第で当たったりすればダメージは素通りだ。

ACは高ければ高いほどいい。脆くて軽装装備しかできない魔術師系のクラスがACを稼ぐ手っ取り早い方法は,盾を装備すること(種族によっては無理だが)
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 当たった攻撃を半減/無効にするには耐性や抵抗が必要であり,これは種族によって最初から付与されていたり,アイテムやスキルで入手できたりするが,レベルやACを上げるだけで身につくものではない。本作の戦闘で重要なことは「味方の攻撃はなるべく当てて,敵の攻撃は最初から受けないようにする」に尽きる。何せダメージ計算は,「命中判定」を成功させないと実行すらされないからだ。

 そして命中率を高める一番の近道は,武器やスキルに合ったステータスを上げることと,適切なバフを得ること。具体例を挙げると,通常の近接武器ならば筋力,弓や妙技(特殊な属性)が付いた(主に軽量な)武器ならば敏捷力,そして魔法ならばクラスに応じて知力,魅力,判断力のいずれかを上げる必要がある。
 バフに関しては,クレリックが使える「祝福」が低レベルで使いやすく,対象人数も多い。

正直なところ,序盤のクレリックは祝福と回復呪文を使っていれば,多くの場面で十分な仕事をこなせる。もちろん成長するにつれて,選択肢は増えていく
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 とはいえ,困ったことに各ステータスを永続的に上げる方法は乏しい。はっきり言ってしまうと,初期ステータスで8割前後は決まる印象だ。もちろん装備やイベントで増減するのだが,条件が厳しかったり,後半にならないと利用できなかったりして選択肢は多くない。
 むしろ初期ステータスを調節したほうが話は早いが,クラスの選択時に設定されている初期の数値は(外してはいないが)最適値とはいいがたいので,序盤に地下墓地で仲間になるNPC・シナビを使い倒して“振り直し”をオススメしたい。

初期ステータスは非常に重要。振り直しは簡単(少量のお金が必要)なので,装備などのシナジーも考えて適宜調節すればいい
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 実のところ,本作の呪文はかなり強力だ。それを扱う魔術師はもちろん,縛りプレイ用のキャラではない。ただし,強力な範囲呪文を覚えるのがレベル5以降なので,そこに至るまでは扱いづらい。ただし,成長速度の問題よりも,まずは別の問題がプレイヤーを悩ませるはずだ。

 前述しているが,魔術師はガス欠が早い。本作の呪文はランクごとに使用回数が設定されているため,一般的なMP制と違い,リソースの管理が難しい。呪文の使用回数制は初期のファイナルファンタジーシリーズなどでも採用されていたので,筆者自身は初見ではない。
 ただ,使い勝手のいいランクの魔法ばかり消費して,まったく使われないランクがある……なんて事態もよくあり,当時もあまりいい印象はない。

 また,呪文の使用回数を回復する手段もかなり少なく,一部のアイテムやスキルを除けば,基本的には大休憩しかない。その場で即座に回復できる小休憩と違い,キャンプに移動する必要があり,さらに物資を消費する大休憩はどうしても使いにくいと感じる人は多いだろう。
 イベントフラグになっていることも多いという点で,最初は「大休憩は控えたほうがいいのか?」と思っていたこともあり,魔術師は1回の戦闘で役に立たなくなることも多かった。

覚えればウィザードやソーサラーの評価が一気に上がる「火球」。大ダメージの範囲攻撃というだけでなく,実質的に必中であるのも強さの秘訣(相手の防御判定はあるが,成功してもダメージが半分になるだけ)
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 少々分かりにくいが,非常に重要な概念が「集中」だ。単発の攻撃魔法のように“打ちっ放しで終わり”というものを除き,一定時間内に効果を発揮し続けるものは,(攻撃だろうとバフ/デバフであろうと)基本的に魔法の発動者自身が精神の集中を維持する必要がある。
 集中が乱れる(失われる)と呪文の効果は失われるが,その条件は大きく2つあり,「ダメージ(攻撃)を受けること」と「集中が必要な別の魔法を発動すること」である。要するに「敵から攻撃を受けたり,別の集中呪文を発動したりしていけない」のだ。

筆者のお気に入り呪文の1つ「ハダルの飢え」。鈍足+暗闇+氷+酸という妨害とダメージのフルコースを与える。普通に強いが,閉所で使うともっと強い。使えるクラスが少なく,これも集中が必要な呪文なのが難点
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 最初,筆者はこれをまったく理解していなかったので,バフをかけては効果が即座に切れる,デバフを実行しても全然効かないという現象にかなり悩まされた。実際は発動してもすぐに(別の呪文で)打ち切ってしまったり,敵の攻撃で妨害されたりしていたわけだ。
 精神集中は呪文を運用するうえで,まず意識すべき前提知識ではあるが,冒頭のチュートリアルでは触れられず,間違いなく初心者が混乱する一因になっているだろう。さらに複雑なのは,魔法自体の成功/失敗判定とはまた別であるところだ(つまり,単にレジストされた場合もある)。

集中が必要な呪文は,チップヘルプに「精神集中」と書かれている。ちゃんと調べれば,多くの呪文に記載されていると気がつく
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 さらに言えば,呪文の効果の多くが説明(チップヘルプ)を読んだだけではよく分からない。また,仮に効果が分かったとしても,それが実際に役に立つかは不明だ。強いけれど状況を選びすぎる,威力は高いが射程が短い(脆い魔術師では実用性が低い),ランクは高いが使いどころはほとんどない……なんて呪文もゴロゴロある。
 本作ではレベルが上がったときに,複数の呪文から好きなものを選んで覚えられるが,初見で使えるものをピックアップするのはほぼ不可能だ。

 結果,使えない呪文をチョイスしてしまった時点で,その魔術師の活躍できる範囲も狭まる。何の魔法が実用的なのかは試行錯誤するしかないが,BG3を始めたばかりの初心者がスキルリセットを繰り返してそんなことをする余裕はないだろう。こうした要素が複合的に重なり,慣れないうちは魔術師系のキャラがかなり使いづらいと感じる。

 ただ,ここで愚痴ってもしょうがないので,運用のコツもまとめておこう。
 まずは「アップキャスト」という仕組みだ。これはランクが低い呪文ならば,効果を強化したうえで上位の呪文として発動できるものだ。うまく使えば低ランクの攻撃呪文の威力を上げたり,状態異常を付与できる敵の数を増やしたりと,ある程度ランクの融通が利くようになっている。
 中位の呪文でもアップキャストによって,上位の呪文を食うほどの活躍をすることも多々あるので,ランクごとに分かれている呪文のリソースを有効に使いたい。

回復呪文であれば,アップキャストにより純粋に回復力が上がる。ただし,ランクを上げる効果が薄いものもあるので,何が有用かは実践して確かめるほうがいい
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 大休憩に関しては,ガンガン使ったほうがいい。物資を消費するが,ある程度マメに拾っていけば余るくらいにはなるし,キャンプのイベントも序盤に集中しているだけで,しばらく経てば(イベントトリガーが落ち着いて)何も起こらなくなる。
 本作の大休憩はごく一部のエリアを除き,洞窟だろうが敵の拠点だろうがいつでもどこでも利用できて完全に回復する。むしろ使わない理由がない。物語的にはともかく,休憩しまくって進んでいったほうが効率的なのだ。

大休憩は物資を使うが,筆者は不足して困ることはなかったし,確か買ったこともなかったと思う。探索して集めるのがイヤならば,難度設定で消費量を減らしてもいい
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 精神集中は「ステータスの耐久力をできるだけ上げておく」ことも重要になる。というのも,敵から攻撃を受けても100%確実に集中が乱れるというわけではなく,セーヴィングスローと呼ばれる防御の判定に成功すれば,呪文は問題なく継続されるからだ。
 本作ではさまざまな事象や行動の成功/失敗にダイスロールが使われるが,その成否には対象となるステータスの補正が加えられ,その数値が高いほどいい結果が出やすくなる。精神集中の維持は耐久力を基準に判定されるため,耐久力を高めるほど途切れにくくなるというわけだ。

耐久力を高める以外に,1つのクラスを4レベル上げるごとに習得できる「特技」のうち,「セーヴ習熟」を選択するという手もあるが,あまり初心者向けではないかもしれない
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 魔法の使い勝手の良し悪しは,自分で試すか,ネットの攻略情報を頼るくらいしか効率的に知る方法はないが,魔術師ならばウィザードを選べば,多少はゲーム内で対応しやすくなる。前述のとおり,魔法はレベルアップ時に選択(クラスによっては自動)して覚えるのが普通だが,ウィザードだけはドロップや店売りで入手できる魔法の巻物を消費すれば,自由に魔法が覚えられるからだ。
 同時に使える(セットできる)数には限度があるが,覚えられる数に制限がない。

 つまり,ウィザードならばハズレの魔法を選んだとしても,いくらでもお金と多少の手間でやり直しが効く。とはいえ,前述のシナビを利用すれば,レベルリセットとクラス変更はいつでも可能なので,クラスリセットを多用して試行錯誤したくない場合は……という条件がつくかもしれない。

広範囲の攻撃呪文は魔術師の花形だが,こうした魔法が連発できるようになるのは随分先のことだ
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 魔術師系のルール以外にも,単純武器と軍用武器の違い,装備の適合と各種の計算に使われる習熟と習熟ボーナスの概念,種族による移動距離の違い,セーヴィングスローに使われるステータス(受ける攻撃によって異なる),直感的に数値が分かりにくい「3D6+2」などの表記……といった「もっと説明してくれ!」と言いたくなる場面は多い。
 ネットには詳細な解説が数え切れないほどあるとはいえ,そもそも初心者は「何が分からないのか,よく分からない」状態なので,ある程度はゲーム側で責任を持ってほしいと思う。


王道ファンタジーだが,独自性があるD&D。説明もなく固有名詞を連発されても理解が追いつかない


 前述のとおり,BG3はD&Dの世界をベースにしているため,いわゆる“原作モノ”のような立ち位置であり,しかもシリーズの3作目だ。なぜ,こうした切り口で語るのか。それは,いきなり固有名詞がたくさん出てきて,しかも説明があまりないという「新規勢置いてけぼり」感を序盤に強く感じたからだ。

 もちろん,D&Dはその後のファンタジー世界に非常に強い影響を与え,人間やエルフ,ドワーフといった種族はお馴染みであり,舞台はいわゆる“剣と魔法の世界”だ。そうした点での馴染みにくさはない。ただし,そのほかの種族には独自性があって,さらに複数の地名や次元が頻繁に関わってくるので,なかなか頭に入ってこなかった。

チュートリアルの舞台は,誘拐されたマインド・フレイヤーの船のノーチロイド。これが移動しているのは地獄だったが,それを理解したのは随分先の話だった
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 例えばチュートリアルで仲間になる(あるいはプレイヤーキャラとして選べる)レイゼルは,ギスヤンキと呼ばれる種族だ。最初は見た目からハーフオーク的な存在なのかと思ったが,実際はBG3の敵役となるタコのようなマインド・フレイヤーの元奴隷である。その地位を脱してからは,マインド・フレイヤー狩りを生業とする戦闘種族として,違う次元や宇宙を舞台に延々と戦いを繰り広げているのだという。
 拠点で明らかになるが,種族そのものが「戦いか! 死か!」といった社会に生きており,海外のSFドラマ「スター・トレック」に出てくるクリンゴンやTESシリーズのノルドを思い出した。

仲間と衝突することも多いレイゼルだが,文化の違いを演出したもののようだ。力によるシンプルな解決を好むが,実は非情というわけではない
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 序盤に出てくる見慣れない種族と言えば,ティーフリングも印象的だ。ゴブリンに襲われていたドルイドの聖地で出会うことになるが,見た目は赤か灰色。角を持つエルフといった風貌で,仲間として迎え入れられるカーラックもティーフリングの1人だ。種族としては異次元である地獄(作中では九層地獄と呼ばれている)のモンスターと,ヒューマノイドの混血であり,忌み嫌われ差別される存在である。
 BG3ではゼブローという指導者に会うことになり,エルタレルと呼ばれる場所から何とか逃げてきた……という話を聞く。

(選択によっては)長い付き合いになるティーフリングたち。見た目こそ人間とはかなり違うが,精神的な面では大きく変わらないようだ
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 こうした認識はある程度プレイを続けていくと何とか理解できるが,最初のうちはレイゼルを「妙に高圧的で他種族を見下しているヤツ」,ティーフリングを「若者や悪ガキを連れて旅をしながら困っている赤い人」程度の認識しかできないだろう。会話に出てくる単語のほとんどが聞き慣れない筆者に至っては,バルダーズ・ゲートが何かも分かっていなかったし,その正体が後半の舞台になる都市の名前だと知ったのも随分プレイしてからだった。

 序盤にプレイヤーを混乱させる存在と言えば,デヴィルと呼ばれる(文字どおり)悪魔の連中も記憶に残る。突然現れては主人公を転移させて,わけの分からない場所に連れて来るわ,人間を急にティーフリングっぽく変化させてしまうわ,実にやりたい放題。何が常識かも掴めていない序盤から,非常識なデヴィルパワーをぶつけてくるので困ってしまった。

超常的な力を持っているデヴィルだが,ラファエルの場合は常に芝居がかっているので余計に混乱する
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 ゲームの開始早々に登場するラファエルとミゾーラは,地獄を本拠地とする高位の悪魔たちだ。普通の人間とは比べものにならない力を持つが,直接暴れ回るのではなく,契約によって人を縛り,望む利益を与える代わりにその対価を奪っていく……という一風変わった行動原理で活動している。
 ご利益があるだけ普通のモンスターよりはマシに見えるが,そこは悪魔である。大概の契約はフェアなものではなく,その後の対価もとてつもなく大きいのがオチだ。

 その後も定期的に会うラファエルは,自分の力で主人公たちを助けてやるという甘言で誘い,ミゾーラは契約を果たさなかった仲間のウィルに対価を払わせた……という流れだが,正直なところ初見では意味が分からないと思う。少なくとも筆者はそうだった。

ラファエルより出番が多いミゾーラ。悪魔なので仲間内の評判はとても悪いが,ラファエルとは違うタイプだ
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 また,再び魔術師の言及になるが,魔法を司る職業の細かい違いも理解するまでに時間がかかった。術者は大きく分けて「ウィザード」「ソーサラー」「ウォーロック」とあるが,筆者はしばらくその違いがさっぱり分からなかった。ざっくりと特徴をまとめておこう。

●ウィザード……重要なステータスは知力。学問や知識をベースに魔法を操り,巻物を消費することで新たな呪文を覚えられる

●ソーサラー……重要なステータスは魅力。ある種の才能や直感をベースに魔法を使う。呪文のスロットとは別に,魔力点という別のリソースを活用できる

●ウォーロック……重要なステータスは魅力。異次元の存在の力を借り,魔法を使う。呪文のスロットは少ないが,小休憩で再チャージできる。使える呪文がかなり独特

 どれも使いこなせるようになれば強いが,初心者向けのウィザード,玄人向けのウォーロック,その中間がソーサラーといったところか。基本的にやることがシンプル,リソース管理が簡単なほど,初心者でも活躍させやすくなるからだ。

ウィルの初期クラスはウォーロックだが,魔術師の中では最もクセが強い。うまくビルドすれば,怪光線が非常に強くなる
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 筆者がプレイ中,何度も考えたのは「ゲーム内に辞典があればいいのに」ということ。ロード中に表示されるヘルプや簡単なチュートリアル,作中には説明とフレーバーを兼ねた書籍やメモもあるが,ルールや用語が系統ごとに細かく説明されているわけではない。本作が完全オリジナルの作品であれば,丁寧にシステムや用語の解説が用意されただろうか。そうではないのは,原作であるD&Dの存在が大きく,あえて説明するまでもないということかもしれない。

ジャーナルにチュートリアルの項目はあるが,記述は最小限という印象。もうちょっと充実させてほしい
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 それは裏を返せば,D&Dを知らないとルールも世界も分からないまま,ひたすら手探りで進まざるを得ない。筆者が感じた「置いてけぼり」感や,「人を選ぶ」という評価は,まさにこうしたところに起因していると分析する。


ゲームの難度は,明らかに最初のハードルを高くしている。ただし,「探検家」を選ぶべきではない


 ルールがよく分からない,周囲の環境もイマイチ理解できない。そんな状況で初心者を次に悩ませるのが,本作の難度だ。はっきり言って,BG3の難度は高い。筆者はノーマルの難度「冒険家」で始めたが,チュートリアル終了後の脳みそ戦はともかく,その後のゴブリン戦やダンジョンの戦いも苦労した記憶しかない。

とはいえ,「最初はイージー難度の探検家を選べ」と素直に言い切れない問題がある
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 ルールが分からないまま,実戦に放り出されるのだから難しいのは当然ではあるが,実際にBG3は序盤ほど難度が高めだ。もちろん敵は後半になるほど強くなるが,何しろ序盤〜前半は主人公たちのレベルが足りないので,行動の選択肢が狭い,攻撃やスキルの効果が低い,装備もロクなものがない,場所によっては強すぎる敵が待つ……といった困難な場面がとにかく多い。
 その一方,後半では逆の状況になる。育成が終わったキャラは強く,有用なレア装備もあり,レベル上限である12に達するのが簡単なのでレベル差もない。グングンとパーティが有利になっていく。強力なボスなども登場するが,序盤のヒリついた難しさはかなり薄れる。

序盤に町を散策していたら,いきなりイベントと戦闘が始まる。足場は悪いし,味方は魅了されるし,ひたすら酷い目に遭った
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 そのため,BG3を最初にプレイするときは難度を下げたほうがいい。ただし,イージーに相当するプリセット難度「探検家」はおすすめできない。というのも,この難度では本作の醍醐味である「マルチクラスによる自由度の高い育成」ができなくなるからだ(マルチクラス機能が封印される。詳細は後述)。初心者ほど苦労する序盤の流れといい,なぜか要素が削られるプリセットといい,BG3の難度設定にはどうにも首を傾げる。

 したがって難度は「カスタム」を選び,戦闘に関する「敵の攻撃性」「キャラクターの力」を簡単なほうに変更しよう。これならば醍醐味をスポイルすることなく,慣れないうちは比較的手軽な戦闘をこなし,余裕が出てきたら設定を調節して,難しいバトルに挑める。
 2周目に挑むときは,十分にコツを掴んでいるので,最初からノーマルの難度,あるいはさらに上の「戦術家」でも楽しめるだろう。筆者も「こんなに序盤って簡単だった?」と,自身の成長にちょっと驚いたほどだ。

カスタムモードで難度を調節できる。最初は目につくところを「探検家」に設定するといい。ただし,マルチクラスは絶対「オン」
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BG3の“ココ”にハマった3選。取っつきにくさの壁を乗り越え,上質なRPGを体験しよう


 散々,躓きポイントを挙げてきたが,もちろんBG3を貶すために筆を進めてきたわけではない。本題は「こうした取っつきにくさを乗り越える価値があるゲームだ」という点であり,その理由をギュッと凝縮して伝えよう。本作の見どころは多いが,筆者がとくに体験してもらいたいポイントを3つに絞ってみた。

(1)レベルが上がるほど楽しくなるカスタムクラスのビルド

 本作のキャラクタービルドは自由度が高い。主人公を含むパーティのキャラには初期クラスが設定されているが,レベルアップ時にはそのまま成長させるか,別のクラスを取得するかを選べる。
 例えばレベル10の場合,シングルクラスならばウィザード一筋の10レベルになるが,マルチクラスならばファイターとソーサラーを5レベルずつ取得したり,もっと多くのクラスを“つまみ食い”したりして強化するという選択肢もある。どう組み合わせて強いキャラを作っていくのか,それぞれに強みがあるため,常に試しながらパーティを組んでいく過程が実に楽しい。

ファイター,ウォーロック,バードを組み合わせたカスタムクラス。鍵開け,会話,重装備,弓による遠距離攻撃,そして呪文。あらゆることができるようにした欲張りセットだ
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 一例として,シングルクラスで輝くのがファイターだ。終始一貫,敵を直接殴ることが役割となり,活動の幅自体は広くない。だがクラスレベルを11まで育てれば,基本が1ターンに3回攻撃,戦闘中に1回だけ使えるスキル「怒濤のアクション」を発動すれば1ターンに6回攻撃になるなど,とにかくシンプルかつ物理的に強い。

 一方,マルチクラスは複雑になるが,シングルクラスでは不可能なキャラメイクが売りだ。ウィザードとソーサラーをうまく組み合わせると,ソーサラーの強みを生かしたまま,ウィザードの特技「巻物で魔法を覚えられる」を取得し,活躍の幅をさらに広げられたり(ただし,レア装備がないとステータス的には中途半端になる),双方とも魅力のステータスが重要なパラディンとウォーロックを両取りし,近接攻撃も呪文も一線級の魔法剣士を作れたりする。
 ネットにはおすすめビルドの情報が多くあるが,これを自分なりにカスタムするのもまた楽しい。

ファイターを極めるだけで,どんどん強くなっていくレイゼル。シングルクラスだから弱いというわけではない
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 また,サブクラスを変えることによっても,キャラの特徴を少し,あるいは大きく変えられる。
 例えば「序盤のヒーラーの回復力が低い」問題は,仲間であるクレリックのシャドウハートに設定されているサブクラスが,そもそも回復に向いていないことが原因だ。そのため,シャドウハートのサブクラスを(回復向きの)「生命の領域」に変更すれば,基礎回復力は上がり,小休憩でリチャージされる回復手段が使えるようになり,使い勝手が劇的に向上する。
 シャドウハートのバックボーンを考えると合わない部分もあって微妙だったりするが,ポーションを潤沢に用意できないうちは選択肢に入れてもいいだろう。

信仰面はともかく,シャドウハートの序盤のサブクラスは回復特化にすると使いやすい。積極的に攻撃をさせる気がなければ,後半までずっとこれでもいい
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 さらに,仲間になるキャラは多いが,一度に連れていけるのは4人まで。したがって,役割分担をどうするのか,誰の何を伸ばしていくのか,どの装備を誰に与え,シナジーを高めていくのか。試行錯誤できることにはキリがない。
 ぜひ,自分なりの最適解を探し続けてほしい。


(2)いつでもどこでも「自由に行動できる」。環境に合わせるも良し,自分から環境に干渉するも良し

 BG3は会話で進行していくTRPGがベースなので,行動の自由度が極めて高い。というか,実質的な制限がほぼ存在しない。それだけに,いくらでも“工夫しがいがある”のだ。

 現代のRPGであれば,ボスと舌戦を交えて勝利すると戦わずに倒せることはよくある。逆に会話をすぐ打ち切って,戦闘に突入できることも珍しくない。BG3にもそうした場面はあるが,さらに「会話をしながら戦闘の準備ができる」ところが面白い。

会話中でも左下のアイコンをクリックすれば,キャラを切り替えてそのまま行動できる。あくまで会話しているのは1人であり,さらにマルチプレイにも対応しているからだろう。これなら視界の外に行くのも容易だ
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 操作中のキャラが話している間に別の仲間に操作を切り替え,それぞれ戦闘に有利な場所に移動する,あるいは戦いに備えて下準備ができるのだ。その後,会話中の無防備な敵を背中から撃つなり,殴るなりすればいい。
 ゲームの会話シーンについて,「どう見ても戦いそうな相手と,のんきに話し込んでるんじゃないよ」と思うこともあった筆者としては,こうした“対話”の方法があるのかと感心した次第だ。

 魔法の使い方もいろいろと応用が利く。CRPGでは戦闘時とそのほかのときに使える呪文を明確に区別していることが珍しくないが(例えば「ドラクエ」では,移動中にメダパニやラリホーは使えない),BG3にそのような制限はない。相手に危害を与える呪文でも常に,どこでも使えるし,目の前に敵がいなくても役立つことがある。

 最も分かりやすいのは,「濃霧」や「暗闇」といった視界を遮る魔法だ。敵の射程を著しく低下させたり,味方に対して狙われにくくしたりする場面で使うことが多いが,街中で使えば人目をはばかる行為も堂々と行える手段になり得る。
 アップデートにより,商人に対して堂々と使うことは敵対行為になったが,それでも発動自体は犯罪にあたらない。商人の近くで唱えて視界を遮れば,何かと都合がいい場面はたくさんあるというわけだ。
 また,「静寂」の魔法は周囲から音や声を一切消し去るので,誰かが助けを呼ぶ声を聞こえなくしたり,呪文の発動を止めたりできる。こちらも使い道は複数ある。

かつてはスリのお供だった濃霧や暗闇。手癖が悪い英雄が増えすぎたせいか,商人に直接使用するのは難しくなったが,周囲を隠して視界を切るには役立つ
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 「脂」も興味深い。これは文字どおり,広範囲に脂(油)をまき散らし,基本的には敵の足止め(セーヴィングスローに失敗すると転倒する)に使う低級呪文だ。脂は可燃性であるため,発動時に一部分でも火種にかぶせると,一瞬で広範囲を火の海にして敵を燃焼状態にする。
 与えるダメージは低いが,序盤の敵は体力も少ないので,これだけで簡易的な範囲攻撃魔法になる。燃えた地面に手持ちの武器を浸せば,炎をまとわせることができ,これもちょっとした魔法武器のように扱える。とにかく小技が効く。

脂で広範囲を爆発させると,なかなか爽快だ。一部を火種にかぶせれば,発動後に即爆発するが,あとから時間差で火を点けてもいい
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 BG3の戦闘は「ターン制のシミュレーションRPGのようだ」と言われることも多いが,筆者はシミュレーション色が強いというより,RPGとしてなるべく戦術の幅を広げるために,現状のシステムになっていると感じる。
 さまざまな環境やスキルを活用するには,移動とアクションは別々のほうが都合がいい。フィールドを生かした戦いをするためにも,シンプルに過ぎるコマンド式などは採用できなかったのではないか。


(3)自らの選択によって,周囲と仲間の運命が大きく変化していく物語。違った未来を見てみたくなる

 BG3の旅の目的ははっきりしていて,端的には「マインド・フレイヤーの幼生を脳に埋め込まれたので,(破滅が来る前に)それを除去する」という点に収束される。道中には紆余曲折があり,進めるルートが複数あったりもするが,シナリオの目的はぶれない。

 その一方で“それ以外の部分”,どんな旅をして,どんな選択肢を選ぶかはほぼプレイヤーに委ねられている。メインクエストやサブクエスト,そして仲間に関係するクエストも複数の展開が用意されており,さらに選んだ時点ではその後にどのような結果をもたらすのか,判然としないことも珍しくない。
 クエストや人物の存在に気がつくのか,見逃してしまうのか。それも一種の選択肢のようになっている。

仲間とのやりとりにもダイスロールが発生し,好感度が上下したり,展開が変わったりする。選択肢の数は膨大だ
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 BG3はこの部分が非常に細かく管理されていて,意図的に違う道を選ばなくても,周回プレイでも前回とまったく同じ展開になることはまれだ。連れていくパーティメンバーを変えるだけでも,クエストの展開や会話に変化が生じ,大きな選択を変更すれば,さらに異なる展開を楽しめるだろう。
 どんなに時間をかけても,BG3を初回プレイだけで遊び尽くすことはほぼ不可能であり,それだけに何度も繰り返しプレイしたくなるのだ。

 詳しく紹介するとネタバレになるので,なるべくぼかすようにするが,とくに印象に残っている展開を紹介しよう。
 筆者のパーティは「あるものを盗んでくれ」と依頼を受けた。必須のクエストではなく,やるかどうかは自由だが,そのときには実行し,多少の報酬を受け取った。ここでクエストは終了する。

 その後,何十時間も経ってから別のエリアに到着したところ,このクエストが発端と思われる事件が起きており,盗みの依頼主が想定外の状況になっていることを発見した。ここまでなら因果応報,あるいは自業自得といったところだが,これにはまだ先があって,その状況のままだと主人公に関わる人物が消えてしまうのだ。
 該当する人物は悪党でも何でもなく,友好的で物品のやりとりもできるくらいだが,前述した依頼主の関係者にトラブルが発生したことでイベントが潰れ,連鎖的にその人物と再会する機会もなくなってしまう。
 さらに言えば,こうした事実を知るのも別の選択をして物語を進めた場合の話だ。上記の流れでプレイしただけでは,その人物が消えたことすら分からないようになっている。

その後の展開に大した違いはなくても,選択肢が非常に豊富な場合もあり,これはこれで面白い。クラスやスキルに応じて特徴的な行動が見られる
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 筆者は600時間近くプレイしているが,最初から何度も周回したというわけではなく,選択後の結果が気になって,いろいろなタイミングから再開→進行といったようにセーブデータを増やしていった結果だ。我ながら落ち着きがないとは思うが,やっぱり自分が選ばなかった選択肢の結果はどうしても気になってしまう。

 本作の登場人物はそれぞれ固有のバックボーンと信念を持ち,それは仲間であるオリジンキャラに顕著だ。そして仲間に限らず,多くの人物が主人公の行動や選択の影響を受け,早々に退場したり,運良く命をつないだりする。ときには,邪悪の権化のような存在にも遭遇する。
 そうした多くの人々と関わり,想像以上に介入していけるのもまた,本作の醍醐味だ。大ボリュームの作品だが,最後まで投げ出さずにプレイできたのは,「自分の行動の答え合わせ」がちょくちょく出てくるのも影響しているのだろう。

少々ネタバレ気味になるが,非情な選択を続けているとオリジンキャラでも簡単にいなくなってしまう。なかなかドライだ
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 また,BG3のローカライズのクオリティは,ほぼ完璧に近い。ボイスこそ原語のままだが,どんな展開になっても違和感なく物語を楽しみ続けられるのは,日本語対応が万全だからこそと言える。


十数年ぶりのカルチャーショック。初見の大変さを乗り越え,奥深いRPGの世界にどっぷりハマってほしい


 ゲーム歴が長くなると,大概はジャンルを聞いただけで「どういったゲームなのか」は想像できるようになるが,ごくまれに想像を超えてカルチャーショックを受ける作品に出会える。筆者の場合,RPGで言えば「The Elder Scrolls IV: Oblivion」(以下,Oblivion)や「Fallout 3」などがそれにあたる。
 そして,BG3をプレイして,久しぶりに同じような衝撃を受けた。

 もちろん,OblivionとBG3から受けた衝撃は別物だ。Oblivionは広大なフィールドとリアルタイムのアクション,圧倒的な物量でRPGの1つの到達点を見せてくれた。一方,BG3はオープンワールドではないし,UIは斬新どころかゴチャゴチャしているし,ターン制バトルなどはむしろクラシカルだ。

ダイスロールはランダム要素が強く見えるが,きちんとゲームらしくステータスやスキルで補強すれば,成功率は上げられる
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 ゲームシステムやルールは非常に分かりづらく,取っつきにくいものだが,良く言えば斬新で理解するにつれて面白くなっていった。TPRG(D&D)を嗜んでいるゲーマーには常識的なのかもしれないが,筆者にとって序盤の暗中模索はなかなか出口が見つからなかった。
 「このゲーム,すごく面白いのでは?」と思えたのは,攻略サイトで見つけた「投げバーバリアン」のビルドを試して,ゴブリン相手に大暴れできるようになってからだ。“ほぼ確実に攻撃を当てられることの強さ”を知った場面でもあった。

投げの鬼と化したカーラックには,どれだけ助けられただろう……。戦闘とゲーム,両方の突破口を教えてくれた
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敵を濡らすと,電撃や氷のダメージは2倍になる。行動順をにらみながら,どこで濡らせるかを考えるのは戦闘時のお約束だった。序盤から終盤まで,ずっと使える戦法だ
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 余裕が生まれると気軽に試行錯誤ができるようになり,戦闘が有利になるスキルの使い方,ダメージを増やせる立ち回りも分かり,イベントなどで入手できる装備やアイテムの重要性も理解できるようになる。
 イベントの分岐を「面白い」と感じたのも,それからしばらくしたあたりだ。結局のところ,「楽しさを感じるための取っ掛かり」をどのタイミングで見つけられるかが重要だった。

 ゲームルールや世界観に馴染みがあれば,そのタイミングは早々にやってくる。だが,(筆者のような)そうではない人には,BG3はお世辞にもチュートリアルやヘルプが充実していないため,面白くなる前に投げ出してしまう可能性は高いだろう。2023年のゲームならば,もう少し“おもてなし”があってもいいと強く思う。

おもてなしはおもてなしでも,初プレイではこういったものなのがなんとも……
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 世界観に関しては,これを書いている現在でも理解が進んでいるとは言えない。そもそもゲーム内の登場人物や出来事は,D&D世界のごく一部でしかなく,とても全体を見渡せるものではなさそうだからだ。
 とはいえ,最低限の知識は得られたので,D&Dをモチーフにした作品(BG3の続編含む)を以前よりも楽しめそうだと感じている。

 前述のとおり,BG3の大きなトピックは「TRPGとCRPGの融合」だ。ただ,“TRPG(を嗜む)側”からは「よくぞ,ここまでビデオゲームで再現した」という見方になるもしれないが,一方で“CRPG側”からは「(歴史的には)古いはずなのに,逆に現代では新しい作品に仕上がった」と言えるのではないか。
 筆者が受けたカルチャーショックの根幹もまさにそこにあり,CRPGに慣れきった身に,RPGの源流の強烈な洗礼を受けた……といったところか。

 とはいえ,今になって思えば,最初の暗中模索プレイもあれはあれで楽しかった。今までの知識があまり役に立たず,躓きと理解を繰り返してゲームの世界観とルールを全力で覚えないと,なかなか先に進めない。自分自身,最近ではすっかり忘れていたRPGだった。
 分からないことが徐々に理解でき,応用が利くようになって,霧で隠れていたものが見えてくるような体験は,ゲームに限らず楽しいものだ。そして,BG3においてその体験を楽しめるのは,筆者のようなTRPGもD&Dも知らない人ということになるだろう。

 これを機に,BG3について興味を持った人はいるだろうか。「オススメしたいけど,諸手を挙げてオススメできるわけではない。だけど“よく分からない洋ゲー”で終わってしまうのは,もったいない」とずっと考えていて,本稿を執筆する機会を作ってもらった次第だ。

まったくの余談だが,機会はそこまで多くないが動物と話せると旅が一層愉快になる。ポーションまたはスキルを用意しておくことをオススメしたい
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 日本語版のリリース時には,TRPGやD&Dに造詣が深いライターによる適切なガイドや解説記事も掲載されているが,「何も分からない立場で,ゼロから学んでハマった」経験を発信するのは面白そうだし,同じ境遇の人は少なくないはず。そう考えたことも,執筆の動機になっている。

 DLCこそ配信されていないが,BG3は現在もアップデートを継続しており,MODに対応したり,新たなエンディングを追加したりと,まだまだ盛り上がりは収まっていない。決してヤワなRPGではないが,ちょっとでも興味が湧いたらプレイしてほしい。
 そして,本作の裏ヒロインであるエセルおばさんの,エセルおばさんっぷりに花を咲かせられる人が1人でも増えれば……筆者は本望である。

みんな大好きエセルおばさん。なぜ大好きになるかは……ぜひ自分で確かめてほしい
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「Baldur's Gate 3」公式サイト

  • 関連タイトル:

    Baldur's Gate 3

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    バルダーズ・ゲート3

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