インタビュー
ゲーム音楽はプレイヤーとの会話であり,空気のような存在。「ETERNAL」のサウンドを手がける帆足圭吾氏&高橋邦幸氏にインタビュー
前回のインタビューでは,キャラクターデザインを務める天野喜孝氏にビジュアル面へのこだわりを語ってもらったが,本作の注目点はそれだけではない。「ETERNAL」のサウンドは,音楽制作のクリエイター集団「MONACA」に所属し,「NieR:Automata」をはじめとする数々の作品の楽曲を制作した帆足圭吾氏と高橋邦幸氏が担当しているのだ。
今回は,音楽の注目のポイントに加え,両氏によるゲーム音楽に対するこだわりが語られたインタビューの様子をお届けしよう。
「ETERNAL」のゲーム内サウンドにMONACAの帆足圭吾氏,高橋邦幸氏が起用。楽曲「月下の輪舞」を試聴可能な動画やインタビュー映像も公開に
アソビモは本日(2019年11月1日),新作MMORPG「ETERNAL」のゲーム内サウンドに,MONACAの帆足圭吾(ほあし けいご)氏と,高橋邦幸(たかはし くにゆき)氏を起用していることを発表した。これに合わせて,ゲーム内で使用される楽曲「月下の輪舞」を試聴可能な動画と,インタビュー映像も公開されたので掲載しよう。
「ETERNAL」公式サイト
サウンド制作は“王道”への挑戦だった
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。まずは,お2人が本プロジェクトに参加した経緯からお聞きできればと思います。
MONACAでは,制作管理が依頼を請け,内容に合わせて所属作家に仕事を割り振る,というシステムを採用しています。今回は「2人に向いてる仕事だと思うんだけど,どう?」と話をいただき,その内容やスケジュール感を確認したうえで参加させてもらったという感じです。
4Gamer:
それぞれのクリエイターさんの特性などを見て,案件の割り振りが行われているんですね。今回はどういった部分に適性を感じたのでしょう。
高橋邦幸氏(以下,高橋氏):
言い方はちょっとアレですけど,いわゆる中二っぽい雰囲気といいますか,ゲームプレイの中でワクワク感をかき立てる曲を作るのが得意で,オケ(オーケストラ)っぽい作品も作れるということで,この2人に声がかかったんだと思います。
4Gamer:
昨今は変化球を狙いにいくタイトルが多い印象ですが,本作の作風は慣れ親しんだ“王道ファンタジー”で,壮大でいて中二感溢れるオーケストラ楽曲がマッチしているように感じられます。
帆足氏:
昔から変わらない楽器を使った音楽ですから,王道ファンタジーといえばオーケストラ,という印象はありますよね。ただ,それだけでは楽しくないので,制作した楽曲の中にはさまざまなエッセンスを取り入れています。
高橋氏:
正直に言うと,これまで自分ではあまり王道ファンタジーなゲーム音楽を作ってきた印象がないんです。だからこそ,今回いただいたお話は個人的にも面白そうだなと感じていました。
4Gamer:
王道への挑戦だったわけですね。
サウンドを制作するにあたって,アソビモサイドから楽曲に対するオーダーがあったかと思いますが,印象に残ったオーダーやエピソードはありますか?
帆足氏:
それがですね,ぶ厚い設定資料をドカッといただきまして。まずは「これはなんだろう……」と読み進めるところからスタートしました。
4Gamer:
というと,けっこう細かな資料まで渡されていたんですね。そういった設定資料をガッツリ受け取るというのは,わりと珍しい例なのでしょうか。
帆足氏:
ええ,これほど細かい設定をもらえるのは珍しいケースです。しかも設定としても初期の段階のものでしたから,制作にあたっても「ここにこういう曲をください」ではなく「この設定にどんな曲をつけたいですか?」といった,珍しいスタイルでの制作になりました。
あんなぶ厚い資料は見たことなかったですよ(笑)。ただ,曲を作るにあたって「あの曲みたいな……」といった指示はほぼ受けませんでした。設定や世界観の共通認識をしっかり構築できたので,制作自体はかなり自由にできました。
帆足氏:
もちろん資料だけでなく,ゲーム画面を実際に確認させていただいたりして,世界観に対する認識の共有はガッツリやってましたよ。しっかりと方向性のある自由さだったのはありがたかったです。
4Gamer:
一般的なゲーム音楽の場合,もう少し明確に作る楽曲の方向性が決まっていたり,オーダーが細かいものだったりするんですか?
帆足氏:
そうですね。ゲームの場合は事前に必要な楽曲がリスト化されていて,「この場面に何分くらいの曲がほしい」といった明確なオーダーをいただくことが多いです。PV用の曲やメインテーマを先に制作して,ゲーム内で使用する細かな楽曲はその後に発注するといったケースも多いです。そういった意味では,貴重な体験だったかもしれません。
4Gamer:
そんな本作の楽曲に込めた想いや,意識的に織り込んだ要素などがあれば教えてください。
高橋氏:
「ETERNAL」は,フィールドの広大なMMORPGなので,言ってしまえば“何も起こらない”時間が非常に長いんです。だからバトル以外の音楽は“濃すぎない塩梅”を意識して作っています。
帆足氏:
そういった楽曲はクドすぎると「もういいよ!」ってなっちゃうので,なるべく落ち着きのある進行を心がけました。
4Gamer:
MMORPGでは,フィールドが雑談の場所になったり,放置狩りで長居したりもしますからね。
帆足氏:
こういったスタイルの作品は,期待されている曲の方向性が比較的明確で,プレイヤー的にも「だいたいこういう曲が出てくるだろう」という意識があるんです。フィールド曲については,そうした想像に沿ったものを主に制作しました。でも“そうでない部分”では,一味違った曲を用意していますよ。
高橋氏:
集落に入ったときや,バトルが始まったときの曲調は明確に分けているので,そこでメリハリを強調しています。とくにバトル音楽は「これでもか!」ってくらい盛り上げているので,そのあたりも注目してみてください。
4Gamer:
想像と期待に応えつつも,出すべき場所ではしっかりとオリジナリティを出しているぞと。
帆足氏:
はい,ご期待ください(笑)。
4Gamer:
「フィーリングをもとに曲を構築していくのか,それともロジカルにプロダクトに合わせた曲作りをするのか」といった質問をする予定だったのですが,お話を聞いていると,お2人とも比較的ロジカルに曲作りをされる印象を受けますね。
高橋氏:
フィーリングが関わってくるのは,今までお話ししたようなことのあとの段階ですね。なので「両方とも必要」というのが回答になるんじゃないかと思います。
帆足氏:
大前提として,今回はゲームの音楽ですから,好き勝手に作るわけにはいきません。最初から最後まで「俺の歌を聞け!」をやるのは無理なので,まず「この範囲で自分の好きなものを作ろう」という枠を決めるんです。「求めているものができあがりました。はい完成」ではなく,求められている要素をクリアしたうえで“プラスアルファ”で楽しめる要素を追加する。そこにフィーリングが要るわけです。
4Gamer:
なるほど……。では,本作の楽曲の中でとくに注目してほしい曲を挙げるとしたらどの曲でしょうか。
帆足氏:
ラスボス曲ですね! ……というのは流石にどうかと思うので,ここではボス戦の楽曲をオススメしたいと思います。
高橋氏:
先ほどお話ししたとおり,フィールドの曲は落ち着いた雰囲気になるよう作曲しています。そのぶん,ボス戦ではそういった配慮みたいな部分をとっぱらって,日本のゲームらしいある種の“クサさ”がある,とにかく熱く盛り上げるテイストを盛り込んでいます。そこはぜひ,フィールドで流れている曲との差を楽しんでほしいなと。
4Gamer:
ちなみに,本作ではどれくらいの楽曲を制作されたんでしょう?
帆足氏:
トータルで31曲を作っていて,僕と高橋で半分ずつ制作しました。尺もそれぞれ3分くらいあるので,延べ時間で見るとけっこうな長さです。
4Gamer:
おお,コンシューマゲームと比べても遜色ないくらいの曲数ですね。ぜひサウンドトラックの発売を期待したいところです。
ゲーム音楽はプレイヤーとの“会話”であり
世界の雰囲気を形作る“空気”でもある
4Gamer:
お2人はアニメでもさまざまな楽曲を制作されていますよね。ゲームの曲とアニメの曲で,作り手にとっての違いはありますか?
帆足氏:
かなり違いますね。ゲームの曲はループが前提なんですが,アニメの場合は一定の長さの曲を納品するんです。こちらが納品した曲をクライアントが編集してカットし,作品に合わせてあててもらう感じになりますね。
高橋氏:
発注リストを見て作るものの,最終形はオンエアまで分からないことが多いです。
演出面の指示で「どうしてもここに合わせたい」というシーンでは,絵合わせで音楽を作る/調整するといったオーダーが来ることもありますが,あくまで作った曲をクライアント側で編集するスタイルが基本になります。
4Gamer:
確かにアニメの場合は単一の曲がずっと流れるようなことはありませんね。そうした違いは,どんな形で曲に反映されるのでしょう。
帆足氏:
アニメの場合は起伏の激しい曲を作ったとしても,音響監督が音楽をあてるときに,シーンの盛り上がりに合わせて音を編集してくれるんですよ。
ただ,ゲームの盛り上がりのポイントはプレイヤーによって違うので,音楽の起伏とプレイ状況を合わせるのが困難なんです。
高橋氏:
そういった事情もあって,1つの曲の中で極端に幅を作らないというのは,ゲーム的な曲作りの特徴と言えるかもしれません。もちろん,これは基本的な考え方であって,状況によってはトリッキーな曲が合う場面もあると思います。
帆足氏:
ラスボス曲でめちゃくちゃ起伏の激しい曲を作って,静かな部分でラスボスを倒してしまったら落ち込んじゃいますね(笑)。
(一同笑)
帆足氏:
最近の技術で面白いと感じたのは,複数のトラックを重ねて収録し,ゲームプレイの状況に応じて曲が変化するシステムを用意しているゲームもあることですかね。そういった仕掛けを作れるのは,ゲームならではの要素と言えそうです。
4Gamer:
聴く側としてはかなりアガるシステムですが,作り手としてはなかなか大変そうなシステムですね。
話は変わるのですが,じつは以前,アートワークとキャラクターデザインを担当された天野喜孝さんにインタビューを行って,「天野さんにとってのキャラクターデザインとは?」といった質問をしたところ「役者を作ることだ」という答えをもらいました。では,音楽の制作者にとってのゲーム音楽とは,どういったものなのでしょうか。
帆足氏:
個人的には,ゲーム音楽制作は“会話”のようなものだと思っています。相手が何を感じているのかを一生懸命に考えて,並行して自分のやりたいことを考える。最終的に,自分を含めてみんなが幸せになれる形を目指すのが,音楽制作なんじゃないかなと。
いろいろなプレイヤーの感想を聞くと「こういう人はこの曲にこんな印象を受けるのか」といった情報が集まりますよね。そういった曲を聴いて湧き上がった感情のフィードバックに,クライアントから汲み取った意図を混ぜ合わせたものが僕の音楽なんです。音楽を作るときは,そうした実務以前に行われる会話の部分を大切にしています。
キャラクターデザインが役者作りなら,役者が劇をする世界の“空気”を作るのがゲーム音楽じゃないかなと。「あの場面ではこんな雰囲気だった」といった,記憶と紐付けられる空気感を作るために音楽をつけると思うんです。
ゲームの制作側も「ここではこう感じてほしい」という意図があるので,それを補強するのが音楽なんですね。演出の意図を正しくプレイヤーにつなげるのが音楽の役割だと思っています。
4Gamer:
ありがとうございます。では最後に,これからゲームを遊ぶ人たちに向けてメッセージをいただければと思います。
帆足氏:
スマートフォンで気軽に楽しめる作品ですので,楽曲から気になった方もまずはダウンロードして,触れてみていただけると嬉しいです。よろしくお願いします!
高橋氏:
グラフィックスも非常に綺麗な作品ですので,それがよりイキイキとするように“空気”をたくさん作りました。そこも合わせて,「ETERNAL」の世界を楽しんでください。
天野喜孝氏が語る“役者創り”とは。「ETERNAL」のキャラクターデザインについて聞く
アソビモが2019年秋に配信予定の新作MMORPG「ETERNAL」は,5月に行われた第1回クローズドβテストでその世界の一端がお披露目され,話題を集めている作品だ。本稿では,そんな本作のキャラクターデザインを務める天野喜孝氏への合同インタビューの様子をお届けする。
「ETERNAL」公式サイト
(C)ASOBIMO,Inc. All rights reserved. (C)YOSHITAKA AMANO
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