連載
レトロンバーガー Order 23:Retrowaveや「Va-11 Hall-A」の魅力は実際レトロ的なものなのか,日比谷Barで「ドルフロ」しつつ考えていたんだ編
というわけで「Va-11 Hall-A」コラボイベントに釣られて「ドールズフロントライン」(iOS / Android,以下ドルフロ)を始めたんですが,いやイベントシナリオが超面白いですね……。「Va-11 Hall-A」はPS Vita版でトロフィーコンプ済なものの「ドルフロ」は未プレイで,「よくあるゲストキャラ&コラボシナリオとかそんなやろ」と思っていたら,まさか両タイトルをベースの設定からミックスしたシナリオが繰り広げられるとは。
原作ではホワイトナイトとしての活動が直接的に描かれなかったセイが,ジェリコに銃を突きつけて,任務と友情,謀反の罪と再生可能な人形の命を天秤にかけたシーンから「あれ……面白いのでは……?」となり始めて,「メモリーに刻まれた,世界の崩壊を防ぐため自身を敵中枢システムの代替にした相棒の姿」というアンドロイドのキャラクターでなければ描けない描写にハヤカワ畑のSF読みとして「やられた!」となり,最後は,いやあ,アレですよ。アレ。
それにグリッチシティとグリフィスシティ,“幻想じみた現実”と“現実じみた幻想”を交錯させるなんて,そんなのデヴィッド・リンチ氏や今 敏氏あたりがやるもので,美少女キャラクターをウリとしたゲームで見られるとは思いませんでしたよ。2000年代の実験的シナリオが全盛だったころの美少女ゲームだったら,むしろ何かあったかもしれませんが。
いやー,こんなシナリオいけませんよ。出ちゃいますよ。俺星雲賞が出ちゃいますよ。何なら俺ヒューゴー賞と俺ネビュラ賞も出ちゃいますよ。本当いけませんよ。
あと「ヒューゴーとネビュラのどっちがワールドコンだっけ」と調べて知ったんですけど,ネビュラ賞って今「ゲームライティング部門」があるんですね。昨年の受賞作は「Black Mirror: Bandersnatch」や「God of War」,「Rent-A-Vice」など。シナリオの質としては「ドルフロ×Va-11 Hall-A」ならノミネートくらいは全然アリだと思うけど,前の入選作を見ると方向性的には見向きされなさそうだなあ……。仕方ない,やっぱり俺星雲賞を出すか……もらったほうが迷惑だからやめとくか……。
そんな感じで,やろうと思えば「ところで『アド・アストラ』観た?」だのとSF話を延々続けることもできるのですが,それは置いといて,せっかくなので今回は「Va-11 Hall-A」について,本作のまとうレトロな雰囲気は“本物”か? という話でやっていきましょう。
「VA-11 Hall-A」は,Ysbryd Gamesから2016年6月にSteamで発売された,Sukeban Gamesの開発によるアドベンチャーゲーム。英語版の正式タイトルは「VA-11 Hall-A: Cyberpunk Bartender Action」であり,アクションゲームな雰囲気が無くもないですが,日本での分類的にはテキストアドベンチャーゲームです。カメを踏んだりはしません。
PC版はWindows / Linux / Macに対応しているほか,2017年11月にPLAYISMから日本語対応のPS Vita版および,PC版の日本語化アップデートがリリース。今年5月にPS4 / Nintendo Switch版もリリースされていて,現行機なら大抵のプラットフォームでプレイ可能です。
グラフィックスは低解像度のピクセルアートで描かれていて,ゲームシステムは親切とは言い難いオールドスクールなもの。画面構成は中央〜左上にメインウインドウ,下部にテキストウインドウ,右にメニューウインドウという形で,PC-98時代のゲームを彷彿とさせる……と言いたくなりがちな本作。ですが,本当にそうでしょうか?
グラフィックスの色使いはPC-98らしいものではなく,
レトロなように見えて,「Va-11 Hall-A」はモダンそのものです。でも「Va-11 Hall-A」を見たとき,君は,きっと言葉では言い表せない,レトロ感への「ときめき」みたいなものを感じてくれたと思う(バーボンハウス)。殺伐とした世の中で,そういう気持ちを忘れないでほしい。
とくに「Va-11 Hall-A」が現代的であると言えるのが,BGMにPC-98らしいFM音源テイストでなくRetrowaveを採用したところです。Retrowaveは,1980年代のアメリカ映画やドラマなどの音楽をオマージュした新しめの音楽ジャンル。サブジャンルにはOutrunや,むしろこっちが有名かもしれないVaporwaveなどが存在します。
Retrowaveミュージックを採用したゲームは「Hotline Miami」や「Far Cry 3: Blood Dragon」が有名ですね。映像作品だと「カン・フューリー」や「ストレンジャー・シングス」など。これらの映像作品にゲームをテーマにした部分があったり,先述したOutrunはセガの「アウトラン」から名前が取られていたりと,ビデオゲームの影響が大きかったりもします。
Retrowaveの特徴とは何か――その一つは(どちらかと言うと,とくにVaporwaveの評論で言及されがちなものですが)現代的な絶望との親和性です。荒廃したショッピングモールを題材とした映像作品を制作しているYouTuber・Dan Bell氏は,TEDにおいて「Vaporwaveは単なるスタイルではなくムーブメントです。虚無的で不安に満ちていますが,なぜか心が休まります。(略)そんな世代の絶望感を表現したいという願望から生まれました」と述べました。また,インターネット文化を専門とする文筆家・木澤佐登志氏は,講談社の現代ビジネスで「輝かしい将来を想像すらできず,未来を『喪失』としか捉えることができない人々に向けて,心地いいノスタルジアの癒しを提供している」と記しています。
Retrowaveがテーマとしているのは「現代的な絶望を慰める人工のノスタルジー」,違う言い方をすれば「非実在のレトロ感」です。別名であるSynthwaveの“Synth”部分はシンセサイザーから来ているようですが,「“人工”のノスタルジー」を演出するにはあまりにも適したネーミングでしょう。そして,PC-98時代のゲームの模造品であり,漠然とした抑圧のある社会を背景として,人工化合物で作られた酒と,刹那的に生きる人々を描き,存在しないノスタルジーを表現する「Va-11 Hall-A」には,このうえなくマッチした音楽ジャンルと言えます。
話が音楽的なほうに寄りましたが,そういったテイストで作られた「Va-11 Hall-A」は,“本物”のレトロ感があるゲームではなく,現代でしか作り得ないもので,ここにあるレトロ感は“偽物”なわけです。
ただ,「Va-11 Hall-A」やRetrowaveにある“偽物”のレトロ感は,本当に“本物”ではないのでしょうか。まあ変な話ですが。
9月1日〜30日の期間限定で,日比谷Barの各店で「Va-11 Hall-A」カクテルコラボが提供されていました(関連記事)。ここで提供されたのは「シュガーラッシュ」と「ふもふもドリーム」。「Va-11 Hall-A」の世界では酒類の入手が難しくなっており,カクテルは人工化合物を組み合わせて作られていますが,日比谷Barで提供されたものは当然ながら本物の酒類が使用されています。
つまり日比谷Barで提供された「本物のシュガーラッシュ」は,「偽物を本物で再現した偽物」ですね。果たして,これは“本物”でしょうか? ハイもっと変な話になってきた!
「ドルフロ」の「Va-11 Hall-A」コラボイベントで,スプリングフィールドの「あなたは,偽物を受け入れられますか?」という問いに,ジルは「それ(化合物カクテル)がもたらす酒酔いは本物です。酒に酔い,感情をコントロールできなくなるのも本物です」「そして,その感情が本物だからこそ……偽物の中にも,本物があるのかもしれません」と答えました。
「Va-11 Hall-A」というゲーム自体や,Retrowaveもそうではないでしょうか。偽物のレトロ感で構成された,それらが演出する「人工のノスタルジー」は,それを感じること自体については“本物”であろうと。
「レトロゲームIPの最新活用例」を追っていると,どういった感情を向ければいのか難しい場面がしばしばあります。先週リリースされた「TATSUJIN classic」(iOS / Android)なんて正にソレですね(関連記事)。この時代に東亜プランの「TATSUJIN」が復活したことは喜ばしい。ただ,アーケードゲーマーの望む本物の「TATASUJIN」が復活したとは言えない。
でも,「TATSUJIN classic」を見たとき,アーケードゲーマーは,きっと言葉では言い表せない,「ときめき」みたいなものを感じてくれたと思う(バーボンハウス2軒目)。本物のアーケードゲーム「TATSUJIN」でなくても,本物の感情を動かせるなら,そこに価値はあるんじゃないか。
ここ最近のレトロゲーム復刻やプラグアンドプレイ型ゲーム機,レトロオマージュのアートなどは,「あんなのは本物じゃない」や「新しいものを作れないだけ」といった嘲笑の声を呼んだりもしています。そんな殺伐とした世の中で,本物の感情が動いた,そういう気持ちを忘れないでほしい。そう思って,あとバーボンハウスってネットユーザー100人中98人くらいに通じるネタだと決めつけて,この記事を作っているんだ。
じゃあ,注文を……まあ,それは日比谷Barのバーテンダーに言おうか。「Va-11 Hall-A」コラボは終わったけど,銀座店のバーテンダーさんには大学でeスポーツサークルに入っているという人がいたりもしたから,何かそういう系の新しい出会いや発見もあるんじゃないかな。バーって言うと高尚なイメージを持つ人もいるけど,そんな偏見に臆せず気楽に行けばいいさ!
それにしても,いろいろ難しい国のベネズエラで日本製コンテンツに影響を受けた「Va-11 Hall-A」が出て,これまた難しい国の中国で日本製コンテンツに影響を受けた「ドールズフロントライン」が出て,それらがコラボしたコンテンツを日本で遊べるなんて,なんだか世界平和のキッカケみたいなものはここにある気がしますね。ゲームは基本的に暗い話なんだけど。
「VA-11 Hall-A」公式サイト
「ドールズフロントライン(旧名:少女前線)」公式サイト
「ドールズフロントライン(旧名:少女前線)」ダウンロードページ
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ドールズフロントライン(旧名:少女前線)
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- 編集部:早苗月 ハンバーグ食べ男
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