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パラリンピックの公式ゲーム「The Pegasus Dream Tour」説明会。田畑 端氏が率いる“社会課題を解決する”JP GAMESの展望も明らかに
本説明会ではゲームの概要が紹介されたほか,プロジェクトの内情や田畑 端氏が率いる同社の展望なども明かされた。
「The Pegasus Dream Tour」の概要は,JP GAMES サステナブル事業部のCOプロデューサーを務める門田瑛里氏により説明された。
また,同事業部は前提として“ゲームテクノロジーを活用して社会的な課題の解決を目指す”ことをミッションとしているらしい。
ミッションの第1弾となる本作は,ゲーム体験を通じて持続的な社会課題に貢献することと,パラリンピックのリブランディング(既存の商品・サービス・ブランドなどを再構築・再定義し,昇華すること)を目的とした,世界初のパラリンピック公式ゲームとなる。
舞台は,理想の未来の実験場であるオンライン仮想都市「ペガサスシティ」。そこで“新体験のアバターRPG”を提供する。
門田氏いわく,本作を楽しむことがそのまま社会解決の糸口につながり,またソーシャルグッド(社会に対して良いインパクトを与える,の意)を引き起こせるようにと作ってきたらしい。
作中では,スマートフォンで撮影したプレイヤー自身の画像から,ゲーム内アバター「Mine」を生成する。Mineはプレイヤーがプレイアブル操作するのではなく,各自が記入したプロフィールから性格が自動形成され,自らの意思で世界中のMineとコミュニケーションを図り,フレンドを増やして,Mine同士の関係をオートマチックに構築していく。
Mineたちの目標は「ペガサスパラスポーツグランプリ」に出場し,金メダルを獲得すること。そのために彼ら彼女らは日々トレーニングを重ね,コンディションを整え,試合に臨む。そしてプレイヤーが操作するのはMineの行動ではなく,どう動いてほしいかの指針になるという。
ゲームプレイの負担は大きくなさそうな,言ってみれば“架空の自分のアスリート生活を大まかな操作で手軽に楽しむ作品”と評せる。
ペガサスシティは,IPCの掲げるマネジメント方針「ダイバーシティ&インクルージョン」(※)の理念をもとに設計された。
※性別・年齢・障がい・国籍などの外面属性,ライフスタイル・職歴・価値観などの内面属性に関わらず,それぞれの個を尊重し合い,活かしていく,多様性(ダイバーシティ)を包摂(インクルージョン)した,ゼロからのスタートを可能とする文化・制度を目指すアプローチ
都市は長期的な視点で見ると,さまざまな社会課題の提示,よい未来につながる提案を通じて,より快適に過ごせる環境を形作っていくという。門田氏も「誰かの助けが必要な人と,支援したい人が出会えるマッチングの場として進化させていきます」と展望を述べていた。
同事業部の方針のとおり,ゲーム世界で社会的な課題解決を図るためシミュレート体験,とでも言うべきチャレンジングだ。
ペガサスシティには時間の流れが存在し,1日のはじまりに「大神宮でおみくじを引いて」,その日のMineのコンディションを確認する。
その後は食事をしたり,トレーニングをしたり,ときには映画などを鑑賞してリフレッシュしたりと,Mineはリアルのパラアスリート同様の生活を送りつつ,世界中のMineと交流を図り,競技大会に出場する。
生活様式の再現のためか,ゲームには今後「ライブ会場」や「スタジアム」といった施設も実装予定だという。
ローンチ時に実装される競技種目は,パラスポーツの「ボッチャ」(※)と「100mスプリント」の2種目だ。
続いて8月に「車いすバスケットボール」「車いすレース」「ブラインドサッカー」の3種目が追加される予定だ。
※運動能力に障害がある競技者向けのスポーツ。カラーボールを投げたり,転がしたりして,ほかの球に当てるなどしつつ,いかにジャックボール(目標球)に球を近づけられるかを競う。障害により球を扱えない人でも,自らの意思を介助者に伝えることができれば参加できる
また,ゲームに慣れていない人や障がいを持つ人でも本作を楽しめるよう,どの競技も“基本的にオートで進行する”とのこと。
プレイヤーは「ギア」と呼ばれるMineの装備を選択し,Mineがどのように行動するかの指示を出すだけでいいそうだ。
さらにリアルのパラリンピック開催期間中は,ペガサスシティ内でも「競技大会」を開催するとアナウンスされた。
作中には,実在するパラアスリート9名が登場する。彼らとチャットや対戦ができるイベントクエストも順次配信予定とのこと。
さらに,ペガサスシティの市長代理は「ドラえもん」が務める。
ドラえもんには「どこでもドア」といったおなじみのひみつ道具に加え,本作オリジナルの「PEG」(Personal Ecosystem Guide。多忙なドラえもんに代わるゲームのガイド役)や「アバターカメラ」がある。
ゲームのアンバサダーには,フィギュアスケートの羽生結弦選手が就任した。羽生選手もゲーム好きと知られるだけあり,ゲームを通じてパラリンピックを盛りあげるという本施策に共感を示したという。
なお,羽生選手がゲームに出演するのは,本作が初めてとなる。
続いて,本作のアートディレクターを務める石崎晴美氏より,アート面に関する説明もなされた。デザイン全般は“理想の未来の実験場を表現する,少し先の未来”をテーマにしているという。
そして石崎氏には,本作プロデューサーのJP GAMES 代表取締役 CEOである田畑 端氏から「ペガサスシティは渋谷のスクランブル交差点のような場所にしてほしい」というオーダーがあったようだ。
要望を聞いた石崎氏は,それを「多種多様な価値観や個性を持つ人々が世界中から集い,躍動的に進化し続ける場所にすること」と解釈し,人が集いたくなる,お祭りのような活気のある場所をと心がけた。
具体的にはカラフルで暖かみのある色使いや,掲示板などのガジェットがアニメーションするなど,視覚的にポジティブさが伝わるようこだわったという。またインタフェースや機能面に関しても,至るところでバリアフリーに配慮したデザインを目指したと語った。
加えて,ペガサスシティ内は大会やイベントなどの開催期間中,雰囲気がガラリと変化するらしい。これは都市自体が意思を持っており,自分の意思で街並みを変化させる,といったイメージに基づいた設定だ。
そのほかコンセプトアートやキャラクターデザインには,パラアスリートの持つ潜在能力や力強さを表現するべく,クリエイターのGODTAIL氏を起用した。国内のみならず,海外からの反響も大きいという。
ここで説明会のゲストとして,IPC理事の山脇 康氏が登壇した。
山脇氏は2013年にパラリンピック2020の日本招致が決定して以来,認知度の低かったパラリンピックおよびパラスポーツをどのように盛りあげるか,とくに若年層に対してどのようなアプローチをするかに悩んでいたこという。そんなとき,JP GAMESの田畑氏からパラリンピックのゲームを提案され,「これはすごいことになる」と直感したらしい。
本作は企画過程において「単にパラリンピックを楽しむゲームではなく,“パラスポーツを通じて社会を変える。違いを認めて誰もが生き生きと活躍できる”をどのように具現化していくか」に関して,田畑氏らJP GAMESのスタッフと熱く語り合ってきたとのこと。
また,山脇氏は本作を「パラスポーツを知らない人でも,自然と多様性や違うことの素晴らしさを感じられるようになり,またアスリートや新たな友人と出会える,パラスポーツが実現しようとする共生社会やダイバーシティ&インクルージョンの社会を,言葉だけでなく楽しみながら身をもって体験できるすばらしい教育プログラム」と評した。
同じくゲストとして登壇したのは,ブリヂストンのオリンピック・パラリンピック推進部 渉外・支援推進課長である鳥山聡子氏。
鳥山氏からは,同社がパラリンピックのワールドワイドパートナーであり,その活動の一環として「ゲームを通じて社会を変える」「多様性のある社会を(まずはゲーム内で)作る」というビジョンに共感し,本作のファーストスポンサーになることを決めたと述べられた。
会の最後に,田畑氏から本プロジェクトおよびJP GAMESのこれまでの経緯と今後の展望が語られた。
田畑氏はゲームの知識がある人は存じているだろうが,スクウェア・エニックスの「FINAL FANTASY XV」などを代表作とするゲームクリエイターであるが,2019年2月,長年にわたり考えていたという「自身のキャリアの後半に取り組みたい」の思いを実現するべく,会社を離れ,新たに自らの会社であるJP GAMESを設立した。
元スクウェア・エニックスの田畑 端氏が新会社「JP GAMES,Inc.」を設立。2019年1月のスタートに向けて準備中
「FINAL FANTASY XV」のディレクターで,10月31日をもってLuminous Productionsおよびスクウェア・エニックス・グループから離れたゲーム開発者の田畑 端氏が,自身のfacebookにて本日,新会社「JP GAMES,Inc.」を設立したことを発表した。2019年1月スタートを目指して準備を進めているとのことだ。
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- 編集部:Junpoco
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田畑氏が考えていたことは2つ。1つは「ゲームをエンターテイメントとしてより進化・発展させること」。もう1つは「ゲームの力を社会的な課題解決のきっかけとして活かしていくこと」であった。
とくに社会的貢献を前提としたゲーム事業というのは,JP GAMESの設立以前はほとんど事例がなく,ビジネスの原型そのものから作り上げなければならない,大きなチャレンジになったとのこと。
そこで,新たな挑戦をするのに最も適しているであろう題材として着目したのが,パラリンピックのゲーム化だったそうだ。当初は自身もパラリンピックについて深く知っているわけではなかったが,「パラリンピックのゲームに関心はないか」と打診を受けたことで,具体的な形をイメージしきれていなかった社会貢献の計画が見えてきたのだとか。
パラリンピックのゲーム化について,当時IPC CEOのシャビ・ゴンザレス氏と初めて話をしたのは,JP GAMES設立前,2018年末のこと。
ゴンザレス氏はこの提案に対して,IPCが前向きであると説明する一方で「個人的には,あまりゲームを快く思っていない。自分の子どもがゲームを遊んでいるのを見ていると,これは本当に必要なものなのかと疑問に思うことがある。それと同様にパラリンピックのゲーム化も,世の中に本当に必要なのか疑問だ」と告げられたという。
しかし田畑氏は,この言葉に心を動かされ,あらためてパラリンピックのゲーム化を,社会的貢献を果たせるゲーム事業に挑戦することを決断した。そう思われているネガティブさ自体を払拭すること,それにたきつけられたのだろう。そしてゴンザレス氏には「ゲームは体験するメディアであり,使い方によって世の中をよくすることが可能だと私は考えている。そういう仕事をするために,独立する準備もしている。その取り組みの1作めとして,ぜひパラリンピックのゲーム化にチャレンジさせてほしい」と返答したことを明かした。
それから2019年2月,正式にプロジェクトがはじまった。
当初,どうすればパラリンピックを新たにブランディングできるか,どうすればIPCの抱く課題を解消できるか,パラリンピックの根幹にある「人と技術・企業のコラボレーション」のすばらしさを人々に伝える方法はなんなのか,それらを考えるなかで思い至ったのが「短期的に大きな収益を上げることのできない事業になるだろう」ということ。
というのも,動画配信サイトなどに投稿されているパラリンピック関連の動画再生数が,非常に少なかったからだ。つまり,パラリンピックそのものに関心を持っている人がほとんどいなかったわけである。
そこで田畑氏は「今,パラリンピックのゲームを出しても,題材に関心を持って遊んでくれる人はほんの一握りだ」と結論づけ,コンテンツとそれを支えるビジネスを切り分けることにした。
コンテンツは,まさに現在説明中の「The Pegasus Dream Tour」である。そしてもう一方のビジネスは,ゲームの基盤となる技術を改修し,それを“パッケージ化して企業に提供すること”に決めた。
本作は本来,2020年7月に配信を開始し,後々にゲームを開発した技術のパッケージ「The Pegasus World Kit」を提供する予定だったという。しかし新型コロナウイルス感染症の影響でスケジュールは大きく変わり,キットは2020年後半にβ版として提供を開始することになった。
とはいえ現時点でも,2021年5月発表のANAの仮想旅行プラットフォーム「SKY WHALE」の開発に同キットが導入されており,現時点でもほかに数社がキットの採用を検討しているそうである。
そういった内情を赤裸々に語ってくれた田畑氏は,最後にあらためて,JP GAMESではゲームによる社会貢献を推進していくこと,エンターテイメントとしてのゲーム体験を進化させていくこと,その両立を図っていくという同社の意気込みを述べた。またゲーム体験の進化については,「そう遠くない将来に情報を公開できるだろう」とも話した。
リアルの課題解決のためにゲームを利用する。意志を同じくするプロダクトはほかにも思い浮かぶものの,本作のような結びつきを構築し,理念以上の内容・体験を期待させてくれるアプローチとなると数は多くない。当のゲームは本日配信されており,すでにプレイ可能である。
まずは実際に遊んでみて,彼らの挑戦を体感してみてほしい。
世界初のパラリンピック公式ゲーム「The Pegasus Dream Tour」が配信開始。アンバサダーに羽生結弦選手が就任したことも明らかに
JP GAMESは本日(2021年6月24日),スマホアプリ「The Pegasus Dream Tour」(ザ ペガサス ドリーム ツアー)の正式サービス開始を発表した。本作は,世界初となるパラリンピック公式ゲーム。また,フィギュアスケートの羽生結弦選手が本作のアンバサダーに就任したことも明らかにされた。
「The Pegasus Dream Tour」公式サイト
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(C) 2021 JP GAMES, Inc. THE PEGASUS DREAM TOUR, and the shield logo are trademarks of JP GAMES, Inc. All other trademarks and trade names are property of their respective owners. c 2021 The International Paralympic Committee (IPC).
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