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[G-Star 2019]キム・ヒョンテ氏の新作は,リアルなクリーチャー表現のために模型を作って撮影。「Project EVE」の開発手法が紹介された講演をレポート
今回の講演は,そのうちの1つ「Project EVE」での開発手法を紹介するものとなっていた。
まずは「Project EVE」のざっくりとした概要をまとめておこう。本作は,ハイエンドグラフィックスのシングルプレイ用アクションアドベンチャーとして開発が進められているタイトルだ。対応プラットフォームはPCとコンシューマゲーム機,クラウドサービス。世界観はポストアポカリプスとSFで,プレイ時間は15〜35時間ほどになるという。開発期間は3年ほどだそうだ。
キム・ヒョンテ氏は「ブレイドアンドソウル」の開発に携わったときから,「なぜ3Dハイエンドグラフィックスのゲームは,いつも高くて作りにくいのか」と考えていたという。キャラクター1人の服と顔を作るだけで,平均3か月以上の時間がかかってしまう。完成するまで,どのようなグラフィックスになるかも分かりにくく,完成してからの修正も大変だ。
また,海外ゲームのクオリティを追いかけるのも簡単ではない。それほどの技術を持った人は限られているし,そもそも,そうした人は皆,海外に行ってしまう。かといって,海外に外注を頼むのもコストが高い。
そこで本作の開発において取り入れられたのが,3Dスキャンによるフォトグラメトリー技術だ。フォトグラメトリーは,被写体をさまざまなアングルから撮影し,それを使って3Dモデルを制作する手法だ。写真を使うだけあって,フォトリアルな3Dグラフィックスの表現が可能で,さまざまなAAAタイトルで活用されている。
ハイエンドグラフィックスを目指す本作においても,フォトグラメトリーによるリアルな表現は強みになる。また,比較的短い期間でクオリティが高いものを制作できる。結果を予測しやすく,仮に気に入らなくても,再撮影によるクオリティの調整が簡単であることも,メリットとして挙げられていた。
しかし,「写真を撮る」という手法である以上,できないこともある。Project EVEにはさまざまなクリーチャーが登場するが,撮影のためにクリーチャーを捕まえるなど当然不可能なのだ。
ここでキム・ヒョンテ氏は,リアルなクリーチャーを登場させるため,1つの手段を思いついた。「リアルなクリーチャーを作れる人」を開発チームに迎え入れるというのだ。
Project EVEでは,韓国の映画監督であるチャン・ヒチョル氏が,クリーチャーデザインを手掛けている。チャン氏は,映画2006年(日本では2007年)の映画「グエムル-漢江の怪物-」でクリーチャーデザイナーを務めた人物で,キム・ヒョンテ氏は以前から一緒に仕事をしてみたいと考えていたという。
Project EVEでは,チャン氏によってクリーチャーの模型が作られ,それを撮影することで,リアルなクリーチャーを登場させようとしているのだ。模型を作ってから撮影するというプロセスになる以上,この手法は効率が良いわけではない。しかし,3D制作に慣れていないクリーチャーデザイナーであっても,クリーチャー制作作業の後半までしっかりと関われるという魅力があり,「造形がうまい」人の力を借りられるとキム・ヒョンテ氏は述べていた。
キム・ヒョンテ氏によると,3Dスキャンを使う手法はデメリットもあるという。クリーチャーに関してはチャン氏の協力で解決しているが,基本的に世の中にないデザインは撮影できない。独創性を求める開発スタッフとの相性も良くない。
また,良いデザインの服を用意して,モデルを呼んでコーディネートして,撮影して……という具合に,これまでのゲーム制作とは異なるプロセスを求められる。コーディネートが下手なら,撮影しても無駄。かといって,服選びの作業中,うまくいかないと「自分は何をやっているんだろう……」と思うこともあるそうだ。
しかし,こうした既存のものと異なる手法を確立することで,別の制作ルートを確保しておけることは確かだ。キム・ヒョンテ氏は,こうした挑戦を業界で共有し,研究していきたいと語る。そして,今回の講演が,一緒に悩むきっかけになってほしいと述べ,講演を締めくくった。
キム・ヒョンテ氏といえば,魅力的な女性キャラクターに目が行きがちだが,Project EVEではリアルなクリーチャー表現にも注目したい。
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