プレイレポート
リアルタイム性を活用した独自の戦術が花開く。対戦ツールとしての高いポテンシャルを秘めた「リアルタイムバトル将棋」プレイレポート
本作はその名の通り,プレイヤー同士が同時に駒を動かせる「将棋」である。本作最大の特徴は,やはり先手・後手といった“手番”の概念を廃止し,文字通りリアルタイムにゲームが進行するという点だ。駒の動かし方こそ通常の将棋と同じだが,瞬発力や意識配分なども重要になるため,盤上ゲームというよりはRTS(リアルタイムストラテジー)に近い作品だ。
日本においてテーブルゲームの代名詞として語られる将棋に,“リアルタイム”という一節が張り付いた異質感あふれるタイトルで話題を呼んだ本作だが,実際のところ面白いのだろうか? それとも,単なる一発ネタなのか気になるところだろう。
そこで今回は,そんな本作を実際に遊んでみてのプレイフィールを通常の将棋との符号点・相違点などを踏まえつつ,実践に役立つ戦術を添えてお届けしよう。
「リアルタイムバトル将棋」公式サイト
なお,本稿の理解にあたって最低限必要になる将棋の基礎ルールについて,以下のカコミにまとめておいた。簡単な駒の役割も紹介しているので,気になる人はサラッと目を通しておいてほしい。
■通常の将棋のルール
参加人数 | 2人 |
勝利条件 | 相手の玉将(王将)を取る |
準備 | 1:決められた形に従って駒を配置する (駒は全8種類,各プレイヤー20個ずつ) 2:適当な手段で先攻,後攻を決定する |
プレイ手順 | 自分の手番が来たら自分の駒を1つ選び,駒ごとに設定された移動先から1か所を選んで移動する。移動を終えたら相手の手番となる。 |
特殊な挙動 | |
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駒を取る | 相手の駒があるマスに移動した場合,その駒を「持ち駒」にできる。 |
持ち駒 | 手番時,駒を移動させるかわりに持ち駒を空いたマスに置くことができる。 |
成る | 相手の陣地(相手から見て3列)に自分の駒が侵入した際,一部の駒は成る(裏返す)ことができる。成った駒は移動方法が変化する。 |
駒の役割 | |
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玉将 | 比較的自由に動けるが,取られたら敗北となる |
歩 | 初期数9枚。動きは単純だが,各プレイヤーが9枚ずつ所持している |
香車・桂馬 | 初期数,各2枚。非常に特殊な動き方をする駒だが,そのかわり1回の移動で動ける距離が長い。攻めの起点となる駒 |
金将・銀将 | 初期数,各2枚。斜めや背後に移動できるため,攻守ともに運用可能な行動の自由度が高い駒 |
角行・飛車 | 初期数,各1枚。それぞれ,斜め四方・前後左右四方に無限に移動できる強い駒 |
本作に用意されたゲームモードは,NPCと対戦できる「一人で対局」と,オフラインでの対人戦が楽しめる「二人で対局」の2種類と極めてシンプルだ。まずはNPCとの対戦で肩慣らしをしつつ,対人戦に向けて腕を磨いていくといいだろう。
NPCとの対戦では,手筋のスタイルや精密さを示す“強さ”が異なる9人のキャラクターの中から対戦相手を選ぶことになる。最初は「アリス」「コトマル」「キョウ」の3人しか選べないが,対戦結果に応じて手に入る“ポイント”の獲得状況により,新たな対戦相手がアンロックされる。
さらに,キャラクターごとに「手加減」「普通」「本気」という3種類の難度が用意されている。難度は指すスピードを示しているので,ルールに慣れない間は「手加減」を選択し,素早く指せるようになってきたら「本気」で相手をしてもらうなど,腕に合わせた設定で楽しめる。
ちなみに,駒や将棋盤などの外見が変化する「テーマ」も,対戦前に選べる要素のひとつだ。4種類あるテーマの中でも「Symbol」は,駒自体に動き方が矢印で表示されるので,これを選べば駒の動かし方に不安がある人も安心だ。
いざゲームを開始すると,単にリアルタイムに自由に駒を動かすだけでなく,独自のルールが複数存在することに気付く。そして,それが本作における読み合いの中核を担っているのだ。というわけで,ここからは“普通の将棋”ではあり得ない,本作だけの独自ルールを項目別に紹介していこう。
●1:クールタイムの導入
盤上の駒は自由に選んで動かせるのだが,1度動かした駒にはクールタイムが発生して一定時間動かせなくなる。リアルタイムで進行するとはいえ,1つの駒を連続で動かして,一気に玉将に迫るようなことはできない。
加えて,クールタイムは駒によって異なり,軽量で用途が限られている駒は短く設定されているが,用途の幅広い駒ほど長いクールタイムが発生する。玉将だけは軽量と同じ3秒に設定されているので,金将や銀将で追い詰められそうになっても,クールタイムの差で逃げ出せる場面も少なくない。
CD | 該当駒 |
---|---|
3秒 | 歩,玉将 |
4秒 | 桂馬,香車 |
6秒 | 金将,銀将,飛車,角行 |
●2:詰みの撤廃
本作には,相手の玉将を取れば勝利となるため,玉将がどう動いても逃れられない“詰み”の概念は存在しない。手順上で完全に詰んでいたとしても,操作精度が高ければ抜け出せる可能性が残るため,詰みという概念にあまり意味がないのだ。重要なのは,盤上ではなく思い描いた詰みを“実行できるか否か”である。
●3:時間制限と判定勝利
リアルタイムにゲームが進行するとなると,なかなか勝利条件を満たせずにゲームが長引いてしまうことも少なくない。そこで,本作の対局には制限時間が設けられており,対局時間を90秒から300秒まで30秒間隔の5段階で選択できる。そして,勝利条件が満たされずに設定した時間が経過すると判定で勝敗が決定される。
判定は“ゲーム中に取った相手の駒”の数によって算出されるポイントの合計値を比べ合うことになる。駒ごとのポイントは均等ではなく,単純に強い駒を取るほど有利になる仕組みなので,時間制限での逃げ切りを狙う場合は「取る駒/取られる駒の内容」も意識せねばならない。
盤面でフェイントを仕掛け,相手の意識の虚を突く!
リアルタイム性を活用した基礎戦術を紹介
ルールを完璧に理解したら,あとは対戦あるのみ! ……とはいえ,勝ちにつながる動き方を見つけるまでの間は「いったい何をすれば勝ちにつながるんだ?」と悩むことになるだろう。そこで,ここからは筆者がしばらく対戦を繰り返してみて,見えてきた基本的な戦術をいくつか紹介していこう。
●歩は最強の駒である
普通の将棋でも強力な駒であることに違いはないが,玉将を除けば最短のクールタイム(3秒)を持つ歩は,本作においてある意味で最強の駒と言えよう。
クールタイムが短いということは,すなわち行動回数が多いことを意味する。この利点をうまく活用すれば,攻め込んできた飛車や角行の頭を抑える形で歩を打ち,逃げる間もなく取り去る戦術すら可能となるのだ。
持ち駒を配置した際も,クールタイムは移動時と変わらない。奪った歩を構えておいて,不用意に突出したヘビー級の駒を返り討ちにできる。ただし,その場合は素早く反応できなければ意味がない。加えて,そればかり気にかけて守りを疎かにしては元も子もないので注意が必要だ。
●“利き”の表示機能を活用すべし
対戦中に[Yボタン]を押すと,それぞれの駒の“利き”の状況が表示される。利きとは「駒が動ける範囲」を指す言葉で,表示をON状態にすると,盤面の利き状況が表示される。
これをよく見ておけば,少なくとも「うっかり相手に取られる範囲に移動してしまった」という事故が激減する。また,前衛が取られてもすぐに取り返せるように,自分の駒を自分の利き範囲に重ねて並べるなど,防衛時の配置を考える参考にもなるのだ。
●停止もまた戦術
駒をターンの制限なく動かせるとなると,とにかく動かせる部分から前へ前へと押し出したくなってしまう。しかし,目標もなく前に出続けるのは良策とは言い難い。
ポイントとなるのは,進めば進むほど発生する“自陣の空間”だ。前に進むということは,そのまま背後を開けることに等しい。将棋はルール上,取った相手の駒を自由な場所に配置できるため,背面の防御も同時に考えねばならなくなる。
背面をしっかりと盤面の“辺”で塞いでおけば,前に集中することができる。複数の駒の状況を同時に管理する必要がある本作において,管理するべき情報量が減るのは大きな利点と言えるだろう。
●フェイントを織り交ぜて王を暗殺せよ
これは対人戦で主に有効な考え方となる。20個の駒をリアルタイムに管理するとなれば,同時にすべての駒の状況を把握するのはほぼ不可能だ。それを利用して相手の意識を逸らすフェイントも,本作の常套手段と言える。
たとえば,相手の玉将を追い詰めている間は,意識が盤上の上面側に向く傾向がある。すなわち,相手が攻めに徹しているということは,防衛が手薄であるというサインなのだ。その間に角行や飛車,香車といった長距離移動が可能な駒を置き,気付かれる前に王を“暗殺”するのも,本作ならではの戦い方のひとつである。
先に紹介した通り,本作には詰みが存在しないため“王手”の宣言も存在しない。わざわざ相手の玉将を射程に収めたことを,相手に宣言してやる必要はないのだ。
数十戦ほど遊んでみての感想だが,本作は想像以上に面白い。クールタイムを絡めた読み合いやフェイントのかけ合いなど,“リアルタイムの将棋”という衝撃的なキャッチから感じ取れる第一印象とは一線を画す奥深さを感じられた。
ゲームモードなど少々ボリューム不足を感じる部分はあるが,800円で購入できるダウンロード専用ソフトという手軽さを考えれば,利きの表示や対戦ログの表示など,求められる機能は揃っている。
見た目以上に対戦ツールとして優秀な作品なので,新しいジャンルの作品での対戦を楽しみたい人がいたら,ぜひダウンロードして友達と対戦してみてほしい。
なお,シルバースタージャパンによると,オンライン通信による対局をサポートすることが決定しているとのことなので,そちらの動向にも注目していきたいところだ。
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