レビュー
Comet Lake-Sのゲーム性能はRyzen 3000を超えたのか?
Core i9-10900K
Core i7-10700
Core i5-10600K
2020年5月20日,Intelが「世界最強のゲーム用CPU」と謳うデスクトップPC向けの第10世代Coreプロセッサ(開発コードネーム:Comet Lake-S)が発売となった。上位モデルであるCore i9シリーズでは,Intel製のデスクトップPC向けCPUとしては初めて,10コア20スレッドに対応。それに加えて,CPUの発熱状況に応じて最大クロックを引き上げる機能「Thermal Velocity Boost」の実装により,最大クロックも5.3GHzに達するという強烈な仕様が特徴だ(関連記事)。
4Gamerでは,発売に先立ち,最上位のアンロック版CPUである「Core
Intel,デスクトップPC向け第10世代Coreプロセッサを発表。Core i9は10C20T対応で最大クロック5.3GHzを実現
2020年4月30日,Intelは,デスクトップPC向けでは初となる第10世代Coreプロセッサを発表した。開発コードネーム「Comet Lake-S」と呼ばれていたプロセッサで,従来よりも高クロックでの動作を可能にしたのが特徴だ。ハイエンドのCore i9シリーズは10コア20スレッド対応で,最上位モデルはシングルコアでの最大クロックが5.3GHzとなっている。
新ソケットLGA 1200の扱い方は,LGA 1151と変わらず
まずはおさらいになるが,改めて第10世代Coreプロセッサの概要をまとめておきたい。
デスクトップPC向けの第10世代Coreプロセッサは,開発コードネームComet Lake-Sと呼ばれているCPUだ。そもそもComet Lakeは,2017年に発売となった第7世代Coreプロセッサ(開発コードネーム:Kaby Lake)を改良したアーキテクチャのCPUである。Intelが「14nm++」と呼ぶ改良した製造プロセスを用いて,高クロック動作を可能にしたことが特徴だ。
もちろん,第10世代Coreプロセッサは単なる高クロック版Kaby Lakeというわけではない。冒頭で述べたとおりIntelのデスクトップPC向けCPUとして初めて,Core i9シリーズで10コア20スレッドに対応したことが大きなトピックだ。Intel製CPUではこれまで,10コア以上の製品はシステム全体の価格が高めのHigh
一方,第10世代Coreプロセッサでユーザーがもっとも気になる点は,「LGA 1200」という新しいCPUパッケージと対応ソケットが導入されたことではないだろうか。従来の「LGA 1151」とはピン数が異なるため,当然ながら物理的な互換性がなく,マザーボードは新規に購入する必要がある。
ただ,LGA 1200の扱い方は,従来のLGA 1151と何ら変わりがない。というのも,LGA 1200とLGA 1151のCPUパッケージサイズやソケットのサイズは,まったく同じだからだ。とはいえ,パッケージサイズは同じであるものの,切り欠きの位置が異なるので,LGA 1151のソケットにLGA 1200のCPUを装着するといったことは物理的にできないようになっている。
そんなLGA 1200に対応するチップセットは,新しいIntel 400シリーズとなるが,既報のとおり,PCI Expressの対応レーン数や基本構成もIntel 300シリーズと変わりがない。そのため,ゲーマーにとって重要なグラフィックスカード周りの構成も,LGA 1151から変わりがないと考えていい。
第10世代Coreプロセッサ3製品の性能をチェック
今回チェックする3つのCPUのうち,i9-10900Kとi5-10600Kはレビュワー向けにIntelから貸し出された機材で,i7-10700は,4Gamerが独自に入手したCPUである。
さらに,今回は比較対象として4種類のCPUもテストしている。
まず,前世代との比較用として,第9世代Coreプロセッサの最上位モデル「Core i9-9900KS」(以下,i9-9900KS)を用意した。全コア5GHz動作を可能にした第9世代Coreプロセッサの最強モデルだ。
一方,競合のAMD製品は,i9-10900Kの直接的な競合となりそうな「Ryzen 9 3900X」(以下,R9 3900X)と,第3世代Ryzenの最上位モデルである「Ryzen 9 3950X」(以下,R9 3950X),加えて,8コア16スレッドのi7-10700の競合として,同じ8コアでTDP 65Wクラスの「Ryzen 7 3700X」を用意した。
残念ながら,今回は,Ryzenの6コア12スレッド対応製品を用意することができなかったので,i5-10600Kに関しては直接の競合と比較していない。そのため,
テストに使用するCPU計7製品の主な仕様は表1のとおり。
今回は,オーバークロック機能に関する細かなテストを行っていないが,アンロックモデルであるi9-10900Kに関しては,Intel純正のオーバークロックツール「Intel Extreme Tuning Utility」(以下,XTU)を使って簡易なオーバークロックも試してみた。
既報のとおり,XTUは,第10世代Coreプロセッサに合わせてアップデートが行われている。執筆時点で入手できるXTU Version 6.5.2.38は,第10世代Coreプロセッサに対応しており,Intelがアナウンスしていた機能である「VFカーブ」を用いたコア電圧の設定なども行えた。
ちなみに,筆者がテストした個体では,この設定ならエンコードのような長時間高負荷が続くテストも問題なく完走する。だが,クロック倍率を54倍以上に引き上げてしまうと,安定性が失われた。
TUF Gamingブランドは「TUFグレード」と称する高品質パーツを使用して,比較的安価な製品でありながら,高い耐久性と信頼性を実現している製品ブランドだ。Z490-PLUSの場合,消費電力が大きい第10世代Coreプロセッサに合わせて,マザーボード上の電源部が大幅に強化されていることが大きな特徴だ。
Z490-PLUSの電源部は12+2フェーズ構成で,PWMドライバとして,オン抵抗と発熱が小さい「DrMOS」を採用する。その電源部に大型のヒートシンクを装備しているので,第10世代Coreプロセッサでも安心して利用できるマザーボードと評していいだろう。
テストに使用した機材を表2にまとめておく。今回,メモリアクセスタイミングの設定は,使用したメモリモジュールのXMPで統一することにした。結果的に第10,第9世代Coreプロセッサでは定格以上のメモリクロックになってしまうが,プラットフォームごとにメモリクロックを変えるとCPUそのものの性能差が分かりにくくなってしまうので,メモリクロックもXMPの定格であるDDR4-3200に統一した次第だ。
また,表2には記していないが,CPUクーラーには,Corsair製の簡易液冷クーラー「Hydro Series H150i PRO RGB」(以下,H150i PRO)を,ポンプおよびファンの回転を最大にして使用している。H150i PROは,AMDのSocket AM4とLGA 1151に対応できる製品で,前述のとおりLGA 1151用なら基本的にLGA 1200でも利用できるので,3種類のプラットフォームすべてでH150i PROを利用できたわけだ。
実行するテストは,大きく分けてゲーム系と一般アプリの2種類だ。
ゲームのテストでは,4Gamerベンチマークレギュレーション22.1から「3DMark」(Version 2.11.6866)と「PLAYERUNKNOWN'S BATTLEGROUNDS」(以下,
それに加えて,次期ベンチマークレギュレーションを睨み,「Far Cry New Dawn」と「Borderlands 3」,「Tom Clancy’s The Division 2」(以下,Division 2),「ファイナルファンタジーXIV: 漆黒のヴィランズ ベンチマーク」(以下,FF XIV 漆黒のヴィランズ ベンチマーク)の4タイトルを加えた,合計8タイトルでのテストを実施した。
実ゲームにおけるテスト時の画面解像度は,2560×1440ドットと1920×1024ドット,および1600×900ドットを選択。CPU性能差は,解像度が低いほうが表面化しやすいためだ。
これらに加えて,ゲーム録画性能のテストとして「OBS Studio」(Version
一方,ゲーム以外の一般的なPC利用における快適さを調べるために,以下のベンチマークプログラムおよびアプリケーションによるテストも実行している。ただし,PCMark 10に関しては現在,ソフトウェア側の問題でEssentialsとGamingのスコアしか取得できなくなっている。そのため,今回は3DMarkのFire Strike相当であるGamingを省略し,Essentialsのみのテストにとどめたことを付記しておきたい。
- PCMark 10(Version 2.1.2177)
- ffmpeg(Nightly Build Version 20181007-0a41a8b)
- DxO PhotoLab 3(Version 3.2.0 Build 4344)
- CINEBENCH R20(Release 20.060)
- 7-Zip(Version 2000α)
i9-10900Kは微妙,i7-10700は素性が良さそう
i5-10600Kは妥当な成績を残す
それでは,いつものように3DMarkの結果から見ていこう。DirectX 11テストである「Fire Strike」の総合スコアをまとめたものがグラフ1だ。
4K解像度相当のFire Strike Ultraのスコアは,i5-10600KとR7 3700Xがやや低めという程度で,ほぼ6900台半ばで横並びと評していいだろう。また,Fire Strike Extremeのスコアは,i5-10600Kがやや低い程度で,それ以外のCPUでは有意な差があるとは言い難い。Fire Strike UltraやFire Strike ExtremeはGPUの性能がスコアを大きく左右するテストなので,CPUでは大差がつかないのは妥当なところだ。
やや変化があるのは,フルHD解像度相当のFire Strikeだ。優位にトップとなったのはR9 3950Xで,2番手は意外なことに8コア16スレッドのi9-9900KSだった。ただ,i9-9900KSとi9-10900K,i9-10900K(5.3GHz),i7-10700,R7 3700Xの差は小さくほとんど横並びだ。一方,6コア12スレッドのi5-10600Kは,2万2000台と有意に低いスコアに収まっている。
総合スコアがなぜこのようになったのかを,個別のスコアでチェックしていこう。グラフ2はFire StrikeのGPUテストである「Graphics test」のスコアを抜き出したものだ。
GPU性能のテストとなるGraphics testでは,Fire Strike UltraとFire Strike Extremeでほぼ横並びの結果になった。Fire Strikeも横並びではあるが,強いて言うならi9-9900KSとi7-10700の2製品が2万9000台で頭ひとつ抜けた感じだ。i9-10900K(5.3GHz)とi9-10900K,i5-10600K,R7 3700Xが2万8000台半ばで次点,R9 3950XとR9 3900Xは2万8000を下回り,やや振るわないといった並びになっている。
続いてCPUベースの物理シミュレーションによってCPU性能を測る「Physics test」のスコアを見てみよう。グラフ3がその結果だ。
Physics testでは,Fire Strike Ultra,Fire Strike Extreme,Fire Strikeという3つのテストで,同じ内容のテストを実行する。なので,3つのテストのスコアを平均したものが,そのCPUの実力に近いスコアと考えていいだろう。
その前提で平均をとってみると,トップに立ったのは文句なしにR9 3950Xだ。他のCPUよりも頭ひとつ高いスコアを記録しているが,16コア32スレッドの威力ということで,違和感はないだろう。
2番手は10コア20スレッドのi9-10900K(5.3GHz)で,僅差でi9-10900Kが続き,スコアはどちらも2万9000台半ばだ。12コア24スレッドのR9 3900Xは2万8000台前半から2万9000台前半なので,10コア20スレッドのi9-10900KはR9 3900Xと肩を並べる程度か,もしかするとやや高い程度のCPU性能を持っている可能性があると,Physics testの結果に限れば言えそうだ。
一方,8コア16スレッド対応CPUでは,i9-9900KSが2万6000台半ばでトップ。次点はR7 3700Xでスコア2万4000台半ば,i7-10700は2万3000台半ばというスコアに収まっている。一番低いのは6コア12スレッドのi5-10600Kだが,コア数が少ないので致し方ないところだろう。ただ,i9-10900Kとi5-10600Kのスコア比率をとってみると約67%になる。実際のCPUコア数比は60%なので,コア数比以上のスコアを残したi5-10600Kは,なかなか優秀と言ってよさそうだ。
グラフ4は,Fire StrikeでGPUとCPUへ同時に負荷をかけたときの性能を見る「Combined test」の結果だ。
GPUへの負荷が高いFire Strike Ultraと同Extremeのスコアは,おおむね横並びと評していいだろう。一方,フルHD解像度相当のFire Strikeでは,R9 3950Xが他より頭ひとつ高いスコアを残している。2番手はR7 3700Xで,3番手はi9-9900KS。4番手以降は,i5-10600Kがやや低い程度で横並びだった。R9 3950Xはコア数が効いたのだろうと言えるが,2番手にR7 3700Xが付けたのは少し意外な結果かもしれない。
Combined testは,グラフィックスドライバの効率もスコアを左右しやすいようなので,第10世代Coreプロセッサと組み合わせたときの最適化に,何らかの問題があるのかもしれない。
続いては,3DMarkのDirectX 12テストである「Time Spy」の結果を見ていこう。グラフ5は,Time Spyの総合スコアをまとめたものである。
Time Spy ExtremeではR9 3950Xがトップ。2番手はR9 3900Xで,以降はi9-10900K,i9-10900K(5.3GHz)の順である。コア数が順位に表われているので,CPU性能が影響していると見ていいだろう。
フルHD解像度相当のTime Spyは,Time Spy Extremeよりもむしろ横並びに近く,6コアのi5-10600Kを除くと1万1000台半ばのスコアでおおむね並ぶという結果になった。
さて,Time SpyのGPUテストである「Graphics test」のスコアを抜き出したのがグラフ6だ。Time Spy Extreme,Time Spyともに横並びと評していいだろう。Time Spyでは,わずかにi9-10900K(5.3GHz)のスコアが低いのが気になるところで,オーバークロック設定がむしろマイナスになっている可能性がある。
Time Spyにおける「CPU test」のスコアを抜き出したのがグラフ7だ。
Time Spy Extremeでは,2位以下にスコア1000以上の差をつけてR9 3950Xがトップ。2番手はR9 3900Xで,続いてi9-10900K,i9-10900K(5.3GHz)の順となった。i9-10900KとR9 3900Xのスコアには有意な差があるので,Time Spy ExtremeのCPU testでは,i9-10900Kの性能はR9 3900Xに及ばないということでいいだろう。
一方,8コア16スレッド対応CPUでは,i9-9900KS,R7 3700X,i7-10700の順となった。全コア5GHzのi9-9900KSが,こういうテストにはやはり強いようだ。
Time Spyでは,トップがR9 3950Xで,続いてi9-10900K,i9-10900K(5.3GHz)の順だ。R9 3900Xとi9-9900KSがほぼ横並びで,ここでもi9-9900KSの強さが目立つ。また,i7-10700がR7 3700Xに対して,有意に高いスコアを残しているのもTime SpyのCPU testにおける特徴的な結果と言えるかと思う。
i5-10600Kのスコアにも触れておくと,i9-10900Kに対してTime Spy Extremeで58%,Time Spyで64%のスコアが得られている。おおむねコア数比なので,妥当なスコアと評していいようだ。
以上,3DMarkの結果をまとめてみると,i9-10900Kに関しては,Intelが主張する最強のゲーム用CPUという片鱗はうかがえない,と言っていいかと思う。CPU性能自体は,R9 3900Xと肩を並べる程度のようだが,ゲーム性能が高いかどうかは,3DMarkの結果だけではなんとも言えない。
i9-10900K(5.3GHz)の性能が伸びないのも気になる点だ。後でも触れるが,今回は消費電力で性能を抑えるパワーリミットの設定を変えていない。そのため,i9-10900K(5.3GHz)では負荷がかかった瞬間に極めて高い動作クロックを記録するものの,少し時間が経過するとパワーリミットによって動作クロックが抑えられるという動作になる。
簡単に言えば,瞬発力はあるが持続力はないという状況で,それだけに,ある程度のテスト時間がかかる3DMarkのCPUベンチマーク系では,思ったほど良好な結果が得られない結果になっているのだろう。
i7-10700に関しては,R7 3700XにCPU性能で少し及ばないようだ。ただ,3D性能はまずまずという片鱗を見せているので,実ゲームでは期待できるかもしれない。
唯一のミドルクラス市場向けであるi5-10600Kは,途中で触れたようにi9-10900Kに対して,コア数比かそれを上回る程度のスコアを残しているので,まずまず妥当な性能を持つ6コア12スレッド対応のCPUであるとまとめられるかと思う。
以上を踏まえたうえで,実ゲームの成績を見ていこう。
Far Cry New Dawn
まずはFar Cry New Dawnの結果から。Far Cry New Dawnはベンチマークモードを備えているので,今回のテストではそれを利用した。グラフィックス設定のプリセットには,高負荷寄りの「ウルトラ」設定を用いている。プレイ可能な目安としては平均で60fps,最小フレームレートであれば50fpsを超えたいといったところになる。
結果はグラフ8〜10のとおり。平均フレームレートを見ると,3つの解像度すべてでトップを取ったのはi9-9900KSだった。また2番手はi7-10700という意外な結果である。
Far Cry New Dawnは,16コアを超えるCPUだとフレームレートが大幅に落ちるなどCPUコア数がセンシティブに影響するタイトルだ。Ryzen系でもそうなのだが,8コアのCPUはフレームレートが出やすく,12コアを超えるとコア数につれてフレームレートが逆に低下する傾向を見せる。
この傾向が第10世代Coreプロセッサでも現れているようで,i9-10900Kよりもi7-10700が好成績を残した理由も,おそらくそれだろう。そして8コアで最も動作クロックが高いi9-9900KSが,トップを取ったというわけだ。
また,3つの解像度いずれも,i9-10900Kに対してi9-10900K(5.3GHz)が有意に高い平均フレームレートを残したのもFar Cry New Dawnの特徴だ。Far Cry New Dawnのベンチマークは実行時間が短いので,i9-10900K(5.3GHz)の瞬発力が奏効したのであろう。
Borderlands 3
続いてBorderlands 3の結果を見ていきたい。Borderlands 3では,グラフィックス設定のプリセットとして,最も高画質な「ウルトラ」を使用する。組み込みのベンチマーク機能を使って2回テストを実行し,記録されたログから平均および最小フレームレートをスクリプトを使って算出することで,スコアとして利用する。プレイ可能な目安は,やはり平均60fps以上としたい。
結果はグラフ11〜13となる。
平均フレームレートを見ると,2560×1440ドットの結果はほぼ横並びだ。強いて言うならi9-9900KSがトップだが,i9-10900Kやi5-10600K,i7-10700も1fps未満の差で並んでいるので,差はほぼないと言っていいだろう。
一方,Ryzen勢は,1fps程度の差ではあるものの,Intel CPUより低いフレームレートを記録している。とくにR7 3700Xは,他よりも2fps程度低い平均フレームレートとなった。Borderlands 3では,Ryzen系よりIntel CPUのほうがわずかにフレームレートが高く,また,同じ8コア16スレッドならR7 3700Xよりもi7-10700がトップになるなど有利と言えそうだ。
解像度1920×1080ドットも,ほぼ同傾向。1600×900ドットになると,i7-10700がトップになるなど少しばらつきが生じるが,Ryzen勢よりIntel CPUのほうがわずかにフレームレートが高い傾向は変わらない。
なお,Borderlands 3では,i9-10900K(5.3GHz)におけるオーバークロックの効果は見られないか,むしろマイナスに働いている傾向が見てとれる。Borderlands 3のベンチマークの時間はやや長めなので,パワーリミットによるマイナスの作用が出てしまっているのかもしれない。
PUBG
次はPUBGの結果を見ていこう(グラフ14〜16)。PUBGでは高負荷寄りのグラフィックス設定を利用した。
解像度によって結構なばらつきがあるものの,2560×1440ドットと1920×1080ドットではi7-10700がトップを取った。一方,CPUの性能差が出やすい1600×900ドットではi9-9900KSがトップで,2番手がi7-10700である。いずれの解像度でも,Intelの8コア勢がPUBGではやや高めの平均フレームレートを残しているわけだ。
i9-10900Kの平均フレームレートは,Ryzen勢と大差があるわけではなく,ある意味では平凡な結果と言えるだろう。PUBGに関して言えば,最強のゲーマー向けCPUの片鱗は見えない。ただ,i9-10900K(5.3GHz)におけるオーバークロックの効果は,どの解像度でもそれなりに現れているようだ。
一方,少々気になるのは,i5-10600Kが1920×1080ドットと1600×900ドットで,やや低い平均フレームレートを記録している点だ。PUBGは,他のプレイヤーも存在するサーバー上でプレイしてフレームレートを計測するので,ばらつきが生じやすいタイトルではある。しかし,2つの解像度で揃ってフレームレートが得られないとなると,偶然とは考えにくい。PUBGだと,6コアよりは8コアのほうがフレームレートが出やすい設計になっているのかもしれない。
Division 2
続いては,Division 2の結果となる。Division 2ではDirectX 12モードを使用し,もっともグラフィックス品質が高い「ウルトラ」プリセットを設定した。そのうえで,組み込みのベンチマークを2回実行。得られたログファイルからスクリプトを使って平均および最小フレームレートを算出した。プレイアブルの目安は平均60fps以上だ。結果はグラフ17〜19にまとめてある。
平均フレームレートを見ると,2560×1440ドットでは初めてi5-10600Kがトップとなった。ただ,2560×1440ドットではGPUでフレームレートが頭打ちとなるようで,平均フレームレートに大きな差があるわけではなく,ほとんど横並びと評していい結果だろう。
1920×1080ドットでは,i7-10700が僅差でトップとなった。ただ,Intel勢は平均118fps前後で揃っており,ほぼ横並びと言っていいほどだ。一方,Ryzen勢は平均115〜116fpsといったところで,Intel勢より2fpsほど低いフレームレートとなった。
CPUの差が出やすい1600×900ドットでは,i9-10900Kがトップである。2番手はi7-10700で,3番手がi9-9900KSだった。i9-10900K(5.3GHz)のスコアが振るわず,ここではオーバークロックがマイナスに効いてしまっているようだ。また,1600×900ドットでは,i5-10600Kの平均フレームレートが144.9fpsに留まり,他の解像度とは傾向が異なる。1600×900ドットではCPUコア数の差が出てしまうのかもしれない。なお,Ryzen勢がIntel勢にやや及ばないのは,1600×900ドットでも同様だ。
Fortnite
次はレギュレーション22.1のタイトルからFortniteをテストする。
Fortniteは,2019年11月の大型アップデートでDirectX 12に対応したが,フレームレート計測に使用しているOCATがチートツールとして誤検出されてしまったこともあり,レギュレーション22.1のとおりDirectX 11のままで,高負荷寄りのエピック設定でテストしている。
結果はグラフ20〜22のとおり。
平均フレームレートを見ると,2560×1440ドットでトップになったのはi5-10600Kだった。ほんの0.1fps差でi9-9900KSが2位となり,i7-10700とi9-10900K(5.3GHz)が続くという結果になっている。Ryzen勢はIntel勢によりわずかに低いが,差はわずかだ。2560×1440ドットはGPU性能で平均フレームレートが抑えられてしまうようで,これも横並びに近いスコアと見ていいだろう。
1920×1080ドットでは,i7-10700がトップでi9-10900Kが2番手,3番手にi5-10600Kと,上位3つを第10世代Coreプロセッサが占める形になった。ただ,こちらも1fps程度の差で並んでいるので,上位は横並びに近い。
一方,1600×900ドットでは,i9-9900KSがトップとなり,i7-10700,i5-10600Kの順で続いている。i9-10900Kのスコアが冴えず,全コア5GHzのi9-9900KSが強さを見せるという他のタイトルの1600×900ドットで見られる傾向がここでも出ているようだ。
FFXIV漆黒のヴィランズベンチ
FFXIV漆黒のヴィランズベンチにおける「最高品質」で計測した総合スコア(グラフ23)を見てみよう。
3つの解像度すべてでトップになったのはi9-9900KS。2番手がi7-10700で,
FFXIV漆黒のヴィランズベンチは,論理コア数分のスレッドを立ち上げるタイプのゲームエンジンで,論理コア数が多すぎると,逆にフレームレートが低下する傾向がこれまでも確認している。i9-9900KSやi7-10700が10コアのi9-10900Kを上回る成績を残すのは,そのあたりが原因ではないかと推測している。
一方で,6コアよりは8コアのほうがフレームレートが出やすいために,
i9-10900Kに比べて,i9-10900K(5.3GHz)がわずかに好成績を残したのも注目に値する。FFXIV漆黒のヴィランズベンチは長時間のテストだが,短いシーンの合間に,ロード時間を挟んでつなげた構成になっている。各シーンの間にロード時間という適度なインターバルが入るので,i9-10900K(5.3GHz)の瞬発力が多少効いているのではないか。
なお,FFXIV漆黒のヴィランズベンチではRyzen系がIntel系に及ばないというのは,FFXIVシリーズのベンチマークにおける通例どおりだ。ただ,その差は,さほど大きいわけではない。
グラフ24〜26にFFXIV漆黒のヴィランズ ベンチにおける平均および最小フレームレートをまとめている。おおむね,総合スコアと齟齬がないフレームレートが得られているとまとめていいだろう。
i5-10600Kでは,1920×1080ドットと1600×900ドットの最小フレームレートが他のCPUに比べ有意に低い点は注目できる。実行できるスレッド数の少なさが最小フレームレートを押し下げているものと推測できそうだ。
PROJECT CARS 2
実ゲームの最後はPROJECT CARS 2である。高負荷設定の結果はグラフ27〜29のとおり。
平均フレームレートを見ると,2560×1440ドットではi7-10700がトップで,
一方,1920×1080ドットや1600×900ドットでは,トップがi9-9900KSで,次点がi7-10700という結果だった。i9-10900Kは,i5-10600Kより高いフレームレートを記録したものの,8コアCPUには及ばないようだ。また,i9-10900K(5.3GHz)の平均フレームレートが振るわないのも同様である。
となると,8コアCPUが有利なのかとも思えるが,Ryzenだと16コアのR9 3950Xが好成績を収めているので,必ずしもそうとは言えない。Intel勢だと8コアが有利になっているようだが,その原因については正直なんとも言えないところだ。
以上のように実ゲームでの性能を見てきたが,i9-10900Kに関して言えばIntelが主張するような最強のゲーマー向けCPUとは言えないかな,という結論にならざるをえない。その原因として,8コアを超えるとフレームレートが出にくいタイトルがあることや,最適化の問題が挙げられそうだ。
強いてi9-10900Kの強みを上げるなら,オーバー8コアCPUとしてはR9 3950XやR9 3900Xよりも多くのタイトルでフレームレートが高くなりやすいという点だろうか。ただ,その差はせいぜい数fps程度である。
また,i9-10900Kをオーバークロックするとしても,その効果をゲームで得るのは簡単ではなさそうだ。第10世代Coreプロセッサは,Turbo Boost時のパワーリミットがあり,リミットを一定時間超えるとガクンと動作クロックが下がる設計になっている。リミットを調整してオーバークロック状態がある程度の時間は続くようにチューニングしないと,オーバークロック設定が逆に性能低下を招きかねないわけだ。
XTUを使えばこれらの設定も可能なので,マニアにとっては調整のしがいがあるCPUといえるかもしれないが,ゲーマーにおすすめできる作業とは言いにくい。
一方で,第10世代Coreプロセッサの中では,i7-10700の素性が良さそうであり,いくつかのタイトルで良好なフレームレートが得られている。前世代のi9-9900KSが極めて高いゲーム性能を持つのでインパクトはあまりないが,
i5-10600Kに関しては,6コアCPUの比較対象がないので評価が難しいが,一部のタイトルでは,すでに8コアのほうがフレームレートが出やすくなっている事実がある。そう考えると,コストを抑えたいとか,オーバークロックで遊びたいといった明確な理由がないなら,8コアCPUを選んだほうがゲームでは有利になるだろう。
ゲーム録画では依然としてRyzenが強い
ゲームでのテストにおいては,i9-10900Kにややネガティブな評価になってしまったが,ゲームの配信やプレイ動画の編集といったマルチコアが効く用途で高い性能が発揮できるのなら,評価は変わってくるかもしれない。そこで,OBSを使ったゲーム録画のテストを行おう。
今回も録画対象タイトルとして,「Overwatch」を用意してテストした。解像度は1920×1080ドットと2560×1440ドットの2種類だ。
OBSの録画設定は,以下に示したスクリーンショットのとおりである。エンコーダとして「x264」を使い,「medium」プリセットに「animation」チューニングを加えたうえで,12MbpsのVBRで出力する。今回は,最大16コアのCPUを交えて比較を行うので,リアルタイムエンコードとしてはかなり重い高負荷設定にしている。
まずは,負荷が軽い1920×1080ドットの結果から見ていこう。
8コアのi7-10700やR7 3700X,i9-9900KSでは,そこそこフレーム落ちを起こすことなく録画ができている。見た目の差は分かりにくいかもしれないが,録画時にフレーム落ちが発生すると,同じフレームが連続して記録されるために録画ファイルの映像ビットレートが低下するので,映像ビットレートを比較すれば,どのCPUが高品質で録画できているかが明確になる。
たとえば,i7-10700の映像ビットレートが約6400kbpsとなるのに対して,R7 3700Xは約7700kbps,
一方,8コアを超えるCPUでは,いずれも8000kbps台の映像ビットレートとなり,結果に大差はない。フルHD解像度でOverwatchをプレイしながら録画する場合,i9-10900KとR9 3950X,R9 3900Xでは同等の性能を持つというわけだ。
なお,i5-10600Kではかなりのフレーム落ちが発生しており,1920×1080ドットでも高負荷のリアルタイム録画には耐えられないことがはっきりと分かるだろう。これが6コアCPUの限界で,やむを得ない。
次に,より負荷が高い2560×1440ドットの結果を見ていこう。6コアおよび8コアCPUは,見た目でもはっきり分かる程度のフレーム落ちが発生しており,実用にならないことが見て取れる。
10コア以上のCPUで比較すると,i9-10900K(5.3GHZ)とi9-10900Kの映像ビットレートは約5800kbpsで,R9 3950Xは8500kbps,R9 3900Xは9700kbpsという結果になった。R9 3900Xがもっとも高品質で,R9 3950Xが及ばなかった理由が分からないのだが,いずれにしてもOBSによるリアルタイムゲーム録画で,i9-10900Kは,10コア以上のRyzen 3000シリーズにはかなわないようである。
というわけで,OBSでのゲーム録画では,Ryzen 3000シリーズが強さを発揮した。IntelのデスクトップPC用としては初の10コア20スレッド対応ということもあり,i9-10900Kには期待したのだが,CPUコア数に勝るRyzenにはかなわないようだ。
非ゲーム用途でもRyzenが依然として強い
テストの最後として,非ゲーム用途におけるテスト結果をまとめていこう。まずはUL製の総合ベンチマーク「PCMark 10」である。
ただ,先述したとおり,現在のところPCMark 10側の問題で,Webブラウジングやアプリの起動終了の速度といった体感的な速度を測るEssentials以外のスコアが得られない状態だ。そのため,グラフ30にEssentialsの結果をまとめてみた。
ここでトップとなったのは,i9-10900K(5.3GHz)だ。8200台というかつてないスコアを叩き出した。筆者が計測したEssentialsの記録は,i9-9900KSを常時5GHzにオーバークロックしたときに得られた8000強が最大だったので,それを上回るスコアを叩き出したわけだ。
Webブラウジングやアプリの起動終了は,瞬間的に負荷が生じるだけなので,パワーリミットの影響をほぼ受けないのだろう。そのため,クロック倍率53倍の瞬発力が存分に発揮されたことで,圧倒的トップに立ったと思われる。
2番手はi9-9900KSで,続いて通常動作のi9-10900K,i7-10700という結果になった。6コアのi5-10600Kを除くと,第10世代CoreプロセッサのEssentialsにおけるスコアは良好で,Windowsアプリケーションの体感的な速度は,かなり速いと期待できるかと思う。
次に,ffmpegを用いたCPUによる動画トランスコードの結果を見ていきたい。ここでは,FFXIV紅蓮のリベレーターでゲームをプレイした「7分25秒,ビットレート437Mbps,解像度1920×1080ドット,Motion JPEG形式」の録画データをソースとして用意した。
そして,ソースの映像を「libx264」エンコーダによりH.264形式に変換するのに要した時間と,「libx265」エンコーダでH.265/HEVC形式に変換するのに要した時間を,それぞれスコアとして採用する。使用したバッチファイルは以下のとおり。slowプリセットにanimationチューニングを加え,可能な限り画質の劣化を抑えた変換を行うというものだ。
del avc.mp4
del hevc.mp4
powershell -c measure-command {.\ffmpeg -i Diademe.avi -c:v libx264 -preset slow -tune animation -crf 18 -threads 0 avc.mp4} >MPEG4_score.txt
powershell -c measure-command {.\ffmpeg -i Diademe.avi -c:v libx265 -preset slow -crf 20 hevc.mp4} >HEVC_score.txt
グラフ31が測定結果となる。
まず,H.264のトランスコード時間は,16コアのR9 3950Xがトップ。続いてR9 3900X,i9-10900K,i9-10900K(5.3GHz)の順となった。10コアのi9-10900Kでも,12コアのR9 3900Xには及ばないわけだ。また,時間がかかるトランスコードだけにパワーリミットの影響が強く,i9-10900K(5.3GHz)は定格動作に及ばなかった。
8コアCPU同士で比較すると,i7-10700は,i9-9900KSやR7 3700Xに及ばない。TDP 127Wという強烈な仕様のi9-9900KSはともかく,同じTDP 65WクラスのR7 3700Xに及ばなかったのは,少々残念といったところだろうか。
H.265もおおむね同様の結果で,トランスコードではRyzenの強さが目立つ。動画の編集目的であれば,R9 3950XやR9 3900Xを選んでおけば間違いないという,これまでの結論に変わりはないようだ。
続いては,DxO PhotoLab 3を使ったRAW現像の所要時間を見てみよう。ここでは,ニコン製デジタルカメラ「D810」を用いて撮影した解像度7360×4912ドットのRAWファイル60枚に対して,ベンチマーク用のプリセットを適用し,JPEGファイルとして出力し終えるまでの時間を計測し,スコアとして採用した。結果はグラフ32のとおり。
トップはR9 3950Xで,R9 3900Xが続き,以下,i9-10900K,i9-10900K(5.3GHz)の順である。要はコア数順だ。
8コアCPU同士での比較では,i7-10700は,i9-9900KSやR7 3700Xに及ばなかった。とくにR7 3700Xとの差は354秒(約6分)もあり,同じTDP 65Wクラスなら,R7 3700Xが圧倒しているという理解でいいかと思う。傾向としては動画のトランスコードと同じで,RAW現像でもRyzenが依然として強いと言えよう。
次のグラフ33は,マルチスレッド性能がスコアに大きな影響を与える3Dレンダリングベンチマーク「CINEBENCH R20」の結果である。
トップはR9 3950Xで8600台,次点はR9 3900Xの7000強で他を圧倒している。i9-10900Kは5400強,i9-10900K(5.3GHz)はパワーリミットの影響をモロに受けて5300台となった。おおむねコア数で順位が決まっている印象だ。
8コアCPUの場合,i7-10700はR7 3700X比で約71%のスコアしか出せていない。TDP 65Wクラスだと,やはりR7 3700Xが強いようである。
最後は,マルチスレッドに最適化したファイルの圧縮・展開ツールの「7-Zip」である。
7-Zipの「7-Zip File Manager」にはベンチマーク機能があるので,7-Zip File Managerから「ツール」→「ベンチマーク」を開き,いったん[停止]ボタンを押してから「辞書サイズ」を「64MB」に設定。その後,[再開]ボタンをクリックして3分間連続実行し,その時点での総合評価をスコアとして採用することにした。結果はグラフ34となる。
トップはR9 3950Xで,R9 3900Xがそれに続き,以下,
8コアCPU同士の比較だと,R7 3700X,i9-9900KS,i7-10700の順だ。R7 3700Xがi9-9900KSを逆転するのは,CINEBENCH R20などとの違いだが,これは7-zipが,主にRyzenが得意とする整数演算を主体とするからだろう。i7-10700のスコアはR7 3700Xの約83%に留まり,7-zipに関しても,TDP 65WクラスではR7 3700Xが圧倒的に強いと言える。
というわけで,一般用途ではR9 3950XやR9 3900Xが強いという結果だった。i9-10900Kの強みを強いて挙げるなら,オーバークロック時にPCMark 10のEssentialsで目覚ましいスコアを叩き出したことくらいだが,これは瞬発力に優れるというだけで,長時間の負荷がかかるエンコードやRAW現像と言った日常的に行う重い処理では,この手の瞬発力はあまり意味がない。
8コアCPUではi9-9900KSが良好な性能をもつといえるが,TDPが127Wという強烈な仕様だけに例外的な存在だろう。何度も述べているように,TDP 65Wクラス同士の比較なら,明らかにR7 3700Xのほうがi7-10700よりも高い性能を持っている。
i5-10600Kに関しては,比較対象がないので細かな評価を控えるが,6コアCPUとしてはまずまずのスコアを残すということは言えるかと思う。
消費電力あたりの性能もRyzenが強い
最後に,消費電力を見ていきたい。4Gamerでは,ベンチマークレギュレーション20世代以降で,EPS12Vの電流を測り,12をかけて電力に換算する方法を採用している(関連記事)。この方法なら,CPU単体のおおよその消費電力が推測できるからだ。
ただ,電気代という現実的な運用コストに関わるシステム全体の消費電力も目安として知りたい読者は多いと考え,システム全体の最大消費電力もあわせて掲載している。
まず,グラフ35と36は,各テストにおけるEPS12Vの最大値と,無操作時にディスプレイ出力が無効化されないよう設定したうえで,OSの起動後30分放置した時点(以下,アイドル時)の計測結果をまとめたものだ。項目数が多く,1つにまとめるとグラフが縦に長くなりすぎるため,ゲームテスト時とゲーム以外のテスト時とでグラフを2つに分けてみた。
i9-10900Kで最大の消費電力を記録したのは,CINEBENCH R20実行時の約256.3W。i9-10900K(5.3GHz)も同じくCINEBENCH R20実行時で,約252.6Wだった。パワーリミットがしっかり機能するため,ピーク時の消費電力は定格動作とオーバークロック時でさほど差がないという結果だ。
一方,ゲームプレイ時にi9-10900Kが最大の消費電力を記録したのは,
ゲームプレイ時以上に,オーバークロック状態での消費電力が極端に高くなるのはアイドル時で,i9-10900K(5.3GHz)は無操作にも関わらず,60W近くを消費し続ける。i9-10900K(5.3GHz)はさほど性能が向上するだけでもなかったので,これでは割に合わないというのが率直な感想だ。
i7-10700で消費電力のピークを記録したのは,PCMark 10実行時の約212.6Wだ。65WというTDPの仕様からすればかなり高いが,おそらく瞬間的に大きな電流が流れたのだろう。とはいえ,ピーク時ですら90W以内に収まってしまうR7 3700Xに比べると,i7-10700の各アプリ実行時におけるピーク消費電力は,かなり大きいという印象は否めない。
それらに対して,i5-10600Kの消費電力はかなりおとなしめで,ffmpeg実行時の110Wが最大だった。ピークでもTDPの仕様である125W以下ということを考えると,オーバークロック余力が相当にありそうだ。
さて,ピーク時の消費電力はあくまでも瞬間最大風速的な結果であり,重要なのは,アプリ実行時の典型的な消費電力を示すCPU単体の消費電力における中央値だろう。その中央値をグラフ37,38にまとめてみた。
i9-10900Kで最大を記録したのはffmpeg実行時の約132Wで,
一方,i7-10700では,PROJECT CARS 2実行時の約75Wが最大だった。定格TDPを10W超える中央値なので,やや高いという結果だ。i7-10700は,定格TDPを越える中央値をいくつかのアプリで記録しており,カタログ上のTDPよりやや消費電力が大きめと言っていい。同じTDP 65WのR7 3700Xと比較すれば,消費電力の多さは明らかだ。
i5-10600Kでは,CINEBENCH R20実行時の約105.7Wが最大だった。定格のTDPである125Wよりも20W近い余力を残すので,前述したとおり,i5-10600Kのオーバークロック余力はかなり高そうだ。
最後のグラフ39と40は,ログの取得が可能なワットチェッカー「Watts up? PRO」を用いて,各テスト実行時点におけるシステムの最大消費電力をまとめたものである。
システムの消費電力はGPUが支配的で,CPUとGPUの双方に高い負荷がかかるゲーム録画時が最も高くなるのが一般的な傾向だ。
システム全体の結果だが,i9-10900Kはゲーム録画時に約455.3W,
i7-10700もゲーム録画時には約425.2Wに達し,そこそこ高い消費電力を記録している。約379.8Wに収まったR7 3700Xに比べると,有意に高いと言っていいだろう。
i5-10600Kは,ゲーム録画時でも約378.9Wとそこそこおとなしいが,6コアCPUなので,これは妥当なところだろう。
消費電力を見てきたが,消費電力あたりの性能では,やはりRyzenが極めて強いとまとめざるを得ない。7nmプロセスが利用できるAMDと,14nmプロセスに留まっているIntelの差が明確に出てしまっているのだろう。10nmのプロセス技術が利用されると言われている第11世代Coreプロセッサ(開発コードネーム:Tiger Lake)が出てこないことには,消費電力はどうにもならないなというところだ。
なんとも微妙な第10世代Coreプロセッサ
i9-10900Kは,ゲームのフレームレートがIntelのアピールほど高くなく,むしろ第9世代のi9-9900KSにおけるゲーム性能が際立つ結果になった。今後,より多くのゲームがIntelの10コアに最適化されると言ったことでもない限り,i9-10900Kをゲーム用に積極的に選ぶ理由はないだろう。
一方で,10コア20スレッドという非ゲーム用途でのマルチコア性能を期待した点も,実行性能ではR9 3950XやR9 3900Xに及ばない。ゲーム,非ゲームにおけるマルチコア用途のどちらをとっても,現状ではあまりいいところがないわけだ。強いて言えば,R9 3950XやR9 3900Xに比べると,i9-10900Kのほうがゲームでフレームレートが出やすい利点はある。とはいえ,その差は数fps程度で,マルチコア性能の差を考えると,この程度の差は誤差になってしまうだろう。本稿執筆時点におけるCPU単品の価格も,Ryzen 9 3900Xのほうが安価だ。
それに対して,i7-10700は,ゲーム性能がそこそこ高く,素性は良さそうだ。ただ,マルチコア性能は,R7 3700Xのほうが確実に高い。実勢価格次第では,i7-10700をゲーム目当てに購入するのは悪い選択肢ではないと思うが,マルチコア性能や消費電力性能では,R7 3700Xに分があることを押さえておくべきだろう。
最後に,i5-10500Kは今回比較対象がないので,先述したとおり,性能面での評価は差し控える。ただ,定格動作時の消費電力が控えめなので,オーバークロックはしやすいはずだ。競技的なオーバークロックを楽しむという用途ならアリではなかろうか。
Intelの第10世代Coreプロセッサ製品情報ページ
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第10世代Core(Ice Lake,Comet Lake)
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