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西川善司の3DGE:Ryzen 4000とRadeon RX 5600 XTの気になるところをAMDにアレコレ聞いてみた
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印刷2020/01/16 00:00

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西川善司の3DGE:Ryzen 4000とRadeon RX 5600 XTの気になるところをAMDにアレコレ聞いてみた

 CES 2020に合せて行われたAMDのプレスカンファレンスについては,すでにレポートでお伝えしているが(関連記事),すべての謎が明らかになったわけではなく,執筆中にも新しい疑問がいくつも浮かんできた。その後,AMDが報道関係者向けブリーフィングを行ったので,出席したRyzenシリーズとRadeonの開発担当者に,それらの疑問をぶつけてみた。その概要をレポートしたい。


なぜRyzen 4000は単一ダイデザインなのか?


取材に応対してくれたAMDのScott Stankard氏(Senior Product Manager, Client Business Unit)
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 「しばらくノートPC向けに魅力あるCPU製品を投入できていなかったAMDとしては,久々に自信を持って提供できる製品が完成したことがうれしい」と話し始めたのは,クライアントPC向けビジネスを担当するScott Stankard氏だ。氏には,なぜRyzen 4000シリーズでは「チップレットアーキテクチャ」を採用しなかったのかをたずねてみた。

 チップレットアーキテクチャとは,AMDがチップレット(Chiplet)と呼ぶ複数のシリコンダイを組み合わせて,プロセッサのパッケージを構成する仕組みのことだ。AMDは,「Ryzen Desktop 3000」シリーズ(以下,Ryzen 3000)をはじめとするZen2世代のCPU製品でこれを採用しており,最先端の7nmプロセスで製造したCPUチップレットと,成熟した14nmプロセスで製造するI/OチップレットでCPUパッケージを構成していた。

Ryzen 3000シリーズのイメージCG。上にある2つのダイがCPUチップレットで,下の大きなダイがI/Oチップレットだ
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 チップレットアーキテクチャにおける利点の1つに,多様なコア数/スレッド数のCPUラインナップを構築できる点がある。Ryzen 3000のうち,Ryzen 7/5/3では,CPUチップレット1基と専用I/Oチップレット1基,Ryzen 9ではCPUチップレット2基と専用I/Oチップレット1基を組み合わせている。また,HEDT(High-End DeskTop)市場向けの第3世代Ryzen Threadripperでは,CPUチップレット最大8基と専用I/Oチップレット1基という構成になっている。4コア4スレッドから64コア128スレッドまでの多彩な製品ラインナップを短期にリリースできたのは,チップレットアーキテクチャの恩恵があってこそだった。

AMDのプレスカンファレンスでAMD CEOのLisa Su(リサ・スー)氏が披露したRyzen 7 4800UのCPUパッケージ
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 しかし,AMDがCES 2020のプレスカンファレンスで公開したRyzen 4000シリーズのCPUパッケージは単一ダイ構成になっていた。
 Ryzen 4000シリーズで,チップレットアーキテクチャを採用しなかった理由について,Stankard氏は「最高の消費電力効率とサイズ効率が求められるノートPC向けプロセッサでは,チップレットアーキテクチャの恩恵が薄いと判断したため」と答えた。
 チップレットアーキテクチャは,CPUチップレットとI/Oチップレット間のインターコネクトが必要なので,単一ダイ上で接続する場合よりも消費電力が増加する。ノートPC向けプロセッサでは,消費電力あたりの性能を突き詰めることが重要であるため,全体の物理設計を7nmプロセスに最適化する必然性が生まれたわけだ。

AMDによると7nmプロセス製造のZen 2ベースのプロセッサでは,12nmプロセスで製造するZen+世代の製品と比べて,電力あたりの性能が2倍に向上したとのことだが,その大きな要因は製造プロセスの微細化によるものだという
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 また,一般的なノートPCをターゲットとして性能を考えたときに,8コア16スレッドで十分だろうという判断もあったのだろう。これは,8コア16スレッドの性能でユーザーの要求を満たせるという判断と,競合であるIntelと戦うにはこれで十分だろうという目算があったと思われる。であるならば,8コア16スレッド単位のCPUダイを複数搭載するような構成の製品も不要だ。というわけで,Ryzen 4000シリーズは単一ダイデザインとなったわけだ。


なぜ統合GPUはNavi世代じゃなくVega世代なのか?


 Ryzen 4000シリーズは,前世代のノートPC向けRyzen APUと比べて,統合型グラフィックス機能(以下,iGPU)のCompute Unit(CU)数が減った。たとえば,前世代のハイエンドとなるRyzen 7 3750HやRyzen 7 3700Uでは,iGPUとして10CU構成のVega GPUを搭載していた。それに対して,Ryzen 4000シリーズのハイエンドモデルであるRyzen 7 4800Hでは7CU構成で,Ryzen 7 4800Uでも8CU構成のVega GPUとなっているのだ。

ハイエンドノートPC向けとなるRyzen 4000Hシリーズのラインナップ
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薄型ノートPC向けとなるRyzen 4000Uシリーズのラインナップ。チップそのものはRyzen 4000Hシリーズと同じだ。図中のキャッシュ容量はL2とL3の総容量値となっている。L3キャッシュは4コアモデルで4MB,6-8コアモデルで8MB,L2キャッシュは1コアあたり512KBという構成
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 iGPUのCU数が減った理由について,「グラフィックス性能の設計目標を少ないCU数で実現できてしまったから」とStankard氏は答えた。
 具体的には,論理設計や物理設計の最適化による性能向上,製造プロセスの微細化(12nm→7nm)による動作クロックの引き上げ(1400MHz→1750MHz)などの効果で,1CUあたりの性能が最大59%も向上したというのだ。そのため,CU数が減っても,グラフィックス性能は30%も向上したとのこと。
 つまり,Ryzen 4000シリーズにおいては,前世代比で30%のGPU性能向上が実現できれば十分であると,AMDは判断したわけだ。ノートPCで,これ以上のグラフィックス性能が求められる場合は,単体GPUと組み合わせた製品設計のほうが価格対性能比に優れるので,そうしたニーズにはノートPC向けRadeonを売り込みたいという思惑もあるのではないだろうか。

 ところでCUあたりの性能が向上したから,CU数を少なくしても問題ないと判断したのは理解できるとして,なぜ,ノートPC向けRyzen 4000シリーズには,iGPUとしてNavi世代のGPUコアを採用しなかったのだろうか。これに対するStankard氏の回答は実にシンプルで,「開発のタイムラインにおいて,Navi世代のGPUを統合する状況になかっただけ」とのことだ。
 これは筆者の私見になるが,Navi世代のGPUがノートPC向けRyzenのiGPUになるのは,次世代モデルからになるのだろう。


Ryzen 4000シリーズに関するその他の細かな疑問点


 ここからは,細かな質問を一問一答式で記しておくことにする。

――ASUSのゲーマー向けノートPC「ROG Zephyrus G14」(以下,Zephyrus G14)の製品情報ページでは,搭載APUに「Ryzen 7 4800HS」と書かれていた。プレスカンファレンスで明らかになったラインナップにはないAPUだが,これは何か。

Stankard氏:
 特定のノートPCメーカーに提供した特別なSKUとなる。Ryzen 4000Hシリーズは,通常,TDP(Thermal Design Power,熱設計消費電力)を45Wとしているが,メーカーの要望にあわせて特別なTDPの製品を提供することがある。Zephyrus G14はその一例である。

――グラフィックス処理の負荷に応じて,CPUとGPUの間で電力を動的に振り分ける「AMD SmartShift」において,iGPUと単体GPUを同時に稼動させることはできるのか。

Stankard氏:
 iGPUと単体GPUを同時に動かすことはできない。iGPUと単体GPUのどちらか一方が動いているとき,稼動していないGPUはほぼ完全に動作を停止する。

――Zen2世代のデスクトップ向けプラットフォームでは,PCI Express(以下,PCIe) 4.0の採用を特徴の1つとしてアピールしていた。ノートPC向けのRyzen 4000ではどうなのか。

Stankard氏:
 PCIe 3.0対応となる。これは,直近のノートPC活用シーンにおいて,PCIe 4.0のメリットが生きる場面はそう多くはないだろうと判断してのことだ。

――今回発表されたノートPC向けプロセッサの中に,Athonの名が付いた製品もあった。このシリーズはどういったものなのか。

Stankard氏:
 2020年のAthlon 3000シリーズは,エントリー市場向けノートPCをターゲットにしたプロセッサだ。3000型番を名乗っているが,14nmプロセスで製造する初代ZenベースのAPUとなる。

Athlonシリーズは3000型番を名乗ってはいるが,実は初代Zenベースで,製造にも14nmプロセスを用いる
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プレスカンファレンスで語られなかった

Radeon RX 5600シリーズの補足情報


Mithun Chandrasekhar氏(Sinior Manager,Product Management)
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 続いてのテーマは,Radeon RX 5600(以下,RX 5600)シリーズだ。このパートは,Mithun Chandrasekhar氏(Sinior Manager,Product Management)が答えてくれた。
 最初に筆者がたずねたのは,筆者のプレスカンファレンスレポートでも「分かりにくい」と書いたRX 5600とRadeon RX 5500シリーズ(以下,RX 5500)のキャッチコピーについてだ。
 AMDは,RX 5500に「NEXT LEVEL 1080p GAMING」,RX 5600に「ULTIMATE 1080p GAMIING」というキャッチコピーを付けているのだが,いずれも「1080p(フルHD解像度)におけるゲーム体験」をターゲットとしており,製品を選ぶユーザーとしては,違いは分かりにくく思える。これらの違いについて,Chandrasekhar氏はこう説明する。

RX 5600のキャッチコピーは「ULTIMATE 1080p GAMING」。ちなみに,RX 5600の開発コードネームが「Navi 10」であることを確認できた
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Radeon RX 5500のキャッチコピーは「NEXT LEVEL 1080p GAMING」
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 「Steamのアンケート機能によると,現在のゲームファンにおけるGPU買い換えサイクルは3年となっている。ゲームファンのほとんどは,フルHD環境でゲームを楽しんでいる。つまり,彼らに満足してもらえるGPUは,少なくとも今後3年間は,フルHD環境で満足のいく製品である必要がある。RX 5600は,最新ゲームの最高品質を60fpsオーバーで楽しめるものとして設計した。そのため「ULTIMATE 1080p GAMING」というコピーになっている」

直近のSteamのアンケートに答えたユーザーのうち,2000万人を超える人が1080p環境でゲームを楽しんでいて,彼らのほとんどが3年以上前のGPUを使っていることがわかったという
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 RX 5500も3年間にわたってユーザーが満足できる1080pゲーミング環境を提供するというコンセプトは同様である。RX 5600ほど高い映像品質は求めない程度の性能や,eスポーツタイトル程度の軽いゲームをプレイすることを想定したユーザー向けという製品であるため,「NEXT LEVEL 1080p GAMING」というキャッチコピーにしたのだそうだ。
 ULTIMATEとNEXT LEVELのどちらが高性能なのか直感的に把握できないのは,この回答を聞いても変わらないのだが,AMDとしては,RX 5600とRX 5500をこのように位置付けていると覚えておこう。

 ところで,RX 5600の仕様を見た人は気付いたかもしれないが,RX 5600は容量6GBのGDDR6メモリ,RX 5500は容量4GB,または8GBのGDDR6メモリを搭載するので,8GB版のRX 5500を選んだほうがグラフィックスメモリ容量が多いという逆転が起こっている。
 これについてChandrasekhar氏に質問したところ,「RX 5600のメモリインタフェースは192bit,RX 5500は128bitなので,メモリ帯域幅はRX 5600のほうが高くなる。フレームレートを重視するのであれば,5600のほうが性能は上である」という答えが返ってきた。つまり,ゲーム用途ではRX 5600シリーズのほうが高性能であるというわけだ。一方で,動画編集やグラフィックスデザインといったクリエイティブな用途では,グラフィックスメモリの容量が大きい8GB版のRX 5500を選択するのはありだろう。

メモリインタフェースは,RX 5700系が256bit,RX 5600系が192bit,RX 5500系が128bitで,それにともなってメモリ帯域幅も変化する
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 今回発表となったRX 5600シリーズには,デスクトップPC向けのRX 5600 XTと,その下位モデルのRX 5600,ノートPC向けのRX 5600Mの3製品がある。このうち,RX 5600 XTとRX 5600の違いはCU数のみで,RX 5600 XTが36CU,RX 5600が32CUだ。購入を検討しているゲーマーは,どちらを選択すべきか迷ってしまいそうに思える。しかし,Chandrasekhar氏によると,「ユーザーが迷う余地はない」のだそうだ。
 というのも,RX 5600 XTは,単体のグラフィックスカード製品として市場に出回るが,一方のRX 5600は,PCメーカー向けの製品になるためだ。つまり,RX 5600 XTを搭載した完成品PC製品は(原則的には)登場しないし,逆にRX 5600搭載グラフィックスカードも単体製品としては出てこないのである。

それぞれの製品で,CU数の違いにあまり大きな差はない。36CUなのがRX 5700 XT,RX 5700,RX 5600 XT,RX 5700M,RX 5600Mで,32CUなのがRX 5600,RX 5500。
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RX 5600 XTにはリファレンスカードが存在ぜず,製品は各メーカーの独自設計だという
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 最後に,筆者のプレスカンファレンスレポートでも取り上げた「FreeSyncのリブランド」についても聞いてみた。これはAMD独自のディスプレイ同期技術「FreeSync」が,これまでのFreeSync 1,FreeSync 2の2ランク構成から,FreeSync,FreeSync Premium,FreeSync Premium Proという3ランク構成に切り替わるというものだ。
 プレスカンファレンスの段階では,既存のFreeSync1,2のブランディングをどうしていくのかわからなかったが,Chandrasekhar氏によると,レポート記事における筆者の予想どおりであるという。
 つまり,FreeSync1と2の違いが分かりにくいので,機能レベルの違いで無印FreeSyncと,Premium,Premium Proの3種類に整理したということだ。簡単に整理すると以下のとおりとなる。

●FreeSync
  • ハイフレームレート映像の高品位表示
  • 可変フレームレート映像の高品位表示
  • 対応リフレッシュレートの規定無し

●FreeSync Premium
 FreeSyncの要件に加えて
  • リフレッシュレート120Hz以上に対応
  • 表示に間に合わないフレームの継続表示機能(Low Framerate Compensation:LFC)に対応

●FreeSync Premium Pro
 FreeSyncとFreeSync Premiumの要件に加えて
  • HDR対応

 なお,Chandrasekhar氏によれば,今後,FreeSync1,2という表記は廃止するとのことである。ちなみに,3ランク構成となるFreeSyncの認証を得るためには,これまでと同様にAMDが行う認証プログラムをパスする必要があるとのことだが,その認証費用は無料であると,Chandrasekhar氏はアピールしていた。また,既存製品がFreeSync 2の認証を受けていた場合,自動的にFreeSync Premium Proと名乗れるという。

AMDの公式Webサイト


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