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AMD,Ryzen 4000シリーズ,Radeon 5600シリーズを発表。まさかのFreeSync仕切り直し? 新技術SmartShiftで消費電力そのままノートPCの描画性能を10%アップ
年末に,Radeon RX 5500/5700シリーズや,Ryzen Threadripper 3970Xなどをアナウンスしたばかりだったため,年明けてのCESプレスカンファレンスでどの程度のニュースが出てくるのか予想が難しかったのだが,発表の手数は意外と多かったと思う。ただ,発表された内容は予想の範囲内のものが大半で,多くの人が待ち望んでいるウルトラハイエンドクラスのNavi系列GPUや,リアルタイムレイトレーシング対応技術などの発表はなかった。
とはいえ,細かいところに「想定外の小ネタ」的な発表などもあるにはあったので,本稿では発表内容を総ざらいする形でAMDプレスカンファレンスをレポートすることにしたい。
薄型軽量ノートPC向けCPU「Ryzen 4000U」シリーズを発表
AMDのこのプレスカンファレンスが開催される前日,Intelは「AMDのノートPC向けプロセッサ製品のラインナップには隙がある」ことを指摘する趣旨のプレゼンテーションを行っていた。登壇したAMDのPresidient兼CEOのLisa Su博士は,まず,そうしたIntel側からの指摘に呼応するかのように,いの一番に「2020年で最良のノートPC体験を提供するもの」と題して,ノートPC向けCPU(APU)製品群を発表していった。
最新の7nm製造プロセスを採用したプロセッサで,CPUコア世代はZen 2世代のものになる。トップエンドモデルは8コア16スレッドの構成だ。興味を惹くのは,ダイ写真を見る限り,1ダイ構成だということである。Zen 2世代のCPU製品はこれまで,8コア16スレッド構成のCPUダイと周辺I/O機能を集約したI/Oダイのマルチダイ構成をとっていただけに,Ryzen 4000シリーズが単一ダイ構成なのには少々驚かされた。
最初に発表されたのはTDP 15Wクラスの薄型軽量ノートPC向けのRyzen 7 4800Uだ。ベースクロック1.8GHz,ブースト4.2GHz,8コア16スレッドの処理性能を持ち,8CU構成のRadeon GPUを統合しており,事実上のAPUとなる。
※AMDのノートPC向けCPU(APU)は,デスクトップ用Ryzen 3000シリーズがZen 2アーキテクチャで登場したあとに,前世代製品を少しクロックアップした製品をRyzen 3000Uとして発表していた。今回デスクトップに先んじてZen 2による製品がRyzen 4000シリーズとしてノートPC向けに出されたのだが,アーキテクチャとしては現行のデスクトップ向けに並んだだけである。混乱を起こしうる型番なので注意。
昨日はIntel側にIce Lake世代のCoreプロセッサに対して性能が劣ることを指摘されたわけだが,本日は,AMDが逆に「我々のほうが高性能である」といわんばかりに,Core i7-1065G7よりもRyzen 7 4800Uが高性能であることをアピールするベンチマークテスト実行結果のグラフを示す番となった。
具体的には,Ryzen 4000シリーズは,Ryzen 2000/3000シリーズの2倍も消費電力あたりの性能が向上しているとし,その理由の30%を「1クロックあたりの命令実行効率の向上」「物理/論理設計の最適化」が占め,70%は製造プロセスルールの微細化に起因していると説明した。
実際の採用製品として,Su氏は,発売前のLenovoの「Yoga Slim 7」を持ち出した。14インチのフルHD画面を搭載し,厚さ14.9mm,重さ1.4kgで8コア16スレッドのCPUと,8CUのRadeonグラフィックスを搭載する薄型軽量ノートPCは,我々のプラットフォームでしか実現し得ないと,Su氏は主張した。
なお,Ryzen 4000Uシリーズを搭載した薄型軽量ノートPC製品は2020年第1四半期に続々と登場することが予告され,その数は2020年内全体で100種類は超えるだろうとしていた。
この後,ハイエンドノートPC向けCPU(APU)として,Ryzen 7 4800Hも発表される。
こちらは45W TDPクラスの高性能ノートPC向けのプロセッサで,ベースクロック2.9GHz,ブースト4.2GHz,8コア16スレッドの処理性能を持ち,7CU構成のRadeon GPUを統合している。こちらも事実上のAPUとなるが,ディスクリート(単体)GPUの組み合わせを想定しているためか,GPUコア数は前出のRyzen 7 4800Uよりも少ない。
昨日は,Intelに「高性能向けのノートPC向けプロセッサをAMDは持っていない」と指摘されたばかりなだけに,AMDは,「我々のRyzen 7 4800Hは,競合Intelの最上位CPUのCore i7-9750Hはもちろんのこと,彼らのハイエンドデスクトップPC向けCPUのCore i7-9700Kよりも高性能である」と主張し,その主要ベンチマークソフトの計測結果を示してみせた。
その搭載製品の一例として,Azor氏はASUSTeK Computerの「Zephyrus G14」,デルの「G5 SE」を紹介し,Zephyrus G14は2月,G5 SEは2020年第2四半期に発売されることを予告した。
Ryzen 7 4800Hを搭載するASUSのZephyrus G14 |
デルのG5 SEもRyzen 7 4800Hを採用する |
なお,Ryzen 4000シリーズは,壇上で紹介された製品以外に,下表のようなモデル群も発表されている。
NAVI世代GPUにまた新製品が追加〜Radeon RX 5600シリーズ登場
仕様は下図のとおりで,内部ミニGPU数を示すCU数は36基で,これは上位のRadeon RX 5700と同等だが,ゲームクロック,ブーストクロックといった動作クロックが Radeon RX 5700と比べて控えめに抑えられている。グラフィックスメモリはRadeon RX 5700と同じGDDR6を採用するも,容量については同8GBに対して6GBに留まり,グラフィックスメモリバス幅もRadeon RX 5700の256ビットに対して192ビットとなっている。仕様を見る限りはRadeon RX 5700系の仕様制限版といった印象で,開発コードネームに関する確かな情報はないが,おそらくRadeon RX 5700系と同じ「Navi10」と思われる(事前に「Navi12」というウワサも流れたが)。
Radeon RX 5600 XTについてAMDは,「最新のシェーダヘビーなグラフィックスのゲームをフルHD解像度,フルスペックでプレイすることができる性能を持つGPUである」と説明する。下位モデルのRadeon RX 5500シリーズについてもよく似た説明をしていたので,5500シリーズと5600シリーズのターゲットプレイヤーの違いが,今一つイメージしにくいかもしれない。
AMDは,Radeon RX 5600 XT(約7.2TFLOPS)の仮想敵として掲げたのはNVIDIAのGeForce GTX 1660 Ti(約4.6TFLOPS)で,同様に,Radeon RX 5500シリーズ(約5.2TFLOPS)では,GeForce GTX 1650(約2.7TFLOPS)を競合製品として掲げていた。同価格帯の競合製品を上回る性能を持つ対向GPU製品を,クラスを細分化してぶつけにきた,といったところだろうか。
今回,壇上で紹介されたのはRadeon RX 5600 XTのみだったが,「XT」型番が外されたRadeon RX 5600も同時に発表となっている。こちらはCU数は32基と,さらにCU数が削減されたモデルだが,そのほかの仕様はXTモデルと同一である。
また,Radeon RX 5600シリーズは,ノートPC向けのRadeon RX 5600Mも同時に発表となっている。こちらを搭載したノートPC製品は2020年前半頃までに発売されるそうだ。
FreeSyncは仕切り直し? SmartShiftってなに?
グラフィックス周りに関して,AMDはさらりと流すように,それでいてなかなか興味深い発表を行っていたので,取り上げておこう。
一つは,AMDが推し進めてきたGPU主導の映像表示メカニズム「FreeSync」関連のアップデートだ。
これまでは,ごく基本的な「ハイフレームレート映像の高品位表示」「可変フレームレート映像の高品位表示」を実現する技術を「FreeSync」と呼び,これに「HDR対応」を加えたものが「FreeSync 2」と呼称されてきた。
ややこしいのが,FreeSync 2発表前に,FreeSyncに「Low Framerate Compensation」(LFC)が追加されたことだ。LFCは,ディスプレイ側のリフレッシュレートに満たないフレームレートでGPUが映像を出力せざるを得ないときに,表示に間に合わない映像フレームを直前の表示フレームを使ってもう一度表示する仕組みのことである。どういうわけか,LFCは,FreeSyncのほうではなく,FreeSync 2に組み込まれることになった。ただ,プレイヤー側からすると,FreeSyncとFreeSync 2の機能の違いは分かりにくく,どの製品がFreeSyncの1と2のどこまでの機能に対応しているのかが分かりにくくなってしまった。
そこで,今回,AMDはFreeSyncの機能ランクを整理することにしたようだ。
対応ランク分けは3段階。
最も基本となるランクは,そのものずばりの「FreeSync」で,「ハイフレームレート映像の高品位表示」「可変フレームレート映像の高品位表示」に対応するものとなる。ただし,対応フレームレートは120Hz未満まで。
ここから一段上のランクは「FreeSync Premium」で,前出のFreeSyncに対し,リフレッシュレート120Hz以上対応と,LFC対応が含まれる。
そして最上位ランクは「FreeSync Premium Pro」で,前出のFreeSync Premiumに対し,「HDR対応」を組み込んだものに相当する。
分かりやすくなったような,そうでもないような,不思議な感覚に陥るが,とにかくAMDはこう舵を切ったようなので受け止めるしかない。今後,既存のFreeSync1,2のブランディングをどうしていくのかは不明である。
もう一つは,新技術「AMD SmartShift」と呼ばれるものだ。
これは,動かしているアプリケーションの種類に応じて,正確には,そのアプリケーションのグラフィックス処理負荷の度合いに応じて,電力予算をGPU側に回すというものらしい。
ノートPCでは,高性能を引き出したいからといって,極端に供給電力を上げてCPUやGPUをより高速に駆動することはできない。いうなれば,一定の電力予算(≒発熱予算)の範囲内で,CPU/GPUを駆動することになるのだが,グラフィックスヘビーなアプリケーションでは,CPUにはちょっと力を抜いてもらって,そのおかげで余った電力をGPU側に回して(場合によっては定格以上の動作クロックで動作させて)グラフィックス性能を向上させる,というのがSMartShiftの基本概念となる。
なお,CPUとGPUを統合したAPUと,単体GPUが組み合わさったシステムにおいても,この仕組みを働かすことができるとのことである。APU内のGPUと単体GPUを協調動作させたり,適宜選択動作させるような機能ではない点には注意したい。
最後にThreadripper 3990Xが正式発表に
プレスカンファレンスの最後には,2019年末に予告されていたZen 2世代のRyzen Threadripperシリーズの最上位モデルで,64コア/128スレッドの処理能力を提供する「Ryzen Threadripper 3990X」が正式に発表となった。
定格動作クロックは2.9GHz,ブーストクロックは4.3GHz。定格クロックはRyzen Threadripper 3970Xの3.7GHzと比較すると大分下がっている印象を受けるが,ブーストクロックはそれほど落ちてはいないので,瞬間最大性能は相当なものになりそうである。
価格もモンスター級で,北米価格はくしくも型番数字と同じ,3990ドルと発表されている。ちなみに,これは32コア/64スレッドモデルのRyzen Threadripper 3970Xの1999ドルのほぼ2倍の価格である。
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Radeon RX 5000
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