“今日のレトロゲーム”にフォーカスしていく連載
「レトロンバーガー」。第6回は,ゲームデベロッパの
ピクセルと,同社の開発タイトルを紹介します。
ピクセルは2018年にPC向けの「
ドットの拳 GIGA」や
「HORGIHUGH(ホーギーヒュー)」(
PC /
iOS)といった自社オリジナルのゲームをリリースしていて,前者には「ゼビウス」グラフィックスの
小野 浩氏と「源平討魔伝」サウンドの
中潟憲雄氏,後者には「グラディウスII -GOFERの野望-」サウンドの
古川もとあき氏と「超鉄ブリキンガー」グラフィックスの
タナカケンゴ氏が関わっているなど,どちらもレトロゲームのエッセンスを取り入れた内容となっています。また,「デスクリムゾン」のライブイベント(
関連記事)や「エメラルドドラゴン」の原画展など,レトロゲームに関連したイベントも開催しています。
ドット絵で描かれた鳥獣人物戯画や風神雷神図屏風の国宝的キャラクターが戦う「ドットの拳 GIGA」(関連記事)
|
|
軍事的緊張が張り詰めた世界にゴーザリアンと呼ばれる謎の侵略者が襲来し,隠居していたパイロットが立ち向かう「HORGIHUGH」(関連記事)
|
|
そんなこんなで「すごい会社だなあ」と思わされつつも,表立った活動を見せ始めたのが近年なため,企業としての情報があまり世に出ていないピクセル。ということで,ピクセル代表の
佐々木英州氏に,いろいろ聞いてみました。
佐々木氏と,「HORGIHUGH」主人公・ヒューのモデルとなった福島の被災犬であるヒューガ
|
4Gamer:
まずピクセルという会社について,簡単な紹介をお願いします。
佐々木英州氏(以下,佐々木氏):
よろしくお願いいたします。ピクセルは2016年に設立された仙台市の企業で,ゲーム開発や,レトロゲームを中心としたイベントの企画運営,Webサイトの制作・デザイン業務も行っております。
4Gamer:
わりと事業形態が幅広いですが,主体とされているのはどれなのでしょう。
佐々木氏:
収益の割合で言えば,Web系が40%,ゲームイベントが30%,ゲーム開発がグッズ販売を含めて30%といったところでしょうか。スタートがWeb制作だったという事もあり,ゲーム事業に舵を取り切れていない感は否めません(苦笑)。ですが今年,ある社団法人から「ゲーム業界に関するアンケート」をいただきまして,少しずつながらゲーム会社としての認知が進んでいるらしく,喜んでいます。
4Gamer:
ピクセルのゲームは,業界のレジェンド的な方々が開発に参加されていますが,起用の理由というのは何なのでしょう。
佐々木氏:
最初に,「単にネームバリューに頼っている」と思われることもあるのですが,それだけは否定させてください。イベントにしてもゲーム開発にしてもそうなのですが,弊社というより私個人が「好きなこと」「やりたいこと」を続けた結果,さまざまなご縁が生まれて現在に至っています。ただ,私から見れば“神の領域”の方々なので,今でもご連絡するときには緊張します。
4Gamer:
「エメラルドドラゴン原画展」や「HORGIHUGH」などを見ると「1980年代後半のゲームに思い入れが深そう」と感じます。佐々木さんのゲーム遍歴について教えてください。
佐々木氏:
最初にハマったのはアーケードゲームの
「ディグダグ」です。育ったのが山形県新庄市という小さな町なのですが,ゲームセンターやゲームコーナーを持つデパートなどがあり,期待のタイトルが意外と早い時期から稼働していた覚えがあります。とあるスーパーでは駐車場の踊り場に
「サンダーセプター」が一台だけ鎮座していて,その音楽を他の物音に邪魔されずに聞けたのは,今思うと贅沢な環境でした。家庭用では,たしか初めて手にしたハードが
MSXだったので,そこで活躍されていたKONAMIさんの作品が大好きでした。なので,ナムコさんとKONAMIさん,それとセガさんが,私のゲーム歴でとくに大きなウェイトを占めています。
4Gamer:
そういったタイトルに影響を受けて「好きなこと」「やりたいこと」を続けていた結果として,「ドットの拳 GIGA」や「HORGIHUGH」といったタイトルがあるわけですね。
佐々木氏:
「ドットの拳GIGA」は,ワークショップ&トークショーのイベント「Mr.ドットマンinSENDAI」を2018年1月に仙台で開催したご縁から生まれました。2月の「東京ゲーム音楽ショー2018」でも少しお手伝いをしたのですが,そこで小野さんが描かれた鳥獣戯画のドット絵が可愛くて印象に残りました。3月の「Mr.ドットマンin大阪」でネタになればと試作品を作り,そして5月には「ゲームレジェンド28」(レトロゲーム系の同人即売会)があったので,Mr.ドットマン運営の山本様と「ゲーレジェまでに作っちゃう?」「せっかくだから中潟さんに音楽をお願いする?」など話が膨らみ,企画から発売まで2か月程度のとんでもないスケジュールで進行しました。
昨年末に発売したマイナーチェンジ版の
「ドットの拳GIGA/BLACK」では,
「ドラゴンバスター」の音楽を作られた
慶野百合子さんにもスペシャルゲストコンポーザーとしてご参加いただきました。さらに2月23日に開催される「東京ゲーム音楽ショー2019」では中潟さんのブースで,私としても待望の
サントラが発売されます。「皆さんが聞きたかった中潟さんの楽曲はコレでしょ!?」と言いたくなるほどの出来栄えなので,往年のファンも納得の仕上がりだと思います。枚数に限りがありますので,ぜひゲットしてください!!
「HORGIHUGH」は,
公式サイトに詳しい流れを掲載しているのですが,もともとは東日本大震災で生まれた繋がりから企画が始まりました。そして古川もとあきさんがTwitterでフォローを返してくれたこと,古川さんのバンドが「HOPE」(矩形波倶楽部の名曲)を復興支援のチャリティライブで演奏された姿に心を打たれたこと,私が
「グラディウス2」(※)などの音楽を好きだったこと……それ以外にもさまざまな要因が重なり,古川さんに作曲をお願いしました。
※MSX用ソフト。タイトルは似ているが,アーケードの「グラディウスII -GOFERの野望-」とは内容が大きく異なる。
「HORGIHUGH」の音楽は,潮騒が似合う爽やかなメインテーマ,体感温度が下がりそうな雪国のテーマなど,失礼な言い方かも知れませんが想像以上に素晴らしい楽曲を書いていただけました。同作のサントラも販売していますが,「グラディウス2」や「グラディウスII」,「A-JAX」などにも負けない,古川さんファンのマストアイテムと言える名盤になったと思っています。随所に響く“古川節”は感涙ものです。
4Gamer:
単に「レジェンド的な人物が素材を手がけた」だけでなく,ゲーム自体もレトロ志向なテイストですよね。
佐々木氏:
会社の,と言うより私個人の理念として……
「文化としてのゲーム」「アートとしてのゲーム」「レトロゲーム=ゲーム業界のクラシック,としての位置づけ」を掲げております。幼いころから“制限の中で生まれるクリエイティブ性”に興味があり,ゲーム雑誌を読むときも,制作や技術の裏話など,作り手に関する記事を読むのが好きでした。
例えばクラシック音楽を学ぶにしても,作曲者の生い立ち,楽器の製造工程,他のアートとの結びつき,宗教や思想といった社会背景など……さまざまな教養を学ぶことにより,より音楽に興味が深くなって,奏でたり創作したりする楽曲に深みが生まれる気がします。ゲームについても同じで,旧作を知ることで良いゲームを作れると私は思うのです。それに,ビデオゲームは比較的新しいカルチャーなので,技術面ではさまざまな進化を遂げているものの,面白さの本質はまだ大きく変わっていないと思います。それに,レジェンドと呼ばれるような皆様も多くが活躍を続けていて,SNSなどでコンタクトを取りやすくなったりもしているので,言うなればベートーベンやショパンに教えを請えるような時代です。
また,最新技術を否定するわけではありませんが,あえて高度な表現を削ぎ落とした状態からスタートすることは,新たなクリエイティブの起点になるのではないかという想いがあります。とくに,私のような世代が見てきた進化の過程を伝えていくことは,意義があるのかなあと。いろいろとダメ評価を受けるロスジェネ世代ですが……(笑)。
ただ,弊社の作品がレトロゲーム風になるのは,狙いというよりも単に「作りたいものがそれ」ということだったり,技術面の都合が大きかったりします(笑)。
4Gamer:
開発のほか,イベントも開催されてるわけですが,有名作の開発者をスタッフに迎えるのと,有名作のIPを扱うのでは勝手が違うかと思います。「エメラルドドラゴン原画展」のときはどうだったのでしょう。
佐々木氏:
エメラルドドラゴンに関しては,あくまでキャラクターデザインを務めた
木村明弘氏の絵と,ゲームのキャラクターをフィーチャーしたイベントとなりました。ゲーム自体の権利について詳細を確認するのは難しかったので,ロゴなどは使えませんでした。
レトロゲームの権利関係はいろいろと問題が起こることも多く,とあるゲームのリメイク企画で,レトロゲーマーなら誰でもご存知なほど偉大な人物にご迷惑をお掛けしたこともありました……。
木村先生は“竹を割ったような”という表現がしっくり来る,大胆でありながら謙虚さも持った素敵なお人柄で,早い段階から色々お任せいただき感謝しております。実は原画展前日までの半年にわたって,販促物やグッズ制作などの都合上,弊社事務所と私の自宅に原画を置いていました。ゲーム業界的にも貴重なものなので,室内の温度や湿度には気を使い,まして自分が死んだりしてはならないと,非常に非常に緊張感のあった半年でした。
4Gamer:
そして今度は
「デスクリムゾン」のライブイベントを開催されるんですね。
関連記事
佐々木氏:
はい。3月31日に,東京の新宿イズモギャラリーで
渡辺邦孝氏によるソロライブを開催します。チケットは即日完売してしまったので,第2部も急遽公演することにしました。ちなみに,
第2部のチケットはまだ若干残っています。
渡辺氏は,デスクリムゾンの音楽を手がけた人物としてYouTubeチャンネルなどをフォローしていましたが,今回のイベントにあたって知れば知るほど功績の偉大さに驚かされました。いつも飛び込んでから「とんでもない事をやってしまった」と気付きます。
4Gamer:
渡辺さんのインタビュー記事を昨年末に掲載しましたが,伝説的なプログレバンドのメンバーだったり,有名な映画やTV番組の劇伴をやっていたりと,すごい経歴の人物ですよね。
佐々木氏:
ゲームファンには渡辺氏の魅力,そしてデスクリムゾンをあまり知らない渡辺氏のファンには,新しい渡辺氏の側面をお伝えできると思っています。
エメラルドドラゴンのイベントでは,「手作り感が否めない」といった来場者のツイートを拝見したのですが,それもまた弊社らしさかもしれないと,ある意味で肯定的に受け取っています。ただ,不手際が少なからず生じてしまうことは,本当にごめんなさい! お客様に少しでも楽しんでいただけるよう努力を積み重ねていきますので,温かい目で見守っていただけると幸いです……。
4Gamer:
ところで「エメラルドドラゴン原画展」や「HORGIHUGH」などから「1980年後半のエッセンスをメインで活動されているのかな」と思っていたので,1996年発売である「デスクリムゾン」のイベントを開催されるのは意外でした。
佐々木氏:
1980年代はもっとも好きな時代ですが,「プレイステーション クラシック」が発売されたこともあり,PlayStationやセガサターンもレトロの範疇なのかなと感じています。デスクリムゾンに関しては,エメラルドドラゴン原画展の帰路で交わしたスタッフとの雑談から始まりました。ちなみに,私の家庭用ゲーム機の遍歴が,MSX,PC-8801,セガ マークIII,メガドライブ,セガサターンといった流れなので,イベントなどのラインナップはこんな感じになっています(笑)。
4Gamer:
昨年末は「ドットの拳GIGA/BLACK」に「HORGIHUGH」と,立て続けにタイトルをリリースされましたが,現在のゲーム開発事業の動きはどうなっていますか。
佐々木氏:
今年は,まず
「HORGIHUGH」の家庭用移植を行っております。さらに新作として,
とある有名な1980年代アニメをオマージュした作品を企画しています。新作はドット絵ではありません。思い描いているクリエイターの参加や,ゲーム内容を実現できれば,面白いタイトルになると思っています。
「ドットの拳GIGA」に関しても,今年は小野 浩氏の
ドット絵人生40周年という大きな節目でもありますので,面白いことをやりたいですね。
4Gamer:
家庭用に参入ですか! それは楽しみです。ところで,PC向けタイトルは現在のところ,
自社通販やイベント販売,一部のマニアックな店舗での取り扱いとなっていますが,こちらは今後どうなるのでしょう。
佐々木氏:
販路や流通に関しては単純に力不足でして,弊社の重要課題となっています。この記事をご覧いただいた販売店の方,ご連絡いただけますと幸いです!!
4Gamer:
それでは最後に,読者へのメッセージをお願いします。
佐々木氏:
弊社の作品は,人材も力も足りず,小規模かつ粗削りな部分の多い,インディーズ作品感が出てしまっていることは否めません。あ,イベントもか……。それでも少しずつクオリティを上げていき,想いのこもった特別な作品作りをしていきたいと思います。
お客様に「ピクセルに関わっていると,なんか楽しい」と言ってもらえる会社を目指し,少しでも楽しい時間を皆様に供給できるよう頑張っていきます。小さな会社なので,できることは限られますが,逆に小規模だからこその機動力を大切にして,クリエイターの皆様とファンの架け橋になれるよう,活動していきたいと思います。
今後とも応援いただけますと幸いです。
最後に,実際「HORGIHUGH」と「ドットの拳 GIGA」がどういうゲームなのかを簡単に紹介します。ちなみに2月23日に開催される「東京ゲーム音楽ショー2019」での中潟氏による「ドットの拳 GIGA」サントラ販売がインタビュー文中で触れられていますが,「HORGIHUGH」および同作サントラも
古川氏のブースで販売されるとのこと。混雑の状況や出展者の意向次第ではあるものの,レジェンド的なコンポーザからサインをもらえたりもするイベントなので,ファンは要注目です。
HORGIHUGH
「HORGIHUGH」は,横スクロールのシューティングゲーム。キャラクターが動物モチーフ(デザインは「シャンティ」などの
KOU氏)だったりアートがポップだったりするものの,オールドスクールな設計なので自機ショットのカバー範囲が狭く,「超難しいッス!」というほどではないものの
「舐めプは死ぬ」な内容となっています。全8ステージ構成で,ボリュームはたっぷり。
画面左上には敵弾にカスると溜まる黄色のゲージと時間経過で溜まっていく水色のゲージがあり,黄色のゲージが満タンのときには画面全体攻撃+弾消しのフラッシュボム,水色のゲージが満タンのときには無敵状態となる宙返りが発動可能です。また,黄色のゲージが50%以上ある場合,被弾してから墜落までの間にボタン&方向キー連打で復活できます。
自機は背景を横切るハワード博士が投げたり,特定の敵を倒すと出現したりするエンブレムを獲得することで段階的にパワーアップ(投下ボム追加→ショット増→投下ボム増→僚機追加→ミサイル追加→僚機投下ボム追加)します。また,倒した敵がドロップする「キューブのかけら」を集めると,特定地点で出現するハワード博士の移動研究所で追加武装と引き換えられます。
要するに,
「グラディウス」「スカイキッド」「ファンタジーゾーン」など1980年代の横スクロールシューティングゲームをいろいろとオマージュしているわけですね。ゲームオプションなどが充実しているとは言い難いものの,ステージセレクトや残機数変更は可能(タイトルメニューから入れる「ANGELA'S SHOP」でキューブのかけらを消費してアンロック)なので,苦になるほどの不便はありません。
ドットの拳 GIGA
「ドットの拳 GIGA」は,対戦プレイも可能な格闘ゲーム。キャラクターは4種類+αと少なく,複雑な戦闘システムもないものの,それだけに取っつきやすいです。企画の最初期段階では
「イー・アル・カンフー」的なものを想定していたそうで,なるほど納得の手軽なプレイ感。ちなみに「ドットの拳GIGA/BLACK」では河鍋暁斎の作品をモチーフとしたキャラクター・
猫又が追加されています。
どちらかと言うとワイワイ楽しむライトなパーティーゲーム的なノリですが,格ゲーとして必要な要素はコンパクトにまとまっているので,ガチの格闘ゲーマーも熱くなれるのではないでしょうか。