イベント
劇団初のコメディは衝撃(笑撃)作!? 「劇団『ドラマティカ』ACT3/カラ降るワンダフル!」ゲネプロ公演の感想をネタバレなしで語る
Happy Elementsがおくる「あんさんぶるスターズ!!」(以下,「あんスタ!!」)の舞台「劇団『ドラマティカ』ACT3/カラ降るワンダフル!」が,2023年10月17日より上演中だ。本稿では,初日のゲネプロ公演を観劇した筆者の所感をお伝えしていこう。
関連記事
「あんスタ!!」舞台化シリーズの新作「劇団『ドラマティカ』ACT3/カラ降るワンダフル!」W主演インタビュー。題材は“不思議の国のアリス”
Happy Elementsがおくる「あんさんぶるスターズ!!」舞台シリーズの新作公演「劇団『ドラマティカ』ACT3/カラ降るワンダフル!」が,2023年10月に幕を開ける。本稿ではW主演を務める松田 岳さんと宮崎 湧さんへのインタビューをお届けしよう。
劇団「ドラマティカ」の3作目は,
「不思議の国のアリス」モチーフのコメディ作品
<あらすじ>
“あなたにデタラメなハッピーをお届け!”
アリス(真白友也)は白ウサギ(逆先夏目)を追いかけて、見知らぬ場所へたどり着く。
記憶も無くし、途方に暮れているアリスの前に現れたのは自らを「帽子屋(乱 凪砂)」と名乗る怪しげな男性だった。
デタラメでつかみどころがない帽子屋に、翻弄され続けるアリス。
そんな中でもアリスは着実に前へ進み、記憶を取り戻し始めるが典。
アリスが記憶を失い、この世界に迷い込んだ理由はなにか?
劇団「ドラマティカ」ACT3は個性豊かすぎる登場人物が織りなす、カラフルでワンダフルなコメディ!
このデタラメすぎる世界に隠された真実とは――?
「あんスタ!!」の作中に登場するアイドルたちが所属する,演劇サークルの舞台化シリーズである「劇団『ドラマティカ』」は,「西遊記」をモチーフした1作目(2021年上演「劇団『ドラマティカ』ACT1/西遊記悠久奇譚」),完全オリジナルのサスペンスストーリーが描かれた2作目(2022年上演「劇団『ドラマティカ』ACT2/Phantom and Invisible Resonance」)と,作品ごとに異なるテーマに挑戦してきた。
そして3作目となる本作は,「不思議の国のアリス」をモチーフとしたコメディだという。事前に発表されたキャストのビジュアルやイメージは文字通り“カラフル”で可愛らしく,どんなふうに楽しい夢を見せてくれるのだろう,と期待に胸が膨らんだ。
ここで,レポートを書き進める前に1つ忠告しておきたい。もし今この記事を読んでいて,ワクワクしながら観劇を楽しみにしている人がいるなら,できればここから先は読まず回れ右してほしい。キャラクタービジュアルをはじめ,現在までに公式が公開している画像や情報以外はできるだけ入れずに観に行ってほしいのだ。なぜなら,そのほうが本作の“衝撃”を極めて純粋に感じてもらえるはずだから。
……よろしいだろうか? では,ここからはストーリーの核心的なネタバレ以外の感想を聞いてみたい人向けにお伝えする,というスタンスで書いていこう。
「不思議の国のアリス」をベースとした本作は,「アリスという少女が“不思議の国”に迷い込み,冒険する」という大筋を活かした設定と物語だ。なので,ACT1の「西遊記」がそうであったように,大元となる登場人物やセリフにアレンジを加え,よりコメディ色を強めた感じの作品になる……と予想していた人も多かったかもしれない。
ところが,本作はそれだけにおさまらなかった。この不思議な世界の住人たちの“おかしさ”は,まさに「高熱のときに見る夢」というか,ちょっと想像を超える振り切れぶりだったのだ。さらに,「劇団『ドラマティカ』」というサークルの大前提である「普段はアイドルをしている者たちが舞台作品で役を演じている」という設定が,その衝撃をさらに大きくしていたのである。
少し登場人物について触れると,とくにその“落差”が激しいのは,乱 凪砂が演じる怪しくも魅力的な帽子屋(演:松田 岳),氷鷹北斗が演じるチャーミングなチェシャ猫(演:山本一慶),七種 茨が演じる“お茶会命”な三月ウサギ(演:橋本真一)あたりだろうか。
アイドルである彼らが初めて本作の台本を読んだときの表情や,役をモノにするまでの葛藤を想像するだけで,申し訳ないがちょっと楽しい気持ちになってしまった(凪砂は嬉々として演じていそうだが)。三毛縞 斑が演じるイモムシ(演:横井翔二郎)もトリッキー極まりなく,斑がめちゃくちゃ張り切って稽古場を騒がせていそうだ。
逆先夏目が演じる白ウサギ(演:木津つばさ)も賑やかなキャラクターだが,夏目にはACT1で「カッパのラップ」をやった過去があり,ある意味すでに殻は破れていたかもしれない。仙石 忍が演じるネムリネズミ(演:深澤大河)は比較的大人しい役なものの,忍自身は舞台で演技する日がくるなんて夢にも思わなかっただろう。漣 ジュンが演じたハートのジャック(演:岸本勇太)は一見まともそうに見えてかなり“危ない”キャラクターだ。本作には登場しないが,巴 日和にからかわれる姿が脳裏に浮かんできた。
そして,そんな彼らに翻弄されまくるのが,真白友也演じるアリス(演:宮崎 湧)である。どの登場キャラクターも凄まじいほどの熱演だったが,最初から最後まで出ずっぱりで,しかもあの「Eden」のリーダーである凪砂とW主演を担った友也のプレッシャーは,そのなかでも極めて大きなものだっただろう。
だが,そこにいたのはちゃんと「アリスという女の子」だった。友也は演劇部の先輩である北斗をはじめとしたみんなに支えられながら努力を重ね,舞台をやり遂げた……そんな光景が,本作を観ながらずっと筆者の頭に浮かんでいた。そこには,劇団の主宰である日々樹 渉(彼も本作には登場していない)もいたような気さえする。出演者はみんな,渉にたくさん無茶振りされていたのかもしれないな……などと。
この,「役を演じるアイドルたちを演じた」現実世界における役者陣は,「(自分たちが演じる)アイドルを,舞台上での役をとおして感じてもらえたらうれしい」といった旨の発言をよくしていたが,このACT3はそれを意識する楽しみが大いにあった。難しいと言われるコメディに挑戦した勇気と努力,そして作品と役に込められた想いが,舞台上で活き活きと動き回るアイドルと現実の役者たちの双方から生み出され,何倍もの熱量になって伝わってきた。
こんな熱量を生み,見る人の想像を駆り立てる「劇団『ドラマティカ』という作品」は,やっぱり“型破りですごい”の一言だ。観ている間はずっと笑っていたし,こらえきれず声を出しそうになるくらい愉快な気持ちになったけれど,同時に普遍的なメッセージ性も感じ,深く心を動かされたのも印象深い。
どんな作品かを一言で伝えるのは難しいけれど,あえて言うなら「シュールで笑えて,観終わったあとでふんわり多幸感に包まれる作品」という感じだろうか。現実世界はつらいこともあるけれど,心のなかに「ハッピーに生きられるかは自分次第」と伝えてくれる帽子屋がいたら,これからも上を向いて歩いていけるような気がしている。
どんな作品でもそうだが,コメディはとくに好き嫌いや面白く感じられるかどうかが分かれると思う。だからこそ難しいと言われるし,同じ内容を何度も上演する舞台作品となればなおさらだ。演じるほうの苦労はいかばかりかという感じだが,本作は「どこまでが脚本でどこからがアドリブ?」と感じるほどの疾走感なので,日々変化しそうな部分がありそうなのも楽しみの1つと言える。細部までこだわった世界観のセットや衣装も目が足りないくらいの素晴らしさだったし,筆者もぜひまたもう一度,あのカラフルでデタラメな世界に飛び込みにいきたい。
ACT2のときも「次の作品があるとしたら,どんなものになるかまったく想像がつかなくなった」と感じたが,その想いはより一層強くなった。そして同時に,「劇団『ドラマティカ』」への期待値もさらに大きく上がることとなった。ACT4があるかどうかは現時点では分からないが,きっとまた,見たことのない色鮮やかな景色を見せてくれることだろう。
「劇団『ドラマティカ』ACT3/カラ降るワンダフル!」公式サイト
(C)ENSEMBLE SQUARE/劇団『ドラマティカ』製作委員会