「あんスタ!!」ストーリー紹介連載第17回。スカウト!丑参り(後編),Beyond!共鳴するツインピークス,スカウト!ホワイトリリー,秘宝紐解く/骨董綺譚を語る
Happy Elementsがサービス中のアイドル育成ゲーム「あんさんぶるスターズ!!Basic/Music」のストーリーを紹介する記事の第17回では,「スカウト!丑参り(後編)」「Beyond!共鳴するツインピークス」「スカウト!ホワイトリリー」「秘宝紐解く/骨董綺譚」の4本を取りあげる。本記事では,“知っているとストーリーをより楽しめるポイント”の解説と,筆者の感想や考察をお届けする。記事では詳細なネタバレは控えているが,できるだけ各ストーリーの読了後に読むのがおすすめだ。
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ストーリーピックアップ
「スカウト!丑参り(後編)」
開催期間:2021年1月14日〜1月30日星奏館の旧館から新館へ引っ越すことになったALKALOID。無事に引っ越しは終わったものの,誰のものか分からない牛の像が見つかり,伏見弓弦はそれを拾得物置き場に預けることにする。ところが翌朝になると,預けたはずの牛の像が部屋の前に置かれているのを弓弦と姫宮桃李が見つけてしまう。<全8話/シナリオ:木野誠太郎(Happy Elements株式会社)>
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ALKALOIDメンバーの新しい寮室について
ALKALOIDは,メインストーリーで描かれた【MDM】に向けての共同生活を終え,星奏館の旧館から新館へ移り,夢ノ咲学院在学(出身)のアイドルたちと同居することになった。今作の時系列は【羨望◆小さな翼のフェザータッチ】の少し前と見られ,作中ではそれぞれが同室となったメンバーについてコメントしていた。
天城一彩(同室メンバー:葵 ひなた,椎名ニキ)
元気いっぱい,お腹もいっぱい,という明るいイメージのメンバーが揃った部屋。【フェザータッチ】では,「注文しなくても(ニキが一彩の好物の)オムライスを作ってくれる」と一彩が語っていた。そのほか,【スカウト!ハロウィンBOX】では,南雲鉄虎を加えた4人でホットチョコレート作りに挑戦する姿を見られる。
白鳥藍良(同室メンバー:天祥院英智,朔間 零)
星奏館のなかでもかなりの衝撃を受ける組み合わせ。藍良は【フェザータッチ】で「同室の人が大物すぎて常に緊張している」と語っていた。この寮室メンバーについて言及されているストーリーは多く,【交差する/モーターショウ】【温故知新/継承の御前試合】,天祥院英智アイドルストーリー「白と黒のティータイム」,衣更真緒アイドルストーリー「生徒会長の骨休め」などがある。今後もぜひ経過を観察していきたい(ちょっと心配なので……)。
礼瀬マヨイ(同室メンバー:真白友也)
【丑参り(後編)】では友也と同室であることに「(自分が)ちゃんと共同生活が送れるか緊張する」と話していたマヨイ。そんな彼のその後の様子を見られるのが風早 巽アイドルストーリー「週末の懺悔室」と【スカウト!デッドエンドランド】である。「週末の懺悔室」では,同室の友也の寝不足を心配するマヨイと,何かの視線を感じて(!)寝不足だという友也の話を聞くことができる。
風早 巽(同室メンバー:大神晃牙,レオン)
聖職者とロッカーという一見正反対なイメージの組み合わせ。とはいえこのふたりはなかなか気が合うようで,【フェザータッチ】では「Gospelの話を通じて仲良くなった気がする」と語られていた。【丑参り(後編)】や大神晃牙アイドルストーリー「ウルフ・ウィル・ロック・ユー」でもその和やかな様子を見られるが,「お互いに気をつかわない」のがいいのかもしれない(だがおそらくは最低限の気遣いはしている)。晃牙いわく,この部屋で一番権力を持っているのはレオンらしい。
蓮巳敬人が“TVで除霊”して話題になった話
→前回記事の「寺生まれのKさん」を参照。
「あんスタ!!」ストーリー紹介連載第15回。SHUFFLE×白雪たちのMerryXmas,スカウト!丑参り(前編),変身!星々を繋ぐコメットショウを語る
Happy Elementsのアイドル育成ゲーム「あんさんぶるスターズ!!Basic/Music」。そのストーリーを紹介する連載第15回では,「SHUFFLE×白雪たちのMerryXmas」「スカウト!丑参り(前編)」「変身!星々を繋ぐコメットショウ」の3本を取りあげる。
伏見弓弦とサバイバルゲーム
旧館に忍び込むシーンで,弓弦と守沢千秋の間で「昨年やったサバイバルゲーム」の話が出る。これは「!」の【スカウト!ミリタリー】でのエピソードで,天祥院英智の実家が所有するゲーム会社用に参考動画を撮影するため,弓弦と千秋と大神晃牙と鳴上 嵐の4人でサバイバルゲームをしたことを指している。なお,すでに何度か紹介しているとおり,弓弦は幼少期に民間の軍事施設にいたことがある。このサバゲーの勝敗の行方については,ぜひ実際のストーリーを読んでみてほしい。
守沢千秋と姫宮桃李といえば?
ALKALOIDの引っ越しで助っ人として登場した守沢千秋と姫宮桃李といえば,昨年のサガ計画で結成された臨時ユニット・Rain-bowsのメンバー同士だ(このほかのメンバーは佐賀美 陣と氷鷹北斗)。このユニットについては「!」のメインストーリー第3部【Saga*かけ上がるレインボーステージ】と【Saga*ぶつかり合うリバースライブ】で語られている。ユニットの結成は春に行われた【DDD】のすぐあとのため,臨時結成とはいえ活動期間はそこそこ長いようだ。
◆筆者が選ぶ“心に残った言葉”とストーリー所感
ストーリー未読の人のために書いておくと,今作【丑参り(後編)】は独立したストーリーであり,前編の続きではない。よって,前編が読めていなくてもこれだけで楽しめるのでご安心を。今作ではALKALOIDの引っ越しの際に現れた“牛の像”にまつわる騒動が描かれている。前編もそうだったが,こういう「本来ならファンが知り得ない,素のアイドルたちの話」は,舞台を学校からESというプロの現場に移した現在では,けっこう貴重かもしれないと思うようになった。
今作では伏見弓弦が,天祥院英智に一連の騒動の報告をする形で話がスタートする。途中,物語の視点は弓弦から風早 巽に移るのだが,もし仮にあの牛の像が呪いの像だったとしても,このふたりなら騒ぎを最小限にとどめたうえで解決してくれそうな安心感があって面白い。巽は祈りや何かでメンタル的な解決を,弓弦は拳(?)によるフィジカル的な解決をしてくれそうというか……(※筆者の妄想です)。
作中,弓弦は英智に報告を終えたあとでこんなふうに話す。
特殊な施設で訓練を受け,文字どおり死線をくぐり抜けるような体験をしてきたであろう弓弦がこう言うと,いろいろと深いなと思わされる。しかし彼は「ですが。そこに生まれたほんのすこしの余裕こそが,わたくしたちの生活を,命を豊かにする」と続ける。筆者は弓弦のことを“確固たる自己像があり,周囲に影響を受けない人”のひとりだと思っているのだが,彼が「余裕」という言葉を口にするのは,やはりあの激動の1年をとおし,新たな舞台へ進んだことが少なからず影響しているのだろうなとも感じる。
昨年度の一連の話のなかでよく覚えているのが,最初の春ごろの日々樹 渉とのエピソード。同じユニットメンバーである渉から「あなたは仮面をつけている,その下の顔にこそ興味がある」と言われた弓弦が,「(自分は)仮面の奥はのっぺらぼうです」と答えたことだ(「!」の【誉れの旗*栄冠のフラワーフェス】より)。弓弦は極力「我」を他人に見せない人で,自分がどういう人間と見るかはあなたが決めてくださいと言っていたのである。だから,【丑参り(後編)】の終盤,彼が他人に何かを提案するのも,娯楽小説を楽しんでいるのも,さりげなくも大きい良い変化ということなのだ。そうした彼の変化を,彼が人生を楽しんでいることを,周りの仲間たちもうれしく思っているのでないかと感じるストーリーだった。
ストーリーピックアップ
「Beyond!共鳴するツインピークス」
開催期間:2021年1月15日〜1月24日(Basic)2021年1月15日〜1月23日(Music)
伝統ある有名音楽番組「ボルケーノアイランド」への出演依頼を受けた2wink。しかし出場枠はひとり分しかなく,葵 ひなたとゆうたのどちらかしか出られないことが判明する。ふたりは双子対決の【ツインピークス】を開催し,出場枠を賭けて勝負をすることになる。<全17話/シナリオ:日日日>
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読んでおきたいストーリー
今作をより楽しむために,そして2winkを理解するために読んでおくべきストーリーを時系列順でごく少数に絞ると,個人的には「!」のメインストーリー第一部,【雪花*流星のストリートライブ】【招福*鬼と兄弟の節分祭】【衝突!思い還しの返礼祭】,そして新章の【召しませ/ナイトクラブ】をおすすめしておきたい。以下で簡単に紹介しよう。
メインストーリー第一部
作中の時系列は昨年度の春。ふたりはパフォーマンス歴こそ長いが,「アイドルユニットの2wink」になってからは間もない時期と思われる。【DDD】では司会を務めており,1年生ながら早くも高いポテンシャルを見せる。
【雪花*流星のストリートライブ】
季節は冬のクリスマス時期。これまでに何度も衝突してきたふたりだが,ここに来てそれが爆発してしまう。
【招福*鬼と兄弟の節分祭】
季節は冬,節分の時期。夢ノ咲学院の仲間たちが,どこかうまくいかないふたりを救おうとする物語。このイベントによって,彼らの抱える問題が学院のアイドルたちに広く知られることになる。
【衝突!思い還しの返礼祭】
季節は再び春。紆余曲折あった1年が終わり,ふたりは卒業していく3年生に向けて感謝の言葉を贈る。
【召しませ/ナイトクラブ】
季節は今夏。新しい環境になったふたりと,彼らが今抱える問題について語られる。
昨年度の彼らについてはユニット記事を,【ナイトクラブ】については本連載の第6回を参照されたい。
「あんさんぶるスターズ!」のユニットを知るにはこの過去イベがおすすめ! 第1回:fine,2wink,Valkyrie編
2019年4月にリリース4周年を迎え,アプリ内外でさまざまな展開を続ける「あんさんぶるスターズ!」。その膨大なストーリーの中から,各ユニットの歴史や魅力を知るために筆者が重要だと思うものを選び,紹介していきます。1回目となる今回は,fine,2wink,Valkyrie編をお届けします。
「あんスタ!!」ストーリー紹介連載第6回。スカウト!盗賊王,召しませ/ナイトクラブ,スカウト!ケモノサバイバル,再開*成長見せてハイタッチ! を語る
Happy Elementsのアイドル育成ゲーム「あんさんぶるスターズ!!Basic/Music」のストーリーを紹介する連載企画第6回では,「スカウト!盗賊王」「召しませ/ナイトクラブ」「スカウト!ケモノサバイバル」「再開*成長見せてハイタッチ!」を取り上げる。
羽風 薫と姉
今作【ツインピークス】で薫が新婚の姉について話すシーンがあるが,「!」の【スカウト!荒野のガンマン】を読んでいた人は「おお!」と声を上げたくなったのではないだろうか。【荒野のガンマン】では,薫がお見合いをする姉のため,あれこれ見繕ったりアドバイスしたりしたというエピソードを確認できた。ここでの薫と姉のやりとりは,自分のプライベートのことをあまり話さない彼の胸の内が分かる貴重なものである。
亀五郎って誰ですか?
双子対決【ツインピークス】のリハーサルを見かけた羽風 薫は,「夢ノ咲学院へ亀五郎や水槽の様子を見に行く」と話す。彼は昨年度の夢ノ咲学院在学時に,海洋生物部に所属しており,亀五郎というのはそこで飼われていた亀のことである。名付け親は同じ部員の神崎颯馬で,深海奏汰と薫の卒業後は,颯馬が海洋生物部の部長を務めているらしい。
◆筆者が選ぶ“心に残った言葉”とストーリー所感
今作【ツインピークス】は,新章になって2回目の“2wink深掘り”ストーリーである。以前から述べているとおり,葵 ひなたと葵 ゆうたは同じアイドルユニットの仲間であり,生まれたときから一緒にいる兄弟でもある。彼らはほかのユニットとは異なり,ずっと「アイドルとしての課題」と「家族間の問題」を同時に抱えていたということになる。
昨年度のさまざまな経験をとおしていったんは落ち着いたかのように見えていた彼らだが,前回の深掘りストーリー【召しませ/ナイトクラブ】を読んで筆者が驚いたのは,それぞれに「圧倒的な『個』」を感じたことだった。3年生卒業時の【返礼祭】では「ふたりで片翼ずつ羽ばたいて飛ぶ」と,あくまでも「ふたりでひとつ」「たったひとりの『俺たち』」を強調していたにも関わらず,【ナイトクラブ】では,ふたりの本質の違いが明確に描かれていたのだ。
……と思っていたら,【ツインピークス】でもひなたが似たようなことを話していた。さらに彼は,自分たち兄弟をより分かりやすく「自分は『ゼロをプラスにしたい』人間」「ゆうたは『マイナスをゼロにしたい』人間」なのだと言う。ひなたは世界をより明るく輝かせる光であり,ゆうたは闇のなかに差し込む希望の光なのだと。そしてそれを聞いたゆうたも,自分たちが「ひなた」「ゆうた」と名付けられた瞬間に,決定的に異なる人間になったと受け止めるのである。
これまで彼らは何度もぶつかり合って,何度も仲直りしてきたものの,完全に解決はしていなかったし,わだかまりも残っていたように感じられた。だが今回,【ボルケーノアイランド】への出演依頼で突きつけられた問題の解決方法を模索するうちに,ふたりがずっと感じていたであろう違和感の正体がはっきりし,「では,ここからどうすればいいのか?」という課題にシフトできたように思う。「どこが分からないのか分からない」という状態では,問題はいつまでも解決できない。そうして今回,彼らがたどりついた“解決策”には,作中の薫と同様に「そういう落としどころできたか!」と筆者はとてもワクワクした。それは実に“我々の知っている彼ら”らしく,かつ,【返礼祭】で彼らが出した「ふたりで『俺たち』になる」という結論からもブレない答えと言えるかもしれない。
以前の記事で筆者は,ひなたとゆうたが兄と弟を入れ替える行為を,「お互いは『ふたりでひとり』であり,その一方で『異なる個』でもあることを受け入れた結果だと解釈している」と書いた。その考えは今でもおおむね変わりないのだが,【ツインピークス】を読んだうえで再度解釈するとすれば,入れ替わることによって相手を知り,同時に「自分」と向かい合うことで自己肯定ができるのではないかと感じた。ふたりはお互いを深く愛し,認めているせいか,自分については二の次で,あくまでも相手を優先している。今回ひなたが「ひなたには一彩や南雲鉄虎のような健全な良い子が必要」「ゆうたには同じ歩幅と歩調で歩けるもう少しセンシティブなタイプが合う」と言っていたのも,自分を認めるのに必要なプロセスということなのかもしれない。
彼らが手探りでたどり着いた光の道は,ここからどこに続いていくのだろうか。けれど一度決めたルートでも,あとからいくらだって変えてもかまわないと思うし,また我々を驚かせるような何かを見せてくれそうでワクワクもする。そういう意味で,やっぱり2winkは目が離せなくて面白い,ほかにはない魅力を持ったアイドルだと思う。
ストーリーピックアップ
「スカウト!ホワイトリリー」
開催期間:2021年1月30日〜2月14日今一番人気の女性誌から,ESの各事務所宛にグラビア特集ページのオファーを受けた天祥院英智は,スタプロの代表として各ユニットのリーダーにモデルを依頼することに。コンセプトは「OJS男子(王子さま男子)」だと聞き,天城一彩たちは撮影までに“王子らしいイメージ”を掴むために奮闘する。<全8話/シナリオ:西岡麻衣子(Happy Elements株式会社)>
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天城一彩とオムライス
ALKALOIDのランチミーティングで,オムライスを注文しようとする一彩。最近の彼は食事のたびにオムライスが好きだと言っている気がするが,それはメインストーリー第2章でのビラ配り後に,一緒にいた真白友也からおすすめされて食べたのがきっかけだと思われる。その際は「ハンバーグには総合力で及ばない」と言っていたものの,【SHUFFLE×白雪たちのMerryXmas】では「(オムライスは)ふわふわで丸っこくて愛らしく,食べると幸せな気持ちになる」と,アツい“オムライス派”になった様子を見せた。
「王子」に一家言を持つ氷鷹北斗(ほっちゃん)
氷鷹北斗の愛称「ほっちゃん」が明らかとなったのは,「!」の【宵の宴♪バンドアンサンブル】である。そこでは【DDD】の際に両親に逆らった北斗が,母親から「ほっちゃんの人生なんだから,ほっちゃん自身が努力しなよ」と言われたと明かしていた。また,彼は夢ノ咲学院で所属している演劇部で王子さま役を務めることが多く,これまでに王子を演じたり言及したりしたものでは,「!」の【追憶*春待ち桜と出会いの夜】【なりきれ!灰かぶりの大舞台】【スカウト!夢色王子様】【スカウト!薔薇十字物語】【スカウト!透明と仮面】などがある。たしかにこれだけ多いと,彼が王子について周囲にアドバイスをしたくなるのも納得である。
臨時ユニット「ガラパゴス」結成?
今回,「OJS男子(王子さま男子)」を独自の方向に解釈してしまった天城一彩,氷鷹北斗,深海奏汰に対して天祥院英智が名付けたユニット名「ガラパゴス」。これは南米エクアドルのガラパゴス諸島の生態が,周囲とかけ離れた独自の変化を遂げたことに由来する「ガラパゴス化」というビジネス用語からきていると思われる。なお,スマートフォンより前の携帯電話を指す「ガラケー」は,日本独自の変化を遂げたことで名付けられた「ガラパゴス・ケータイ」の略称である。臨時ユニット「ガラパゴス」,意外とアリな気がするのでぜひ活動してみてほしい。いろいろとオリジナリティがすごそうだ……。
名前だけ登場したアイドルたち
【ホワイトリリー】で天城一彩は,故郷の偉人らしくふるまおうと,神崎颯馬の飼っている馬を借りようと考える。「!」の【暗躍!月影の風雲絵巻】では,急いで現場に向かおうとした颯馬がその馬に乗って登場したことがあった。ちなみにその馬の名前は「砕号どん(さいごうどん)」だ。また,演劇について話す氷鷹北斗に深海奏汰が「北斗は日々樹渉のところの子」という発言をするが,これは言わずもがな,昨年度の演劇部でのつながりを表している。北斗本人は「あの変態の子供みたいな言い方はやめろ」と嫌がる様子を見せるが,先ほど挙げた【スカウト!透明と仮面】などでは,先輩後輩の良き関係性が見られておすすめだ。
◆筆者が選ぶ“心に残った言葉”とストーリー所感
作中で天祥院英智が説明しているとおり,この企画にはスタプロに所属するユニットの各リーダーが選ばれるはずだった。つまり本来のメンバーは天城一彩,氷鷹北斗,守沢千秋(と英智)だったということになるのだが,今回はスケジュールの都合で深海奏汰が加わることになった。
いずれにしても臨時ユニット(仮)の「ガラパゴス」として「でしょうね!」と感じるメンツである。3人とも真面目で変な方向に素直というか愚直というか,王子は白タイツですよ! と言えば,「そういうものか」と素直に着てくれそうというか。それはそれで見てみたいけれども……。
冗談はさておき,終始わちゃわちゃしつつ彼らの勘違いぶりが楽しいストーリーである今作で,心に残ったのは終盤のセリフだった。撮り終えたグラビアを見た一彩が,その素晴らしい仕上がりに感嘆しつつも「本質は変わらないというか,わりと普段通りの自分たちとあまり変わらないようにも見える」と言い,英智が「王子という器は衣装とポージングで形をつくればいい」と答えるところだ。
筆者はこの言葉を,英智が「確固たる『自分』という存在を確立するべき」とアドバイスしていると解釈した。アイドルにはいろいろなタイプや売り方がある。たとえば以前,鳴上 嵐が「ワイルドで男らしいイメージ」でグラビア撮影をしていたり(「!」の【スカウト!ケダモノ】),最近では紫之 創が“美少女先輩”と呼ばれる男性アイドルと一緒にそういう路線でメディアに出ていたりしたが(【スカウト!お菓子の家】など),彼らはそうした見られ方を「自分の本質とは違う」と語っている。
観客を喜ばせるアイドルとしてあるためには,「揺るぎない自分」という核が大切だ。そしてそれに必要なのが自己との対話と,周りの仲間とのふれあいのような気がする。そうしていろいろな想いや経験が蓄積されていき,より魅力的な誰かの王子さま――アイドルになれるということなのではないかと思う。
ストーリーピックアップ
「秘宝紐解く/骨董綺譚」
開催期間:2021年1月31日〜2月9日(Basic)2021年1月31日〜2月8日(Music)
ES付近で行われることになった【秋の骨董市】。そこでは骨董品の売買が行われるほか,ES所属のアイドルたちが出演し,観客たちを盛り上げることになっていた。一方,ある人物から七種 茨を標的とするよう依頼を受けたDouble Faceは,茨が運営するコズプロでとある問題を抱えるValkyrieに接触を図る。<全28話/シナリオ:日日日>
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Double Faceの成り立ちをおさらい
【骨董綺譚】で2回目の“出勤”となったDouble Face。前回の【新参!目覚めの暗夜行路】で語られた彼らの成り立ちをざっくりまとめると,「【MDM】で暴れたCrazy:Bの汚名返上のため,桜河こはくが個人的に“任務”を引き受ける」→「業界の悪であるGFKの調査のため月永レオに近づく」→「レオの親友である三毛縞 斑と接触」→「こはくの話を聞いた斑が『助っ人になる』と提案」→「ユニット単位でしか出られないTV番組【マーブルキャスト】に出演するためにユニットを結成し,GFKを糾弾した」という流れである。
また,【骨董綺譚】では三毛縞 斑の背景も知っているとより理解が深まるだろう。彼がかつて所属していた流星隊との関係性やヒーロー観を理解するためには,「!」の【追憶*流星の篝火】を,【骨董綺譚】で重要なポイントとなるプロデューサーとの関係性としては「!」の【躍進!夜明けを告げる維新ライブ】などをぜひチェックしてほしい。
Valkyrieの歩みをおさらい
すでに何度も紹介しているが,Valkyrieというユニットの流れを把握するためのストーリーをざっくりと時系列順に挙げておく。まずは一昨年度(3人時代)の活動〜Valkyrieの栄華と転落については,「!」の【追憶*マリオネットの糸の先】を,昨年度の夏の復活劇については【演舞 天の川にかける思い】を,斎宮 宗の夢ノ咲学院卒業に伴う影片みかとの関係性の再構築は【モーメント*未来へ進む返礼祭】を最低限おさえておくことをおすすめしたい。新章では【降臨!紡ぎ始めるネヴァーランド】が記憶に新しいところだが,そこでは芸術家同士という対等な関係性になったふたりが見られるので,こちらもチェックしてもらいたい。
J & A(佐賀美 陣と椚 章臣)について
【骨董綺譚】で久々にガッツリ登場した佐賀美 陣と椚 章臣。彼らも夢ノ咲学院出身であり,かつてはアイドルとして活躍していたことは周知のとおりだ。「!」の【懐古*嘘つきたちの偶像】と【懐古*センチメンタルライアーズ】を読むと,今のESアイドルたちと同じように,若く,目の前の大きな壁を乗り越えようともがいていた彼らを知ることができるだろう。また,「!」のメインストーリー第3部【Saga*かけ上がるレインボーステージ】と【Saga*ぶつかり合うリバースライブ】では,陣が臨時ユニットのRain-bows(メンバーは陣,守沢千秋,氷鷹北斗,姫宮桃李),章臣がBa-barrier(メンバーは章臣,三毛縞 斑,影片みか,春川 宙)として一時的にアイドル活動を再会した様子が見られる。彼らはアイドルたちやプロデューサーにとっても非常に重要な存在であることが分かるはずだ。
現役スーパーアイドル・氷鷹誠矢
【骨董綺譚】という物語において,氷鷹誠矢は極めて重要な人物だ。Trickstarの氷鷹北斗の父であり,現役スーパーアイドルである彼について知るには,「!」の氷鷹誠矢ストーリー「第一話」と,誠矢が佐賀美 陣たちの臨時ユニット・Rain-bowsの前に立ちふさがるLilith(メンバーは誠矢,巴 日和,漣 ジュン)のメンバーとして登場する【Saga*ぶつかり合うリバースライブ】をチェックしてほしい。なお現在のところ,新章で彼がストーリーに登場したのは,【骨董綺譚】のほかでは氷鷹北斗アイドルストーリー「いつか越える夢」のみである。彼は女優である妻の存在についてもオープンにしているようで,比較的珍しいタイプのアイドルと言えるかもしれない。
ストーリーに出てないのに存在感ありまくりの七種 茨
小見出しのとおり【骨董綺譚】には登場こそしていないものの,七種 茨もまた非常に重要な人物のひとりだ。今作を楽しむには,彼のこれまでの経緯と現在の立場をざっくりとでも把握しておいたほうがいいだろう。より詳しく知りたい場合は,時系列順に「!」の【スカウト!ギャング】【軌跡★電撃戦のオータムライブ】【奇跡☆決勝戦のウインターライブ】【Saga*ぶつかり合うリバースライブ】【駆け引き◆ワンダーゲーム】をぜひ。新章では彼の所属するEdenが【軋轢◆内なるコンクエスト】と【バラエティとタッグ/ボギータイム】でフィーチャーされているが,茨についてはとくに【ボギータイム】をおさえてほしい。これまでに明かされていなかった彼の胸の内を知ることができ,人物像に深みが生まれたと言える。
「あんスタ!!」ストーリー紹介連載第14回。スカウト!世紀末ウォーズ,バラエティとタッグ/ボギータイム!,SHUFFLE×夜の帳とバトラーを語る
Happy Elementsのアイドル育成ゲーム「あんさんぶるスターズ!!Basic/Music」。そのストーリーを紹介する連載第14回では,「スカウト!世紀末ウォーズ」「バラエティとタッグ/ボギータイム!」「SHUFFLE×夜の帳とバトラー」の3本を取りあげる。
◆筆者が選ぶ“心に残った言葉”とストーリー所感
【骨董綺譚】は,秋に行われた【骨董市】の様子と,イベント終了後にプロデューサーが何人かのアイドルに話を聞くという,異なる時間軸の話が交互に語られる面白い作りである。この感じ,何かを思い出すな……と筆者の頭に浮かんだのが,とある殺人事件をめぐる7つの証言で構成された芥川龍之介の短編「藪の中」だった。ひとつのできごとを多角的に描き,新たな事実(それが真実とは限らない)が次第に明らかになっていくところに,【骨董綺譚】との類似点を感じたのだ。ちなみに,Double Faceが前回登場した【暗夜行路】は志賀直哉の有名な小説のタイトルと同じだし,「綺譚」とつく有名小説には,永井荷風の「濹東綺譚」がある。Double Faceは,そうした日本文学を思わせるキーワードが多いような気もする。
さて,今回のストーリーで筆者が感じたことはたくさんあるが,ざっくりと挙げるならば「斎宮 宗の安心感」「氷鷹誠矢の怖さ」,そして「三毛縞 斑の異質さ」だ。
今作でValkyrieは,あの【マリオネット】を思い出させるような“ステージ上での敗北”を喫する。だが,一昨年度は結果的に引きこもることになってしまった宗が,今回は自分の弱さを認め,相棒である影片みかを守ろうとする。その姿は決して卑屈なものでも虚勢を張るでもなく,むしろ毅然としているように見えた。そのうえ,彼は自分を“敗北”させた斑に対し,こんなふうに忠告する。
宗という人は,なんとしなやかで強くなったのだろう。彼はいまや「気難しくてわがままな芸術家」などではない。といっても,怒りや憎しみといった感情が芽生えないわけではないはずだ。だが,それをただ爆発させるのではなく,そうしたエネルギーをしっかりとコントロールし,芸術に昇華できる力を身につけたような気さえする。だから筆者は,今の彼の「Valkyrieというユニットは自分が弱点」という言葉はあまり信じていない。むしろ気になるのは,氷鷹誠矢がみかに対して言い放った「君は僕と同じように壊れている」という言葉だった。
氷鷹誠矢は現役のスーパーアイドルである。けれど,人々に夢やポジティブな感情を抱かせるアイドルの頂点にいながら,誠矢は「!」での登場当時から「アイドル刑務所の模範囚」などという怖い言葉を口にしていた。
筆者は誠矢のことを,まるでタロットカードの「世界」のような人だと感じている。タロットのなかでも最強と言われる「世界(THE WORLD)」のカードには,完全だとか最高だとか成功だとかの意味がある。けれど「完成」という頂点は,裏を返せば“「それ以上はない」という絶望”とも言えはしないだろうか。天才は孤独だとはよく言われることだが,自分を「機械」と呼ぶ誠矢には,そんな「強い光を放つからこそ生まれる濃く暗い影」を感じてしまう。彼は【骨董市】のあとに証言者として呼ばれていなかったにも関わらず,プロデューサーの前に現れて情報を与える。それは大事なもの(=「明星くん」=明星スバルの父)を喪ってしまった誠矢の,わずかに見ることのできた人間らしさなのかもしれない。
そして,誠矢が自分と「明星くん」の関係になぞらえたのが,プロデューサーと三毛縞 斑のそれだ。筆者は「あんさんぶるスターズ!!」という作品を,「ひとりではできないことを,仲間と“あんさんぶる”することで乗り越えていく物語」だと思っている。だから,そのなかで孤独に走り続ける斑という人間はとても異質だ。だがそんな斑も【暗夜行路】で桜河こはくという仲間を得ることができたから,ほかのアイドルたちと同じように,自分の新たな可能性に気づき,乗り越えられなかった壁を越えていくのだと信じていた。ところがどうだろう,今作を最後まで読んだ人なら分かると思うが,彼は今,やっぱりどこまでも“ひとり”であろうとしているように見える。あれだけ今まで「本当はひとりが寂しい」「誰かと一緒に何かをするのは嬉しい」と言っていたのに。
こはくは斑に「周りの人間ぜんぶを踏んだら死ぬ蟻んこやと思っとるんか,馬鹿にすんのも良ぇ加減にせぇよ」と怒る。そして,自分はそんなことでは潰れないと言い切りもする。物言いは物騒だが,これらの言葉には,こはくの優しさや斑に対する友情を感じる人は多いだろう。斑は強いけれど,決して怪物などではないはずだから。宗も斑に「どうしようもなくなったら助けを求めればいい。君に手を差し伸べたいと思う人間は確実にいる」と言葉をかけている。それでも物語のラスト,斑は自分のもとに現れたプロデューサーが差し伸べた手を払うようにして,別れの言葉を口にする。
新章に突入した「あんスタ!!」は,舞台が学院からES――芸能界に変わった。それによって,アイドルたちが立ち向かう「敵」は同じ学生ではなく,大人であったり業界全体であったり,とても強く巨大なものになったと言える。だからそれを倒すには,これまで以上に力がいるのだろう。斑がみんなのいる場所とは違うところへ踏み出したのは,自分以外の人たちを助けるには,誰よりも強い自分がその役目を担うべきだと考えているからなのかもしれない。斑に止められたにも関わらず,同じところへ飛び込もうとしているこはくも同様だ。だが,そこにはどうしてもふたりの「自分を犠牲にしてでも」という想いが見え隠れする。この物語の読み手である我々は,ただ彼らの物語の続きを待つしかないけれど,どうかその背中に,彼らを想うみんなの声が届いてほしいと願う。
第18回記事もお楽しみに!
エンタメ系フリーライター。音楽・ゲーム業界などでの社会人生活を経て,作品やキャラの素晴らしさを文章で伝えるためにライターへ転向。現在4Gamerにて「あんさんぶるスターズ!!」のストーリー解説記事を連載中。このほか追いかけ中のタイトルは「アルゴナビス」「スタマイ」「ツイステ」「ヒプマイ」「パラライ」「刀剣乱舞」「A3!」「まほやく」「ブラスタ」など。
◆Twitter(@tamao_writer)
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