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ゲームボーイ版「テトリス」は,現在の基準だと激ムズ? 当時のスタンダードが“鬼仕様”になった7つの理由
ゲームボーイ版テトリスは1989年6月14日に発売され,出荷数が400万本を超えたとされる大ヒット作だ。
日本では1988年にPC版やアーケード版,ファミリーコンピュータ版のテトリスが先行してリリースされていたが,このゲームボーイ版で初めてプレイした人も多いはず。テトリスの名前が一般層にまで広がっていった要因の1つには,本作のヒットがあったのではないか。
さて,そんなゲームボーイ版テトリスを久しぶりに,あるいは初めてプレイしてみて「難しい!」と感じた人は多いのではないだろうか。
筆者は下手の横好きながら,「TETRIS 99」や「テトリス エフェクト・コネクテッド」といった近年のタイトルもプレイしているので,少なくともテトリスには慣れているつもりだったが,実際にプレイしてみるとまぁ難しいこと。
なぜ同じテトリスなのに,そんなことが起こるのか。それは「画面の上から落ちてくるT字,L字,S字などのブロック(テトリミノ)を組み合わせ,横一列を隙間なく積んで消す」という基本ルールこそ同じだが,細かい部分で違いがあるからだ。
テトリスの権利を管理するザ・テトリス・カンパニーは,2002年にガイドラインを作成し,「テトリス」に必要な仕様を定めた。それ以前に開発されたゲームボーイ版はガイドラインに沿っていないため,最近のテトリスに慣れた人がプレイすると面食らうことになるのだ。
では,具体的にどんな違いがあるのか。本稿では,前述した「TETRIS 99」「テトリス エフェクト・コネクテッド」など,ここ5年ほどの間にリリースされたテトリス(便宜上「新テトリス」と呼ぶ)で標準となっている仕様をゲームボーイ版と比較してみよう。
1.「ホールド」が存在しない
「ホールド」とは,テトリミノを1個手元にストックしておき,落ちてきたテトリミノと入れ替えられる機能だ。
4段同時消し(テトリス)を狙うためにI字テトリミノをホールドしておき,準備ができたら投入したり,落ちてきたテトリミノが使いづらかったら,ひとまず退避させたりといった使い方ができる。
新テトリスのプレイ経験しかない人にとっては信じられないかもしれないが,ゲームボーイ版にはホールドが存在しない。I字テトリミノを好きなときに使うことはできないし,どう回転させたところで隙間が発生してしまうテトリミノも,そのまま使うしかないのだ。
2.壁際でテトリミノを回転させられない(ことがある)
テトリミノを回転させて隙間なく積み上げるのがテトリスの基本だが,ゲームボーイ版では壁際だとテトリミノを回転させられないことがある。
「回転させるためのスペースがない」ということだと思われるが,新テトリスでは,壁際であってもテトリミノの中心を自動的にずらして回転させてくれるので,それに慣れていると「回転しない! ボタンが壊れてる?」などと慌てることになる。
ゲームボーイ版では,テトリミノを中央で回転させてから壁際に寄せるといったテクニックが必要になる。“テトリミノさばき”がより重要になるわけだ。
3.「ゴーストブロック」が表示されない
テトリミノがどのように積み上がるかが分かりやすいよう,落下予定地点に表示されるのが「ゴーストブロック」。上級者ならゴーストがなくても落下地点を間違えるようなことはないと思うが,筆者レベルだと必須の機能で,これがないゲームボーイ版では視点を上下に移動させることが多くなってしまう。
また,難度にはそれほど関係しないものの,特定の操作をするとテトリミノが一瞬で下まで落ちるハードドロップも,ゲームボーイ版には実装されていない([↓]で落下スピードを上げることは可能)。ゴーストブロックとハードドロップがないことで,ゲームのテンポは新テトリスと大きく違っている。
4.「NEXT」表示が1つだけ
これから降ってくるテトリミノを予告してくれる「NEXT」表示は,テトリスを攻略するうえで欠かせない機能だ。新テトリスでは2〜3個表示されるものが多く,「TETRIS 99」は6個にもなる。だがゲームボーイ版は1つのみなので,そういったタイトルに慣れている人だとかなり不自由さを感じるはずだ(「テトリス エフェクト・コネクテッド」など,最近のテトリスにも1個表示のものはある)。
5.回転入れの仕様が異なる
テトリミノをそのまま落としたのでは入らない隙間に,回転させながらはめ込むのが俗に言う「回転入れ」だ。ゲームボーイ版でもこのテクニックは可能だが,新テトリスとは少々仕様が異なっている。
新テトリスでは,T字テトリミノの回転入れが「T-SPIN」と呼ばれ,よりスコアが稼げたり,対戦時の攻撃力が高くなったりといったメリットがある。ゲームボーイ版でもT字の回転入れはできるが,特別な効果はない。
また,新テトリスではS字の回転入れが可能なのだが,ゲームボーイ版では同じ積み方や回転方向を再現しても成功させることができなかった。プログラムレベルでの解析をしたわけではないので断定はできないが,もしかしたら不可能なのかもしれない。
6.テトリミノ接地から固定までの時間を延ばせない
降ってきたテトリミノの接地(地面や,すでに積まれているテトリミノの上に乗ること)から固定までには猶予時間がある。新テトリスでは,このときにテトリミノの横移動や回転操作を行うと,固定までの時間をある程度延ばせるので,ボタンを連打して回転させながらうまくハマる場所を探すという,“最後のあがき”的なプレイが可能だ。
しかしゲームボーイ版では操作の有無にかかわらず,接地から固定までの時間は一定。新テトリスの感覚でプレイしていると「固定が早い!」と慌てることになる。
7.「七種一巡の法則」が存在しない
新テトリスで降ってくるテトリミノには,「7種類のテトリミノをランダムな順番で一巡させる」ことを繰り返す「七種一巡の法則」というルールが適用されている。
そのため,ゲームがスタートして最初に降ってきたテトリミノはその後の6回で降ってくることはないし,ゲーム中に同じテトリミノが3回連続で降ってくることもない(2回連続は,2つの一巡の最後と最初になった場合に発生し得る)。
ゲームボーイ版に「七種一巡の法則」はないので,降ってくるテトリミノにはかなりの偏りを感じる。新テトリスでは起こり得ない,同じテトリミノの3回連続は“割とあること”だ。
「七種一巡の法則」の感覚で,4列同時消しを狙ってI字テトリミノのスペースを空けたまま積んでいると,出来てくれなくてピンチに陥ったりする。
ここまで紹介してきたことからも分かるように,テトリスというゲームはガイドラインの誕生によって大きく変化している。それ以前は,ゲームの基本的な部分にも独自仕様が入り乱れていたのだが,ガイドラインが制定されたことで,一定の遊びやすさが担保されたのだ。
また,七種一巡でテトリミノに極端な偏り(運要素)がなくなり,4列同時消しのテトリスに加えてT-SPINやREN(連続してラインを消すと,よりスコアが稼げたり,対戦時にメリットが得られたりするシステム)など,ゲーム側から評価される要素が増えたことで,競技性も高まったと言えるだろう。
逆に,新テトリスに慣れた人がゲームボーイ版テトリスをプレイすると,これまでの自分がガイドラインの機能に“守られていた”ことに気付くはず。ゴーストブロックでミスなく積み,扱いに困るテトリミノが来たらとりあえずホールドして,NEXT表示から数手先まで考える……といった,当たり前のはずのプレイがゲームボーイ版ではできないのだ。
もちろん,ガイドラインに沿って“いない”からこその面白さもある。七種一巡とホールドがないため,「次にどのテトリミノが落ちてくるか」のスリル感は増すし,ゴーストブロックがなく,場所によっては回転もできないので,より素早い判断や正確な操作,集中力が必要になる。テトリスの“本質”は,むしろより強く感じられるはずだ。
ガイドライン制定以前のテトリスが現行機種で配信され,最新のテトリスと比べられることは,“ゲームの進化”を感じるいいきっかけになっているように思う。なんとなく遊んでいるゲームにも,これまで積み重ねられてきた開発者の思考と工夫が生きていて,それがプレイの気持ちよさや楽しさにつながっている。テトリスのガイドラインは一般に公開されているわけではないが,何度か改定を重ねて,時代に合わせた進化をしているようだ。
そして,ガイドラインが定めている部分以外で,さまざまな独自仕様を取り入れたタイトルがリリースされ続けているのも,テトリスがただの古いゲームにならず,長年愛され続けている理由のひとつだろう。
ここ数年だけ見ても,99人によるテトリス・バトルロワイヤルが楽しめる「TETRIS 99」や,テトリミノの自然落下を一定時間止める「ゾーン」システムを導入した「テトリス エフェクト・コネクテッド」など,挑戦的なタイトルが次々にリリースされている。4Gamerでは両作の開発者へのインタビューを掲載しているので,興味があったらそちらも読みつつ,実際にテトリスの“食べ歩き”をしてみて,それぞれの違った面白さを味わうのもいいのではないだろうか。
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