インタビュー
「ゴブリンスレイヤー」原作者・蝸牛くも氏×グループSNE代表・安田 均氏対談。オールドスクールRPGの新たな潮流
そしてこのライトノベルをベースとした,まるで“先祖返り”のようなTRPG,その名も「ゴブリンスレイヤーTRPG」の制作も明らかになっており,さらにはその完全受注制限定版の予約受付(リンク先はAmazonアソシエイト)が,本日から開始となっている。
そこで本稿では,「ゴブリンスレイヤー」原作者である蝸牛くも氏と,「ゴブリンスレイヤーTRPG」制作を担当するグループSNE代表・安田 均氏による対談をお届けしてみたい。オールドゲーマーの心を熱くする「ゴブリンスレイヤー」という作品がどのようにして生まれてきたのか,そして制作中というTRPG版がどんなゲームになるのか。オールドゲーム談議に花が咲く中,「ゴブリンスレイヤー」の原点と今後に迫る。
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「ゴブリンスレイヤーTRPG 限定版【完全受注生産】」をAmazon.co.jpで購入する(Amazonアソシエイト)
蝸牛くも,そのゲームと読書遍歴
4Gamer:
本日はお時間をいただきありがとうございます。アニメの第1話放送日の掲載と言うことで,アニメの話から入りたいと思うのですが……先生は第1話をご覧になられましたか?
蝸牛くも氏(以下,蝸牛氏):
それが,まだ見れてないんです。脚本や絵コンテは拝見しているんですけど※。
※対談の収録は,アニメ放送直前の9月末に行われた。
4Gamer:
なるほど。手応えはいかがですか?
蝸牛氏:
第1話の脚本に関して言えば,原作どおりですね。つまり……ゴブリンが出たのでゴブリンを退治する,ゴブリンスレイヤーさんのアニメです(笑)。
安田 均氏(以下,安田氏):
原作のあの感じでスタートするの? そりゃすごい。
蝸牛氏:
そうですね。もちろん地上波では難しい面もあったと思うんですが……そこはアニメのスタッフさん達にうまく処理していただいて。だから,お話としてはあのママですね。
4Gamer:
アニメでは,どの辺りまで映像化されるのでしょうか。
蝸牛氏:
先の展開は放送を楽しみにしていただければと思うんですが……皆さんが見たいところは,たぶん見られるんじゃないかな,と。
4Gamer:
期待しています。今日の対談はアニメについてもですが,原作者である蝸牛先生と,本作のテーブルトークRPGを制作しているグループSNEの安田先生に,両作について語っていただこうと思っています。安田先生にはまず原作の感想をお聞きしてみたいのですが,いかがでしょう。
安田氏:
もちろん僕も読ませてもらいましたけど,いやこれは古い時代の本格ファンタジー,それもRPGの匂いがプンプンしますね。ゴブリンが怖いのって,RPGやってるとなんとなく分かるんですよ。数値的には弱くても,罠とかしかけてくるし,嫌らしくて。
蝸牛氏:
そうなんです。デジタルゲームだと,バッタバッタと倒していくじゃないですか。そんなに楽なものじゃないって,ずっと感じていたので。
安田氏:
そうそう。一般的にはやられ役というか,雑魚敵の記号みたいになってるじゃない。でも「ゴブリンスレイヤー」のゴブリン戦は,昔のRPGもそうだけど,ストラテジーゲームを遊んでるときの感覚を思い出します。ダイス目でどうこうだけじゃなく,「きっとこう動くだろうから,こうしてみよう」とか,「じゃあ洞窟に火をかけてやろう」とか。
蝸牛氏:
好きなものをそのままやってるだけなんですが……。
安田氏:
でもそれが新鮮だったわけですよ。「この人分かってる!」って,一発で伝わってきた。「ゴブリンスレイヤー」で僕が一番好きなのは,「ゴブリンも100匹いれば大敵だ」という昔の言葉を,ちゃんと実践しているところなんです。
あとね,僕あのリザードマンの神官が大好きなんですよ。チーズにかぶりついて「甘露!」って言ってるのを見て,「あ,これだ!」って。
蝸牛氏:
リザードマンはなぜだか好きなんですよね。理由は自分でも分からないですが。
安田氏:
愛が溢れてますよ。リザードマンってさ,なぜか左利きが多いじゃない?
あれ,謎ですよね。「ロストワールド」のリザードマンも左利きだったり。あと「ダンジョンマスター」のプレイヤーキャラクターだったリザードマンが印象深いです。僕がプレイしたのは,PC版じゃなくスーパーファミコン版でしたけど。
安田氏:
そうそう,やっぱり分かってるなあ(笑)。「ダンジョンマスター」は呪文の唱え方※が良かった。名作はタイムラグがあっても伝わっていくんだよね。すごいことですよ。
※「ダンジョンマスター」における魔法は,火を表すシンボル,衝撃を表すシンボルなど,いくつかのシンボルを組み合わせて発動させる仕組みだった。「ゴブリンスレイヤー」の,真言を組み合わせる呪文の唱え方と類似点が見られる。
4Gamer:
でも「ダンジョンマスター」とは,また渋いところを突きますね(笑)。
安田氏:
そもそもなんだけど,最初にゲームに触れたのは何がきっかけだったの?
あれは「風雲ミラルゴ編」だったと思うんですけど,小学校の2,3年くらいのときに「ソード・ワールドRPG」のリプレイを読んだんです。同じ頃に,小学校の古本市で「ソーサリー」のゲームブック※を手に取って……その2つからですね。
※読者が選択肢を選び,指示されたパラグラフを読み進めることで物語がさまざまに変化するゲームブックは,1980年代後半に流行した。ブーム初期に人気を博した4冊からなるシリーズが,スティーブ・ジャクソン作の「ソーサリー」(日本では創元推理文庫刊/1985年発売)だ。
安田氏:
要するにアナログから入ったわけだよね。僕は大学でコンピュータゲーム史を教えたりもしてるんですが,あなた方の世代だと,普通はデジタルのゲームから入るよね。そっちはやってなかった?
蝸牛氏:
デジタルだと「ドラゴンクエスト」のI〜IIIは遊んでいました。
安田氏:
ちょっと待った。「ソーサリー」とか「ドラゴンクエスト」ってどっちも1980年代だけど,君はいったい幾つなんだ(笑)。
蝸牛氏:
「ドラゴンクエスト」も「ダンジョンマスター」と同じく,スーパーファミコンで出たリメイク版を遊んだんです。実はまだ,ギリギリ20代でして(苦笑)。
4Gamer:
ええっ,20代なんですか!? ……作品の傾向から,てっきり同世代かもっと上だとばかり。
安田氏:
ああでも,それなら遊んだのは1990年代ですね。なるほど。
蝸牛氏:
ただ,「ソーサリー」はそういったゲームのどれとも違う雰囲気でしたね。
安田氏:
あれ,もろに中世イギリスの雰囲気を引きずってるし,そもそも絵が怖いから(笑)。子供だったら泣くんじゃないかなあ。
蝸牛氏:
最初に出会うのがサイトマスター(視力に優れた人型種族)の軍曹なんですけど,見た目が異様で,「こいつ味方なのか?」って思いましたね。
安田氏:
そうそう。ミニマイト(冒険中に仲間になる妖精)ですら顔が怖くて。
蝸牛氏:
さらにヒドいのが,最終巻でまた別のサイトマスターが出てくるんですけど,いい人だと思って近付いたらそうじゃないんですよ。最初のサイトマスターはいい人だったのに!
とにかく,グロテスクな魅力があったよね(笑)。僕は今,「ウォーロックマガジン」という,その頃出ていた雑誌の復刻というか,出し直しをやってるんだけど,そういうゲーム誌は読んでたの?
蝸牛氏:
それがぜんぜん知らなくて。当時はAmazonもなかったから,近くの本屋さんにない本は存在にすら気が付きませんでした。
安田氏:
そうだね。それにもう,「ウォーロック」は潰れたあとやった。ごめんね,社会思想社の影響力が小さかったばっかりに(笑)。そもそも社会思想社って,本業は「マルクス・エンゲルス全集」とかを出す会社だったから。子供が「ウォーロック」を定期購読していたら,親に「お前はそういう思想にかぶれてるのか!」って破り捨てられた,なんて話があったくらい(笑)。
蝸牛氏:
ウチは幸い,そういうことはなかったです(笑)。その後しばらくして,角川スニーカー・G文庫から出ていた「ロードス島戦記」のリプレイを読んで,確か最初に買ったTRPGが「ロードス島RPG」だったと思います。
おお,ありがとう! あれはルールを分かりやすく整えたものだったから,さっと遊べたんじゃないですか。
蝸牛氏:
そうですね。シナリオ集も買って遊びました。それで今度は,そこからコナンにハマったんです。
安田氏:
コナンといっても,今はいっぱいありますからね(笑)。「蛮人コナン」に「未来少年コナン」「名探偵コナン」,おまけにコナン・ドイル……はさすがにないか(笑)。
蝸牛氏:
僕の場合,最初はシュワルツェネッガーの「コナン・ザ・グレート」※でした。
※ロバート・E・ハワード作の「英雄コナン」シリーズを元にした1982年の映画。
安田氏:
やっぱりそれやね! どうでした?
蝸牛氏:
カッコ良かったですね。暗い話だし,“脳筋”なんてよく言われますが,決して考えてないわけじゃない。例えばコナンが塔の上で毒蜘蛛に襲われて,蜘蛛の糸で剣が通らない。どうするんだ? と思ったら,その場にあった宝箱を抱えて,ブン投げて倒しちゃう。こいつすごいな! って,感動しましたよ。
安田氏:
実はちゃんと考えて敵を倒しているよね。
蝸牛氏:
それでハマって,コナンシリーズを古本で買い集めて読んだのが中学から高校の頃。作者のハワードがH.P.ラヴクラフトと友達って聞いて,同じころにクトゥルフにもハマり,それも古本屋で買い集めました。
安田氏:
映画のイメージが強いシリーズだけど,小説版をちゃんと読んでくれてる人がいるなんてうれしいね。
蝸牛氏:
あとは祖父の本棚がきっかけでハヤカワSFにもハマり,「レンズマン」(E・E・スミス著)「キャプテン・フューチャー」(エドモンド・ハミルトン著)「宇宙の戦士」(ロバート・A・ハインライン著)という感じで……。
安田氏:
あれ,やっぱり僕といくつも歳が離れてない気がしてきたぞ(笑)。
蝸牛氏:
父や祖父の本棚やビデオから影響を受けたので,同世代と比べると,どうもちょっと古い方向に走っちゃうみたいです。
安田氏:
ああ,そういうことか。僕も大学で教えてて,「どうして君ここに来たの?」って聞いたら,「父に勧められて」って学生さんがたまにいるので分かります(笑)。
蝸牛氏:
父はTRPGとはほとんど接点がなかったみたいですが,「攻殻機動隊」(士郎正宗著)とか「銃夢」(木城ゆきと著)とかが好きで,漫画を集めていました。そこから僕は「シャドウラン」に入り……めちゃくちゃ面白かったので,これも古本屋で集めました。
TRPG「シャドウラン 5th Edition」が9月29日にいよいよ発売。より遊びやすく,さらにダイナミックに進化した最新版の魅力を紹介
サイバーパンクを題材としたTRPGの金字塔「シャドウラン」。その最新版「シャドウラン 5th Edition」の日本語版が,新紀元社から9月29日に発売となる。版形はA4変型のソフトカバーで,価格は8000円(税別)だ。本稿では翻訳を担当した朱鷺田祐介氏による同作の紹介をお届けする。
4Gamer:
「シャドウラン」は第4版ですか?
蝸牛氏:
第4版も全部買いましたし,第5版も買いますが,第2版からですね。いやあ,リプレイに出てくるフィジカルアデプトの“殺(シャア)”がかわいくて(笑)。リプレイも含めて全部家にあります。さすがにメガCD版は持ってなかったんですが,スーパーファミコンで出た「シャドウラン」(1994年発売)はやりました。主人公キャラでも割とあっさり死ぬって感覚って,この辺りの影響が強いんだと思います。
「ダンジョンズ&ドラゴンズ」から続く“オールドスクール”のRPGって,普通に死ぬんですよ。簡単には生き延びられない世界だからこそ,生き残った奴が,それこそレイストリン※みたいに,ものすごくアレなことになっていく(笑)。
※「ダンジョンズ&ドラゴンズ」をベースにした小説「ドラゴンランス」シリーズに登場する魔法使い。呪いのために虚弱体質であり,天才ではあるが皮肉屋で性格が悪い。
蝸牛氏:
分かります。別にプレイヤーをいじめる気は毛頭ないんだけど,それでも本来は厳しいものなんですよね。
安田氏:
ほんとうに厳しい。「ソード・ワールド」を作っていたときも,それが時代に合わなくて,HPがなくなっても即死にならないルールを取り入れたものです。でも今は「クトゥルフ神話TRPG」の影響で,逆にキャラクターがロストするのを楽しめるようになってきた。「これで安心してまた厳しくできる!」って,内心喜んでます(笑)。
世界を変えたオンラインセッション
4Gamer:
蝸牛先生は学生時代,TRPG三昧の日々を過ごされたわけですか。
蝸牛氏:
それが結局,TRPGにはオンセ※が普及するまで,手が出なかったんです。ひたすらゲームブックでした。
※オンセ……オンラインセッションの略。画面共有・チャット・ダイスツールなどを利用して,ネットワーク越しに遊ぶTRPG。実際に卓を囲んで遊ぶ場合は「オフラインセッション(オフセ)」という。
安田氏:
中高生だと,同好の士が身近にいないと厳しいでしょうね。ゲームブックとソロシナリオくらいで,あとはリプレイを読んで頭の中で妄想するしかないっていう。
蝸牛氏:
そうですね。「ロードス島RPG」は楽しかったですが,ほんの数回しか遊べませんでした。近くにゲームが遊べるコンベンション※もなかったですし。
※TRPGを遊ぶために開かれるゲームイベント,ゲーム会のこと。企業主催の大規模なものから,サークルレベルの小規模なものまで形態はさまざまだが,TRPGでは伝統的にいずれもコンベンションと呼ぶ。
安田氏:
その頃は,東京に住んでいたわけではなかった?
蝸牛氏:
親の転勤であちこち行っていたのもありまして……。
安田氏:
それだと,一緒に遊ぶ友達は作りにくいもんなあ。
蝸牛氏:
TRPGは,主に上の世代の人達の遊びという感じで,まわりに話せる相手もおらず,さみしかったですね。オンセができるようになるまでは,本当に。
安田氏:
そういう人は“病膏肓に入る”から厄介なんだよね。昔からそう。若い頃からやってる人は気楽にするっと抜けたりしちゃうんだけど,ずっとため込んできて大学でついに! みたいな人が,そこから延々とハマってしまう(笑)。
蝸牛氏:
「ゴブリンスレイヤー」も,当時の僕のように中学校で1人で「指輪物語」(J・R・R・トールキン作)やゲームブックを読んでるやつが絶対いるだろうから,そういうやつらのために書いてやろうって気持ちがあります。
安田氏:
絶対いますよ。でも,そういう人ほど妄想が激しいから面白い。それこそ昔のSFファンがそうでした。あの頃は「SFとSMどう違うんだ?」って笑われるような時代で,面白くても人に言えない,仲間も見つけられない。大学紛争があったので,大学にもサークルがなくてね。
蝸牛氏:
大変な時期だったと聞いています。
安田氏:
それで京都市内のSFサークルを尋ねていったんだけど……それはもう夢のような世界でね。そこで人生踏み外したかな(笑)。
蝸牛氏:
自分もオンセに出会ったときが,まさにそんな感じでした(笑)。どこを向いても,好きな話ができるんですよ。最高でしたね。
安田氏:
そういうグループは身近に無かった?
蝸牛氏:
無かったですし,オンセがあるからいいやって感じでした。オンセに出会った最初の頃は,1年くらいほぼ毎晩やっていて。そのときは「異界戦記カオスフレア」※にどハマりしてましたね。世界観がすごく好みだったので,もうひたすら。
※「異界戦記カオスフレア」……2005年に新紀元社より刊行されたクロスオーバー・ファンタジーTRPG。作・三輪清宗 / 小太刀右京。
安田氏:
それはね,だいたいみんなどこかで通過するんです(笑)。僕達も「ソード・ワールド」を出したときは,「1週間でレベル5まで終わっちゃったので,早く次を出してください」って言われたものです。最初はそれくらい熱中するもんですよ。それが学生の頃?
蝸牛氏:
おそらく高校くらいですね。発売日に買って,それからずっとRPGをやってた記憶しかない。
安田氏:
それは人生踏み外してしまうやろなあ。
蝸牛氏:
順調に踏み外した結果,こうなってる気はします(笑)。
安田氏:
僕らの学生時代は麻雀しかなかったから,そればかりやっていたけど。あの頃にRPGがあったら,僕ももっと順調に人生を踏み外してたかもしれない(笑)。
蝸牛氏:
いつだったか,大みそかから正月の三が日,ぶっ通しでオンセをやってた記憶があります。オンセはオフセに比べて時間がかかるものですが,1〜2時間の空き時間を利用して進められるのが魅力なんです。だからシステムが簡単でデータが豊富にあり,かつ世界観が深くて,公式シナリオがいっぱいある。そんなタイトルが適していますね。
安田氏:
そこなんだよ。公式シナリオがいっぱいあるのが今の流行なんです。シナリオ集って昔は売れなかったんだけど。ルールはめちゃくちゃ売れるし,遊び方が分からないからリプレイもめちゃくちゃ売れる。出版社の人は「なのになんでシナリオは売れないんだ」って言うけど,そりゃシナリオは1回やったら終わりだし,何分の一かしか売れないものだった。
蝸牛氏:
ゲームマスターを担当するのが,グループ内で1人しかいないからですよね。今はいろんな人がマスターをしますから。
安田氏:
それで,今は逆にシナリオが大事になってきた。いい時代になったと思いますよ。
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