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ついに発売となった「Meta Quest 3」徹底解説。液晶やレンズ,コントローラの秘密を明らかに[西川善司の3DGE]
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印刷2023/10/12 08:00

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ついに発売となった「Meta Quest 3」徹底解説。液晶やレンズ,コントローラの秘密を明らかに[西川善司の3DGE]

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 去る2023年9月27日,Meta(旧Facebook)は,開発者向けのカンファレンス「Meta Connect 2023」を開催し,3つの大きな発表を行った。その3つとは,新型XRヘッドマウンドディスプレイ(以下,HMD)の「Meta Quest 3」(以下,Quest 3)と,新AIソリューション,そして新型のスマートグラスであった。

 既報のとおり,Quest 3の発売日は2023年10月10日で,税込価格は内蔵ストレージ容量128GBモデルが7万4800円,512GBモデルが9万6800円である。
 ちなみに,既存製品である「Meta Quest 2」(以下,Quest 2)や,「Meta Quest Pro」(以下,Quest Pro)も当面は併売される予定だ。

Meta Quest 3
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 筆者は,カリフォルニア州メンローパークのMeta本社に赴き,発表となった各製品やソリューションについての取材を行い,公式の情報にはない深い話も得られた。そこで本稿では,Quest 3について深く見ていくことにしたい。


Meta Quest 3はどんな位置づけのHMDなのか


 今回発表となったQuest 3は,2020年に発売となったQuest 2の直系後継モデルである。初代「Meta Quest」(旧称 Oculus Quest)が発売となったのは2019年で,Meta Questという名前は,Metaが発売するスタンドアロン型HMDのブランド名として,VR業界や消費者の間に浸透している。
 なお,本稿で言うスタンドアロン型HMDとは,ゲーム機やPCのようなホストコンピュータ部や,HMD本体を着用したユーザーとユーザーが手に持つVRコントローラの位置の検出を行うセンサー群を,内蔵するタイプのHMDを示す。

 Quest 2とQuest 3の間には,2022年に登場したQuest Proという上位モデルが存在する。少々ややこしいのは,Quest 3のスペックは,部分的にQuest Proを上回っていることで,その一方で,Quest Proにおける重要な機能のいくつかは省略されているところだ。つまり,「Quest 3はQuest Proよりもスペックが上」と断言はできない。そんな理由もあって,Quest 3に乗り換えるべきかを悩んでいるQuest Proユーザーも,少なくないようだ。

表 Quest 3とQuest ProおよびQuest 2の主なスペック
Quest 3 Quest Pro Quest 2
SoC Snapdragon XR2 Gen 2 Snapdragon XR2+ Gen 1 Snapdragon XR2 Gen 1
メインメモリ容量 8GB 12GB 6GB
内蔵ストレージ容量 128/512GB 256GB 128/256GB
ディスプレイパネル 液晶 液晶 液晶
片眼あたり解像度 2064×2208ピクセル 1800×1920ピクセル 1832×1920ピクセル
PPD 25 22 20
最大リフレッシュレート 120Hz 90Hz 120Hz
色域(sRGBカバー率) 100% 129% 100%
水平/垂直視野角 110度/96度 106度/96度 90度/90度
光学系 パンケーキレンズ パンケーキレンズ フレネルレンズ
フェイス/アイトラッキング 非対応 対応 非対応
パススルー カラー,約400万画素 カラー,約100万画素 モノクロ,画素数未公開
バッテリー容量 約5060mAh 約5348mAh 約3640mAh
バッテリー駆動時間 最大2.2時間 最大2.5時間 最大2時間
公称本体重量 約515g 約722g 約503g
税込価格 7万4800円(128GB) 15万9500円 4万7300円(128GB)


映像パネルは液晶を採用


 HMDにおける最も重要な評価軸に,映像パネルの種類や解像度がある。さらに,光学系としてどのような接眼レンズを採用したかも,同じくらい重要だ。

 まず映像パネルだが,Quest 3では,Quest 2やQuest Proと同様に液晶パネルを採用した。パネル解像度は,片目あたり2064×2208ピクセルで,Quest 2はもちろん,Quest Proよりも高解像度となっている。両眼での解像度は4128×2208ピクセルとなったので,いわゆる4K(3840×2160ピクセル)や,PlayStation VR2(4000×2040ピクセル)を若干超えたわけだ。
 リフレッシュレートは,72Hz/80Hz/90Hz/120Hzに対応する。90Hz未満のリフレッシュレートは,高フレームレートが出しにくいグラフイックス表現に凝ったVRゲームなどで採用されることだろう。

 初代のMeta Questは,有機ELパネルを採用していたが,Quest 2以降はすべて液晶パネルだ。有機ELパネルを採用しない理由についてMetaは,「製造コストの観点から,コスト的に熟れている液晶パネルを採用した。マイクロ有機ELパネルについては,高価なうえに安定した供給量が見込めないことが予想されたために避けた」と答えている。

ラウンドテーブルミーティングで質問に答えるAndrew Bosworth氏(CTO,Meta)
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 また,MetaのCTO(最高技術責任者)であるAndrew Bosworth氏は,筆者らの質問に対して「有機ELパネルはコントラスト性能に優れるが,絶対輝度では液晶パネルに及ばない。また,Quest 3にはパンケーキレンズ(後述)を採用したが,これはハーフミラーを駆使した光学系であることから,映像パネルが出力する光のロスが大きい。そのため,明るい映像が作りやすい液晶パネルを採用するのが最良の選択と考えた」と,液晶パネルを採用した技術面での理由を説明した。
 なお,Quest Proも液晶パネルを採用しているが,有機ELパネル並みの発色特性とコントラスト性能を実現するために,HMD用としてはまだ珍しい量子ドット技術と,mini LEDバックライトシステムを組み合わせたエリア駆動技術(ローカルディミング)を採用していた。しかしQuest 3では,これらの技術を採用していない。その理由についても,Metaはコスト的な事情を挙げている。

 それを踏まえたうえで気になるのは,「Quest 3がHDR表示に対応するか否か」だが,イベントの後日,Metaから「HDR表示には対応しない」という回答が送られてきた。2023年発売のHMDとしては,少々残念な点である。

 なお,採用液晶パネルのサイズは非公開だが,画素密度は1218ppiと公開されている。画素密度と解像度から逆算すると,対角長は約2.5インチとなった。それにしても,1000ppiを超えた直視型のRGBカラー液晶パネルが,価格500ドルの一般消費者機に採用されているという事実に,筆者はちょっとビックリしている。


改善されたパンケーキレンズ。25ppdの意味とは?


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 Quest 3が採用する接眼レンズは,Quest Proと同じ「パンケーキレンズ」である。とはいえ,同じものを流用しているのではなく,Quest 3向けに新設計したものだ。

 パンケーキレンズとは,接眼側の非球面レンズと,映像パネル側の凸レンズを組み合わせた構造をしている。非球面レンズには偏光レンズを,凸レンズ側はハーフミラーを用いており,2つのレンズ間で繰り返し光を反射させる(反射を重畳させる)ことで,焦点距離を伸ばしながら拡大率も上げるという高度な光学系だ。
 Quest 3が採用するパンケーキレンズは,Quest 2と比べて40%もの薄型化を実現しており,さらにハーフミラー部の構造を見直すことで,重畳反射時の迷光や散乱光を封じ込ることにも成功した。その結果として,光の利用率を25%ほど改善したそうだ。

 視野角(Field of View)は,水平110度,垂直96度である。Quest Proは水平106度で垂直96度,Quest 2は水平97度で垂直93度だったので,着実に視野が広がっていることが分かる。

 HMDを通して映像を見たときの「リアルさ指標」に用いられる「Pixel Per Degree」(ppd,視野角1度あたりのピクセル密度)は,25ppdであるという。
 NHK放送技術研究所の主任研究員である正岡 顕一郎氏らが,2013年に発表した論文「Sensation Visual Realness between High Resolution Images and Real Objects」で,ppdに関して興味深い説明を行っている。
 論文によると,実物と,それをカメラで撮影した映像をテレビに映して見比べたとき,「実物と映像の区別ができなくなる解像感の目安」について調査したところ,個人差はあれど,おおむね「映像の横解像度が1分あたり2ピクセルくらい」ということが分かったという。つまり「HMDの表示能力が120ppdもあれば,現実世界とほぼ同等の見映えになる」という理屈になり,Quest 3の25ppdでも,現実世界を見るような高精細には,まだまだ届かないわけだ。

※角度における1度の,さらに60分の1

 ちなみに,50インチ級の8Kテレビ(解像度7680×4320ピクセル)を視距離約1mで見ると,ちょうど120ppdくらいになる。興味のある人は計算してみよう。


アイトラッキング機能は採用せず


 Quest 3では,瞳孔間距離(Interpupillary Distance,IPD)は,53〜75mmの範囲で調整可能となっている。

IPD調整は左下のダイヤル(赤丸内)を回して行う
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 近視の人でも眼鏡なしでHMDの映像を見られるようにする「視度調整」機能は備えていないが,別売りのオプションとして,Zenni製の視力矯正用インサートレンズ(税込7480円)を用意している。インサートレンズは,Quest 3の接眼レンズに直接はめ込んで使うものだ。インサートレンズの取り付けに当たって,本体を分解したり,接眼レンズの縁を守っているシリコンカバーを外したりする必要はないとのこと。

イベント会場では,視力測定を行って自分に合ったインサートレンズを借りることができた(左)。右は貸し出し用のインサートレンズで,ゴーグルの接眼部にはめ込んで使う
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接眼部を前に引き出すためのボタンは,左右の接眼レンズ付近にあり
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 また,ちょっと分かりにくいのだが,接眼部の内側にある左右のボタンを押し込むことで,ゴーグル部を手前に引き出せる構造となっている。これはQuest 2にはなかった特徴だ。「メガネをかけたままHMDを被る派」には,嬉しい機構である。

左は引き出す前の状態で,右は接眼部を前に引き出して隙間を作り出した状態だ
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 また,接眼部との隙間をなくすことは,周囲の光が入らないように遮光するには効果的だが,長時間,HMDを被り続けるユーザーは,接眼部が頬に触れることを嫌がることもある。その意味では,接眼部に隙間を作り出せる機構は,一部のユーザーにもありがたがられることだろう。

 Quest 3で意外な点としては,アイ(視線)トラッキング機能採用されなかったことが上げられよう。ゲームやVR系SNSにおける他者へのアイコンタクトや,FPSでの照準操作,さらには「Foveated Rendering」などに,アイトラッキングは有効な技術だからだ。
 しかしMetaは,「視線や表情のトラッキングは,会議や共同作業の場におけるコミュニケーション表現手段として有効だと考えているが,一般消費者向けHMDには不要だと判断して,採用は見送った」と述べている。コストを下げるためではなく,一般消費者向けHMDには不要と判断したというのは,結構重要なことかもしれない。

※フォヴィエイテッドレンダリング,注視点周辺を高解像度,それ以外は低解像度でレンダリングする技術


高度なトラッキングシステムは高品位MR体験のために


 先述したスタンドアロン型の説明でも触れたとおり,Quest 3は,HMD本体(とユーザー)や,左右の手に持ったVRコントローラ「Touch Plusコントローラー」(以下,Touch Plus)のリアルタイム位置情報を,外部にセンサー類を置かずにHMD単体で把握する,インサイドアウト方式のトラッキングシステムを採用している。Meta Questシリーズはすべてがインサイドアウト方式であるし,今どきの一般消費者向けHMDは,ほぼすべてが同様だ。

 トラッキング用のカメラは,全部で6基。ゴーグル部前面に,昆虫の目のような三つ目のカメラが存在するが,前面左右のカメラをよく見ると,それぞれ,2つレンズが縦に並んでいることが見てとれよう。この縦に並ぶレンズのうち,下側がトラッキング用の赤外光(IR)カメラだ。
 また,ゴーグル部前面の下側左右にある2つのカメラも,トラッキング用IRカメラで,左右の下方向の視野を担当する。左右端のカメラは,主に左右の手に持ったTouch Plusのトラッキングに役立つものだ。

ゴーグル前面にある三つ目のうち,左右の下側がトラッキング用のIRカメラだ。赤丸部分もトラッキング用である
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 一方,三つ目の左右のうち,上側はRGBカメラだ。画素数は約400万画素で,解像度は18ppdであるという。
 RGBカメラは,カラー映像を撮影可能なビデオカメラに相当するもので,HMDを被ったユーザーに,リアルタイムで周囲の情景をパススルー映像として見せるために役立てられる。Quest 3では,このパススルー映像の画素数が,Quest Proよりも3倍も高精細になっているそうだ。

あくまでもイメージ画像だが,Quest 3は周囲の情景を高解像度のフルカラー映像で見ながら,そこにCG映像を重ね合わせるMR用途に優れる
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 また,フルカラーのカメラ映像は,リアルタイムにコンピュータビジョン処理を施されており,視差情報や特徴点情報を検出するのに用いる。この情報と,ゴーグル部に内蔵された角速度センサー(ジャイロセンサー)や加速度センサーからの情報を組み合わせることで,Quest 3本体やTouch Plusの位置と向きを算出しているわけだ。

 Quest 3が凝っているのは,三つ目の中央部分に,赤外線を使った「深度プロジェクタ」を組み込んでいる点にある。深度プロジェクタとは,ランダムドットやメッシュ(網目)のようなパターン映像(模様)を赤外光で前方に投影するものだ。赤外線の投影パターンをIRカメラで撮影することで,その模様のゆがみ具合から深度を算出できる。つまり,深度プロジェクタと6基のIRカメラと組み合わせて,Quest 3は周囲の立体構造を測定(測距)できるのだ。
 余談だが,MicrosoftがXbox 360の周辺機器として発売していた「Kinect」の深度センサーも,Quest 3と同様の方式だった。

Quest 3体験中の筆者。深度プロジェクタのおかげで,周囲の障害物(※この場合は柱やラック)をリアルタイムに検知できる
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 VR HMDでは,VRゲームやVRコンテンツを実行する前に,安全な「プレイエリア」を設定しておくのが一般的だ。Quest 3の場合,深度プロジェクタがプレイ中にも働いているので,たとえば,プレイエリアを家族が横切ったり,何か邪魔になる物を置かれたとしても,その存在を立体的に検知できるので衝突警告を出せるのだ。
 Metaによれば,Quest 3はユーザーやTouch Plusの位置や向きのみならず,周囲を取り巻く環境の立体構造をマッピングできるそうだ。そのためQuest 3には,「リアルタイムSLAM機能がある」と主張している。

※「Simultaneous Localization and Mapping」の略で,自己の位置推定とマッピングの同時実行といった意味)


リングなしになったVRコントローラの秘密


 Quest 3用のVRコントローラは,Touch Plusという新型になった。外観上の大きな特徴は,従来のVRコントローラに付きものだったリング状の構造物がなくなったことにある。Metaに聞いたところ「ソフトウェア的な技術進化によってリング形状が不要になった」とのことだった。

Touch Plus。サイズは43(W)×67(D)×126(H)mmで,重量は単三乾電池1本を含めて約126gだ
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別売りの「Meta Quest 3充電ドック」(税込1万9580円)を使うと,Quest 3本体と同意にTouch Plusも充電できる。ドックにはTouch Plus用のリチウム電池パックも含まれている
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こちらはQuest 2に付属の「Touchコントローラー」。リング状の構造物が目立つ
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 インサイドアウト方式のトラッキングシステムでは,HMD側のカメラでVRコントローラの位置や向きを把握する。このとき,トラッキングの手がかりになるのが,VRコントローラに埋め込まれた複数の赤外線LEDだ。ユーザーがVRコントローラを動かすことで,赤外線LEDが手や体でカメラから遮蔽されたとしても,いくつかの赤外線LEDがVRコントローラ側のカメラから必ず見えるように複数の赤外線LEDを配置しているのだ。

 しかし,動きによっては,ほとんどの赤外線LEDがカメラから見えなくなることはあるので,とくにVRコントローラの向き(≒手首の回転方向)を正確に追跡できなくなる。そこで,多くのVRコントローラは,グリップから突出したリング状の構造を作って,そこに追加の赤外線LEDを組み込むことで,向きを正確に取得できるように工夫しているわけだ。

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 それがなぜTouch Plusでは,リング状の構造が不要となったのか? Metaの技術担当者によると,「Quest 3では,SoCの演算能力の向上もあり,機械学習技術を用いてリング上の赤外線LED情報がなくても,手首の回転方向を推論できるようになった」そうだ。
 連続的な手や手首の動きによってTouch Plus上の赤外線LED群が描くLEDの軌跡と,Touch Plus内蔵の角速度センサーや加速度センサーの連続的なデータを,HMD側のトラッキングシステムが把握できていれば,動きの途中で赤外線LED群の情報を一定時間取れなかったとしても,「人間が可能な範囲の動き」であれば,確度の高い推論が行える……という理屈である。

 技術担当者が言うには,「Quest 3のインサイドアウト方式IRカメラの視野角は,Quest Proと比較して狭くなっている。しかし,リング形状を省略したTouch Plusのトラッキング精度は,Quest Proのリングなしコントローラの精度を上回っている。手を振りまわしてIRカメラの視野外でTouch Plusを動かしても,かなり正確にトラッキングできているのは,今回導入した機械学習技術の賜である」と自信ありげに述べていた。


Snapdragon XR2 Gen 2の実力は?


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 Quest 3のメインプロセッサには,Qualcommが開発したXR機器向けの最新SoC(System-on-a-Chip)である「Snapdragon XR2 Gen 2」が採用されている。

 Qualcommは,Snapdragon XR2 Gen 2の詳細を明らかにしておらず,分かっている特徴は以下に示す3点程度。性能面での情報はロクにない。

  • 解像度3000×3000ピクセルのディスプレイパネルへの映像出力が可能
  • イメージプロセッサの性能向上により,カメラ入力された映像が,パススルー映像向けに加工され,眼前のディスプレイパネルに表示されるまでの総遅延時間が12msであること
  • ワイヤレス接続機能はWi-Fi 7/6E,Bluetooth 5.3/5.2に対応

 Snapdragon XR2 Gen 2は,スマートフォン向けハイエンドSoCの「Snapdragon 8 Gen 2」をベースに,XR機器向けの機能を組み合わせて再構成したSoCだと言う。Snapdragon XR2 Gen 2の製造プロセスはSnapdragon 8 Gen 2と同一のTSMCの4nmプロセス(N4P)だ。つまり,CPUやGPUを初めとした中核的なスペックは,Snapdragon 8 Gen 2に極めて近いものと推測される。
 そのため,搭載するCPUコアは,Armが開発した以下の合計8コアになっていると見られる。

  • Cortex-X3 1基:高性能64bit CPUコア
  • Cortex-A715 2基:高効率CPUコア
  • Cortex-A710 2基:32bit命令セット(A32/T32-EL0)にも対応した高効率CPUコア
  • Cortex-A510 3基:省電力CPUコア

 動作クロックは不明だが,省電力コアのCortex-A510以外は,最大3GHz前後で動作可能という話だ。なお,いずれも命令セットは64bit命令セット「Armv9」対応である。

 GPUもSnapdragon 8 Gen 2から継承していた場合,採用GPUコアはQualcomm製の「Adreno 740」である可能性が高い。もしそうであれば,32bit浮動小数点の理論性能値は,動作クロックが700MHzの場合で約3.6 TFLOPS,900MHzでは約4.6 TFLOPSあたりとなろう。
 Metaは,Quest 3の発表時に「Quest 3のGPU性能は,Quest 2(Adreno 650)の2〜2.5倍となった」とアピールしていた。採用端末にもよるが,Adreno 650の性能は,約1.4 TFLOPS前後だったので,Metaの情報どおりであれば,Quest 3のGPU性能は約2.8 TFLOPS〜約3.5 TFLOPSとなる。いずれにせよ,ゲーム機で例えると,約4.2 TFLOPSの「PlayStation 4 Pro」に近い性能といったところだろうか。

VRシューティング「The Walking Dead Saints & Sinners」を例としたQuest 2(左)とQuest 3(右)による描写の違い。いささか極端な例だが,Quest 3は同じシーンでも見違えるほどリッチな描写が可能になった
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 なお,Adreno 740はレイトレーシングユニットを搭載しているのだが,今回,Metaはこのあたりをまったくアピールしていない。

 トラッキングの仕組みでも触れたように,Quest 3では,各種制御にAIベース,あるいはコンピュータビジョン的なアプローチを多分に採用しており,その実行はCPUやGPUではなく,Armの推論アクセラレータ「Qualcomm Hexagon Processor」が担当していると見られる。演算精度は,機械学習との相性がいいINT4,INT8,INT16,FP16のすべての形式に対応するそうだ。


Quest 3で得られる体験とは?


 現地のイベントでは,実際にQuest 3を被って,いくつかのVR/MRアプリを体験した。
 ゴーグル部の幅は,実寸で約160mm。高さは同約98mmだった。バンド類を折りたたんだ状態での奥行きは約184mmと,かなりコンパクトである。
 公称本体重量は,バンド類を含めて515g。軽いとは思わないが,ずっしりという感じでもない。ちなみにQuest 2は約503gで,Quest Proは約722g,PlayStation VR2は約540gである。

パンケーキレンズを採用したゴーグル部分は,Quest 2よりも薄くなった
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 何世代もHMDを手がけてきたMetaだけあり,着用も実に簡単だ。横方向を支えるバンドの締め付け具合は,後頭部のバックルを手で開く操作だけで行える。頭頂部のバンドは,バックルの折り返しポイントを調整してマジックテープで止めるだけ。手に取った瞬間に着用の仕方が分かるほどで,よくできている。

Y字型に分かれて後頭部のバンドにつながる部分を広げたり縮めたりするだけで,締め付け具合を調整できる
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 なおストラップ部は着脱可能で,2色のカラーバリエーションも用意されている。価格は税込7480円だ。

Meta Quest 3接顔部&ヘッドストラップ。エレメンタルブルー(左)とブラッドオレンジ(右)
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 そのほかに,装着時の安定性を重視した上位版ストラップ「Meta Quest 3 Eliteストラップ」(税込1万450円)や,小型バッテリーを後頭部に組み込んで,バッテリー駆動時間を2時間ほど延ばせる「Meta Quest 3 Eliteストラップ バッテリー付き」(税込1万9580円)というオプションもある。

Meta Quest 3 Eliteストラップバッテリー付き。Eliteストラップの締め具合は,後頭部のダイヤルで調整する
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 今回は別売りストラップを体験できなかったが,Metaスタッフの説明では,「動き回るアクション性の高いVRゲームや,長時間使用を想定するならば,Eliteストラップがお勧めだ」そうだ。

 Quest 3を通して見る周囲の映像は,なかなかに高品質だ。もちろん,それが映像であることは見てとれる程度の解像度ではあるものの,肉眼で見える光景と,Quest 3を通して見える周囲の光景は,映像の拡大率や立体感が現実とうまく一致しており,よくチューニングできていると思う。Quest 3を被ったまま,手に持った物を人に渡したり,書類を顔に近づけて読んだりもできた。

カラーパススルー映像のイメージ。さすがにこの画像ほど高精細ではないものの,Quest 3を被ったまま,違和感のない映像で周囲を見られる
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 もちろん,Quest 3のパススルー映像が完璧かというと,そんなこともない。比較的,近い位置に見えるCGで描かれた自分の腕と,周辺のパススルー映像で合成する部分で,周辺映像側に若干の歪みが見えるのだ。たとえば,部屋の中に柱や壁紙といった縦の垂直線があったとする。その前に両腕があると,後ろに見える垂直線が曲がって見えるのだ。
 Metaの技術担当に質問してみたところ,「Quest 3の深度プロジェクタは,単眼で周辺の深度を把握しているのに対して,パススルー映像は左右2眼のカメラで撮影している映像をもとに構成しているため,そこに深度のずれが生じる」という。そのため,深度のずれた領域にAR/MR的なCG表現が重なったり,そのほかの画像処理を行ったりすると,このずれに起因した歪みが露呈するというわけである。「この現象に対する解決策はあるのか」と質問したところ,「プロセッサの演算能力に余裕がある次世代機が登場すれば,このずれ自体を数理的に補正することもできるだろうし,機械学習を使ってAI的にも解決できるかもしれない」とのことであった。

 なお現状でも,現実世界の上に置いたり貼り付けたりしたCGの追従性は,良好に見えた。今回体験したMRゲームの「First Encounters」や「BAM」などは,周囲にある壁やテーブル,家具などの凹凸部分に,整合性の高いCGを合成できており,CGと周囲の一貫性の高い表現には感心させられた。

4人で同時対戦できるMRアクションゲーム「BAM」。ゲームの舞台はCGだが,周囲の人物や室内の風景はパススルー映像で見える
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 今回体験したAR/MRゲームは,アクション性が高くせわしない内容だったが,これとは逆に,ゆっくりしたタイプのゲームもいいかもしれないと思った。たとえば,くつろいでいる室内に友達のアバターを呼び出して,ボイスチャットで会話しながらカードゲームやボードゲームをプレイできたら楽しそうだ。

AR/MRゲームのプレイイメージ。すごろくのようなボードゲームを,バーチャルで集まってみんなでプレイしたら楽しそう
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 体験したVRゲームで感心したのが,解像感の高さだ。緻密なドット単位のテクスチャ表現がつぶれたりせず,鮮明に見えるレベルである。Quest 3のGPU性能は,PlayStation 5のような現行世代ゲーム機には及ばないので,3Dモデルの形状に,「ポリゴンの集まりだな」という印象をところどころで感じた。ただ,PCではなくスタンドアロン型のVR HMDで描画している映像として考えれば,「ここまで来たか……」という驚きは確かにあった。

Quest 3でMRゲームの「First Encounters」をプレイ中の筆者
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 Quest 3における接眼レンズの見え方についても言及しておこう。
 HMDを被ったときに,視界中央に黒い仕切りが見える「双眼鏡を覗いているような感覚」はある。これは,左目であれば右方向の視界が,右目であれば左方向の視界が狭いときに生じる現象だ。左右の目それぞれで,視界の重なり合うオーバーラップ領域が少ないと感じやすい。双眼鏡感の少ないHMDは,まだ少ない。とはいえ,Quest 3における視界中央の映像は,なかなか鮮明であった。

 色収差(色ずれ)の起きやすい視界の外周付近はどうだろう。かなりうまく色ずれを減らせているが,完璧ではない。視界の最外周付近には,ごくわずかにだが色ずれを感じる。とはいえ,初期のVR HMDにおける見え方と比べれば雲泥の差で,かなり色ずれを押さえ込めているとは思う。
 これは,競合他社の最新VR HMDと同じく,これから表示する映像に対して,接眼レンズが引き起こす色収差と逆方向の色ずれ加工を映像に施こすことで,実際に表示するときに,光学系で起きる色収差で色ずれを中和させる工夫を盛り込んでいると思われる。

画像集 No.032のサムネイル画像 / ついに発売となった「Meta Quest 3」徹底解説。液晶やレンズ,コントローラの秘密を明らかに[西川善司の3DGE]

ストラップの根元にあるスリットがスピーカーの開口部だ
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 サウンド機能についても触れておこう。
 Quest 3は,ゴーグル部分にマイクを,ストラップ部分にはステレオスピーカーを内蔵している。スピーカーは指向性の高いオープン型ユニットを使って鳴らす方式で,ユーザーはHMD側のサウンドを聞きながら,周囲の音も聞こえる。
 音量を上げると,かなり高い音圧のサウンドを聞くことができるようになった。Metaによれば,最大音量はQuest 2の4割増しとなったそうだ。なお,4極3.5mmミニピンのアナログヘッドセット端子も備えているので,市販のヘッドフォンやイヤフォンを使うこともできる。

リズムアクションゲーム「サンバDEアミーゴ:バーチャルパーティー」では,音量を上げると現実世界側の音が聞こえなくなるほどで,ゲームサウンドへの没入感が高い
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Assassin's Creed Nexus VR」は,屋内と屋外で音の残響感が異なっており,臨場感豊かなサウンド表現ができていた
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AR/MR性能は確実に向上。VR HMDとしては?


 そろそろまとめに入ろう
 Quest 3は,Metaが「一般消費者向けとして最高のXR HMD」とアピールするだけのことはあり,周囲の光景とCGを合成したパススルー映像の品質は高い。
 ただ,「周囲の壁がCG表現で破壊され,その向こうに現れた異空間から何かが出てくる」という演出を用いたMRゲームが多かったのは,気になるところである。たとえば,可愛らしいエイリアンが現実の光景に突入してくる「First Encounters」は,ゲームとして十分に楽しかったが,そのあとにプレイした「Stranger Things VR」も,ジャンルこそ違うが「周囲の壁がCG表現で破壊されて〜」というMR演出がほぼ同じで,ちょっとがっかりな気分になった。
 今後しばらくは似たような演出のAR/MRゲームが出続けるのだろうか……。

現実世界で組み上げたレゴブロックの上で,CGのレゴキャラクタを遊ばせたり,CGのレゴブロックを重ね合わせたりする「Lego Bricktales」のMR版イメージ
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CGお化けが,現実世界の家具の陰に隠れたりする「Ghostbusters: Rise of the Ghost Lord」のQuest 3版イメージ
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 冗談はさておき,せっかくQuest 3にはリアルタイムSLAM機能が備わっているのだから,ユーザーの周囲にある凹凸を効果的に活用した,新しい遊びを見せてほしかったとは思う。そうでないと,せっかくのQuest 3のXR性能がもったいない。今後に期待だ。

 それでは,Quest 3をVR HMDとして見た場合はどうか。間違いなく「順当に進化したVR HMD」と言えよう。Quest Proよりも価格は安いのに,映像表現力はQuest Pro以上だ。装着感もいい。これまでスタンドアロン型VR HMDが欲しかったが,および腰だった人には「お勧めですよ」と筆者も言い切れる。

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 2024年には,AppleがXR HMD「Vision Pro」を投入してくる。価格帯もターゲットユーザー層も違うので,Quest 3と直接比べるべきではない。だが,Metaによれば,Appleのいう「空間コンピューティング」体験は2024年にお披露めする予定とのこと。Vision Proが登場する頃には,Appleに負けないくらいの個性的なAR/MR体験が楽しめるコンテンツが,Quest 3にも登場していることを期待したい。

MetaのMeta Quest 3製品情報ページ

  • 関連タイトル:

    Meta Quest(旧称:Oculus Quest)

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