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[CEDEC 2020]「あつまれ どうぶつの森」は伝統を守りつつも革新に取り組んだ作品。シリーズのコンセプトが語られたセッションをレポート
伝統と革新の共存を目指して
第1部は「ゲームデザインの変遷」と題して,第1作からシリーズに関わっている野上 恒氏から語られた。「どうぶつの森」がどういうゲームなのかと言われたら,読者の皆さんは何を想像するだろうか。おそらく「かわいいどうぶつたちとのんびりきままに暮らすゲーム」「小さな女の子向けのゲーム」といったイメージがあると思う。
ところが「あつまれ どうぶつの森」ユーザーの性別と年齢のデータを見てみると,実は男女比が半々で,20代,30代のユーザーが多いことが分かる。これは同作の発売が3月であり,発売から1年が経っていないことから子供層が購入できていないことが要因かもしれないが,ひとまずイメージとは異なるユーザー層のゲームであることは分かってもらえるだろう。
また,「どうぶつの森」はジャンルを“コミュニケーション”としている。これに対して「どうぶつとコミュニケーションするゲームかな?」と思うだろう。もちろんそれが一面であることは間違いない。しかし,任天堂がこの言葉に込めた本当の意図は,プレイヤー同士で行われる“人と人とのコミュニケーション”であるそうだ。
実際,2001年の初代「どうぶつの森」のパッケージには,「ひとりより ふたり ふたりより よにん よにんより…た〜くさん。」と書かれている。最終的に人と人とのコミュニケーションに結び付くよう意識してゲームデザインされているのだ。
それであれば,どうぶつの役割は何なのだろうか。端的に言えば“人の代わり”なのだが,単に人の代わりに話し相手になってくれるという意味ではない。
「どうぶつの森」の機能的な特徴の1つは,複数のプレイヤーでセーブデータを共有できることだ。村というセーブデータの中に複数のプレイヤーが入る。あるプレイヤーが花や木を植えたり,手紙を送ったりすると,次に遊ぶ同じ村のプレイヤーが,それを目にしたり,時には利用したりする。つまりは,時間差でプレイして複数人が結果を共有する,非同期コミュニケーションのゲームと言える。
その中で村に住んでいるどうぶつたちは,それぞれがプレイヤー1人ひとりに対しての記憶を持っている。プレイヤーが話しかけると,名前や話した日付,場所を記憶する。最初に話しかけると「はじめまして」,次に会うと「また会ったね」と挨拶が変わったり,「あいつは釣りばっかりしている」という噂話をするようになったりといった具合だ。そして,その噂はほかのプレイヤーに伝わることもある。
こうした動物が持つ記憶は,1つの村だけではとどまらない。NINTENDO 64ならコントローラパック,ニンテンドー ゲームキューブならメモリーカードという,物理メディアを用いてプレイヤーが村を移動するからだ。プレイヤーがよその村に行けば,そちらのどうぶつに自分の情報が伝わる。
さらに,よその村に出かける時,こっそりどうぶつがついてきて,お出かけ先に引っ越すことがある。その際,どうぶつは元の村の記憶を引き継いでいるので,やはりよその村で自分の情報を伝えることになる。
プレイヤーや動物が行き来することで,概念的に2つのセーブデータが1つにつながっていく。どうぶつの記憶や,やり取りした村の資産が共有されていく。このつながりが広がれば広がるほど,多くのプレイヤーと関わることになる。つまり,「どうぶつの森」はおかしな言い方かもしれないが「インターネットを使わないオンラインゲーム」としてデザインされているのだ。
もちろん,今の時代の「どうぶつの森」はインターネットを使っているが,基本構造は変わっていないと野上氏は語る。
このデザインにより「どうぶつの森」ならではのアイデンティティが生まれる。非同期であるために自分のペースでコミュニケーションが取れ,好きなことをしているうちに,自然と情報が蓄積・共有される仕組みはその1つ。進み方はゆっくりしたものであり,現実の時間に合わせて変化していくため,「そこに居たくなる」空間が出来上がっていくのだ。
また,さまざまな遊びの要素が散りばめられているが,これはプレイヤーの個性がよりセーブデータに反映されやすくするためのデザインで,これらのアイデンティティは最新作になっても変わらない部分となっている。
これらをまとめると,つまりは「かわいいどうぶつたちとのんびりきままに暮らすゲーム」という,最初のイメージに戻ってしまうのだが,これは人と人とのコミュニケーションを達成するために必要な要素を積み上げていった結果だということが分かる。
ニンテンドー3DS以降での新しさの導入が成功し,多くのプレイヤーに遊んでもらえた結果,最新作である「あつまれ どうぶつの森」でも,成長を続けるために変化し続ける覚悟で開発に取り組んだという。同作のディレクターである京極あや氏によると,「コミュニケーションの種を時代に合わせて蒔き直す」ことを方針としつつ,さらなるユーザー層の拡大を目指し,間口を広げられる導入・体験作りを意識したそうだ。
では,どのようにして間口を広げる取り組みを行ったのか。テーマとして,「フェーズで変化する目標&達成ポイント」「垂直ではく,水平方向の進化」「目標設定のサポート」の3つが掲げられた。
まずは「フェーズで変化する目標&達成ポイント」について。「どうぶつの森」は生活をするという終わりのない遊びでゲームクリアという概念がない。そのため,プレイヤーがゲームから離れるときは目標を見失ったり,飽きを感じたりしたときだ。
いつか離れてしまうとしても,それまでにゲームを楽しんだ体験を,より良い思い出として残してもらいたい。そうした思いでこのテーマに取り組んだという。
具体的な施策としては,無人島生活からの島おこしの要素を取り入れた。これは過去作の「村長」と同様,新要素を一言で表すコンセプトとなっている。
また,無人島生活を送るうちに島が発展していき,途中から本格的に島おこしを始め,シリーズおなじみのとたけけのライブを開催するという,中期的な目標を設けた。とたけけが来るまでの間は,ある程度ストーリーに沿った体験をして,とたけけが来たら達成感を得られる。その後は完全に自由な本来の「どうぶつの森」の遊びが楽しめるという。いわば2部構成的な作りが導入された。
続いては「垂直ではく,水平方向の進化」だ。垂直進化というのは,プレイ時間の経過で得られる体験が増えていく作りのこと。それに対して水平進化はある要素から体験の幅が広がる作りのことだ。
「どうぶつの森」シリーズのファンにとっては,村で生活する遊びが当たり前になっており,その暮らしの中で新しさを感じるのは難しい。かといって新要素を垂直進化で入れて,あとで解禁されるようにしても,結局そこまでの道のりで既視感を感じてしまう。そこで水平方向での進化を取り入れ,遊びの幅を広げたのである。
そして3つめが「目標設定のサポート」である。「どうぶつの森」には明確に提示された目標がない。たぬきちになかば強引に背負わされた住宅ローンを返済する展開(念のために言っておくと,筆者による悪口ではなく,京極氏の説明だ)はあるが,家を増築したいのでなければ,返済しなくても大丈夫である。差し押さえにあったり,家を追い出されたりすることはない。「どうぶつの森」においては,やりたいことや目標を見つけて,それに向かって日々取り組むのが楽しみ方だ。
一方で,目標を見つけるといってもどんな選択肢があるのか分からない,そもそも目標を見つけるというセオリーに気付いてもらえないというのが,シリーズの課題でもあった。
そこで無人島だからと野放しにするのではなく,パッケージプランとして暮らしをサポートする「たぬきマイレージ」という要素を取り入れた。これにより暮らし方が確立できていないプレイヤーにも,遊び方に気付いてもらえる。シリーズに慣れている人でもあまりしてこなかった遊び方に気付くきっかけにもなることを目指したという。
これらのテーマを取り入れた結果,ゲームシーケンスは過去作と大きく変わった。過去作では,実質数時間程度で進行する最低限の導入シーケンスが終わると,通常の暮らしが始まっていた。導入の最後にたぬきちから住宅ローンの支払いを要求され,返済生活が始まる。そこに,ゲーム進行に応じて新要素が追加されていくという流れだ。
それと比較すると「あつまれ どうぶつの森」では,導入のボリュームが大きくなった。導入部分の中でも,いろいろな新要素が解禁されていき,遊び方が覚えられる。とたけけライブが終わって生活が始まると,上級者向けの要素が解禁され,さらに自由気ままに楽しめるのだ。
このゲームシーケンスは本セッションのテーマでもある,「伝統と革新の共存」を目指したものになっている。導入部分は無人島生活という新しいコンセプトと島の開拓を目標に,さまざまな体験をして暮らし方を学ぶという,これまでのシリーズになかった革新の体験だ。そして,島が発展してからはこれまでに学んだ暮らし方のヒントを元に,プレイヤーが好きな目標に向かって自由にプレイする,伝統的な遊び方となるのである。
変化なくして持続させることはできない
第2部では,「どうぶつの森」シリーズにおける「開発体制の変遷」が紹介された。2001年にNINTENDO64で発売された初代「どうぶつの森」から19年経過しているが,開発体制は作品ごとに変化を遂げている。
以上が「どうぶつの森」シリーズの開発体制の変遷だが,プレイヤーにとって,どのような体制で作られているかは正直なところどうでもいい話だろう。プレイヤーはそのゲームが面白いかどうかを気にしているのだから。
では,プレイヤーを飽きさせないシリーズをどのように作っていくか。重要なのはどのような組織であっても,シリーズらしさという核を継承しつつ,過去作とは異なるものを作るバランスだと京極氏は説明する。また,これがシリーズ開発の醍醐味ではあるが,もっとも難しい点でもあるという。
続いて京極氏は,これまでのシリーズで,人,組織,アウトプットが変化する中,「どうぶつの森」シリーズの開発で得た知見を挙げていった。
本セッションのテーマは,伝統を守りながら革新に取り組み,持続的成長に挑戦し続けるということだが,「どうぶつの森」開発チームがこれまでの取り組みの中で実感していることを一言で表すと,「変化なくして持続させることはできない」という言葉に収束するという。
IPを守ることと,商品仕様をマニュアル化して守ることは同義ではない。ゲームは娯楽なのだから,同じものを作り続けては必ず飽きられる。シリーズがIPとして存在し続け,多くの人に長きにわたって楽しんでもらうためにも,その時代に応じた変化に挑戦し続けることが大事なのだ。
開発者,チーム,商品開発の3つにおいて共通しているのは,「俯瞰した視点での相互理解」「部分最適に陥らず全体最適を心がける」ことの重要性であると京極氏はまとめ,本講演を締めくくった。
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