連載
SEGA AGES企画 第3回:“レース”ではなく“ドライブ”ゲームであること。時代を追い越す「アウトラン」の魅力
セガの名作を現代に蘇らせるブランド「SEGA AGES(セガエイジス)」シリーズ。Switch向けのプロジェクトでは,全19タイトルのラインナップが予定されている(18タイトルが配信中)。
今回,4Gamerでは“セガっ子”なライター陣に「心に残るゲーム」について,その思いを綴ってもらった。第3回は本地健太郎氏が選ぶ「アウトラン」だ。
「アウトラン」は,真っ赤なオープンカーの助手席に金髪の美女を乗せ,美しく雄大な景色を眺めながら疾走するドライブゲームだ。1986年にアーケードで登場して以降,さまざまなハードに移植され,今なお,根強いファンが多い。
ファンが多い作品だからこそ,最初に触れておきたいのが,筆者はセガハードに本格的に触れ始めたのがセガサターン以降で,ほかのセガっ子ライターたちに比べれば,新参者もいいところだということ。冒頭の文で“セガっ子”と紹介されているが,正直,とんでもない。
それゆえ,メガドライブ以前のセガの“濃い”ゲームに関する話題になると,「自分なんかが何かを語っていいのだろうか……」と,アウェイ感を覚えることがある。
「アウトラン」にしても,濃いファンであれば当然アーケード版から入り,メガドライブ版の完成度を喜び……といった話から,徐々にアクセルを吹かしていく。同じ時代を生きた同志たちの熱い話は,“セガ道”とも言うべき走行車線を走り,次第に追越車線へと加速していくことだろう。
若い世代に聞いてみたいのだが,レトロゲームに対して,ある種の“壁”を感じている人はいないだろうか。興味はあるのに難度の高さで阻まれる。リアルタイムで体験していないことに対する謎の後ろめたさ。世代が違う作品への今からでは縮められない距離感。どうしようもないことなのに,どうにも消えない悔しさ。とても好きなのに,自分の「好き」では絶対に到達できないゾーンがあることへのもどかしさ。
だが,好きなゲームを語るのに,「遅すぎた出会い」というものはないと思う。こんな話をするのも,筆者にとっての「アウトラン」は,まさに「自分より上の世代のゲーム」であり,好きになればなるほど,その壁を少なからず実感したらからだ。
そして,そうした壁を切り崩す一助になり得ると感じたのが,ニンテンドー3DS向けに配信された「3D アウトラン」(「セガ3D復刻アーカイブス」の収録タイトルでもある)であり,Nintendo Switchの「SEGA AGES アウトラン」だった。
「SEGA AGES アウトラン」公式サイト
経験者と初心者を最終的に昔の難度へと導く,優しいタイムマシン
昔のゲームは基本的に難しい。とくに「元がアーケードのゲームである」場合,1コインで長時間粘られては商売にならないため,難度は高めになっていることが多い。
「アウトラン」の難度は,同時代のアーケードゲームほどではないかもしれないが,初見で誰でもクリアできるかと言われると,答えは「NO」。スピードを抑えて慎重に走りすぎるとタイムアップになってしまうし,スピードを出しすぎると急なカーブに対応できなくてクラッシュしてしまう。敵車という存在も厄介だ。コースを把握することが出発点で,どこでスピードを出して,どこで減速するかを体に覚えさせるには,それなりのプレイ回数が必要になる。
セガサターン版の最低難度「EXTRA EASY」であっても,2〜3回もクラッシュすれば途中でタイムアップになってしまう。なかなかシビアだ。最初は全然クリアできなかった。当時クリアできていた人でも,今となっては目や操作が追いつかないということになっているかもしれない。それくらい難しいので,初心者は「クリアするまでリトライし続けてやる!」という気概を持った人でなければ,途中で離れていっただろう。やはり「難しくてクリアできない」のは,ゲームを途中であきらめてしまう要因になる。
この問題をうまく解決したのが,ニンテンドー3DSの「3D アウトラン」だった。コースを1つクリアするたびに,それ以前の「アウトラン」にはなかった“チューンナップ機能”が開放されるのだ。
チューンナップ機能は全部で4つあり,それぞれ「カーブが曲がりやすくなる」「他車との接触後やコースアウト後の復帰が早くなる」「最高速度アップ」「路肩に突っ込んでもスピードが落ちない」といったものだ。これらの機能は任意でオン/オフを選ぶことが可能。そして,「3D アウトラン」がベースになっている「SEGA AGES アウトラン」にも引き継がれている。
さらに,5つのゴールをすべて達成すると,当時のアーケードを忠実に再現した「アーケードモード」が開放。このモードではチューンナップ機能が使用できない。
ゲームをラクにする機能の開放条件が「コースをクリア」である。「矛盾してない?」と思われるかもしれないが,その点は大丈夫だ。オプションで「難易度」と「時間制限」を5段階から調節できるので,最も易しい設定にすれば,かなりクリアしやすくなる。
また,コースの分岐路では「左」のコースのほうがカンタンになっているので,まずはひたすら左を選ぶといい。チューンナップ機能の開放と共に,徐々に「右」のコースに挑んでみよう。
チューンナップ機能は任意でオン/オフが選べるので,最初のうちはフルに活用して「慣れる」ことに専念し,自信がついてきたら徐々に機能をオフにしていく。そして,最終的にはチューンナップ機能が使えないアーケードモードの,デフォルトの難度をクリアすることを目指してみようかな……と思わせる作りになっている。ただカンタンにして終わりではなく,「ちょっとずつうまくなろうぜ」と励まされているようでもあり,チューンナップ機能の存在に感動を覚えたものだ。
過去の名作を復刻する企画は珍しいものではないが,単純に「今のゲーム機で遊べるようにしました」という,中身は“昔のまま”であることが少なくない。復刻はもちろん嬉しいが,やはり昔のゲームは難しいので,「懐かしいけど,今やるとキツいなー」で終わってしまいがちだ。隅々まで味わいたいと思っているのに,そこまで辿りつけないもどかしさがあった。
「3D アウトラン」や「SEGA AGES アウトラン」は,いきなり昔の難度を遊ばせて「クリアできないなら,できるようになるまで頑張れ。それがイヤなら,このゲームは君に向いていない」とハネつけるのではなく,できる限りのサポートをしてくれる。
SEGA AGESシリーズは過去の名作を復刻する取り組みではあるが,決して当時を知る人だけに向けたものではない。「熱烈な昔からのファン」を満足させるマニアックなこだわり,「当時はハマッていたものの,今はもう腕前が落ちてしまった人」へのサポート,そして「新たに興味を持った人」が早々に脱落しないための配慮も感じられる。まさに“復刻のお手本”を見た思いだ。
限られた色で描かれる異国の景色と「Magical Sound Shower」の衝撃
冒頭でも触れたが,筆者が初めて「アウトラン」に触れたのはセガサターン版である。当時は音も映像も「アウトラン」より遥かに進んだゲームが生まれていたが,それでも「アウトラン」のどこに惹かれたかと言えば,奇しくも“音”と“映像”だった。
「アウトラン」のスタート地点は,いかにも南国といった雰囲気で沿道にヤシの木が生えたハイウェイだ。真っ赤なオープンカーの助手席に金髪の女性を乗せて,プレイヤーは颯爽と走り出す。1980年代の日本人が憧れた,理想のアメリカンドライブ像だ。
夏の西海岸を思わせる景色から,色とりどりの花畑,ヨーロッパ風の街並み,果ては砂漠まで,バラエティ豊かな景色が色鮮やかなドット絵で描かれていく。坂の勾配に応じたアップダウン,沿道にある立て看板や岩の高速スクロールによる猛烈なスピード感は,今見ても迫力に満ちている。
当時の制約の中で全力を尽くしたと思われるそのグラフィックスは,セガサターンの時代であろうと魅力的であることに変わりはなく,ドット絵が大好きだった筆者はその描き込みと,次々と変化していく風景に魅了された。
言うまでもなく,現実の景色の美しさは,その色彩の豊かさにある。おそらく,現代の最先端のグラフィックスを駆使しても,現実の美しさは超えられないだろう。
しかし,「アウトラン」のように色数が極端に限られた世界には,現実の景色より美しく感じる瞬間がある。この美しさはきっと,山下達郎さんのCDジャケットなどで知られる,鈴木英人氏の描く世界に通じている。色数が少ないことをメリットに転化しているかのような,制約の美とでも言うべき何か。それが確かにあった。
“音”も魅力的だ。「アウトラン」の代名詞と言っていい名曲「Magical Sound Shower」は,ドライブゲームのBGMとしては珍しく,ラテン系の比較的ゆっくりとしたテンポの曲だ。スタート地点の南国っぽい雰囲気に合っていて,ドライブゲームにはノリノリで激しい曲が多い中,非常に新鮮だった。
「Magical Sound Shower」は出だしこそゆったりしているが,徐々にドラマティックな曲調へと展開していく。当然,使われている音の数は多くない。しかし,実際に聴こえる音よりも,遥かに多くの音が耳に届いていた。音の数がもっと使えたなら,きっとこんな感じの伴奏をつけたかったのではないか……と想像力が働き,「この曲が表現したかったこと」が伝わってくるのだ。
ここで,筆者の「SEGA AGES アウトラン」の遊び方を紹介しておきたい。
仕事柄,ディスプレイを2台並べ,一方にゲームの映像を出力し,もう一方にPCを接続している。ゲームの映像をPC上にも出力して画面写真を撮影できるようにしているが,こちらは遅延が発生することがあり,ゲームプレイでは直接出力しているディスプレイを見るというわけだ。
このとき,ゲームの音声はPC上に出力されたほうを聞いている(よく分からないが,なぜか音は遅延しない)。PCにイヤホンをつなぐだけでいいので,ラクだからだ。ただ,「SEGA AGES アウトラン」はオプション画面でBGMのボリュームだけをオフにできるので,PC上で好きな曲をBGMとして流しながら「アウトラン」が遊べるのだ。
「アウトラン」の楽曲群はもちろん素晴らしいが,何十回,何百回と走り続けていると,「アウトラン」に合う曲を探すのも面白い。先に挙げた山下達郎さんのアルバム「COME ALONG」はもちろん合う。「君は1000%」「鏡の中のアクトレス」「誰よりもLady Jane」「SUMMER SUSPICION」といった1980年代の名曲も,ことごとく雰囲気にフィットする(筆者の趣味も多分に入っているが)。
1980年代のヒット曲には叙情的なメロディーラインが多かったと感じているが,「アウトラン」はその雰囲気を持っている。今の言葉だと「エモい」になるのだろうか。ゲーム中に会話や説明はほぼないが,運転手の彼と助手席の彼女の後ろ姿からは,何か,物語が伝わってくる。BGMが2人の物語をさりげなく盛り上げているように思えるのだ。
真っ赤なオープンカーを走らせて,さまざまな場所を駆け抜ける2人。仲の良い2人かもしれないし,「このドライブが終わったとき,私たちの関係も終わるのね……」な状態かもしれない。しかし,コースをクリアしたとき,ゴール地点で描かれる2人の姿は毎回どこかコミカルで,「きっと,この2人はまた仲良くどこかを走るんじゃないかな」と感じさせる。このコースクリア後の演出も含めて,筆者は「アウトラン」が好きだ。
“ドライブ”の普遍的な楽しさがつなぐ,昔と今
「アウトラン」が伝える,永遠に変わらないその魅力
「SEGA AGES アウトラン」は難度の高さという“壁”を越えさせてくれたが,筆者と「アウトラン」の間には,もう1つ壁があった。それは“ギアガチャ”だ。
アーケード版の筐体にはシフトレバーが付いていて,それを使ってギアチェンジを行う。当時,ギアチェンジの動作を利用して路肩でもスピードを落とさずに走るという“裏技”が発見され,アーケードでは“ギアガチャ”によるショートカットが行われていたそうだ。残念ながら,筆者はこのムーブメントを体験していない。
ギアガチャはコンシューマ版でも可能だが,実際にレバーを動かすのではなく,ボタンによるギアチェンジだ。アーケードの場合,レバーが傷むだろうから,ギアガチャを禁止するゲーセンがあったかもしれない。そんな想像はできるが,やはり,その当時の熱狂の中にいなければ理解できない体験,出てこない感想というものがある。あとから取り戻せるものではないので,それを非常に悔しく感じたのだ。
しかし「SEGA AGES アウトラン」には,オンライン対応のスコアランキングとリプレイ再生機能がある。日本全国のスーパープレイをコースごとに見られるのだ。アーケードの熱狂をリアルタイムで体験できなかったが,当時のゲーセンを賑わせたであろう走りを高画質で繰り返し楽しめる。これは現代のメリットであり,後続の旨味でもある。喜んでこれを享受したいと思う。
実はギアガチャ,結構難しい技である。狙いどおりに出せるようになるには,相応の練習が必要だ。敵車に邪魔されることもあり,運の要素も絡む。コースの後半ともなると,ギアガチャの練習をするにもポイントに行くまでが大変だし,ショートカットのチャンスも限られる。当時のプレイヤーは何度もコースに挑み,その腕を磨いたのだろう。
しかし,「3D アウトラン」や「SEGA AGES アウトラン」では任意の箇所でセーブデータを保存すること(「途中セーブ」)ができ,「路肩を走ってもスピードが落ちない」機能がある。これらを活用すれば,さまざまなコースのショートカットポイントを容易に模索することができる。さらに最低難度だと敵車が出なくなるので,納得がいくまで何度でも練習できる。そう,可能な限りの“壁”は取り除かれたのだ。
ギアガチャ技を練習したり,ショートカットのルートを勉強したりしてスコアを伸ばす。それも「アウトラン」の楽しみ方の1つだ。
ただ,これから始める人はまず,ドライブを楽しんでみてほしい。壁はもうなくなった。おそらく誰もが,あらゆるコースの景色を堪能しながらゴールに辿り着けるはずだ。
ドライブの楽しさとは,車の運転そのもの,流れる風景によって目を楽しませる視覚的な刺激,そして車内に流れるBGMにあると思う。これは時代が変わっても,本質的には変わることがないだろう。
「アウトラン」は1980年代のドライブという普遍的な魅力を,制約の美によってゲームに封じ込めたタイムカプセルであり,それを開けて楽しむ権利は誰にもある。「アウトラン」を遊んだことがあるけどやり込んでいないという人にも,新たに興味を持った人にも,どんどんプレイしてみてほしい。
30年以上前のゲームだからといって,若い世代が謎の壁を感じる必要はない。「SEGA AGES アウトラン」が初めての「アウトラン」です! そこに何の問題もない。アーケードからのファンがいて,それから10年ほど遅れて筆者が魅了され,さらに約20年が経って今に至る。きっと,このあとに続く人も多いはずだ。
かつて楽しんだ人も,これから知る人も,等しくドライブを楽しめる。「SEGA AGES アウトラン」は,そんなゲームである。
「SEGA AGES」は逆から読んでも「SEGA AGES」である。“時代”を意味するAGESに加え,鏡合わせになったような現代と過去,2つのSEGAをつなぐという意味も込められているような気がする。
英語の「Outrun(OutRun)」は“追い越す”という意味である。敵車を華麗に追い越していくドライブゲームにはピッタリのネーミングだ。
時の流れは我々の日々を過去にしていくが,「アウトラン」は当時と変わらぬ姿のまま,今日も時速293kmで我々の思い出に追いつき,追い越していく。ついさっきもランキング1位のリプレイを見たところ,さっそく思い出が更新されてしまった。
「アウトラン」が最も熱いのは,もしかすると──今,なのかもしれない。
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