インタビュー
「信長の野望・大志 with パワーアップキット」,小山宏行氏にTGS 2018会場でインタビュー。AIの思考判断や新要素について聞いてきた
本稿ではそのデモをじっくり眺めた筆者が感じた疑問や,信長の野望・大志 with パワーアップキット(以下,パワーアップキット)について詳しく知りたいポイントをプロデューサーの小山宏行氏に聞いてきたので,まとめてお届けしていく。
「信長の野望・大志 with パワーアップキット」公式サイト
AIはプレイヤーと同一の視点で行動を判断
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。
デモを拝見しました。少し言葉は悪いですが,「なかなか玄人受けするタイプのデモだな」と感じました。
小山宏行氏:
東京ゲームショウ2018で公開したデモは,「AIの思考が見える」ことに重点を置いたものとなっています。
ただ,ゲーム中にAIが判断していることは膨大な量にのぼり,内政,外交,軍勢の移動,武将の配属などなど……,これらすべてを見せるとなると,表示ログが大変なことになってしまいます。
また,その時点で存続している大名家すべての思考ログを表示しても,あっという間にログが流れてしまいます。
4Gamer:
10の大名家が何か1つ判断した要素を同時に表示しただけでも10行のログになるわけですし,間違いなく大変なことになりますね。
小山氏:
そういう事情もありまして,表示する勢力は最大で5勢力に絞り込みました。また,AIの判断ログはファンの方がとくに興味を持つであろう,攻略・外交・調略の3つの要素に限定しました。
ですので今回のデモは「すべて丸見えにしているわけではない」とご理解ください。
4Gamer:
ゲーム画面にオーバーレイで表示するのは画期的で面白いと感じました。
小山氏:
実際のゲーム画面でも外交関係の結果は表示していますが,リアルタイムで思考を表示するということは今までやったことがありませんでした。それを表示してお見せするのも面白いかと思って今回は展示することにしました。
4Gamer:
AIの思考がリアルタイムで表示されるモードは,東京ゲームショウ2018だけの特別な展示モードになるのでしょうか。
小山氏:
現状ではそうなります。ただ,「普段のゲーム中も見られたらいいのに」という意見は頂いておりまして,検討はしたいと思っています。現状では「予定は未定」と申し上げるしかないですね。
4Gamer:
パワーアップキットでの大きな追加要素となる「大命」もデモバージョンでは表示されていました。
小山氏:
はい。大命は41個ありますが,まだ全部は公開していません。10月の早い段階に公開したいと思っています。大命には,例えば志の効果をすべて強化する「覇王の野望」であるとか,行軍速度や戦法ゲージの増加速度を上昇させる「風林火山」などさまざまなものがありますが,AIは現状の戦況を睨んで最も適切と思われる大命を発動する,という構造になっています。
4Gamer:
AIの思考表示を見ていると,「どこそこの地域の占領を目指して行軍開始」であるとか,「勝算ありと判断して宣戦」であるとかいった形で,わりと漠然とした開戦理由が表示されていますが,実際にはもっといろいろな判断が行われているのでしょうか。
小山氏:
そうですね。あの表示はどちらかというと雰囲気を伝えることを優先したものであって,AIの行動が合理的かどうかをチェックするためのログを表示しているわけではありません。「AIがズルして行動を決めているわけではない」という部分を理解してもらえると嬉しいですね。
4Gamer:
これは今回「AIの思考が表示される」と聞いたときに,ぜひとも伺っておきたいと思ったことなのですが,「大志」のAIが意思決定を行うにあたって参照しているデータは,同じ立場に立ったプレイヤーが参照できるものと同一なのでしょうか。AIは実は内部データを見ていて,敵対する大名の軍勢が全部で何人いるのかを正確に把握しているとか,そういうことはないですよね?
小山氏:
そういうズルはしていません(笑)。ご指摘のとおり,AIはプレイヤーが見ているものと同じものを見て判断していますし,そういう意味ではプレイヤーと対等な条件で判断しています。パワーアップキットでは合戦で事前に罠を設置できたりしますが,その罠の位置をAIが読み取って,絶対に罠にかからないように移動する――といったことは起こりません。
4Gamer:
つまりAIが罠にかかったときは,ちゃんとプレイヤーが考えた計画に「ハマった」ことになるわけですね。
小山氏:
そうなります。また,パワーアップキットの調略においては,敵対する大名の家臣を前もって調略しておいて,決戦の場で内応させるといったこともできるようになっていますが,これについてもAIは「この部下は内応する条件が整っている」ことを参照して行動するのではありません。部下の忠誠心を参照して,「こいつはもしかしたら寝返るかも」といったアバウトな判断をするわけです。
4Gamer:
プレイヤーの配下にいる武将にベストタイミングで裏切られたときは,「AIにしてやられた」ということになるわけですね。
小山氏:
ただ,「信長の野望」は情報量が膨大なゲームで,かつAIはコンピューターの力を存分に発揮してその膨大な情報を的確に分析することができますから,そういう点においては平等ではないかもしれません。ただし,判断の基準となる情報がAIと人間で不均衡になることはないので,その点は安心してください。
プレイヤーがよりアクティブな判断をする局面が増大
4Gamer:
順番が逆になってしまった感がありますが,「パワーアップキットでここが変わる」「ここが拡張される」というところを教えてください。
小山氏:
まず最初に伝えたいことになりますが,今回のパワーアップキットは「見た目に大きくゲームを変えるわけではない」ということです。もちろん細かなUIの改善をはじめ,実際にはいろいろ手を加えているのですが,ゲームのパッと見の印象はそんなに変わらないとすら言えるかもしれません。それでも実際にプレイしてみると,プレイフィールはかなり変化しているのがすぐに体感できるかと思います。
4Gamer:
特に変更された部分はどこになるのでしょうか。
小山氏:
やはり「大命」でしょうか。「大志」では大名ごとに設定された「志」が大きなポイントとなっていますが,「志」による具体的な効果は「志特性と方策が志に紐づく」という形になっていました。これによって勢力ごとの個性が発揮されているわけですが,一方でこれらはいわばパッシブな効果なんです。
4Gamer:
条件を満たしたら,効果が永続するタイプの能力ですね。
小山氏:
これに対してパワーアップキットではリソースを使ってアクティブに発動させる「大命」を追加しました。これもまた「志」に紐づく能力ですが,「ここぞ」というところでプレイヤーが狙って発動させるタイプの能力になります。「大命」は,これまでの「静」の能力に対し,「動」の能力となって,各勢力の個性をさらに引き出すものとなっています。
4Gamer:
リソースを使うとのことですが,具体的には何を消費するのでしょうか。
小山氏:
「大命」と「方策」は評定において得られる施策力を共通のリソースとします。「方策」はこれまで通り,その勢力の基礎体力となるものです。なので「方策」に対する投資はしっかりやっておかないと,国は立ち行きません。ただし,「大命」の能力は瞬発力がありますから,敵国が「大命」を使って攻め込んできたとなると,こちらからも「大命」を使って押し返すといった駆け引きが必要になってきます。
4Gamer:
ありったけの施策力を「方策」に投下してしまうと,急場で困ることになるわけですね。
小山氏:
はい。とはいえ「大命」ばかりに頼っていると基礎力の差が開いていってしまいます。なので「これが正解」というやり方があるわけではありませんが,基本は「方策」を行いつつ,いざというときに「大命」を使えるようにある程度まで施策力をキープする――といったプレイが必要になるかと思います。
4Gamer:
AIも「大命」のために施策力をある程度まで温存しながらプレイするのでしょうか。
小山氏:
そうですね。結果的に,いままであまり戦乱に巻き込まれることなく,施策力に余裕を持たせることができた勢力に攻め込むと,想像以上に「大命」を使われて苦戦する,といったこともあり得るかと思います。また「大命」には特定勢力専用のものもあります。なかには本願寺の一向一揆のように,敵に回すと面倒な「大命」もありますし,毛利のように調略を有利にする「大命」もあります。ですので,どの大名といつ戦うか,あるいは敵対する大名によって特に何を注意すべきかという点は,より状況を吟味した上での判断が必要になってくると思います。
4Gamer:
「方策」自体には何か変更点はありますか。
小山氏:
「方策」ツリーが「志」に紐付いている点は同じですが,取れる方策や配置などは変更しました。それから,従来は「方策」ツリーがどのように伸びていくかは伏せられていましたが,パワーアップキットではツリーの全体像が最初から見える形になっています。ですので「方策」を実行する方向性は前もって決めやすくなりますし,そういうレベルでの戦略はより立てやすくなるかと思います。それと,これはユーザーからのご意見が強かったところですが,パワーアップキットでは災害対策となる「方策」が,すべての方策図に入っています。
調略の楽しさと裏腹の忠誠心管理は,どれくらい簡単?
4Gamer:
先程から「調略」という言葉が何度か出ていますが,これについても聞かせてください。
小山氏:
調略は段階的に行うのですが,特定の勢力に対して調略を仕掛けていくと,家臣の誰が内応しそうかが分かってきます。そうなったら今度はターゲットにした武将にお金や地位で密約の交渉を行い,成功すればその武将を調略できる,という仕組みになっています。また,調略した相手は決戦中など効果的なタイミングで味方に引き込むこともできます。
4Gamer:
それはどうやって行うのでしょうか。
小山氏:
調略に成功した場合,その場で引き抜かず,「内応したまま元の大名家に仕え続けてもらう」ことができます。この状態になると,施策力を提供してくれたり,ときには寝返りそうな武将を紹介してくれたりもします。そしていざ決戦ということになれば,決定的なタイミングで寝返ってもらうこともできるわけです。
4Gamer:
素晴らしいですね!
小山氏:
ただ,だからといってあまりにも長期間,元の大名家に「潜った」状態を維持し続けると,「この話はなかったことに」と手のひらを返されてしまうこともあります。このあたりは注意が必要ですね。
4Gamer:
今からいろいろと楽しみな要素ですが,一方で調略が強力な効果を発揮するとなると,今度は配下武将の忠誠心管理が面倒になるかもという心配をしてしまうのですが,これについてはいかがでしょうか。
小山氏:
忠誠心の管理は間違いなく重要さを増しています。ですが,管理自体は決して面倒にならないように作っています。具体的に言いますと,忠誠心は青・黄・赤の色で管理されるようになっています。青は調略対象外,黄色はやや怪しく,赤は危険な状態です。なので忠誠心が赤を示している武将に対しては早めに対処する,といった形で対応可能です。
また「恩賞」という,城を1つ落とすごとに「感状」を与えられるコマンドを増やしています。家宝を与える以外にも,感状を与えることで忠誠心を上昇させられますので,城を落とせば落とすほど忠誠心は上げやすくなっています。
4Gamer:
なるほど。
小山氏:
それともうひとつ,これは調略とはまた違う方向性の話なのですが,外交面でも大きな変化があります。パワーアップキットでは,ある大名家の勢力が突出すると,その大名家に対する「包囲網」を形成するように外交関係が動きます。史実で言えば信長に対する包囲網が形成されたのと同様ですね。ですので外交においても,プレイヤーが考え,判断すべきことは増えています。
決戦はよりRTS的な要素が増大
4Gamer:
デモを見ていると攻城戦の画面になることもあったのですが,これはどのようなシステムになっているのでしょうか。
小山氏:
まず大事なことですが,攻城戦はリアルタイム進行になっています。攻城戦が進行している間,ゲームが止まったりはしません。
4Gamer:
あくまでも「マップ上で自軍が敵の城を囲んだ」状態が,より詳しく描写されているというわけですね。
小山氏:
その通りです。なので攻城戦の状況はマップから城にズームインするだけで確認できますし,ズームアウトすれば普段どおりの画面になります。決して「攻城戦が始まったら,その様子を張り付いて見守って,細かく指示を出して城を落とす」というものではないわけです。とはいえ,強固な城ですと罠が設置されていたりもするので,ときどきチェックしたほうがいいのは間違いありませし,張り付きたいケースもあるとは思います。
4Gamer:
攻城戦によって城を強化する楽しみも増えそうですね。
小山氏:
城の改修を進めると,城は強固になっていきます。守りを備えることの重要性は,パワーアップキットでより上がっていますね。とはいえ城を攻める側にも「土竜」や「大筒」などいろいろな攻城手段がありますので,そこもまた楽しんでいただけるのではないかと思います。
4Gamer:
城には種類があったりするのでしょうか。
小山氏:
大きく分けると山城と平城があります。一般的に言えば,山城のほうが少数でも守りやすいです。平城は攻めるルートが複数あるため,攻め込まれると守備側が兵力を分散する必要が出てきます。ただし,平城は改修による「伸びしろ」が高く設定されていますので,ゲームも後半に入って城の強化が進むと,平城でもかなり守りが固くなります。ちなみに攻城戦でも「調略」による内応は有効で,これによって防御側が一気に不利になることもあります。
4Gamer:
決戦関係では何か変更はありますか。
小山氏:
決戦もよりプレイヤーがアクティブに決断できる要素が増えています。まず「作戦」と「戦法」ですが,これらは決戦の最中,プレイヤーの望むタイミングで発動させられるようになりました。
4Gamer:
おお,それはかなり大きいですね。
小山氏:
それから,決戦が始まる前にできることが増えています。具体的に言いますと,「作戦」「罠」「軍施設」の3点については,軍議力ポイントを使用して,それぞれ設定できるようになっています。また,パッシブな効果も増えました。武将には「補佐」効果が設定され,その武将を副将として立てたときに,「補佐」の効果が得られます。ですので副将に誰を選ぶかというのも大事になってきますね。
4Gamer:
これはなかなか,決戦が忙しくなりそうですね。
小山氏:
RTS的な要素が増え,決戦に関わる情報量も増えています。ですが,決戦に関するさまざまな操作は選択的にAIに委任させられますので,「戦法を撃つタイミングだけ自分で判断する」といったプレイも可能です。また,決戦の進行としてフェイズ制を選択できますので,「じっくり考えながら戦いたい」というユーザーさんにも楽しんでいただけるかと思います。
あとは「決戦に入る前の段階で,部隊の集結ポイントを自分で設定できるようにしたい」というご要望にお応えして,その設定も可能となりました。
初心者はまず「AIに委任」で定石を把握しよう
4Gamer:
お話を伺っていると,ある程度までリアルタイムでゲームが進んでいくなか,プレイヤーが自分で決断して,実行しなくてはならない要素がかなり増えているように感じますが,初心者でもついていけるのでしょうか。
小山氏:
パワーアップキットでも委任は細かく設定できますので,「やることが多いな」と感じたり,やり方がよく分からない要素があれば,AIに委任するのが良いと思います。極端なことを言えば,何もかもをAIに委任して,自分は「良きに計らえ」とばかりに状況の推移を見ているだけ,ということも可能です。
4Gamer:
それはそれでストラテジーゲームにおいては非常に良い「チュートリアル」になりますね。自分も「いったい何をどうすればいいのか,見当がつかない」系の複雑なストラテジーゲームの場合,まずはコンピューターに自国をコントロールさせて,「初手では何をするのか」「内政の細かなバランスはどう設定するのか」といったところを観察することがあります。
小山氏:
「大志」では1か月ごとに「この月にはこんなことをして,こんなことが起きた」というログが出ますので,初心者の方はAIに委任して基本的なセオリーを学びつつ,ピンポイントで直接指揮するような形でゲームを進めると楽かなと思います。また,ゲームの難易度そのものも細かく設定可能です。金銭収入・兵糧収入・流民増加量・好戦度・施策力獲得量などが調整可能ですし,特に「AI好戦度」を下げればまったりと遊ぶことができると思います。
4Gamer:
ストラテジーゲームの場合,ユーザーのプレイスタイルには大きな差が出がちですし,そういった調整が可能なのは大変にありがたいですね。
小山氏:
ユーザーの好みは本当に多彩だと感じています。ですので,それぞれの好みに対し,対応できるところはなるべく対応してみました。自分の好きなプレイスタイルにあわせて,ゲームをカスタマイズしてみてほしいと思います。
4Gamer:
最後に発売を楽しみにしているファンにメッセージをお願いします。
小山氏:
パワーアップキットは,PC・PS4・Switchの全プラットフォームで,11月29日に同時にリリースとなります。軍略や政略面が強化され,歴史戦略ゲームとしてより楽しめるものになっていますので,ぜひ発売日を楽しみにしていてください。
4Gamer:
本日はありがとうございました。
「信長の野望・大志 with パワーアップキット」公式サイト
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