プレイレポート
「ソード・オブ・ガルガンチュア」は“VRの中のリアル”を作り出す。VR空間への没入感にこだわったVR剣戟アクションを体験&インタビュー
本作は,VR空間内でさまざな種類の近接武器や盾を用い,巨大で強大な敵“ガルガンチュア”に挑む“VR剣戟アクション”だ。5月16日から24日にかけて,グローバルオープンβが開催されていたので,すでに体験済みという人もいるかもしれない。
今回,SWORDS of GARGANTUAの発売に先駆け,本作をプレイし,開発を担当したよむネコの代表である新 清士氏のお話を伺うことができたので,その内容をお届けする。
※本稿に掲載しているスクリーンショットは開発中のものです。
「ソード・オブ・ガルガンチュア」公式サイト
頼れるのは両手の武具と己のみ。“剣戟”にこだわったゲームシステム
本作は前述の通り,さまざまな種類の武器が登場するのだが,そのすべてが“近接武器”となる。VRゲームというと,銃を使って物陰に隠れながら敵を撃つ,といったイメージが強い人もいると思うが,本作において遠距離武器などといった甘えた装備は存在しない。持っている武器を投げたり,消費タイプの小刀を投擲したりすることは可能だが,どちらも決定打になり得るものではないし,武器を手放す行為は死につながる。それほど「剣戟」というものにフォーカスされている作品なのだ。ちなみに,剣戟を主体としたマルチプレイゲームで,PC向けVRデバイスとスタンドアローンVRデバイスでのクロスプレイに対応しているソフトは,本作が世界初だという。
ゲームを開始すると,まずはチュートリアルが始まり……と思いきや,いきなりラスボスみたいな巨大な敵が登場し,為す術なく倒されてしまった。当然ながら負けイベントだったわけだが,いつかあのような敵と戦うと思うと,本当に勝てるのだろうか……とやや不安にならざるを得ない。
巨大ボス戦後には,今度こそちゃんとしたチュートリアルが始まった。ここでは「敵の攻撃をガード,もしくはパリィして攻撃」「回復アイテムの取り方」といった戦闘の基本や,「強力な攻撃はステップで回避」「ゲージを溜めて武器をエンチャント」のような,少し高度な技術など,このゲームでできることのほとんどを教えてくれる。
というより,そもそもこのゲームはできることがあまり多くない。これは悪いことではなく,“剣戟”での戦闘にフォーカスしている本作は,余計な動作を省き,武器と武器を打ち合わせ“しのぎを削る”ことに集中できる作りになっていると言っていい。
VRだからこそ得られる,武器を“握る”という感覚
チュートリアルをプレイして感じたのは,“武器を握って持つ”という感覚の強さだ。今回のプレイでは,Oculus Rift Sを使用したのだが,武器を持つ際には,ショルダーボタン(コントローラーを握った時,中指の位置にあるボタン)を押し続けることで手に持ち,離すと落とす,という仕様だった。この“武器を持つ際にしっかりと握り込む”という動作が,想像以上にリアルさを際立たせてくれていた。
筆者は今回の取材以前にも,少しだけ本作を触る機会があったのだが,その時はHTC Viveを使用しており,武器の装備はトグル(ボタンを押して,持つ/離すを切り替える)方式だった。コントローラーの構造上,HTC Viveはグリップボタン(Oculusでのショルダーにあたるボタン)をホールドしながらゲームすることが難しい(実際,トグル方式もViveユーザーからの強い要望で追加されたとのこと)。Viveユーザーは厳しいが,Oculusユーザーにはぜひホールド方式でのプレイをおすすめしたい。
武器を使うのはキャラクターではなく,あくまでプレイヤー
ステージを進めていくと,徐々に敵の種類が増え,大型の敵も登場するようになり,難度が上がっていく。しかし,このゲームにはキャラクターを成長させるような要素は無い。これは,ゲーム内のキャラクターと,プレイヤーとの身体的な乖離を,できるだけ無くしたいという考えのもとで作られているためだ。その代わり,特定のステージでは,条件を満たすことで新たな武器がアンロックされる。後半になるほど強力な武器が入手できるので,苦しいステージも多少は戦いやすくなるだろう。
防御・回避・攻撃の基本を覚えよう
本作において最も基本的かつ,重要な行動となる「敵の攻撃をしのいで反撃する」という動作だが,敵の攻撃をガードするには,相手の攻撃を遮るように装備を構えるだけで良い。ガードに成功すると,敵のスタミナを削り,少しの間敵が硬直する。その隙を突いて反撃をする,というわけだ。
さらに,敵の攻撃に合わせて,敵の武器にタイミングよく武器や盾を当てることで「パリィ」という相手の武器を弾く動作が行える。パリィはガードよりも敵のスタミナを削る量や硬直が増えているので,慣れてきたらこちらを狙うほうが良さそうだ。
ひとつ伝えておきたいのは,VRゲームにありがちな,武器を前に出して小刻みに振ってダメージを与える,といった小細工はこのゲームでは通用しない。しっかりと腕を振りかぶり,本当に武器を振るうかのように動かなければ,大きなダメージを与えることはできない。
また,このゲームは両手に装備を持つことができ,利き手の武器のダメージがアップするという特徴がある(利き手はオプションで変更可能)。利き手に攻撃用の武器,反対の手に盾,もしくは防御用の武器を装備するというのが基本になりそうだ。
序盤の中ボス的な存在となる「タンク」との戦闘も体験することができた。タンクのような特殊な敵たちは,通常の敵とは異なり,普通にガードするとこちらの体勢が崩れてしまう強力な攻撃をくり出す。ここで活きてくるのが,チュートリアルで習った「ステップ」だ。
ステップは,左コントローラーのトリガーを押しながら,頭を前後左右に動かすことで発動する高速移動で,強力な攻撃を避けたり,離れている敵との間合いを詰めたり,といった使い方ができる。とっさに発動させるには慣れが必要そうだったが,こちらもパリィと同じく本作における重要な要素となるだろう。
また,ボス戦に限らず常に注意しておきたいのは,装備の耐久度だ。本作の武器と盾には耐久度が存在し,使い続けているとだんだんヒビが入り,最終的には壊れてしまう。最初から所持している持ち込み武器の場合は,腰の位置にしまうことで耐久度を回復できるが,一度壊れてしまうと,直るまではそれなりに時間がかかる。一方,ステージに配置されている装備の場合は,壊れた状態で使用するか,他の装備を拾うしかない。
当然ながら壊れた状態では充分な性能が発揮されず,他の装備を探して拾うというのは大きな隙を生む。もし装備の耐久度が減っていると感じたら,自分の武器であればまめに回復させたり,新品の装備の近くに陣取ったり,といった立ち回りをすると,武器が無くてあたふたするといった場面が起こりづらいだろう。
強敵のタンクをかろうじて倒し,なんとか次のステージへ。しかし,その喜びもつかの間,開始早々に数体の敵に囲まれ,あっけなく負けてしまった。複数相手の戦闘は,たとえ1撃で倒せるザコ敵だとしても極めて不利な状況だ。高難度のステージでは,何度も挑戦し,敵を倒す順番やタイミングなどをしっかりと組み立てて挑むことが必要になるかもしれない。
VR空間に入り込んでしまうからこその難しさがあるマルチプレイ
本作は最大4人でのマルチプレイに対応している。今回はNPC3体とともに挑戦したが,プレイヤー同士ならばボイスチャットを使用した意思疎通も可能だ。
マルチプレイでは,次々押し寄せる敵から,マナプラントと呼ばれる建造物を防衛することが目標となる。基本的にはソロプレイと同じ感覚で戦闘することになるが,複数人でのプレイを前提としているので,やはり敵の数が多い。自分に向かってくる敵の相手をしていると,いつの間にかNPCが全滅しており,その蘇生に追われているうちにマナプラントが攻められ,あと1歩というところで防衛に失敗してしまった。
敗因にはNPCが弱いというのもあったかもしれないが,それに加え,VRならではの没入感により,周囲が見えなくなってしまうことが大きかった。VRでの視界の移動は自分の頭を動かさなければならないため,敵と対面していると,目の前にいる対象だけに集中しがちになってしまう。そういったことを避けるためにも,危険な時はボイスチャットで助けを求めるなど,通常のマルチプレイゲーム以上に協力をする必要がありそうだ。
Oculus Quest版にも“剣戟”は健在
先日発売されたスタンドアローン型(PC接続を必要とせず単体で動く)のVRデバイス,Oculus Quest版の体験もすることができた。結論から言うと,PC版との違いはそれほど無いと感じた。グラフィックスやエフェクトなどはOculus Quest向けに軽量化されており,PC版と比べて見た目の印象がシンプルになっているのは確かだ。しかし,このゲームの本質は「相手の攻撃を受け,自分の攻撃を打ち込む」といった動作にあるので,見た目の印象の違いはそれほど問題ではない。
コントローラーはRiftとほぼ同じなので,前述した武器を握る感覚も味わえ,スタンドアローンなので体を動かしてもコードが絡まる心配は無い。プレイの爽快感としてはPC版以上と感じる人もいるかもしれない。ただし,先ほども述べたように軽量化のためにかなりシンプルな見た目になっており,PC版のリアルな空間に比べるとゲーム感が強い。どちらのバージョンにも優れた点はあるので,それぞれの環境やプレイスタイルによって選ぶと良いだろう。
SWORDS of GARGANTUAは“VRの中のリアル”を作り出す。よむネコ代表・新 清士氏に聞いてみた
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。さっそくですが,本作の簡単なご紹介をお願いします。
新氏:
はい。このゲームは「VRならでは」,というものを主題にした「マルチプレイの,剣戟・近接戦闘をテーマにしたゲーム」ですね。これはOculusに確認したので言い切っていいと思うのですが,世界初になります。なぜ世界初かというと,剣のVRゲームは当たり判定が非常に大変だから圧倒的に作りにくいんですよ。さらにそれをマルチでやるとなると……。こうした技術的なハードルを2年かけて克服したものが本作です。
VRでよくあるのは銃のゲームですよね。銃は撃ってから当たるまで数フレームかかるので,その間に当たったかどうかを計算できるんです。しかし剣の場合は剣がぶつかったその瞬間,1/90フレームで処理しなければならず,この部分を作るのにまず1年ほどかかりまして……さらにマルチプレイに対応させるのに半年ほどかかりました。
4Gamer:
どういった部分にこだわって作られているのですか。
新氏:
プレイしたときに気づいたかもしれませんが,手を台座などに置いても貫通しないようになっています。ほとんどのVRゲームは貫通してしまうんですが,それだとプレイ中に“自分がVR空間内にいる”ということを思い出してしまうんです。一方でゲーム画面の手がぶつかって止まると,面白いことに脳は画面に映っている手をリアルだと勘違いして,無意識に現実の腕の位置をバーチャルの腕のほうに合わせてしまうんですよ。こういった錯覚を取り入れることによって,VRへの没入感を高めています。
また,さらに没入感を高める要素として,ボタン操作やコマンドなどでアクションを行うのではなく,身体を動かして行うアクションを多くしています。ガードやパリィ,ステップ移動など,そういった動きを繰り返すほど,自分がその世界にいるという感覚が強くなっていきます。
4Gamer:
なるほど。錯覚しやすくなるような工夫がされているんですね。
新氏:
もうひとつはマルチプレイですね。VRのマルチプレイというのはすごく面白くて,画面に出てくるアバターは鎧を着た格好の非現実的な存在なんですが,動きが人間的になると,明らかに人間にしか見えなくなります。そこにボイスも加わると,間接的なコミュニケーションにもかかわらず,非常に密度の濃い実在感を得られるんです。
これはユーザーさんが始めたことなんですが,出撃前に剣を合わせて「おー!」と掛け声をあげるようなことをしたり,クリア後にハイタッチをしたりと,そういったコミュニケーションが自然と発生するんですよね。まさにゲームやアニメで見たような,協力して戦闘をするといったことが実際にできるように作ってきました。
その他にも,30種類以上の武器と,戦略が必要になる17種類の敵といったやりこみ要素や,LIV(現実のプレイヤーの映像とゲーム画面を合成する機能)への対応,スコア・ワールドランキング機能など,ゲームプレイの幅を広げる要素が特徴です。
4Gamer:
いわゆるフリーロームで動けるVRゲームなので,どうしても酔いがあると思うんですが,どういった対策をしていますか
新氏:
最初の半年間は“VR酔い”をいかに潰すか,というところを徹底的に検証しました。よむネコにとって1本目のゲームである「エニグマスフィア」ではワープ方式にしていました。ワープ移動はまず酔うことのない移動方法ですが,そもそも酔わない人にとっては非常に不愉快なものなんですね。なぜなら我々は現実世界でワープしませんから(笑)。
普通の移動方法にした上でVR酔いをどうにかしようと,その当時に発見されていたノウハウをさまざまな資料から取り入れています。分かりやすい部分では「周辺視野」を潰すことです。移動する時に,中心になる部分以外は全部暗くします。それだけでかなり酔いが減少します。なぜこれが有効かというと,我々は普段,見ているもの以外は全部ボケているんですが,VRの世界では,見ていない部分もクリアに見えすぎてしまう。だからここを見えなくして,さらに移動方向に対して小さなパーティクルを飛ばすと,酔いはかなり落とせます。あとは移動速度の限界も確認して,それに最適化してあります。
実際昨年のアメリカで行った展示会や,東京ゲームショウでユーザーさんに調査を実施しましたが,酔ったという人は全体の5%ほどに抑えられました。そのほとんどはVRの体験が少ない方だったようで,ある程度経験がある方ならもっと酔いづらいと思われます。なので,酔いという点では相当克服できたかなと。
4Gamer:
なるほど。では次の質問ですが,武器がぶつかったりするゲーム内の動きと,現実の動きでは,どうしてもズレが生じると思います。そのあたりはどのようにとらえているのでしょうか。
新氏:
当然,ゲーム内の空間と現実世界をイコールにすることはできないんですが,擬似的に空間を作ると,脳はだんだん適応していくんですよ。現実では剣の重さは存在しませんが,ゲーム内の剣には重さが設定されています。そのため,重い剣を振った時は意図的に追従を遅らせています。そうするだけで,脳はまるで重さがあるかのように勘違いします。さらに,物が当たった瞬間にエフェクトを出して「カン」という音がするだけで,物が当たったかのように錯覚するんです。
剣の位置も敵の剣と当たると結構ブレるんですが,それが起きても,人間のほうは割と納得してしまうんですよ。
4Gamer:
プレイヤーの体験としては,除々に慣れてくるということですか。
新氏:
はい。ユーザーがその体験に慣れていき,そこに対して説得性のあるものを表現していれば,現実世界とズレていても,違和感がなくなると思っています。
「VRの中のリアル」というものが存在するという考えになったんです。現実と100%一致していないものに,最初のうちは「何だこれは」と思っていても,VRの中のリアルという風に認識が変わっていくんです。それを支えるように,いろいろなエフェクトや効果音を足していくと,ますます勘違いしてくれるということが分かったので,そういう方向に作り込んでいきました。
4Gamer:
となると,非VRゲームとは音やエフェクトの付け方はまるっきり変わるのですか。
新氏:
ある程度,近いものはあると思います。ただ,やはり3Dの空間で,音の持つ意味はすごく重要な役割を担っていますし,エフェクトもできるだけ立体に見えるように工夫をしています。
4Gamer:
端的に言うと,より派手にしたほうがいいと?
新氏:
そうですね,派手なほうが理解しやすいという気はします。ただ,増やせば増やすほど負荷も大きくなるので,そうなるとQuestでは全く表現できなくなってしまいます。なので,エフェクト自体はQuestにも対応できるように,PS2の後期くらいのものに抑えています。
4Gamer:
当初からQuest版のリリースは視野に入れていたのですか。
新氏:
はい。Quest対応は大前提でしたね。
4Gamer:
続いて,ゲームプレイについてお聞きします。シングルプレイ用に100ステージあるとのことですが,どのようなバリエーションがあるのですか。
新氏:
まず,当然敵の種類が増えますし,あとは武器のアンロックが用意されていますので,そこが多くのユーザーさんにとってモチベーションになると思います。サクサク進めて,剣を入手して,どんどん強くなるのを楽しんで頂こう,というのが70面くらいまで。80面以降はもう……頑張ってくださいという難度になっています(笑)。
4Gamer:
最近はVTuberブームやVRChatなどもあり,自分用の3Dモデルを持っている人がいます。今後,そういったモデルを導入できるようにするプランはありますか。
新氏:
将来的にできたらいいなとは思いますが,現時点で「できます」とは言えないですね。その代わり,擬似的な,LIVのような画面合成などで,できるだけ対応していくつもりです。
ただ,スキンのカスタマイズ機能は検討事項に挙がっています。マルチプレイで自分の好きな色を使いたい,というのは当然あり得ることですので。
4Gamer:
それはモデルのテクスチャを変えられる,といった感じですか。
新氏:
はい。実は別のキャラクターモデルも存在していて,ヘルメットなどを変えられるんですよ。
4Gamer:
となると,今後はキャラクタークリエイトのように,ある程度は外見をいじれるようになるんですか。
新氏:
……そこに持っていけると“いいな”といった感じですね(笑)。
4Gamer:
期待しています(笑)。
では最後の質問です。今後の展望を教えてください。
新氏:
少なくとも年内は,このゲームをもっと拡張していくと思います。現在の推計値では,PC向けのHMDが400万台くらい普及していて,Oculus Questが年末までには100万台売れるだろうとされています。それらの中で,選ぶタイトルの1本にしていただきたいなと。そのためにもゲームをどんどん拡張していく予定です。
4Gamer:
本日はありがとうございました。
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