プレイレポート
丁寧で細やかな作り込みが,プレイヤーを優しい世界の虜にする。アクションADV「ジラフとアンニカ」プレイレポート
本作は2005年にニンテンドーDSで発売された「押忍! 闘え! 応援団」のイラストを担当した斉藤敦士氏による個人制作タイトルにして,同氏のスタジオ,atelier miminaの第1作となる作品だ。
パッと見では普通の3Dアクションにも見える本作だが,ジャンルは“3Dアクションアドベンチャー&リズムゲーム”とされている。本稿では,そのプレイレポートをお届けしていこう。
「ジラフとアンニカ」公式サイト
atelier mimina 公式サイト
無邪気な猫耳少女アンニカと共に
優しく,そして美しい世界を体感しよう
物語の舞台となるのは「スピカ島」と呼ばれる小さな島。主人公にして猫人間(?)のアンニカは記憶を失っており,いつの間にか小さな家の前に倒れていた。
そこに,ジラフと名乗る男性が現れる。アンニカのことを知っているという彼は,島のダンジョンに隠された3つの「星のかけら」の収集を依頼してくる。わけの分からない状況に対してアンニカは警戒を強めるものの,その勢いに押されて協力することに。
アンニカは星のかけらを集める中で島を探索し,持ち前の明るさで島の住人たちとの交流を進め,少しずつ記憶を取り戻していく……というのが,本作のあらすじだ。
ゲームの基本は,いわゆる探索型のアドベンチャーゲームだ。ちょっと周囲を調査してみると分かるのだが,本作ではマップ内のほとんどのオブジェクトに何らかの反応が用意されている。そして,その端々には,アンニカという少女の可愛らしさと,このゲームが持つ“エモさ”が詰め込まれている。
例えば,ゲームを始めてすぐ行けるエリア内には椅子があるのだが,これを調べるとアンニカがスッと座って,ぶらぶらと足を揺らし始める。さらに時間が経つと背もたれに小鳥が止まり,一緒にくつろぎ始める。うーんかわいい。
さらに時間の概念も存在し,そのまま待っていると日が落ちて水平線から薄赤い夕日が漏れてくる。あまりのエモかわいさにスクリーンショットを撮影する手が止まらなかった。
特に重要でないオブジェクトにも調べられるものが多く,それぞれに対するアンニカの反応も可愛らしいのでついつい触れてみたくなってしまう。それを繰り返す中で,少しずつアンニカやスピカ島という世界への感情移入が深まっていく。
行ける範囲に触れられるものがなくなったら,いざダンジョンの攻略に挑もう。ダンジョンにはアンニカと敵対する“オバケ”が多数出現し,行く手を阻むギミックが用意されているが,アンニカは攻撃手段を持っていないので,上手にくぐり抜けながら先へと進んでいくことになる。
とはいえ,それほど難しい謎解きやアクションは要求されず,体力を回復するためのオブジェクトやセーブポイントも多く配置されている。もし体力がなくなっても,同エリアの入り口に戻されるだけで特にペナルティはない。
後半に入ると「お,ちょっと歯ごたえが出てきたな?」と感じられる瞬間はあるものの,行き詰まってしまう事はそうそうないだろう。ダンジョン攻略という要素自体,世界観を楽しむためのアトラクションとしての側面が強いと感じた。
そうしたダンジョンの最奥にはボスとして,自称“森の魔女”(毎回肩書きが変わる)のリリィが待ち構えており,そこでは星のかけらを賭けたリズムゲームが展開される。
リズムゲームとは言っても,特に難しい要素はない。相手が発射するリズムボール(ノーツ)に合わせて左右へと移動し,ボールの着地と同時にボタンを押すだけでOK。難度もEASY,NORMAL,HARDの3種類から選択できるので,自分の力量に合わせてゲームを進められる。
注目ポイントはリズムゲーム中の演出だ。対戦相手のリリィは音楽に合わせて小気味良いダンスを披露してくれるだけでなく,一緒に登場するお供や背景までもがリズムに合わせて踊り始める。このダンスはリズムボールの周期にも同期していて,演出でプレイヤーが変化を察知できるのも面白いところだ。
配置された隠しアイテム&ねこを探して
スピカ島の全容を解き明かす
最初のダンジョンをクリアすると,新アクションとして「跳躍(ジャンプ)」が使用可能になり,スピカ島の中でも進めなかったエリアに入れるようになる。つまり,ダンジョンをクリアするごとに行ける場所が増え,調査可能な地点が増えていくというわけだ。
便宜上“エリア”という言葉を使ったが,実際のスピカ島は(ダンジョン以外の)全地域がほぼ完全にひと繋がりになっており,ロードを挟まずシームレスに移動できるのが特徴となっている。
例えば島には複数の砂浜があるのだが,砂浜同士は海で繋がっていて泳いで渡れたりする。ひと通り探索を済ませて,高い場所から自分が歩き回ってきたマップの繋がりを確認すると,箱庭のような小さな島に“実在感”のようなものを感じられるようになる。意外な繋がりを発見した瞬間はなかなか爽快で,新たなエリアに来たら隅々まで探索したくなってしまう。
そんな探索をより楽しくしてくれるのが,島やダンジョンの各所に隠されたアイテムや隠し要素の数々だ。中でも「ねこ絵」と呼ばれるイラストの収集要素は力が入っていて,発見時にはアンニカがそれぞれの内容を踏まえた感想を言ってくれる。
収集したねこ絵は,ねこグッズ収集家(?)のオバケ男爵が欲しがっているので渡してあげよう。一定数以上を集めるとアンニカの新しい衣装などが手に入る。かわいいを集めて,かわいいが手に入る。かわいいのループだ。
ゲーム内容はかなりシンプルにまとまっており,それぞれのダンジョンに用意されたアクションや謎解きもそこそこの難度に抑えられているので,一直線にストーリーだけを追っていくならばクリアまでさほど時間は掛からない。
筆者はこの世界観の美しさ,アンニカのかわいさ,世界のエモさに惹かれて収集要素を探し回りながら進んだが,約8時間ほどでクリアまで進むことができた。
グラフィックスに粗い部分はあるし,正直言って操作性もあまり良くはないし,ちょくちょく地面の摩擦係数が気になるシーンもあった。加えて言えば,ゲームシステム面で革新的な何かを取り入れているわけでもない。
それでも,バリエーション豊富なキャラクターのセリフや,緩急がしっかりと付けられた探索要素,丁寧に組み上げられたスピカ島の魅力ある佇まいのおかげでゲームプレイは楽しく,クリア時には「良いゲームだった」と自然に言える。「ジラフとアンニカ」はそんなゲームだ。本作の世界に興味を持った人は,ちょっとした旅行に行くような感覚で本作に触れてみてほしい。
「ジラフとアンニカ」公式サイト
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ジラフとアンニカ
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