インタビュー
「新三國志」のプロデューサー北見 健氏にインタビュー。本作が中国で開発された背景には,どういった経緯があったのか
「三國志11」のグラフィックやSEなど,さまざまな要素を引き継いで開発されたという本作は,いかにして完成に至ったのだろうか。本稿では,同作のプロデューサーを務めたコーエーテクモゲームス 北見 健氏へのインタビューをお届けする。
「新三國志」公式サイト
「新三國志」ダウンロードページ
「新三國志」ダウンロードページ
テキストからビジュアル,そしてUIに至るまで
すべての面で“三國志シリーズらしさ”を追求
4Gamer:
本日はよろしくお願いいたします。まずは北見さんが本作にどう関わっているのかをお聞かせください。
「新三國志」においては,プロデューサーという立場になります。とはいっても,普通にゲームを作っているプロデューサーとは少しだけ違いまして。今回は「三國志11」のIPをお渡しする形での制作形態になりますので,主に世界観の確認を担当しています。
4Gamer:
というと,ローカライズがメインの業務になっていた感じでしょうか。
北見氏:
いえ,「ローカライズ」というよりも「監修」ですね。ゲーム性であるとか,マネタイズの仕組みであるとか,そういった部分はお国柄のトレンドもあると思うので,なるべく口を出さないように意識していました。……まぁ,ちょっと口を出してしまった部分もあるんですけどね(笑)。
実際にファンの方がプレイしたときに「コーエーテクモの『三國志』だね」と感じられるだけの余地を確保するという部分は,とくに注意して進めました。
4Gamer:
「三國志」シリーズとしては珍しい展開だったように思えますが,開発の経緯についても教えてください。
北見氏:
企画自体は,先方のリクエストからスタートしました。アジア諸国でも,三国志を主題としたアプリは多く出ているのですが,中でも「これが決定版!」という作品を出したいという強いオファーをいただきまして。その中でも評判が高かった「三國志11」を使ってアプリを作ることになったというのが大まかな経緯になります。
4Gamer:
なるほど。
北見氏:
先方からの提案内容によると「コーエーテクモの『三國志』」であるということを,一番のポイントにしていました。ですので当社としてもできる限り“らしさ”を出すことに努めました。
そういった意味で,日本でサービスインした際には「コーエーテクモの三國志だ」という反応が見られたので,私としては「成功したぞ!」という気持ちです(笑)。
4Gamer:
しっかりと「三國志」らしさは出ていたように思われます。では実際のゲーム開発は,どういった形で進んでいったんでしょうか。
北見氏:
まずは企画案を出していただいて,それを当社のIPと照らし合わせつつ調整を行い,企画の基礎を固めていきました。その後はビジュアル素材などをお渡しして,同じような形でゲーム中のイメージボードを作っていただき,それらをCGに起こして……といった流れになります。
4Gamer:
「三國志」シリーズということで,ビジュアル素材の監修だけでも大変そうです。
北見氏:
ええ,作っていただいたCGはそのつど確認していました。実際に並べてみると分かるんですが,中国での着色は日本より少々明るい印象があって,結構違うんですよ。
そこをシリーズの雰囲気と照らし合わせつつ,世界観に合うよう落とし込む形で進めていきました。UIも同様,一つずつ確認して調整をしています。
4Gamer:
開発規模はどのくらいなんでしょうか。
これは開発会社にヒアリングしたのですが,初期は30人くらいで,終盤には50人以上のチームになって進めていました。開発開始からサービスインまでは,だいたい1年半程度でしたね。その1年半というのも,当社にご提案をいただいてからの期間ですので,開発側の内部ではさらに時間がかかっていたと思います。
最初リリースできたのは香港・マカオ・台湾地域を除く中国本土で,ローカライズにあたってはもう少し時間がかかっています。台湾版はその後3か月程度でリリースできたのですが,日本版は修正に半年以上かかりました。
4Gamer:
ローカライズだけで半年以上となると,相当力が入っていますね。日本人にとって違和感のない形にまで仕上げるのは至難の業だと思います。
北見氏:
私自身も中国由来の作品をいくつか触っていましたが,やっぱりネイティブな日本人からすると,細かなニュアンスの部分で「えっ?」となる表現が出てきますよね。
せっかく自分が担当するので,そういった違和感は可能な限り減らそうと思ったんです。……それこそ,下手したらコスト的に上司に怒られるぐらい(笑)。
4Gamer:
日本語版の音声部分で変な印象を受けることは以前から少なくありませんでしたが,テキストの面で違和感を覚えることが増えてきたのは,最近のことのように思います。そのあたりの原因は,どういった部分にあるのでしょうか。
北見氏:
ローカライズというと,一昔前は国内の会社がすべて担当するのが当たり前だったんですが,最近はそのまま現地のスタジオがローカライズをやることが多いようですね。
日本語ネイティブの人がいないことはないと思うんですが,大量に揃えるのは簡単じゃないですからね。それで,あの独特な「合ってるけど違う」感じが出てしまうんじゃないかと。
4Gamer:
中国は文化が近いのでローカライズには時間がかからないと考えてしまいがちですが,そこは全然違うんですね。
北見氏:
そこが大きな罠でして。中国語は漢字ですから,日本人ならふんわりとニュアンスが伝わってくるじゃないですか。分かるからこそ,細かい部分での違いに気づきにくいです。
一度スルッと見逃して,よくよく見直してみると「日本語でこんなこと言わないよね,こんな単語使わないよね」というのが相当あります。
4Gamer:
そうなると,海を超えたやり取りも多くなりそうですね。どういった方法でコミュニケーションをとっていたんでしょうか。
北見氏:
主にメールとSkypeを使っていました。基本的に開発側が日本語化を担当するということで,「大した作業はないだろう」とタカをくくっていたんですが,担当者の方とは調整のために毎日Skypeで話していましたね(笑)。
30人の大所帯からスタートしたゲーム開発
国内とはまったく違う開発環境
4Gamer:
「新三國志」の開発を行ったスタジオの雰囲気や,印象を教えてください。
北見氏:
今回の開発は中国の成都にある四川天上友嘉網絡科技という会社が担当していまして,Hero EntertainmentとShanghai TCI entertainment technologyさんがパブリッシャとして共同配信をしているという形になります。
オフィスに一度お伺いもしましたが,技術面では国内スタジオと遜色ないレベルにあると感じました。
4Gamer:
では,実際に開発を進めるにあたって,違いを感じた部分はありましたか?
北見氏:
最大の違いは開発の進め方ですね。日本の開発スタジオで新作を作るときは,少数の人員でコア部分や世界設定を固めて,そこから人材を投入して量産化やブラッシュアップを進めていくんです。ところが,先程もお話ししましたが,今回は開発初期から30人近い人員が参加していたんです。これって,日本の感覚でいくと“多すぎる”んですよ。
4Gamer:
普通に考えれば,最初は人員を絞って,徐々に増やしていくという感覚ですよね。
北見氏:
そこが日本との違いでした。いざ開発がスタートすると,毎日凄まじい量の成果物がなだれ込んできまして。
4Gamer:
結果的に,毎日Skypeで担当者さんとやり取りすることになったと。
北見氏:
ええ,序盤のリテイク,NGの数は半端なかったんです。
4Gamer:
その進め方だと,当然そうなりますよね。
北見氏:
「ここもダメだ,こっちもダメだ」というのを繰り返しながら,一気に作っていくんです。国内でこの作り方をするのはちょっと難しいですね。
4Gamer:
会社全体や,開発者の皆さんの印象はいかがでしょう。会社的には若い雰囲気なんでしょうか。
北見氏:
会社自体は,だいぶ若かったと思います。とくにHeroは2010年代に設立された会社ですし,社長さんはめちゃめちゃ若くてイケメンですよ。
社員の方については,国内とあまり差は感じませんでしたね。あえて言うなら,当社のようなコンソールから始まっている会社と比べると,若い方が多いかもしれません。
ただ,やっぱり凄まじい人数だったので個々の印象は分かりませんね。なにしろ,デスクのどこからどこまでが「新三國志」の開発担当だったのか,判別できないくらいの人数でしたから。
4Gamer:
中国と日本それぞれにおける「三國志」シリーズのファンの違いについてはいかがでしょうか?
北見氏:
ざっくりとした印象としては,それほど差はないように感じます。ただ,歴史という意味での三国志ファンということであれば,今回の件でだいぶ印象が変わりました。というのも平均値から見ると,中国よりも日本のほうが,三国志に詳しかったりするんですよ。
4Gamer:
え,そうなんですか?
北見氏:
あくまで,それは平均値の話です。対してコアなファンの知識の深さになってくると,中国のほうが全然詳しいですね。ネタ出しをしていると「そんなところのエピソードを持ってくるのか!?」みたいなことが結構ありました。
このへんはおそらく日本では,吉川英治先生や横山光輝先生の「三国志」であるとか,映像媒体での「人形劇 三国志」,李 學仁先生の「蒼天航路」など,一般の人が目にするメディアに三国志という題材が広く用いられているのが大きいんじゃないかと思います。
4Gamer:
そしてもちろん,コーエーテクモゲームスの「三國志」「真・三國無双」シリーズの存在も大きいですよね。
北見氏:
そうだったら有り難いですね(笑)。
4Gamer:
中国側のコアファンの深さについては,やはり参照できる文献の差でしょうか。
北見氏:
おそらくそうだと思います。中国の場合は,メディアのバリエーションが少ない代わりに,文献のレベルが日本の比ではありません。
監修をしていても,当社の「三國志」シリーズには出てこないようなアイテムやキーワードが出てくるんです。それについて聞いてみると「この文献に書いてあります」と返されたりして。
4Gamer:
さすが本場です。では,ゲームを遊ぶプレイヤーについてはいかがでしょうか。
北見氏:
明確な違いとして,中華圏ではプレイヤー同士のGvGが,日本では協力プレイがそれぞれ好まれる傾向にあります。実際に細かな情報分析をしてみると,プレイの内容にも多少の差があるんですよ。本作はゲームの仕様上,ほかのプレイヤーの城を直接攻撃できるんですが,本国ではガンガン活発に攻撃が発生しているのに対して,日本では戦いが起こるまでに準備を重ねたりして,比較的落ち着いている印象があります。
4Gamer:
初心者には手を出さないとか,紳士協定的なものが作られることも多いですよね。
北見氏:
そういったデータを見ていて「ゲームでも日本的だなぁ」と思いましたね(笑)。
最近の中国ではこれがスタンダード?
どちらかというと良心的なマネタイズ
4Gamer:
今回は「三國志」シリーズとしては珍しく,無料で始められる作品となりました。どんな人に楽しんでほしいと考えていますか?
北見氏:
ゲーム性で言えば,それこそ「三國志」シリーズとは異なるものではありますが,テキストやビジュアルの面では十二分に「三國志」らしさを感じられるように制作しています。シリーズファンにも,まだ触れたことのない皆さんにも,ぜひ楽しんでいただきたいですね。
また,ゲームの基本は「武将を強く育ててバトルしましょう」という非常にシンプルな構造になっていますので,ゲームは苦手でも三国志という題材の作品に触れてみたい方におすすめです。
テスト版のパッケージが中国語だったのですが,中国語がまったくできない私が問題なく遊べるくらいシンプルにまとまっているので,その点はご安心ください。
4Gamer:
システムもそうですが,マネタイズもどちらかというと良心的ですよね。
北見氏:
「広場」に行くと武将を登用できるのですが,SSR武将を「下野」させた際にもらえるリソースでSSR武将を選んで登用できてしまうんですよ。数回SSR確定ガチャを引けば,結果として欲しい武将が手に入りますね。
4Gamer:
とくに私なんかはスマホゲームを遊びすぎて麻痺している部分もあるかもしれませんが,本作は「お財布に優しいな」と感じました。
ええ,マネタイズは私も「コレ本当ですか?」と確認したくらいですよ。当社はマネタイズの部分には一切関わっていませんので,「きっと中国はこれが当たり前なんだな」と思いながら眺めています。
4Gamer:
そういえば日本版リリースのとき,出演声優さんが発表されましたよね。かなり豪華な面々だったように思いますが,これは日本語版独自の要素なんでしょうか。
北見氏:
はい,中国語版にはありません。台湾で日本の声優さんが人気だったこともあり,台湾版リリースにあたっても日本語ボイスを入れたのですが……。日本語版では,さらに豪華な形でキャスティングしています。
4Gamer:
台湾版の時点で日本語ボイスが入っていたんですね。しかし,その時点で日本語が入っていたのに,さらに豪華にしたのはどういった意図があったんですか?
北見氏:
判断自体はパブリッシャが行ったので,詳しいところは分かりませんが,もしかすると「日本でリリースするなら,もっと気合を入れなきゃ」といった考えがあったのかもしれません。
4Gamer:
となると,キャストの調整に関して,日本側はあまり関わっていないんでしょうか。
北見氏:
基本的には関わっていません。ただし収録は日本で行われるので,収録時にチェックはしています。
4Gamer:
なるほど。
そのほか,現段階で公開できる,今後の追加要素についてもお聞かせください。
北見氏:
「新三國志」は,2か月に1度くらいの頻度で武将やコンテンツの追加等の大型アップデートを実施します。直近で言えば,軍団単位で洛陽を占領した状態を維持するために戦う「洛陽争奪戦システム」が実装される予定です。占領した洛陽を7日間維持すると,その軍団が勝者となって特別な報酬が得られます。
それに加えて,日本語版ではスマホ版「三國志V」とのコラボも実施される予定です。かつて私がオリジナル版「三國志V」のプログラマーをやっていたということもあり……(笑)。思い入れの深いタイトル同士のコラボなので,こちらとしても成功を祈っています。
4Gamer:
ありがとうございます。では最後に,読者の皆さんにメッセージをいただけますか。
北見氏:
私自身,監修という立場でプロジェクトに参加させていただくのは初になりますが,当社の作品とは違ったゲーム性や新規性が提案されつつも,コーエーテクモの「三國志」らしさを出せたと思っています。これまでのシリーズファンの方はもちろん,そうでない方にもぜひこのアプリを触っていただければと思います。
4Gamer:
本日はありがとうございました。
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(C)2018 by Shanghai TCI Entertainment Technology Corp. All Rights Reserved.
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