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ディライトワークスが,社内にボードゲームカフェを設立。塩川洋介氏らが日本のボードゲーム事情などを紹介した説明会の模様をレポート
塩川氏は,ディライトワークス社内にボードゲームカフェを設置した経緯や意図などを説明。それによると,社内にはもともとボードゲームが好きなスタッフが多く,私物のパッケージを棚に入れていたり,業務時間外に会議室で遊んでいたりしたそうだ。
それを踏まえ,この3月にオフィスを増床することになったため,塩川氏がボードゲームカフェを設置することを発案したという。塩川氏は「やるからには本気でボードカフェを作りたい」と考えたそうで,自身が遊びに行って気に入っていたJELLY JELLY CAFEの白坂氏に相談したとのこと。
その結果,本カフェはオープン直後の現在,約260種類のボードゲームがそろっており,毎週1種類ずつプレイしたとしても全部遊ぶには約5年かかる本格的なものとなった。
本カフェを設置した狙いは2つ。1つは,スタッフ同士,クリエイター同士がボードゲームを通じてコミュニケーションを図ることにより,クリエイティブの力となることを期待している。
2つめの狙いは,「“面白さとは何か”を考えること」を社内文化として根付かせること。これは,塩川氏自身がボードゲームを「面白さを突き詰めたジャンル」と捉えているからだ。
本カフェの監修を務める白坂氏は,ここ数年盛り上がりを見せている日本のボードゲーム事情を解説。それによると,2011年のJELLY JELLY CAFEオープン当時は,白坂氏の友人やボードゲームマニアが集まるような場所となっており,店内には20種類程度のボードゲームしかなかったという。
その数年後,「人狼ゲーム」のブームが到来し,その流れでアナログゲームに注目が集まり,メディアに取り上げられた結果,JELLY JELLY CAFEを含むボードゲームカフェは若年層を含めた幅広い層に興味を持たれるようになった。
2011年当時は日本全国に十数店舗しかなかったといわれるボードゲームカフェが,今や280店舗前後になっていること,そして2016年までは1店舗展開だったJELLY JELLY CAFEが,2018年現在7店舗になっていることなどが,その流れの勢いを物語っている。
そうした流れに伴い,客層も変化。2011年のJELLY JELLY CAFEは9割が男性,かつ40代以上が多めという状態だったが,今では学生層が大半を占め,男女比もほぼ半々になっているという。その中にはボードゲーム女子会を謳うグループもあり,かなり一般に認知されてきた印象があるそうだ。
その背景には,日本のクリエイターが作ったボードゲームの台頭もあると白坂氏。もともとボードゲームはドイツが本場であり,今回新設された本カフェに置いてあるタイトルも,8割近くがドイツ産である。しかし最近は日本のタイトルも世界で注目されており,ドイツのゲーム大賞にノミネートされているという。その理由は,日本のタイトルには独特の“侘び寂び”を感じさせたり,最低限のコンポーネントで構成されているにもかかわらず奥深く遊べたりするからとのこと。
白坂氏はそうした世界で評価されている日本のタイトルとして「街コロ」や「ワンナイト人狼」,「タイムボム」「ラブレター」などを挙げていた。
また本カフェの監修を手がけることについて,白坂氏は「デジタルゲームとアナログゲームには,システムなど多くの部分に通ずるものがある。デジタルゲームが好きならアナログゲームが好きになる可能性が高く,逆もまた然り」とし,「ボードゲームには,デジタルゲームクリエイターの参考となるものが必ずあると考えていた。そんなときに受けた塩川さんのオファーからは,『デジタルだけじゃないぞ』という意気込みを感じられてグッと来た」と話していた。
続いてボードゲームの魅力について,塩川氏と白坂氏がトークを繰り広げた。塩川氏によると,自身がボードゲームに本格的にハマったのは,知り合いに誘われて行った2017年春のゲームマーケットだったという。
そこで前知識がほとんどないまま,多くのアナログゲームに触れたとき,ゲームクリエイターの視点で,「今のデジタルゲームとは違う自由度がある」ことに気付いたという。すなわち,デジタルゲームはゲームデザインがさまざまな事情でフォーマット化されやすいのに対し,アナログゲームはコンポーネントを自由に作れるなど,いい意味でニッチで尖ったものを作れることから,「これはいい刺激になる」と理解したとのこと。
また白坂氏も,長らくデジタルゲームプレイヤーだったそうで,JELLY JELLY CAFEオープンの半年前に,花見の席で友人が持ってきたボードゲームを遊び,その魅力に目覚めたという。
そして,やはりゲームマーケットに行き,アナログゲームには決まったフォーマットが存在しない点に驚いたとのこと。さまざまなタイトルが並んでいるにもかかわらず,パッケージのサイズや対象年齢,プレイ時間がバラバラで,ジャンルも運頼みだったり心理戦があったりとさまざまなところに魅力を感じたそうだ。とくにデジタルゲームにはない,プレイヤー同士でルールを決めていくという要素に強く心を惹かれたと話していた。
その一方で,アナログゲームには,いくつかハードルもある。例えば,知らないプレイヤーと遊ぶことを躊躇する人もいることだろう。しかし,自身を「コミュニケーションが苦手」とする塩川氏は「一度輪に入ってしまえば楽しい」と語った。
また白坂氏はデジタルゲームならセールスランキングや人気ランキングなどをもとに何を遊べばいいか選ぶことができるが,まだまだ市場規模の小さいアナログゲームにはそうした目安となるものがないことを指摘する。
そうした流れの中,会場では両氏それぞれのオススメするボードゲームが紹介された。
塩川氏の最近のオススメは「グラデュエーション・フォトレコーズ!」と「EXIT」シリーズだ。
「グラデュエーション・フォトレコーズ!」は,キャラクターの人間関係を踏まえつつ写真を並べて,オリジナルの卒業アルバムを作っていくという内容で,自由度の高さに感心したという。
「EXIT」シリーズは,ボードゲームと脱出ゲームをミックスした内容で,コンポーネントをハサミで切ったり破ったりするので,パッケージ一つにつき1回しか遊べない。デジタルゲームにはない発想だが,値段分(約2500円)に見合う体験をしっかり得られるとのことで,塩川氏のクリエイティビティにも影響を与えているそうだ。
白坂氏はボードゲームカフェスタッフの視点で,初心者にオススメできるタイトルとして「ボブジテン」と「知ったか映画研究家スペシャル!」を挙げた。
「ボブジテン」は,英語や外来語,カタカナを使わずにヒントに出し,カードに書かれたお題をほかのプレイヤーに当てさせるというもの。
もう一方の「知ったか映画研究家スペシャル!」は,カードによって作られた架空の映画について,プレイヤー達が知ったかぶりで順番に論評していくという内容。知ったかぶりなので,基本的には全プレイヤーの言葉が肯定されるため,奇妙な映画が出来上がっていくことを楽しむゲームだ。
最後に,塩川氏からボードゲームカフェを通じた今後のディライトワークスの展開が紹介された。それによると,同社はこれからさまざまな形でボードゲームに注力していくという。
その1つが,先日発表されたボードゲーム「Fate/Grand Order Duel -collection figure-」で,同社が中心となってゲームパートを開発しているとのこと。フィギュア単体で販売するのではなくボードゲームにした理由として,塩川氏は「ボードゲームを盛り上げたい,本気で作りたいという気持ちがあった」とし,「カードをシャッフルするといった戦略などもあり,『Fate/Grand Order』プレイヤーの皆さんも楽しめるゲームになります。詳細はあらためて発表します」と語った。
また塩川氏は,ボードゲームから得た知見をディライトワークスのゲーム開発にも活かしていくとし,「カフェを作って終わりではなく,ボードゲームの個性的な面白さを文化として会社に根付かせ,実際にボードゲームを作ったりするなど発展させていきたいと考えています」と意気込みを見せた。
説明会終了後の質疑応答では,本カフェは基本的に社内スタッフ向けではあるものの,ユーザー交流の場や,公式番組を配信する場として活用することも検討していることが明かされた。
また「Fate/Grand Order Duel -collection figure-」は,誰でも気軽に楽しめるよう,サクッと決着が付く内容を目指して開発を進めているという。続報は順次発表されるとのことなので,注目している人は期待しよう。
「Fate/Grand Order Duel -collection figure-」公式サイト
- 関連タイトル:
Fate/Grand Order Duel -collection figure-
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