インタビュー
戦略シミュレーションRPGに“政治・経済”の要素を盛り込む。「創世記戦: アンタリアの戦争」を手がけるキム・テゴン氏へのインタビュー
この発表会の終了後,「創世記戦: アンタリアの戦争」の開発責任者であるKim Tae Gon(キム・テゴン)氏に話を聞く機会が得られた。キム氏はクリエイターとして20年のキャリアを持ち,政治・経済などの意欲的な要素をゲームに盛り込むことを得意としている人物である。本作における氏のこだわりや,今後のスマホ向けアプリ業界の見通しなどを聞いたので,本稿で紹介しよう。
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スマホ向けアプリの開発会社NDREAMを2015年に設立
JOYCITYと二人三脚でスマホ向けアプリを配信
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。
Kimさんに話をお伺いするのは約4年ぶりなので,近年の主な活動について教えてください。
NDREAM キム・テゴン氏(以下,キム氏):
NDREAMで自分はゲーム開発部門を統括しており,2016年に「オーシャン&エンパイア」,2017年に「パイレーツ・オブ・カリビアン 大海の覇者」をそれぞれ配信しています。また,それとは別のラインで大型タイトルの開発を続けており,それがカンファレンスで発表した「創世記戦: アンタリアの戦争」です。
4Gamer:
NDREAMでも,クリエイターとして第一線で働かれているのですね。
キム氏:
あとは,一緒に働いている人のことをよく知り,各部署にどうやって配置したら彼らのポテンシャルを活かせるのかなど,あたかも“人材育成ゲーム”を攻略するような気分で頑張っています(笑)。毎日が新鮮で,これまで20年のキャリアを振り返っても最も充実していると思いますよ。
4Gamer:
お元気そうで何よりです。
JOYCITYの公式サイトによると,2015年8月に,設立後まもないNDREAMがJOYCITYの筆頭株主になっています。現在の両社はどういった関係なのでしょうか。
キム氏:
実は,JOYCITYのCEOであるチョ・ソン・ウォンは,NDREAMの代表も兼務しているんです。両社は二人三脚に近い関係で,このような事例は,韓国のゲーム業界でも珍しいかもしれませんね。
4Gamer:
個人的には,キムさんが「パイレーツ・オブ・カリビアン」のような人気IPをゲームで採用したことが意外に思えました。
キム氏:
ああ。昔の私だったら,IPを採用したゲームを作るなんて夢にも思わなかったでしょうね(笑)。
今後のスマホ向けアプリにおけるトレンドを見据えると,IPを採用したゲームは避けて通れないと考えています。そこで,社内のノウハウを得るという目的も含め,「パイレーツ・オブ・カリビアン 大海の覇者」を開発しました。「オーシャン&エンパイア」も同様で,こちらは戦略シミュレーションRPGのノウハウを得るという目的もあったんです。
韓国で人気のIP「創世記戦」を採用
自身が得意とする政治・経済の要素を盛り込む
4Gamer:
キム氏:
ええ。一言でいうとIPを採用した戦略シミュレーションRPGになりますが,それだけでなく,私が得意とする政治・経済などの要素を盛り込んでいます。100名以上のスタッフが約2年をかけて開発を行っており,ゲームシステムやコンテンツ,バランス調整など,すべての部分に私が直接関わっています。
4Gamer:
実際に開発を行ってみて,手応えはいかがですか。
キム氏:
もともと創世記戦シリーズはRPGとして人気を博した作品なので,その醍醐味を戦略シミュレーションRPGという別ジャンルに落とし込むのに最初は苦労しました。もっとも,創世記戦は戦争をベースにした作品なので,戦略シミュレーションとの相性は思いのほか良かった印象です。
また,戦略シミュレーションのゲームジャンルは,ゲーム内コミュニティと密接に関係しています。そしてゲーム内コミュニティは,私が実現したい政治や経済にちなんだシステムとの相性がバッチリなんですよ。
4Gamer:
本作において,政治や経済の要素がゲームシステムにどのように盛り込まれているか,具体例を教えてください。
キム氏:
たとえばですが,プレイヤー間でアイテムの売買が行える“個人取引システム”が用意されています。オンラインRPGにおけるオークションハウスのように,素材アイテムや加工品などの取引が行えるのですが,需要や供給に応じて相場が変わるのがポイントです。
そのため,安いときに仕入れた素材品で生産を行ったり,相場を見ながら安く買って高く売ったりとゲームとして十分に“遊べる”わけです。
4Gamer:
年季の入ったゲーマーのなかには,「君主online」を思い出す人もいそうです。
キム氏:
あとは,本作におけるギルドは株式会社としての側面があり,株式を発行しています。この株式はギルドメンバー以外のプレイヤーも入手できるので,たとえばギルドに加入せずとも,株式を持つことで間接的に関われます。ギルドの一挙一動に注目し,ギルドに対するサポートや,市場を通じた株式売買で利益を得ることも可能です。
4Gamer:
創世記戦のIPは,韓国以外の国では知名度がそれほど高くありません。グローバル展開が予定されている本作において,何か対策は考えていますか。
キム氏:
創世記戦のストーリーは,時代や地域に関係なく楽しめると信じています。ですので,スマホ向けアプリとして現代のトレンドに合った形で遊べるようにすれば,きっとワールドワイドで受け入れられるでしょう。
もちろん,本作ではゲームシステムにもこだわっており,IPを知らないと楽しめないようなゲームではないので,心配はしていませんよ。
4Gamer:
サービススケジュールは,どういった感じでしょうか。
キム氏:
2018年上半期にソフトローンチを予定しています。そこでのフィードバック次第になりますが,順調に進んだ場合,同様に2018年上半期にグローバルローンチを行えればと考えています。もちろん,日本でのサービスにも期待してください。
今後のスマホアプリ業界について,キム氏はどう見る?
4Gamer:
先ほど,今後のスマホ向けアプリのトレンドについて話されましたが,もう少し詳しく聞かせてください。キムさんは,この業界が今後どういった方向に進むとお考えですか。
キム氏:
まずは,国ごとの趣向や独自性が薄くなり,ワールドワイドで共通化される部分が増えることです。たとえば現在のコンソールゲーム業界では,全世界で同じゲームがヒットすることが多いのですが,この流れがスマートフォンにも来ると予測しています。
4Gamer:
発表会では,JOYCITYによるグローバル展開があらためて強調されていましたが,そのスタンスにもマッチしていますね。では,2番目はなんでしょうか。
キム氏:
ルートボックス(いわゆるガチャ)に代表される,重課金に対する反発です。その結果,微課金や無料で十分に楽しめるタイトルが支持されるようになるのではと考えています。
4Gamer:
日本でも最近になってガチャの確率表記が義務化されるなど,キムさんがおっしゃるような動きが表れているように見受けられます。
キム氏:
言うまでもないことですが,映画や本などの一般的な娯楽では,一通り楽しむために必要な金額があらかじめ分かっています。ガチャのビジネスモデルでは,その常識が通用しておらず,見方によっては一部のプレイヤーしか楽しめていないでしょう。
韓国や欧米のゲーム業界では,重課金要素は政府とプレイヤーの両方から強く非難されています。少なくとも,課金額に見合うフィードバックを提供せねばならなくなると考えています。
4Gamer:
なるほど。それでは,3番目はなんでしょうか。
キム氏:
いま申し上げた重課金に対する反発にも関連していますが,微課金や無課金でも収益を上げられるビジネスモデルの構築が求められます。その回答のひとつとして,IPの二次展開が促進されると考えています。
分かりやすい例を挙げると,ゲーム運営を通じて人気を博したIPを,ドラマ化や映画化のために他社に売却する,といった感じですね。
4Gamer:
昨年のG-Star 2017に出展されていたタイトルを俯瞰しても,いまキムさんがおっしゃった展開は進んでいるように見受けられます。
キム氏:
ディズニー社が「スター・ウォーズ」のIPを獲得して各方面へ展開しているように,大手のゲームメーカーはIPホルダーとしての側面を持つようになるでしょう。今回,弊社がゲームの題材として採用したことで,創世記戦のIPが再び大きく盛り上がってくれるといいなと思います。
4Gamer:
数年後,本作をテーマにしたドラマシリーズなどが見られるようになるといいですね。
そろそろお時間のようなので,本作の開発に対する意気込みなどをお聞かせください。
キム氏:
繰り返しになりますが,本作はIPを採用した戦略シミュレーションRPGで,私が得意とする政治・経済などの意欲的な要素を盛り込んでいます。創世記戦という我が国が誇るIPを,スマホ向けアプリという現代のプラットフォームで,新鮮な気持ちで楽しめるゲームです。日本のゲーマーの皆さんにとっては,創世記戦をご存じない方も多いと思いますが,知らなくてもまったく問題なく遊べるので,ぜひ注目してください。
4Gamer:
本日はありがとうございました。
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