ゲーム開発者向けカンファレンス
CEDEC 2021の3日目となる2021年8月26日,DeNAのスマートフォン向けアプリ
「メギド72」(
iOS /
Android)をテーマにした講演が行われた。本稿では,
「『メギド72』の事例でお伝えする『こだわり』によってユーザーを熱狂させるスマホゲーム運営手法のエッセンス」と題された講演をレポートしよう。
2017年12月に正式サービスがスタートしたメギド72は,すでに3年半以上が経過したタイトルだが,その道程は必ずしも順風満帆ではなかった。サービス開始時に初速を出せず,一時期はサービス継続が危ぶまれるほどの落ち込みぶりだったそうだ。
そうした中,メギド72はゲームデザインに強い
“こだわり”があり,またマーケティングの施策がそのこだわりを後押ししてくれたおかげで状況は好転していったという。
メギド72がサービス開始直後に振るわなかった大きな理由について,ゲームデザインを担当する
早川真央氏は,本作が持つこだわりをゲームデザインに反映できていなかったためだと分析した。
メギド72のゲームデザインには,
「すべての登場キャラクターを平等に扱う」というこだわりがあり,例えば,ガチャ排出のキャラにレアリティを設けていないし,ほぼ全キャラに固有のモーションを用意した。実際に遊ぶプレイヤーは,どのキャラを推しても構わないし,どのキャラでも楽しめるゲームバランスを目指しているのだ。
多くのスマホゲームに触れている人なら察しが付くかもしれないが,上記のこだわりは,業界内では比較的珍しいといえる。サービス開始当初は,それを十分にアピールできていなかった。
このこだわりは,ゲームバランス面でどのように反映されているのか。その具体例として早川氏は,複数のキャラによって実現する
「タクティカルソート」を紹介した。タクティカルソートによる新たな戦術を楽しみたい,という思いがガチャを回すモチベーションとなるようにゲームをデザインしているというのだ。
いろいろなスマホゲームをプレイする人は,新たなガチャが登場するとき,どの部分に魅力を感じているだろうか。イラストや3Dモデリングが好みだったり,声を担当する声優に魅力を感じている人が多いはずだが,すべての登場キャラクターを平等に扱うことにこだわった「メギド72」の“商材”の売り方は,こうしたタイトルとは少し異なり,「性能の魅力」に軸足が置かれているという。
とはいえ,そのためにはタクティカルソートを途絶えることなく考案し,実装し続けねばならない。つまり,戦い方のバリエーションを広げ続けることであり,実践はとても難しい。「すくみ」や「属性」による相性だけが異なるキャラを実装するのと比較して,開発難度が高いことは想像に難くないだろう。
さらに,ゲームの状況にマッチするキャラを実装したいと思っても,コンセプトを決めてから実際に実装するまで1年半近くもの開発期間を要する。1年半後のゲーム状況を考えて新キャラをタイムリーにリリースすることはかなり難しいという。
そのため早川氏らは,現状を的確に分析し,将来を予測しながら新キャラやタクティカルソートを含むゲームバランスをデザインしており,このスタンスを崩さないことがメギド72のゲームデザインにおけるこだわりというわけだ。
比較的扱いやすいタクティカルソートは,ゲームの序盤で必要なパーツを確保できるように調整。逆に,中盤以降で使ってほしいタクティカルソートはガチャ商材に適している。開発チームは,プレイヤーが想定どおりに楽しんでいるかどうか,上のようなマッピングを作成して注視している
![画像集#018のサムネイル/[CEDEC 2021]「メギド72」の“こだわり”とは。ゲームデザインやマーケティング施策における具体例と共に解説](/games/400/G040084/20210827090/TN/018.jpg) |
![画像集#019のサムネイル/[CEDEC 2021]「メギド72」の“こだわり”とは。ゲームデザインやマーケティング施策における具体例と共に解説](/games/400/G040084/20210827090/TN/019.jpg) |
本講演の後半部では,マーケティング面でのこだわりの具体例が,マーケティングチームの
魏 健人氏によって語られた。
メギド72のマーケティングでは従来の形式にとらわれず,インパクトを重視した多くの施策を行っているという。読者の中には,メギド72のPR画像を見て,「なんでこのキャラは泣いているの?」と,興味を持った人もいるかもしれない。ただ,大型プロモーションの実施時はおおむね効果を出せているが,サービス全体として見ると,伸び悩みが続いていた。
そんな中,メギド72が2019年の
「日本ゲーム大賞 優秀賞」を受賞したことに魏氏は着目した。マーケティングチームとしても,ぜひこの「日本ゲーム大賞 優秀賞」を活用したいと考えたが,それを聞いたスタッフの反応は芳しくなかったという。
そこで魏氏は,以前メギド72のプロデューサーを務めていた宮前公彦氏に訴え,リスクは承知のうえで,「このようなチャンスは2度と巡ってこない」「もし前例がないのなら,メギド72が作れば良い」と説得した。そして,どうせやるなら今回の受賞を
「とことん使い倒す」ことを決め,半年以上にわたる大型プロモーションを実施したのだ。
実は,この大型プロモーションを行ううえで,魏氏らには考えていたことがあった。1つは,サービス開始時からプレイし続けてくる既存プレイヤーへの感謝を伝えること。そしてもう1つは,デジタル広告の訴求効果をテストすることだ。後者については,デジタル広告の獲得単価(CPI)において,約20%の改善が見られたという。
今回の講演でもう1つ紹介されたマーケティング施策は,2020年7月2日(メギドの日)にちなんで開催された,
「メギドミー賞」だった。ほかのスマホタイトルでいうアニバーサリー的なキャンペーンだ。
ネーミングからなんとなく分かるかもしれないが,メギドミー賞の開催にあたっては,
「格式ある式典らしさ」を徹底的に追及することにこだわった。さらに,メギドミー賞の授賞式が行われる2か月半も前から,ユーザー参加の
人気投票キャンペーンなどを行い,授与式に向けた盛り上がりを作っていった。
さらに,ゲームデザインでも触れた「すべての登場キャラクターを平等に扱う」スタンスは,この投票キャンペーンにも反映されている。一般的な人気投票キャンペーンの場合,当然ながら人気の高いキャラだけにスポットライトが当たるが,そうしたくないため,メギドミー賞ではキャラクター全員にスポットライトが当たるように,作成するPVや演出などにこだわったという。
ゲームデザインとマーケティング,そのどちらもが独特の“こだわり”を持ち,試行錯誤を繰り返しつつもゲーム内外でさまざまな熱狂を生み出し,長く続くコンテンツになったメギド72。今後の動きにも注目していきたい。