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[SPIEL’17]数字タイルを組み合わせる「NMBR 9」と,お皿を積み重ねる「Paku Paku」。コンパクトながらも熱くなれる2作品を紹介
また,会場ですれ違う来場者が購入している作品を見ても,そもそものボックスが大きいため,そうしたゲームが目に飛び込んでくる。だが,そのような重厚な作品と同じくらい,一見単純ながら素晴らしい楽しさを秘めたゲームが無数に出展されているのもまた事実。今回は,そんな作品の中から,コンパクトながらも熱くなれる2作品を紹介したい。
「NMBR 9」公式サイト(ドイツ語)
「Paku Paku」公式サイト(ドイツ語)
変わった形状のタイルの並べ方が鍵となる「NMBR 9」
Peter Wichmann氏が手がけるAbacus Spieleの新作「NMBR 9」は,少し大きめの箱の外見に反して,中に入っているコンポーネントは0から9までの数字のタイルが各8枚ずつ,そして各数字のカードが2枚ずつと,非常にあっさりとしたものだ。
ゲームのルールも分かりやすい。シャッフルされて場に伏せられた数字カードを1枚ドローし,その数字に対応したタイルを,各プレイヤーが入手してそれぞれの目の前に並べていく。
単に平面的に並べるだけでなく,自分が置いたタイルの上に積み重ねることも可能だ。これが後で述べるゲームの勝敗に大きな影響を与える。ちなみに各階層はドイツ式の数え方に基づき,最も低い1階にあたる面が0フロア,2階が1フロア……という風に呼ばれるので,日本人にはちょっと紛らわしい。
ただし,タイルの並べ方には制限がある。タイルは,ほかのタイルと隣接する形で(必ずしもぴったり合わせる必要はない)置かなければならない。また,タイルを積み重ねる場合は,その下に1か所でも空白の場所があってはならず,かつ最低2枚以上のタイルに重なるように置く必要がある。つまり,同じ数字タイルを単純に重ねることはできない。
勝敗の決定方法は,「あるフロアに置かれた数字」×「そこのフロアの階数」の累計となる。ここで再び,階層の数え方がドイツ式であることを思い出してほしい。机に直接触れている一番下の平面は0フロアとなるため,この層にどれだけタイルを置いても得点にはならないのだ。すなわち,高得点を獲得するためには大きい数字を高いフロアに置けば良いのだが,事はそう簡単ではない。
このゲームの特徴は,各数字タイルの形状だ。これらのタイルは0から9までの各数字をいちおうは模してはいるものの,斜めになっていたり,変な突起があったりと,実に個性的な形状をしている。
このため,上にタイルを積み重ねられるようにきっちりと敷き詰めるのは難しい。しかも,誰もが高いフロアに置きたがるであろう「9」のタイルは比較的大型になっているため,「上に乗せるよりも,下に敷くことでほかの数字タイルの土台にした方がむしろ良いのではないか?」と悩んでしまう。逆に,「1」のタイルはもっとも単純な形をしており,高いフロアに乗せるには実に便利な形状になっている。
このように,本作は直観的にプレイできるように見えて,意外と熟考を要求するゲームなのだ。しかも,次に出るであろう数字パネルは,それまでにドローされた数字カードから推測できるため,数手先を読みながら行動する戦略性も必要になってくる。しっかりと考えれば,そのぶんの見返りは約束されている。
もちろん,テンポよくプレイすることも可能だし,個人的には必要以上の長考を避けるために,各ターンを時間で区切るローカルルールを導入すると,緊張感が出ていいのではないかと感じた。
また,ゲーム終了時にカラフルな色合いの数字タイルが積み上がっているのを見るのは達成感があるし,同じ順番で数字タイルが配られているにも関わらず,完成したタイル構造が各プレイヤーでそれぞれ異なるのも楽しい。
一見するとファミリー向けのゲームでありつつも,ゲームに対するプレイや楽しみ方の幅が広い本作は,非常に奥深い作品といえる。
「NMBR 9」公式サイト(ドイツ語)
ダイスの押し付け合いが熱い対戦ゲーム「Paku Paku」
「もっと気楽にゲームがしたい」という人には,Antoine Bauza氏がゲームデザインを担当したRavenburger Spielverlagの新作「Paku Paku」がお勧めだ。
Agence Cactus氏のイラストによるお腹を空かせたパンダのボックスアートが印象的な本作。パンダという動物は「Takenoko」などのボードゲームのテーマとしても大人気で,もはや「パンダゲー」とでもいうべきジャンルを形成しつつある,と思うのは筆者だけだろうか。
本作のルールもいたってシンプルだ。5個のダイスをプレイヤー間でほぼ均等になるように分配(例えばプレイヤーが3人だったら2個,2個,1個)したら,すべてのプレイヤーが「3,2,1,パクパク!」という掛け声とともに全員で一斉にダイスを振る。このダイスに描かれているのは,緑のパンダ,赤い食器,そして1または2の数字という,大きく分けて三種類の目だ。
このうち,緑のパンダが出たら左隣のプレイヤーにそのダイスを渡せる。しかし,赤の食器マークや数字が出た場合は,場の中央にあるパンダの食卓にミニチュアの食器(皿,丼,コップ)を崩さずに積んでいかなければならない。
積む過程でうっかり崩してしまった場合,またはダイス運が悪くパンダの目を出そうと振り続けている間にすべてのダイスが自分の手元に回ってきてしまった場合は,手元にあるダイスを振って出た数字のぶんだけペナルティポイントのトークンを受け取る。
こうして1ラウンドが終了したら食器を元に戻し,ダイスを各プレイヤーに分配し直して,「3,2,1,パクパク」という掛け声をかけてダイスを振っていく。こうして,最初にペナルティポイントを10点貯めてしまったプレイヤーが出た時点でゲームは終了し,もっともペナルティポイントが低いプレイヤーが勝者となる,という塩梅だ。
このルールから分かるように,敗北に直結するペナルティポイントがもっとも高くなる可能性があるのは,ダイスを5個貯めた場合だ。このような状況を回避すべく,プレイヤーはパンダの目を出そうとダイスを必死に振り続ける。
その過程で食器の目になってしまうことも当然あるのだが,ミニチュアを崩さずに積もうと時間をかけている間にも,ほかのプレイヤーはどんどんダイスを振っているため,そうしてるうちに5個のダイスが集まってきてしまうのではという焦りとも戦わねばならない。
ダイスロールと食器の積み重ね,この2つのアクションにほかのすべてを忘れて集中できる点が本作の大きな魅力であり,SPIELの会場で複雑なルールブックや高度な戦略性を要求されるゲームを中心に試遊をしてきた4Gamer取材班にとっても,小さな箱の中に予想外の楽しみが詰まった作品として,一服の清涼剤的な効果があった。
また,プレイしている本人が楽しいだけでなく,周囲で観戦する人にも面白さが伝わりやすい。実際,筆者らが一喜一憂しながらプレイしている傍らを通りすぎる人達の中からは,「このゲームは楽しそうだ」という声がよく上がり,そのまま我々のプレイを眺めていることもしばしばあった。このような,いわば楽しさのアピール力も,本作で忘れてはいけない長所なのだ。
今回紹介した2作品については日本での販売が未定となっているものの,いずれも言語依存がまったくないゲームなので,興味のある人は輸入して遊んでみるのもいいかもしれない。