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Huawei,ハイエンドスマートフォン「Mate 20」シリーズを発表。7.2インチ有機EL&Kirin 980搭載の「Mate 20 X」はSwitchを超える?
今回発表となった3製品は,いずれも7nm製造プロセスで製造されるHiSilicon Technologies(以下,HiSilicon)製のハイエンド市場向けSoC(System-on-a-Chip)「Kirin 980」(関連記事)を搭載するのが特徴だ。イベントの様子と新製品の概要をレポートしよう。
専用ゲームパッドと合体できる7.2インチ級ファブレットに注目
新製品に話を戻そう。
今回の3製品は,いずれもハイエンド市場向けの製品だが,シリーズ中の位置付けは異なる。“無印”のMate 20は,ラインナップの中でもスタンダードなモデルで,Mate 20 Proがフラッグシップモデルとなる。
最後のMate 20 Xは,Mate 20無印とMate 20 Proの中間といったスペックに,7.2インチという大画面有機ELパネルを採用したファブレットモデルだ。
ゲーマーからの注目を集めそうなのは,Mate 20 Xであろう。Mate 20 Xは,スマートフォン本体をはめ込んで使う専用ゲームパッドをオプションとして用意しているのだ。
かなり突飛な比較ではあるが,Mate 20 XとNintendo Switch(以下,Switch)の比較も行われている。Huaweiによると,Mate 20 Xの画面サイズは,Switchの6.2インチサイズよりも大きく,バッテリー駆動時間でも勝るという。
使い勝手や対応ゲームの数次第ではあるが,大画面&専用ゲームパッドを組み合わせたMate 20 Xは,見逃せない製品となる可能性を秘めているかもしれない。
スタイラス入力にフォーカスしたGalaxy Noteシリーズとは,方向性が異なるわけだが,代わりの製品となりうる端末の登場は,歓迎できるだろう。
Leicaと共同開発したトリプルレンズ式カメラを搭載
Mate 20シリーズにおけるカメラ機能は,従来通り独Leicaと共同開発したものとなっている。
Mate 10シリーズにおけるLeica銘のデュアルレンズは,モノクロセンサーとRGBセンサーの組み合わせたものであった。一方,今回のMate 20シリーズは,3機種ともトリプルレンズ式のカメラモジュールを採用しているが,モノクロセンサーはなく,すべてがRGBセンサーによる標準(27mm相当),ウルトラワイド(16mm相当),望遠(光学3倍,80mm相当)という構成だ。
カメラ用のセンサーは,Mate 20 ProとMate 20 Xが同一の構成で,メインカメラに約4000万画素のセンサーを採用している。3つのレンズは,LEDフラッシュライトと合わせて四角形になる独特の配置を採用しているのだが,Mate 20 ProとMate 20 Xは,左上から時計回りにフラッシュ,標準,ワイド,望遠という配置なのに対して,Mate 20だけは,左上からワイド,フラッシュ,望遠(光学2倍),標準と,なぜか反転した配置になっているのも違いだ。
中でも注目に値するのはMate 20 Proで,生体認証機能として,フロントパネル直下にセンサーを組み込んだ指紋認証機能を採用している点だ,これは,2018年3月に発表となった高級スマートフォン「PORSCHE DESIGN Huawei Mate RS」で先行採用となった技術で,画面に触れるだけで指紋認証を行えるため,Mate 20 Proには独立した指紋認証センサーが存在しない。
一方,Mate 20とMate 20 Xは,背面のアウトカメラ下側に指紋認証センサーを配置したよくある構成を採用している。
また,Mate 20 Proでは指紋認証に加えて,iPhone Xシリーズが採用する「3D Face Unlock」(3D顔認証)にも対応する。基本的な仕組みはiPhone Xシリーズと同じで,赤外線による不可視のドットを顔に照射することで深度を検出する赤外線センサーを使うものだ。そのため,Mate 20とMate 20 Xでは小さな逆三角形の切り欠きで済んでいるのに対して,Mate 20 Proでは台形を逆さにした大きめの切り欠きとなっている。
Mate 20 Proは,メインメモリ容量6GB,内蔵ストレージ容量128GBの最小構成で1049ユーロ(税込,約13万6000円)。Mate 20 Xは,メインメモリ容量6GB,内蔵ストレージ容量128GBで899ユーロ(税込,約11万6600円)とのこと。いずれも日本円で10万円を超える高価な製品だ。
ちなみに,日本市場に投入されたことはないが,ラグジュアリーモデルである「PORSCHE DESIGN Mate 20 RS」になると,メインメモリ容量8GB,内蔵ストレージ容量256GBの下位モデルでも1695ユーロ(税込,約21万9700円)と,価格もラグジュアリーとなっている。欧州では11月16日から発売とのことだ。
スペックに関わる話の最後に,3製品の主な仕様を表にまとめておこう。
表 Mate 20,Mate 20 Pro,Mate 20 Xの主なスペック
Mate 20 | Mate 20 |
Mate |
|
---|---|---|---|
メーカー | Huawei Technologies | ||
OS | Android 9.0(Pie) | ||
ディスプレイパネル | 6.53インチ有機EL, |
6.39インチ有機EL, |
7.2インチ有機EL, |
プロセッサ | HiSilicon製「Kirin 980」 ・CPUコア:Cortex-A76 ・GPUコア:Mali-G76 ・AI処理プロセッサ: |
||
メインメモリ容量 | 4GB,6GB | 6GB,8GB | 6GB |
ストレージ | 128GB | 128GB,256GB | 128GB |
アウトカメラ | 三眼式,光学式手振れ補正機能搭載 標準:約1200万画素, ワイド:約1600万画素, 望遠:約800万画素, |
三眼式,光学式手振れ補正機能搭載 標準:約4000万画素, ワイド:約2000万画素, 望遠:約800万画素, |
|
インカメラ | 約2400万画素 |
||
対応LTEバンド | FDD LTE Band 1/2/3/4 TDD LTE |
FDD LTE Band 1/2/3/4 TDD LTE |
FDD LTE Band 1/2/3/4 TDD LTE |
対応3Gバンド | Band 1/2/4/5 |
||
バッテリー容量 | 4000mAh | 4200mAh | 5000mAh |
待受時間 | 未公開 | ||
連続通話時間 | 未公開 | ||
無線LAN対応 | IEEE 802.11ac | ||
Bluetooth対応 | 5.0 | ||
USBポート | USB 3.1 Gen.1 Type-C | ||
公称本体サイズ | 77.2(W) |
72.3(W) |
85.4(W) |
公称本体重量 | 約188g | 約189g | 約232g |
先進的な仕様の実装で差別化を図る
ワイヤレス給電は面白いが,独自メモリカードには疑問符
Huaweiの製品戦略は多彩だ。例年,数回の新製品発表を行って数多くのラインナップを維持し続け,市場セグメントに応じた製品を次々と投入していく。今回発表されたMateシリーズや,高機能カメラスマートフォンとして話題を呼んだP20シリーズなど,ハイエンド市場向けにも複数のシリーズを用意しており,ときには1つのモデルを市場別に異なる名称で販売するといった手法も駆使して,ラインナップを展開しているのだ。
ただ,Huaweiのブランド戦略と販売戦略が必ずしも一致しないように見えることもある。たとえば,今回のイベントはMate 20シリーズのローンチイベントなのだが,欧州市場においては,シリーズの下位モデルである「Mate 20 lite」が,2018年9月上旬に発売済みだ。しかもMate 20 liteは,ミドルクラス〜エントリー市場向けSoCの「Kirin 710」を採用する製品で,今回発表のMate 20シリーズとはまったく別物である。
一般論としては,上位モデルから順に製品を投入してシリーズのイメージを確立していくのが定石なのだが,Huaweiはそういう展開にはとらわれないようだ。こうした貪欲な動きが,結果としてAppleを抜き,Samsung Electronics(以下,Samsung)に次ぐ世界2位のスマートフォンメーカーとなった販売実績につながったのだろうか。
とはいえ,猛烈な速さで高機能化とコモディティ化が同時進行するハイエンド市場向けスマートフォンでは,メーカーごとや製品ごとの差異は,年々小さくなっているのが実情だ。差別化のために新奇をてらった結果,空振りに終わることも珍しくない。
実際のところ,Mate 20シリーズでも,スマートフォンそのものに驚くほどの機能はないのだが,それでもブランドのハイエンドモデルに,挑戦的な機能を果敢に実装してくるところがHuaweiのすごさでもある。
ワイヤレス充電の採用では,Huaweiは後発のメーカーで,今回のMate 20シリーズが初めてとなる。ワイヤレス充電の規格にはいくつかあるが,スマートフォンの世界では,SamsungやAppleが対応する「Qi」(チー)が業界標準になりそうだ。
ワイヤレス充電の採用自体は,ごく当たり前の展開だが,今回のHuawei製品で面白いのは,Mate 20シリーズから他のスマートフォンやQi対応デバイスに給電することも可能な点だ。理論は昔から存在していたし,実際に中国や台湾のODM,OEMメーカーが,5年ほど前からCOMPUTEX TAIPEIのような展示会などで,ワイヤレス給電機能を持たせたバッテリー内蔵のスマートフォンケースを展示してはポシャるのも見てきた。そんな機能を,フラッグシップモデルに実装してきたことに驚かされたものだ。
Huaweiがイベントで披露したスライドや製品プロモーション映像では,スマートフォンからスマートフォンへの充電がクローズアップされていた。大容量バッテリーを内蔵するMate 20シリーズからiPhoneへ給電できるという話が,ウケないはずはない。
ただ,実際には緊急避難的運用はまれで,実用上は,たとえばフルワイヤレスタイプのインイヤーヘッドフォンやスマートウオッチ,スマートバンドといったスマートフォン関連デバイスの充電に応用できるのが将来的なメリットになるだろう。
Huaweiの調査によると,iPhone XS MAXの充電速度と比べて,Mate 20シリーズでは440%の速い充電スピードを達成したとのこと。スマートフォンへの給電としては,ちょっと不安を感じるほどの大電力だが,充電の安全性は第三者機関の評価を得たものという説明があった。
ちなみに,最大40Wの給電はUSBケーブル接続の場合であり,ワイヤレス充電では最大15Wとなる。
メモリーカード周りでも,よく言えば先進的,悪く言えばかなりバクチな新機能が導入された。Mate 20シリーズは,2枚のSIMカードを装着し,同時待ち受けできるデュアルSIMデュアルスタンバイに対応するのだが,SIMカードスロットのセカンダリSIM側に,nanoSIMカードとの排他で「Nano Memory Card」(以下,NM Card)という独自のフラッシュメモリカードを装着できるのだ。
microSDカードのように,規格化団体によって標準化された規格ではなく,あくまでもHuawei独自規格なので,サードパーティの広がりや価格競争と言った点でも厳しいと思われる。現時点では,Huaweiブランドから容量128GBと256GBの2製品が登場するだけという状況だ。加えて,少なくとも現時点ではPC用のカードリーダー・ライターも存在しないので,スマートフォンをリーダー代わりにすることになるだろう。
考えられるのは,NM Cardは事実上差しっぱなしにして,本体のストレージを拡張したり,機種変更時にデータの物理的な移行手段に使うといったあたりだろうか。PlayStation Vitaの専用メモリカードの例を挙げるまでもないが,こうした独自規格を,メモリーカード関連業界との連携もなしでいきなり投入するというのは,かなり無理があるのではないだろうか。
デュアル化したNPUで食べ物のカロリーを計算?
2018年8月末に発表となったKirin 980は,AI処理専用ユニット「NPU」を,「Kirin 970」の1基から,2基に倍増したことがポイントであった。
Mate 20では,Kirin 980が搭載するNPUを,端末側でのAI処理「エッジAI」の強化に利用している。たとえば,カメラで捉えた被写体を認識して,絵画や建築物であれば,その名称や情報をGoogle検索で導くといった具合だ。
被写体となった食べ物のカロリー計算を行う機能も面白い。被写体の食べ物を認識して種類を割り出し,AR(拡張現実)機能で実物の大きさを認識すると,おおよそのカロリーを計算できるという。
スマートフォンのカメラを使った被写体の認識機能は,5年以上前にソニーモバイルコミュニケーションズが,Xperiaシリーズで「ワインのラベルから情報を表示する」機能を実装していたが,成功した機能とはいえない。エッジAIによる認識精度の向上と通信の高速化によって,こうした認識機能も再び進化を始めていくのだろう。
イベントレポートは以上のとおり,Mate 20シリーズのハンズオンについては,別途レポートする予定だ。
Huaweiのスマートフォン製品情報ページ(英語)
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