インタビュー
「Sky 星を紡ぐ子どもたち」水谷 立氏にインタビュー。音のペンキを世界に塗るオーディオデザイナーの満足度は,まだ20%
ゲーム内の効果音制作と,その魅力を伝える広報的立場も担う水谷氏。TGSでの生放送出演やコミュニティイベントでの司会役として,Skyファンなら一度は目にしたことのあるはずの人物だろう。
水谷氏には今回,「色のない世界に音のペンキを塗っていくイメージ」だというサウンド制作のこだわりをはじめ,「6年前に日本のゲーム会社を飛び出して,海外インディゲームスタジオに転職したワケ」など,なかなか興味深い人となりの裏話を聞いてきた。
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色なき世界に音のペンキを塗っていく
4Gamer:
TGSの真っただ中(※)ですが,よろしくお願いします。
はじめに“Skyにおいて二つの肩書”を持っている水谷さんが,どのような立場でなにしている人なのか,教えてもらえますか。
※インタビュー収録日は2022年9月16日。TGSの2日目のお昼すぎ
水谷 立氏(以下,水谷氏):
分かりました。まずは過去の遍歴からお話しすると,私はもともと日本のゲーム会社で約13年間,サウンドデザイン一本でお仕事をやっていたのですが,2016年にthatgamecompanyに入社するために,日本からアメリカへと渡りました。今は在米生活も7年目です。
当時はまだ,「Sky 星を紡ぐ子どもたち」が単にSkyと仮プロジェクト名で呼ばれていた時期でしたが,生業のサウンド面を担当させてもらうことになり,現在ではリード・オーディオ・デザイナーとして,すばらしいサウンドチームのメンバーたちと一緒に,Skyの音をさらに拡張させていく業務をしています。
もう一つのジャパン・ブランド・リードに関しては,サウンドとはまるで関係ない,いわゆるPR担当のようなものです。
4Gamer:
名称だけだとピンときませんが,具体的には?
水谷氏:
そちらも昔話からはじめさせてもらいますが,私が入社した2016年当時,thatgamecompanyはまだ15名ほどの小規模な会社でした。
2012年に「風ノ旅ビト」を発売して以降,次の新作となるSkyのプリプロダクションがある程度進行していたその時期,スタッフは数名を除いてみんなゲーム開発者でして,リリースに向けて20人近くに増員しましたが,それでも人材はほぼ開発側のスペシャリストだけで,“日本にゲームを広める広報的な役割の人”が存在しなかったんです。
4Gamer:
それはまた。正直,なかったレベルですか。
水谷氏:
広報機能はあったものの,日本に対しての機能は「ほぼなかった」ですね。チームとしてもまだ青く,「よい作品を作れば見つけてもらえる」といった考え方で歩んでいた時期でもありましたので。
しかし,数百,数千と新しいゲームがリリースされるこの時代,ユーザーの方々に遊んでもらうためには,メーカー側も積極的に動かないとなりません。面白いかどうかはあとの話で,まずは見つけてもらい,手にとってもらい,触ってもらう。自分は日本出身ですから,Skyという愛着ある作品を日本の方々にも遊んでもらいたいと強く思っていました。作ったのに知られないで終わってしまうのが,一番もったいないですし。
4Gamer:
そこで名乗りを上げた。
水谷氏:
はい。アプリのリリース時に日本語版の公式SNSを開設させてもらい,ゲーム内のテキストや英語版の投稿内容を翻訳して発信させてもらうなどを,サウンド業務の合間に行いました。すると次第に,応援してくださる方々が徐々に増えていって,リリースから3か月後の2019年冬には試験的に公式生配信をやらせてもらうことができました。
すると,Sky自体の知名度がまだそれほど高くなかった時期にも関わらず,配信を見にきてくれる人たちがとても多くて,数を重ねるうちに,気付けば英語圏の広報らがビックリするほどの反響につながっていて。
4Gamer:
そして肩書が増えたと。
水谷氏:
そうですね。会社からも「こういうことをもっとやってくれ!」と応援されるようになりまして,本格的に日本向けのブランディングをする役職と,そのための仕組みが生まれていったんです。
4Gamer:
御社のゲームは過去,大々的な宣伝などはせず,その芸術性と品質だけを武器に,誰もが予測できなかった奇跡的な成功を,ゲーム市場で連続して達成しました。それは事実かと思います。外の人間がこう言うとトゲに聞こえるかもしれませんが,そこはまあ,そういうことされると立場がなくなる宣伝屋のやっかみということで(笑)。
そして実際問題,それらは「作品の力だけでうまくいく」という認識と成功体験が重なっただけだったのでしょうか? もちろん,それ自体はクリエイターなら誰もが羨ましがるような成功談なのですが。
おっしゃるとおりで。
当時は社内の風潮も,ピュアなクリエイター集団といった気質が強くて,「自分たちが作るゲームは良いゲームだ」という一心でチームが動いていた節がありましたので。
4Gamer:
商売っ気がなかった?
水谷氏:
商売っ気という意味では,まるでなかったでしょうね(笑)。
4Gamer:
とはいえ,算段しても勝ち続けられない世界でそれはスゴいことです。そういった当時の姿勢にせよ,ファンに伝わるものってあるでしょうし。まあ,私の立場で「宣伝しないこともブランディングだ」などと広めるとあとで困るので,ここまでにしておきますが(笑)。
それではあらためて,リード・オーディオ・デザイナーの役割から教えてください。水谷さんはチームのまとめ役? なんですか。
水谷氏:
まとめ役というと,実情はぜんぜん違っていまして。
弊社のサウンドチームは,主に効果音を設計して実装するスタッフが私を含めて2名,音楽の作曲家が1名,サウンドプログラマーが1名と小規模でやっています。なのでチームを束ねるというより,4人全員で力を合わせて音を手がけている,といった雰囲気が近いですね。
4Gamer:
今現在も4名ですか。
水谷氏:
そうです。
4Gamer:
少数精鋭な。ではSkyに関して,厳密には違うにせよ「BGMが(すく)ない効果音主体の作品」で,どんな音を追求しているのでしょう。
水谷氏:
前提として,言語や文章のない世界で,人物の動きや効果音だけでゲームを演出する。それはスタジオ処女作の「flOw」から,「Flowery」「風ノ旅ビト」と,弊社作品で共通してきた構造です。
ときには「言葉がないから伝えたい思いがないゲーム」「雰囲気を重視しただけのゲーム」といった見られ方をすることもありますが,少なくとも作り手側である私たちは,ゲーム自体を“伝えたいメッセージを表現するためのメディア”と捉えて制作してきました。
4Gamer:
その,伝えたいメッセージとは。
水谷氏:
感情の共有だったり,他者への思いやりだったり,心でつながることの尊さだったり。そういった思いを伝えたいと考え,それらを言葉ではなくゲームデザイン,アートワーク,サウンドで表現する。
言語の代わりの手法を用いて,思いを伝えているだけなんです。
4Gamer:
8年くらい前,「CEDEC」(※)で作家の冲方 丁さんが基調講演の終了後,質疑応答で面白い言及をしたことがありました。
そのとき私も現場にいて,学生さんだったか。誰かが人気に火が着いている最中の「風ノ旅ビト」を持ち出して,冲方さんに「文字ではなく視覚に訴えかけるゲームをどう思いますか」と質問したんです。
※コンピュータエンターテインメント開発社向けカンファレンス
水谷氏:
ふむ。
4Gamer:
質問に対し,冲方さんはゲーム「ICO」,映画「2001年 宇宙の旅」などの台詞や説明が省かれた作品を提示し,「ああいう抽象的な物語は,台詞や文字がなくとも,ビジュアルに意味を込めて伝える。つまり言葉や言語のような機能を持つ記号を作っているのに等しい」と答えました。
道路標識のように,図だけで意味が伝わるものと同じ。感情を言語ではなく記号に置き換えただけで,「風ノ旅ビト」も“文字ではない動く言語を作ってるだけ”といった論旨を,今でも強く覚えていて。
※なお,4Gamerが掲載している当時のレポート記事では,基調講演終了後の質疑応答(該当箇所)がカットされていて,申し訳ない。
水谷氏:
すごく共感できるお話です。言語というのはあくまで,感情を表現するコミュニケーションのための道具にすぎません。
例えば「ビックリしたとき」。人が驚くときって,ビックリしたことを伝える言葉の発声よりも先に“ビックリした感情”が発生するものです。それを表現するのなら,テキストで「〜〜は驚いた」と表示せずとも,キャラクターの肩をビクッとさせ,効果音を鳴らすだけで,驚きの感情を等しく伝えられます。むしろ,言葉にならない驚きも表現可能です。一方で言葉ならではの表現も存在しますので,どちらがいいとかではなく,言葉がなくとも感情を表すことはできるという話なんですよね。
4Gamer:
言語じゃないからできる,プリミティブ(根源的)な表現みたいな。
それが簡単にできる手法とは思っていませんけれど。
水谷氏:
同じ意味で,効果音はゲーム内において情報を伝える役割が強いです。例えば草原を歩いているとき,足音はサクサクと鳴りますが,岩場に入るとカツカツに変わる。敵から攻撃を受けたときもそう。痛いと感じる音を鳴らすことで,プレイヤーに作中の状況を伝え,作品への没入感を高めていく。それが効果音に求められる役割だと考えています。
ですが,Skyではさらに一歩踏み込んで,プレイヤーに知ってもらいたいゲーム内ステータスだけでなく,「自分自分のアバターがどんな感情を抱いているのか」を音で表現して,アバターに共感するようになることがデザインの目標でした。
ですので一番追求していることは,感情を伝えられる音ですね。
4Gamer:
個人的に御社作品のサウンドは「絵のないアニメーション」というか,目で見えるビジュアル性はないけれど,耳で聞こえる連続性で場面を伝えてくるというか。視覚情報ではなく聴覚情報で風景を描く,みたいな。極論,グラフィックスを点と線だけにしても,サウンドだけで草原や岩場,プレイヤーの感情を伝えられるのかなって。
なんだかポエミーな感じで恐縮ですが(笑)。
水谷氏:
今おっしゃっていただいたことに,二つ面白い点がありました。
まず「風景を音で描く」という点ですが,それはまさに私が音作りするうえで考えてきたことです。私の場合は「音をペンキに見立てて世界を塗る」と言いますか……こちらもポエミーですみません(笑)。
個人的に,音のない世界は,色のない世界によく似ていると思います。音のペンキは決して目には見えませんが,私はサウンドデザインの最中,そういったイメージでSkyの世界に色づけをしてきました。
4Gamer:
ペンキですか,なるほどなるほど。
水谷氏:
もう一つ面白いなと思ったのが,アニメーションと比喩していただいた点です。これはゲームに限らず言えることなのですが,「アニメーションとサウンドはすごい近いところにある」と私は認識しています。
この二つは,静止しては絶対に表現できないものだからです。
4Gamer:
躍動感のある絵は作れても,動く絵は作れない的な?
水谷氏:
まさにそのとおりで,アニメーションとサウンドは静止した時点でなにも伝えられなくなる“時間経過が求められるコンテンツ”なんですよね。時間が流れることでポーズが変化し,表現が表出するので。
4Gamer:
アニメとサウンドは止まっていては表現できない。
しみじみと納得させられますねえ。
水谷氏:
音の場合,空間の密度や空気の圧力で発生し,変化するというより物理的な意味合いでの性質もありますしね。
それに風景を音で描く,絵のないアニメーションと言っていただけたのは,サウンド作りに携わっている身にはすごくうれしいです。
まだ,満足度20%
4Gamer:
ジャパン・ブランド・リードのほうは,具体的にどんな活動で?
水谷氏:
まず弊社から大きく発表をしていませんでしたが,thatgamecompanyは2022年春に日本法人「thatgamecompany Japan」を設立しました。
これにより,私が当初やっていた手弁当な手法からも一歩進めて,Skyの新情報や,今後のthatgamecompanyの新たな展開について,より日本の方々に「見つけてもらい,知ってもらい,触れてもらう」ための活動を広げていきます。もちろん,今Skyを遊んでくださっている皆さまに,Skyをもっと好きになってもらうための施策も検討していきます。
4Gamer:
そのなかで,水谷さんの立ち位置というのは。
水谷氏:
日本チームが掲げるミッションのために,アメリカ本社からサポートして,みなのパフォーマンスを向上させるお手伝い役ですね。
現時点では,こうやってTGSにやってきて,インタビューを受けさせてもらったり,会場から生配信に出演したりですが。
4Gamer:
あれ,日本法人設立後も拠点はアメリカのままで?
水谷氏:
ええ。私の所属は引き続き,アメリカの西海岸,カリフォルニア州サンタモニカにある本社なんです。ただ,本社チームも全員がアメリカにいるわけではなく,近年の新型コロナウイルス感染症の影響で働き方が大きく変わった結果,現在は全スタッフがフルのリモートワークに移行しています。そのためメンバーも西海岸から東海岸までの全米各州,さらにアメリカだけではなくさまざまな国・地域で従事している人が多いです。
日本法人にせよ,東京在住の人が集まっているわけではなく,北から南までさまざま,なかにはスペインで仕事している人もいます。
ですから,私たちの拠点は今は「お家」とも言えますね(笑)。
4Gamer:
国内でバラバラどころか,全世界でバラバラ。
働き方改革も一歩進んでグローバル。
水谷氏:
弊社が掲げる理念も「世界中のプレイヤーに,国家や人種などの分け隔てなくゲームを楽しんでもらう」というものですので。
時勢によるやむを得ない変化ではありましたが,年齢性差に関わらずつながれる世界を目指す以上,世界中でスタッフたちが手を取り合って仕事しているあり方は,理念に則せている気はします。
ただ,長らく同じ屋根の下で仕事していたのが,急にスタイルを変更したので,当初はさまざまな企業・団体さんも感じたのであろう,あるあるのトラブルや意思統一の難しさはありましたね。
4Gamer:
ですよね。まあ,私はもう出社できない体に進化しましたが。
水谷氏:
弊社もこれまでの試行錯誤で,ようやく適応できたところです。
けれど,スタッフ間のコミュニケーションが大変になった側面もなくはないですし,「時差」だけはもうどうにも大変で(笑)。
4Gamer:
あー。朝晩の時差で,メンバーの組み合わせによっては「終業30分前にしか顔合わせできない人」とかもいたり。
水谷氏:
まさにそれで,個々人の時差の隙間をめぐって「会議枠は早く入れたもの勝ち」な争奪戦が生まれていたりします(笑)。
4Gamer:
ところで水谷さんは当時,なぜ海外に転職したんでしょう。
日本のゲーム会社から,海外のインディゲーム会社ですよね?
水谷氏:
そこはもう単純に,当時の私が“thatgamecompanyの作品に惚れ込んでしまった”からです。あのころ私は「Flowery」をプレイして,アートもサウンドもそれまで自分がまったく知らない形式だったのに,明確な作品として成立しているところに衝撃を受けたんです。
ゲームクリア後のスタッフロールを見ているときも,面白かった,感動したといった気持ちより,「悔しい」の感情が湧いてきてしまって,目の前のスタッフロールに自分の名前がないことになぜかショックを受けて。「ここに載りたい!」「彼らと作品を作りたい!」と思い至り,気付けばthatgamecompanyのスタッフ採用に応募していました。
4Gamer:
そのときの悔しさは,「自分がやりたかったこと」が先に表現されてしまったからか,あるいは「こんなことできるなんて」と未知を見せつけられたからか。感情的にはどちらなんでしょう。
水谷氏:
面白い質問をありがとうございます。
それで言うと,私はもとからアーティスティックな作品がとても好きで,「大神」(カプコン)や「Rez」(セガ),「DEPTH」(制作:ソニー・インタラクティブエンタテインメント)といった,創意工夫がすばらしいゲーム作りに関わりたいと思っていました。
一方で「Flowery」では“ゲームでここまで感情に直接訴えかける手法があったのか”と,それまで見えていなかった概念に気付かされました。なので質問の答えとしては,アートなゲーム作りの願望と,未知の手法の衝撃を受けたのとで,「どちらも」がただしいです。
4Gamer:
単純なところでも,海外で就職するにあたり「英語が堪能」「渡航回数が多い」「留学経験がある」といった武器はあったんですか。
水谷氏:
いえ,なかったです。エンターテインメント関連は国を問わず触れていましたが,英語は大学時代まで勉強していただけで,社会人になってから10年以上も使っていませんでした。英語力もほとんどなかったです。味覚も,日本生まれの日本育ちでおでんや牛丼が大好きでしたし,海外に転職をするにあたっての武器はなにもありませんでしたね。
ただ気持ちが先行して,後先考えずに動いただけです。
4Gamer:
牛丼に後ろ髪を引っぱられる前に飛び出せたと。
考えがちな人なら,それも一つの正解なのかも。
水谷氏:
英語にせよ,誰にもおすすめはできませんが,仕事しながら勉強しながら飛行機乗りながら勉強しながらで,生活をはじめて必要に迫られたら「なんとかなるだろう」くらいに考えていました(笑)。
4Gamer:
そんな日本人が乗り込んできたthatgamecompanyは,なにを決め手に水谷さんを採用したんでしょう。雇用者側に聞くのもなんですが。
水谷氏:
なんだったんでしょうね(笑)。
それこそ,弊社のクリエイティブディレクターのジェノバ・チェンや,ジェノバとは学生時代からの明友である作曲家ヴィンセント・ディアマンテには一度聞いてみたいと思っていますが,弊社では技術職やデザイン職の人材採用時,必ず当該分野のテストを課せられます。
そこで「Flowery」や「風ノ旅ビト」で受けた感覚や,一方的な思い入れをテスト用サウンドにぶつけたのがうまく働いたのかもしません。すみません,私も採用の理由は知らないままでして。
4Gamer:
「入社したいの気持ちだけで島国からやってきた日本人」ってだけで,ドラマ的で面白がられるシチュエーションではありますが。
それこそ御社らしく,言葉の駆け引きではない,純粋な思いをくみ取られたのかもしれませんね。昔の私のように,新卒の就活時期で荒くれているかもしれない人たちの神経に触れないことを祈りつつも。
水谷氏:
前の話から,すごくいい感じにつなげてくれましたね!
そうですね。thatgamecompanyとはそのときに感情でつながることができたのかも。この言い方は今後使わせていただきます(笑)。
4Gamer:
権利は主張しませんのでどうぞどうぞ(笑)。
ちなみに,日本と海外のゲーム企業とで意識の差はありましたか。
水谷氏:
そうですねえ,どうだろう……。
4Gamer:
逆に言うと,意識の差がなかったとか?
水谷氏:
アメリカに来て以降,私が体験したのがこのチームだけなので,一概には言えないですね。日本にいたころも会社ごとにさまざまでしたし,話には聞くが体験しなかったことも多かったので。
ただ,その話でなら「ゲーム会社は国や地域ではなく,チーム(会社)ごとに意識も文化も違う」のかなと思っています。
4Gamer:
たしかに。それがしっくりくるかも。
水谷氏:
thatgamecompanyの社風で言うなら,入社当社は少数精鋭のクリエイター集団であったのと同時に,シナリオもアートもサウンドも職種が異なる人でも,20名ほぼ全員が「プログラムを兼任できる」という,小さなゲーム集団によくある一面を持っていたことでしょうか。
ですから,みんなプログラミングのソースコードを読めて書けて,グラフィックス担当だろうと自身の制作物を直接ゲームに組み込んでいたんです。当時は誰でもコードにアクセスできましたしね。
4Gamer:
それはまた,先の展開が読めますが(笑)。
水谷氏:
ええ,サウンドに関しても作った音源をどのトリガーでどう鳴らすか,サウンドデザイナー自身が調整していたんです。
私は専門的なプログラミングを学んでいなかったので,「音できました」と報告して「いいね。じゃあ鳴らしといて」と言われたとき,心底驚きました。このへんのコード見れば分かるからって(笑)。
4Gamer:
ひえぇ。
水谷氏:
そういった環境もあり,英語力を鍛えつつ,プログラミング言語も並行して学ぶはめになってしまい,当時は本当に苦労しました。
4Gamer:
今はどちらも達者ですか。
水谷氏:
いやあ,どちらも「意図が通じるくらい」ですね。
4Gamer:
それでは最後に。6年前,気持ち一つでthatgamecompanyにやってきて,今では役職を兼任するほどの立場になられました水谷さんですが。
今の自分が,当時の自分に伝えたいことはなんでしょう。
水谷氏:
えーっと,そうですねー……日本を飛び出した直後の自分と,今の自分への戒めとして言うならば,アパートを契約するにも,最低限のライフラインを契約するにも,英語が話せなくて四苦八苦して,ときには「なに言ってんだコイツ?」みたいに電話をガチャギリされて,憧れの会社でも新たな課題が立ちふさがったりして,本当に苦労ばかりの日々で「なんでこんな大変な思いをしにきたんだろう……」と落ち込むこともありましたが,そういう大変なときこそ,気付かないものってありまして。
4Gamer:
はい。
水谷氏:
当時の大変な自分にも,今こうしていられる自分にも言いたいのは,大変だと思っていたあのころ,つらいことは自分だけの力だけで乗り越えたんじゃなくて,すぐ横でサポートしてくれる家族や,日本から応援してくれた友人がいたから続けられたんだぞ,ってことです。
自分一人の力でやってこれたんじゃない。それを過去の私に説教しながら,今の私に「忘れるなよ!」と言い聞かせたいです(笑)。
4Gamer:
では,今はthatgamecompanyの一員になれて,満足していますか。
水谷氏:
満足は,してないです。やりたいことも挑戦したいことも年々増えていて,今はまだ力が足りなくてできないことも多いので,今後もチャレンジを続けていき,新しいことを身に着けると同時に「挑み続ける自分で居続けられるようになりたい」と思っています。
ですから,満足度で言うなら,今はまだ20%くらいです。
4Gamer:
そういうのが聞きたかったです。
春に日本法人ができ,今後はさらなる活動が予定されているのだろう,thatgamecompanyの飛躍に期待しております。
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