インタビュー
ミストウォーカー最新作「テラウォーズ」インタビュー。バトルシステムやアート表現に対するこだわり,気になる配信時期を開発陣に聞いた
今回4Gamerは,そんな同作の開発者インタビューの機会を得た。プロデューサーを務める坂口博信氏とディレクターの松尾 憲氏(ミストウォーカー),ディレクター兼メインプログラマーの渡邉孝一氏(アーゼスト)の3人に,本作の基本的なシステムからクレイモデル制作の苦労,本作のリリース時期や「FINAL FANTASY XV」とのコラボなどについて話を聞けたので,本記事ではそれらをまとめてお届けする。
“防衛対象を動かせるタワーディフェンス”という新しさ
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。さっそくですが,本作がどのようなゲームなのかを教えてください。
松尾 憲氏(以下,松尾氏):
ジャンルとしては,タワーディフェンスをベースにした対戦型のリアルタイムストラテジーゲームとなっています。基本となる1対1のバトルでは両プレイヤーが上下の陣地に分かれ,時間経過で増加していくコストを使ってデッキに編成したキャラクターを出撃させ,敵陣中央のキングを倒したプレイヤーの勝利となります。
タワーディフェンス系のゲームとして珍しいのは,キングを動かせることです。キングの周辺に味方のキャラクターを召喚できるので,キングを前に出せばリスクがある分,キャラクターをより敵陣の近くで召喚できます。ステージ中央には障害物となる岩などがあるのですが,キングをかなり前に出せば,岩を越えて直接敵陣にキャラクターを送り込むことも可能です。
4Gamer:
キングが動かせるというだけでも,攻めと守りの駆け引きとしては大きな要素ですね。ちなみに,制限時間以内に決着がつかなかった場合の勝敗はどうなるのでしょうか?
松尾氏:
その場合,キングの左右にいるガードとヒーラーの撃破数によって勝敗が決まります。ガードとヒーラーは動かせませんが,それぞれに異なる役割を持っています。ガードはタップすることで敵キャラクターを引き寄せ,動きを妨害することができます。敵を引き寄せているあいだは防御力が上がるので,まさに盾役となるユニットですね。
4Gamer:
引き寄せの範囲はどの程度の広さになっているのでしょうか?
松尾氏:
画面の真ん中を越えた自軍の陣地内であれば,全員引き寄せることができます。ヒーラーをタップすれば,そのときにいちばんHPが減っている味方キャラクターのHPを最大まで回復させられます。理想の使い方としては,やはりタンク役が倒れる直前に回復させることですね。一度回復を使うと,一定時間が経過するまでは回復ができなくなるので,最大HPが少ないキャラクターを回復してしまうのはもったいないですね。
4Gamer:
敵のタンクを集中攻撃するだけでなく,ある程度まんべんなくHPを減らしていったほうが,ヒーラーの回復を使いにくくさせることができる,ということでしょうか。
松尾氏:
そういった駆け引きも生まれると思います。ヒーラーを長押しすれば誰が回復対象となっているかは確認できるので,迷ったときはすぐにタップせず,いったん長押しで確認するのがいいと思います。
4Gamer:
デッキから出撃させるキャラクターたちにはどのような違いがあるのでしょうか?
松尾氏:
まず,キャラクターごとにタンクや浮遊といった種別の相性,剣や弓などの武器の相性,加えて炎や闇といった魔法相性が設定されており,それぞれに有利不利が存在します。さらに,キャラクターごとに固有のスキルを持っており,これは出撃させたキャラクターの上にあるマークが光っているときにタップすると発動できます。
ちなみに,テラバトルでもおなじみのひそ星人などは,出撃させることで小さなキャラクターが複数同時に出現します。弓矢のように,キャラクターを出撃させずに直接攻撃できるものもあるので,キャラクターやスキルの相性を読んで立ち回るのが重要になってきます。
4Gamer:
スキルにはどのような種類があるのですか?
松尾氏:
攻撃やバフ,デバフに回復,あるいは毒や混乱といったステータス異常を付与するものなど,RPGで登場するようなスキルはひととおり存在します。敵を貫通する攻撃や,ブーメランのような軌道を描く攻撃など,効果範囲もバリエーション豊富になっていますので,キャラクターごとの違いを楽しめると思います。
渡邉 孝一氏(以下,渡邉氏):
定期的にひそ星人を生み出すUFOなどもあります。スキルを使うと,一気にひそ星人を生み出してUFOは帰っていくという(笑)。
4Gamer:
これはかわいいですね(笑)。
渡邉氏:
混乱は敵を一時的に味方にすることができます。イメージとしては魅了に近いですね。混乱状態になると同時にHPが半減するので,わりとすぐにやられてしまうんですけど,逆にそれを利用してタンクのHPを削るような使い方もできます。
坂口博信氏(以下,坂口氏):
特殊なものでは,ゆっくりと飛んでいく火の玉を出すものなんかもあります。威力がものすごく高い代わりに,着弾するまでに火の玉を攻撃すれば破壊することもできるんですよ。あとはオーディンも登場するんですけど,スキルはもちろん斬鉄剣で,周囲にいるキャラクターのHPを半分に減らせます。スキル周りについては,できるだけ独自性を出せるようにしました。
ほかのプレイヤーと戦う,だけではない
4Gamer:
本作にランクの要素はありますか?
松尾氏:
もちろんあります。アリーナバトルをくり返していくとポイントが貯まり,獲得したポイントによってランクが決まります。各ランクにランキングがあって,一定周期ごとにランキングに応じた報酬がもらえ,ランクの昇格や降格も発生します。ランクが高いほどもらえる報酬も増えていく感じですね。
4Gamer:
昇格や降格はどのように決まるのでしょうか?
松尾氏:
同じランク帯にいるプレイヤーの数に合わせて,上位の何人が昇格するか,下位の何人が降格するかが決まります。ランキングの画面では自分の順位や,昇格,降格範囲内にいるかどうかをすぐ確認できるようになっています。
4Gamer:
チャンスバトルという要素もあるそうですが,こちらはどういったものなのでしょうか?
坂口氏:
対戦ゲームですから,普通は相手と対戦しますよね。ただ,ときどきチャンスバトルが発生して,このときは協力プレイになるんですよ。本来は対戦するはずだった相手と,ふたりで協力してAIを倒すんです。しかもこのバトルに勝利すると,報酬が多めにもらえるんですよ。
4Gamer:
いわゆる共闘バトルのようなモードになるんですね。
坂口氏:
そうです。チャンスバトルになるときはメニュー画面のボタンが光るので,その予兆があったらフレンドに対戦を持ちかけて,ある意味報酬をおすそ分けすることもできます。
4Gamer:
アリーナバトルのランク上げに集中したい人には,チャンスバトルの時間がもったいないと感じる人もいるのではないでしょうか?
渡邉氏:
クローズドβテストでもそのような声は多かったので,チャンスバトルでもアリーナと同じような実入りがあるようにしています。勝利すればアリーナのポイントがふたりに入るので,かえってチャンスバトルのほうがポイントを手に入れやすい部分もあります。チャンスバトルには種類がいくつかあって,上位のものになるほど敵が強くなりますが,そのぶん報酬も豪華になっていきます。
リリース時にはFFXVコラボでチョコボたちも登場
4Gamer:
ちなみに,リリース時には何かコラボは入りますか?
坂口氏:
リリースと同時に「FINAL FANTASY XV」とのコラボがスタートし,チョコボやモーグリ,サボテンダーが登場します。チョコボたちの入手方法は,先ほどお話をした突然発生する「チャンスバトル」で,チョコボたちがボスとして登場し,うまく倒すことができればプレイヤーが使えるキャラとして仲間になるという形です。
4Gamer:
珍しい方式ですね。チョコボと会えればラッキー。
坂口氏:
そうですね。チャンスバトルは,通常のアリーナバトルのような「対戦」ではなく,プレイヤー同士が「協力」してボスのチョコボに立ち向かいます。倒せば,プレイヤー2人ともがチョコボを入手でき,チョコボのランクを成長させられるんです。アリーナバトルを繰り返していると,チャンスバトルがたまに発生するので,どんどん挑んでみてください。
4Gamer:
今後,FINAL FANTASY XV以外のコラボは予定されていますか?
坂口氏:
予定はありますが,まだ具体的には進んでいない状態ですね。リリースしてから具体的にしていきたいというところですね。
フレンド機能も充実
4Gamer:
フレンド機能はどのようになっていますか?
坂口氏:
しっかりと搭載していますよ。定型文でのやり取りやフレンド同士のバトルもできますし,キングを育てるためのアイテムをフレンドにリクエストしたり,おすそ分けしたりすることもできます。フレンドのリクエストに応えると自分にも見返りがあるので,お互いにお得な感じですね。フレンドと楽しめる大会機能なども実装しています。
松尾氏:
1対1のバトルだけでなく,2対2のバトルも申し込めるようになっています。2対2の場合ガードとヒーラーは登場せず,敵味方のキングが2体ずつ出てくる形となります。普段のバトルとはまた違った戦略性が生まれてくると思いますよ。
4Gamer:
対戦後にはスタンプを送り合えますが,こちらをミュートできる機能はありますか?
渡邉氏:
現時点では実装していないですね。
4Gamer:
ポジティブなイメージのスタンプも,状況や使い方によっては,いわゆる煽りに感じられることがあるので,個人的にはミュート機能は欲しいなと思います。対人系のゲームだとスタンプで精神を乱されることが多いので(笑)。
坂口氏:
なるほど。相手の精神を乱していく作戦はいいですね,じゃなくて(笑)。
4Gamer:
こちらがミュートしていることが相手にも分かる形だとスマートかもしれません。そうでないと,相手の挨拶を無視しているような感じになってしまうので……。
坂口氏:
確かに,ミュートしていることが伝わっていないと寂しいことになりますね。
シナリオモードのバトルは独自のギミック満載
4Gamer:
本作のシナリオモードはどの程度のボリュームなのでしょうか?
坂口氏:
全10章,1章につき5話という形で,リリース以降徐々に開放していきます。シナリオのクリア報酬などで,さまざまなアイテムやキャラクターを入手できますよ。テキストの出し方はテラバトルと同じような仕組みにしています。
4Gamer:
今回はテラバトルの世界から1000年後という設定になっていますね。
坂口氏:
そうです。テラバトルのキャラクターたちがコールドスリープの状態から目を覚ますと,自分たちと同じような姿の赤い目をした奴らが襲ってくるんですよ。自分たちの分身のような,でも死ぬと赤いゼリーに変わっていく相手と戦いながら,その謎を解いていくというお話です。
松尾氏:
テラバトルとは違って各キャラクターにセリフがあるので,それぞれの個性を感じてもらえると思います。
坂口氏:
テラバトルだと,そのシーンに誰がいるか分からないこともありましたけど,今回はシナリオモードに限って,キャラクターを立てています。ガードとヒーラーのふたりが主人公格で,彼らが1000年戦士と呼ばれるサマサたちを起こして,戦いに挑んでいくという感じです。
松尾氏:
ストーリーの節目でバトルが入るのですが,アリーナバトルには存在しない独自のステージギミックを用意しています。たとえば風によってキャラクターの移動が速く,あるいは遅くなったり,通路にブラックホールが出現してキャラクターが一瞬で飲み込まれてしまったりなど,ステージごとに内容はさまざまです。
坂口氏:
ストーリーでのバトルは戦う前に敵のデッキを見られるので,相手の特徴を見てから戦略を立てることもできますよ。
松尾氏:
デッキはいくつか作成できて,そこから自由に選べます。速攻型や耐久型など,敵の特徴に合わせたデッキで挑むといいですね。
4Gamer:
対戦相手が人ではなくAI,というだけでなくギミック面でも大きな違いがあるのですね。ちなみにステージギミックをアリーナバトルに取り入れる予定はありますか?
坂口氏:
今のところ予定はないです。ただ,入れようと思えば入れられるので,そこはリリースしてからの反響次第ですね。
松尾氏:
各章の最後では,ボスとの戦いになります。シナリオモードでは完全勝利の条件があって,ボス戦の場合はキングだけでなく,ボスやガード,ヒーラーもすべて倒す必要があります。
4Gamer:
キングを倒したら終了,というわけではない,と。
松尾氏:
そこはアリーナバトルと違うところですね。順番は自由ですが,敵を全滅させないとクリアにはなりません。
4Gamer:
アリーナバトルとはだいぶ感覚が違ってきそうですね。
坂口氏:
全滅させないといけないですからね。もちろんシナリオモードでは徐々に敵が強くなっていく感じですが,初めてのボス戦とかはギミックに驚かされるかもしれないですね。たとえば,リッチ戦だと死の宣告が発動して,カウントダウンが終わるまでにリッチを倒さないと,ステージ自体の制限時間が残っていても敗北してしまったりします。
松尾氏:
おそらく,ボス戦は1回目で仕組みを理解して,負けたらギミックも戦略に組み込んで再挑戦,という形になると思います。
全キャラクターが最大レベルまで成長可能
4Gamer:
ストーリーは自由に読めるのでしょうか?
坂口氏:
ある程度対戦をしてほしいというのもあって,ストーリーを読む際にはアリーナバトルで手に入るコインを消費するようになっています。
4Gamer:
ゲームの主軸はあくまで対人戦にあるということですね。
坂口氏:
そうですね。
アリーナバトルに勝つとカプセルが手に入って,キングやガード,ヒーラーを撃破した際に入手できるスターを使ってカプセルを開けると,コインやキャラクターの成長に必要な素材などが手に入ります。
坂口氏:
スターは一定時間が経過するごとにも増えていくので,バトルをしなくてもカプセルを開けることはできます。時短要素として,スターを使う代わりに有料でもカプセルを開けられますね。
松尾氏:
キングを倒すとスターが3つ手に入るのですが,バトルが拮抗するようになってくると,キングを倒すのが難しくなってくるんですよ。なので,だんだん1回のバトルで手に入るスターが減ってきて,カプセルがたまりやすくなってくると思います。
4Gamer:
キャラクターの成長要素についても教えてください。
坂口氏:
キャラクターの成長要素はクラスとレベル,スキルレベルの3つがあります。どの要素もキャラクターによる差はなく,全キャラクターが最高レベルまで育成できます。レベルとクラスは独立した要素なので,レベルをマックスにしなくてもクラスアップが可能ですよ。
ガチャにはテラバトルと同じ打ち止め方式も採用
4Gamer:
ガチャには何か特徴がありますか?
すべてではありませんが,一部のガチャは打ち止め方式にしました。クラスが最大まで上がったキャラクターは排出されなくなるという,テラバトルと同じものですね。最初はとくに,この打ち止め方式のものを多めにしています。無料の10連ガチャなども最初から実施していく予定です。
4Gamer:
ガチャを引いた後のBGMが意外とポップですね。
松尾氏:
サンバ的な感じがありますよね(笑)。出てくるレアリティによってガチャを引く前の演出もいろいろあるので,そのあたりも楽しんでもらえればと思います。ピックアップされいるキャラクターは数体をまとめて手に入る可能性があるので,かなりお得になっていますね。
坂口氏:
音楽で言えば,植松(伸夫)さんが作曲をしているんですけど,じつは植松さんが休養する前に全曲完成していたんですよ。ゲームとしては久々に全曲植松さん作曲のものになるので,音楽にも注目してほしいですね。
4Gamer:
カプセルの時短開封やガチャ以外の課金要素はどうでしょう。
松尾氏:
いわゆるショップ機能ですね。ショップではガチャに必要なエナジーや,ストーリーの開放に必要なコインなどが購入できて,特典として育成用アイテムとの交換に使用するアイテムコインなどが付いてきます。
4Gamer:
スターターパックがものすごく安いですね。
坂口氏:
1回しか買えないパックなので,気軽に買ってもらえるように安くしました。
松尾氏:
ほかにも,ログインするだけでエナジーなどがもらえるようになる,ログインボーナスパックなども販売しています。
4Gamer:
もともとはこの価格だったのがこれだけお得,と値段で実際に表示されるのはうれしいですね。このあたりの表示がないタイトルが多くて,たまに本当にお得なのか計算したくなるじゃないですか(笑)。
坂口氏:
そこで嘘ついてたら大問題だよ(笑)。
気になるリリース日は……
4Gamer:
すでにリリースされている対戦型リアルタイムシミュレーションゲームと本作の違いや,とくにこだわった部分などについて教えてください。
坂口氏:
最大の魅了はやはり,クレイやジオラマでゲーム内世界を構築した,とにかくリッチなアート表現ですね。ゲームの部分では,「キングを動かしたらどうだろう」という発想からして大きな挑戦でした。最初はガードやヒーラーの役割が違ったり,キングと同じように動かすことができたり,陣取りモードを入れてみたりと,いろいろと実験しながらの開発でした。
4Gamer:
それらは実際に機能として実装して試したのですか?
坂口氏:
そうです。本当に渡邉さんにはものすごく苦労をかけました。どんだけ企画を変更するんだろ(笑)。試行錯誤をくり返して,独自性もあって煮詰まったものになってきたので,そこから先はひたすら対戦ものとして面白くなるように……地道な作業でしたね。
4Gamer:
ちなみに,企画がスタートしたのはいつごろだったのでしょうか。
坂口氏:
スタートはちょうど2年前,2016年の夏ですね。当初は2018年夏にリリースできそうな気配だったんですが,開発が難航して思いのほか伸びてしまいました。
4Gamer:
リリース時期はそろそろ固まってきましたか?
坂口氏:
正式サービスは7月1日に開始する予定です。前日(6月30日)からは事前ダウンロードを開始するので,プレイヤーネームを決めたり,追加リソースのダウンロードなどが行えます。
かわいらしさを追及したクレイモデルのこだわり
4Gamer:
しかしあらためて見ると,クレイモデルがびっくりするくらいしっかりと作り込まれていますね。
坂口氏:
けっこう頑張ってくれましたね。髪や後ろ姿もしっかり作ってあって,すごいと思います。
4Gamer:
クレイモデルを1体作るのにどれくらいの期間がかかるのでしょうか。
松尾氏:
ものによりますが,2週間から4週間ほどですね。やはり複雑な模様などが多いと制作にかかる時間も長くなってしまいます。
渡邉氏:
以前試しに粘土を借りていじってみたんですけど,全然できなかったです。図工レベルでした(笑)。
そんなすぐにできるわけないじゃん(笑)。指輪や眼鏡といった小物は別の素材で作ってあったりして,本当にこだわりがすごいですね。ゲームだとそこまでは映らないんですけど(笑)。
4Gamer:
そもそも,なぜクレイモデルにしようと考えたんでしょうか。
坂口氏:
やっぱりこのかわいさが大事かな,と思ったんですよ。かわいいものは何か,と考えたら,やっぱりクレイアニメを思い浮かべるじゃないですか。ストップモーションの動きも含めて,独自のかわいさがありますよね。ピングーとかが分かりやすい思いますけど。
4Gamer:
確かにクレイアニメは,CGともアニメとも違う質感がありますね。
坂口氏:
そこでアレコレ調べていたら,すごい腕前の人に会うことができたんですよ。彼らのオフィスは浜松にあるんですけどね。
4Gamer:
クレイとジオラマはどちらが先に決まったのでしょうか?
坂口氏:
同時に決まったことではあるんですけど,どちらが先かと言えばクレイモデルですね。まずキャラクターをどうしようか,というところからスタートしたので。
4Gamer:
クレイモデルを作るうえで,どんな苦労がありましたか?
やはり,1体目はどういう風に作ればいいのか,という部分で悩みましたね。
坂口氏:
最初に作ったのはサマサでしたね。どれくらいかかったっけ?
松尾氏:
サマサだけで2か月くらいかかりましたね。とにかく顔が決まらなかったんですよ。設計図があって,それをもとに何度かプロトタイプを作ってもらったんですが。
坂口氏:
その設計図もゲーム中で見られますよ。もとがもう少しリアル寄りな頭身だったので,あれを立体化するというのは大変だったと思います。
松尾氏:
あとは髪の毛ですね。最初は塊的に作って,そこに線を引いていくような形にしていたんですけど,どうしても束の感じというか,動きを出したいというのがあって,ひと束ひと束をバラバラに作る形にしたんです。
4Gamer:
クレイモデルでこういう髪の作り方は,あまり見ない気がしますね。
松尾氏:
女性キャラはとくに,顔の形とかのちょっとしたニュアンスで印象が決まるじゃないですか。そのぶん顔が決まるまでは長かったんですけど,逆にその後はスムーズでしたね。身体に関しては,クレイモデルをどう動かすかということで,どの関節を動かすか,機構をどうするか,というところがポイントでした。
4Gamer:
可動部分はどのように決めたのですか?
松尾氏:
基本的には肩と脚の付け根だけを動かす形になっています。3面図で用意したキャラクターを再現しようとすると,動かせるのはそのふたつだけだ,となったんですよ。
ペペロペ |
ユッカ |
クスカ |
ピッツファー |
シグア |
パルパ |
バル |
ヘータ |
坂口氏:
攻撃のモーションとかに関しては,腕を付け替えて肘を曲げさせていたりしますね。粘土が固まってしまうので,関節を自由に曲げたりはできないんですよ。
松尾氏:
あとは,キャラクターによっては腰の部分もひねりをつけられるようになっていたりします。
4Gamer:
クレイモデルのサイズ感は最初からこの感じを想定していたんでしょうか。
松尾氏:
最初から,というよりは結果的にこのサイズに落ち着いた感じですね。
坂口氏:
粘土に色を混ぜて,粘土自体の色を変えていくらしいんですけど,時間が経つと粘土が乾いちゃうんですよ。なので,乾くまでの時間で組み上げないといけなくて,その時間的な作りやすさと装飾のしやすさでちょうどよかったのがこのサイズ,ということですね。
4Gamer:
ひとりのキャラクターの設計図ができてからストップモーションの撮影が終わるまでは,どれくらいの時間がかかるのですか?
松尾氏:
3,4体を並行して制作していただいていますが,設計図ができてからだと,1か月半くらいですね。
坂口氏:
意外とかかっているんですよね。だから最初はゲーム本編に間に合わないだろうという話になって,後半のモデルは運営しながら作っていくこともあり得ると思ったんですけど,結果的に開発全体が遅れちゃったという(笑)。
二度と再現できないジオラマの世界
4Gamer:
キャラクターのモデルもですが,ステージがジオラマで作られているというのもすごいですよね。
松尾氏:
ジオラマは配置している岩などがすべて動かせるので,細かく調整しています。砂粒や液体系の部分は,部屋の湿度などで気泡が出たり汚れたりするので,今ゲームに入っている形はもう二度と再現できないんですよ。これはクレイモデルも同じですね。こちらも時間で色褪せてしまうので。
4Gamer:
ある意味,時代に逆行する作り方かもしれませんが,ビジュアルから感じられる存在感がすごいですよね。
松尾氏:
展示会なんかもやりたいね,という話もしているんですけど,毎回配置が変わっちゃうんですよね(笑)。鉄道模型で使うような粉だったり塗料だったりも使っていて,本当に生きている感じがあると思います。実はテラバトルのシーンを再現している場面もあるので,テラバトル経験者は楽しみにしていてください。
紆余曲折の末に生まれたバランス
4Gamer:
ゲーム開発では,どのような苦労がありましたか?
渡邉氏:
キャラクター面では,歩きのモーションだけをとっても,全アングルからのストップモーションのデータが入っているので,今時の3Dゲームと比べても,かなり贅沢な作り方をしているんですよね。ストップモーションならではの動きを感じてもらえればと思います。
坂口氏:
普通だと3Dのモデルデータがあって,それを計算で動かすからデータが軽いんですよ。でも今回は一挙一動がすべて写真データを基にしているので,ディテールがそのまま生きる分,データとしてはリッチですね。
4Gamer:
データ容量が大きくなってしまいそうですが,そのあたりはどう対応しているのでしょうか。
今まさに最適化を進めています。データはキャラクター,ステージ,UI周り,設計図などの画像を分けてあって,それぞれでダウンロードできるようになっています。
坂口氏:
あとはやっぱり,バランス調整やゲームのルール作りの部分で苦労をかけましたね。基本的に僕はスクラッチビルド派なので,変更の量は本当に多かったです。
松尾氏:
これまでに作っていた仕様でゲームモードを作れそうですよね(笑)。
坂口氏:
本当にね。捨てた部分がとにかく多いんですよ。分かりやすいものでは陣取りモードですね。一時期はガードが攻撃できる仕様だったんですけど,そうするといかにガードで倒していくかのゲームになってしまって。アニメーションパターンまで撮ったんですけど,これはダメだね,って(笑)。
松尾氏:
今はガードとヒーラーが固定されていますけど,先ほどちらっと話したように,配置を自由に変えられる時期もありましたね。
4Gamer:
ガードとヒーラーが固定になったのは,プレイを複雑化させすぎないためでしょうか?
坂口氏:
そのとおりです。要素が多すぎるとゲームとして分かりにくくなるので,そこはある程度カットしました。シンプルだけど戦略性が高い形に落とし込めたと思います。
4Gamer:
ちなみに,陣取りモードが今後ゲーム要素として実装される可能性はありますか?
坂口氏:
プロトタイプのちょっと上,ぐらいまでは作ってあるので,可能性としてはあるかもしれないですね。大会モードをしっかり作るということは決まっているので,まずはそちらを完成させてからですね。
テラウォーズからテラバトルへ
4Gamer:
本作はテラバトルから1000年後の世界を舞台にしていますが,テラバトルを触っていないプレイヤーでも問題なく楽しめますか?
坂口氏:
テラバトルを知らない人でも楽しめるようにするために,舞台を1000年後にしたという部分もあります。登場するキャラクターは同じなので,テラバトルを遊んでいた方はそういった部分も楽しめると思います。今回は本人たちがセリフを喋るので,もしかすると自分のイメージと少し違うということもあるかもしれませんが,それはそれで楽しんでいただければと。
4Gamer:
テラウォーズ内でテラバトルとリンクする要素はありますか?
坂口氏:
実はテラバトル2のストーリーの完全版を作っているんですよ。テラバトル2ではシナリオを全部語れていなかったので,挿絵も新規に追加しつつ,テラウォーズ内で読めるコンテンツとして再編集したものを実装予定です。なので,テラバトルのキャラクターが出てきて,テラバトル2の話も読めて,テラバトルから1000年後のお話も読める,というゲームになっているんですよ。
4Gamer:
集大成ですね。逆にテラウォーズからテラバトルに入っていくパターンもあるかもしれないですね。
クローズドβテストの参加者にも,テラウォーズが配信される前にテラバトルのストーリーを読みなおそうという方や,テラバトルに興味を持ったという方が一定数いらっしゃいましたね。
坂口氏:
テラバトルはもうアップデート自体は終了していますけど,逆に全イベントが開放されていて,コラボ系のイベントもオープンされている状態なんですよ。広告を見るとエナジーが手に入るようになっているので,ほぼ無料で遊べるんですよね。
4Gamer:
逆に自分のペースで遊びやすい状態になっているんですね。
坂口氏:
そうです。変な話,新キャラクターの追加もないので,安心して遊べるんですよ(笑)。ある程度閉じたバランスのなかで,それこそコンシューマゲーム的に遊べると思います。テラバトルはあのスタイルでしばらく残しておきたいなと思っているので,テラウォーズきっかけで遊んでもらえるとうれしいですね。
新たな戦略性の広さを楽しんでほしい。そして語られる坂口氏の野望
4Gamer:
では最後に,テラウォーズの配信を楽しみにしている方々へのメッセージをお願いします。
渡邉氏:
これだけバリエーション豊かなキャラクターたちが,かわいいクレイモデルでわらわらと動くので,キャラクター感という点でも非常に楽しめる作品になっていると思います。これまでに出てきたリアルタイムシミュレーションゲームと呼ばれているジャンルのタイトルに比べて,そういったキャラクター性の強さに加えて,シナリオモードがしっかり入っていたり,ボスが出てきたりと,さまざまなチャレンジを行っている作品なので,ぜひ楽しんでいただきたいです。
坂口氏:
プログラマーとしてのコメントもしておいたほうがいいんじゃない?
そうですね。2対2での対戦が入っていたり,チャンスバトルによる共闘要素があったりと,対戦の仕方についても本作独自の部分があるので,これまでのリアルタイムシミュレーションゲームにはなかった戦い方ができると思います。最初は少し戸惑う部分もあるかもしれませんが,実際に触って,この新しいゲーム性を体験してみてください。
松尾氏:
先ほども話に出たとおり,作り直した部分がかなり多くて,ゲーム内で確認できるキャラクターのパラメータは7種類ほどなんですけど,開発的に存在しているパラメータはそれこそ数百種ぐらいあるんですよ。今では使っていないものももちろんあるんですけど,作り直すたびに,使っていなかったこっちのパラメーターを活用しよう,みたいな感じでさらっと対応していただいて,渡邉さんの力に甘えていたところはありますね(笑)。
渡邉氏:
そんな紆余曲折を経て,スキルも一般的なRPGにあるような要素はほぼ網羅できましたので,開発陣ですらまだ確認しきれていないほどの戦略性を楽しんでいただければと思います。
対戦主体で遊んでいくゲームなんですけど,キャラクターたちの見た目もかわいいので,負けたときもちょっと気持ちは和らぐかな,と思います。とにかく対戦が楽しめるようなゲームを目指していきたいですね。対戦だとどうしてもギスギスしてしまうところがあったりするので,チャンスバトルによって,本当は対戦するはずだった相手と仲間になる体験を経て,プレイヤー同士の仲が深まるようなものを作っていきたいなと思っています。
キャラクターはどれも個性的なので,数が増えると覚えるのが大変かもしれませんが,その分,組み合わせ次第でこんな戦略もあるのか,という発見が楽しめると思います。クローズドβテストでも,普通なら攻撃に使うスキルをあえて陽動に使って別のキャラクターで一気に攻める……というような作戦が生まれたりしていたので,そういった戦略性も楽しみながらプレイしていただければうれしいです。
4Gamer:
楽しみにしています。では最後に,坂口さんから締めのひと言をお願いします。
坂口氏:
僕には最大の野望があって,やっぱり,チョコボやモーグリ,サボテンダーに並ぶキャラクターとして,ひそ星人を大成させたいんですよ。その想いで今ここに立っているわけです。
4Gamer:
そこですか!?(笑)
松尾氏:
テラウォーズではローディング画面をはじめ,随所にひそ星人が出てきますからね(笑)。
坂口氏:
個人的に,一生の課題だと思っているのはキャラクターをヒットさせることで,スクウェア時代もチョコボをすごく売りたかったんですよね。今回はひそ星人を強力に推していきたいです。でも,一時期僕の愛が変な風に伝わっちゃって,ひそ星人が強くなりすぎちゃったんですよね。弱体化したいけどできない,みたいな感じになっちゃって(笑)。
渡邉氏:
ひそ星人の声も坂口さんの声ですしね。
4Gamer:
そうなんですか?
坂口氏:
テラバトルのときから僕ですね。僕が「ひそひそ」と言ったものをフィルターにかけています。
渡邉氏:
今回はあらためて収録した新バージョンになっているんです。
4Gamer:
ということは,テラウォーズがアニメ化された暁には,坂口さんも声優デビューですね(笑)。
坂口氏:
ひそひそ,で感情表現はちょっと難しいな(笑)。最後のコメントがこれで大丈夫ですか?
4Gamer:
ある意味締まったと思います(笑)。本日はありがとうございました。
―――2019年5月20日収録
キーワード
(C)MISTWALKER/(C)ARZEST
(C)MISTWALKER/(C)ARZEST