レビュー
「ライフ イズ ストレンジ」と,その前日譚「ビフォア ザ ストーム」のネタバレありレビュー。プレイヤーの選択が2人の少女の物語を形作る,新しいドラマのカタチ
発売から1か月強が経過し,初回のゲームプレイを終えて,2周目以降のパラレルワールドを楽しんでいる人も多いかと思う。そこで今回は,シリーズ2作品とボーナスエピソードを通してプレイし,それぞれの特徴やストーリー構成,登場人物などに関する考証を交えたPS4版のレビューをお届けしたい。なお,記事中には一部明らかなネタバレも含んでいる。これからプレイする人もいるかと思うので,ストーリー的なネタバレが含まれる項目は区切って執筆した。またゲームのスクリーンショットについては,それぞれLIS,BTSと記述している。
結末に至るまでの選択を楽しむ,新しいカタチのアドベンチャーゲーム
LISとBTSの2作品はいずれも,近年のアドベンチャーゲームの新たな方向性の一つになりつつある,“選択によってストーリーが自然な形で変化していく”という特徴を備えている。ゲーム中に現れる重要な選択肢のどれを選んだとしても,それに準じた物語が発展していく仕組みで,唐突にバッドエンドを迎え,ゲームオーバーになってしまうようなことはない。
ゲームは章立てで構成されていて,原則的には次章へと続くための同じ結末を迎えることになるわけだが,そこに至るまでの展開が選択によって異なり,プレイヤーによって物語の印象がかなり変わることも珍しくない。
またゲーム中は要所に主人公を移動させるシーンが挿入され,ここでの会話や行動によるちょっとしたフラグ立てが,後の物語に影響を与えることもある。ゲームをどんなペースで進めるかはプレイヤーの自由だ。とくに初回に関しては,ゲーム的に「正しいルート」のようなものを意識して進めるのはナンセンスだと個人的には思う。まずは自身の直感に任せた展開を楽しんでいくのがいいだろう。
アドベンチャーゲームとして共通する特徴を持つ2作品だが,根本のゲームシステムはまったく違うものだ。
LISの主人公であるマックスは,ストーリー中のとある出来事により,時間を操る2つの特別な能力が開花し,それらがゲームシステムの一部として構築されている。その一つが「時間を巻き戻す」という能力で,マックスが行動できるタイミングで特定のボタンを押すと,彼女の居場所や持ち物などはそのままに,彼女の周りの出来事が映像を逆再生するように巻き戻っていく。
最もオーソドックスな能力の使い方に,選択肢を選んだ後の結果を見て時間を戻し,選び直すという使い方がある。これだけではセーブ&ロード機能とさほど変わりがないが,シーンによってはリアルタイムで起きている出来事を観察し,その結果に対して繰り返し時間を巻き戻して,マックスが何かしらの干渉をすることで未来を変えるという,パズルを解くような使い方もあり,本作の醍醐味にもなっている。
そしてもう一つが,写真を「フォーカス」することによるタイムリープだ。これを行うとマックスが写真に写っている場所と時間へとワープし,その時代のマックス本人となって行動することで,未来を大きく変えられるというものだ。
それ自体はある種のイベント的な意味合いが強く,特定の場所だけで行えるもので,タイムリープした先での小さな行動が大きな波紋を生み(バタフライエフェクト),別の世界線を形作るという,映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のような展開を体験できるのである。
SFテイストが強いLISに対し,続編のLIS BTSはもっと現実的だ。主人公にマックスの親友であるクロエを据えた本作は,彼女自身が持つスキル「バックトーク」をゲームシステムとしている。
これは相手の言葉尻を捉えて論破する,いわゆる“論戦”で,画面に特定のアイコンが出たときに,プレイヤーの意思で実行するものだ。バックトークが始まると,画面に自分と相手の会話の押し具合を表すゲージが表示される。相手の会話に応じて現れる選択肢をゲージ中央の砂時計がなくなる前に選ぶことで,クロエがそれに準じた返答を展開。より押しの強い返答ができればクロエ側,逆に返されてしまったときは相手側のゲージが1個塗り潰され,先に中央にたどり着いたほうが論戦の勝者となり,その結果に応じたストーリーが展開していく。
バックトークのゲージは,ときに相手側の丸印が極端に少ないこともあり,このときミスが許されない緊張感の高い選択を強いられることになる。前作のような巻き戻しはできないため,直前の相手の言葉と選択肢の紐付けが勝利のカギを握っている。
ゲームは2作品とも,各エピソードクリア後に,チャプターごとの「パラレルワールドでプレイ」と「やり直し」を選択できるようになっている。前者はそれまでの展開に応じたチャプターだけをもう一度プレイするもので,セーブデータに影響を与えず,該当チャプターの違った展開を楽しめる。後者はチャプター自体をやり直すものでセーブデータに影響を与えるものだ。これにより選択肢やシステムによるストーリー展開の変化も容易に楽しめるのである。
オレゴンの田舎町を舞台に描かれる,3人の少女の青春群像
独自のシステムを備えたこれら2作品だが,ストーリー自体は直結しており,アメリカ・オレゴンの架空の田舎町「アルカディア・ベイ」が舞台で,登場人物の一部は共通している。時間軸としてはLIS BTSはLISの3年前を描いた物語であり,タイトルにあるの「ビフォア ザ ストーム」は,LISの劇中で発生した嵐の前ということ意味している。
LISの主人公マックス(マクシーン)・コールフィールドは,「ブラックウェル・アカデミー」に通う写真家志望の18歳。内向的かつオタクな性格で,一部の親しい友人以外とは多少の距離を置いて接している。またプレイヤーだけに聞こえてくる心の声は意外と毒舌だったりもする。13歳のときに家族の都合でシアトルへと引っ越したが,ブラックウェル・アカデミーへの進学が決まり,地元に戻った。LISでのとある事件によって,時間を司る2つの能力を得る。
そんな彼女の親友が,クロエ・プライスだ。マックスより1歳年上で,かつてはブラックウェルに通っていた。だが,親友マックスが引っ越しで町を去り,同時期に父親を事故によって亡くした失意から生活が荒れ,学校も退学処分となってしまう。マックスとは対照的なまっすぐな性格で,かつては科学に才能を見出していたことから,同級生からは一目置かれている存在でもある。頭の回転が早く,論戦で相手の言葉尻を捉えて反撃する話術は,彼女が主人公となるLIS BTSのバックトークのシステムを象徴している。
そしてもう1人,両作品において重要な存在となるのが,レイチェル・アンバーである。学校中の誰からも好かれる才女で,LIS BTSではとある事件をきっかけにクロエと親しくなり,以降彼女をヒロインとした物語が綴られていく。一方,先に発売されたLISでは,彼女はマックスが町に戻る2年前から行方不明となっていて,物語には名前と写真しか登場しないが,クロエが現れたことにより,その親友だったレイチェルの存在が物語の中で次第に大きくなっていく。続編のLIS BTSをプレイすることにより,クロエとレイチェルがどんな関係にあったのかもわかるという流れだ。
学校が舞台となる作品ではあるものの,田舎町ということもあって,主要な登場人物はそれほど多くなく,そのほとんどがこの3人を知っている状況にある。2作品の間には3年の月日があり,立場も違う2人の主人公の視点から見る人物を対比するのもなかなか面白かった。
LISとLIS BTSのストーリー解説
さてここからはネタバレを含めたストーリー解説に入ろう。
PVなどでは,アメリカの若者達の青春ドラマを匂わせているLISだが,本編のいきなりの大嵐から始まるオープニングはなかなかセンセーショナルだ。これはマックスが見たリアルな夢だったわけだが,その後彼女は何度か同じ夢を見ることとなり,能力の開花によってそれが予知夢だということを少しずつ認識していく。先に話してしまうが,クライマックスではこの嵐に関わる大きな選択がプレイヤーを待ち構えている。
憧れの名門校での生活に今一つ馴染めず,授業についていくのもやっとな状態だったマックスだが,かつての親友クロエとの再会が,彼女に大きな影響をもたらすこととなる。5年間のブランクで最初はぎくしゃくしていた2人だったが,時間を巻き戻す力でクロエを救ったことを打ち明けたことでわだかまりは解消。元々相性のよかった2人であり,その後は見ていて微笑ましくなるほどの名コンビぶりが描かれている。
彼女との再会以降,物語は学校や田舎町におけるヒエラルキーが絡む青春ドラマから,失踪したレイチェルの手がかりを追うサスペンスへと少しずつ変化。その流れの中に時間を操るというSFテイストが加わり,プレイヤーを引き込んでいく。とくにエピソード3のラストでマックスがタイムリープを身に付けてからは,彼女が過去に干渉するたびに未来がめまぐるしく変わり,予想もしなかった世界線が構築されるという,この手のタイムトラベルものにつきものである,先の見えない期待と不安を体験することとなる。しかもその中心には常にクロエが存在しているというのも見逃せないところだ。
一方LIS BTSの物語はもっと現実的でハードだ。2年前,父親と親友をいっぺんに失い,自暴自棄気味の生活を続けていたクロエは,工場でのアンダーグラウンドなライブで,学校イチの優等生であるレイチェルと意外な形で出会う。そして,彼女の普段は表に出さない気性に振り回されながらも,急激にその仲を深めていく。
物語にはもう1人,「セラ」という重要人物が登場する。腕にタトゥーを入れている痩せた中年女性で,彼女がレイチェルの父親とキスをしているところを2人が目撃したことが,その後の物語に大きなうねりを巻き起こしていくのだ。このときアルカディア・ベイには大きな山火事が発生していて,その火の手が少しずつ広がるように,事件が大きくなっていく様子は本作の見どころにもなっている。
両作品を通じて思うのは,クロエが気の毒なほどの「巻き込まれ体質」として描かれているということ。LISでは冒頭から生死に関わる事件に遭遇し,マックスのタイムリープによっては,死ぬよりも辛い未来が待ち受けていたりもする。クライマックスでの選択後の結果が,その極みである。
LIS BTSのほうでも,レイチェルと友達になったはいいが,それがきっかけで学校を退学になり,さらには本人が失笑していた演劇にむりやり出されてしまったり,自分に好意を抱く同級生にストーカー気味に迫られたり,ヤバい性格の取り立て屋に目をつけられたりと,何かしらのトラブルに巻き込まれている。
クロエの一言多い性格が災いしているのもあるが,原因がそれだけではないのは間違いない。さらにLIS BTSでは彼女が主人公となったことにより,プレイヤーが体感するという意味で悲壮感が倍増している(彼女の意外な姿を見られる演劇のシーンに限っては,プレイヤーにとっては悲劇ではないのだが)。ある意味,2作品を通しての悲劇のヒロインとしての存在感を放つキャラクターでもあるのだ。
LIS BTSのボーナスエピソード「Farewell(さよなら)」についても触れておきたい。同作からさらに2年前の2人に少女の面影が残る時代を,マックスの視点で描いた内容で,自分がシアトルへと引っ越してしまうことをクロエに打ち明けるか否かの葛藤が,2人の普段通りのやりとりの中で描かれている。
ストーリー自体には,運命が変わるような選択はないものの,2つの作品につながるターニングポイントとなるエピソードであり,いくつかの伏線も用意されていて,最後にプレイすることが前提の内容となっている。
LIS BTSのプレイ後に,もう一度LISをプレイしてみたい
ここからは作品全体について眺めてみたい。両作品はそれぞれ章立てで構成されていて,北米でリリースされた当初は,エピソードごとに期間を空けて配信されたという経緯がある。その関係で,各エピソード終了後にはエンディングと予告があり,連続ドラマのような演出で楽しめるようになっていた。国内版はともに全エピソード同時発売/配信だったため,次を待ちわびるという感覚はなかったわけだが,もしこれから遊ぶという人は,自身がその演出に合わせて時間を決めてプレイしてみるのもありだろう。
ゲームプレイの順は当然,LIS→LIS BTS→ボーナスエピソードFarewellという発売順が理想で,もし時間があるなら,ボーナスエピソードを終えた後にもう一度前者をプレイし直してみることをオススメする。後発のLIS BTSは,過去のストーリーという点も含め,あらゆるところに伏線が張り巡らされていて,それを受けて前作をプレイすることで,最初は見落とした細かな設定を発見できるかもしれない。
2つの物語を演出するサウンドは,それぞれの発売当初から,プレイヤーに絶賛される楽曲が揃っている。ボーカル曲は主にアーティストの既存曲を採用していて,印象的なシーンで流れるようになっているわけだが,そのシーンのために作ったのかと思うほどのハマりっぷりで,開発陣の選曲のセンスに脱帽する。これらの楽曲が流れるシーンには,プレイヤーがゲームを進めるタイミングを選べるところがあり,じっくり聴けるのも嬉しいところだ。またLIS BTSには,収録楽曲を任意に再生する「ミックステープ・モード」も用意されている。ちなみに同作に登場する警備員スキップが所属するバンド「ピスヘッド」は,ゲームを開発したDeck Nine Gamesの音声ディレクターらが、この作品のために結成したバンドだそうだ。
残念ながらサントラは,北米限定版に特典として付属したのみで発売されていないが,多くの楽曲はiTunesなどで購入が可能で,そのリストは公式サイトでも公開されているのでチェックしてみよう。
「ライフ イズ ストレンジ」楽曲リスト(公式サイト)
「ライフ イズ ストレンジ ビフォア ザ ストーム」楽曲リスト(公式サイト)
PS4版は両作品とも全編日本語ローカライズ済み。音声は英語と日本語の両方を選択できる日本版の特別仕様なので,リプレイ時は音声を切り替えてプレイするのもいいだろう。ただ,この日本語版出演声優陣は,両作品のセールスポイントにもなるほどの熱演をしていて,そのセリフもわざと「ら抜き表現」を使ったり,北米のスラングを似たような日本語に置き換えたりして,現代の学生達の自然な会話が楽しめる。ゲーム画面に現れるテキストの翻訳なども含め,スクウェア・エニックスのローカライズスタッフはかなりいい仕事をしているので,全編日本語でのプレイをお勧めする。
両作品を通してプレイして気になったのは,同じPS4版でも,LIS BTSは決定ボタンが[×]だったり,字幕の区切りに不自然な箇所が多かったり,カメラ操作の挙動が滑らかでなかったりと,プレイフィール的な部分でLISとの微妙な仕様の違いがあったということ。開発スタジオが違うというのもあるのだろうが,ベースのゲームシステムやグラフィックスなどは近いところに寄せているぶん,細かな仕様の違いがどうも気になってしまうのだ。とくに決定ボタンに関しては個人的にかなり気になったが,変更には他のリスクがある(公式Twitter)とのことなので,アップデートなどでの対応は難しいかもしれない。
北米では続編の発売も決定。日本での発売やいかに……!?
北米のLIS公式Twitterは,2018年9月27日に「Life Is Strange 2」(PC / PS4 / Xbox One)のエピソード1を配信すると発表した。開発はLISを手掛けたDONTNOD Entertainmentが手掛けていて,詳細は8月に発表となるようだ。
これまでの展開を見る限りは,もし国内で最新作が発売されるとしても,ローカライズなどの関係でもう少し先になることが予想されるが,続編の存在自体がファンとしては大きな楽しみとなった。
もしゲームプレイをしてないという人はぜひこの機会に,今回紹介した2作品を体験してみてほしい。連続ドラマのような,エピソードを重ねるごとに盛り上がっていくストーリーを楽しめるのはもちろん,現代のアドベンチャーゲームの一つの完成形を体感できるはずだ。
「ライフ イズ ストレンジ ビフォア ザ ストーム」公式サイト
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