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「Core i7-8086K」レビュー。「8086」の登場40周年記念モデルはゲーマー必携か?
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印刷2018/06/23 00:00

レビュー

「8086」の登場40周年記念モデルはゲーマー必携か?

Core i7-8086K

Text by 宮崎真一


画像集 No.048のサムネイル画像 / 「Core i7-8086K」レビュー。「8086」の登場40周年記念モデルはゲーマー必携か?
 2018年6月5日,Intelは,同社の創業50周年と,世界初のx86アーキテクチャ採用プロセッサである「Intel 8086」の発表40周年記念となるCPU「Core i7-8086K」(以下,i7-8086K)を発表した。
 日本でも8日に発売となったこのi7-8086Kは,Coffee Lake-Sベースの第8世代Coreプロセッサとして,通常版最上位モデルとなる「Core i7-8700K」(以下,i7-8700K)の上位に置かれるCPUである。

i7-8086K
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 i7-8086Kにおける最大のトピックは,自動クロックアップ機能である「Turbo Boost Technology」有効時の最大クロックが5.0GHzと,Coreプロセッサとして初めて5GHzの大台へ達した点だが,「最大5GHz動作するCoreプロセッサ」はゲーマーにとって重要な製品たり得るのか否か。入手した個体を使い,i7-8086Kの持つ可能性を探っていきたい。

製品ボックスとその中身。突然のCEO退任となったBrian Matthew Krzanich氏によるメッセージカードや,8086の40周年記念モデルであることの証明書などが付属している。CPUクーラーは別売りだ
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i7-8700K+300MHz=i7-8086K!? TDPは据え置きの95W



 テストに先立ってi7-8086Kの基本スペックを確認しておこう。
 冒頭でも触れたように,i7-8086Kはi7-8700Kなどと同じCoffee Lake-S世代のCPUで,「14nm++」とされるIntelの第3世代14nmプロセス技術を用いて製造されている。6コア12スレッド対応というのもi7-8700Kと同じだ。
 さらに言えば,

  • CPUパッケージがLGA1151で,Intel 300シリーズチップセット搭載マザーボードで利用できる
  • K型番でCPU倍率ロックフリーとなる
  • L2キャッシュ容量がCPUコアあたり256KBとなる
  • すべてのCPUコアと統合型グラフィックス機能「UHD Graphics 630」で共有するL3キャッシュ容量が12MBとなる
  • UHD Graphics 630の最大動作クロックが1.2GHzとなる
  • 統合するPCI Express Gen.3レーン数が16で,別途チップセット接続用としてPCIe Gen.3 x4相当の「DMI」(Direct Media Interface)も持つ
  • TDP(Thermal Design Power,熱設計消費電力)が95Wとなる

点も変わらない。

上段がi7-8086K,下段がi7-8700K(の性能評価用エンジニアリングサンプル)。i7-8086KのS-Specは「SRCX5」だった。底面側にあるチップコンデンサの配置はi7-8086Kとi7-8700Kで完全に同じだ
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 事実上唯一の違いとなるのはCPUコアの動作クロックで,i7-8086Kは定格4.0GHz,最大5.0GHzと,i7-8700Kと比べていずれも300MHz高い。
 ここまで紹介した内容は表1にまとめてみたが,あまりにもスペックが近しいことから,i7-8086Kはi7-8700Kの高クロック版選別品なのではないかと筆者は推測している。

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ROG STRIX Z370-F GAMING
メーカー:ASUSTeK Computer
問い合わせ先:テックウインド(販売代理店) info@tekwind.co.jp
実勢価格:2万3500〜2万6000円程度(※2018月6月23日現在)
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 なお,今回テストに用いたマザーボードはASUSTeK Computerの「Intel Z370」チップセット搭載モデル「ROG STRIX Z370-F GAMING」なのだが,本製品の場合,i7-8086KはUEFI(≒BIOS)のバージョン0805以降で対応している。
 既存のマザーボードでi7-8086Kを利用したい場合は,適宜,マザーボードメーカーのサポートページを確認するといいだろう。


i7-8700Kとの性能の違いを見る。全コア最大5GHz動作でのテストも実施


 今回,テストの比較対象としては前段でも紹介したi7-8700Kを用意した。主役となるi7-8086K側は,スペック上の「最大5GHz動作」が定格ではシングルコアに負荷がかかった状態でしか実現しないことから,今回はUEFIからTurbo Boostの制限を外し,全コアに負荷がかかった状態でも最大5GHz動作するよう設定した状態でもテストを行うことにした。

i7-8086Kに対して「CPU-Z」(Version 1.85.0)を実行した結果。「Enhanced Intel SpeedStep Technology」有効時の動作クロックは800MHzで,Turbo Boost適用時には5GHzまで上昇している
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テスト中の様子
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 今回,変更するのはTurbo Boost倍率のみとし,電圧設定などはすべて「AUTO」のまま,CPUクーラーにIntel製の空冷モデルである「TS15A」を組み合わせてのテスト試行となったが,i7-8086Kでは4Gamerのベンチマークレギュレーション21.0(+α,詳細は後述)で規定するテストを問題なく完走できたのに対し,i7-8700Kで同じテストを試みたところ,テスト中にシステムがハングする場面が見られた。
 もちろんサンプルは各1なので,ほとんど個体差によるものだろうが,「選別品らしいオーバークロック耐性の高さをi7-8086Kに期待できそう」とは言えるかもしれない。

 テストに用いたGPUは,それ自体がボトルネックにならないよう,「GeForce GTX 1080 Ti」(以下,GTX 1080 Ti)を選択。グラフィックスドライバはテスト開始時の最新版となる「GeForce 398.11 Driver」を用いている。
 Windowsの電力設定は「高パフォーマンス」で統一。そのほかのテスト環境は表2のとおりだ。

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 テスト方法は基本的に4Gamerのベンチマークレギュレーション21.に準拠。ただし,先ほど後述するとしたように,レギュレーション22世代を先取りする形で「Prey」の代わりに「Far Cry 5」を,「Forza Motorsport 7」の代わりに「Project CARS 2」を用いている。
 両タイトルにおける具体的なテスト方法だが,まずFar Cry 5では,オプション設定から「最高」プリセットを選択したうえで,ゲームに用意されたベンチマークモードを利用。1回実行した結果をスコアとして採用した。一方のProject CARS 2では,「オプション」から可能な限り描画負荷を高めた状態(以下,最高負荷設定)で,4Gamerオリジナルのリプレイデータを用意し,2分間の平均と最小のフレームレートを「Fraps」(Version 3.5.99)から測定。2回連続で実行し,その平均をスコアとして採用することにした。

上段はFar Cry 5,下段はProject CARS 2のグラフィックス設定(※一部)とベンチマーク中の模様
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 テスト解像度だが,今回は主役がCPUとなるため,2560×1440ドットと1920×1080ドットの2条件に加えて,描画負荷を極端に低くしてCPU性能の影響を出やすくした1280×720ドットも用意している。

 また,ゲーム以外での性能も確認するべく,Futuremark製の総合ベンチマーク「PCMark 10」(Version 1.0.1493),CPUベースで3Dのレンダリングを実行する「CINEBENCH R15」(Release 15.038),動画変換を実行するトランスコードソフト「ffmpeg」(Version 4.0)でのテストも実施する。これら非ゲームのテスト方法は考察の直前で紹介したい。

※注意
 オーバークロック設定はメーカー保証外の行為です。最悪の場合,CPUやマザーボードの“寿命”を著しく縮めたり,壊してしまったりする危険がありますので,本稿の記載内容を試してみる場合には,あくまで読者自身の責任で行ってください。本稿を参考にしてオーバークロック動作を試みた結果,何か問題が発生したとしても,メーカー各社や販売代理店,販売店はもちろん,筆者,4Gamer編集部も一切の責任を負いません。また,今回のテスト結果はあくまでも筆者が入手した個体についてのものであり,同一型番の全製品で同じ結果が得られると保証するものではありません。


ゲームだとi7-8086Kとi7-8700Kのベンチマークスコア差はほぼ無視できるレベルに


 以下,全コア最大5GHz動作のi7-8086Kを「i7-8086K@5.0GHz」と表記することを断ったうえで,「3DMark」(Version 2.4.4264)の結果から順に見ていこう。
 グラフ1は「Fire Strike」における総合スコアをまとめたものだが,ざっくりまとめるなら,スコアに大差はない。あえて言えば,最もCPU性能がスコアを左右しやすいFire Strike“無印”でi7-8086Kはi7-8700Kに対して約2%高いスコアを示しているが,i7-8086K@5.0GHzの全コア最大5GHz化による恩恵は得られていなかったりもする。

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 続いてグラフ2はFire StrikeのGPUテストである「Graphics test」のスコアを抜き出したものだ。GPUがGTX 1080 Tiで揃っているため,スコアが横並びなのはさもありなんといったところである。
 i7-8086K@5.0GHzだけ,Fire Strike“無印”のスコアがやや低めだが,この理由はよく分からない。

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 一方,事実上のCPUベンチマークとなる「Physics test」,その結果をまとめたグラフ3だと,スコアの違いが出てきている。目を惹くのはi7-8086K@5.0GHzでi7-8086Kに対して12〜14%高いスコアを示しているところだ。
 一方,i7-8086Kとi7-8700Kのスコア差は最大でも約1%しかない。マルチスレッド処理に最適化された3DMarkでは定格動作するi7-8086Kの動作クロックが5GHzへ達する場面はないか,あったとしても頻度が低く,結果として決定的な違いは生じないということなのだろう。

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 GPUとCPUの両方の性能がスコアに影響をおよぼす「Combined test」のスコアはグラフ4のとおりで,ここだとFire Strike“無印”でのみスコアの大きな違いが出ている。i7-8086Kはi7-8700Kより約7%高いスコアで,さらにi7-8086K@5.0GHzはi7-8700K比で約11%高いスコアを示した。つまり,GPUとCPUの両方に一定レベルの負荷がかかり,かつ描画負荷の低い局面では,CPUの動作クロックがスコアを左右する傾向にあるということになるだろう。

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 グラフ5は同じく3DMarkからDirectX 12ベースのテストとなる「Time Spy」の総合スコアを示したものだ。またグラフ6,7はそれぞれGPUテストとCPUテストのスコアを抜き出したものになる。
 Time SpyはFire Strikeと異なり,総合スコアでもCPU性能の影響が表れやすいのだが,それでもi7-8086K(の定格動作)とi7-8700Kでは横並び。ただ,i7-8086K@5.0GHzはi7-8086Kからスコアが約2%上昇しており,また「CPU score」ではi7-8086K@5.0GHzがi7-8086Kに対して約9%高いスコアを示しているのを見てとれる。

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 今回初採用となるFar Cry 5のテスト結果はグラフ8〜10のとおりだ。
 2560×1440ドットは描画負荷が大きいため見事にスコアが揃っている。1920×1080ドットだとi7-8086Kはi7-8700Kに対して平均フレームレート,最小フレームレートとも約2%高く,さらにi7-8086K@5.0GHzはそんなi7-8700Kに対して平均フレームレートで約3%高いスコアを示している。全コア最大5GHz動作のメリットがはっきりしているかどうかはともかく,「クロックが効く」様子が相応に分かりやすく出ているとは言えるだろう。

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 グラフ11〜13は「Overwatch」の結果となる。Overwatchだとi7-8086Kは平均フレームレートでi7-8700Kより2〜3%程度高いスコアを示す。
 i7-8086K@5.0GHzのスコアはi7-8086K比でほぼ変わらないスコアになっているのだが,Overwatchはレギュレーションの中でも比較的描画負荷が低いため,相対的なGPUのボトルネックが生じたのではないかと考えている。

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 「PLAYERUNKNOWN'S BATTLEGROUNDS」(以下,PUBG)のスコアはグラフ14〜16にまとめたが,2560×1440ドットだとi7-8086Kの平均フレームレートがi7-8700Kより約2%高く,i7-8086K@5.0GHzはそこからさらに約2%高い。
 一方,144fps付近に相対的なCPUのボトルネックがあるようで,1920×1080ドット以下のスコアは見事に揃った。

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 「Middle-earth: Shadow of War」(以下,Shadow of War)の結果はグラフ17〜19のとおりだが,1920×1080ドット以上の解像度では平均フレームレートに大きな違いは生じていない。CPUのスコア差を出やすくした1280×720ドット条件でかろうじてi7-8086Kがi7-8700Kに対して約3%高い平均フレームレートを出し,i7-8086K@5.0GHzはi7-8086Kに対してやはり約3%高い平均フレームレートを示しているものの,その程度だ。

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 グラフ20〜22の「Tom Clancy’s Ghost Recon Wildlands」(以下,Wildlands)でも,2560×1440ドット条件ではスコアが横並びになっている。
 一方,1920×1080ドットだと,平均フレームレートで比較したとき,i7-8086Kはi7-8700Kより約2%高いスコアを示し,i7-8086K@5.0GHzはそこからさらに約6%高いスコアを示した。

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 「ファイナルファンタジーXIV: 紅蓮のリベレーター ベンチマーク」(以下,FFXIV紅蓮のリベレーター ベンチ)の総合スコアをまとめたグラフ23では,i7-8086K@5.0GHzが抜きん出た形となった。i7-8086Kに対して4〜9%高いスコアだ。高い動作クロックは有効に機能しているというわけである。
 一方,i7-8086Kとi7-8700Kのスコア差がほとんど生じていないのは,FFXIV紅蓮のリベレーターのようなマルチスレッド処理に最適化されたタイトルだと,ブースト最大クロックに入ることはほぼないためという理解でいい。

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 グラフ24〜26はFFXIV紅蓮のリベレーター ベンチにおける平均フレームレートと最小フレームレートの結果だが,ここでもi7-8086K@5.0GHzが1920×1080ドット以下の平均フレームレートで頭一つ抜けている。また,最小フレームレートも,i7-8086K@5.0GHzではしっかり上がっており,オーバークロックの効果を確認できよう。

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 Project CARS 2の結果はグラフ27〜29のとおりだが,i7-8086Kとi7-8700Kのスコアは解像度を問わずほぼ同じ。i7-8086Kのオーバークロックにメリットが生まれるのも,GTX 1080 Ti搭載のゲームPCとしては非現実的な解像度の選択肢となる1280×720ドット設定時に限られる。
 なお,i7-8086K@5.0GHzだけ,2560×1440ドット条件の平均フレームレートが落ち込んだのだが,その理由は分からない。前述のとおり,テストでは2回計測しているのだが,2回の平均フレームレート実スコアは74.433fps,70.983fpsで,「1回だけ劇的に低かった」わけでもないため,ここはなんとも言えないところである。

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一般アプリでもi7-8086Kとi7-8700Kの違いは小さいが,全コア最大5GHz化の効果はある


 ゲーム以外の一般アプリケーションを前にした性能も確認しておこう。
 グラフ30はCPUで3Dのレンダリングを実行するCINEBENCH R15の結果で,ここではすべてのCPUコアとスレッドを使い切る「CPU」(以下,総合スコア)と,1コア1スレッドの性能を見る「CPU(Single Core)」のスコアを掲載している。

 総合スコアだと,i7-8086Kとi7-8700Kとの差はわずかに1%程度しかない。マルチスレッド処理では定格クロックにおける300MHzの違いは出ていないわけで,ここはゲームのテストと同じ傾向と言える。面白いのはCPU(Single Core)においてi7-8086Kがi7-8700Kに対して約5%高いスコアを示しているところで,シングルスレッド処理をさせればTurbo Boost Technologyがうまく働くのが分かる。
 i7-8086K@5.0GHzは,全コア最大5GHz動作していることもあり,i7-8086Kと比べて約10%高いという,さすがのスコアだ。

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 続いてはPCMark 10だ。
 ここでは「PCMark 10 Extended」を選択し,「Custom」タブからOpenCLアクセラレーションを無効化し,ソフトウェア処理するよう指定したうえで実行している。そのため,総合スコアを得られない点に注意してほしい。

 というわけでグラフ31を見てみると,全体としてi7-8086K@5.0GHzのスコアが目を惹く。とくにビジネス系アプリケーションを前にしたときの性能をチェックする「Productivity」で,i7-8086K@5.0GHzはi7-8086Kに対してスコアを13%も伸ばした。
 そのほかのテスト項目でも7〜9%程度高いスコアを示しているので,オーバークロックの効果は小さくないと言えそうだ。

 一方,定格動作するi7-8086Kは,Webブラウジングなどを含む日常作業の快適さを見る「Essentials」でi7-8700Kに対して約6%高いスコアを示したものの,Productivityと,コンテンツ制作アプリケーションにおける性能を見る「Digital Content Creation」,そして3DMarkのFire Strikeをウインドウモードで実行する「Gaming」におけるスコア向上率は1〜2%程度に留まっている。マルチスレッド処理に対応した用途であればあるほどi7-8086Kとi7-8700Kの違いは見えにくくなるということなのだろう。

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 グラフ32はffmpegを使った動画のトランスコードの結果である。ここでは,FFXIV紅蓮のリベレーターで実際にゲームをプレイした,計6分42秒,ビットレート149MbpsのMotion JPEG形式,解像度1920×1080ドットの録画データをソースとして用いる。
 テストにあたっては,「libx264」を用いたH.264/AVC形式のトランスコードに加えて,「libx265」を用いたH.265/HEVC形式へのトランスコードも行う。

 グラフは要した時間を秒数でまとめたものなので,当然,短いほうが高速ということになるのだが,H.264ではi7-8086Kとi7-8700Kとのスコア差は約9秒しかなく,i7-8086K@5.0GHzでようやくi7-8086Kから37秒の時間短縮を実現できている。
 H.265だとi7-8086Kとi7-8700Kのスコア差は約43秒。2%「も」高速化できたと見るか,2%「しか」高速化できていないと見るかは人によるだろう。

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i7-8700Kからの消費電力増大量はおおむね数W。ただし全コア最大5GHz化だとかなりの電力食いになる


 i7-8086Kの消費電力も確認しておきたい。前述したようにi7-8086KのTDPは95Wでi7-8700Kと変わっていないが,動作クロックが300MHz増えているわけで,果たして消費電力は同程度なのかは気になるところだろう。
 そこで,まず3DMarkのTime Spyにおいて,CPU test実行中におけるEPS12Vの電流を測り,12を掛けて電力換算し,その推移をグラフ33へまとめることにした。サンプリングレートは1秒につき3回なので,3分の1秒単位で追った消費電力の推移ということになる。

 下のグラフを見ると,全体としてi7-8086Kはi7-8700K比で約5W弱増大しているのを確認できる。i7-8086Kでは動作クロックを300MHz引き上げるにあたってコア電圧を若干高めており,それが数Wレベルの違いとして出ているというわけだ。
 なお,i7-8086K@5.0GHzはいきなりどかんと立ち上がってそこから消費電力が少しずつ下がるという,定格動作とは異なる傾向を示す。いずれにせよi7-8086Kと比べると消費電力の増加量はかなり大きい。

※横軸はサンプリング数で,たとえば「90」は30秒を示す
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 続いて,各アプリケーション実行中の消費電力最大値を,アイドル状態で30分放置した時点(以下,アイドル時)の電力値ともどもまとめたものがグラフ34となる。
 グラフ33で示した「どかんとした立ち上がり」の効果か,i7-8086K@5.0GHzはi7-8700Kと比べて最大で70W弱も消費電力が増えている。i7-8700K比ではざっくり75W増で,オーバークロックの代償はかなり大きい印象だ。
 一方,i7-8086Kとi7-8700Kの間にあるスコア差は6〜15Wといったところだった。

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 さらに各アプリケーション実行時における中央値をまとめたものがグラフ35となる。
 ここだとi7-8086Kとi7-8700Kのスコア差は3〜4Wといったところで,グラフ33の結果を踏襲したものになっていると言える。i7-8086Kの定格動作における消費電力は,確かにi7-8700Kから確実に増大してはいるものの,実運用上はほぼ無視できるレベルとまとめてしまってよさそうである。
 問題はi7-8086K@5.0GHzのほうで,中央値でもスコアはかなり大きく,ffmpeg時にはCPUだけで100Wを超えてしまった。i7-8086Kは簡単に全コア最大5GHz動作を実現できるCPUだが,消費電力に対してはかなり配慮が必要になる印象だ。

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 最後に3DMarkのTime SpyにおけるCPU testを30分間連続実行した時点を「高負荷時」として,アイドル時ともども「Core Temp」(Version 1.12.1)から取得したものがグラフ36となる。
 今回テストに用いたTS15Aは決して冷却能力の低いものではないはずなのだが,結果はご覧のとおりで,高負荷時の温度は厳しいものとなった。とくにi7-8086K@5.0GHzにいたっては,i7-8086Kで許容できる最大温度とされるTjunctionの100℃に達してしまったので,高性能なCPUクーラーの利用は必須ということになるだろう。

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基本的にはIntelファン向けの記念品。「オーバークロック前提,用途をゲームに絞らない」ならアリか


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 以上のテスト結果からして,i7-8086Kがi7-8700Kより高速なCPUであることに疑いの余地はない。ただ,2018年6月23日現在の実勢価格はi7-8086Kが5万2000前後なのに対し,i7-8700Kは4万500〜4万3000円前後だ。少なくとも定格動作させる限り,9000〜1万1500円もの価格差を許容できる性能向上とは言えそうにない。

 オーバークロックで全コア最大5GHz動作を狙いやすいCPUなのは確かだが,その効果もゲーム用途においては極めて限定的で,しかもその実現にあたっては消費電力や発熱面での代償を払うことになる。オーバークロック前提であっても,純粋にゲーム用途で使うにあたってはそれほどのインパクトを持たないため,「全コア最大5GHzで常用する前提で,ゲーム以外にもさまざまな用途で使いたい」人向けということになりそうだ。あるいは,ゲーム動画をエンコードするときだけ全コアを最大5GHzに設定して利用するというのも面白いかもしれない。

 確かにi7-8086Kは「ゲーマー向け最速CPU」であったが,それ以上に「Intelファン向けの記念品」的色彩のほうが濃い。i7-8086Kという限定版は,そういう存在と言えるのではなかろうか。

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  • 関連タイトル:

    第8世代Core(Coffee Lake,Kaby Lake)

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