企画記事
パックマンやギャラクシアンを“昔話”で終わらせないために。約2年が経過した「カタログIPオープン化プロジェクト」の手応えを聞いた
これは,同社のオリジナルIPの一部を国内のクリエイターに開放し(貸し出し),デジタルコンテンツの二次創作を促すという試みである。2015年4月にスタートし,現在は2018年3月末までの募集受付が予定されている(作品の公開は2020年3月末まで)。
IP(Intellectual Propertyの略。知的財産の意)を一般向けに貸し出すというのは,通常ではなかなか考えられないことだろう。しかも対象となっているタイトルは「パックマン」「ギャラクシアン」「ゼビウス」「ドルアーガの塔」など,オールドゲーマーにとっては“ナムコ黄金期”そのものといっていいラインナップである。それらを開放するという試みは,ゲーム業界にどのような影響をもたらしたのだろうか。
今回は,プロジェクトを統括するバンダイナムコエンターテインメントの桝井大輔氏に,発表から2年弱が経過したプロジェクトの手応えを中心に,たっぷり話を聞いてきた。プロジェクトを通じて生まれた作品の中から,とくに面白いスマホ向けアプリも紹介しているので,1980年代前後のナムコのIPに思いを寄せるようなオールドゲーマーも,ぜひ目を通してほしい。
「カタログIPオープン化プロジェクト」特設ページ
IPをクリエイター向けに開放するという異例の試み
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。
プロジェクトの発表から2年弱が経過していますが,まずは今回の記事で初めて知るという読者に向けて,概要をあらためてお聞かせいただけますか。
バンダイナムコエンターテインメント 桝井大輔氏(以下,桝井氏):
弊社は長年ゲーム作りに携わっており,とりわけ昔のタイトル(IP)は,今でも沢山の方に愛されています。しかし,それらのIPが現在フルに活用できているかというと,やや首をかしげたくなる部分があります。
それではどうすれば活用できるのかというと,意外と難題だったりします。仮に,「パックマン」や「ゼビウス」などのタイトルを現行のコンシューマ機などに移植しても,今の若い世代には受け入れられにくいでしょう。
4Gamer:
パックマンなどが最初に登場したのは1980年代前半で,今から35年以上も前ですからね。
桝井氏:
そこで,一般のクリエイターの方にIPをお貸しして,ゲームの開発をお任せしたら,今の若い人達にも受け入れられるコンテンツが生まれやすくなるのでは? と考えたんです。
4Gamer:
IPを一般向けに貸し出すというのは,業界内では非常に珍しい試みですが,社内から懸念の声などは挙がりませんでしたか?
桝井氏:
それは……,ありましたね(苦笑)。
会社はもちろん,社員にとっても,IPは我が子のように大切なものです。言い方は失礼ですが,その大事な子供を,どこの馬の骨ともわからない輩に好きにさせていいのかと。
4Gamer:
極端な話,IPを悪用される恐れもあるわけで,心配されるのも無理はないと思います。
桝井氏:
とはいえ,時代の流れとともにゲームとの接し方は大きく変化しています。確かに懸念はあったのですが,時代の流れに対応するべく思い切って決めました。
企画を通すことを前提に面談を実施
そこから先はクリエイターの良心に任せる
4Gamer:
実際にIPを開放するにあたり,どういった部分に気をつけられましたか。
桝井氏:
IPを所有する側としては,最低限のリスクをカバーする必要があります。しかし,リスクを恐れるあまりに規約でがんじがらめにしてしまうと,自由な発想といった二次創作の良さもスポイルしかねません。この双方のバランスをどうやって取るかに苦心しました。
そこで,開発を希望するクリエイターさんに対して面談を行い,企画を審査することにしたんです。
4Gamer:
直接会って確かめるというわけですね。
面談や審査と聞くと堅苦しい印象を受けるかもしれませんが,企画を落とすためではない,というところがポイントです。どちらかというと企画を通すのを前提に,弊社からのアドバイスを伝え,それと当時にプロジェクトに対するヒアリングを行う意味合いが強いです。
こういったやりとりを通じてプロジェクトに対する誤解をなくし,きちんと理解してもらったら,それ以上の細かな口出しは行わないようにしています。
4Gamer:
クリエイターの良心に任せたわけですね。実際に面談を行った効果はいかがでしたか。
桝井氏:
これが正解でした。直接会って話をして初めて分かることも色々とありましたね。
ちなみに面談を行ったクリエイターさんの企画にNGを出したことは,ほとんどありませんし,IPを悪用されるケースも起こっていないんですよ。
4Gamer:
素晴らしいですね……。とはいえ全員のクリエイターと面談をされるとなると,御社にとっては大変な手間が掛かりそうですが。
桝井氏:
一時期はスタッフ総出で,毎日のように面談を行っていましたね(笑)。
4Gamer:
ところで,どういった方がクリエイターとして参加されているのでしょうか。
桝井氏:
4Gamer:
ある意味,生粋のナムコファンですよね。
桝井氏:
その一方で,やる気はたっぷりあるけど,IPや版権などを扱ったことのない方もいて,弊社からのアドバイスが役に立ったのではないかと思います。面談を行うことで,双方にとってメリットがありました。
4Gamer:
個人のクリエイターさんで,御社のような大企業の方がいきなり会ってくれることにびっくりされた方もいるのでは。
桝井氏:
最初は緊張される方もいましたが,面談を進めるにつれIPの昔話で盛り上がり,すっかり打ち解けることも多かったですね。個人的にも,楽しいひとときを過ごさせていただきました。
“ナムコ黄金期”のラインナップを実現
4Gamer:
オープン化の対象タイトルとして,最初に17作品が発表されましたが,当時を知る者にとって“ナムコ黄金期”と呼ぶに相応しいラインナップです。
桝井氏:
今回のプロジェクトに本気で取り組んでいることを示すためにも,ここは特にこだわりました。それだけに,権利周りの確認や調整の作業が大変でしたね。
弊社がリリースしているタイトルだから好き勝手にできると思われるかもしれませんが,意外とそうでもなかったりします。分かりやすい例を挙げると,外部のクリエイターさんが参加されていて,タイトルのコピーライトにも名前が記されているような場合は,使用する都度,許諾が必要になります。
4Gamer:
近年の御社のタイトルだと,「テイルズ オブ」や「THE IDOLM@STER」のシリーズ作品などが思い当たりますね。
桝井氏:
そういった,表から見える部分のほかにも,色々と複雑な事情が絡んでいまして。おそらく問題ないとは思うものの,これを100%の“シロ”にするための労力って,結構あるんですよ。
そこで,当時のタイトルをリストアップして,社内の法務チームや知財チームなどに問い合わせを行いながら,「このIPはOK」「このIPはNGだけど***経由で相談を行えばOKになるかも」といった風に,地道に確認作業を行っていきました。
4Gamer:
場合によっては35年近くも前のタイトルなので,そういった確認も大変だったのでは。
桝井氏:
なんといいますか,昔は色々な意味で大らかな時代だっんだなと実感しましたね(笑)。そのほかにも,問い合わせようにも会社が存続していなかったり,あるいは逆に,ものすごく大きな会社になっていたり。
4Gamer:
「クインティ」のゲームフリークや,「デジタル・デビル物語 女神転生」のアトラスは,現在は業界を代表するメーカーですよね。
個人的には,「メトロクロス」と「バラデューク」は二次創作にも向いていそうなIPだと思うのですが,いかがでしょう。
桝井氏:
ちなみに,その4タイトルに含まれる「塊魂」は,タイトルのIPは弊社が所有しているものの,サウンド関連は外部のクリエイターさんの著作物です。そのためサウンドを除いてのIP開放という形になっています。
(※次ページへ続く)
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