企画記事
ゲームの中に息づく世界にゾクゾクするんです――鉄拳・原田Pの不定期連載「原田が斬る!」,第5回はレベルファイブの日野晃博氏
鉄拳シリーズのプロデューサー・原田勝弘氏による対談企画「原田が斬る!」の第5回をお届けする。
今回の対談相手は,レベルファイブの代表取締役社長/CEO 日野晃博氏だ。レベルファイブといえば,「妖怪ウォッチ」を筆頭にゲーム,アニメ,玩具によるクロスメディア戦略によって,子供を中心とした一大旋風を巻き起こしたメーカーとして知られている。「妖怪ウォッチ」「イナズマイレブン」「ダンボール戦機」といった作品群からは,子供向けタイトルを開発するメーカーとしてのイメージを受けるかもしれないが,2018年3月23日に発売を迎えた「二ノ国II レヴァナントキングダム」(PC / PlayStation 4)(以下,二ノ国II)は,幅広い年齢層から人気を博しているRPGシリーズでもある。国を追われた少年が自らの王国を築くその壮大なストーリーは,レベルファイブファンのみならずファンタジーRPG好きならば注目せざるを得ないだろう。
そんな数々のヒット作を,クリエイター,コンテンツプランナーといった作り手の立場で手がける一方,かなりのコアゲーマーとしても知られている日野氏。今回の対談では,そんな日野氏のクリエイターとしての原点や,ゲームに対する並々ならぬこだわりを語っていただいた。今年発表予定とされている20周年記念作についてや,二ノ国シリーズの開発秘話も聞くことができたので,対談の模様を最後までチェックしてほしい。
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「二ノ国II レヴァナントキングダム」4Gamer内サテライトサイト
「二ノ国II レヴァナントキングダム」公式サイト
「鉄拳7」公式サイト
「ドラゴンクエストIII」との運命の出会い
原田勝弘氏(以下,原田氏):
これまで日野さんのいろんなインタビューを読みまして,業界に入るまでのエピソードは大体分かったつもりなんですけど,日野さんがそもそもプレイヤーとしてゲームに触れ始めたのって,いつ頃からなんですか。
ゲームというくくりでいうなら,まだ“マイコン”と呼ばれていた黎明期からですね。それこそ「学研の電子ブロック」とか,棒で丸を撃ち合うテニスがゲームとされていた時代で,僕はそういったものを親に買ってもらいました。
原田氏:
ああ,日野さんは買ってもらえた側なんだ。うらやましいです。
日野氏:
親が新しいものを買い与えてくれるタイプだったもので。で,それまでは興味がなかったコンピューター系の雑誌を近所の本屋で読んでみたら,日本にはまだなかったApple IIの記事とか,「ウィザードリィ」のゲーム画面が載っていて,子供ながらに「めっちゃおもしろそう」と思ったんです。世間的には「インベーダーゲーム」がブームになっていて,「ミステリーハウス(スタークラフト版)」とかが人気だったみたいですけど。
4Gamer:
じゃあゲームへの熱が高まったのが,その頃なんですね。
日野氏:
ええ,小学6年生ぐらいでしたね。その頃に,2年分のお年玉を使って「PC-6001」を買ったんです。
原田氏:
あ〜,「パックマン」のカセットテープを40分かけてローディングする時代(笑)。
日野氏:
そうそう(笑)。あと「ベーマガ」(マイコンBASICマガジン)も買っていましたよ。
原田氏:
僕もです。やはり世代的にべーマガはとおりますよね。じゃあプログラミングに興味を持ったのはその辺り――電子ブロック,PC-6001,ベーマガの影響なんですね。
日野氏:
そうですね。「自分でプログラムを作れないと話にならん」と本に書かれていて,それに感化される形でプログラムをある程度組めるようになっていました。
原田氏:
僕も日野さんと同じようなルートを通ったんですけど,自分でプログラムを組んでも,独学では市販されているものよりショボイのしか作れなくて,逆に作る側ではなく遊ぶ側に回る気持ちが芽生えてしまったんですよ。それだけの興味を,よく保てましたね。
日野氏:
それだけ大好きだったってことでしょうね。ラジコンだなんだって趣味はすぐに飽きてしまったのに,ゲームだけは飽きなかったです。
原田氏:
ちなみに,ゲームセンターには行かれてました?
日野氏:
小学生の頃から行ってました。こっそりとね(笑)。高校生くらいの兄ちゃん達とそこで仲良くなって,よく遊んでたなあ。「ゲームセンターあらし」に登場した「ギャラクシーウォーズ」で,高校生の兄ちゃん達とお好み焼きをかけて勝負したのが思い出深いです。
原田氏:
ああ。高速でこするとなぜか自機が消えるネタがありましたね,懐かしい。じゃあ,完全にインドア派の少年だったんですか。スポーツとかはされていなかった?
日野氏:
子供がする程度にはスポーツもしましたが,デジタルなことへの興味のほうが強くて,まさしくインドア系でした。ただ,中学生までは「あの人オタクみたい」と思われても気にしなかったんですが,思春期が訪れた高校生ぐらいになると,優先度が変わって女の子と遊ぶことに意識が向いていた時期もありました。
原田氏:
ふむふむ。実際のところ,モテたんですか?
日野氏:
いやいや。でも,後輩から手紙をもらったりとかはあったかな? 彼女がいて充実していましたね(笑)。
あ〜,幸せな人生ですね。僕はPC-6001とかX1を親戚の家で遊ばせてもらってオタクの道を突き進んでいたんですけど,両親がオタクのままでは許さんって,塾に習いごと,スポーツもバリバリやらされて,日曜日の午後以外はあらゆるスケジュールが埋まっているのが日常でした。
日野氏:
いい家庭じゃないですか。
原田氏:
でも,モテませんでしたよ。女子から手紙を受け取るのは「○○君に手紙をわたしてほしい」ってお願いされるときだけ(笑)。大学に入るまで,日野さんが受け取っていたような手紙を“運ぶ人”で,なかなか主役にはなれませんでした。どうやったら人生は報われるんだろうって考えてた。
(一同笑)
日野氏:
そういう感じだったんですね(笑)。僕もそこまで主役感はなくて,彼女を作るために必死に作戦を練って,頑張ってましたけど。でも,すぐに戻ってきましたよ。そのあと,どうしても「ゲームの世界に行きたい」という気持ちを捨てきれずに,高校卒業後は専門学校に進学したんです。
原田氏:
戻ってきてよかったのかなあ(笑)。
日野氏:
ただ,そこで学べたのはゲーム開発の知識ではなくて,一般的なコンピューターの知識ばかりでした。周囲に影響されて,一時期は安定した就職を考えるようになり,システムエンジニアになろうとも思ったんですが,そんなタイミングで出会ったのが「ドラゴンクエストIII」(以下,ドラクエIII)でした。それでゲームへの気持ちが再燃したんです。
4Gamer:
運命的な出会いですね。
日野氏:
ええ。ドットで描かれたちびキャラしか出てこないのに,一体これは何なんだと。エンディングでは泣いてしまって……こんなに人を感動させるものを作れるなんて,なんと素晴らしい業界なんだと強く感じました。その感動が忘れられないあまり,システムソフトに自分の作ったプログラムを持ち込んだんです。
原田氏:
その頃といえば,日本ファルコムの「イース」か,システムソフトの「大戦略」か,コーエーの「信長の野望」か,みたいな時代でしたよね。
日野氏:
ええ。システムソフトは当時150人規模の大会社でしたし,九州を拠点にしていたのでダメ元で採用試験を受けたんです。人材募集は締め切られたあとでしたけど,そのときにもらっていたシステムエンジニアとしての内定は,僕の中ではもう保険でしかなかった。「そこまでの熱意があるなら」と試験を受けさせてもらい,採用までこぎつけました。まあ,実際入ったらプロデューサーの研修が始まってしまい,本当にやりたかったプログラマの仕事ができなくて,結局4か月で辞めちゃったんですけど。
原田氏:
有名なエピソードですね。しかし「ドラクエIII」に感動してゲーム業界に入って,その後にご自身が「ドラゴンクエストVIII 空と海と大地と呪われし姫君」の開発に携ることになるとは,当時の日野さんは思いもしなかったでしょうね。
日野氏:
それは本当に夢のようで……幸せなことだなと。「ドラクエ」以外にも,「ガンダム」に「スタジオジブリ」,それから「頭の体操」の著者である多湖さん(多湖 輝氏)と,子供の頃に好きだったものとは,大概関わらせてもらっている気がします。
原田氏:
外から見ていると,そういったコンテンツの方から日野さんの元に集まってきたようにも思えるんですけど。
日野氏:
いや,そんなことはないです(笑)。「レイトン教授」で多湖さんへオファーしたのはこちらからですし,「二ノ国 漆黒の魔導士」でも,スタジオジブリを説得に行ったのは自分ですから。
4Gamer:
だとしても,そうしたオファーがちゃんと実を結んでいるのがすごいと感じます。相手がすごすぎて,普通だったら思いついてもなかなか動けない気がするのですが。
日野氏:
何かモノを作ろうとしたとき,世に出したら「すげー!」って言われるようなものじゃないと,僕自身モチベーションが湧いてこないですから。だから企画を立ち上げるときは,何か1つ大きなウリになるものを最初に考えるんです。例えば「二ノ国」なら,単にファンタジーなのではなくて,スタジオジブリと一緒に作るファンタジーというのはどうだろう,という形で。
原田氏:
スタジオジブリって“ゲームはお断り”だって聞きますけど,よく実現しましたよね。
日野氏:
「崖の上のポニョ」の主題歌を担当した藤岡藤巻さんがひと肌脱いでくれて,鈴木敏夫さん(スタジオジブリ代表取締役)にお会いできたのが大きかったですね。それまでのスタジオジブリは,ポリシーとして“ゲームはやらない”方針だったようなんですが,話を重ねる中で,大きな作品と作品の合間に企画を考える時期があるので,そのタイミングであれば可能なんじゃないか,というお返事をいただけました。
4Gamer:
実際に鈴木さんとお話をされた印象はいかがでしたか。
日野氏:
とても勢いのある方で,プロデューサーの視点をしっかり持たれている人だと思いました。どのようにジブリをプロモーションに使っていくかを客観的に考えていらしたので,「これはOKだけど,これはダメ」というのを,細かく詰めていきました。例えばジブリが“ゲームを作った”のではなく,あくまで“アニメーション制作をした”ということはちゃんと伝えてほしい,であるとか。
原田氏:
それはきちんとプレイヤーに伝わっていましたよね。発売後は海外でもヒットして,今や日本を代表するRPGの一つになっていますし。こんなに長い時を経て,そんな日野さんに「『二ノ国II』の終ROMまだですか」って言う立場になるとは思ってもみませんでした(※)。
日野氏:
そうですよね(苦笑)。その説はどうもすみません……※。
※「二ノ国II レヴァナントキングダム」はバンダイナムコエンターテインメントも出資しており,また海外パブリッシングは原田氏の管轄でもある。
ルールとしての世界じゃなくて世界としてのゲーム
原田氏:
レベルファイブって「妖怪ウォッチ」を筆頭に“子供を中心としたムーブメントを起こしたメーカー”として認知されていますよね。ニンテンドー3DSを中心に展開されることが多いので,そのイメージが強いのかなと思いますが,その一方で日野さんご自身は,かなり“ガチのゲーマー”じゃないですか。部屋を見せてもらったら,モンスター級のPCにドデカいスクリーンとプロジェクタが用意されていて,ぶったまげましたよ。あれ? 僕と同類の人種なのかな? みたいな(笑)。
日野氏:
マニアなんですよ(笑)。
原田氏:
それで日野さんに聞きたかったのが,そのハイエンドな環境で遊ぶゲームと実際にレベルファイブが作っているゲームのタイプが,全然違っているってことなんです。スペック的に考えても,対象年齢的に考えても。そこはどうバランスを取っているんですか?
日野氏:
ああ,なるほど。まず言えるのは,ビジネスとして子供向けゲームを作っているわけではないってことですね。根底にあるのは,ドラクエのような温かい世界が好きという気持ちなんです。
僕はゲームの中に1つの世界が構築されているようなものに,ものすごく惹かれるんですよ。その世界の中にルールがあって,オープンフィールドでどこまでも続くフィールドには,独自の生態系が構築されている……そんな様を見るとゾクゾクします。それが必ずしもフォトリアルである必要もなくて,ただ温かい世界さえあればいい。
4Gamer:
でも普段遊ばれているようなPC向けゲームは,必ずしも温かい世界とは限らない,むしろ殺伐としたものが多いのでないですか?
日野氏:
ああいったハイエンドな環境でPCゲームを遊ぶのは,単純にゲームが好きだからです。僕にとっては「仮想の世界で生きること」こそがゲームの醍醐味で,それが僕が目指しているゲームの本質なんだと思います。仮想現実がゲームの中にどこまで広がっているのか見てみたいし,いつか自分でも作りたい。反対にどんな人気タイトルであっても,対戦が中心で戦うことしかできないようなものには,あまり興味を持てないんですよね。
原田氏:
ああ,なるほど。けっこう尖ってますね。
日野氏:
そういう話を,「ファイナルファンタジーXIV」(以下,FFXIV)の吉P(吉田直樹氏)と飲みながら議論したことがあります。僕が遊びたいし作りたいのは,ルールとしての世界じゃなくて世界としてのゲームだって。
僕自身2年以上熱中させてもらっているFFXIVは,ゲームとしてのルールはとても素晴らしい。けれどFFXIVの世界にいるモンスターは,ゲームのルールに則って,いつも特定のポイントに出現して倒れされるのを待っているじゃないですか。もちろんそのルールをプレイヤーとして楽しませてもらっているのですが。
原田氏:
それはMMORPGの,3Dだと「EverQuest」時代から脈々と続くルールがあるからですね。
日野氏:
そうですよね。でも僕は,僕自身はルールの先にある本質的な世界に惹かれるんです。ゲームのルールを否定するつもりはなくて,その完成されたルールの中で,世界が息づいているともっといい。例えば,地面の花にとまったテントウムシにさえ動きがあって,どこを切り取っても本当にその世界があるかのような……吉Pにはそんなゲームをいつか作ってほしいとお願いしました(笑)。
原田氏:
その花を摘んで,地面に植えると成長したりとか。
日野氏:
そうそう。ルールとしての世界ではなく,世界としてのゲーム。テントウムシを潰したことでポイントが入るとかではなく,ただ世界を息づかせるためだけにそういったギミックが用意されているような。最近はそういうゲームも増えてきて,海辺に近づいたらフナムシがワッと散ったり,当たり判定のないカニがいたりとか,あるじゃないですか。とくに海外のゲームは,そういった世界をちゃんと表現しようとしていて,敬意を表したくなっちゃいますね。
原田氏:
ふうむ……どちらかというと,ワールドシミュレータに近いかもしれませんね。ちなみに,最近で日野さんがグッときたタイトルって何かありますか?
日野氏:
「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」(以下,BotW)以降なら,「アサシン クリード オリジンズ」(以下,オリジンズ)ですね。あれはBotWをちゃんと研究した作りになっていて,ワールドが広いのはもちろんなんだけど,従来作と操作性が変わったことで,塀を乗り越え木を上り,障害物をものともせずフィールドを一直線に横切れるぐらい自由に移動できるようになりました。水による世界の表現なども格段に良くなっていますし,2017年のナンバー1を聞かれたら,迷わずこのタイトルを挙げたいですね。僕はPC,Xbox One S,PS4 Proでそれぞれ遊ぶために,全機種分買ったくらいです。
原田氏:
えっ,全機種?
日野氏:
テクスチャの解像度なんかをどこまで突き詰めているかとか,プラットフォームごとの表現の比較をしてみたくて。プレイヤーとしても興味がありましたけど,このゲームを解明することが,次の自分のゲームを作る糧になるんじゃないかと。
原田氏:
なるほど。そこでずっと不思議だったんですけど,日野さんは現場を見ながら社長もしているわけで,世間的に見てもかなり働いている部類じゃないですか,一体いつゲームを遊んでいるんですか。日野さんが僕の3つ上ってことを考えても,年齢的に朝までゲームを遊ぶのって体力的にきついと思うんですけど。
日野氏:
家に帰って,いろいろ残っている仕事が落ち着くのが0:00くらい,それから3:00〜4:00くらいまではたいてい遊んでますね。マスターアップ前だと徹夜もありますけど,一年中そのサイクルです。
原田氏:
それって体力的に大丈夫なんですか? そりゃ昔はできましたけど,僕は40歳を過ぎたあたりから,2:00以降起きていられなくなっちゃった。
日野氏:
それがですね,その時間がいわゆる“正気を保つ薬”になっているんですよ。
原田氏:
ちょっと待ってください。その言い方だと,まるでゲームをしていないときは正気じゃないみたいなんですが(笑)。
日野氏:
そうかな(笑)。やっぱり,好きでやっている仕事であっても,多少なりともストレスはあるみたいなんです。例えば,製作委員会で出資してくださっている方々と折衝しながらより良いものを作るとか。自分の想いを人に伝えてクリエイティブを進行する場面。ゲームやアニメだと,そういった会議がよくあるじゃないですか。
原田氏:
はい。……スタミナを使いますよね。
日野氏:
そう。そういった仕事をこなして家に帰ったら,自分の中にある気持ちをどこかで発散したくなってしまう。その発散先がゲームなんですよ。
原田氏:
すごく分かります。でも,普通だったら肉体的な限界があるわけですよ。スクウェア・エニックスの田畑さんと日野さんちにプライベートで遊びに行って思いましたけど,あの環境は体に良くないですよ。プロジェクタのあの大画面と音響で遊んでたら,徹夜しないタイプの僕らですら5:00まで起きてられましたからね。確実に脳からアドレナリンか何か出てたんだと思います。
日野氏:
いやいや,毎日あの環境で遊んでるわけじゃないですよ。普段遊ぶときは,75インチのやつですから。
原田氏:
でも4:00くらいまで遊んでるわけですよね。睡眠時間はどれくらいなんですか?
日野氏:
大体3〜4時間くらい。
原田氏:
ええっ! 日野さん,この調子だと早めに死んじゃうのでは。
日野氏:
いやいや,まだまだ生きます(笑)。僕の持論では,早死にっていうのはストレスの問題ですよ。僕は今,ほぼストレスのない状態で生きてますから大丈夫。
原田氏:
それはアドレナリンとドーパミンのせいでストレスを感じていないだけで,身体にはダメージが来てるような。あとね,ハードスペックを上げてロード時間を短くしてるのもよくない(笑)。ゲームで長めのロードが入るタイミングがあると,僕はそこでトイレに行ったり,一休みするきっかけにしたりするんですが,日野さんの環境だとトイレに行けないくらい速くて。
日野氏:
そうそう,SSDに換装してあるんですよ。
原田氏:
あんな環境でロード時間まで短くしたら,興奮が連続しすぎて体に悪いですよ。
日野氏:
じつはXbox One Xを買って,最近またSSDに換装したんですよ。最高スピードのSSDを買ったので,マイコレクションのローディング先に設定して,今ものすごく快適ですよ。今は「ウィッチャー3 ワイルドハント」を4Kでもう一度やり直すのと,「ライズ オブ ザ トゥームレイダー」を遊んでます。
原田氏:
僕もPC環境はかなりピーキーにいじってますが,コンソールをそこまでいじる人は珍しいですよね。しかも,これまでいろんな人に会いましたけど,クリエイターとしてこれだけの作品に携わっておきながら,ここまで幅広くゲームを遊んでいる人は見たことがないですよ。普通これだけゲームを遊ぶ人は,昼は仕事をしていないとか,良い意味で人生を捨てているような人ばっかりですから(笑)。
日野氏:
でもそれぐらいゲームは好きなんですよ。
4Gamer:
日野さんは,原田さんが手がけられている鉄拳シリーズをプレイされたことは? あるいは,広く格闘ゲーム全般についてでもいいのですが。
日野氏:
今は格闘ゲーム自体遊ばなくなっちゃいましたけど,昔は相当遊んでいましたね。「トバルNo.1」とか,PlayStation時代は。
原田氏:
ああ,僕も遊びました。あれは元鉄拳チームの人達が作ったゲームですよ。ある日出社したらフロアが閑散としていて,「あれ! 僕の同期も居ません!」って会社の先輩に言ったら,「皆スクウェアに行ったよ」って聞かされたのを今でも覚えてます(笑)。
日野氏:
あ,そうだったんだ……。
4Gamer:
一部では有名な話ですね(苦笑)。ところで,格闘ゲームはまさにルールが強く,世界が希薄なゲームの最たるものだと思うんですが,日野さんとしてはどんな印象でしょうか。
日野氏:
格闘ゲームはルールのゲームですよね。対戦で勝ちたいというより,コミュニケーションツールとして昔は昼休みにみんなと遊んでました。「バーチャファイター」の頃はゲーセンにも行きましたし。
原田氏:
「バーチャファイター」のブームはすごかったですね。一般人から業界人,ときにはホスト界隈の人達まで巻き込んだゲームでした。
日野氏:
素人ながらの意見ですが,僕は格闘ゲームもまだ進化できるんじゃないかと思うんです。
原田氏:
というと?
日野氏:
ルールとして勝ち負けがしっかりつくジャンルだから,本当に好きな人にとってはそれ以外のドラマは不要なのかもしれませんが,僕のような,世界観からゲームを見る人達からすると,ドラマシーンの中に格闘が入っていくのも面白いと思うんです。
最近のオープンワールドゲームでも,ドラマパートで描かれたバトルシーンからそのまま戦闘へつながるような演出になっていて,ドラマの部分がモチベーションを高める仕組みになっている。そういうほうが入りやすいんじゃないかと思うんです。
原田氏:
実は「鉄拳7」では,まず1人用のところでそれにトライしてみたので,日野さんにはストーリーバトルを遊んでみてほしいですね。プリレンダリングのドラマシーンから,リアルタイムレンダリングのキャラクターの掛け合いに移行して,そのままロードを挟まずシームレスにバトルが始まるという手法です。例えばムービーで吹っ飛ばされた後だったら,その吹っ飛んだ体勢で,体力がちょっと減った状態からちゃんとバトルが始まる。
日野氏:
あ,それはすごい。どのプラットフォームがオススメですか?
原田氏:
日野さんだったら,4K対応ですしPC(Steam)版が一番いいでしょうね。
日野氏:
SLIには対応してます? PC版はSLIに対応していないとカクツクじゃないですか。
原田氏:
SLIは切ってしまったほうがいいですね。比較的ローエンドなPCでも60fpsで動くように設計していて,そこも凄く評価されているんです。なにせSurfaceでも遊べるぐらいですから。で,日野さんが言うような演出を実際にやってきて分かったんですけど,ドラマをちゃんと作るなら,キャラ設定や世界観から物語の専門家にやってもらうべきなのだろうなと。
4Gamer:
それでも,鉄拳シリーズはかなりストーリーに力を入れているほうだと思いますけど。まあ,既存の格闘ゲーマーは,キャラクターこそ重要だけど,ストーリーにそこまでは求めてないでしょうし。
原田氏:
格闘ゲーム全般に言えることだけど,感情移入させるためのエピソードが短絡的なんだよね。戦う理由が有りさえすれば良いって感じだから,プレイヤーをその世界観に引き込むところまで行きつかない。一方で,「格闘ゲームに何を求めるか」をプレイヤーに調査しても,ストーリーは上位には上がってこない。「戦うモチベーションはもう持っているから,早く操作させてほしい」みたいな感じなので,ニーズと合致してないという背景もあります。ただ,もし次にやるとしたら,日野さんとディレクター契約したいくらいのことは思いました(笑)。
日野氏:
僕が思い描いたのは,単にストーリーを追いかけるのではなくて,もうちょっとオープンワールド的に,右に進むのと左に進むのとで戦う相手が変わるとか,好きなところに行けるみたいな。突き詰めていくと「龍が如く」になるのかもしれませんけど。
4Gamer:
ああ,つまり「シェンムー」が目指した方向性ですね。
日野氏:
まさにそれですね。鈴木 裕さんは「バーチャファイター」の戦いの間を,ああやってドラマでつなぎたかったのかもしれない。
原田氏:
それはあると思います。ただ格闘ゲームで「シェンムー」を目指すとなると……そこまで行ってしまうと,恐らく遊ぶ人が違ってきちゃうんじゃないかと。ジャンルが変わると客層も変わる。「バーチャファイター」と「シェンムー」のファン層が必ずしも一致しないように。
ストーリーと言えば面白いのが……例えば「バーチャファイター4」のジェフリーって,あれ何のために戦っているか知ってます? ……新しい魚群探知機が欲しいから,なんですよ。
(一同笑)
原田氏:
いや,それは働いて買えよって思うわけですけど。だけど格闘ゲームのキャラクターの動機なんて,その程度で許されちゃう。むしろ,そこを深く求めない客層に囲まれてきた証なのかな。バーチャファイターの熱心なプレイヤーでも,ジェフリーの動機なんて今日初めて知ったって人が,少なからずいるはずです。そこへ重厚な物語を持つシステムを持ってきても,やっぱりゲームとの向き合い方――遊ぶペースや攻略なんかが変わってくるから,受け手としては「これはこれで面白いけど,求めていたものとはちょっと違う」となりかねない。そこにはやっぱり,埋められない溝があるんじゃないかなと。
日野氏:
ターゲット層のニーズに合っているかどうかは,大事ですよね。でも,それは格闘ゲームに限らず,どのジャンルにも当てはまると思うんです。例えば僕は,自分でシューターは苦手だと思っていましたけど,「STAR WARS バトルフロント II」はストーリーを追いながら楽しく遊べたんです。じゃあどうしてシューターが苦手だと思っていたのかというと,ただ“撃つ快感”だけを,理由もなく強制されるのが嫌だったみたいです。
4Gamer:
「スター・ウォーズ」という背景があればこそ,ということですか。
日野氏:
ええ。よく知っている世界が舞台になることで,自分が乗り込む宇宙船を見てドキドキできる。世界のルールが分かっているから,撃つことが作業にならず物語にも入り込めるんだと思います。
原田氏:
なるほど。日野さんは,世界観やそこに至るまでの文脈がなにより重要なんだ。そこは僕とは違う部分かもしれません。僕は何より先に手触りの部分,つまり撃つ快感や勝つ快感を重視してしまいます。日野さんが言っていることは理解できるし共感もできるけど,恐らく意識が向く順番が違うんでしょうね。
4Gamer:
アクションゲームの場合,「何故そうなのか」という理屈付けよりも,手触りからくる快感が優先されるケースが多い気がしますね。例えばFPSだったら,ヘッドショットしたときのサウンドエフェクトや,撃たれて倒れるラグドールの動きの方が重要だったりとか。
原田氏:
そうそう。「PAYDAY 2」にハマったときは,まず銃の反動の具合にシビれましたから。そのうちリアルに街中にいる警備員とか機動隊員のおじさんが敵に見えてきて,心の中で無意識に頭を狙ってたりしてたくらい(笑)。どうにも手触りやリアクションに意識が行ってしまいます。
日野氏:
僕も最近,ヘッドショットを覚えたから分かりますよ。実際,そういう人が多いのだろうというのも。僕が世界観や物語から考えてしまうのは,やっぱり僕のゲーム観が,ドラクエからスタートしているからなのかもしれないですね。
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