連載
【箭本進一】ゲームのご先祖様:「ARMS」のルーツを尋ねて
箭本進一 / ゲーム系ライター。最新作からレトロゲームまで幅広く遊ぶ
箭本進一「ゲームのご先祖様」 |
はじめまして。ゲーム系ライターの箭本進一と申します。4Gamerの記事はもちろんですが,「超クソゲー」「超ファミコン」(以上,共著),そして「放課後、ゲームセンターで」といった書籍でお目にかかったことがあるかもしれません。
日々,無数の新作が発売されるゲーム業界ですが,「新しいもの」は突然変異的に現れるわけでなく,偉大な先人達が積み上げてきた工夫や試行錯誤がそこにはあります。この連載では,筆者が独自の見解で新作を分析し,そのルーツと思しき作品を探っていこうと思っています。
第1回は任天堂の「ARMS」を取り上げてみましょう。
「ARMS」のルーツを尋ねて
「ARMS」は腕が伸びるキャラクター達が殴り合う,Nintendo Switch向けの格闘アクションゲームだ。30種以上の「アーム」を自由に組み合わせ,さまざまな攻撃方法で戦う。駆け引きが奥深い一方で,ゲーム内容はとにかくシンプルで分かりやすい。「腕を伸ばしてパンチ」「敵のパンチを撃ち落としたり,ガードして防御する」といった攻防の基本は一目で理解できるし,「Joy-Conを持った手を突き出してパンチを放つ」という直感的な操作のおかげで,ふだんはあまりゲームを遊ばない人でも操作に戸惑うことはない。
腕は人間の意志を最も表現できる器官だ。パンチで壊し,開いた手でつかみ取り,互いの手を握り合って友好を示し,そして精妙な動きで物を作り上げていく。人間という種を象徴する存在が腕なのだ。それだけに腕をビデオゲームに取り入れる試みは,かなり早い段階から行われている。
「クレイジークライマー」(1980年)はその好例だろう。2本のレバーが主人公・クライマーの両手に割り振られており,レバーを動かしたとおりにクライマーの腕が動く。新たな手がかりを求めて腕を伸ばしたとき,プレイヤーは自らがビルを登っているような感覚を得るのだ。
腕の生えた擬人化車を主人公とした「ジョイフルロード」(1983年)では,2本のレバーのうち1本で腕を伸ばし,路肩にある食べ物や燃料を獲得する。伸ばした腕が障害物に当たってしまうと,真っ赤に腫れてしばらく動かせなくなってしまうのが微笑ましい。伸びる腕をゲームに導入したことにより,ユーモラスでのどかな雰囲気と,ほかのレースゲームと差別化する個性を手に入れたというわけだ。
腕の長さは限られているが,それだけに「伸びる腕」は尋常ならざる者を表す記号にもなった。「超絶倫人ベラボーマン」(1988年)はボタンを押す強さに応じて,主人公・ベラボーマンの腕が伸びる。近くを殴るには軽くタップし,腕を伸ばすには強く叩けばいい。の伸びる腕の直感的な分かりやすさがあったからこそ,日本や北米を対象としたIP再起動プロジェクト「Shifty Look」の対象にも選ばれたのだろう。
一つのアイデアや動作を突き詰めることが多かった当時のゲーム制作において,身近な腕はアイデアの宝庫だったのである。
その後,ハードウェアの発達により,自分の腕の動きをフィーチャーしたゲームが楽しめるようになった。Wiiではセンサーを内蔵したリモコンをハンマーや弓矢に見立て,Kinect センサーは手に何も持たずともゲーム画面を操作できるようになっている(道具を使う手にこだわった任天堂と,手そのものを入力デバイスとするMicrosoft。両社の取り組みが対照的であるところが興味深い)。
また,Oculus RiftやHTC VIVEといったVRデバイスでも,腕の動きを反映するコントローラが用意されている。腕の動きをフィーチャーしたゲームが,よりパーソナルになっているのだ。震動で触感を与えるJoy-ConやTaclimに代表されるように,その進化はさらに続いている。近い将来,腕をゲームの入力デバイスとして捉えるのが,当たり前の時代が来るのかもしれない。
筆者の考える「ARMS」のご先祖様 5選
「超絶倫人ベラボーマン」
アーケード / ナムコ / 1988年
「手足が伸びる特撮風ヒーロー」というキャラクターはとにかく分かりやすく,発売から30年近く語り継がれている。また,2012年にスタートした「Shifty Look」はナムコのレトロキャラクターを再起動するプロジェクトだが,数あるナムコキャラクターのなかからベラボーマンが選出されていた。
「クレイジークライマー」
アーケード / 日本物産 / 1980年
「ジョイフルロード」
アーケード / SNK /1983年 (Google 画像検索)
手が生えたユーモラスな車が主人公のドライブゲーム。左レバーで車の進路を操作し,右レバーを動かすと車の手が伸びて,路肩にあるアイテムをつかみ取る。食べ物を取ると食べかすが出るので,それをゴミ箱へ捨てるとボーナス点を得られるのがユニークだ。また,伸ばした手が障害物に当たると腫れてしまって,しばらく操作不能になる。
ドライバーではなく車自身の手とすることで,絵本のような雰囲気を演出し,伸びる腕が非常にユーモラスな印象深いゲームとなった。
「ヘビーウェイトチャンプ」
アーケード / セガ / 1987年
「リスター・ザ・シューティングスター」
メガドライブ / セガ / 1995年
■■箭本進一■■ 宮城出身の大阪育ち。4Gamerを中心に活躍しているゲーム系ライター。アイデアや表現が優れている,勢いがすごいなど,一芸に秀でたゲームを愛する。著書に「超クソゲー」「超ファミコン」(共著/太田出版),「放課後、ゲームセンターで」(マイクロマガジン)などがある。 |
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