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内なる“怒り”が新生FFXIVを作った――不定期連載「原田が斬る!」,第6回は「ファイナルファンタジーXIV」吉田直樹氏に聞く,MMORPGの過去と未来
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印刷2018/05/09 12:00

インタビュー

内なる“怒り”が新生FFXIVを作った――不定期連載「原田が斬る!」,第6回は「ファイナルファンタジーXIV」吉田直樹氏に聞く,MMORPGの過去と未来

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 鉄拳シリーズのプロデューサー・原田勝弘氏による対談企画「原田が斬る!」の第6回をお届けする。原田氏が今回のお相手に選んだのは,「ファイナルファンタジーXIV」(PC / Mac / PS4)のプロデューサー兼ディレクターである,スクウェア・エニックスの吉田直樹氏だ。
 4Gamerの誌面には幾度となく登場しているお馴染みの二人ではあるものの,共にMMORPGの黎明期を知る両者のトークは尽きることがなく,かつて駆け抜けたブリタニアやノーラスの思い出や,果てはゲーム業界の今昔にまで話は広がっていった。本稿では,スクウェア・エニックスのインタビュールームから始まり,その後の会食と,バーでの3次会までを含め,5時間以上にもおよんだトークの内容を凝縮してお届けする。

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後世に語り継ぐべき,新生FFXIVの顛末


4Gamer:
 本日はお時間をいただき,ありがとうございます。今回は原田さんがとくにお聞きしたいことがあるそうで,吉田さんとの対談をセッティングさせていただきました。原田さんご自身は「ファイナルファンタジーXIV」(以下,FFXIV)をプレイされているんですか。

原田勝弘氏(以下,原田氏):
 いや,現在形ではちゃんとプレイできていないんですよ。ただ,もともとMMORPG好きということもあって,FFXIVのリリース時はものすごく注目していました。だから初期にはちゃんと遊んでたんですけど……もう「何が起きてるんだ!」というぐらいの大炎上だったじゃないですか。

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吉田直樹氏(以下,吉田氏):
 はい,はい。

原田氏:
 あの時は大変失礼ながら,「これはもうダメだろう」と思ったんですよ。プレイヤーとしての長年の経験から,「MMORPGは一度失敗したら二度と浮き上がれない」という確信があった。だけど,それが2,3年経ったら,すごく評判のいいゲームに変貌していたんですね。この出来事は個人的にも衝撃的だったし,僕はゲームの歴史に残すべき大事件だと思っていて。
 それで今回の対談の前に,あらかじめいろんな人に聞いてみたんです。「最初に味噌がついてしまったタイトルの再復活を任されたら,やってみたいか」って。そうしたら,「絶対にやりたくない」「成功したらもらえる評価次第」という意見がほとんどだった。

4Gamer:
 それはまあ,そうでしょうね。

原田氏:
 気が進まないのは当たり前なんだけど,中には「モチベーションをどこに持てばいいのか分からない」という意見もあって。僕が聞きたいのはまさにそこなんですよ。吉田さんのモチベーションって,いったいどこにあったんですか。普通はFFっていう看板からくるプレッシャーもあって,心がもたないと思うんですけど。

吉田氏:
 簡潔に言うと……最初の僕のモチベーションは「怒り」だったように思います。

原田氏:
 「怒り」……ですか。それはちょっと面白いですね。どういうことですか?

吉田氏:
 ちょっと時系列で話をさせてください。僕も原田さんと同じで,オンラインゲームの黎明期から「Diablo」「ウルティマ オンライン」(以下,UO)を遊んでいた人間なんです。その後は「EverQuest」(以下,EQ)に行って,「Dark Age of Camelot」(以下,DAoC)では,ランキング世界1位を目指してやり込んでまして……。

原田氏:
 おお,DAoCをそこまで。

吉田氏:
 ガチもガチでしたね。前の会社では仕事とMMORPGしかしない僕を哀れんだ社長が,回線を別にしてオフィスに個人PCを置いてくれたぐらい(苦笑)。

原田氏:
 あの時代は,ちょっと業界全体が狂ってましたよね。うちも外部回線は原則使用禁止だったんですけど,「有休中の後輩が(ゲーム内で)死んだんです」って言ったら,こっそり使わせてくれたどころか,課をあげて助けに行ったりとか(笑)。

吉田氏:
 分かります(笑)。それで皆,ゲームの世界から帰ってこない。仕事の話をするにも,ノーラスやブリタニアに行った方が話が早いとか,そういう時代で。まあそんなコアプレイヤーでもあったので,僕は「ドラゴンクエストX」PC / PS4 / Switch / Wii U / Wii / 3DS)(以下,ドラクエX)の開発初期メンバーとして,社内α版が完成するまでチームに参加していました。

原田氏:
 ああ,そうだ。もともとドラクエXのチームでしたよね。

吉田氏:
 ええ。原田さんと同じで,僕もMMORPGが日本で市民権を得ないことにじくじたる想いがあったので,「ドラクエでダメなら無理かもなあ」と思いながら作っていたんですが,基幹システムが出来上がり,社内αテストの段階で,会社から新規のゲームを作って欲しいというリクエストがありました。結果それを受けることになり,別のゲームを作り始めていたときに,FFXIVの大炎上が伝わってきました。

4Gamer:
 そのときは,今で言う旧FFXIVはプレイされていなかった?

吉田氏:
 していません。でもグローバルサービスのMMORPGは,ローンチのタイミングでは,サーバー周りが不安定なのは当時ある程度は普通のことで,多かれ少なかれ炎上はするものでした。しかも,ストーリードリブンのMMORPGとして評価の高い「ファイナルファンタジーXI」(以下,FFXI)が先にあるわけで,その時は期待の大きさゆえに騒ぎも大きいのかな? ぐらいの認識だったんです。

原田氏:
 なるほど。内情を知るまでは。

吉田氏:
 それからしばらくすると,会社と当時のプロデューサーだった田中弘道さんから,「このエマージェンシーを整理するために力を貸してほしい」という依頼が僕のチームに舞い込んできた。当時の僕のチームには,髙井 浩や,皆川裕史といったスクウェア時代からの中心的なスタッフがいたからです。

4Gamer:
 エース級が揃っていたわけですね。

吉田氏:
 ですが,ヘルプに行った2人が「これはまずい」と言いながら戻ってきて,なぜか僕も巻き込んで,現状の問題点を書き出す作業が始まりました。そこで初めて僕も,「これは思っていたようなレベルの問題じゃないのかも……」ということに気付きました。当時の社長(和田洋一氏)に,「本当に全社で取り組まないと覆せない問題だ」と直談判に行って……だけど,そのときは「人を充てれば何とかなる」って言われてしまった。

原田氏:
 上層部は,まだ状況を理解していなかった。

吉田氏:
 難しい判断だと思うのですが,僕は「問題はゲームが壊れていること。そして,それを指摘できる人がいないのに,人を充てても意味がない。」と思ったのです。どうしてそれがわからないんだろう,と。「僕は伝えるべきことは伝えました。これ以上お話しできることはないので,もう巻き込まないでください」と,その時は終わりました。今にして思えば,恐ろしく生意気ですね(笑)。

原田氏:
 なるほど。

吉田氏:
 ただ,それからも現場の悲鳴が止まらなくて……ちょっと相談に乗ったとき,スタッフが涙を流しながら語るんです。「『World of Warcraft』(以下,WoW)と比べるべくもなく,FFXIVには機能もコンテンツもない。僕らスタッフは何度もこれじゃまずいって言ってきたのに,『FFXIも最初はそうだった』と言われるだけ。誰も話を聞いてくれないし,僕らの5年のキャリアを返してほしい」って。

原田氏:
 FFXIもコンテンツが少ないとは言われてたけど,話の次元が違いますよね。

吉田氏:
 FFXIを体験したプレイヤーの皆さんは,いわばフルコースの料理をすでに食べてしまった後のようなものです。これはMMORPG全体が抱えている宿命でもあって,新しいタイトルは,すでに最前線で何年もアップデートを続けてきたタイトルと必ず比べられることになる。

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原田氏:
 そこが今のMMORPGの辛いところですよね。例えばUOの初期なんて,ほんと酷かったじゃないですか。ローンチの日なんて,日本からだと5分に1コマしかキャラが動かないし,ロールバックも30分や1時間というレベルじゃなかった。それでも炎上はしなかった。

吉田氏:
 ヘタしたら3か月巻き戻るとか,ありましたね。

原田氏:
 そうそう。でもそんなことで僕らプレイヤーがへこたれなかったのは,ロールバックした目先の過去じゃなく,ただ未来を期待して見ていられた時代だったから。「僕はMMO創世記という歴史的瞬間を目の当たりにしているんだ」っていう興奮もありました。それがEQ,FFXIと来て,WoWでベストアンサーに近いものが出てしまった。旧FFXIVのあの炎上は,WoWの後だからこそのものだと思います。

吉田氏:
 僕はこの話をよくラーメン屋に例えてお話しします。「隣の店がどんなラーメンを出しているのか」「どんな接客をしているのか」といったことは,やっぱりお店を出す前に知っておかなくちゃならないと思うんです。その時代に合った最低限の準備をしないと,勝負にすらならない。頑固一徹のラーメン屋も良いですが,MMORPGはサービス業です。でも,あのときのFFXIVは,こんな話すら通じない状態だった。

原田氏:
 そこから立て直しを引き受けることになったのは,どうしてなんですか。一度は断ったわけですよね?

吉田氏:
 その後,「何とかならないか」と会社から正式に頼まれたのです。自分が言い出したことでもありましたし,僕自身,FFシリーズが好きだったので,「では担当させてもらいます。」ということで引き受けました。「好きにやっていい」と言われたのも,結構モチベーションにつながったと思います。

原田氏:
 それがすごいよね。普通はそんな前向きになれないと思うんだけど……。

吉田氏:
 正直なところ「旧FFXIV」を自分で触ってみて,「これ以上悪くならないだろうな」と思ったのもありました。ハドソンにいた時も,ぐちゃぐちゃになったプロジェクトの整理は何度か経験していたし,そういうところはすごく楽観的なのです。だから,「こんなの引き受けちゃってどうしよう」みたいな気持ちには,まったくならなかったですね。

原田氏:
 FFXIVでもう一つ衝撃だったのが,FFの看板を背負ったタイトルで,スクウェア・エニックスという会社自体が失敗だったと認めていることなんですよね。これってパブリッシャとしては,なかなかありえない事なんですよ。いろいろな責任が伴うものですから。

4Gamer:
 決算発表での和田(前)社長の発言ですね。あれは吉田さんが進言されたとか。

吉田氏:
 そうですね。当時の自分は,結構上の方にいたにも関わらず,なんとなく感じてしまう“スクエニの高飛車さ”みたいなものが嫌でした。開発全体に流れている空気が,「文句を言うな」という雰囲気があって。確かにPS2のときは,ぐうの音も出ないほどのクオリティとエンジニアリング,それから勢いがあったので,当然なのかもしれないのですが。

原田氏:
 当時のスクウェア・エニックスは,そういう一面があったかもしれないですね。

吉田氏:
 ただ,テクノロジーでは海外に遙か上を行かれてしまっているにもかかわらず,「いいから黙って」的な雰囲気があって。僕はそれが嫌だった。

原田氏:
 FFXVの田端さんも,ニュアンス的には近しいことを以前おっしゃっていました(関連記事)。

吉田氏:
 僕が感じていた高飛車さは,それとはちょっと違うかもしれません。仕方がないとは思うのですが,なんというか……失敗させてくれない会社になってしまっていたんです。だから若手にチャンスも与えにくいし,綺麗に転ぶことすらさせてもらえない。FFシリーズに限らず,全体がそういう空気だったように思います。だから,「まず失敗と認めるところから始めませんか」と提案しました。

原田氏:
 よく通りましたね。

吉田氏:
 でも,それぐらいの失敗だったのも事実です。お客さんには何十万もするPCを用意して遊んでもらっているわけですから。失敗を認めなければずっと責め続けられる。だけど,認めてしまえばそこが底辺になります。あとはもう,登っていくしかない。だからちゃんと謝りましょうって。

原田氏:
 それは,プロジェクトを引き受ける条件として提案されたんですか。

吉田氏:
 いえ,条件ではなくプランとして出しました。「当然,そうするべきですよね」と。先ほど「怒り」と言いましたが,その矛先はこうした当時の現状についてなんです。

4Gamer:
 モチベーションの源としての「怒り」って,燃料として確かによく燃えそうです。FFXIVだけでなく,会社そのものを変えたかったと。

吉田氏:
 そこまで大層に「会社を変えたい」とは思っていませんでしたが,僕自身がスクエニファンだったので,ネットに書かれているようなファンの怒りもよく理解できたつもりです。シリーズものならもっとお客さんの望むものを作っていいはずだし,勝負したいなら予算と期間をしっかりと切り詰めて,ゼロから作ったもので真価を問えばいい。このバランスが,どうしてこんなにおかしくなってるんだろうと。FFXIVの作り直しというのは,それを真剣に考えるきっかけになるかもしれない,と考えました。

原田氏:
 なるほど。そうして作り直しがスタートして,新生FFXIVがリリースされるまでって2年ちょっとですよね。僕は4,5年かかると思っていたので,これはMMORPGの開発期間としては非常に短い。いったいどうやったんですか。業界での経験上,これだとプレイヤーの意見を吸い上げる時間なんて,ほとんどなかったんじゃないかと思っているんですが。

吉田氏:
 あの開発期間でゼロからMMORPGを作るとなると,細かいポイントをすべて拾い上げるというわけにはいきません。また,新生版は旧版とは全く別のゲームですので,根幹システムへのフィードバックはあまり参考にできなかったこともあります。ですので,2.0の基幹システムは時間から逆算したこともあって,ほぼ独断でデザインしています。

原田氏:
 じゃあ,今までのプレイヤーとしての体験だったり,ドラクエXでの経験を元に開発されたと。

吉田氏:
 そうですね。ただ,プレイヤーと対話すること自体は,すごく大切にしていました。「こういうものを作ります」「こういう機能を用意するつもりです」という。先ほど原田さんもおっしゃっていたので,やっぱりそうだなと思ったんですが,MMORPGって“未来に期待して今を遊ぶゲーム”なんです。僕はそれをプロデューサーレターLIVEという形で始めたんです。

原田氏:
 ああ,なるほど。

吉田氏:
 僕が発信すると,「それは好き」「それは嫌い」「こういうデメリットがある」「いやいや,こういうメリットもあるよ」という風に,コミュニティの中でディスカッションが始まる。僕はそれを見たり,ときには議論に参加したりしながら,開発を続けていきました。最後に落としどころを迷ったものの中には,その対話から解答を見つけたものもあります。でも基本的には一発勝負でした。ヤマを張って思いっきり振るという。

原田氏:
 そうなると「FFXIV」という名前だけが同じで,あらためてゼロからMMORPGを作ったようなものですよね。

吉田氏:
 近いですが,世界設定とNPC,それからシナリオは全部綺麗に引き継いでいます。旧FFXIVの終了に向けて,世界が徐々に崩壊していくというシナリオを展開して,その滅びの原因をバックストーリーにしながら,新生FFXIVに物語をつなげていきました。これを思いつけたのは結構大きかったと思います。

原田氏:
 海外のMMORPGでも,βテストが終わると概ね世界が滅びますしね。UOのβテストも最後にドラゴンとデーモンが暴れまくってましたし。電話で先輩と,「原田まだ生きてるか!」「生きてますけどこれどうすればいいんですか!?」とかってやり取りしてました(笑)。

吉田氏:
 あ,インスピレーションを受けたのはまさにアレなんです。ゲームを閉じるときは大騒ぎしたほうが面白い。ああいう一度しかできない体験というのはすごく思い出に残りますし,あの状態の旧FFXIVをそれでも応援してくれた人達のためにもやっておきたかったという意識が強かったのです。

原田氏:
 思い出に残りますよね。伝説のライブに行ったようなものです。

吉田氏:
 ちょっとやりすぎて,サーバー落ちまくりで……。そのときになって,「あまりにサーバーが駄目だから作り直そう」って決めたことを思い出して,終末の世界をPRしすぎたことを反省することに(苦笑)。

(一同笑)

旧FFXIVの最後の日,街中にあふれ出したモンスター達。襲撃イベントがリアルタイムで進行していき,世界の終わりが描かれた
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そしてこちらは,UOにおけるAsuka/Yamatoシャードのプレオープンイベントの様子。英語版のβテスト最終日を模したイベントとなっていた
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MMORPGは未来に期待して今を遊ぶゲーム


4Gamer:
 先ほどのお話でちょっと気になったんですが,“MMORPGは未来に期待して今を遊ぶゲーム”というお話,これはMMORPGプレイヤーとしてすごく納得がいくのですが,実現しようとするとかなり難しい。メーカーとして,できないことを約束するわけにもいかないですし。そのあたり,どのように調整されてきたのでしょうか。

吉田氏:
 FFXIVの場合は2年先まで計画があって,実装するコンテンツと,それにかかるタスクやコストをリストにまとめてあります。その中から幾つかのカテゴリのコンテンツが集合して,1つのメジャーパッチになる。もちろん細かいアドリブはありますが,これを繰り返し行ってきたことで,確度はかなり高くなりました。この計画が終わった時点で,ある程度先のことだったとしても,かなりの精度でお伝えできます。

4Gamer:
 計画していたけど,やってみたらできなかったということは?

吉田氏:
 例えば,作っているうちに,「完成はしたけど,この機能は中途半端すぎる。もう1タスク加えたほうがより良くなる」ということになって,実装を先延ばしにするということはあります。そうした場合は,ライブストリームで意図をきちんと説明して,「待ってください」とお伝えします。反対に,「中途半端ではあるけれど,もう十分使えるからリリースしよう」と前倒してリリースする場合もあります。

4Gamer:
 なるほど。いやでも,それがちゃんと実行できているのって,MMORPGではすごく珍しくないですか。プレイヤーとしてのこれまでの経験からして,思い描いていた未来がちゃんと実現したことって,ほとんどなかった気がします。だからこそ,ずっと夢を見続けていられたのかもしれませんが。

吉田氏:
 僕もそうだったから,すごくよく分かります(笑)。

原田氏:
 でも,それがないと続かないんだよね。

4Gamer:
 今は“未来がちゃんと来る”時代ということなんでしょうか。とくに日本のゲームメーカーは,こうした未来を語らない印象があるのですが。

吉田氏:
 普通はそうだと思います。足かせを填められてしまったと感じる,あるいは自由な発想ができなくなる,と考える開発者もいます。でも,裏を返せば日本のゲーム業界がタスク管理や計画を疎かにしてきたことも大きな理由なのだと思います。MMORPGは大規模であればあるほど,先への計画が成功の要因を握っています,そもそも計画はそれぐらいの規模や精度で詰めておかないと,3.5か月に1回のパッチは出せませんし,並行して裏で拡張パッケージを作ったりという芸当もできません。ただし,あまり先のことばかり言い過ぎても……ということもあるので,広報とも相談しつつ,という感じですね。

原田氏:
 この作り直しについては,もう1つ聞きたかったことがあって。「プログラマーにソースコードを書かせなかった」というエピソードをどこかで読んだんですが,それ,本当なんですか。もちろんコーディングを先行させて,あとからロールバックが発生したら無駄なコストが発生するのは分かるんですが,僕がその立場だったら,何もさせないというのはちょっと怖いんですよ。

吉田氏:
 いや,何もさせなかったわけではないです。あの時は旧FFXIVのアップデートと,新生FFXIVの開発という2チームを並行して走らせていたわけですが,最初は当然ながら前者に人員を多く割いていました。新生の開発は8人しかいなかったんです。

原田氏:
 なるほど。じゃあその8人にコードを書かせなかった?

吉田氏:
 はい。その8人には,「すべての設計に関わるから,吉田のやりたいモノが出揃うまで,誰もコードを書くな」「仕様やサーバー構成といった基幹の仕事しかやるな」という指令が出ていました。その英断を下したのは,当時のCTOだった橋本喜久です。

原田氏:
 プランナー達は?

吉田氏:
 ゲームデザインチームには,今のMMORPGを知ってもらうために,まずWoWをプレイするように指示しました。おおよそ3か月くらい。英語が分からなくても,ジャーナルの色が変わっているところを追いかければ大丈夫だからって。

World of Warcraft
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原田氏:
 ああ,その話は聞いたことがあります。

吉田氏:
 当時の僕は雪隠詰めですごかったですね。22:00まで会議で,その後にひたすら概要書や仕様書を書く。翌朝からまた会議詰めで,出られないプログラマーのためにビデオを撮るとか。

原田氏:
 なんか1人ブラック企業みたいな。しかも管理職だから残業代が出るわけでもなく。1990年代の開発現場みたいです(笑)。

吉田氏:
 もう完全にその状態でしたね(笑)。でもめちゃくちゃ楽しかった。もともと無趣味なほうですし,ゲームを作っていれば幸せな人間だったので。

原田氏:
 もしかして,ミッションの難度が高ければ高いほど燃えるタイプですか。

吉田氏:
 恐らくそのタイプですね。プログラマーがウェイトしていて,僕が仕様を切っていくことで設計が進んでいくのは,ちょっとしたカタルシスがあるんです。例えば「将来的に,最大何人が同時参加できるコンテンツにするのか」って問いに対して,「8人のフルパーティが3つ集まってアライアンスに。それが3勢力分と考えると72人」「でも,これからはコミュニティが小さくなっていく時代なので,それ以下で考えよう」みたいな。

原田氏:
 MMORPGプレイヤーの経験が生きてますね。

吉田氏:
 その根拠をひたすら話して仕様に盛り込みつつ,コンテンツファインダーのサーバーの性能をどこまでにするかとか,1回のマッチングに流れる情報量はどれだけなのか,といったところを,プログラマーに設計してもらう。それらの設計が全部決まったところで,「よーいどん!」でコーディングをスタートさせたんです。

原田氏:
 プランナー達にWoWをプレイさせたことで,チームにどんな変化がありました?

吉田氏:
 未プレイだった人の中でも,とくにリーダー陣が変わりましたね。同じゲームを知っていると,「ほら,鉄拳のアレがさ」みたいな会話で話が通じるようになる。情報伝達のスピードが明らかに速くなりました。

原田氏:
 そういうの,最近は聞かなくなりましたね。昔はライバル会社のゲーム,とくに完全競合するタイトルは徹底的にやり込むのが普通だったのに。数値を見て頭で理解したつもりになるのと,指を通して理解するのは違うものなんだけど,近年はそういう研究をしなくなりつつある。

吉田氏:
 ちょっと残念ですよね。皆もっとゲームをやればいいのに。ゲームがテクノロジーの塊になりつつあるので,テクノロジストがゲームを知らなくても成り立つ時代なのかもしれません。だけど,ゲームデザインの根幹を握っている人達には,「ライバルが何をやっているのか」をちゃんと見たうえで,その上を行こうって考えたほうが良いよとは言いたいですね。

原田氏:
 それは強く思います。少なくとも,自分が作ってるタイトルと競合するゲームはプレイしておかないと。そうでないと,プロデューサーやディレクターとして,プレイヤーやコミュニティから信用されなくなる面もある。だから,僕も極力いろいろなゲームをプレイするようにしています。吉田さんご自身もかなりプレイされてますよね。

吉田氏:
 そうですね。結構なコアプレイヤーです。子供の頃からやりつくすタイプで,1つのゲームを何百時間もやっちゃう人間でした。ファミコンの「ゴルフ」とか,パズルのように遊んでましたし。「ストリートファイターIII 3rd STRIKE」(以下,3rd)のときも,負けず嫌いなんで勝つために会社を辞めようかと迷った時期があったくらい(笑)。

原田氏:
 え,なんですかそれ。ちょっと脱線しますけど,詳しく聞いていいですか(笑)。どういうことなんです?

吉田氏:
 僕は反応速度とか感覚で戦うタイプじゃなく,すべての状況に対応したアルゴリズムを自分の中に作るプレイヤーだったので,とにかく何度も同じ対戦を繰り返してそれを構築するという,言わば根性型でした。それまではある程度のプレイでもなんとかなっていたのですが,3rdに至っては,「これはゲーセンの開店から閉店まで,ずっとやってないと勝てない!」と思ったときに,これはもう会社を辞めるしかねえ! と(笑)。

原田氏:
 かなり自分を見失ってますね(笑)。いや,分かりますけど。でもやっぱり,ちょっと変な人ですよね。さっき知り合いに聞き込みをしたという話をしましたけど,そのとき吉田さんの印象をきいたら,「ある意味変態だよね」と言う人が多かった。表現が悪いですけど,1回恨まれたら殺すまで追っかけて来そうとか(笑)。

吉田氏:
 あ,そう見られがちですが,実際は逆です。怒りが極限にまで達すると,完全にスルーしてしまいます。「時間の無駄」って。

原田氏:
 ほほう! なるほど,ではFFXIVは勝算があると思ってやってたんですか。あるいはFFが好きだとか,つなぎとめる何かが。

吉田氏:
 勝算……というか,このままじゃ終われないと思ったんです。ここで諦めたら,FFというブランドは本当に死んでしまうと考えていました。少なくとも僕にとっては。そうでなくても向こう10〜15年は取り返せない負債を負うことになる。スクウェア・エニックスという会社で,用意できる最大戦力で取り組んでダメなんだったら,それはもうどうしようもないんだから,やるだけやってみよう。人生に一度ぐらい,そこに全部突っ込んでみようと。

原田氏:
 賭け……と言っては失礼かもしれないですが,当たりましたね。

吉田氏:
 でも,僕からすれば凄まじい面子が揃っていたのです。それも名前だけとかじゃなく,一緒に仕事して凄まじいと感じた,生きる伝説達。とくに吉田明彦と皆川裕史は,僕が憧れてきた松野組の御三家の2人だし,髙井さんはスクウェア時代からの生え抜きです。他にも大勢凄いスタッフがいて,「これでまともにならないなら,それは僕に能力がなかったと素直にあきらめよう」と思えました。反対に「この先,これ以上のチャンスがあるんだろうか」と思ったくらいです。

原田氏:
 それでも,一度失敗したMMORPGが再起するって奇跡ですよ。そこは本当に,すごいとしか言いようがない。変な言い方かもしれませんが,いいものが売れるとは限らない世の中じゃないですか。MMORPG以外にも娯楽がたくさんあるこの時代,ただでさえいろんなエンターテイメントが消費者の時間を取り合っているこのご時世に,一度失敗したMMORPGにプレイヤーが戻ってくる。それってプレイヤー達が,ちゃんと中身を見てるってことなんです。文句が来るときもすごいけど,こういうことだってちゃんと起こり得るという教訓として,この「FFXIV事件」は後世に語り継ぐべき出来事なんじゃないかな。僕はそう思っていますよ。

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