インタビュー
ニンテンドー3DS「Ever Oasis 精霊とタネビトの蜃気楼」インタビュー。石井浩一氏が,新たなエジプシャンファンタジーの世界を構築するまでの秘話を聞いた
本作は,過去に「聖剣伝説」や「ファイナルファンタジー」などのシリーズを手掛けてきた石井浩一氏が率いる,グレッゾが開発を担当した完全新作。オアシスの育成と砂漠の冒険,そしてナカマとの絆を描く物語が展開されるアクションアドベンチャーRPGだ。
今回は,本作でプロデューサー兼ディレクターを務めた石井氏にインタビューを行った。任天堂の公式サイトで展開中の「開発者が語る『Ever Oasis』の世界」とはまた違った角度で話を聞いてみたので,併せて読んでゲーム発売に備えてもらえればと思う。
「Ever Oasis 精霊とタネビトの蜃気楼」公式サイト
10年前のエジプト旅行で
その世界観を元にした本作を作ることになると直感
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。
まずはこのEver Oasisの企画を任天堂さんと組んで進めることになった経緯からお聞かせください。
もともと,コンパクトに遊べるゲームの企画を自分で立てて,弊社で1本作ろうとしていたんですが,僕の性分からどうしてもあれこれ世界を膨らませてしまいましてね。最初は小さな集落でまとめようとしていたんですが,考えていくうちに内側だけではなく,外からの目線もないと,その世界を実感できないと思ったんです。
キャラクター達が生き生きと冒険をしたり生活をしたりする世界を考えると,小さな規模では難しいと考え,任天堂さんと組んで大きなものを作ることになりました。
4Gamer:
企画が動き出したのはいつ頃だったのでしょう?
石井氏:
構想自体は4年ほど前からありました。当初は今のようなエジプシャンファンタジーとは違う世界観で,しかも町のコミュニティだけで形成するというイメージだったんですが,そうすると「どうぶつの森」などとも重なってしまうので,その差別化が難しいなと思っていたんです。
4Gamer:
ということは,本作の構想時からこの世界観があったわけではないんですね。
石井氏:
入り口はそうでしたね。ただ僕は基本的に世界観をイメージしながらゲームを考えていく性格なので,“タネビトの世界”については早いうちから考えて,それに合うのはエジプトなのかな,という具合に結びついていったんです。
4Gamer:
エジプトには過去に旅行で行かれたそうですね。
石井氏:
ちょうど10年前でしたね。あのときなぜエジプトに行くことになったのか,今考えると,縁があったのかなという不思議な感覚があります。
4Gamer:
ひょっとしたら,呼ばれていたということでしょうか?
石井氏:
そうですねぇ。僕はかつてゲームに「火」「水」「土」「風」という「属性」を持ってきて,次に「マナ」を持ってきたんですが,マナという食物がエジプトにあったという伝承を知っていたので,エジプトに興味がありました。実際に行ってみると「あれっ!?」という不思議な感覚がありました。そのとき,「いずれこの世界を元にしたゲームを作るんだろうな」という直感があったのかもしれません。その時点では気付いていなかったんですが。
それと,精霊やマナなどもそうですが,無償の愛がある環境の上にキャラクター達が生きていることをゲームに持ち込むことは,昔から僕の中に無意識のテーマとしてありました。
4Gamer:
以前から石井さんは,現実世界にも精霊がいるのではないかというお話をされていますよね。
石井氏:
特別に霊感が強いという感覚はないんですけどね。子供の頃の僕は鍵っ子で,誰もいない家の2階で歩く音が聞こえるとか,そういうことがよくあったんです。それを怖いと思う人もいますが,僕の場合は「護られている」という感覚があって,そういう経験が自分の表現するものに自然と影響するようになったのかもしれません。キャラクターイラストなんかにも,そういった意識は出ていますよね。
4Gamer:
そんなキャラクターデザインは今回,しずまよしのりさんが担当されていますが,起用の理由をお聞かせいただけますか。
石井氏:
彼とは過去に一緒に仕事をした縁があって,その時に彼と僕の感性が近いと思ったんです。気に入る対象がだいたい同じで,イラストの依頼でも僕のラフからイメージどおりに上がってくるので,うまく仕事のキャッチボールができる人でしたね。
4Gamer:
ということは,キャラクターデザインに関しては石井さんが構想していたものが,よりよい形で実現できたんですか?
石井氏:
彼の持ち味を生かすとなれば,本来なら「艦隊これくしょん -艦これ-」のようなキャラクターだと思うんですが,本作ではあえて僕の絵柄に近い,頭身の低いキャラクターをデザインしてもらって,過酷な世界で可愛いキャラクターたちが明るく前向きに生きていることを表現することにしたんです。
彼も頭身が低いキャラはあまり描き慣れていなくて,最初はちょっとやりづらそうでしたが,比較的早い段階で見せてもらったデザインがすごく良くて,これなら行けると思えました。
4Gamer:
ゲームの中で動いているタネビトを見ると,不思議な生命力を感じます。
石井氏:
タネビトも最初は頭からぶら下がったタネを取って植えるとそれが「ハナミセ」になるとか,本人がタネになって埋まるとハナミセが開店するみたいなデザインを考えていました。その地に骨を埋める覚悟を持つという表現ですね。
ただそれではちょっと直接的過ぎる印象があったので,ハートという心のタネを植えるようにしました。満たされた心を植えることで,そこで生きていこうという決心をするということです。そうした演出も含めて,タネビトというキャラクターはうまく表現できたと思います。
4Gamer:
タネビトがナカマになってオアシスを形作って,さらに彼らのために主人公が砂漠を冒険していくという仕組みは,最初から考えられていたことでしたか?
石井氏:
はい,自分1人だけで世界を救うみたいな展開は絶対やりたくなくて,それまでに助け合ってきた仲間と共に試練を乗り越えていくというコンセプトは最初からありました。
農家の方達が畑や田んぼを大事にするように,みんなの力を借りないと守っていけないものの存在感が強くなっていけばいくほど,回り回って自分達を大事にしていることだったんだと思えるところへ帰結するように持っていきたかったんですよね。
4Gamer:
本作で,それは表現できていますか?
石井氏:
できたと思います。僕は昔からそういうところは直接語らずに,ニュアンスで感じてもらうようにゲームを作っていて,それは聖剣伝説の頃から意識していたんですが,今回のEver Oasisに関しては,その感覚がより伝わるのではないかと思っています。
4Gamer:
バランスが難しいですよね。説明過多になると,受け止め方が固定されてしまいがちですし。
石井氏:
間接的に伝えるのはなかなか難しいですよね。聖剣伝説以降,手掛けてきた作品を振り返ってみると,それぞれで何らかのテーマみたいなものを意識していて。それをどうにかして伝えようと毎回模索して,いろいろな表現をしていくうちに,それが何気なく伝わっていくような感覚はありましたね。
ゲームクリエイターとしての軸は
笑顔が生まれる空間を作ること
4Gamer:
先ほど石井さんは子供の頃に鍵っ子だったというお話しをされましたが,その影響がゲーム作りに反映されていたりもするんでしょうか。
あると思いますね。「ファイナルファンタジー」(以下,FF)のモーグリなんかは,小学生のときに描いた絵のキャラクターですし,モンスターはそのときに描いていた動物なんかを踏襲している気がします。
鍵っ子で家に1人でいる時間は長かったですが,友達が遊びに来るたまり場になっていたので,一人っ子でもあまり寂しくなかったことに救われていたんですよね。そこで感じたものを表現したいという気持ちはどこかにあるのかもしれません。
4Gamer:
たまり場になっていた自宅で,お友達とはどんな遊びをしていたんですか?
石井氏:
普段は外遊びしていましたけど,雨の日はやっぱり家の中で当時のボードゲームやカードゲームで遊びますよね。それが割とすぐに飽きてしまうので,僕がルールをアレンジしたりしていました。「人生ゲーム」でも,マスの内容を変えて人生ゲームを「冒険ゲーム」に変えてしまったり,新しいカードを追加したりするんです。
それを友達と一緒に遊んでいると,モニタリングができるんですよ。「このネタ入れると面白がるな」とか「これはダメだな」とか。カードを作るのもけっこう凝りましたよ。ツルツルした厚紙を文房具屋で見つけてきて,それにイラスト描いたりして。
4Gamer:
ゲームクリエイターそのままですね(笑)。
石井氏:
その頃からそれっぽい作業は好きでしたね。ゲームを考えることが好きというよりは,友達と遊ぶための何かを考えるのが好きだったんです。みんなとケラケラ笑いながら,笑顔が生まれる空間作りに関わりたかったのかもしれません。
それを気付かせてくれたのは小学5,6年の担任の先生だったんです。小学校の頃の自分は凄くわがままで,よく廊下に立たされていました。先生が何とかわがままを矯正できないかと考えて,自分を学校の新聞委員長に無理やり任命したんですよ。
4Gamer:
新聞委員長ですか!
石井氏:
委員から記事を集めて構成して,最後に4コマ漫画を自分で描いて完成させて。新聞を作ること自体も楽しんでいたんですが,半年後ぐらいかな,新聞を見た下級生から,「いつも新聞楽しみにしてます。4コマ漫画好きです」って言われたことが嬉しかったんですよね。
知らない人にそういう気持ちになってもらえて,自分がやってきたことのやり甲斐を実感できたことで,もの作りやそれを発信することに関わりたいんだと気付かせてもらったんです。それがきっかけになって,嫌いだった先生のことも,好きになったんですよね(笑)。
4Gamer:
クリエイターとしての軸の部分は,当時からあったんですね。
石井氏:
そうですね,表現者になりたいという気持ちは,その頃にできたものだと思います。
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Ever Oasis 精霊とタネビトの蜃気楼
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