インタビュー
スマホからブラウザへ,「黒猫愛」で勘所を押さえた移植を。「クイズRPG魔法使いと黒猫のウィズPC」開発インタビュー
開発側もコアゲーマー。「黒猫愛」から生まれたPC版
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。
畠山敦志氏(以下,畠山氏):
坂下智亜紀氏(以下,坂下氏):
アートディレクターの坂下です。
4Gamer:
これまでもコアエッジは,スマートフォンアプリをPCのブラウザゲームに移植するという取り組みをいくつか行っていますが,今回の黒猫のPC版が立ち上がった経緯について聞かせてください。
畠山氏:
実は,弊社代表取締役CEOの宮本(貴志氏)はコアゲーマーで,かなりアプリ版の黒猫に入れ込んでいるんです。そうしたこともあり,「PC版を出せば,コロプラさんの手が届かなかったところも開拓できるんじゃないか」とご提案させてもらったんです。
4Gamer:
代表の“黒猫愛”からスタートしたPC版だったわけですね。
畠山氏:
コロプラさんがこういう形で版権を外に出されるのは初めてのことなんじゃないでしょうか。思い入れのあるタイトルでもあるはずですし。
4Gamer:
PC版を出すと,アプリ版のアクセス数に影響が出たりしませんか?
畠山氏:
これまでアプリ版からPC版を展開してきたゲームのデータを出して,まずはコロプラさんに,両者のプレイヤー層はかぶっていないということを説明し,納得いただけました。
4Gamer:
それぞれのプレイヤー層が別物であると。
畠山氏:
これまでスマートフォンゲームを移植・運営してきた経験からいって別物ですね。スマートフォンゲームの場合ですと,コアタイムは昼食や夕食時なんですが,PCゲームだと深夜帯だったりするんです。
坂下氏:
4Gamer:
プラットフォームの違いがあるため,互いにユーザー数を食い合うようなことにはならないわけですね。では,PC版について教えてください。
畠山氏:
キャラクターの能力やゲームバランスは,PC版独自の調整が入ります。プレイヤーさんのゲームデータについても,完全に独立したものになります。
坂下氏:
もちろん,原作のイメージを損なうような極端な変更はしていません。
4Gamer:
経験者も新しい気持ちで遊べるわけですね。
畠山氏:
そうですね。プレイヤーの方には,PC版で追加された「アナザー精霊」を見ていただきたいです。世界観を広げることを目的としたもので,既存のキャラクターがイメージチェンジした姿で登場します。例えば悪のキャラクターが善人になるようなIFストーリーを楽しむことができるんです。
4Gamer:
キャラクターたちが人気な作品だけに,思い切った追加要素ですね。
畠山氏:
もちろん,アナザー精霊はコロプラさんの監修を受けたものとなりますのでご安心ください。登場するキャラクターの一人一人に凄く愛情や思い入れを持っておられる方がいることは理解していますので,そういう方々にしっかり受け入れてもらえるアイデアを出していきたいです。
4Gamer:
オリジナルのアナザー精霊がいろいろな展開をするとなると,楽しみな人も多いでしょうね。
畠山氏:
また,PC版ならではの機能として,プレイヤーさん同士が集まる「クラン」も実装します。メンバー同士が専用掲示板でチャットできるほか,クラン同士が競い合うようなイベントも予定しています。弊社がこれまでブラウザゲームを運営してきたノウハウや成功事例を活かした形となります。
4Gamer:
畠山氏:
もちろん,クラン加入が必須ではありません。一人で遊べるゲームにクラン機能が入るという形です。アプリ版は楽しくて厚みのあるゲームなので,このあたりのバランスには気を使っていきたいですね。
また,ソロで参加できるランキングも強化します。アプリ版には「魔道杯」といって,プレイヤーさん同士が競い合うランキングイベントがあるんですが,PC版ではこのほかにいろいろなランキングを作る予定です。単に強さを誇るのではなく,プレイヤーの皆さん全員が参加した実感を得られるようなものにしたいですね。
坂下氏:
アプリ版とPC版では求められるイベントの質も違います。これまでコアエッジが蓄積したノウハウを活かしてイベントを設計していきたいです。
4Gamer:
ブラウザゲームらしいコミュニケーションと連帯感を重視し,プレイヤー層に合わせた運営とイベントを行っていくわけですね。
坂下氏:
コロプラさんからも「PC版を出すなら,PC版ならではの要素を入れてほしい」というご要望をいただいていますから,いろいろな独自要素を導入したいです。
スマートフォンゲームからブラウザゲームへ。コアゲーマーだからこそ分かる,「黒猫」の勘所
4Gamer:
スマートフォンからPCへの移植に当たって重視された点はありますか?
坂下氏:
テンポよく遊べることですね。これはアプリ版が大事にしているのと同じポイントです。
畠山氏:
弊社には,宮本をはじめとしてアプリ版黒猫のコアゲーマーが揃っているんですが,それだけに「アプリ版のファンの方に恥ずかしくないものを出したい」という思いがありましたね。Flashを使い,かなり試行錯誤を経ての開発となりました。
坂下氏:
例えば,メインとなるマイページの画面からして,原作とは違ったものとなっています。PC版では,リーダーとしている精霊が大きく表示されますが,これはプレイヤーが精霊を手に入れた際に,所有感が強く感じられるようにしたものです。
4Gamer:
ブラウザゲーム的なアレンジが加えられているというわけですね。では,一番苦労された点はどこですか?
畠山氏:
やはり,3Dで作られたアプリ版のテイストをFlashの2Dでいかに再現するか,その際の取捨選択ですね。PC版ならやろうと思えばいくらでも派手にできますけれど,それだと重くなってしまいます。「これを世に出したら,絶対プレイヤーに怒られるよね」というところからの取捨選択と試行錯誤でしたから。
4Gamer:
それはどういったものだったんですか?
畠山氏:
中でも苦労したのが「クエスト」での移動表現ですね。アプリ版だと,「主人公(君)の主観視点的な画面になり,ゲームの進行に合わせて周囲の景色が動く」というものになっているのは皆さんもご存じのとおりです。スマートフォンだと3Dグラフィックス機能で負担なく表現できるんですが,Flashの2Dだけだと再現するのがキツいんですね。
坂下氏:
当初はPC版でも3Dグラフィックスで作っていたんですが,かなり重くなってしまったんです。一枚絵の地図を横スクロールさせて進行を表現するという代案も出ましたが,結局それは採用しませんでした。
4Gamer:
処理を軽くする目的なら一枚絵を使った横スクロール式が適しているでしょうし,事実ブラウザゲームではよく使われている表現だと思います。では,PC版でこれをあえて使わなかった理由はなんですか?
坂下氏:
主観視点で前に進んでいくというスタイルがないと“黒猫”じゃないんじゃないか? ということです。やっぱりここでは黒猫らしさを出したい……いうことでいろいろと試行錯誤を繰り返しました。移動時には「主観視点でフィールドを進んでいく」というアプリ版同様のムービーを流し,アプリ版の再現と軽さを両立させるという形に落ち着きました。
畠山氏:
いまは,横スクロールにしなくてよかったと思いますね(笑)。「スペシャルスキル」についても「派手で,なおかつ軽い」という点を追求しています。Flashゲームでここまでやれているものはないんじゃないでしょうか。また,カードを入手するときの処理はアプリ版だと3Dでぐりぐり動いてるんですけれど,PC版ではアプリ版のテイストを活かしつつ,ワクワク感を楽しめる演出になっています。
坂下氏:
UIについても,アプリ版の良さを活かしつつ改良を加えています。例えば自動でパーティを編成してくれる「オススメ編成」機能は,我々がアプリ版をプレイしながら「こんな機能があったらいいね」と考えていたものです。また,PC版ならではの機能として,クイズの選択肢を1〜4のテンキーで選んでもらうこともできます。クイズによってはテンキーのほうが遊びやすいかもしれませんね。
畠山氏:
このあたりは我々自身が黒猫好きだったので,アイデアがいろいろと出てきました。
4Gamer:
アプリ版を遊び込んでいる開発スタッフだからこそ,ユーザー視点に立った新機能を提案できたというわけですね。ブラウザゲームだといろいろなプレイ環境があると思いますが,古いPCを使っている人への配慮はありますか?
畠山氏:
もちろん,処理を軽量化するオプションもご用意しています。
坂下氏:
4Gamer:
軽量化するにしても,アプリ版で使われている表現方法にはこだわったと。
畠山氏:
アプリ版が大事にしているところでもありますから。ただ,元の画面は縦長なので,横長のPCディスプレイ用にいろいろと作り直す必要がありました。
4Gamer:
今後はPC版としての独自性を打ち出していくのでしょうか。
畠山氏:
ゲームの根幹を継承しつつ,ブラウザゲーム寄りになるでしょうね。スマートフォンゲームとブラウザゲームでは,プレイヤー層も違いますから。
4Gamer:
アプリ版で大きなアップデートがあり,新要素が実装された際はPC版にも反映されるんですか?
畠山氏:
サービス開始後もコロプラさんとは連携を取っていきますので,PC版で評価が高かった要素や,新しい楽しみ方をコロプラさんへフィードバックするようなこともしていきたいです。
坂下氏:
そうした意味で黒猫ワールドは広がりましたし,今後も広げていきたい。今回のプロジェクトは,ゲームの移植であると同時に,世界観の拡張ですね。
ブラウザゲーム作りのノウハウを活かし,アプリ版と切り分けたブラウザゲーム版を生み出す
4Gamer:
ブラウザゲームの魅力というのはどういったものだと考えられますか?
畠山氏:
坂下氏:
PCにはキーボードが必ず付いていますから,コミュニケーション要素も強くなりますよね。それでいて,MMORPGよりも気軽に人と関われる。ゲームに接続すれば,友達が待っているという安心感やワクワク感もあります。
4Gamer:
今後,新たなブラウザゲームを作るときもそのあたりは重視していかれるわけでしょうか。
畠山氏:
今までのコアエッジならではのノウハウを駆使しつつ,これからの作品でも学んでいきたいですね。こうした積み重ねが,コアエッジ的な作風につながるんじゃないかと思っています。
4Gamer:
ここしばらく,”Flashレガシー論”といいますか,Flashは古い技術であるという論調がありますが。
畠山氏:
コアエッジとしてはそうは思っていませんね。安定していますし,ゲームで大事になるレスポンスを良くする方法や,弱点も分かっています。ブラウザ内にデータを格納した状態なので,プレイヤーさんに負担がないという大きなメリットもありますし。新しい技術を取り入れたとしても,快適なサービスとして成立していなかったら意味がないわけですから。
坂下氏:
ただ,僕らもいろいろな技術を研究していますので,時代の流れに合わせた表現手法を採っていきます。今回は広い層の方に触ってもらうためにFlashが最適だったということですね。
4Gamer:
今後コアエッジでは,今回のようにスマートフォンゲームをブラウザゲームにするという取り組みをされるんでしょうか。
畠山氏:
今後も続けていきたいですね。開発会社さんご自身がブラウザ版を作る場合もありますが,今回のように,原作と切り分けたブラウザゲームがほしいというニーズもありますので。我々の強み,ブラウザゲーム作りの経験を活かした協業をしていきたいです。
坂下氏:
しばらく前まで,スマートフォンゲームの市場が成長するのに伴ってブラウザゲームが下降線を辿るんじゃないかという予想が囁かれてきましたが,実際にはそうしたことはありませんでした。なので,弊社の得意分野ということで展開を続けていきます。
4Gamer:
では最後に読者へのメッセージをお願いします。
坂下氏:
ファンの方もPC版を楽しんでください。
畠山氏:
コアエッジのノウハウを使い,コアエッジならではの黒猫といいますか,「黒猫のウィズ」の名に恥じないものを出しますのでぜひ楽しんでください。
4Gamer:
本日はありがとうございました。
スマートフォンにはスマートフォンの,ブラウザゲームにはブラウザゲームの良さがある。単なるベタ移植ではなく,アプリ版と切り分けた形でのブラウザゲームというのは興味深いやり方と言えるだろう。
そこで必要になるのは,アプリ版の勘所を理解した開発スタッフと,ブラウザゲームの特性に合わせた仕様変更・運営ができるノウハウだ。黒猫ファンが作った「クイズRPG 魔法使いと黒猫のウィズPC」が,プレイヤーからどのように受け入れられるのか,正式サービスの開始を待ちたい。
「クイズRPG 魔法使いと黒猫のウィズ PC」公式サイト
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