プレイレポート
【山本一郎】「三國志13」プレイレポート――俺たち黄巾賊! 底辺から呂布を目指す兵卒バカ一代・裴元紹の一生(後編)
山本一郎 / アルファブロガーにしてゲーマー。その正体は,コンテンツ業界で今日も暗躍(?)する投資家
山本一郎:茹で蛙たちの最後の晩餐 |
こんにちは,山本一郎です。あけましておめでとうございました。2017年も1か月が過ぎてしまいましたが,皆さま如何お過ごしでしょうか。
どうでもいい感じの挨拶から始まりましたが,ついに! 「三國志13 with パワーアップキット」(PC / PS4 / Xbox One / PS3)が発売になる模様です! パチパチパチパチ。気がつけばプレイ時間も350時間を超え,孔伷で三国を統一しようと頑張っていた私も,新たに広がる三國志13の世界を心待ちにしています。
そんなわけで,前編からの続きとなります。無事に朋友となった裴元紹と蔡文姫,2人の運命を翻弄する黄巾軍の行方,そして中華の未来は……なぜかAAR(after action report。事後レポート)としてはまたしても巨編になってしまった裴元紹戦記,後編です。
俺たち黄巾賊! 底辺から呂布を目指す兵卒バカ一代・裴元紹の一生(前編)
カスタード派の裴元紹。盟友たちを護るために決断
後漢を支える何進の軍勢と若き黄巾軍の戦いは,新たなる人材の確保によって勢いを盛り返す黄巾軍が攻勢に打って出て,膠着状態へと陥ります。その立役者こそ,黄巾軍きっての脳筋武将・裴元紹(統率83,武力95,知力25,政治33)でありました。誰が裴元紹のこのような活躍を予想したでしょう。やればできる子,裴元紹。
暑い夏を過ぎようという頃,黄巾軍の間では,何進軍との雌雄を決する機運が高まり,後方からの黄巾の軍勢が許昌,河内に集結し始めます。死期を悟った首領・張角さんは,号して50万,実数20万あまりの軍勢を閲兵すると,裴元紹を総大将に何進討伐隊を編制。黄巾先鋒の将,夏侯惇さん,徐晃さんの軍勢が弘農に襲い掛かると,守将・曹操さんの必死の抵抗を排してついには弘農を占領するに至ります。もうこの時点で三国志不思議大戦になっている気がするけど気にしない。
しかし,何進軍もさるもの。長安から出た袁紹勢が洛陽の何進本隊と弘農を挟撃すると夏侯惇軍はたまらず後退し,黄河を挟んで何進軍22万と裴元紹軍18万が対峙することになります。
「裴元紹さま! 一大事です! 後背の孫堅軍が公孫瓚軍とともに何進に呼応する動きがあります!」
「なんだと張勲。孫堅どのは我が黄巾の同盟国ではなかったか」
「それが,先日の運動会のお弁当後のおやつをめぐって,張角さまが孫堅とおはぎは粒あんかこしあんかで激論となったことが仇となったご様子」
「くそ……この大事なときに。俺には込み入った政治は分からんが,粒あんでもこしあんでも,旨いほうを食えばいいじゃねえか」
強くかぶりを振る裴元紹。不安がる張勲を宥めるように,
「どっちがどっちだ?」
「自分はこしあん派であります!」
「その話じゃねえよ。敵の進軍はどっちからだって聞いてんだよ」
「分かりません!」
張勲は胸を張った。
「どうします? 戦いますか」
「馬鹿か。大軍に挟まれて勝てるわけないだろ。さっさと撤収するぞ」
地味にカスタード派であった裴元紹は己が主張を深く胸に秘めたまま,天下の情勢に思いを馳せます。黄巾軍との同盟関係の満了とともに攻め込んできた孫堅軍だけが脅威ではありません。さらには涼州から巴蜀方面へ勢力を伸ばした董卓軍が肥沃な荊州を脅かし,黄巾軍の拠点,宛の後背まで伸びてこようという情勢となり,天下の猛将・呂布さん,張遼さん,高順さんらを率いる丁原さんも反黄巾の軍勢を挙げてきます。文字どおり,黄巾包囲網とでも言うべき劣勢に追いやられ始めたのです。
そう,「三國志13」では,伸びている勢力があると生意気だという話になり,同盟を結んでいない周辺国から勝手に宣戦布告され問答無用で攻め込まれる,「連合」というけったいなイベントがあるのです。何が最高にウザいって,連合が組まれた一番最初は戦の優劣に関係なくガチで他勢力たちが同時に攻めてくるため,うまく捌けないと孤立無援になった都市が陥落したり,大事な主力級の軍勢が削られて攻勢に出られなくなったりと,まあ酷いもんです。マジでムカつく。
裴元紹の軍勢は退却の道中,丁原軍に襲われます。取って返した裴元紹本隊自らが張勲,紀霊ら諸将を率い,少なくない損害を払いつつもこれを撃退。見事,危地を潜り抜けます。もはや,天下に勇名響く呂布とも互角の戦いをやってのける裴元紹。やがて,これらの戦いを経て張勲,紀霊,雷薄といった袁術感あふれる皆さんと親交を深めて,無事朋友に。友よ,肩を並べて黄巾の世を実現しようではないか。
半年ぐらいかけて敵の攻勢を凌ぎ,さらに黄巾軍の他都市攻略で丁原の兵隊が出払っている隙をついて裴元紹隊が本拠地晋陽に攻め込み陥落させると,あら不思議,漢王朝から使節が来て官爵を黄巾諸将に賜わってくれるではありませんか。どういうことなの……。実は,晋陽は「州都」でありまして,その州都を押さえていると州牧や刺史,各種将軍職といった,統率・武力で率いられる兵数MAXが増えるというステキ役職がもらえるようになるのであります。
「打倒漢王朝」を掲げた黄巾軍を支える武名で鳴らす裴元紹も,張角さんより過去の貢献を大いに湛えられて将軍になるわけであります。漢王朝の圧政から人民を救うために立ち上がった裴元紹なのに……低い知力なりに裴元紹にも葛藤が芽生えますが,そうか,漢王朝が悪いのではない。その権威を悪用し,専横を振るう権力者がいけないのだ。
何進。絶対に許さない。顔も見たくない。マジでぶっ殺す。そのように思うわけであります。
敵の連合による攻撃をどうにか凌ぐと,裴元紹は真っ直ぐに漢皇帝,そして何進の住まう洛陽を見据えます。すでに総兵力では裴元紹のいる陳留が上回り,いくら何進が抗おうとも敵に増援は乏しく何かマジでイケてる感じがするんすよね。
これは勝てると見込んだ裴元紹,意気揚々と陳留に帰宅しましたが,街には蔡文姫の姿はありません。あれ? 後背地の平原に異動になっている……? 何という悲劇的な人事。お別れの一言も言ってくれれば良かったのに。なんてことだ。悔しさと悲しさを胸いっぱいに吸い込みますが,高覧さんの下で一兵卒に拘る裴元紹,人事に介入できる権限などなく,知らぬ間に遠距離恋愛になってしまいます。これだから大企業は困る。
おい,ちょっと待て。これでいいのか。このままでいいのか。現場に行き,戦場に散ることを良しとして武人の道を究めようと願う裴元紹に,さらに深い葛藤(ジレンマ)が芽生えました。程なく,戦場を共にした朋友・紀霊も,孫堅対策の軍勢の一員となるべく徐州方面へ異動していきます。戦争とはいえ,また何進を打ち滅ぼす決意を秘めているとはいえども,苦労を共にし,酒を飲み交わした朋友と別れるのは辛いことです。
「張角さまは貴殿を上党の太守にされたいとおっしゃる」
「……」
まるで,張角さまは裴元紹の心を読み切ったかのように,前線の大都市・上党太守への就任を促します。断るべきか。断りたいが,俺は友を,蔡文姫を護らなければならない。ともに戦い,同じ飯を食い,これからも苦労を分かち合いたい。そう願う気持ちが,裴元紹を次なる舞台へと引き上げることになるのです。
「分かりました。張角さまのお望みどおり,裴元紹,謹んで太守を拝命いたします」
「おお,なんと。ついに太守の座をお請けくださるので」
「張角さまにお伝えくだされ。この裴元紹,すぐに着任し期待に全力で応えると」
裴元紹,28歳の大英断。
対何進の最前線・上党へお引越し。戦場を駆ける朋友の張勲を,紀霊を,そして,蔡文姫を呼ぶよう,願い出ます。そう,都市の太守になると,同じ陣営で汗をかいている絆ある朋友たちを都市の武将として招聘することができるようになるのです。地味に君主の重臣になっていると呼べないんですが,幸いにして,彼らは一般武将としてぶらぶらしていました。仲間とともに,何進を打ち砕く。漏れなく異動の要望は聞き届けられ,皆,志を胸に上党へと集まってきます。
「さあ,ゆくぞ」
「いよいよだな」
「良し。任せておけ」
「皆さん,頑張りましょう」
ついに,太守・裴元紹は,真の総大将として軍旗を翻し,友と肩を並べ戦場に立つことになります。さらには徐晃,趙雲といった名将たちも裴元紹の部下として戦列に並ぶことに。上党を出た裴元紹勢は,黄色い旗をはためかせ6万2000の軍勢を前線に送り込みます。
ついに何進との決戦へ。その結末に去来する思いとは
決意も新たに,関を避けて再び河内方面から弘農を脅かす裴元紹勢は,自軍の3倍以上,総勢20万を擁する何進・董卓連合軍の軍勢に躊躇なく襲い掛かります。
2倍の敵? いやいや。こちとら天下の名将,裴元紹ですよ。幕下には,紀霊がいる,張勲がいる,そして,蔡文姫がいる。戦いの中で好感度が上がり,裴元紹とともに戦いたいと願う若者が次々と裴元紹の朋友になる日を待ち焦がれています。
最強。マジで超強い裴元紹。
正確には,裴元紹が敵の主力を受け止め,横から強い計略を持つ趙雲や徐晃が半包囲からの攻勢で敵の士気を削り,一部隊ずつ丁寧に壊滅させていきます。戦術ゲームは各個撃破が肝だよ兄貴。浮足立つ曹操勢を叩き潰し,瞬く間に弘農を手中に納めると,弘農救援にやってきた何進の小規模部隊を迎撃します。
「戦力の逐次投入とは。愚かな」
「裴元紹さま。見せしめに,皆殺しにしてやりましょう」
「待て。戦争に勝利したら我らが黄巾の民となる人々だ。暖かく出迎えてやるのが筋だろう」
にこやかな笑顔で歓待し,敵の援兵を散々に打ち負かし潰走させると,敵に反攻の兵がいないのを確認して取って返して上党へ。損耗した兵を補充し,手早く足りない練兵を行っていると,孫堅の軍勢を蹴散らした黄巾の将・夏侯淵,文醜の軍勢が進軍するのを見て,すぐに軍勢を編制して陳留で合流します。関を守る何進軍を軽く蹴散らして,洛陽へ。ついに,洛陽へ。
何進が後漢皇帝を擁する洛陽へと,一路,裴元紹勢6万は殺到します。ほかにも黄巾の群れは街道に満ち,戦場へ投入されるのを待っている一団が前へ前へと進んでいきます。もはや,何進には破竹の勢いを駆る裴元紹勢に立ち向かえるだけの軍勢は残っていません。参軍に蔡文姫,右に張勲,紀霊を,左に徐晃,趙雲を従えた裴元紹は,わずかな手勢で籠城する何進軍をあっけなく,すっと押し流し,瞬く間に洛陽を占領しました。
洛陽。ああ,洛陽。
この地こそ,我が朋友にして黄巾の支柱であった張梁が無念の処刑を受け,首を晒された場であります。張梁よ。友よ。ついに俺はこの地に来たのだ。お前の血を吸ったこの地を,ついに踏むことになったのだ。この日をどれだけ待ち望んだことか。
仇敵・何進の本拠地,洛陽を攻め落とし,湧き上がる黄巾の諸将,兵士たち。しかし無言で立ち尽くす裴元紹には,万感の思いが去来するのであります。いまや,裴元紹の素武力は100。最強に強まった裴元紹は,その大きい身体を深く折って,張梁のために泣きました。悲運に倒れた友よ,俺は,やったのだ。この地こそ,生きてお前と一緒に踏みたかった。苛烈な政治に苦しむ人民を救う軍勢の勝利を,喜びたかったのだ。人々の信望を集めた裴元紹が静かに涙する姿は,戦勝で興奮した黄巾の兵士たちの心に焼き付き,志半ばで死んでいった張梁の思い出とともに広く三国にとどろきました。
そして,黄巾軍は後漢皇帝・献帝を擁することになり,もはや黄巾こそ官軍となりました。漢は,ついに張角の仕切る軍勢が切り盛りすることになったのです。車に乗せられ,虜として張角のもとに送られる何進を見送る裴元紹。あれほど憎かった敵が,丸めた背中で哀れな囚人となって運ばれていく姿に,侮蔑ではなく,憐憫でもなく,ただただ暗く冷たい虚しさを,裴元紹は抱いたのであります。
武人としての地位を,実力を,声望を,文字どおり極めたいま,裴元紹には何進の「役割」が分かるような気がしたのです。武人は,ただ戦争に勝つことが目的なのではない。大事なものを守るために戦いに身を投じるのだ。
何進も,何かを必死に守ろうとしたに違いない。漢の威信か,己の立場か,繁栄を極めたこの洛陽の暮らしや民衆か。どうにかしなければと考え,運命に抗い,歴史の大波に飲まれて,そして捕虜として惨めに縄につながれ去っていく何進は,本当に悪者であったのか。
「ねえ元紹。勝ったのよ。喜ばないの」
「それは嬉しいさ。でも…」
「でも?」
蔡文姫は裴元紹の目を覗き込むように見上げます。
「俺は最強を目指してきた。それは,黄巾の世を創り上げるためだ」
「あなたはもう最強よ。とびきりの馬鹿だけど。でも最強よ」
「本当に,これで良かったのだろうか」
「えっ」
「確かに,戦いには勝った。憎き何進を打ち砕いた。でも,本当に民衆に幸せは訪れるのだろうか……?」
愚直に強さを求め続けてきた裴元紹。その強さが証明されるも,満たされない想いは心の底に,澱のように深く沈んでいるのでありました。その不安を振り払うかのように,裴元紹は軍を再び挙げます。三国一の武勇を誇る呂布のいる丁原軍を打ち破るために。これをあっけなく叩き潰すと,今度は劉虞に,公孫瓚に,そして孫堅に……満たされない想いを飲み込むように,裴元紹は戦いを求めて諸将を攻め立てます。
「戦いは,やはり虚しい……」
後漢黄巾軍の大将軍となり,並ぶ者もなき軍事の権威となった裴元紹は,なおも,満ち足りぬ気持ちを揺らがせて,軍を起こしては董卓に,孫堅にとぶつけていきます。
「大将」
「おう,張勲に紀霊。また戦いに出るか」
「聞いてくだされ。もはや裴元紹どの,大将を超える傑物などおりません。私どもと,義兄弟の誓いを結んでくださらぬか」
「張勲……紀霊……俺の心に寄り添いたいと申すか」
「もはや我ら3人は血を分けた兄弟も同然。すべてを切り開き,世に最高の礎を築きましょうぞ」
桃園の真ん中で,数多の戦場を駆け抜けた裴元紹,張勲,紀霊の3人は,盃を交わし義兄弟の誓いを刻むことになるのでした。ひょっとしたら少し世界線がズレれば,このB級感溢れる3人が,このようにifのいたずらと同じように主人公級の働きをする史実もあったかもしれないのです。
歴史ゲームの醍醐味は,もちろん強い勢力で俺TUEEEEEするのも良いんですよ。むしろ,それが王道の楽しみ方だと思います。でもね,歴史は評価しなかったけど,然るべき場がもし与えられたなら,ひとつの良い出会いさえあれば,何か運命の女神が微笑めば,わずかなひとさじで全然違う人生があったんじゃないか,異なる歴史が世を紡いだのではないかと,私は考えるのです。
たとえそれが裴元紹であったとしても。
覇権をめぐる1勢力の将軍となった裴元紹。残された人生の大仕事に挑む
皇帝を担ぎ,いまや平原の雄となった黄巾族。黄色い服を着て槍もってウホウホ言っていた頃から苦節9年。ついには本家・武力100を誇る赤兎馬に乗った呂布を軽く打ち破り,丁原をも飲み込むと,時代は北方を治める黄巾軍と,涼州から巴蜀に拠を置く董卓軍,そして徐州から孫呉方面に進出した孫堅軍という,3勢力の戦いへと移り変わっていきます。後漢は黄巾によって引き継がれ,やがて時代は新たな三国志に――
ひとつの山を一気に駆け上がった裴元紹。すべての目標を達成したように見える彼にも,ただひとつ,残していた大仕事が目の前にあるのです。
緊張した表情の裴元紹。数日前から準備をし,上品な紙にくるまれたでかい荷物に,大きな黄色い薔薇の花束。春の訪れが間近に迫ったころ,道行く人がすべて振り向くほど著名な大将軍・裴元紹は,その隆々たる体躯を揺らして街角にある目的地を目指します。
「文姫! 文姫はいるか!」
家が揺れるほどの大声で,玄関先から家の主を呼びます。
「あら,元紹。どうしたの」
と,目を丸くする文姫。
「入れてくれ。どうしても,伝えたいことがあるんだ」
「…どうぞ」
派手ではない,しかし落ち着いた佇まいの居間に通されると,2人は無言のまま,向かい合います。
「……」
「……」
すべてを察知しているかのように,やや伏目がちに裴元紹を見つめる蔡文姫は,暖かく揺れる声色で沈黙を破りました。
「初めてあなたと出会ったときも,こんな感じだったかしら」
「そうとも。君の決意に触れなければ,俺は洛陽の地を踏むことなどできなかった。どうしても,どうしても礼が言いたい」
「そんな」
「これを,受け取ってくれ」
「私に?」
蔡文姫のしなやかな手が,包み紙を丁寧に開くと中には怪しげなオーラを放つ十篇の書籍が姿を現します。
「これは……」
「『遁甲天書』,だ,そうだ。別に何進が溜め込んでいた宝物から奪ってきたんじゃない」
輝くまなざしで,名品と裴元紹を交互に見やる蔡文姫は,興味津々の体で裴元紹に問いかけます。
「どうされたの」
「いや,まあ,店で単に買ってきたんだ。高そうだから,喜んでくれるかと思って」
「まあ!」
「は,はっはっは」
「あはははは」
2人の笑いが,こだまします。戦争に明け暮れている頃は,決して見せなかった裴元紹の穏やかな表情に,蔡文姫はひとかたない安らぎを感じたのでした。
「どうだい。本物かな」
少し怪訝そうに,裴元紹は蔡文姫を見つめます。文字を読めない裴元紹は,店主のオヤジの勧めのままに,貯めたサラリーをはたいて買ってしまっていたのです。
「本物よ。間違いないわ」
笑って,潤んだ瞳の蔡文姫は裴元紹を見つめ返すと,また,しばしの静寂が訪れます。
「……でも,本物でも偽物でもいいの。どう。最近,風が暖かくなって,見事な桃の花が開いたの。庭園にいらして」
「おっ,そうだな」
手の行き届いた桃園は,まさに春の日差しを一身に受け,眩いばかりの幻想的な情景を投げかけます。
「おお,これはすごい。さすがに見事だな」
「いまが一番最高の季節なの。子供のころ,よく父がここに椅子を出して書を広げていたわ」
「俺は,どちらかというと酒と団子だな」
「あら。あはは」
「はっはっは」
2人は,自然に,言葉を交わして愛でるように桃園の真ん中まで歩を進めました。
「文姫」
「はい」
「君は,俺を導いてくれた」
裴元紹は,ぐいと,蔡文姫の手を握り,ひざを折ります。蔡文姫も,身じろぐこともなくまっすぐ裴元紹を見ていました。
「君と出会わなければ,俺はただの兵隊として,やみくもに,戦って,戦って,戦って,やがて運も尽き,戦場に屍を晒していたかもしれない」
「そんなことないわ。元紹は軍の誉れ,立派な将軍よ」
「いや,俺が一番分かっているんだ。確かに,俺は強くなった。みんな,天下無双と言ってくれる。それは,共にある朋友がいて,目指すものがあったからだ。ただ,それだけじゃない」
「はい」
「どうしても,文姫を護りたかったのだ」
「……」
「だが,最近それは,おこがましい思い上がりだ,と気づいた」
「え,なぜ?」
「俺が文姫を護っていたのではない。文姫が,俺を,次の世界へ,新たな高い舞台へ,引き上げてくれたのだ。ただ強くなれば良いというものではない。正しくあること,力を正しく使うことを,君は俺に教えてくれた」
「馬泥棒をしては駄目よ」
蔡文姫はそっと笑った。
「わたし,何でも分かっているんだから」
「そうとも。俺はただの飲んだくれの兵卒じゃ駄目だ。そう思えたのも,君と歩みたかったからだ。君から道を教えてもらい,君を護るために」
「……そう。そうね」
「俺たちの出会いは生涯最大の幸いだ。どうか,俺と結婚してもらえないだろうか」
「喜んで」
こわばった裴元紹の顔は桃の花のように穏やかに開き,蔡文姫は春の陽気のように穏やかな表情で裴元紹を見つめていました。
「これからは,一緒にお家を作っていきましょう」
「ありがとう,文姫。ありがとう」
裴元紹の厚い胸板がそっと蔡文姫を包み込むと,さわやかな春の風が舞って,桃園全体が新たな夫婦(めおと)の誕生を祝うようにさざめくのでありました。
その後,黄巾軍は董卓軍,孫堅軍を向こうに回し,一進一退の攻防を繰り広げますが,戦場の最先端には常に裴元紹の姿がありました。晩年でも知力28と相変わらずの脳筋でしたが,戦場ではどうにかなるんです。その傍らに副将・蔡文姫と,なぜか後日朋友となった曹操や趙雲が脇を固めていましたので。
黄巾の乱の成功と民衆の開放を実現すると,首領・張角はほどなく世を去り,後漢の大将軍と呼ばれた裴元紹と蔡文姫の夫婦は良く皇帝を援け,その後500年に及ぶ後漢の歴史へとつながる礎を築いたと言います。
時代は下り……中華は漢王朝を打倒した張角率いる黄巾勢と,新たに皇帝を僭称するに至る呉の孫堅勢,そして巴蜀から涼州を掌中に収めた董卓勢による,新たな三国志の世が幕を開ける |
統率100,武力106にまで成長した裴元紹と,その軍団で記念撮影。なお結婚の10年後,黄巾の覇権を見届けて満足したのか206年裴元紹はこの世を去り,伝説となるのであります。ありがとう,裴元紹。楽しかったよ |
「三國志13 with パワーアップキット」公式サイト
■■山本一郎■■ 言わずと知れたアルファブロガーで,その鋭い観察眼と論理的な文章力には定評がある。が,身も蓋もない業界話にはもっと定評がある。ゲーマーとしても知られており,時間が無いと言いつつも,膨大に時間を浪費するシミュレーションゲームを愛して止まない。蔡文姫との決めては,やはり「遁甲天書」だったのでしょうか。ちょっと気になります。ところで,裴元紹は山賊にならなかったこの世界線でも馬を盗んでたんですね……。 |
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