インタビュー
ゲームフリークではやりたい事ができる! 「GIGA WRECKER」の開発メンバーがギアプロジェクトでのSteam挑戦を振り返る
アーリーアクセスのプレイヤーはデバッグの精鋭揃い!?
4Gamer:
今回アーリーアクセスを選んだ理由も教えてください。
尾上氏:
コンシューマゲームの場合だと,完璧なものを一本作り上げて出すという流れが多かったのですが,「GIGA WRECKER」はユーザーとコミュニケーションを取りながら開発したかったので,開発を進めながらユーザーのフィードバックが受けられるアーリーアクセスという仕組みを利用しました。ユーザーの意見を取り入れてより良いゲームが作れれば,それ自体がプロモーションにもつながるのかと。
4Gamer:
アーリーアクセスを利用するデベロッパの中には,売り上げを開発資金に充てるところもありますが,「GIGA WRECKER」の場合はすでに完成までの目処が立っていて,その資金も十分にあったという感じでしょうか。
伊藤氏:
そうですね。ゲームフリークの名前でゲームを出す以上,途中で開発が頓挫してユーザーさんにゲームが届けられないというのは,会社として許されるものではないので,発売することは最低限の目標です。
4Gamer:
アーリーアクセスは,プレイヤーと開発者の距離が非常に近い状態で開発が行われると思うのですが,実際にこういった環境のなかで開発をされていかがでしたか。キツイ意見とかあるとヘコんだりします?
小川氏:
ヘコみはしないと思います。
伊藤氏:
その意見の裏にある真意というか,「この人はこう言っているけど,本当に伝えたいことは何なのだろう」というのを想像して,「じゃあこうすればこの人の問題も解決するし,ほかのユーザーの意見も潰すようなことにもならない」といったように解決策を探っていくのは,想像力が試されましたね。
4Gamer:
いくつかある意見を複合的に見て,表裏を考えるということですね。購入しているのは日本人が多いと聞きしましたが,フィードバックの割合ではどうでしょうか。
尾上氏:
フォーラムでは,海外の人達のほうがいっぱい意見をくれている印象です。このプラットフォームで出ないのかとか,全然ゲームと関係ない話をしている人もいて,気軽に意見を書き込んでくるのは海外の人が多いですね。
4Gamer:
日本のプレイヤーから来るフィードバックはどんな感じなんですか。
伊藤氏:
きちんとした内容のものが多くて,雑談めいたものはあまりないですね。
尾上氏:
この仕様があるからこういうのどうですかみたいな,結構分かりやすい意見が多いので,逆に取り込みやすいところでもあります。
4Gamer:
印象的だった意見などはありますか。
小川氏:
「ぬいぐるみがほしい」とか(笑)。
4Gamer:
いいですね。ただ,キャラクターありきのゲームではないのでグッズ系は大変そうですね。
伊藤氏:
可能性はゼロではありませんが,なかなか難しいかなと。
4Gamer:
実際にプレイヤーからくるデバッグってどれくらい参考になりますか。
尾上氏:
自分がびっくりしたのは,クラッシュログがちゃんと送られてきたことですね。デバッグに役立つ情報がどんどん集まるので,いろいろな環境の人がいるPCゲームの開発においては,非常に参考になります。
小川氏:
やっぱりアーリーアクセスに参加してくれるユーザーさんは分かってる人が多くて,なぜかログの出力される場所とかまで知っているんですよね(笑)。
伊藤氏:
何回もエラーを再現して条件を絞り込んでくれる人もいて,本当にありがたいなと思っています。
4Gamer:
アーリーアクセスの場合,自分も開発に参加しているという意識を持っている人も多いですからね。
伊藤氏:
精鋭が集ってる感じがします(笑)。
4Gamer:
フォーラムを覗いてみると,操作系に言及しているユーザーが多い印象を受けましたが,「GIGA WRECKER」は,キーボードではなく,コントローラでの操作を想定して作られているのでしょうか。
尾上氏:
どちらかと言われるとコントローラですね。もともとコンシューマ向けに作っていたので,遊び心地なども考えるとコントローラでプレイしていただく方がしっくりくるのかなと思っています。
4Gamer:
PC用のコントローラも最近では普及してきた気もしますが,それでも持っている人ってまだまだ少ないと思うんですが。
伊藤氏:
そうですね。Xbox OneやPlayStaiton 4のコントローラをPCに認証させて遊ぶことはできるのですけど,ソフトよりコントローラのほうが高いみたいなこともありますから。そう考えると,自分達はキーボードのことを疎かにしすぎたのかなという気はしています。いちおうマニュアルはPDFで用意しているのですが。
4Gamer:
おそらく“ライブラリからマニュアルが見られる”こと自体を知らない人も多いのではないでしょうか。マニュアル自体,付いてくるゲームも少ないので,あまり機能していないのではないかと。
伊藤氏:
マニュアルで説明しているから大丈夫だろうと思っていたところもあって,そこに関しては若干考えが甘かったなと思います。
4Gamer:
今後,そのあたりはチュートリアルでカバーしていく感じでしょうか。
伊藤氏:
そうですね。とくにキーボードとコントローラで,ちゃんとゲーム内のキー表示UIが変わるようにはしたいと思っています。
4Gamer:
現状ではコントローラ表記オンリーですからね。素人目線だと,キー表示UIを用意して切り替えるくらいは簡単なのではと思ってしまうのですが,実際にどうなのでしょうか。
尾上氏:
いえ,特別難しいというわけではないのですが,ほかの作業に追われて後手に回ってしまっている状態ですね。ほかにも,小さい部分で追加や修正をしたいところがたくさんあって……。
4Gamer:
そのあたりの取捨選択ってどうしているんですか。
尾上氏:
2週間に1回くらい,チーム全員で遊んでみて,レビューを書いてフィードバックをしてというのをやっていて,その中で出てきた意見と,ユーザーさんからの意見,そしてプロジェクトメンバー以外の社員の意見も集めて,それをみんなで検討して決める感じです。
ギアプロジェクトの魅力とは
4Gamer:
以前(2013年),御社の渡辺さんと杉森さんにギアプロジェクトの仕組みをお伺いしたことがあるのですが,実際にギアプロジェクトを利用する開発者の目線での話も聞かせてください。まず,仕組み自体は変わっていないのでしょうか。
※ギアプロジェクトとは
企画書を書き,それに賛同するメンバーを自分を含めて3人集められれば,3か月間の開発期間が与えられるというゲームフリーク独自の開発制度。3か月後に一度審査が入り,そこを通過するともう3か月間の期間が与えられ,合計6か月試作した段階でプロジェクト化するかどうかの経営判断が入る。
尾上氏:
以前から変わった点でいうと,人数の制限が撤廃され,1人でも応募できるようになりました。
4Gamer:
「GIGA WRECKER」は何名で申請されたのですか。
伊藤氏:
最初は3名です。プロトタイプの開発が終わって,プロジェクト化するよという段階でメンバー集めを開始する感じですね。
4Gamer:
現在は何人体制で開発されているのでしょうか。
伊藤氏:
11名くらいですね。最後の追い込み期間でもあるので。
4Gamer:
以前お聞きした話ですと,3か月後に一度審査があって,そこをクリアするとさらに3か月間作れるとのことでしたが,このスパンに変化はありましたか。
伊藤氏:
「GIGA WRECKER」は最初の3か月でプロトタイプを制作して,その後にビジネスプランを考える期間が1か月ほど設けられました。
4Gamer:
ギアプロジェクトの中でビジネスプランも考えるようになったんですね。
伊藤氏:
自社でパブリッシングするとなると,どうやってプロモーションを打つのかとか,どうやって人員を補充するのかとか,全部自分達でやらなくてはなりません。そもそも収益が出るのかということも含めて,自分達で検討するための期間が設けられたんです。
4Gamer:
以前はプロモーションの話をどのタイミングでされていたんですか。
伊藤氏:
プロジェクト化が決まってからですね。例えばパブリッシャさんを探すとか,自社パブリッシュなら一緒に組む広告代理店を探すとか,そういう風にプロジェクトが決まってから考えられるのが,これまでの制度だったんですけど,そこをあらかじめ見越して,それもプロジェクト化する/しないの判断材料にされるようになりました。
4Gamer:
それなりに現実味がないと動けないわけですね。
そうですね。ゲームの規模から逆算して,何人くらいで作ればいいのかをしっかりと考えて予算を取り付けないといけないのですが,これまでにそのような経験をしたことがなかったため,その辺りから動き出すこと自体が難しかったです。
4Gamer:
審査自体の厳しさとかはどうですか。
伊藤氏:
基本的には杉森と渡辺が見るのですが,落とす方向ではなく,どうすればこのゲームをプロジェクト化できるかというのを,協力的に考えてくれます。売ることに関しては,ギアプロジェクトのメンバーにはノウハウが無いため,渡辺や杉森からアドバイスをもらいながら進める,という感じですね。
4Gamer:
それだけ見越して作品を作れる環境にはなっているんですね。ちなみに,ギアプロジェクトの募集は定期的にあるんですか。
伊藤氏:
不定期です。だいたい「ポケモン」の開発プロジェクトが落ち着いて,ほかの作業にも力を割り振れるくらいになったら募集が開始されるという感じです。
4Gamer:
募集期間以外ではどんな感じなのでしょうか。
伊藤氏:
それまではアイデアを温めておいたりとか,チームメンバーを集めるために根回ししておいたりとかですかね。
尾上氏:
基本的にはほかのプロジェクトで作業しているので,自分のプロジェクトのキリがいいときに,溜め込んでいたものを一気に吐き出す感じですね。
4Gamer:
最近で募集はあったのでしょうか。
伊藤氏:
はい。今動いているプロジェクトもいくつかあります。
4Gamer:
具体的にどれくらいあるのでしょうか。
小川氏:
大体3人チームが3〜4組として,全体の人数は18人でプロジェクト自体は6くらいでしょうか。
4Gamer:
そのなかで,開発一部に所属している人は何人くらいいますか。
尾上氏:
それが18人で,プラス自分達といった感じです。
4Gamer:
ギアプロジェクト制度は所属する部に関係なく利用できるのでしょうか。
伊藤氏:
ギアプロジェクトを募集するときは,所属がどこの部であっても提案を受け入れるという形になっています。提案を受け付けた結果,チームが編成されて,そのチームの人達がギアプロジェクトの開発期間中は開発一部所属になります。
4Gamer:
人数制限が撤廃されて1人でも提案できるようになったとのことでしたが,やっぱり全部自分でできるからといって,1人でギアプロジェクトを始めるのは勇気のいることだと思います。
尾上氏:
プログラマーだけでは絵は描けないですし,プランナーだけだと逆にプログラムが組めなかったりしますからね。
4Gamer:
グラフィックス担当の人がギアプロジェクトを利用しようとなったときって,どういう切り口でやろうと思うのですか。
もし私が主体でやるとしたら,すぐにプランナーと組んで絵も込みで作ると思います。自分ですべてやるというよりは,すぐに仲間を集めるところからかなと。
伊藤氏:
実際に3人で組むと,ほかの職種の担当領域にも口を挟まざる得ないんですよね。自分はプログラマーだからプログラムだけ打つよって人が3人いたって厳しいんです。
4Gamer:
では,ギアプロジェクトの利点はどこにあると思いますか。
伊藤氏:
会社に余裕がなければこのような機会は設けられないと思いますので,弊社にギアプロジェクトという挑戦できる場があること自体に価値があると思います。
尾上氏:
最初の企画提出の段階では大がかりな審査はなくて,やりたい事がある人はやろうといった,すごく入りやすい場でもあります。新しいものを生み出すという部分では,ギアプロジェクトは非常に良い制度だと考えています。
小川氏:
私の場合,ギアプロジェクト制度の存在が入社する理由の1つでもありました。自分の作りたいものをどの立場からでも提示して作れるというのは,他社に見られない魅力的な制度だと思いますね。
4Gamer:
小川さんは「GIGA WRECKER」以外ではどういったプロジェクトに参加されていたんですか。
尾上氏:
実のところ小川さんは特殊でして,本来ならば「ポケモン」の開発をする流れだったのですが,小川さんが入社したころにはそちらの開発が終盤だったので,今から参加しても……という状態でした。なので,せっかくだからギアプロジェクトに組み込んじゃおうという感じで,今回「GIGA WRECKER」に参加してもらった経緯があります。
4Gamer:
なるほど。逆に言うと「ポケモン」にはまだあまり関わっていないのですね。
小川氏:
そうですね。「ポケモン」には何も関わっていなくて,今のところ「GIGA WRECKER」一筋です。でも,0からエフェクトを作るとなると,むしろギアプロジェクトじゃないと出来ないんじゃないかなと思っているので,今回参加できたのは良かったです。
尾上氏:
小川さんがいなかったらどうなってたんだろうって思いますね。
4Gamer:
前職でもずっとエフェクトのお仕事をされていたのですか。
小川氏:
3Dのコンシューマで3年ほど作っていました。学校を卒業してからそのプロジェクトに携わり,その次が現職という流れです。
4Gamer:
実際にギアプロジェクトが始動してから苦労した部分はありますか。
尾上氏:
ギアプロジェクトが始まった直後ってやりたいものがあって,ビジョンもあるので,楽しく作り始められるんですよ。ただ,中期くらいになってくると,だいたい考えていたものは作り終えて,今度は外から意見が来るようになります。そうなると,じゃあどうすればいいのだろうと迷走しちゃうことが多くて。その期間をどう乗り越えるかというのが,1つ重要なところなのかなと思います。
伊藤氏:
最初からやりたいことがはっきりあるぶん,そこから軌道修正するのが難しいんです。ただ,最初のコンセプトを大事にしつつ,どこまで削れるかみたいなアウトプットの仕方をするのも全然ありだと思いますね。あまり最初の出発点に固執しすぎると,プロジェクトとして成り立たせていくのが難しくなってくるので。
4Gamer:
そうなると,いろいろな人からたくさん意見が来るアーリーアクセスを利用するのって,相当な勇気が必要ですよね。
尾上氏:
最初はだいぶビビりながらリリースしました。ユーザーさんからデバックをもらえるのは分かっているものの,やっぱりちゃんと遊べる状態にしなければならないというのはあるので。伊藤と2人でギリギリまでデバッグしてました。
伊藤氏:
アメリカで一番いいタイミングでリリースするためには,こちらの早朝にクリックする必要があったんですよ。なので一旦家帰ってお風呂に入ってから出社してローンチしました(笑)。
4Gamer:
そうなると,やはり最初はアメリカがターゲットだったんですね。
伊藤氏:
市場規模からするとSteamユーザーが一番多いのがアメリカなので,そこをメインターゲットにはしていたのですが,結果的には多くの日本の人にプレイしてもらっていてありがたいです。
4Gamer:
キャラクターデザインとかも,欧米で受けそうな系統ですよね。
伊藤氏:
アメリカで出すなら,最初は筋肉ダルマのおじさんのほうがいいんじゃないかみたいな話もしましたけど。
小川氏:
そうだったんですね(笑)。
4Gamer:
でも,結果的にはボスキャラクターも含めて女の子ばかりですよね。全然嫌ではなくて,むしろ大歓迎なのですが。
尾上氏:
ゲームフリークの作品は,子供から大人まで遊べるように作られている部分も多いのですが,「GIGA WRECKER」はせっかく自分達で新しく作るので,そこから離れてかわいいキャラクターばかりを出したいという気持ちはありました。
Valveの人と話したときも,日本のゲームクリエイターは,日本人が作りたいゲームを作るのが一番良いんだとおっしゃっていて,じゃあ自分達の作りたいものをちゃんと作っていこうと。それで好きなキャラクターを選んでいった結果,女の子のキャラクターが多くなった感じですね。
伊藤氏:
ギアプロジェクトは新しい試みを受け入れてくれる場でもあるので,ちょっと尖ったこともしたいなと考えていました。うちの会社としてはインパクトもあるかなと思い,女の子ばかりにしたという一面もありますね。
4Gamer:
最近だとアニメそのものが海外でも受け入れられるようになってきていて,その傾向はゲームにも現れていると思うんですよ。Steamのレビューを見ても,女の子がかわいいからという理由で高評価にしている人とかもいますし。
伊藤氏:
そうですね。日本らしさに価値を感じていただけているのはありがたいことです。
4Gamer:
話を聞いていると,割と制度を使って楽しんでいるようです。
伊藤氏:
楽しいですね。その分大変さもありますけど。プロジェクトにハマったときの抜け出せない感じとか,やばいぞって。迷走しだすと本当に大変です(笑)。
4Gamer:
最後に,「GIGA WRECKER」に対する意気込みを教えてください。
尾上氏:
学生の頃に物理エンジンを組み込んだ作品を作りまして,それを製品にしてみたいとずっと思っていました。残りの開発期間でユーザーのみなさまのフィードバックを受けて,それを今回の製品を通して,物理の面白さをきちんと伝えられる形で完成できたらと思ってます。
伊藤氏:
これは夢みたいなものですが,続編とかスピンオフとか,これをフランチャイズにしたいという野望はあります。アーリーアクセスのご意見で,キャラクターだとか世界観だとかを好きだと言ってくださっている方もいらっしゃるので,これからも頑張って作っていきたいと思います。
小川氏:
今は製品版に向けてグラフィックスをしっかりと詰めていくことが最優先ですが,いつかギアプロジェクトで自分でも何かできればと思っています。あと,もし伊藤さんの言う続編が実現するのであれば,そこにもぜひ参加させてほしいですね。
4Gamer:
ありがとうございました。
文頭で触れている通り,インタビュー自体は昨年11月29日に収録している。その段階では1月中旬くらいの発売を目標にしていると聞いていたのたが,同時に少し話してもらったアップデート内容や実装予定を聞くほどに,「それ,間に合うのかな?」と心配になったりもした。そこから今日までの間に,12月の大型アップデート(関連記事),1月のアップデート(関連記事)を加えて,本日晴れて製品版として発売されるわけだが,こだわったところは本当にやっちゃうんだなぁという部分と,やっぱりちょっとだけ遅れちゃうんだという部分は,どちらも前向きな意味での「らしさ」なのかなという気がしている。
厚くなったストーリーを追ったり,ヒロインに思いを馳せたりするのもいいが,自分でステージを作りながら,開発者の試行錯誤を想像してみると,この作品の本質ともいえる「物理エンジンを使ったパズル」というのがどんなものなのかがよくわかるだろう。これから始める人も,アーリーアクセス版をすでに遊んでいる人も,“完成した”本作に触れてみてほしい。
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