インタビュー
ゲームフリークではやりたい事ができる! 「GIGA WRECKER」の開発メンバーがギアプロジェクトでのSteam挑戦を振り返る
「GIGA WRECKER」は,ゲームフリーク独自の開発制度「ギアプロジェクト」で作られた4つめのタイトルとなるわけだが,このギアプロジェクト制度は現在,どのように利用されているのか,そして自社パブリッシングとしては初のSteamデビューということで,ローンチするまでの苦労や,アーリーアクセスを利用してみて感じたことなども聞くことができたので,興味のある人はぜひご一読を。
関連記事:ハロー!Steam広場 第123回:半人半機の少女による復讐劇を描く,ゲームフリークの横スクロールパズルアクション「GIGA WRECKER」
関連記事:ゲーム制作集団「ゲームフリーク」が試みる“原点回帰”という挑戦――初の自社パブリッシングに踏み切った背景を,ゲームフリークの杉森 建氏と渡辺哲也氏に聞いた
関連記事:ゲームフリークが手掛けるPC向けパズルアクション「GIGA WRECKER」の製品版が本日リリース。キャラクターの設定資料集も公開
「GIGA WRECKER」Steamストアページ
(※クライアントが立ち上がります)
アーリーアクセス期間中にストーリーをガラッと変える大胆さ
4Gamer:
お三方とも,4Gamerに登場していただくのは初めてかと思いますので,まずは自己紹介をお願いします。
尾上将之氏(以下,尾上氏):
「GIGA WRECKER」でディレクター兼プログラマーをやらせていただいております,尾上です。ゲームフリークには6年間在籍しておりまして,「ポケットモンスター」シリーズや「TEMBO THE BADASS ELEPHANT」の開発にも携わりました。
伊藤博人氏(以下,伊藤氏):
伊藤です。「GIGA WRECKER」ではプランニング全般を担当しております。尾上と同期入社で,自分も同じように「ポケモン」シリーズのプロジェクトをいくつか経たあとに,「TEMBO」のプランニング全般を担当し,その後「GIGA WRECKER」に関わるといった経歴です。
小川一美氏(以下,小川氏):
「GIGA WRECKER」でエフェクトデザイナーをしております。私は2016年初頭に中途入社しまして,「GIGA WRECKER」はα版制作からの参加になります。このタイトルの中では,エフェクトを作成しているほか,グラフィックス管理や演出等も担当しています。
4Gamer:
アーリーアクセス版のリリースから3か月ほど経ちましたが(※インタビューは,2016年11月29日に収録),プレイヤーの反応はいかがですか。
尾上氏:
最初にSteamで出すとなったときは,海外からの反響のほうが大きいかなと想像していたのですが,実際には日本からの反響のほうが大きくて。
4Gamer:
売上的に見ても国内のほうが多いのでしょうか。
尾上氏:
そうですね。日本に次いでアメリカ,イギリス,ドイツといった感じです。現状だと日本語と英語にしか対応していないこともあるかもしれませんが,もっと海外ユーザーの割合も増やしていきたいです。
4Gamer:
では,「GIGA WRECKER」の世界観についても教えてください。
伊藤氏:
時代的には近未来という設定です。謎のロボット軍団の侵略によって,めちゃくちゃになってしまった都市から物語が始まります。そして,主人公が改造人間だったり,敵がロボットだったりと,いわゆるSF的な世界観ですね。
4Gamer:
その世界観はどのように構築していったのでしょうか。
伊藤氏:
そもそも,物理エンジンを使った2Dパズルアクションを作るというコンセプトがありまして,そこから逆行して世界観を考えました。例えば,物理エンジンを使うから,何かを壊したときにいろいろなパーツが散らばったほうが楽しいとか,敵を倒したとき出る破片を集めて武器にするとか。そうなると,敵はバラバラになってもいいように機械がいいかな,みたいな。
4Gamer:
だから敵がロボット軍団なんですね。
伊藤氏:
あとは,自分がSF映画や特撮が好きなのもありまして,そういった趣味的な部分も盛り込んで,ロボットに侵略された世界というのを作り上げました。
4Gamer:
SFや特撮といってもいろいろありますが,とくに触発された作品とかはありますか。
伊藤氏:
それこそ改造人間という部分は,「仮面ライダー」の影響がありますね。
4Gamer:
世界観もそうなのですが,キャラクターや背景のデザインも印象的に感じました。
小川氏:
「GIGA WRECKER」のメインデザインは,イラストレイターのあさぎりさんにお願いしています。今回は2Dのゲームなので,あさぎりさんのデザインを活かすことを念頭に作らせていただきました。
4Gamer:
主人公のレイカは半分が人間で半分が機械という設定ですが,生身と機械の割合ってどのくらいなのでしょうか。ビジュアルを見ると改造されたのは左腕だけに見えるのですが。
伊藤氏:
イメージ的には3〜4割くらいです。もともと博士による改造手術がないと死んでしまうほど重症だったので。外面的には左腕しか機械化していないようにも見えますが,実際には生命維持のために体の内側も改造されています。
4Gamer:
顔に光るラインが入ることもありますよね。
伊藤氏:
レイカは,ナノマシンの付いた瓦礫などを集めて武器にするのですが,そのナノマシンをコントロールするための回路みたいなものが頭部にも走っていて,それが光っているイメージです。
4Gamer:
そう考えるとけっこう改造されているんですね。レイカは左腕のことを「鉄の悪魔」と呼んでいましたが,なぜ悪魔なのでしょうか。
伊藤氏:
改造に使われたパーツのほとんどは敵のロボットの残骸なんです。自分の家族や友達を殺したロボットのパーツが,生命維持や戦う力として自分の中にあるということに対して忌々しく思っていて,そういう部分から鉄の悪魔というネガティブな表現をしています。
4Gamer:
ロボットの虐殺から始まるプロローグもそうなのですが,レイカの原動力が復讐心だったりと,全体的に見ると雰囲気は重いですよね。
伊藤氏:
もともとアーリーアクセス版はストーリーが短くて,あまり複雑な話にはできなかったというか,したくなかったんです。なので,単純で分かりやすい動機として,友達や家族が殺されたから復讐するという形を取り,その結果重くなってしまいました。
4Gamer:
製品版ではストーリーの展開も複雑化していくのですか。
伊藤氏:
実のところ,ストーリーはこれから基本的な部分を残しつつガラッと変える予定なんです。
4Gamer:
えっ……結構大胆なことをしますね。具体的にはどう変わるのでしょうか。
例えばなのですが,ストーリーに深く関わる謎の美少女みたいなキャラクターを登場させようかと考えています。また,レイカの動機も復讐ではなく,もっと建設的で希望のあるようなものにしたいなと思っていて。
4Gamer:
そこまで変わるんですか。ストーリーの変更は当初から予定されていたことなんですか。
伊藤氏:
最初に製品版のストーリーの枠組みを考えて,そこからアーリーアクセスでどれくらい切り出していけるかを検討しました。アーリーアクセスにするには複雑すぎるストーリーだったので。逆に製品版では,ストーリーを分岐させたり,ボリュームを増やしたりして,世界観をより魅力的に描ければいいなと思っています。
4Gamer:
ストーリー以外で変わるところはありますか。
伊藤氏:
全体的にグラフィックスのクオリティを上げようと思っています。基本的には地形とか背景とかの部分で,あさぎりさんの描いたコンセプトアートの良さを活かせるようなアレンジを加えていこうと。あとは,パズルを解く要素と,敵と戦ったりする要素のバランスを取ったり,UIやモーションもブラッシュアップしていく予定です。
4Gamer:
キャラクターにボイスを付けるとかどうでしょうか。
尾上氏:
ボイスは入る予定です。といってもしゃべるわけではなくて,掛け声とかを付けるくらいなのですが。
4Gamer:
すでに計画はされていたんですね。ボイスを入れるというのは最近決まった話なのですか。
小川氏:
だいぶ前からありましたよね。
尾上氏:
サンプルボイスを入れてみたことがあるんですが,やっぱり違和感があって,どうしようかと検討してたのですが,声を当ててくださる方がやっと決まりました。
4Gamer:
声優さんは何人くらい起用するのでしょうか。
尾上氏:
今回は2人です。声色を変えてもらって,いろいろなキャラクターを演じ分けていただく感じです。
4Gamer:
2人だけでカバーするのはなかなか大変そうに思えますが……。社内で誰か引っ張って来るとかどうですか。
尾上氏:
いちおう,小川さんにも聞いたんですけど……(笑)。
小川氏:
やらないです(笑)。
尾上氏:
演劇経験のある人もいるので,社内でお願いすることもありますが,今回は声優さんが見つかったので良かったです。
4Gamer:
これらの変更は製品版で実装される感じですか。
尾上氏:
12月に2回アップデートを入れる予定がありまして,その最初のアップデートでかなりの割合が入ります。年末までにはほとんどを実装して,あとは1月の発売に向けて最後の調整をしていく予定です。
物理エンジンという暴れ馬をどう制御していくか
4Gamer:
先ほど,物理エンジンを使ったパズルアクションが「GIGA WRECKER」のコンセプトというお話がありましたが,何が起きるのか予想しにくい物理的挙動を,パズルゲームに落とし込んでいくのって難しくなかったですか。
伊藤氏:
物理エンジンの特徴でもある,挙動が読めないカオスなところっていうのは,確かに苦労する部分です。「GIGA WRECKER」の場合,剣で斬ったりドリルで掘ったりと主人公のアクションが多く,オブジェクトの壊れるパターンもさまざまだったので,まずは何回も試行錯誤して,慣れるところから始めました。
4Gamer:
慣れですか。
伊藤氏:
はい。ただ,先ほど言ったカオスなところに関しては,いろいろな攻略ができる懐の広さでもあります。失敗したかなと思っても,頑張ってみたらなんとかなったりだとか,予想外のことが起きて結果それがクリアにつながったりだとか,面白いところはいっぱいあると思っているので,総じて言うと,物理演算をレベルデザインに使うことに関しては,デメリットよりもメリットのほうが勝っていると考えています。
4Gamer:
「GIGA WRECKER」には,ユーザーがステージを作れるアプリケーションも同梱されていますが,実際にステージを作るコツみたいなものはありますか。
小川氏:
初期に比べると,ダメージを受けたり即死したりといったギミックが増えたので,そういうところを使ってもらえると,アクション寄りのステージとかは作りやすいと思います。
4Gamer:
なるほど。パズル寄りのステージを作るとなるとどうでしょうか。
伊藤氏:
パズル寄りのステージにするときは,まずどういうギミックをメインで使うのかを考えるといいですね。例えばベルトコンベアであれば,ベルトコンベアの上をただ移動するのではなくて,その上に地形を落として,動く地形の上を移動させるようにすると,よりスリルが増しますし,どうやって地形を落とそうかと頭も使いますよね。
4Gamer:
メインステージのほうで作るのに苦労したエリアとかはありますか。ガスを使ったギミックを見たときは考える方も大変そうだなと思ったのですが
伊藤氏:
ガスは難しかったですね。上に向かう特性を活かして,足場などを下から押し上げて浮かすことはできるんですけど,そうするためにはオブジェクトの下にうまく誘導できるような設計にしなければいけなくて,そこを考えるのに苦労しました。
あと,ゴムみたいに弾むボールは,あれ自体の挙動が若干カオスなところもあるので,ユーザーがストレスを感じないように調整するのもなかなか骨が折れました。あれはもはや暴れ馬なので。
Steamへの挑戦はValveとのパイプ作りから
4Gamer:
「GIGA WRECKER」の制作はいつ頃から始まったんですか。
尾上氏:
2015年の6月頃からですね。そこから3か月間プロトタイプを作りました。もっとも企画自体は「TEMBO」と同じく2013年頃から始まっていたのですが。
4Gamer:
企画自体はだいぶ前からあったんですね。
尾上氏:
そうですね。先に「TEMBO」のほうが製品化する流れになりまして,そちらの制作がまずあって,そこからちょっと期間が空いたので,もう一度企画を出し直して再スタートしたという流れです。
4Gamer:
「TEMBO」も「GIGA WRECKER」と同じく横スクロールアクションでしたが,「TEMBO」はよく見ると3Dモデルを採用していましたよね。「GIGA WRECKER」をフル2Dにしたのは,資金的なものだったりするのでしょうか。
尾上氏:
もともと携帯ハードとかも視野に入れていたので,ガチガチの3Dだとスペック的に厳しい部分がありました。もちろん3Dのモデルも検討したのですが,あさぎりさんから上がってきたデザインを見ても,今回は2Dのほうが映えるんじゃないかなということもあり,今のようなビジュアルに落ち着いた感じですね。
4Gamer:
最終的に「GIGA WRECKER」をPC向けにした理由はなんでしょうか。
尾上氏:
「TEMBO」でPCゲームでの開発経験ができたので,その流れに乗ってもう1本というのが1つです。「TEMBO」と違って今回はマルチ展開も視野に入れているのですが,まずはPC版からやってみようと。
4Gamer:
日本ではPCゲームの市場はまだまだ小さく見えるのですが,そこはどうでしょうか。
伊藤氏:
日本だけ,と考えるとそうかもしれませんが,世界的に見るとユーザーの母数はすごく多くて,可能性は非常にある市場だなと思っています。挑戦的なゲームもたくさんありますし,それが評価されていたりもするので。あと,小さい価格からでも販売できるのが魅力ですよね。
ただ,タイトル数がかなりあるので,しっかりと個性を出していかないと,周知もされずに埋もれていってしまうという危険性もあるとは思います。そうならないためにも,アイデア段階でしっかりと考えて詰めておかないといけません。
4Gamer:
ゲームフリークというブランドに対して,国内と海外での認知のされかたって違うんですか。国内だと,ゲーマーであれば「ポケットモンスター」の開発会社ということはふつうに知っているかと思いますが,一般だとそうではないですよね。
伊藤氏:
「ポケモンって任天堂のゲームでしょ」というのはよく耳にします(笑)。ただ,海外なら一般的に認知されているかと言われると,そういう実感はないですね。やっぱり“ゲームに詳しい人なら知っている”という立ち位置の会社という気はしています。
4Gamer:
発売元は見ますけど,開発元まで見る人は少ないのかもしれませんね。
伊藤氏:
そういう意味でも,自社パブリッシュというのは大きなチャレンジかなと思っていて,今後も続けていきたいですね。
ずっと気になっていたのですが,ゲームフリークさん自身にはValveとのパイプはあったのでしょうか。
伊藤氏:
「TEMBO」はSteamでも出したんですけど,そのときはセガゲームスさんがパブリッシングをしていたので,ゲームフリークにパイプはありませんでした。
4Gamer:
そうなると,まずはGreenlightからという流れになるかと思うのですが。
伊藤氏:
Greenlightだと最悪プロジェクト化できないという懸念があって,すでに予算は確保できていて,ゲームもほぼ作れている状態だったので,これはValveさんに相談だなって。
4Gamer:
実際にどうやってValveと連絡を取ったのでしょうか。
伊藤氏:
最初は翻訳サービスを使いながら文面を書いて,「ポケモンやTEMBOを作ってるゲームフリークの伊藤と申します」みたいな,まともに読めるかどうかも分からない英文のメールを送りました。
4Gamer:
メールというのは,デベロッパ専用の窓口ですか。
伊藤氏:
いえ。その窓口も分からなかったので,カスタマーサポートみたいなところに送ったんです(笑)。
4Gamer:
それで対応してもらえたんですか?
伊藤氏:
なりすましだと思われていないか不安でしたが,別の窓口に案内されまして,最終的にはパブリッシュに詳しい方につないでもらい,そこからは円滑にいきました。基本的にはワシントンのオフィスで働いている方なんですけど。たまたま来日したときにお会いできて,いろいろと相談に乗ってもらうこともできてよかったです。
4Gamer:
ちなみに,「ポケットモンスター サン・ムーン」は9か国語に対応していますが,そういうところのノウハウはゲームフリークさんに共有されているものなんでしょうか。
伊藤氏:
「ポケモン」に関しては,(株式会社)ポケモンさんや,任天堂さんの海外オフィスに,「ポケットモンスター」シリーズのために構築されたローカライズチームがガッチリあって,そこの全面協力を得ています。ただ,その体制をゲームフリークが利用できるというものではないです。
尾上氏:
いちおう弊社にもローカライズに詳しい者がいまして,例えば同じ単語をローカライズするときに,一番文字数が増えるのはフランス語とドイツ語である,といったノウハウはあります。
- 関連タイトル:
GIGA WRECKER
- この記事のURL:
(C) 2016 GAME FREAK inc.