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[GDC 2017]開発者が語る「ゼルダの伝説 BotW」のとてつもなく自由なゲームプレイはこうして実現した
そんなBotWの内幕を開発陣が語る講演「Change and Constant: Breaking Conventions with 'The Legend of Zelda: Breath of the Wild'」(変わるものと変わらぬもの,「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」で慣例を打ち破る)が,GDC 2017の3日めである北米時間2017年3月1日に行われた。
広大なフィールド×アクション=とてつもない自由
まず演壇に立った藤林氏は,新しいゼルダの伝説で何がしたいのかを考え,真っ先に思い浮かべたのが,「広いフィールドを,本当に自由にプレイヤーが遊べるようにしたい」ということだったという。近年におけるゼルダの伝説シリーズは,アクションRPGとしてはフィールドが広く,行けるところの自由度が高いという特徴を備えているが,その特徴をBotWでさらに発展させたいということのようだ。
それに加えて,「フィールドを探索することで,ワクワクする体験に次々と出会えて,それを(プレイヤーの)自由な発想で攻略できるようにしたい」と,藤林氏らは考えたという。そこで思い浮かんだゲームは,初代「ゼルダの伝説」だったそうだ。
というのも,「初代ゼルダは,プレイヤー自身がどこに行って何をするかを考えるゲーム」であり,「プレイヤー自らが探索して,ワクワクする体験にであえるゲーム」であったからと,藤林氏は振り返る。
「ワクワクした体験に出会える広大なフィールド」として氏が示したのが,任天堂のアーティストが「数年前に製作した」というハイラルの大地のイラストだ。「このイラストに(BotWが必要とする)すべてが描かれている」(藤林氏)。
この広大なフィールドで「プレイヤーが遊べるゲームにしたかった」という藤林氏だが,それを実現するには,以下に示す4つのハードルがあったという。
- Impassable Walls:制作者側の都合による乗り越えられない壁
- Predetermined sequence of events:(プレイヤーが)決まった手順を踏まないと先に進めないイベント
- Predetermined Experience:決まった手順を経ないと不適切になるヒントや難度
- Answer of the Internet:ネットで調べればすぐに答えが分かる謎
これらは従来のゼルダにおける「当たり前だった」と藤林氏は述べたが,ゼルダシリーズに限らず,ほとんどのゲームに当てはまる話だろう。だが藤林氏らは,これを変えたいと考えた。
そこで,まず実験的に製作したフィールド上で通行不能を表していた壁を,
乗り越えられるようにしてみたところ,「目に映るすべてが『さあ,お前はどこに進む』と語りかけてきた」(藤林氏)という。
さらに,実験フィールド上で,壁を登ったところから飛び降りたり,好きなところに飛んでいけたりという要素を追加してみたところ,「これが,これから作るゼルダに,とてつもない自由な発展をもたらす」と,藤林氏は確信したそうだ。
「広大なフィールドとアクションの掛け算により,とてつもない移動の自由が生まれた」と藤林氏が表現したように,今まで当たり前と思われていたゲームにおけるハードルを壊してみることで,BotWには新しい可能性が生まれたということだろう。
ところで,掛け算によって従来の当たり前を打ち破るというやり方は,移動だけでなく,他の要素でも取り入れているという。藤林氏が例として挙げたのは,謎解きだ。
従来のゼルダでは,「自然現象や,簡単な理科の知識を使った謎解き」(藤林氏)が用意されていたが,こうした謎解きは,ストーリー進行の壁となるパズルのヒントとしてしか使われていなかったという。数多くの謎解きを用意することで,洗練された遊びを提供できるものの,それは「足し算の発想」だと藤林氏は指摘する。
そこでBotWでは,「プレイヤーのアクションと,アクションに反応するオブジェクト,さらにオブジェクト同士も影響を及ぼし合うようにした」という。これで「プレイヤーが能動的に遊べるゲームができるのではないか」と,藤林氏らは考えたそうだ。
BotWには2Dのプロトタイプがあった
方向性は見えたものの,このアイデアで,藤林氏らが目指すゲームが本当に作れるのかは分からない。そこで,開発チームが作ったのが,「2DグラフィックスによるBotWの試作版」だったという。
この試作版,見た目は「ファミコン時代のゼルダ」に見えるが,別にファミコン時代のリソースを流用したからこうなった,というわけではない。テクニカルディレクターを務める堂田氏のところに,コンセプトやキャラクター画像を持ち込んで,わざわざ製作したのだという。
この試作版には,藤林氏が語ったコンセプトがきちんと実装されているそうで,「BotWのプロトタイプ」と言えるものになっているそうだ。実際,画像の中のリンクが青い服を着ているのが,その証だと,藤林氏は述べた。
ゲームのコンセプトを実証するために,2Dのゲームを作ってしまうという例はあまり聞いたことがないが,確かに手段としては有効かもしれない。3Dグラフィックスを使ったプロトタイプは,それだけで制作に手間がかかる。しかし,2Dグラフィックスであっても,実際にプレイしてコンセプトが正しいのかぐらいなら,十分に確認できるゲームは多いだろう。
こうして,2Dの試作版を使って検証した結果,BotWは「シンプルにシチュエーションとゴールだけがあり,ゴールに到達できるかというルールだけを,プレイヤーに与える」(藤林氏)ゲームになったという。
例として藤林氏が示したシーンは,木を炎で焼き払って進路を作るというもの。2D試作版での検証で,プレイヤーが自ら道を切り開く要素が機能することを確認できたので,完成版のBotWにもその要素が取り入れられたわけだ。
プレイヤーのアクションと多彩なアイテムや地形による相互作用,つまり要素の掛け算によって,プレイヤーが自由にプレイできるゲームになったと藤林氏はまとめていた。
2D検証版で木を炎で焼いて道を作る様子 |
BotWでも同じことができ,プレイヤーは自らのアクションで道を切り開いていける |
切る,物を投げる,火を放つといった,歴代のゼルダシリーズでも使われたアクションを取り込みながら,用意された道順をたどるだけではなく,広大な世界で自由に遊べる。こう聞けば,ゼルダのファンならずとも,BotWが魅力的に感じられるのではないだろうか。
物理エンジンにはHavokを採用
藤林氏に続いて登壇したテクニカルディレクターの堂田氏は,提示されたコンセプトをいかにして実現したのかを解説した。
簡単に言えば,「何かにボールをぶつけたら転がる」というような話だが,アクションゲームはそれで成り立っているというわけだ。そして,コリジョンと移動に関わるのが,いわゆる「ゲーム物理」である。ただし,「本物の物理ではなくゲームに都合がいいゲーム物理」(堂田氏)だ。
ゲームにおける物理は,現実世界の物理法則とは違う。ゲームを面白くするために現実の物理法則を再現するのがゲーム物理であり,厳密なシミュレーションとは異なる。
堂田氏は,ゲーム物理を「ウソ物理」と表現し,「いかに巧妙な嘘をついて仮想世界を構築するかは,プログラマの楽しみの1つ」であるという。とくにBotWでは,「広大なフィールドを活かすために,スケールが大きなゲーム物理を実装したい」と考えたそうだ。
ただ,藤林氏が述べたように,BotWではコンセプトの段階から,自由度の高さを目標に掲げていた。その高い自由度を実現するには,ゲーム物理側にも「複雑で無限のシチュエーションが求められる」(堂田氏)ため,その開発だけで多大な労力が必要になってしまう。
Havokを導入した結果として,BotWでは,ゲーム物理を活かしたアクションやアイテムが多くなっているそうだ。Havokという既成の物理エンジンを取り入れることで,物理エンジン以外の「本当に作りたい部分」に注力できた結果だと,堂田氏はHavokの導入を肯定的に評価していた。
では,実際にどんなアクションが用意されているのか,堂田氏は例を上げて説明した。
1つめは,オブジェクトの時間を止める「Stasis」(ステイシス,日本語版ではビタロック)というアクション。「止まっているだけのように見えるが,(内部的には)『止まるように動く』という処理を行っている」(堂田氏)とのこと。
2つめは,金属のオブジェクトを遠隔操作する「Magnesis」(マグネシス,日本語版ではマグネキャッチ)というアクション。磁力で動かしているように見えるが,磁力ではなく「それっぽい何か」として実装していると堂田氏は説明していた。「操作性を犠牲にせず,シミュレーションも破綻させない」(堂田氏)ことが,Magnesisのポイントであるそうだ。
続いては,藤林氏の説明にも出てきた「壁登り」アクション。ここでは,壁とキャラクターの間に「Constraint」を設けていると,堂田氏は説明する。Constraintとは,Havokにおいてオブジェクト同士をつなぐオブジェクトのこと。これを使うことで,「動くオブジェクトにも登れるようになった」(堂田氏)そうだ
最後は,木を切り倒すアクションだ。木は,切り倒すと丸太オブジェクトに切り替わり,丸太オブジェクトは水に浮くという実装になっているとのこと。丸太が水に浮くことを利用すれば,思いもよらない所に移動できそうだ。
現実にあるようでいて,よく考えたらありえない。「そんな物理を構築するのが,ゲームを作る最大の楽しみだ」と堂田氏は語っていた。BotWに盛り込まれたリンクのアクションで,どんなプレイを実現できるのか楽しみだ。
BotWでは「化学エンジン」も実装
物理エンジンは堂田氏が説明したように,現実の物理法則をもとにしたルールによってオブジェクトの動きを計算するエンジンだ。それに加えてBotWでは,「化学エンジン」なるものも実装しているそうだ。
化学エンジンというのはゲームの世界ではほとんど聞いたことがない。しかし堂田氏によれば,「もともとゼルダシリーズでは,化学に基づいた事象も,ゲームの中に取り入れてきた」そうで,BotWでは,一貫性のあるルールによって事象を計算する化学エンジンを実装しようと思い立ったそうだ。
ではBotWにおける化学エンジンとは,どんなものなのか。それは「ルールに基づいてステート(状態)の変化を計算する」ものである。
BotWの化学エンジンでは,火や水,氷といった実体のないものを「エレメント」,岩や木,リンクや敵キャラクターといった実体があるものを「マテリアル」と呼ぶ。
これらの関係は,シンプルなルールで作られている。たとえば,エレメントとマテリアルの関係は,「エレメントは,マテリアルのステートを変化させる」と定義されているという。たとえば,木というマテリアルに,炎というエレメントが触れると,木は燃えるという状態に変化するといった具合だ。
これがエレメント同士になると,お互いのステートを変化させる。炎のエレメントと水のエレメント(※水は実体を持つが,ここではエレメントとして扱う)が接すると,炎が消えるというステート変化が起こるのだ。
一方で,マテリアル同士は互いのステートに干渉しない。木に岩がぶつかってもステートが変わらないのは,化学エンジンが処理すべきことではなく,物理エンジンが処理すべきことだからなのだろう。
このシンプルな3つのルールでステートの変化を計算するのが,堂田氏らが開発したBotWの化学エンジンである。
ここで面白いのは,堂田氏が「剛体力学以外の自然現象は,すべて化学エンジンで実装している」と語っていた点だ。たとえば,風や電気といったものが起こす事象は,現実なら物理現象だが,BotWでは化学エンジンで実装されているという。これにより,「BotWの世界を,よりシンプルに記述できた」と堂田氏は述べている。
化学エンジンの存在を気に留めておくと,BotWのゲーム内で起きる事象を理解しやすくなるかもしれない。
Nintendo Switchへの移植は簡単
堂田氏は「参考までに」と断りつつ,Switchのハードウェアとソフトウェア開発について説明した。
まず,移植のしやすさだが,Wii Uと同様に「Nintendo SDKがSwitchの標準の開発環境である」(堂田氏)ことが,ポイントだったとのこと。そのため,ソースコードレベルでは,Wii U版とSwitch版は,ある程度の互換性が保たれているらしい。
また堂田氏によれば,Switchのハードウェアは「素直なアーキテクチャで扱いやすい」とのこと。堂田氏は,ゲームキューブ以降,すべての任天堂プラットフォームでゲームを開発してきたそうだが,「ハードウェアに依存したトリッキーな実装を使わなくて済んだのは,今回のSwitchが初めて」と打ち明けていた。
Switch版は,「最適化をしていない段階でも,Wii Uと同等以上のフレームレートが出ていた」(堂田氏)というほどで,それくらい扱いやすく,性能も高いアーキテクチャとなっているようだ。
移植するにあたっては,Switchならではの付加価値を付ける必要があったが,Switchのゲームパッドである「Joy-Con」独自の機能を使うといった試みは,行っていないそうだ。というのも,堂田氏によると「BotWをポータブルでプレイできることが,最大の付加価値だから」であるという。
そして,「ぜひSwitchで,BotWのプレイを体験してほしい」と来場者に呼びかけていた。
以上,ざっくりとBotWのコンセプトとゲームエンジンの概要をまとめてみた。講演の内容を頭の隅にでも置いておくと,BotWをより楽しめるのではないだろうか。
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