イベント
[GDC 2016]Steamのセールスベスト10に食い込んだカジュアルインディーズゲーム「Poly Bridge」に見るソーシャルマーケティング戦略
そんな中,2013年頃から密かなブームとなり,個人的に注目しているのが筆者がブリッジコンストラクタ系と呼んでいるゲーム群である。ひねりのない命名で恐縮だが,要は橋を作るゲームのことだ。プレイヤーは橋を建設し,その上を課題となる車が通る。車が無事通過できればステージクリアという寸法である。
ゲームの構造は実にシンプルだが,上を通る車が重たすぎれば強度不足で橋が崩落したり,1台は無事に通せても2台目は耐えられなかったりと,これがなかなか楽しく,そして悩ましい。
そんなブリッジコンストラクタゲームの中でも,2015年7月にリリースされた「Poly Bridge」は,頭一つ抜けたヒットを記録したタイトルである。Steamで発表されたこのタイトルは,一時はSteamの売上ベスト10に入るほどの注目を集め,ブリッジコンストラクタの大本命となったのである。
さて,ではこの成功は,何が原因なのだろうか? 「Poly Brigde」のデベロッパ,Dry CactusのデザイナーであるPatrick Corrieri氏が,GDC 2016で成功の秘訣を語った。
「Poly Bridge」公式サイト
成功はゲームの完成度あってこそ
まず最初に,Poly Bridgeにはほかのブリッジコンストラクタと明らかに異なる部分がある。この差別化要素なしには,Poly Bridgeの成功はなかっただろう。Corrieri氏は本作の特徴を,以下の7つの要素だと解説した。
- シンプルなビジュアル:しばしば2Dグラフィックスで表現されがちな同ジャンルにおいて,ポップな3Dポリゴンで構成された画面は見て楽しく,橋の建築UIも使いやすい。
- リアルすぎない:ブリッジコンストラクタは建設シムでもある。このジャンルではシミュレーション側に寄りすぎてしまい,いたずらに難度が上がってしまったゲームも珍しくない。Poly Bridgeは,ステージデザインからしてコミカルな「無理と無茶」を要求するステージが目立ち,「これは肩の力を抜いて楽しめるのだな」ということがひと目で分かる作りになっている。
- 安心して遊べる:ミッションに失敗しても,プレイヤーを罰するような演出がない。何度でもすぐにリトライでき,アイデアを次々に試すことができる。
- 良質なサンウンドトラック:BGMにも力が入っている。提供されているサウンドトラックは,全体で45分にもおよぶ。
- ニッチを狙う:そもそもブリッジコンストラクタ自体,ニッチなジャンルである。
- 限定された空間でのサンドボックス:サンドボックスゲームが面白いのはもはや周知の事実といっていいと思うが,規模が大きくなりがちなジャンルでもある。この傾向はインディーズタイトルであっても同様だが,Poly Bridgeは事実上1画面に収まる程度の空間しかない。「作る」ためにプレイヤーが負う負荷は小さい
- コミュニティ機能の充実:コミュニティ機能がゲームに内蔵されており,プレイヤー同士で支援するコミュニティが構築されている。
さまざまな差別化が行われているPoly Bridgeだが,最終的に大きくブレイクした最大の要因は,最後の「コミュニティ」にあるそうだ。では実際にはどんな機能が用意されているのだろう。氏はこの説明として,以下の5つのポイントを挙げた。
- リプレイ記録とシェアシステム:動画の共有には,高いプロモーション効果がある。だが動画を共有してもらうためには,まず元となる動画が手軽に作れねばならない(この機能は後述でより詳しく紹介する)。
- 相互評価やコメントが可能なオンラインギャラリー:プレイヤーが投稿したスクリーンショットや動画をプレイヤー間で共有できる。
- アーリーアクセス:正式リリース前のα〜β版を低価格で販売する「アーリーアクセス」は今や一般的なプロモーション手法だが,その結果は必ずしも吉と出るとは限らない。しかしPoly Bridgeの場合は良い方向に機能し,プレイヤーからの意見やバグ報告,それを踏まえたアップデートという前向きなループが構築された。
- サンドボックスとSteam Workshopの相性の良さ:Steam Workshopは,プレイヤーが作ったMODやデータ(サンドボックスなら作成したオブジェクト)を,Steamを介してプレイヤー間で共有できるというシステムだ。サンドボックスとの相性の良さは言うまでもないだろう。
- Steam Workshopのアイテムをギャラリーに反映:せっかく自分が作ったオブジェクトやMODを共有しても,誰にも顧みられないようではやる気が削がれるというもの。Poly Bridgeでは,Workshopに投稿されたアイテムを,ゲーム内から一覧できる。これにより,プレイヤー間の交流が促進される。
10秒の動画がもたらしたハーフミリオン
さて,Poly Bridgeにおけるリプレイ共有は,なかなか個性的で,かつよく考えられたシステムになっている。近年,国内外共に隆盛を見せているゲーム実況動画だが,今となっては「埋もれてしまう」危険性は常につきまとう。自分が有名なゲーム実況者やYouTuberでもない限り,いきなり爆発的な再生数を稼ぐのは難しいだろう。
またゲーム動画を見るというのは意外と面倒くさいもので,やれログインパスワードが必要だとか,専用アプリが必要だとかで画面遷移が求められることも少なくない。PCならまだしも,スマートフォンならその傾向はより顕著で,それゆえにSNS上で動画へのリンクがあったとしても,なにか特別な動機(その実況者のファンであるとか)がいかぎり,リンクを踏むことすらためらうのではないだろうか。
この現実を踏まえ,Poly Bridgeには15fpsで10秒程度のプレイ動画を,GIF画像として書き出す機能が実装されている。もちろん生成はワンボタンだ。こうして生成されたGIF動画はローカルに保存することも,SNSに投稿して画面遷移なく視聴することもできる。Poly Bridgeの動画は,「視聴者にとって手軽」なのだ。
結果,ローンチ時は250〜300本程度の売上だったPoly Bridgeが,Twitter上に動画が溢れたことで,ゲーマーの注目を集めることに成功した。その後,YouTubeにも動画はどんどん増えていき,Twitchでゲーム実況が行われるに至ってブレイクが始まった。この動きはソーシャルブックマークサービスであるRedditに波及し,ここでPoly Bridgeは初めてSteamのセールスベスト10に入ることになる。すると有名ゲームになったPoly Bridgeに対して,商業ゲームメディアの注目も集まるようになり……という連鎖で関心はどんどん高まり続けたのである。
現在,Poly Bridgeは50万本近くを売り上げるタイトルに成長した。初動300本のインディーズゲームは,ハーフミリオン越えに手をかけつつあるのだ。
「初動」をいかに作るか
Corrieri氏は最後に,それぞれのSNSの特徴を紹介した。
Twitchで配信が行われると,爆発的な売上――つまり売上グラフ上に尖った山を作り出す一方で,YouTubeは長期の流入をもたらしてくれる傾向にあるという。またRedditの影響もどちらかといえばTwitch的な傾向があって,Featureページに載っている間はグラフに山ができる。
Poly Bridgeのマーケティング戦略は,SNSへの露出に集中したものであり,そしてその戦略は見事に成功した。氏は「初期にどうやって関心を持ってもらうかが重要。それができれば,そこから先は自然流入が期待できる」と語っていた。
Poly Bridgeのケースは,もしかすると「うまく行き過ぎた」例なのかもしれない。Corrieri氏も「予想外の成功」と素直に認めているし,実際にも恐らくそうなのだろう。だがGIFを使った初期のマーケティング手法と,その10秒の動画でも十分に魅力が伝わるゲームデザインは,インディーズゲーム開発者のみならず,今後のゲームマーケティングおよびゲームデザインの一つの指針として,覚えておいても良いのではないだろうか。
「Poly Bridge」公式サイト
- 関連タイトル:
Poly Bridge
- この記事のURL: